창작과 비평

[特集] 文明転換時代、“韓国”をいかに思惟すべきか/李南周

 

創作と批評 201号(2023年 秋)目次

 

特集/韓国という叙事

 

文明転換時代、“韓国”をいかに思惟すべきか

 

 

李南周

聖公会大学中国学科教授

著書は『中国市民社会の形成と特徴』『変革的中道論』(共著)、『百年の変革』(共著)、編書は『二重課題論』などがある。

 

 

1.“韓国”という問題


 大韓民国、あるいはその略称としての韓国が国号としての正当性を得るまでには多くの曲折があった。1948年新たに建設された国家の国号として憲法に明示されたが、分断国家という先天的な欠陥があった。その上、民主共和国という精神に合わない政治的現実に抵抗する過程で、抑圧の主体としての国家というイメージがかぶせられた。1980年代の社会運動の団体名には韓国の代わりに“全国”や“民族”という名称がよく使われたのもこうした事情と関連がある。

 1987年の民主化後、こうした状況は変化しはじめた。主要な社会運動団体の名称に韓国が使われはじめたのだ。変化した南北関係の現実もこうした決定に影響を与えた。1992年韓国民主青年団体協議会が結成され、1993年全国大学生代表者協議会を継承した韓国大学総学生会連合が発足した。2007年には民族文学作家会議も韓国作家会議に名称を変えた。2002年W杯などのスポーツ競技で大韓民国が応援のスローガンとして登場し、2016年キャンドル抗争期にも「大韓民国は民主共和国だ」という叫びが大きく広がった。多様な主体が自らを韓国という政治共同体の主体と宣言し、韓国という呼称との距離感は解消された。最近は、韓国が経済的に、政治的に成功したモデルという対外的評価を受けるようになったことで、韓国に新たな次元の意味を加えた。

 これにより、韓国の役割と位置を新たに定立しようとする論議も活発になり、肯定の対象としての韓国にいかなる意味を付与すべきかをめぐる討論、あるいは闘争も始まった。この闘争の結果は、韓国という政治共同体の構成員の未来に大きな影響を及ぼすだろう。国家を中心とする思惟は国家主義に帰結するという憂慮もありうる。だが、国家に対する思惟と国家主義は等値の関係ではないし、その間に国家を解放的な方向へと専有していける空間が存在する。後に考察するが、韓国の意味を後ろ向きに専有しようとする試みがすでに進んでいる状況を考慮すれば、この空間に介入することは重要な課題になった。これは韓国を特定の属性に固定させる作業ではなく、韓国がもつ可能性を発掘し、その可能性を表しうる道の模索とならねばならない。



2.“韓国”への後ろ向きの専有:グローバル言説で包まれた分断体制の再強化


 韓国の国家ビジョンやアイデンティティに関連して先進国言説の広がり、国際社会で韓国の役割を再定立するための中堅国家論や先導国家論の提起などは注目に値する変化として挙げられる1)。尹錫悦政権のグローバル中枢国家論も、こうした論議の延長線にあるといえる。しかし、こうした言説が韓国の成果をきちんと把握するとか、その成果を新たな次元へと進めていく道を提示したとは考えにくい。まず、先進国言説は国際社会における韓国の位置の変化を反映していて情緒的にも受け入れやすく、いつの間にか韓国社会でかなり広がっていた。だが、膨張主義または優越主義と結びつけば、世界に対する私たちの感覚を誤った方向へと導きやすい。学界中心に論議され、政界でも関心を集めた中堅国家、先導国家などの言説は、グローバル社会での位置の変化による韓国の新たな役割を規定する上で、ある程度助けになる。しかし、既存の秩序を前提にして国家の役割を論議するために転換の感覚が欠けている。機能主義的な接近により、韓国に対する思惟を平面的に行うという問題もある。

 尹錫悦政権が提示した“グローバル中枢国家”は、韓国がグローバル行為者になった状況を背景に、この行為者が志向する価値とグローバル秩序の姿を提示しているという点で、中堅国家論などの接近法とは異なる。グローバル秩序の変化に対する感覚を内包しているが、内容的に先進国言説の後ろ向きの専有という点でより深刻な問題がある。これはそもそも大国主義的な想像と関連が深い。多様な方式で表される、いわゆる“G8国家”に向けた意欲がこれを立証する。のみならず、G8国家という発想はG7に代表される西欧連合を中心にしたグローバル秩序を構築する流れに参加すべきだというグローバル感覚に立脚している。また、米国を中心とする西欧と中国・ロシア間の対立という新冷戦的な認識がその背景にすえられ、その延長線でNATO(北大西洋条約機構)に向けた求愛も進行中である。これは東アジア次元では反中国・反ロ連合2)、朝鮮半島次元では対北圧迫戦略と結びついている。新たな話として始まったように見えるが、冷戦と分断体制の結合という極めて見慣れた姿を見せている。つまり、グローバル中枢国家とは分断体制の再強化という後ろ向きの企画に帰結する。

