米朝対話の模索、平和の機会にしようとすれば/李南周[2020.7.1]
最近数日間、朝鮮半島情勢が新たな方向へと転換する兆しが表れた。その出発点は、6月23日テレビ画像で行われた朝鮮労働党中央軍事委員会の予備会議で金正恩委員長が対南軍事行動計画を保留せよと指示したことである。これにより、破局に向けて突き進んでいた南北関係の危機状況に急ブレーキがかかった。もちろん、この指示だけですぐに対話局面へ転換するだろうとは予想しがたかった。だが、6月29日米国務副長官兼対北特別代表のスティ―ブン・ビーガンがドイツ・マーシャル基金(GMF)で開催のテレビ画像懇談会で行った発言を注視すれば、米国大統領選挙の前に新たな対話が試みられる可能性が高まっていることが確認できる。
韓国での報道はビーガン発言の中で、第3回米朝首脳会談の可能性は低い、という言及を主に紹介した。しかし、これは米朝首脳会談の可能性についての簡単な答弁だったし、この日全体の発言の重点は後ろの部分にあった。ビーガンは、コロナ19事態を考慮すれば大統領選前の米朝首脳会談の開催は難しいと語ったが、直ちに北との対話(engagement between the two sides)を米国が明確に準備しているとも語った。次いで、北が米国との交渉に臨みさえすれば極めて速い進展も可能であると主張した。発言の末尾でも、米朝が実質的な進展(substantial progress)を実現しうる時間は依然十分にあるとも強調した。
米朝対話が成功するためには北の態度の変化が必要であるという点が同時に言及されているが、ともあれ大統領選前に北との交渉に臨む意志を極めて明確に表現したのである。大統領選までは北が新たな挑発に出ないように管理するための発言だという解釈もある。しかし、金正恩委員長の軍事行動計画の保留と連結させてみれば、昨年12月ビーガンの対話要求に北が無回答で一貫した状況とは異なり、米朝間に何かやり取りする過程が進んでいると見ることもできる。
米朝対話の可能性を懐疑的に見る理由として、非核化に関する米朝間の立場の違いが大きいという点とともに、大統領選を目前に控えた米国は新たな外交的合意を生みだしにくいという点が上げられる。だが、後者は決定的な理由にはなりえない。かつてビル・クリントン大統領は任期末に北との重要な対話を推進したことがある。2000年10月当時のオルブライト国務長官が平壌を訪問して、北の趙明禄次帥がワシントンを訪問した。交渉には進展があったが、クリントンが残りの任期中にパレスチナ問題に集中したことで最終的妥結に至らなかった。状況の違いはあるが、米国の大統領選のために米朝交渉は不可能だと断定はできないことがよくわかる事例である。「依然時間がある」というビーガンの言葉を聞き流してはならないのもこのためである。
より困難な問題は、米朝間の立場の違いが狭まりうるのかである。ビーガンもこれについては憂慮を表明し、北の態度の変化が必要だと主張した。特に、北の実務代表に裁量権がないという問題を指摘したが、ジョン・ボルトン前安保補佐官の回顧録で、2019年2月ハノイの米朝首脳会談を前に、ボルトン本人の努力によりトランプは「行動対行動」を通じた段階的接近に基づくビーガンの交渉案を拒否したと主張した点を考慮すれば、これは北だけの問題ではない。カギはハノイ会談で露呈した違いを狭める方法があるのかである。ボルトン回顧録によれば、ハノイ首脳会談では寧辺核施設の廃棄と制裁解除の交換を要求した北と、核兵器はもちろん生化学兵器とミサイルに対する申告と検証を先に要求する(これはボルトンの非核化論が事実上貫徹されたものだ)米国の主張の間で接点を見出だせなかった。しかし、後者の接近法はすでにブッシュ政権で失敗したものであり、その結果が北の核・ミサイル能力向上へと続いたのはよく知られた事実である。
今まで非核化に関連するあらゆる主な合意は「行動対行動」の原則を盛り込んでおり、ビーガン自らも対北特別大使に任命されて以来、そしてハノイ会談後も度々「同時的かつ並行的な」(simultaneous and parallel)非核化の推進を強調している(興味深いのは、ビーガンが主張したこの接近法を、ボルトンは明確に中国の主張とみなしたという事実である)。新たな対話が成功するためには、「行動対行動」の原則による非核化ロードマップをつくらねばならない。依然として、突破口は2018年平壌宣言に含められた寧辺核施設の廃棄と、それに相応する措置について米朝が合意してこそ作ることができる。これは南北間の信頼を強化する最も重要な道でもある。すでに失敗したカードが今回成功できるだろうか、という当然の問いが提起されてもいる。しかし、交渉が進展しない場合、各自が担わねばならない重みもさらに増すという点は北も米国もよくわかっている。この点により、双方を昨年より積極的な態度で交渉に臨ませる可能性がある。
機会の窓は多少開いているが、残りの時間は多くない。過去2年間の経験は、私たちが米朝間の対話の進展を待つだけでは十分ではないと確認させてくれた。米朝間を探索して具体的な成果につなげ、南北の信頼を復元する上で、わが政府の実行能力と意志がいつの時よりも必要である。平和は他人に要求する時ではなく、それを自らが定着させるために実践する時、他の主体を牽引する動力までつくりだせる。万一米朝交渉で突破口がつくられなくとも、私たちが主体となって朝鮮半島の平和と南北協力の道を探すための努力を続けるべきである。
李南周(聖公会大学教授・政治学)
翻訳:青柳純一・青柳優子