[特集]変動する世界、外交・安保をどう改革するか / 金鍊鐵
〔特集〕世界秩序の変化と韓国の進む道
1. 変化する世界:多極化、複合性、予測不可能性
世界は変わった。それは情勢の変化ではなく構造の変化であり、一部の地域にとどまらず世界的な次元での変化である。旧秩序は崩壊したが、新たな秩序はまだ現れていない転換期は、戦争の時代でもある。旧ソ連の国境や中東をはじめとする地政学的な断層帯で繰り広げられる戦争は長期化しており、終戦や平和への出口は見えず、むしろ戦争の炎は広がりつつある。
朝鮮半島もまた地政学的な断層帯に位置する中立国である。朝鮮半島周辺の秩序における力関係が変化した際、私たちは地政学的な悲劇を経験した。これを繰り返さないためには、外交・安全保障分野における根本的な変革が必要である。李在明政権は、内乱を乗り越え、民主主義を願う市民の熱望によって出帆した。より良い世界を実現するためには、国内の構造改革と同様に、外交・安全保障の革新が重要である。内乱の最終的な克服は、安全保障の民主的な統制によって可能であり、対外依存度が高い私たちの現実を考慮すれば、外交が国内経済に及ぼす影響は相当なものである。
政権発足から1年は決して短い期間ではなく、改革の勢いが衰えていない時期である。外交・安保分野については肯定的な評価も少なくないが、制度改革は遅々として進まない。期待に反して失望が大きいという悲観論がある一方で、これまで経験したことのない朝鮮半島周辺の秩序の変化に対し、応援と激励が必要だという意見もある。市民の期待と構造的な現実の壁の間に、李在明政権の政治的能力が位置している。診断と代案を提示するためには、現在の秩序の変化を正確に読み解く必要がある。
過去と何が違うのか。第一に多極化である。戦後、アメリカが主導してきた自由主義的秩序は崩壊した。トランプ政権は2025年に発表した国家安全保障戦略(NSS)において、「アメリカがアトラスのように世界秩序全体を独力で支えていた時代は終わった」と宣言した1。これは「世界の警察」としての引退宣言であり、国際協力への貢献の中断を予告するものであり、多極化秩序の受容である。
多極化という概念は中国やロシアも頻繁に使用している。これはアメリカが主導する世界秩序に対する対抗的な言説である。2026年5月20日、米中首脳会談の直後に開かれた中ロ首脳会談で、両国は「多極化世界と新型の国際関係の形成に関する中ロ共同宣言」2を採択し、「平等で秩序ある多極世界」という表現を用いている。続いて6月、習近平国家主席が北朝鮮を訪問した際にも、『労働新聞』への寄稿文でこの表現を再び用いた3。多極化は、アメリカの役割の変化、朝鮮、中国、ロシア4による新たな三角協力、そして中堅国間の連帯によって加速化している。
第二にその複合性である。長きにわたり世界秩序を維持してきた制度や規範が一斉に崩れつつある。同盟に亀裂が生じ、戦線は流動的であり、自由貿易秩序は崩壊し、民主主義の危機が拡大している。まさに多層的で複合的な危機の時代と言わざるを得ない。
複合性はさまざまな領域で見られる。最近、同時に起きている数々の戦争がこれを裏付けているように、過去と未来が混在する時間の複合性、政治と軍事、経済と文化が衝突する領域の重層性、19世紀の地政学的な利害と21世紀の技術変化が結合した新たな様相が出現している。このような秩序変化の複合性を考慮すると、「新冷戦」という概念を適用することは難しい。多様な領域で複合的に絡み合っている利害関係の衝突を、新たな冷戦の始まりとして定型化することは困難だからである。
第三に予測不可能性である。多極化と複合性が相俟って生じた変化は流動的であり、予測が難しい。国際秩序は一瞬にして全く異なる性格へと変貌することはない。既存の秩序と新しい秩序が相当期間共存しながら徐々に新しい道へと分かれていく。分岐の過程で戦争が勃発し、様々な変数が衝突することで、予測困難な情勢が展開されている。