 こうした再強化の動きは突然の話ではなく、むしろ分断体制メカニズムの結果ともいえる。1980年代後半から進行した脱冷戦と韓国社会の民主化は、分断体制の土台を弱体化させ続けた。分断体制下で形成された既得権層はこれにより大きな脅威を受け、この変化に抵抗してきた。そうした過程でつくられた韓国政治の動学は、比較的正常に作動する代議政治とは顕著な違いを示す。すなわち、互いに異なる理念と政策志向が合意された規則に従って競争することを妨げようとする力が政治と公論の場に介入する。この力はどんな意見でも理念の烙印を押して公論の場から追放でき、甚だしい場合は生命も剥奪しうる無限大の権限を自負してきた。韓国社会の様々な領域で既得権を掌握しているだけでなく、国家保安法、公安機関などの法的・制度的装置に助けられる。いわゆる保守と進歩という慣習化された区分に含まれえない力である。こうした力を見過ごして韓国政治の対立項を保守と進歩と単純化することは、今なお政治状況に対する誤った判断を生み出す主要な原因として作用する。

 分断体制の既得権層の抵抗は2016年のキャンドル抗争で大打撃を受けた。彼らは、朝鮮半島平和プロセスにより分断体制が解体する可能性が訪れるや、状況を反転できないという切迫感をもつに至った。これに対する必死の反撃の結果が尹錫悦政権の誕生である。だが、分断体制の弱体化と新たにつくられた社会的ダイナミズムは、この既得権勢力に持続的な脅威を提起している。尹錫悦政権の成立直後から直面した政治的危機がこれをよく示している。韓国ギャロップの調査によれば、大統領の職務遂行に対する肯定的な評価は、2022年8月の第一週に24%まで下落した。2023年になって上げ下げを繰り返しているが、40%を超えることはなく、7月第2週には32%を記録した。分期別の基準では、1年目の第1分期(50%)を除けば、29%(1年目第2分期)から34%(1年目第4分期)の間で動いており、前任の文在寅大統領は5年目第1分期の35%が最も低い数値だった。分断体制およびその既得権の安定のためには、弱体化していく分断体制のメカニズムそのものを変化させるべきだという認識がなくはない。

 朝鮮半島の平和プロセスが膠着状態に陥ったことが機会を提供した。しかし、これだけでは足りないということが、李明博政権と朴槿恵政権の経験から確認された。脱冷戦の慣性が依然作動していたのが主な原因の一つだった。だが、米中間の戦略競争がこの状況を変化させうる新たな契機と把えられた。米中間の戦略競争を活用し、つまり中国の脅威に対する対応を媒介にしてグローバル次元で西欧連合に積極的に参加し、東アジア次元で韓米日の安保協力を制度化・構造化させ、朝鮮半島ではこの構造の下位で作動する分断体制メカニズムを再強化する企画を本格的に推進できるようになった。冷戦体制と分断体制が照応するように、米中間の戦略競争と分断体制が照応する新たな秩序が最終的な解決策として登場したわけだ。

 この点で、尹錫悦政権の外交安保政策は政治的企画としての性格を帯びざるを得ない。したがって、対内的に登場した「自由」と「国家主義」の不似合いながらも見慣れた結合も偶然ではない。6月28日、尹錫悦大統領は韓国自由総連盟の創立記念行事に参席し、「歪曲された歴史認識、無責任な国家観をもった反国家勢力は(……)(北の)国連安保理制裁を解除してほしいと訴え、国連司令部を解体する終戦宣言の歌を歌ってきました」「自由な大韓民国を崩壊させようとしたが、自由な大韓民国の発展を妨げようとする勢力は国のあちこちに組織と勢力を構築しています」などの発言をし、分断体制で民主主義の規範を超えて作動する力を再び前面に押したてようという意図を示した。

