[特別対談] 2025年体制、いかに作るべきか / 白樂晴·李南周
特別対談
李南周(以下、李):こんにちわ。『創作と批評』編集主幹の李南周です。12・3非常戒厳令の宣布から大統領の弾劾宣告まで、韓国社会に巨大な変化の波が起きています。すぐに大統領選挙(2025年6月3日、大選と略)が予定されており、新政府の出発を前にして新政府のなすべきことと朝鮮半島の大転換の過程について、白楽晴先生と話を交わそうと思います。先生、こんにちわ。
白楽晴(以下、白):チャンビでこうした席を設けてくれたことに感謝します。大選結果が出た後、あれこれ分析を加えるのがもっとうまい方も多くいらっしゃるし、季刊誌よりはるかに機動性がある場もあるので、私たちは他ではあまりやらない話を事前にしておくのも意味があるようです。
李:キャンドル革命が始まって以来、古いものを克服して人間的な暮らしが保障される、持続可能な社会をつくるべきだという熱望が絶えず表出されてきました。その熱望を実現させるよい機会が来たという思いがします。本格的な対話に先立ち、昨日(5月1日)最高裁で下された荒唐無稽な判決を指摘しておこうと思います。第2審で無罪が宣告された李在明(共に民主党)候補の公職選挙法違反嫌疑の事件を、最高裁で破棄して控訴審に差し戻しました。多くの市民を激怒させ、既得権勢力の民主主義に対する拒否感をあらためて確認させる事件でした。民心は明らかな方向に流れているのに、法の条文を偏狭に解釈して民心を混乱させようとする姿です。司法的な判決で民主主義を揺さぶって妨害するやり方については、今後とも明らかにして踏み越えるべきです。先生はどう思われましたか。
白:私はまず、破棄・差戻しは大選にあまり影響を与えないと思います。法律的にもそうだし、政治的にはむしろ李在明候補にプラスになるかもしれません。彼らはなぜそうなのかと思いますが、お話のように、古いものを克服すべき時に、最高裁判官たちは「自分らも古くなった、覚えておいてくれ」という調子です。わが国の最高エリートという人々、その脳機能が低下しているようです。手続き上で違法な裁判をしたとか、政治介入の意図が確認されれば、最高裁の判決でも問題になりうるでしょう。そういう場合、民主党と立法府が適切な措置を取るだろうと信じます。また、大統領権限代行(イ・ジュホ副総理兼教育相)が任務遂行をどうするかを見るべきでしょうが、すでに尹錫悦は罷免されたし、内乱加担者であると確認される二人の権限代行は退いたので、多少は異なる姿を見せるという期待をもっています。
李:今回の判決が市民の変化への意志に火を注ぐだろうと思います。先生は尹錫悦政権の出発にあたり、“変則的事件”とおっしゃりましたが(新年コラム「今まで通りに生きないように」、チャンビ週刊論評および白楽晴ТV2022年12月30日;「2023年になすべきこと:今まで通りに生きないように」『創作と批評』2023年春号)、今回の判決で“変則的な行動”がまた一つ加わったようですね。
混乱の空位時代、なぜ2025年体制なのか
李:今日の対談で論議したい重要な内容は、古いものを清算して新たな大転換の道を切り開いていく“2025年体制づくり”です。2012年に、先生は“2013年体制”論を提起されました。その具体的な内容は『2013年体制づくり』(チャンビ、2012年)に込めたし、最近のユーチューブ“白楽晴ТV”を通しても、それに対する評価をなされました(「白楽晴勉強の道175」、2025年4月25日など鄭鉉坤編を参照)。ここで一つ注目すべき点は、2013年体制が選挙日程に基づいて論議されたなら、その後は既存の憲法上の選挙日程を超える大転換の企画を語られたということです。「2023年になすべきこと」で尹錫悦政権の早期退陣が不可避であり、また退陣させるべきだという方向を提示され、実際に尹錫悦政権は2年半で終止符を打ちました。私は選挙日程によらない、こうした新しい企画に、「87年体制の時効が尽きた」という認識がより明確になった点が重要だと考えます。先生も「87年体制は寿命が尽き、現行の87年憲法は正常な作動を止めたという判断」(新年コラム「第2期キャンドル政府と第22代総選」、チャンビ週刊論評および白楽晴ТV2023年12月29日;「2024年年頭にあたり」、『創作と批評』2024年春号)とおっしゃり、尹錫悦政権の発足とその後に表れた行動形態から87年体制が終わった点を明白に露呈させたので、新体制への転換を一日も早く推進すべきだという趣旨で理解しました。それが今、2025年体制に対する論議へとつながっています。
白:尹錫悦政権を早く退陣させるべきだという話を、政権の発足当初からしました。初めは注意深く、後には少しはっきり述べましたが、それは私が性急だからではありません。お話のように、尹錫悦政権の登場は変則的な事態であり、87年体制の中での正常な政権交代ではないという認識を持っていたからです。 87年体制が、それ以前の体制と明らかに異なるのは二つあり、一つは直選制改憲であり、もう一つは直選制を通じた水平的な政権交代が可能だという点です。だが、87年体制を通じて1961年朴正熙の5・16クーデター以来の軍事独裁を清算したのに、その土台になる分断体制は清算できませんでした。61年体制と87年体制、ともに分断体制という土台を共有するわけです。それで私は、その次の課題が分断体制を(完全には崩せなくとも)緩和し、改善することだと思いましたが、そう思い通りにはなりませんでした。2013年体制は、2012年李明博政権下で行なわれた二つの選挙――4月国会議員選挙と12月大選――で野党が勝利し、私たちが87年体制と呼んだように、2013年体制という望ましい、新たな体制を建設しようという提案でしたが、総選と大選ともに敗北して失敗しました。しかし、87年体制を通じて平和的・水平的な政権交代を経験して、彼らも気づいたことがありました。このままでは我々はごまかし続けられないじゃないかという認識が生じ、チャンビで“新種クーデター”ないし“漸進クーデター”と呼ぶ出来事が展開されました(李南周「歴史クーデターではなく、新種クーデター局面だ」『創作と批評』2015年冬号「はじめに」;李南周「守旧の“逆戻り戦略”と市民社会の“大転換”企画」『創作と批評』2016年春号を参照)。李明博に次いで朴槿恵が就任し、漸進クーデターに該当する作業が続けられ、結局は崔順実の国政壟断が知れ渡り、2016年に私たち民衆が爆発したじゃないですか。2017年に政権交代が達成されましたが、87年憲法を支えていた社会体制はほぼ崩壊した状態であるため、時限が尽きたと思いました。
今回、尹錫悦の内乱を収拾する過程を見ても87年体制が作動しなかったなと思いました。まず尹錫悦が大統領直選制と水平的な政権交代を不可能にしようと親衛クーデターを起こしたじゃないですか。そして、87年体制の付随的な成果といえるか、この時新たにつくられた制度が憲法裁判所です。司法府も軍事政権でのように、検察や安企部が望む通りの判決を下すのではなく、独立した司法府をつくろうとしたので、実際に司法府もはるかに司法府らしくなり、憲法裁判所は2017年朴槿恵の弾劾審判で試験台に上がり、その試験をうまく通過しました。しかし、今回の内乱事態で見れば、87年体制の産物である憲法裁判所も故障してしまったようです。結局は8対0の判決を下しましたが、国民が願うような上出来の試験結果ではなかったですね。人々がどれほどやきもきしたか。その上、今度は最高裁がやることを見たら、司法府が完全に87年以前に戻ったんじゃないかという感じさえします。
