4・15総選挙、誰をどのように審判するのか/白楽晴[2020.4.1]
第21代国会がどのような構成になるのかは予断しがたいが、今回の総選挙が韓国政治の恥ずかしい本来の形を呈して始まることだけは明らかだ。何よりも、二大政党が比例代表用の衛星政党づくりでせこい競争を繰り広げたせいである。それで、マスコミや知識人の論客の間では両党の行動を厳しく批判し、総選挙で「有権者の審判」を促す声が高まっている。だが、一体誰を、どのように審判せよというのか、国民の立場ではもどかしく、虚脱感さえ生じる。
総選挙で国民に与えられた審判手段は有権者1人当たり2票だけである。そのうち1票は自分が暮らす地域区に各政党がたてた候補のうち有力な2名、多くとも3名のうち1人に投票する場合に「審判」の効果を発揮できる。もちろん棄権するとか、投票に行かないという選択肢もあると思う。とにかく、今回のように複雑かつ落ち着かない状況で、適切な審判を下すには有権者に与えられた権限が極端に限定されているのだ。それでも1票しかなかった時代、さらに1票すらほぼ無意味だった独裁時代を思いだせば、この程度の選択権でも持てるようになったのは感謝に値する。ここまで来るのに、どれほど多くの市民が傷つき、涙を流してきたことか!
2カ月程前でも、審判の構図は比較的簡明だった。第20代国会の4年間、特にキャンドル抗争で政権交代がなされた後は、市民の改革要求を事あるごとに妨げて「植物国会」となったが、限定的な改革立法が迅速処理法案(ファースト・トラック)になると「動物国会」の再演を厭わない勢力を審判すべしという課題は明確だった。これは選挙戦略や理念の問題ではなく、一種の健康な常識に属した。他方で「キャンドル」以前、さらに87年民主抗争以前の世の中を懐かしみ、「親北派の大統領府」とか「左派独裁政権」というフェイク・ニュースを積極的に伝播する少数勢力にも審判の構図は明白だった。この対決で常識が勝つ場合、「キャンドル国会」も期待しうるという思いを私自身が披歴したこともある。
この構図を揺さぶったのが改正選挙法の無力化を狙った巨大両党の衛星政党づくりである。まず始めたのは、もちろん未来統合党(未統党)だった。しかし、当初未統党のせこさを非難していた「共に民主党(民主党)」が、彼らの所作をほぼそのまま踏襲して大騒ぎになり、民心反映の強化を期待した少数政党はむしろ生き残るためにもがく立場に置かれた。二大政党の振る舞いとこの間の細かい経緯をここで繰り返す必要はない。選挙制度の限定的改革でさえ既得権勢力にどれほど大きな脅威になるかを、逆説的に実感させてくれたわけだが、有権者としては誰を、どのように審判するかに迷いが生じて、幻滅と嫌悪感で審判の意欲さえ失うこともあるかと思う。
民主党に友好的だった人が、そうかと言って未統党に投票することは極めて稀だろう。反面、投票不参加の側に向かう可能性は無視しがたい。しかし、ある程度の幻滅は当然で、私も民主党がここまでやるとは予想できなかったが、民主党もまた韓国社会の既得権構造の一部であることを全く知らずにいたならば、それも問題である。2016年秋、キャンドル抗争の初期に民主党で積極的に弾劾を主張したのは基礎団体長一人だったし、ソウル市長がデモ群衆の安全と便宜を積極的に支援しただけで、党指導部の大部分はキャンドル市民の要求に冷淡だとか、逆行しようとさえしたではないか。先の選挙法改正時も、民主党は仕方なく引きずられる形だったし、最終案作りでは結果的に、自由韓国党の立場を拡げる方向で少数党を圧迫したではないか。両党の既得権構造を守ろうとする行動様式が最近度を越してあからさまになっただけで、民主党が急に変質したと憤慨する話ではないのだ。