 尹錫悦政権は、成立時からこうした基調を明確に表明してきたわけではない。尹錫悦政権の執権は、文在寅政権とキャンドル革命に否定的な多様な流れを結集させたがゆえに可能だった。だが、時間が経つと分断体制の再強化という基調が強化されたが、ここには次の要因が作用した。第一に、分断体制メカニズムから脱却したビジョンをもちえない保守の限界である。これにより保守内部で安保保守派、守旧勢力の影響力が他の傾向を圧倒するようになる3)。第二に、執権初期に出現した政治的危機である。これは一つ二つの事例で特定できる原因ではなく、執権能力全般に対する不信に由来するという点で、李明博政権初期の低い支持率とも性格が異なる。個別政策を調整しても解決しがたく見える状況で、政治的地形を変化させうる企画に邁進せざるを得ない。第三に、韓国に対する米国の要求、特に日韓関係の改善に関する圧迫である。日本との関係改善は分断体制メカニズムに依存せざるを得ない。実際、分断体制の再強化は2022年11月、カンボジアで進行した韓米日首脳会談で、インド・太平洋地域での安保協力を含む韓米日協力の強化を宣言する、「インド・太平洋の韓米日三国のパートナーシップに対するプノンペン声明」が発表された後、さらに力を注ぐ企画となった。この声明は、韓米日の安保協力の強化を鮮明にし、北のミサイルに対する情報共有と「三国首脳は不法的な海洋権の主張と埋立て地域の軍事化、強圧的な活動を通じたものを含め、インド・太平洋水域でのいかなる一方的な現状変更の試みに強く反対する」のように、中国を狙った協力をその方向として提示した。3・1独立節の記念辞、4・19節のロイター通信とのインタビューなどで、日本問題と中国の両岸関係に対する大統領の問題発言が相次ぎ、分断体制の再強化への意志もより露骨に表明された。



3.脱亜入欧の妄想と危機の韓国


 韓国を新冷戦および分断構造内へと回帰させようとする接近は、グローバルという修辞の下で進んでいるのが現在の局面で新しいといえば新しい面である。G8国家やNATO国家に対する妄想に基づく時代錯誤的な脱亜入欧という企画だからである。これは持続可能でないばかりか、韓国を外交、経済、軍事などすべての面で深刻な危機へとせき立てるだろう。

 第一に、現在のグローバル秩序は冷戦期と異なる方式で作動していながら、中国との対立構図を活用して韓国の政治社会構造を再編する試みは成功しない。特に、分断体制の再強化の企画が大きく依存する米中間の戦略競争も、両国関係での相互依存と協力を完全に排除することはできない。

 今後、相当な期間米国と中国が熾烈な競争を展開することは避けがたい。しかし、米国は中国と熾烈な(vigorously)競争を展開する一方、これに責任をもって(responsibly)管理すべきであり4)、この競争が新冷戦や衝突(conflicts)へと進んではならないという立場を明確にしている5)。最近、米国は自らが積極的に要求して進めた高位官僚の訪中(6月18~19日ブリンケン国務長官、7月6~9日イエレン財務長官、7月16~19日ケリー気候特使)を通じて対中政策をディ・カップリング(de-coupling)ではなく、制限された領域におけるディ・リスキング(de-risking)と供給網の安定のための多変化(diversifying)だと説明した6)。米国の2022年国家安保戦略報告書は気候変化、パンデミックの脅威・非拡散、不法麻薬類への対応、グローバルな食糧危機とマクロ経済などを協力が必要な領域だと列挙している7)。中国はまだ、米国の中国への圧迫政策は協力とは両立しがたいと線を引いているが、米国の対話要請には応じて米中関係の安定化を図っている。

 現在、台湾や南中国海で米国と中国が軍事的に直接対立しているために物理的な対立の可能性はある。この点で、現在の米中関係は冷戦期の米ソ関係よりも危険な面もあるので、両国の関係は短期的には流動的局面にあると思われる8)。ただ、軍事的な衝突を望まない米国と中国が敏感な問題を管理していけば、米中競争は次第に経済あるいは技術競争が中心になる長期・複合・低強度競争で展開されるだろうし、こうした状況では協力の必要性を否定できない。つまり、中長期的にみれば、米中間の戦略競争は冷戦式の陣営対立へは進まないだろう。

 これとともに注目すべきは、グローバル秩序の多極化である。最近、米国は“民主主義対専制主義あるいは権威主義”のような価値と制度の対決フレイムを活用し、中国とロシアを孤立させようとする試みを展開させ続けてきた。こうした試みは西欧圏や一部の国家では限定的な成果を上げてきたが、非西欧圏では米国のグローバル戦略に対する不満と不安を増大させた。それにより、地理的には南半球に位置した国家を指すが、内容的には開発途上国を指すグローバル・サウス(Global South)内で、米国の磁場から脱するとか、少なくとも米中間の両者択一を避けようとする動きも活発になっている。こうした変化の中心に立っているブリックス(BRICS、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ共和国などの協力機構)の場合、会員国拡大のための論議も進行中で、インドネシア・サウジアラビアなど20余カ国が加入の意志を表明した。国際社会でグローバル・サウスに属する国家の影響力が高まっているので、たとえ緩やかな協力でもグローバル秩序に及ぼす影響は、かつての非同盟運動の場合よりはるかに大きいだろう。