87年体制が時効を迎えたのを早い時点でとらえれば盧武鉉政権の末期からですが、ではその時から今までは何なのかという問題があります。西洋史にインテレグナム(interregnum)という概念がありますね。王が死んだのに、次の王が即位できない時の空白期、空白時代とも言いますが、そういう時期が少なくとも朴槿恵退陣後に始まったようです。今ようやく空位時代を終わらせて2013年に達成しようとした夢を2025年に実現しようという思いです。
李:お話のように、分断体制が作動して大転換を制約する要因になりますが、それでも87年体制内の変化の動力をうまく活用すれば、分断体制の克服へと進めると考えていたようです。しかし、キャンドル大抗争を経て守旧勢力の態度と状況が大きく変わりました。すでに朴槿恵政権の時から漸進クーデターをはじめ、87年体制を崩壊させようという試みがありましたが、2016~17年のキャンドル大抗争を通じて守旧・既得権勢力は、87年体制をこれ以上自分たちに有利な方向へと引っ張っていけないという点をより明確に認識するようになりました。主導権を失わないために、より極端な発想に執着するようになったようです、
白:87年体制を完全に崩壊させてさらに悪い体制をつくろうとする企画でした。それを私たち国民が2016~17年のキャンドル大抗争に決起して防いだのです。新たな政府はその熱望を受けとめ、87年体制より良い体制をつくるべきだったのにうまくできませんでした。そうしているうち、尹錫悦政権の登場という変則的な事態が展開されました。
李:今回の内乱に至るまでの過程を見ると、あいつらは87年体制内でだんだん揺らいで弱体化していく分断体制の構造を蘇らせようというプロジェクトを試みたようです。私はそうした企画を「分断体制の再強化の企画」と説明したことがありますが(「文明転換時代、韓国をいかに思惟するべきか」『創作と批評』2023年秋号)、南北関係を後退させたのも、分断体制の再強化を通じて既得権を再び強化しようとしたんだと思います。米・中戦略競争と新冷戦構図が新たな機会を与えるだろうと判断したのに、それが思ったようにならず内乱まで起こしたんです。今は分断体制を活用する既得権勢力の意図が如実に表れた状態ですが、今後もそういう試みを放棄しないだろうと思っています。
白:内乱勢力がまだ完全に放棄していないという点は、あちこちに表れています。しかし、李南周主幹が分断体制の再強化プロジェクトを語る時、そうした企画は「うまくいかないだろう」と指摘したじゃありませんか。私はその時もそれに同意しましたし、今はうまくいかないということがほぼ立証されたと思います。新冷戦の構図だけを見ても、朝・中・ロと韓・米・日の関係は国際秩序のすべてではありません。ほかのプレイヤーがとにかく多い上に、特に中国と米国の関係が冷戦時代の米・ソ関係のようにはなれないと思います。あの時は米・ソ間に経済的な交流はなかったし、二つの陣営が対立していても互いに既得権をある程度認めあう構図でした。今日、朝・中・ロと韓・米・日はそうした両立の構図ではありません。中国の戦略は新冷戦構図で米国を圧倒するものではなく、ブリックス(BRICS、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ共和国など新興経済国の協力機構)や東南アジアとの関係を緊密にして米国の一極体制を多極体制に代えようというものですが、それがある程度成功しているので、国際的な新冷戦構図の形成が難しくなりました。その上、新冷戦構図で最も弱い環はやはり韓国ですが、韓国の民衆が昔のように冷戦体制に基づく独裁政権の成立を許しません。2025年体制が、世界体制の中でどういう位相をもつようになるかは、もう少し見なければなりませんが、米国が主人の役割をして日本が番頭役をし、韓国が小間使いの役割の三者構図が、今回の“光の革命”で崩壊したのです。ですから、分断体制の再強化の努力がうまくいかなかったと言っても無理はないと思います。
また、南北対決の強化と分断体制の再強化は区別する必要があります。分断体制は南北対決だけではなく、様々な要因が合わさっていますが、分断体制が固定化した時期は北も核開発をせず、双方の体制が比較的安定していた時でもありました。今は南北対決を強化して双方の体制が安定し、分断体制も再び強化されるという時期ではないと思います。むしろ、南北対決が強化されるほど朝鮮半島と東北アジアのリスクがはるかに高まるため、私たちが南北対決を緩和することは東北アジアや世界の安定にも寄与するだろうと思います。
李:先生がおっしゃる通り、新冷戦が構造化する可能性は特にないという展望が、最近はより優勢です。むしろ今の世界秩序では、既存の強大国がはるかに大きな不安要素であるために、G0(Gゼロ)やG―(Gマイナス)という言葉まで出ています。国内的次元と朝鮮半島の次元で、そして世界的次元でも空位の時代といえるし、不確実性が高まっていますが、世界の新たな変化においても、韓国の役割が非常に大きくなったという点を考える必要があります。
白:世界体制の次元でも、空位の時代というご指摘は正しいです。世界体制が安定的な時は大体覇権国家が力を失えば、新しい覇権国家が登場します。第二次世界大戦がそうしたケースですが、ドイツと米国が英国の空席を占めようと争って米国が勝利し、覇権国家になりました。ある人々は今や米国が没落して中国が覇権国家になるだろうと言います。以前は日本だと述べた人がいましたね。これは中国や日本への過大評価でもありますが、とにかく新たな覇権国家が登場して世界秩序を再建できるという判断です。でも今は、資本主義世界体制が末期の局面に来ており、それが終われば、次に何が来るか、前方が見えない空位の時代とみなければならず、新・旧覇権国の通常の“勢力転移”が不可能な時期です。こうした時代には、一般市民を含む個別主体の影響力が一層大きくなります。ですから、私たちが朝鮮半島で2025年体制をつくれば世界的にも大きな役割を果たし、ビジョンを提示できるんじゃないかと思います。
変化の動力を率いる“変革的中道”
