やるべきことをうまくやる李在明政権に期待する / 李南周 [2025.6.10]
思いもよらない形で尹錫悦政権が早期に退陣し、6月4日新政権が発足した。6月3日に行われた大統領選挙(以下、大選)で、国民は当然内乱政党を拒否し、李在明民主党候補を新しい大統領に選出した。しかし、選挙結果に対する憂慮もある。「内乱党」の候補が40%以上を得票し、釜山・慶南から江原道に至る地域では得票率1位を記録したからである。李在明候補が、民主化後に行なわれた多者構図の大選では最も高い得票率(49.42%)と得票数(1728万7513票)を記録した事実より、内乱勢力を支持した有権者の割合が思った以上に多かったという点により高い関心を寄せるケースも少なくない。
しかし、金文洙候補に対する支持を内乱勢力への支持と見なすのはあまりに単純な論理である。こうした結果が出るに至ったわけは、守旧勢力の決死的抵抗により内乱克服の過程が困難だったせいが大きい。その過程についてここでいちいち説明する必要はないが、内乱主犯の釈放と最高裁の拙速な判決によって内乱の実体を解明する過程が停滞し、内乱問題を政争に転化させようとした試みが一定の効果をあげたという点はあらためて強調する必要がある。これは内乱勢力の清算に向けた意志をより強化する契機となったが、同時に一部有権者の間で内乱犯も問題だが、李在明候補も問題という調子の両非論が広がる時間と政治空間を生みだした。以前から持続して進められた李在明候補への検察と言論の不当な攻撃も少なくない影響を及ぼした。
今後、状況は変化するだろう。新政権の発足により、内乱の実体を解明する過程がより積極的に進められる。国民の力党は内乱擁護勢力としての素顔がより明らかになる中で、未来を率いていく政党としての生命力は完全に喪失するだろう。今後、保守勢力が内乱勢力と断絶して新たな誕生を追求すれば歓迎すべきことだが、今までの行動を見ると、その可能性は低い。
重要な問題は、新たに発足した李在明政権がなすべき仕事をするのに集中し、国民は政府がやるべきことをきちんとやるように支持し、監督することである。もちろん、簡単なことではない。韓国が直面する挑戦が少なくない上に、政府の能力と資源に限界があるからだ。逆に考えれば、これは李在明政権がその仕事に尽力できるように、そして実質的な結果を生みだすために集中すべき必要性がどんな時よりも高まる理由になる。民主改革勢力内で、各自が自らの立場だけ考えて現状に対応しようとするなら全体の失敗に帰結するだろう。ともすれば、李在明政権が初心を離れて現実に対する克服の意志が弱まることも問題だが、それぞれの勢力が非現実的な代案を掲げ、可能かつ必要な変化を難しくするのも問題である。
季刊誌『創作と批評』を通じて発信している“変革的中道”はこの問題を解決するための話頭である。お互いに最終的な志向は多少違っても、韓国社会がより持続可能な社会へ、人間的な暮らしが可能な社会へと進展するために、今やるべきことを見つけ、これを実現するのに知恵と力を合わせるべきである。キャンドル革命と光の革命を経て、私たち国民は(その表現をそのまま使ってはいないが)、変革的中道の趣旨をいつの時よりも深く体感している。内乱克服の過程でもそうした方向へ力を集め続けてきた。仮に、多様な勢力間で連帯の広がりを支持しながらも広場を個別的に専有しようとする試みについては強い批判の態度を示してきたのだ。
変化を作りだす過程で李在明政府の役割が大きく、今後は李在明政府がすることへの監督も強化されるだろう。仕事をうまくやれという支持と激励の監督だけでなく、李在明政権の失敗を政治的な目的とする人々の活動も活発になるだろう。しかし、この時期に何よりも重要なのは“働く政府”に対する国民の願いである。韓国社会が時代的な転換期にあるという感覚は、いつの時よりも鋭敏である。私たちが一歩進めば、私たち自身の問題だけでなく世界の問題も解決する力をもった共同体を創りだせるだろうという自負とともに、もし一歩退いても深刻な困難を味わいうるという危機感が常に存在する。足を引っ張る調子のやり方では、国民の支持や同情を得るのは極めて難しい。今日李在明政府が働く政府、結果を生みだす政府として自らの役割を明らかに掲げるのも単なる修辞ではなく、国民の切迫感が反映したものである。過去の経験と現在の状況の重大さを考えると、特に次の二つが重要である。
第一に、主要な人事で能力と業務実績を最も重要な基準にして原則を堅持することである。これは人事をめぐって不必要な雑音に正々堂々と対応し、執権時期の政府がまともに仕事できるようにする重要な政治的基礎である。多様な人に機会を与えるが、信賞必罰を厳格に施行すべきである。第二に、新政権がしようとすることを明確に提示し、一貫して追求することである。仕事をうまくやるだろうという期待が李在明大統領の当選を支えてきただけに、執権初期にどういう仕事をすべきかをより明確に説明し、それに対する国民の共感帯を形成することが重要である。
後者に関連してもう少し補えば、変革的中道の主要な要諦である分断体制の克服という視野から韓国社会が直面する問題を解決する代案を創らねばならない。当面、守旧勢力は内乱克服、平和と安全、持続可能な経済・社会体制の構築などの課題遂行を妨害するため、分断体制をより積極的に活用しようとするだろう。一方で、これらの課題は分断体制の克服過程と連係される場合、より円満に遂行できる。こうした好循環をつくるために、南北関係の正常化と新たな発展を模索することを、一喜一憂せずに一貫して推進すべきである。国民に向け、関連国家に向け、そして北に向けても朝鮮半島の平和と安全はみんなが勝つ道であることを説得できるビジョンと力量を備えねばならない。
李在明政府がやるべきことをうまくやれるかと監督するだけでなく、そのことがうまくやれるように力を集めていくことが、光の革命を経た国民の役割だろうという点をあらためて強調したい。今回の大選結果が、様々な政権交代の中でもう一つの事例に留まることなく、韓国社会、さらに世界に違いを生みだすスタート・ラインになるように、私たちみんなが力を集めなければならない。
李南周(『創作と批評』主幹、聖公会大学教授)
(青柳純一・訳)