 グローバル経済でG7国家のGDPが占める比重は、1989年67%から2021年44%へと下落した9)。反面、2010年代に中国、インドはもちろん、インドネシア、ベトナムも相対的に高い経済成長率を記録し、グローバル経済で占める比重は高まっている。2000年GDPの順位で第6位を記録した中国を除けば、第8位までをすべてG7国家が占めていたが、ゴールドマン・サックスは2050年になれば、中国以外にインド、インドネシア、ブラジルなどが8位以内に入り(韓国は15位圏内にも登場しない)、2075年には米国以外の他のG7国家はすべて8位圏外へと押し出されると展望した10)。

 先ほど考察したように、現在のグローバル秩序は冷戦期とは異なる動学によって動いている。こうした状況で、冷戦式の両者択一的なフレイムに基づく韓米同盟一辺倒の対外政策でグローバル社会での地位を高め、これに基づいて国内の政治社会の構造を再編しようとする尹錫悦政権の企画は成功するはずがないだけでなく、中長期的に韓国の発展空間を縮小させるだろう。

 第二に、反共前線基地の役割をして米国の援助と工業産品の対米輸出で経済成長の動力をつくりだした冷戦期の経済メカニズムが、今は作動できないという点を想起する必要がある11)。バイデン政権のインフレーション縮減法(IRA)などが示すように、自国内の産業支援を主な目的とする米国の貿易・投資政策は、過去とは相反する方向へと展開されている。李恵貞はバイデン政権の対外政策の本質的な特徴は、民主主義と権威主義の間の体制競争の新たな大戦略ではなく、“中産層のための外交”という名でトランプの経済的民族主義を民衆主義的に一層強化した経済的な民衆・民族主義とまで主張した12)。これにより、貿易・投資政策で保護主義的な性格がより強まっており、これは同盟国の経済状況にも否定的な影響を及ぼしている。こうした状況で、韓米同盟にのみ没頭するのは、成長の動力が弱体化し続ける韓国経済に否定的な影響を及ぼさざるをえない。米国のグローバル戦略のために多くの費用を支払わされるが、それに対する見返りはほとんど期待できないからである13)。

 第三に、分断体制の再強化は朝鮮半島の常時軍事的な緊張状態からの脱却をしにくくし、軍事衝突の可能性を高める。短期的には最大のリスクである。過去に分断体制と冷戦体制が照応し、朝鮮半島における力のバランスが維持できていたのとは異なる状況である。脱冷戦期に北は体制の安全に危機を感じるようになり、次第に核・ミサイル能力の強化こそ、この問題に対応できる最も重要な手段と見なすようになった。これに対する韓国と米国の軍事的対応も問題を解決するより、安保ディレンマをより深化させただけである。朝鮮戦争の停戦70周年を前にした時点でも、米国の戦略資産の展開と韓米の合同軍事訓練に対する北のICBM発射実験という悪循環が続いている。7月10日、朝鮮中央通信を通じて発表された北の国防省スポークスマンの談話は、米国の戦略核潜水艦の展開を「軍事的緊張を極めて危険な状況へとさらに格上げさせ、核衝突危機という最悪の局面まで現実的に受けいれざるを得なくする極めて危険な事態の実像」だと批判した。



4.文明転換と韓国の可能性


 危機の兆候はすでに多様な領域で表れている。軍事的な緊張の高まりはもちろん14)、経済状況もまた潜在成長率を大きく下回る趨勢である。IМFが分期別に発表する経済展望で、韓国の2023年経済成長率の展望を、2022年7月2.1%から2023年7月1.4%まで連続5回下落させてきた。しかし、危機が深化しても分断体制を再強化する企画の修正へはつながらず、短期的には分断体制の再強化を加速させている。この問題にきちんと対応するためには、異なる韓国はいかにして可能かに対する思惟が裏付けられねばならない。