李:今年、先生が「“変革的中道”の時が来た」というタイトルの新年コラムを書かれ(チャンビ週刊論評および白楽晴ТV、2024年12月30日)、補論をつけ加えた同じタイトルの文章を本誌春号にも掲載しました。体制の持続不可能性に焦点を当てるのではなく、現時点で大転換の可能性とこのためにもつべき態度に力点を置く文章だと理解しました。私は二点が重要だと思いました。まず政界でもちょうど李在明候補が共に民主党の理念を“中道保守”と規定したことに対する論争がありましたが、中道という点を強調するというところに落ち着きました。過去の政界で、いわゆるサクラ(朴正熙政権後、“変節者”“内通者”などの意味で政界では流行。牛肉だと思ったら馬肉、サクラ肉だったという逸話に由来するという説あり:編集者)と見なされた“中道”が政界の真摯な話頭として論議されたのは意味があると思います。変化に対する私たちの志向を西欧の進歩/保守という枠で説明しがたいという認識もかなり広がったと思いますが、これは変革的中道論でも強調し続けてきた点です。ただ、「適当な改革をすればいいんじゃないか」という調子の慣習的な中道論議に流れると、そうした改革も難しくなるリスクがあります。変革的中道は韓国社会、そして朝鮮半島のレベルで転換を志向すべきであり、その核心課題である分断体制の克服を追求すべきであり、そうしてこそ各時期に必要な改革課題も効果的に完遂できるという点を明らかにする理念です。同時に、変革のためには中道が必要です。この間、変革と中道は互いに矛盾するんじゃないかという形式論理にとらわれた見方もありましたが、今は変革のために中道的な道が必要だという点に認識が集中しており、現実的な意味はさらに大きくなったと思います。
第二に、「変革的中道の時が来た」という言葉で重要なのは、「時が来た」という認識だと思います。単純な方向の提示ではなく、今私たちが大転換をつくりだしていけるという重要な分岐点にあり、具体的な成果をつくりだすべきであり、このための勉強が切実な時点であるという意味ですね。変化に対する期待とともに時代的課題に対する切実さ、切迫感が込められているのではないかと解釈しました。
白:そうです。私たちが変革的中道を実現できる機会がある程度開かれたのは2016~17年のキャンドル大抗争の時です。私はキャンドル大抗争がキャンドル革命というもっと長期的に持続する事件の出発点だと思います。あの時のキャンドル市民は変革的中道という概念を使いませんでしたが、古い理念にとらわれていた政治は止めにし、変革的中道らしい、新たな政治を始めるべきだという熱望があったと思います。文在寅政権は完全に失敗したわけではないが、その熱望にきちんと応えられなくて尹錫悦政権が出現しました。そうした失敗が再び繰り返されたらどうしようという心配と切迫感があるのは当然です。しかし今は、私たち国民が文政権の失敗に対する様々な苦悩と反省をしただろうし、李在明の民主党も覚悟がかなりできていると思います。当初は反尹錫悦政権の闘争が力を得られずにいたのも、国民が一生懸命に頑張って政権を変えてもまた失敗したらどうしようという考えがあったからです。ところが今は、変革的中道をしっかりやらなければ、どんなザマになるかという点がより明確になってきました。そういう次元で、私は尹錫悦を天が送った人だと主張したこともあります(笑)。
李在明が民主党のアイデンティティを中道保守と語ったのは、国民の力に不意の一撃を与えたんです。お前らが保守を詐称しているんで、何が保守だ、むしろ俺が保守を名乗ってやると言ったのであり、相手側は強く反発したじゃないですか。ある人たちは、李在明の中道保守の主張を「空き巣」とも言いましたね。保守の看板を掲げて守旧ザタを働いていた連中が、内乱に加担しようと家を空けてしまったので、その空き家に入ってそれなりに使えそうなものを取りまとめて出てきたというんです。その後、李在明候補は民主党の性格を中道と規定しました。元来、民主党は中道政党ですから、必要な時には保守にもなるし、進歩にもなるわけです。変革的中道という言葉は使いませんが、李候補の看板公約が「モクサ(食べる)ニズム」を基盤にした「チャールサ(よく暮らす)ニズム」じゃないですか。「チャールサニズム」というのを、彼はすべての人がともに良く暮らす大同の世の中と規定したりしました。彼がチャンビの変革的中道論をどれだけ意識しているかはわかりませんが、彼の中道論には変革的中道論が相当含まれているか、少なくとも相通ずる点があると思います。
李:変化に対する熱望と期待が失敗に向かったのは、第一次としては朴槿恵が当選した2012年で、第二次は――先生がおっしゃったように完全な失敗ではありませんが――文在寅政権の時期です。2017年に文在寅政権が発足し、2018年に朝鮮半島平和プロセスが進められ、変革的中道に符合する変化の可能性に対する期待が高まりました。しかし、守旧派の抵抗もそれだけに一層激しくなりました。外部的には米国のネオコン(ジョージ・ブッシュ政権後、米国内で強化されてきた新保守主義)勢力を引き込み、内部的には検察・言論などの守旧既得権層を全面的に動員しながら、変化の流れを妨げました。尹錫悦政権期には守旧派の真面目を表わす過程でもありました。統治のための最小限の倫理と能力もなく、ヘイト感情を動員して自分らの既得権だけを守ろうとしましたが、その頂点が内乱事態でした。私は守旧派が選挙で勝とうとする発想で尹錫悦を選択したことで自ら墓穴を掘る結果につながったと考えており、今や韓国民は守旧と保守を区分すべきだという点を明確に認識するようになったと思います。単純に保守と説明してはダメな集団が私たちを統治して既得権を享受してきたという、この認識をより明確にする努力も必要です。
白:私は前から今の国民の力、またその前身である党に対して「保守政党」という言葉を使いませんでした。朝鮮・中央・東亜日報の新聞に対しても、保守言論と呼ぶことに反対します。守旧言論であり、朝鮮日報の場合はただの「チラシ」レベルであることも多いでしょ。保守と守旧を区分しなければならないという認識が、今になって確実になりましたが、実際は前々から韓国社会が学ぶべきだった教訓であると思います。
李:私たちが変革的中道をどのように実現していくかという時、民主党が変化のための強い政治プラットフォームになったという点も注目されます。2016~17年のキャンドル大抗争の時、広場に出現した多様な声を変化の動力に集めるのには、実は、少なからぬ困難がありました。あの声を政策化して実行させる過程において混乱し、脆弱な点がありました。当時の市民社会で民主党の役割を見下す傾向も強かったし、民主党もやはり政治既得権に安住する傾向が強くなっていました。今は民主党がより中道的な役割を果たせる状況になったと思います。言い換えれば、それだけ民主党の責任が大きくなったという意味ですが、与えられた役割をうまく果たせるかは残された問題ですが、変化の動力が強化されたという点では肯定的な土台が整備されたようです。
白:変化の動力を韓国民がどれほど成長し、民主党がどれほど変化したのかという側面から見ることもできますが、私たちに与えられた課題とは何であり、私たちがそれをどれほど明確に意識しているかによっても動力に違いが生じるでしょう。尹錫悦政権が国を総体的に破壊したために、これを担うことは国民としても、党としても、また次期大統領としても簡単な問題ではありません。文在寅政権も壊れた国を再建しようという考えで発足しましたが、そうしようとすれば、いわゆる積弊清算をしないわけにはいきませんでした。それでは、積弊清算を誰がするのか、という問題があったのですが、それを尹錫悦のような政治検事らに任せようとしたことに第一の問題点が生じ、もう一つは積弊清算という概念自体が、実は非常に曖昧模糊としたものです。韓国に積弊でないものがどれだけありますか?不幸中の幸いにも、今“積弊清算”はスローガンではありません。内乱勢力の清算と膺懲問題は法律的にも非常に明確であり、政治検事集団を引き込む必要もなく、公捜処(高位公職者犯罪捜査庁)の権限を強化してまともな人々で特別検察をすべきです。内乱勢力に該当する人々だけを処罰しても膨大な積弊清算が自然になされるのです。この課題は名分が明らかで、国民が誰でも同意できる事案です。今李在明候補が民主党の選挙対策委員会(以下、選対委)をビッグテントで構成したことについて、言論では大体“中道拡張”と言い、悪く思う人々は右派との妥協と言います。しかし私は、基準がはっきりしていると思います。内乱勢力を清算しなければならない、尹錫悦の内乱に絶対同意しないという人々が集まったのです。そうした力と大統領がもつようになる権限を通じ、内乱勢力を清算して膺懲すれば、そこから自然に新しい動力を再び創りだしていけるだろうと思います。