私自身は、「地域区選挙で民主党の善戦と比例代表選挙では改革的な少数政党の躍進を目標にする戦略的な分割投票」を提案したことがある(フェイス・ブック2020年2月29日と3月18日)が、けしからんと憤慨する気持ちがしても、この原則を固守したい。立法府内の反キャンドル勢力を懲らしめるという基本構図は依然生きているからだ。その上、新型コロナ事態で、この地の住民の苦痛が長引き、深刻化している中で、不幸中の幸いにも、犠牲と献身、創意性と連帯というキャンドル市民の美徳が再び表面化している。こうしたいい気運を鼓舞することが政治の本業なのに、プロ政治家が職務を遺棄するからと、参加する市民までがそうしてはいけないのだ。最近のマスコミ報道を見ると、国民の間でも今回の総選挙のこうした基本構図が徐々に蘇っているようだ。
そうとはいえ、戦略的投票だけでスッキリした審判に至るとは期待しにくい。しかし、“キャンドル”がまだここまでしか来ていないのも現実ならば、一挙にスッキリするのを期待するより、私たち自身の限界を謙虚に認めて今回の選挙で可能な限り最善の審判をし、選挙後にも多角的な奮闘を続けるように覚悟すべきだろう。いや、投票以前にも民主党を覚醒させ、催促することがある。
今のやり方では、もし民主党が第1党になっても次期国会が現国会より良くなる可能性が薄いのは厳然たる事実である。さらに、民主党と文在寅政権が今までより面倒な「苦難の行軍」をしかねない状況も否定できない。大統領任期4年目であり、現国会ではそれなりに選挙法の改定や検察改革を始動させた「4+1」(現在は三党)連帯を民主党が背き、国民の信頼という政治資本をあまりにも多く失ったために、その運身の幅はより狭まりやすくなったのだ(国会で200議席以上必要な大統領弾劾や180議席以上で決行できる公捜処[高位公職者犯罪捜査庁]法の廃止などは当初から野党のホラ話と与党の恐怖煽りで合作された妄想なので、それを防いだと祝うのは無意味だ)。それなら、改革の進展を望むという市民が民主党に要求するものは何なのか。
実は、そう大した話ではない。例えば、民主党が国民とファースト・トラック連帯の友軍だった民生党と正義党に向け、今回は状況に迫られて決定したので、本当に申し訳ないと率直に謝ることだ。そして、今回の選挙に限った一回きりのものなので、今後はこうしたことがないように共に努力しようという提議は、そんなに難しいことだろうか。イ・へチャン代表は、比例衛星政党への参加を最初に発表しながら、国民に「恥ずかしい姿を見せて申し訳ない」と多少あいまいな形で謝ったことがある。準連動型制度の適用に30議席をあてることが一回切りなのは「4+1」の合意事項でもあった。当時よりもさらに恥ずかしい姿を晒した後の謝罪は、もう一歩明確に行うべきである。そして、謝罪の誠実さを示そうとすれば選挙法の追加改正はもちろん、国会法・政党法の改正、与野議員148名の発議で3月8日から国会係留中の国民の憲法改正の発議権を保障するワン・ポイント改憲案の早急な通過、その他各種の改革措置のための協力体制の構築を提案すべきだろう。その時初めて、民主党も大きく見れば既得権勢力の一部ではあるが、未来統合党と全く同じ積弊勢力ではないし、最近のせこい政治も全く同じ内容ではない、と国民を説得できるだろう。
民生党や正義党がこれに呼応する可能性が高い、というのが私の個人的判断である。民生党は当初から全羅道地域の民心を考慮して衛星政党に参加する意欲が強かったわけだし、正義党も今まで困難な中で固守してきた衛星政党に対する原則的な批判を撤回せよというのでなければ、民主党や民主党支持者と極度に対立する道に固執する理由はない。そのように、三党間の一定の和解が実現すれば、今回の地域区選挙で選別的な連帯さえ可能かもしれない。
そういう場合、有権者は有権者なりに自らに与えられた2票の審判権を、もっと楽な気持ちで行使できるだろうし、かなり意味のある審判結果が生じる可能性も高まるだろう。
白楽晴(ソウル大学名誉教授、『創作と批評』名誉編集人)
翻訳:青柳純一・青柳優子