 韓国の可能性は当為的な要求ではなく、この間に蓄積した成果から導き出すことができる。韓国が獲得した成果は、経済的な発展の側面が決して少なくない。韓国の2022年の貿易規模は世界第6位を記録し、名目GDPは第13位を記録した。2021年ブルームバーグの革新指数では韓国が第1位を記録し、同年の世界知識財産機構(WIPO)が発表するグローバル革新指数では第5位を記録した。こうした経済的な成果は文化領域にも広がっている。グローバル中枢国家は無視するが、韓国の成果と関連して何よりも重要な意味があるのは韓国の政治的・社会的な活力である15)。

 重要なのは、このように肯定的に評価できる成果がどうして可能だったのか、その裏にどういう限界、あるいは問題があり、それはどのように克服すべきかに対する思惟を通じて韓国がもつ可能性を発掘し、その可能性を実現する方向感覚を定立することである。これは今までの経済的・社会的な成果を韓米同盟、財閥、冷戦と分断体制の産物の寄与へと帰結させ、分断体制の再強化を正当化する試みを突き崩すということでもある。こうした思惟には、韓国がグローバル秩序の変化の受容者ではなく、新たな秩序に向けた動力を提供する役割を担うべきだという認識も必要である。気候変化、不平等、暮らしの不安定性の増加など、グローバル社会に出現している多くの問題は資本主義世界体制の危機と関連がある。この問題は、政治的な意図をかなり込めている“民主主義対権威主義”のような構図では対応しがたく、その解決は資本主義世界体制の克服という地平で推進されるべきである16)。より広く見れば、持続可能でより良い生を実現できる、新たな文明に対する探索である。

 それでは、韓国の成果はいかにしてこうした文明転換と連結できるのか。これは既存のモデルや他国についていく方式では不可能である。これに関連して注目する必要があるのは、韓国の成果が植民地への転落、分断と戦争などの苦痛を経て得られた成果だという点である。大部分の先進国が近代時期に植民地主義を経由して今日の地位が得られたという点は、グローバル秩序の現在と未来を論じる場合、そしてグローバル社会に対する責任問題を論じる場合、決して見過ごしてはならない問題である17)。韓国はすでに新しい経路で、そして新しい可能性を内部に蓄積する方式で今日の成果を達成した。

 こうした結果は決して偶然ではない。甲午農民戦争からキャンドル抗争に至る奮闘の結果である。このように新たな世界を志向する下からの奮闘が持続した事例は他に見つけがたい。これを韓国社会の変化は遅々として進まなかったせいだと見なすこともできる。だが前述したように、資本主義世界体制の周辺部から植民地主義、戦争などの屈折を越えていく過程を、植民地主義に依拠して立ち上げた国家と単純に比べてはならない。むしろ、こうした障害要因に屈することなく、よりよい世界に向けた奮闘が持続され、その過程で韓国はより多くの可能性をもつ行為者になったことを高く評価すべきである。下からの抵抗と参加は経済的な成果に大きく寄与したばかりか18)、今まで達成した成長に対する反省的な省察の契機も内包している。今日、より積極的に照明する必要があるのは、この過程で蓄積された思想資源である。朝鮮半島は資本主義世界体制と遭遇した時から世の中を根本から変え、新たに出発すべき歴史に対する思惟を始め、これは“開闢”と呼ばれもした19)。西学に追随するのではないのはもちろん、かといって西学を否定して無視するよりも、これを克服する新たな文明に対する探究であった20)。この思想資源は、人類が文明転換の要求に直面している時点でより大きな意味がある。

 2016年キャンドル革命が作動させたキャンドル革命の意味もこうした脈絡で理解すべきである。現在、キャンドル革命は進む道を失ったと考える人も少なくない。革命に込めた大転換に対する期待とは程遠い現実がこうした考えを広めた主な原因の一つである。だが、より重要な原因はキャンドル革命の意味をきちんと把握し、これを継承するための錬磨よりも、キャンドル革命を継承すると宣言した政府の限界をすぐにキャンドル革命に対する否定へと結びつける認識にある。キャンドル革命は単発的な事件ではなく、韓国が資本主義世界体制と遭遇した後、それに適応しながらもより望ましい生のための可能性を探求する持続的な奮闘の延長線上にあり、こうした奮闘で重要な転換点をつくり、今も進行中の事件である21)。