李:今回の戒厳令事態は放送中継もされて全国民が見守りました。お話のように、明確な基準の中で内乱を処罰して克服していくならば、変化のための良き動力をさらに強化できるだろうと思います。
2025年体制建設の核心課題、民生と朝鮮半島の平和
李:2025年体制の内容をどのようにもり込むか、社会的・政治的・経済的にどのように具体化すべきかを話しあいたいと思います。最近の客観的な環境は本当に難しいです。国際秩序の不確実性が高く、南北関係と経済問題も負担が大きいです。議題の一つ一つが短期間では解決しがたいものであり、新政府の発足前にどういうことから始め、どこまで達成すべきかを点検してみたらと思います。何よりも民生問題に対する積極的な対応が必要です。庶民と中産層の生活が苦しくなっており、経済成長率もかなり深刻です。内乱事態によって経済がさらに悪化しましたが、実は、尹錫悦政権下ではずっとよくありませんでした。昨年第二分期にマイナス成長(-0.2%)し、第三分期と第四分期も0.1%しか成長しませんでした。2025年の経済成長率の展望も明るくありません。韓国銀行が昨年下半期には1.9%の成長を予想しましたが、去る2月に1.5%に下向させました。IМFも同様に下方調整し(2%→1%)、1%以下にさらに低めようという見解も多いです。実際、今年第一分期の韓国の経済成長率は-0.2%でした。この2年間尹錫悦政権の税収欠損も本当に深刻でした。「保守は経済をうまくやる」という通念がどれほど間違っていたかを確認し、この点は今後も強調すべき部分です。新政権が発足する時に経済はすでに崩壊した状況という点を明確に共有する必要があり、財政支出を拡大して景気の下降圧力に対応しなければなりません。最近、13.8兆ウォン規模の補正予算を出しましたが、現在の非常事態に対応するにはあまりにも少ないです。選挙中から財政支出の拡大が必要だということを明らかにして政権発足後の混乱を小さくする必要があると思います。
白:選挙中から李在明候補は二つのことをはっきりと語っているようです。一つは、食べていけるようにしなければならない、財政支出を拡大すべきだという話です。もちろん、対外的な条件が不利で、韓国財政もひどく劣悪ですが、大統領になれば、緊急財政命令の発動も可能です。もう一つは、内乱の清算です。内乱清算を掲げて選挙に圧勝すれば、英語でマンデイト(命令・権限付与)という「民心の命令」がガツンと下されるので、次はそれこそ本人の能力に関わる問題です。保守は経済が得意だ、という神話は完全に崩れ、この間私は李在明候補を数多くのユーチューブ資料などあれこれ観察しながら、あの人は他のことはわからなくとも、民生改善に関してはうまくやるだろうという確信を得ました。経験も豊富ですし。一人の力ですべて解決できる状況ではありませんが、誰よりもうまくやるだろうという一種の信頼があります。この二つ以外に、李在明候補がもう一つ語っているのが、朝鮮半島の平和です。この点が大変重要ですが、平和と民生が共に進んでこそ、意味があります。人々が飢え死にしているのに、自分だけ平和を云々する尊大なお言葉を発しても空虚になるだけです。かといって、民生だけ一生懸命にやっても朝鮮半島の平和が改善しなければ限界があります。南北関係がまともだった時は、南北の経済協力こそ、朝鮮半島経済のブルー・オーシャンという話もありましたが、そのような春が再来するのは簡単ではないでしょう。しかし、今のような真冬の状況をまずは乗り越えるだけでも確実に変わるだろうと思います。
李:変革的中道論でも、民生をはじめとした国内の改革課題をきちんと実現して力を集めることで朝鮮半島の平和を同時に解決していかなければならないという点を強調し続けてきました。中期的な観点で2025年体制の成功のレベルも朝鮮半島の平和のための作業がどれほど進展するのかによって決まるだろうと思います。客観的な状況が厳しくなっても放棄できない課題です。李在明候補が大統領選挙の候補受諾演説(2025年4月27日)で、「開闢のような変化」を語ったのが、そうした夢を込めたのではないかと思います。文在寅政権時代の朝鮮半島平和プロセスに言及し、選対委内部に平和繁栄委員会を構成したのも、その意志を示したものです。ただ、その演説で国の建設の具体的な議題について話す時は、平和の話がなく「安保強国」の話をしました。責任ある大統領ならば、国民の安保不安と心配を解消させる義務がありますが、私たちのような分断構造の中で安保の話を前面に押し立てれば、分断体制に頼って生きてきた人々の既得権を再び強化する結果を招くこともあると思います。私たちが直面する安保問題の性格とはどういうものなのか、 どの程度危険なのかという点を具体的に考察して、安保政策の目標をより具体的に説明してこそ、朝鮮半島平和プロセスのような作業を引き継いでいけるんじゃないかと思います。おそらく内乱の克服過程でより明白に解明されるでしょうが、尹錫悦政権から北側にドローンを飛ばして衝突を誘導するという状況がありましたが、新政権下でも朝鮮半島の平和政策と流れを妨害する連中の行動はいつでも再登場しうるだろうと思います。何か理念のためではなく、2025年体制の建設という次元で、現時点から分断体制克服の意志がもう少し明瞭に表現される必要があります。
白:前回の大選直後、私たちは大選に負けましたが、李在明という傑出した政治指導者を取り戻したという話をしました(「オ・ヨンホが問う」白楽晴教授、李在明を再び評価する「金大中以後、最高の政治指導者を千辛万苦の末に一人を取り戻した」オーマイТV2022年3月19日)。今後への期待が加味された発言でもあり、敗北した国民を慰めようという意図もありました。だが、あの時点ですでにそうした判断を私なりにしたものですが、今の李在明候補はあの時ともまた違う指導者になったし、民主党を掌握する過程や昨年の総選挙を勝利に導く過程を見ても、ある程度立証されたと思います。私は李在明候補が基本的に知るべきことは何でも知っている人だと思います。大統領になればまた違う、ありとあらゆる圧力と条件に縛られるようになるので、どうするのかは見守るしかないですが、私たちの時代にあれほどの指導者が国民の圧倒的な支持を得る大選候補として出てきたのはとても幸せだと思います。