 この奮闘は、近代を支配した急進的な革命モデルには従わなかった。このため、時々の時代に特別な影響力を発揮した急進的な思惟の枠組には適合しない、「不徹底な」性格が批判の対象になってきた。しかし、この実践の表面的、直接的な結果にのみ焦点を当てて「不徹底性」を強調する評価は適切ではない。歴史的にみれば、この実践は体制内の改革に止まらず、大転換のためのダイナミズムをつくりだし続けたという点が確認できる。甲午農民戦争が失敗に帰した後、開闢思想とそれに基づく社会運動はそうした役割を果たし、朝鮮戦争の停戦後7年にもならない時点の4・19革命は分断克服を含めた社会変革を志向する運動を触発し、1987年6月民主化大抗争は労働者闘争および統一運動へとつながった。情勢の変化を新たな世界に対する志向と結合させようとする試みが継続したが、この過程は単なる繰り返しではなく、変革へのエネルギーが次第に拡大する過程でもあった。キャンドル革命では平和的な方式で政府を退陣させ、新たな政府を選出した初めての政治過程が進行した。こうした当面の政治的目標だけでなく、気候変化、不平等と差別の克服、平和などより根本的変化への志向も込め、そのエネルギーは依然様々なレベルで社会的ダイナミズムを作動させている。

 もちろん、韓国の成果の裏にある限界も直視すべきである。炭素排出、性平等、軍事主義などの領域では成果を無意味にし、文明転換の障害物になるほどの指標を記録している22)。この問題を解決することは韓国社会の大転換と新たな文明の可能性を切り開く過程になるだろう。グローバル中枢国家という虚像は、この問題に対するいかなる代案も提示できないだけでなく、状況をより悪化させるという点でもその限界が確認できる。前述した成果、特に思想および運動レベルの成果をうまく継承する場合、より円満な克服方向を探し出せる。要約すれば、韓国社会の大転換とグローバルな文明転換の結合は韓国がもつべき方向感覚である。このためには先進と後進、先導と追随、中枢と末端のような位階に依存するアイデンティティの規定を超える韓国に対する思惟が必要である。金九先生の言葉を借りれば、真・善・美の実現を志向する文化国家という発想も可能だと思う23)。



5.文明論と情勢論の結合


 韓国が担うべきこうした文明的課題と昨今の情勢の間の落差は極めて大きい。尹錫悦政権が現在の統治方式を任期末まで維持するなら、文明転換の課題を担うのに必要な資源さえ消滅することもある。現実とは無関係に文明転換だけを叫ぶのは空談になりやすいが、情勢の悪化に対する対応だけに汲々としていては情勢の転換を創り出すのは難しい24)。情勢的な変化を文明転換へと連結させうるビジョンと戦略が必要だが、分断体制の克服が重要な連結の環である。韓国社会の大転換を防ぐための試みが分断体制の再強化の企画に帰結する状況も、分断体制が関鍵的な問題であることを表わす。韓国と朝鮮半島が強大国の競争の従属変数的な位置から脱却して自律的な行為者になり、韓国社会の大転換とグローバルな文明転換を支えうる政治社会的な主体を形成する上で、分断体制の克服如何が決定的な意味をもつ。

 現在の朝鮮半島において南北対立が深化する状況で、このビジョンもバラ色の幻想のように思われる。だが、今日の危機状況は分断体制の安定性ではなく、不安定性の表現である。前述したように、分断体制の再強化は国内外に造成された条件や流れと衝突する企画として、様々なレベルの危機を触発せざるをえない。現在必要なのはこうした危機の根源に対する認識を鮮明にすることである。特に今は、その企画が理念的あるいは政治的な目標の達成のために暮らしの質、生命安全、生態的な転換などの切迫した問題を無視するとか、より悪化させる方式で推進されている点で、これと関連する市民の共感帯を広げうる環境がつくられているといえる。

 北の国家戦略の変化が現象的には分断体制の再強化と呼応する面があるのも分断体制の克服に対する期待を低下させる要因である。北も新冷戦論を掲げて南北協力に対する期待を引っ込めて核・ミサイル能力を強化する一方、新たな発展空間をつくろうとしている。南側を国号で呼称したのも関心を引いた。ともすれば、分断体制の敵対的な相互依存メカニズムが作動しているように思われる。こうした状況が持続するなら、適当に管理された南北関係下で南と北が独自に発展し、競争するのがより現実的な代案とも思われる。だが、軍事的な敵対構造が存在する状況で、南北関係の適当な管理は達成できない。こうした状況では、北の国家戦略も彼らが期待するのとは異なり、何とか生存するという以上の目標は達成しがたい。北がこれを認識し、路線を変更することは分断体制の克服過程で遂行せねばならない課題である。

 結局、軍事的な敵対構造を解決するための相互脅威の減少と信頼構築がない南北の状況は根本的に改善するのは難しい。生存と安定が持続的に脅かされることが最も大きな問題だが、韓国内部で社会の大転換に向けた模索と実践が分断体制の効果に頼る抵抗で挫折する可能性が高まることも深刻な問題である。この問題を解決するための分断体制の克服は、ある最終状態を設定したものではない。しばしば登場する“統一か、平和か”、または“一つの国家か、二つの国家か”などの問題設定はどういう問題を解決しようとするのか不透明であり、的外れの論議へと向かわざるを得ない。すでにこうした二分法を克服できる南北連合のような実践的な方案が提示されており、これは状況に応じて多様なレベルで変容できる弾力性を有している。南北連合を国家連合の一形態とみれば、北側が南側を国号で呼んだことも問題というよりはこうした方向で南北関係が進む可能性を広げたのだ。ただ現在、より重要なのは相互脅威の縮減と信頼構築の過程を触発させ、これを通じて韓国社会の大転換を推進する空間を広げることである。持続不可能な分断体制の強化という、その後ろ向きの本質を認識し、分断体制の克服を通じた韓国の可能性を具現していく道への共感が広がる場合、尹錫悦政権の暴走も早期に終わらすことができる。


<注>

1)これに関連する様々な言説に対する評価は、キム・ガプシク『米中戦略競争時代、韓国の複合対応戦略』、統一研究院、2022年、111~29頁を参照。このうち、中堅国家論と関連してはイ・スヒョン「中枢的中堅国家論と参与政府のバランス実用外交」『韓国と国際政治』第24巻第1号、2008年と、カン・ソンジュ「中堅国理論化のイシューと争点」『国際政治論叢』第55巻第1号、2015年。先導国家論はイ・ワンフィ・金南局「世界“先導国家”概念の定立のための試論」『国際・地域研究』第30巻第4号、2021年などが参照できる。

2)イ・ヨンジュン「中国を克服してグローバル中枢国家になろうとすれば」『朝鮮日報』2023年6月2日。

3)現在、米国でも安保論理が対外政策に大きな影響力を行使しているが、米中間の戦略競争が長期化して経済界では過度のディ・カップリングや対中制裁に否定的な意見も増加している。最近、半導体関連企業が追加の対中制裁に反対する立場を表明したのは代表例である。Dylan Butts. American chip companies need access to China and want to avoid ambiguous sanctions, US chip trade group say”, South China Morning Post,2023.7.18. 韓国では安保・保守あるいは守旧・既得権層の影響力がより圧倒的であり、こうした亀裂が表れないが、その亀裂がないとは言えない。

4)The White House, National Security Strategy, 2022.12.10, 25頁。

5)Antony J. Blinken, “The Administration’s Approach to the People’s Republic of China,” 2022.5.26.

6)“Secretary of State Antony J. Blinken’s Press Availability,” 2023.6.19; “Remarks by Secretary of the Treasury Janet L. Yellen at Press Conference in Beijing, the People’s Republic of China,” 2023.7.8.

7)National Security Strategy, 25頁。

8)筆者が2021年初に発表した「米中間の戦略競争、どこへいくのか」(『創作と批評』2021年春号)では、米中間の戦略競争の低強度的な特性を強調したが、その後台湾問題と関連した葛藤がより高まったため、現在は中・高強度の葛藤が出現する可能性を完全には排除できない流動的状況、と評価するのがより適切である。

9)“What Does the G7 Do?”, Council on Foreign Relations, 2023.6.28.

10)Kevin Daly and Tadas Gedminas, The Path to 2075—Slower Global Growth, But Convergence Remains Intact, Goldman Sachs, 2022.12.6, 5頁。

11)洪錫律は、冷戦期の韓国が米国から受けた援助は極めて例外的であり、冷戦と韓国の経済開発が互いに照応する面があったと主張した。洪錫律「冷戦の例外と規則」『歴史批評』2015年春号、118~23頁を参照。韓国の工業産品が米国市場にたやすく進出できたのは韓国だけに該当する条件ではなかったが、やはり冷戦体制と関連がある。

12)李恵貞「バイデンの米国優先主義」『韓国政治研究』第30巻第3号、247頁。

13)ビクター・チャは、グローバル中枢国家を中堅国家(middle power)からグローバル国家(global power)へと進む構想と解釈し、これは韓国が中国との関係から短期的には相当な費用を甘受すべき可能性を強調した。ビクター・チャ「〔見える論評〕グローバル中枢国家・韓国のインド・太平洋戦略は?」東アジア研究院2022.10.12.