もちろん、市民が彼に盲従するのではなく、分断体制の克服に対する意志を固めて勉強し、意見を表明することが重要です。分断体制の克服に対する韓国民の意志が弱体化したという見方については、私は事実ではないと思います。「我らの願いは統一」と叫んでいたような関心が薄れたのは事実ですが、いつでも守旧勢力が南北問題を起こして国内で改革的なことをしようとすれば(それが南北関係とは関連がないとしても)、いつも親北左派だの反国家勢力だのと圧迫する世の中では生きられない、このままではダメだというハッキリとした意志と決心があると思います。次に、朝鮮半島情勢が現在難しいのは事実ですが、それも誇張されて皮相的な判断といえます。むしろ、よくなった面を指して大変だ、ひどく難しくなったと即断するケースもあるのではないかと思います。その一つが、北の核問題です。尹錫悦政権の以前までは、北側が核問題に対して両面的な戦略をもっていました。物理学者として北の核問題に現場経験が豊富なヘッカー(S. Hecker)博士の本(『核の分岐点』チャンビ、2023年)にも詳しく出てきますが、米国との関係がうまく進めば、核を放棄するだろうが、うまくいかない場合に備えて引き続き準備して核強国の道を行こうという二元的な戦略でした。現在はそうした戦略を放棄したと思います。今は核強国として確実な位相を確保しようという立場です。ところで、トランプが北を「ニュークリア・パワー(核保有国)」と呼んだじゃないですか。北の評価額が上昇し、その評価額通りに支払う用意があるというのをほのめかしたわけです。元来、朝鮮半島の非核化というのは南北朝鮮全体の非核化を意味しますが、この間北の非核化だけに集中し、お前らが核を放棄すれば制裁を解いてやるという調子で接近して解決しなかったのです。今は、北が核保有国であるという現実を認め、だから今後はもうつくらずに朝鮮半島全体を非核地帯にしていこうという話を真摯にもちだす時点が来ました。トランプがそこまで行くかどうかはわかりませんが、基本的な条件はそろいましたね。
李:一角では、北が敵対的な国家論まで持ちだしているので、南北関係はうまくいくのかという疑いも少なくありません。
白:最近、北が統一の話は止めにしよう、国家対国家で行こうというので(2023年末から北が提起した“二つの国家論”――編集者)、多くの人々がびっくりしました。もちろん、北が南北関係を「敵対的な二国家」、主敵関係と規定するのは問題です。ですが、敵対的なものといえば、尹錫悦政権が何倍もひどいです。今回の内乱事態で見れば、政府が北を挑発しようと白翎島で射撃訓練をしましたが(2018年の9・19南北軍事合意を破り、2024年6月から西北島嶼で4回にわたって海上射撃訓練を行う――編集者)、北は一切対応せず、汚物風船を送るのも止めました。内乱勢力の意図をすべて読んだのでしょう。今、北が私たちとの接触をすべて絶っているのは問題ですが、国家対国家で付きあおうというのは以前から南側の立場でした。国家対国家であるが、長期的に統一を志向しようというので、普通の隣国とは違うというものです。この間、南の政府で南北連合方案をどれほど検討してきたかは知らずとも、チャンビの誌面ではずっと南北連合の建設を主張してきたし、それは盧泰愚大統領以来、大韓民国の一貫した方針でもあります。南北連合は、南という国家と北という国家の連合です。それで、北が国家対国家の関係を宣言したのは喜ばしいことと受け入れるべきことのようです。
統一政策を廃棄するという宣言も、異なって考える必要があります。「私たち民族同士力を合わせて自主的に統一しよう」というのは6・15南北共同宣言第1項の原論的な宣言です。統一方案は第2項に出てきますが、「南側の連合制案と北側の低い段階の連邦制案に互いに共通性があると認める」というのです。この間、北は第2項の話は特にせず、第1項の話ばかりしました。統一至上主義としても現実性のないものでしたが、実は、北内部の統治イデオロギーという面が大きいと思います。わが朝鮮民主主義人民共和国の民衆がなぜこのように生きられないか、統一すればよく暮らせるのに、南側の親米事大主義者と米帝国主義者が自主的な民族統一を拒否しているという主張です。今、北でそうした統治イデオロギーとしての統一論は必要なく、我々は我々なりに核をもった強国になってよく暮らそうというのも、ある意味では進展だと思います。ただ、その過程で“大韓民国の輩”とは付きあわないという場合、“大韓民国の輩”が尹錫悦一党ならつき合わないというならいいですが、尹錫悦を追い出した私たち国民とか、次の政権に対してもそう語るのかは見守るべきです。最初しばらくはそうだとしても変わるだろうと思います。
李:私も新政府発足初期の北の反応が重要だとは思っていません。文在寅政権の時期も、2017年には南北関係はそうよくはありませんでした。北が核実験を追加で進めたし、11月ICBМ(大陸間弾道ミサイル)を発射しました。ですが、平昌冬季オリンピックを契機に対話が始まり、トランプ大統領も参加して朝鮮半島平和プロセスが実現しました。南北関係をどのように解きほぐすのか、新政府が持続的に、一貫した信号を発することが重要です。南北関係はいつも不確実性が高い領域ですが、状況の変化にあまり引きずられるべきではなく、突発的な事態にもあまり過敏な反応をすべきではありません。そうすれば、北もより強く出てくるでしょうから。政権初期から神経を集中してうまく管理すべきじゃないかと思います。
具体的な政策では、二つ程度が至急だと思われます。まず遅くとも来年まで は敵対性を緩和させ、対話の雰囲気をつくるべきですが、そうしようとすれば象徴的にも首脳会談の開催が必要です。第二に、協力・交流をすべきです。対北制裁問題があって簡単ではないと文在寅政権の時も越えられなかった部分ですが、新政府が準備をうまくやればと思います。北との交流については、バラまきという批判がいつも出ますが、今は北もそういう方式を願いません。トランプが北に投資しようというのも、互いにウィンウィンできるビジネスがあるという意味であり、やはり私たちもそういうアイテムをもって協力していけば南北協力に対する一部の否定的な認識も克服できるようです。
白:至急課題は9・19軍事合意を復元することです。私たちがまず合意を破りましたが、危険な国境線を間にもつ国家としては絶対に必要な装置です。これは統一に関連した問題でもないので、優先的に回復できると思います。合意を破って北にドローンを飛ばし、射撃訓練までしたのは尹錫悦政府であり、民間団体が米国の北朝鮮人権運動家から資金をもらって対北ビラを散布することも続けました。政府あるいは政府レベルで支援してきた民間団体がしてきた敵対行為を中断すべきであり、それは比較的簡単なことです。
市民参加型改憲の道を切り開くべき
李:来年でキャンドル革命10年になります。特に、今回の内乱克服の過程でK民主主義が非常に注目されて意味も大きくなりました。2016~17年のキャンドル大抗争の時も、西欧ではこれを民主主義の進展と拡大評価するより、正常な政治過程に対する攪乱とか、政治的な不安定性とみる見解が少なくなかったようです。しかし今は、西欧民主主義が大きな危機に直面しており、自分たちの問題を解決する方法もない状況です。韓国が市民の力で秩序整然と内乱を鎮圧して民主主義の後退を防ぐ姿を示し、K民主主義に対する肯定的な評価がかなり高まったと思います。単に外部の評価でなく、実際の内容でも代議制民主主義の限界を克服しつつあります。西欧の代議制民主主義は、ある面では進んだ秩序ですが、最近20~30年間は既得権に取り込まれる問題が大きくなりました。私たちが民主主義の新しい地平を切り開いていく姿が、先生がずっとおっしゃって私たちも強調してきた「開闢」に値する変化だと思います。
白:李主幹が『創作と批評』春号に金大中思想に対する文章(「金大中思想とK民主主義」)を発表しましたね。あの文章で、1994年金大中と当時のシンガポール首相のリー・クアンユー(李光耀)との論争を評した個所があります。自らの独裁を擁護するために「西欧とは異なるアジア的価値」に言及したリー首相と金大中の間のこの論争に対し、よく金大中は西欧的な民主主義の概念を擁護したと評価されてきました。ところが、李主幹は金大中先生が東学以来の韓国民主主義の歴史――それこそがK民主主義ですね――を認識しており、民主主義というものは必ずしも西欧のものではなく、民主主義をアジア的な価値に反すると考えるのは間違いだと指摘した点を明示しました。そこにとても共感しました。K民主主義というものは、必ずしも2016年に始まったのではなく、連綿たる伝統をもつ流れです。それが21世紀になって花が開き始めたのです。ところで、私たちが2025年体制をつくろうとすれば、制度上のレベルでは改憲問題が重要です。改憲について、どう考えますか。
李:改憲はかなり重要な課題です。ただ、改憲論議はいつも政治的に汚染される可能性が高く、最近は一層その可能性が高くなりました。例えば選挙日に改憲投票も一緒にしようという主張は、政治的な意図が反映されていますね。権力構造の改編が必要だという話も同様です。権力構造の問題を前面に立てて改憲を語る人々が、実際には選挙法の改定は語らないので、権力の分け前にあずかることになりがちです。いずれも政治的に不純な意図による改憲論だと言えます。そして、一回の改憲にあまりにも多くの内容をつめ込もうとする市民社会の傾向も問題です。
これに関連して、最近先生が明瞭に説明された内容を見ました。「市民議会全国フォーラム」の創立大会(2025年3月29日)の激励の辞を通じ、「2ポイント改憲」という具体的な見解を提示されましたね。「一つのポイントは、憲法の前文であれ、本文であれ、国会の同意を得やすい条項を選んで(改憲のための:引用者)院内動力を確保することであり、もう一つは“改憲しやすい国”をつくること」とおっしゃいました。特に二番目のポイントが重要で、全面的に同意します。ただ、最初のポイントについては、先生のお話をもう少し聞きたいと思います。どういう内容が院内の動力を引き出せるのか、改憲を簡単にする手続に同意させようとすれば、どうすべきか気になります。
白:改憲を簡単にする憲法の改定自体も200議席以上が必要ですが、その議席を確保できるのか、疑問といえます。それで、第一のポイントとして200議席以上が簡単に同意できるだけの改定条項を一つ入れ、一括方式で改憲の修正手続もやり遂げようとしたのです。重要なのは第二のポイントであり、最初のポイントの条項が何なのかではありません。例えば、内乱勢力に対する処罰がある程度なされた後、5・18精神を憲法前文に入れようとすれば、前に国民の力党も主張したことなので、大した反対なしにできるでしょう。大統領の権限を多少縮小する条項もそうですね。さて、ここで第二のポイント、国会で200議席以上が賛成してこそ国民投票をすることになる現在の改憲条件を緩和して他の通路を兼ねて改憲しやすい国にしようとしたなら、既得権勢力の反対が強く、甚だしくは民主党の内部でも異論が生じるでしょう。議員の既得権を侵害することと考えるからです。
もちろん、87年憲法をつくった後に昔のように権力者が自らの権力を拡大するために改憲に専念することを許してこなかったということ、それで87年憲法が40年近く持続してきたのは韓国民の誇りです。しかし、改憲するのがこのように難しい国はいい国ではありません。代表的に米国は改憲が非常に難しいです。大統領の間接選挙制度をはじめ様々な問題が多いですが、手をつけられないでいて、今後も変えるのは簡単ではないでしょう。米国は改憲しようとすれば、まず上・下院で3分の2以上の賛成で通過した後、4分の3以上の州で批准しなければなりません。ですから、議会で通過しても州で批准されるまで何年も待っていて発効される場合もありますが(例えば、議員給与と関連した修正憲法第27条は1789年に発議された後、1992年に批准されるまで203年がかかっており、性平等権条項は1972年発議されて以来、持続的に批准運動が展開されてきている:編集者)、最近はそうした試みさえなくなりました。米国の改憲方式は国民投票でもありません。米国は元々、直接民主主義を行なわないと決意した国です。ですから、今日の米国はあのザマです。対照的に、直接民主主義を基本理念としているスイスは、国民自ら常時改憲発議をします。市民の間である程度合意し、勢力を形成して発議しますが、国民投票を通じて可決されることもあり、否決されることもあります。否決されたら、また次に発議すればいいんです。最近、市民議会をつくる人々がそうした事例研究をよくしているようですが、改憲発議すら大統領と国会が独占して改憲があまりにも難しいのは非民主的です。一定数以上の国民が賛同すれば発議でき、その次に議会で審議して票決できるように権限を与えるべきです。その場合は、必ずしも200議席であるべき必要もなく、定足数を少し減らすこともできます。どうせ国民投票に行くのだから、案件が単純なら国民の意志が正確に反映される可能性も高まります。
李:何しろ社会が早く変化しているので、その時々の市民的要求が憲法改定にうまく反映されるのは重要だと思います。社会的変化と市民の要求が憲法にうまく反映されてこそ、国家運営ももう少し円満に実現できるでしょう。
白:憲法は社会の変化が反映されてこそ、力を得るもので、市民多数の支持がない憲法は、ただ白い紙に黒い活字で印刷されたものにすぎません。今私たちには新しい憲法が必要です。87年憲法が作動していたのは、87年体制というもっと大きな社会体制の支えがあったのですが、空位時代という表現も使われたように、今はその基盤が消えて新しい憲法はまだないという状況です。国民も新しい憲法に対する欲求があり、いい改憲をすれば支援してくれるだろうと思います。ただ、一度の改憲で一挙にすべて実現しようという考えは捨てるべきで、大選前に改憲しようという話も水泡に帰しました。私はそういう話をする方のうち一部は机上での研究ばかりしているので現実感覚に乏しい場合があり、また一部は李主幹の話のように、不純な意図が内包されていたと思います。改憲は選挙過程でも論議されるでしょうが、急ぐ必要はないと思います。