14)これに対する詳細な内容は、本号の徐載晶「危機の朝鮮半島、緊張の東北アジア」を参照。

15)いわゆる価値同盟関連の論議をする場合、民主主義を強調するが、対内的にはこうした成果を否定する方向で動いている。グローバル中枢国家に関連する論議では、世界6大軍事大国というのが特に強調されるが、これは当然大国主義的傾向と関連がある。これを成果に含めるべきか否かは、韓国に対する思惟をめぐって進行する闘争の主要な争点中の一つである。

16)これは長期的な過程であらざるを得ず、この時より民主的で平等な代案体制を志向する努力はいつも中・短期的で、局地的な課題と関連させて熟考されねばならない。柳在建「大転換と資本主義」『創作と批評』2023年夏号、369頁。そして、こうした接近法には資本主義世界体制に対する適応と克服の二重課題的な認識が要請される。二重課題論については、白楽晴「近代、適応と克服の二重課題」、宋虎根他『市民社会の企画と挑戦』、民音社、2016年を参考。

17)この問題は今も論争が続いている。2014年7月1日から4日まで行われた第35回カリブ共同体(CARICOM)首脳会議では、カリブ奴隷制賠償要求案を採択した後、奴隷制の賠償問題がグローバル政治の議題として登場しはじめた。パク・ビョンギュ「カリブ共同体が西側国家に賠償を要求する」『トランス・ラテン』第30号、2014年。最近は、アフリカ諸国もこうした動きに同調している。

18)世界銀行の資料によれば、2022年ドルの現在価格基準で1987年一人当たりのGDPは韓国3555ドル、日本は2万749ドルをそれぞれ記録してかなりの格差が維持されたが、2022年韓国3万2255ドル、日本3万3815ドルで格差がほぼなくなった。権威主義期の経済成長を否定するわけではないが、誇張することもなく、民主化後の時期が今の経済的な成果により大きな意味がある。

19)白楽晴「2023年になすべきこと」『創作と批評』2023年春号、29~30頁。

20)水雲・崔済愚の対決と克服は世界史的な事件という金容沃の主張に、白楽晴も同意を表した。金容沃・朴孟洙・白楽晴鼎談「再び東学を探して今日の道を問う」『創作と批評』2021年秋号、94頁。これとともに、白楽晴は東学を継承したといえる圓佛教がつくった資源にも大きな意味を付与する。特に、少太山・朴重彬が提唱した「物質が開闢されたので精神を開闢しよう」という圓佛教の開教標語の重要性を強調する。脈絡を知らずにこの開教標語をみれば、精神は物質に従うべきだという意味に解釈されがちだが、実際には、その反対の意味が強い。つまり、物質開闢の時代にこの変化をきちんと理解しながらも、人間が物質の奴隷にならずに精神開闢を通じて新たな文明を創らねばならないという宣言である。金容沃はこの開教標語が物質と精神の二分法に立脚していると批判するが、白楽晴はここで精神が物質と対比される実態ではなく一つの境地として理解すべきだという立場を開示した。同鼎談の116~21頁。開闢を話頭にして韓国近代の思想史の奇跡を整理しようとする試みは、チョ・ソンファン『韓国近代の誕生』(モシヌン人々、2018年)と姜敬錫他『開闢の思想史』(チャンビ、2022年)が参考になる。

21)これに対する論議は白楽晴他『百年の変革』、白永瑞編、チャンビ、2019年を参照。白永瑞はこの過程を「漸進的で累積的な成果」(6頁)と表現した。「累積的」なことは明らかだが、「漸進的」という表現は事態を単純化させる面があると思われる。文明転換の時代に移行過程をどのように規定するかについてより本格的な議論が必要である。そして、同書は3・1運動100周年にあたり、3・1運動からキャンドル革命までの過程を照明するのに焦点を当てているが、白楽晴(「3・1と朝鮮半島式の国づくり」)と鄭恵貞(「3・1運動と国家文明の“教”」)は、3・1運動と東学および開闢思想との連結環を提示した(26~27頁、153~56頁)。

22)この問題については拙稿「米中間の戦略競争、どこへいくのか」51頁で、指摘したことがある。

23)崔元植は、金九思想の道家的な小国主義の核心を発展させる方向で、「大国主義を反省して小国主義を再評価するが、国際分業の周辺部に安住する小国主義に転落しないこと」、つまり小国主義と大国主義の内的緊張を堅持する」ことを提示した。崔元植『帝国以後の東アジア』、チャンビ、2009年、28頁。

24)白永瑞は、自らが提示する東アジア代案体制論の二つの柱として文明論と情勢論を提示し、変革を志向する理念であり、実践としての条件を整えようとすれば、両者が結合せねばならないと主張した。白永瑞『東アジア言説の系譜と未来』、ナナム出版、2022年、15頁。

                          (翻訳:青柳純一)