さらに一つ付け加えれば、そのように改憲してつくる国を“第7共和国”と表現する人も多いです。これは知識人や学者の言語であって大衆の言語ではなく、よくない表現だと思います。第1~6共和国がそれぞれ何だったのか、記憶する人々が何人になるでしょうか。もちろん、“2025年体制”も知識人の言語であり、大衆の言語ではありません。でも、今年が2025年ということを知らない人はおらず、なぜ今年をこのように特別な年とみるのかということもみな知っています。2024年末以来の激変の過程を人々は実感しているので、2025年体制という表現がはるかに実感に近いんじゃないかと思います。
社会全体で善なる気運を起こすのが答
李:2025年体制で主になすべきことについて話を交わしたいので、重要だと思われる議題についてうかがってもいいでしょうか。
白:先ほど、私たちは正しい課題を設定すれば、そこから変化の動力が生じうると言いました。また、課題を実践する過程で動力がより大きくなりうることもあるでしょう。新しく出てきた問題ではありませんが、前よりも今はるかに切迫していると感じる課題中の一つが気候危機であり、もう一つは韓国社会内の男女葛藤問題です。女性に対する差別は昔からありましたが、女性差別と女性嫌悪が結びついた事態は比較的新しい現象です。何の理由もなく女性が殺されるとか、必ずしもそうした被害事件ではなくとも、様々な分野で男女間の立場の違いがあります。とりわけ、尹錫悦の内乱についても、少なくとも広場に出てきた群衆は女性がはるかに多かった。この問題をどう解きほぐすのか。とにかく、男女がともによく暮らし、そして平等に生きて平等に待遇される社会をつくるべきでしょう。そうしようと、女性も目標をそこに置くでしょう。男性と闘って戦闘に一つや二つ勝つにせよ、戦争に勝つわけではありません。私が「わが時代の大きな問題のうち一つは、ダメな男を量産していること」(『近代の二重課題と韓半島式国づくり』出版時の記者懇談会での発言、2021年11月23日)と言いましたが、ダメな男だと切り捨ててしまえばすむでしょうか。第一に、ダメな男が量産されるシステムは何かを知って、その数を減らすべきであり、また既に生産されたダメ男に対しても悪口を言うだけでは解決しませんね。私の話もバカにしようという話ではありません。なぜそういう量産現象が展開されるのかを分析すべきであり、どうしたらみんながもっといい暮らしができるのかをともに模索してみようというのです。よく若い男性がデモに出てこない理由は、彼らがゲームに熱中していると言います。私はゲームをする世代とはかけ離れていますが、ゲームは男性だけがするわけでもないし、ゲームも悪いわけではないし、ゲームもそれなりでしょう。聞くところでは、色々な偏見や嫌悪感を助長する悪性のゲームが本当に多いようです。どんなゲームが個人や社会により有益なゲームなのか、そういう研究は私よりもっと資格のある人がすべきでしょう。李南周主幹も私より若いですから、もう少し研究されたらいいようです(笑)。
李:新政権が発足すれば、また新しい雰囲気で話ができるだろうと思いますが、努力すべき課題です。社会的課題についてあまりにアイデンティティの衝突の話ばかりすると問題は解決されず、健全な論議も実現しがたいようです。
白:もちろん、規制すべきものは規制すべきです。性犯罪に対する処罰があまりにも軽いのは明らかです。しかし、処罰と規制だけでは解決ができない問題もあります。社会全体でいい気運をバーッと起こし、その気運で覆ってしまうべきで、キャンドル革命はそうしたものだと思います。今回は注目に値すべき現象がもっとあります。社会運動を語るのに労働運動を省くことはできませんが、この間民主労総(韓国民主労働組合総連盟)は国民の愛を受けられませんでした。しかし今回、反尹錫悦集会の両大動力の一つは民主党であり、もう一つは民主労総だったと言えます。そこに市民たち、特に女性が大勢参加しました。女性たちと既存の労働運動との間で連帯感が深まり、ある局面になると労組が愛されもしました。労働運動としても大きな機会なので、労働運動側でこの機会を賢く生かすべきであり、市民社会や政党もこの機会をうまく活用することが重要ではないかと思います。
“変革的中道”で書いていく新しい政治、新しい未来
李:次の政府が本当にうまくやれるか、どうしたらうまくやれるのかという話をしてみたいです。内乱勢力の抵抗も当分は続くでしょうし、客観的状況も決してただ事ではない状況で、次の政府の実行能力が重要だと思われます。私が見るには、今李在明候補に対する支持が高い理由も既得権とうまく闘いうるという期待はもちろん、実行能力に対する評価が高いからです。とはいえ、地方政府の責任者あるいは野圏指導者という位置と大統領の位置は少し違います。大統領としての李在明はどうだろうかに関心が集まらざるをえず、ではこの方がうまくやれることをうまくやれるようにし、もし少し足りない部分があれば補完していくのが政権発足の初期に重要なようです。現在民主党が国会の多数党という点がかなりいい条件ですが、大統領の決定は考慮すべき変数も多く、それによる責任もはるかに大きいです。その圧迫感に委縮すれば、政策決定がまともに達成できないとか、あまりに停滞するケースも生じうるでしょう。大統領になる前に自らが本当にやるべきこと、重要なことが何なのかに対する確固たる考えを整理することが必要だろうと思います。
白:そのことを、誰よりも李在明候補は準備していると思います。彼が大統領役として十分か否かは、その時になってみてわかることで、誰にもわからないでしょう。でも、私たち市民が支え続けてやり、知識人も古い言説を清算していくなら、李在明候補もより力を得るでしょう。李在明候補は思想や理念よりも実用を重視する実用主義を標榜しており、それは私が長い間変革的中道を話して強調してきたことと通じます。古い言語、古い理念、古い思想から脱却してより柔軟かつ具体的に考え、発言しようというんです。基本的に私たちは金大中以後で、彼ほど準備された大統領候補に出会ったことがないと思います。そして、金大中大統領に比べればどんなに条件がいいでしょうか。金大中大統領はDJP連合(1997年大選で実現した金大中の新政治国民会議と金鍾必の自由民主連合の連合)に加えて李仁済が独自出馬し、ようやく奇跡的に大統領になりました。李在明候補はそれなりに苦労も多かったし、生命の危険もありましたが、大統領として当選すれば、先ず票差からも大きいだろうし、国会もほぼ3分の2に迫る議席数をもっています。私は国会議員の母数も全体的に多少変化が生じると思うので、そうなると一層強力な位置に立てるでしょう。
李:先ほど先生も言及してくださいましたが、私が金大中思想を変革的中道として説明する文章を春号に載せましたが、実は、金大中大統領も”変革的中道”という表現を直接使ったことはありません。
白:それで、私はあの方を「シャイな変革的中道主義者」と呼んだことがあります(笑)。
李:金大中大統領は自らの理念をとても多様に説明しましたが、ある時には保守だと言い、ある時は進歩だと言い、後には中道という表現をもっと多く使いました。しかし時間が経ってみると、どういう表現を使おうと、堅持していた方向があったことが確実に読みとれます。変化が続く中でも生き残り、社会に対する自らの実践を率いていた力はそこから出てきたのかと思いあたりました。それで李在明候補もまた、その時々の自らの課題をうまく遂行していき、振り返れば、「ああ、この方はこういう方向で私たちを率いていくんだな」というものを創りだせると願います。そうしてこそ、政治的エネルギーが蓄積され、その度ごとに直面する困難に屈することなく、大きな志に向けて歩き続けていけるだろうと思います。
白:李主幹が李在明候補に対して愛情をもち、あれこれ心配される話をしましたが、金大中大統領の時を思うと、あの方に国民はあれこれ要求しても、政治的にコーチしようというケースはありませんでした。だから、李在明候補についてもあれこれコーチする考えはありません。私も盲目的に支持する人間ではなく、基本的に一定の信頼をもって「変革的中道の時が来た」と信じています。
李:このように新政府が始まる機会が生じたのはいい変化ですが、政府を率いるべき立場から見れば、政権引受委員会(以下、引受委)なしに発足するのはハンディキャップとして作用するようです。混乱を最小化するためには、政府の体系を備えることが実務的に重要だと思われます。発足初期に集中すべき議題をうまく実現させようとすれば、政府部署の改編も必要ですが、どのようにして新政府の発足が円満に実現できると思いますか。
白:引受委なしに出発するのは大きなハンディキャップでしょう。今後、こうした補欠選挙の状況に対する法律上の対策もあるべきでしょうね。新政府が至急なすべきことは、先ほどお話したように、民生の救済ですが、それについて李在明ほど切実に感じている人もないでしょう。補正予算を通じて財政づくりをし、もしかしたら緊急財政命令権でも発動すべきだと思います。選挙過程では、先ほどお話しましたが、内乱の完全終息を重要なイシューとして圧勝すれば、これは民心の命令になるので当然従うべきでしょう。いい人を特別検察に任命すべきです。文在寅政権が発足した後、組織の改編を完了するのに2カ月ほどかかったでしょう。今度の政権は引受委なしに執権する先例を見て学習効果があるので、当初からはるかにうまく準備するだろうし、議会の条件も有利なので、前のように2カ月はかからないだろうと思います。そして、いい人を選ぶべきです。内閣もそうですが、大統領府の秘書室長、政策室長、安保室長など、議会の手続きなしにすぐに任命できる人事は、忠誠心があって知恵もある人で構成すべきです。
李:実際、仕事がうまくできる人を選ぶべきだという点が重要ですが、その点は李在明候補も明確に認識しているようです。政府部署の場合、官僚をうまく掌握できるかですね。
白:私も李主幹も教授ですが、教授出身を無条件排除はしなくても、あまり多く起用しないのがいいでしょう(笑)。
李:内乱の清算過程でかなり包括的な動力がつくられていますが、この動力を政治的に作動させようとすれば、一種の連合政治の必要性もあるようです。西欧で制度的に連合政治が作動する場合は議院内閣制ですが、政党別に選挙を行った後、連合を通じて多数党をつくって総理を選出するので、自然に連合政府が構成される方式です。わが国の政治で連合政治の論議は大体選挙の前、選挙に勝つための方式として話されてきました。選挙連合を通じて大統領に選出された後、その延長線で連合政府が構成された代表的な例がDJP連合ですね。今選挙勝利の可能性が高く、議会も多数党である民主党としてはあえて連合政治の必要性を感じないかもしれません。しかし、包括的な動力を活用して実際に変化を作りだし、変化を通じてより多くの力を創りだしていくべき必要性があるんじゃないかと思います。
白:連合政治も87年体制を基準にして考えるとダメなようです。87年体制下で実現した連合政治の2つの成功した事例、一つはDJP連合で、もう一つは2010年統一地方選挙時の“希望と代案”活動です。当時、李明博政権が天安艦事件を発表し、世論を結集して地方選挙に大勝しようとしましたが、市民団体が主導して民主党・民主労働党などの連合を引き出して地方選挙に勝利しました。今も大選勝利のための連合政治がある程度作動していると思います。例えば先日の野党5党の共同宣言(共に民主党・祖国革新党・進歩党・基本所得党・社会民主党の「内乱終息、民主憲政守護の新しい大韓民国円卓会議」第1次宣言文2025年2月19日、および第2次宣言文2025年4月15日)もありました。第2次宣言文を見れば、多数連合の実現のために交渉団体の条件を緩和するなどの内容があります。それは必ずしも連立内閣へつながらなくとも重要な連合政治の宣言だと見ることができます。今回の民主党選対委の構成も連合政治と符合する面があります。もちろん、実際の執権後に適材適所に人をどのように選ぶかという問題は、その時にこそわかります。選対委に入って選挙勝利に寄与したからと我も彼も一席ずつくれと言えば、みんなにやる席はなく、反対に既存の民主党勢力が李在明を守って闘ってきたのは自分たちであり、権力を独占しようと争いが激しくなるでしょう。現実政治ではどうしようもない部分でもあり、次期大統領が適切に処理するだろうと信じます。
次の政権が発足した瞬間、韓国の政治地形は大きく変わるでしょう。すでに変わり始めました。憲法は変えるのに少し時間がかかるとしても、選挙法や政党法、国会法は比較的早く改定できるでしょう。連合政治を強調する人々も、87年体制の枠内でのみ思考するべきではなく、変化した地形の中で多党制をどのレベルまで行うか論議すべきです。例え民主党を中心に反内乱選挙が行われることについて、民主党は進歩ではないじゃないか、進歩連合を別につくる構想も可能ですが、それを余りにやってはダメでしょう。先ほど民主労総に対して市民の視線が変化した点や大衆集会の現場で彼らが愛を受けもした点を話しましたが、まだそれが汎国民的な認識には広がっていないでしょう。それなら、労働運動は労働運動で、国民は国民でさらに努力してこの連帯を育んでいかなければなりませんね。私たちが今回の“光の革命”に大きく寄与したのだから、権力をこれぐらいは分けてほしいという式に出れば、市民の視線は再び冷たくなるでしょう。だから、順序として見れば、やはり内乱勢力の清算が優先です。それをしながら、同時に政党法や選挙法などを改定し、現在の多党制がほとんど不可能なこの体制を変えなければなりません。最高裁裁判官の数だけではなく、国会議員の数も増やして多様性と民心比例性をはるかに高めた立法府をつくらなければなりません。その時以後、各自が自分の勢力をより順調に育てられるでしょう。願わくは、その勢力が変革的中道論に共感してくれればいいです。ある側では、「私たちは労働と進歩をより積極的に掲げる変革的中道だ」といい、またあるところでは「民主党はあまりに進歩的だ、私たちは本当の保守勢力が共感できる変革的中道のアジェンダに重きを置く」といって色々な党が分立すればいいですね。変革的中道の観点をもった勢力が全体的に大きくなって国民統合に役立ち、変革的中道が社会の主流言説になる時が来るのではないかと思います。
李:今日の話はただの希望だけはないようです。すでに次期政権のために良い条件が多様なレベルで準備されていると思います。候補に対する支持と国民的な熱望の次元が高まっていますからね。私たちがもう少ししっかりして力を集めれば、よい変化をつくりだせるだろうという実感をあらためてもちます。重要なお話を交わしてくださった先生に感謝します。
(2025年5月2日、チャンビ西橋ビルにて)
訳:青柳純一・青柳優子