混沌の後の世界は、過去への回帰ではなく、かつて経験したことのない新たな混沌の到来を意味する。世界的な次元で紛争を管理し、終戦を仲介し、平和を定着させるための役割が見当たらない。トランプ現象は混沌の原因ではなく、自由貿易秩序の副作用である二極化が生み出した矛盾の結果である。アメリカの選挙による表面的な変化は期待されるものの、世界的な次元での二極化という深層の構造が変わらない限り、混沌は続くだろう。
もちろん、こうした混乱を管理しようとする試みもある。2026年5月に北京で開かれた米中首脳会談で、両国は「建設的な戦略的安定関係」に共感した。中国が説明した核心原則は「協力を中心とした積極的な安定」「競争を抑制した健全な安定」「意見の相違を管理・統制できる常時的な安定」、そして「平和を志向する持続可能な安定」である5。相互につながった世界の慣性と対立管理に関する共通認識に基づき、両大国は破局を未然に防ぎ、競争を管理しようとしている。しかし、対立管理は一時的なもので、戦略的競争は続くであろうし、当然ながら過去の協力の時代に戻ることは難しいだろう。
2. 戦略的自律性が必要
世の中が複雑で混沌としているほど柔軟でなければならない。東洋における「中庸」の知恵とは機械的な中立ではなく、山が現れれば高く飛び、雲が厚ければ低く飛ぶという、流動的なバランスである。世界的な多極化の秩序や、北東アジアレベルでの米中戦略競争において、戦略的自律性を確保しつつ柔軟な外交を展開することで、大韓民国の生存と繁栄を追求することができる。
戦略的自律性とは国家戦略を制限しうる外部からの制約を回避することである。アメリカがもはや世界の警察官ではなくなり、中国とロシアが新たな多極化秩序を築き、さまざまなレベルで中堅国間の連帯が試みられている局面において、戦略的自律性は最も重要な外交戦略である。
アメリカの伝統的な同盟国も、積極的に戦略的自律性を追求している。アメリカと欧州連合(EU)の間で大西洋同盟が直面している危機は一時的な現象ではない。表面的にはロシア・ウクライナ戦争(以下「ウクライナ戦争」)に対する意見の相違や、グリーンランドをめぐる対立が際立っているが、EUはすでにトランプ政権第1期から戦略的自律性を強調してきた。ただし、欧州連合は独自の代案秩序を構築できない状況の下で、協力を追求しつつ自律性を高めようとしている。
中堅国6にとって戦略的自律性は生存戦略である。ウクライナ戦争が勃発した際、インド、ブラジル、インドネシア、南アフリカ共和国はロシアに対する制裁に参加しなかった。これは機会主義や道徳性の欠如ではなく、大国間の紛争に巻き込まれて損害を被らないようにするというヘッジング(hedging)、すなわちリスク回避戦略である。このように、どちらかの側に明確に立つことなく戦略的に距離を保つ国を「柵の上に座る国」と呼ぶことができる7。
長きにわたり大国間の覇権争いの舞台となってきた地政学的な中間国8も、実用的な外交戦略を展開している。国力の変動により勢力均衡は常に変化しており、中間国にとってはどちらか一方に偏るよりも柔軟であるほど利益になる。インドは過去の非同盟主義ではなく、利益中心の多同盟戦略を選択した。ベトナムは曲がっても折れないという、いわゆる「竹外交」によって利益を追求している。
自律性が持つ利点は仲裁能力にある。ウクライナ戦争におけるトルコの仲裁は、均衡外交に慣れていたからこそ可能だった。米・イラン戦争(以下「イラン戦争」)におけるパキスタンの仲裁外交も、戦略的自律性によって支えられている。かつて冷戦時代、パキスタンはアメリカとソ連の間で等距離外交の経験があり、1971年の米中関係改善においても積極的な仲裁者の役割を果たした。
多極化の新たな軸は「グローバル・サウス」の台頭である。グローバル・サウスとは、アジア・アフリカ・中南米・中東などの開発途上国や新興国を総称するもので、今日の国際社会においても発言力を増している。同時に、約130か国、60億人の人口、世界GDPの53.9%を占め、さらに重要鉱物を保有しているため経済的価値も高い。南南貿易(south-south trade)は、2000年に世界貿易の11%を占めていたものが、2025年には28%まで増加し、その成長ペースも加速している9 。もちろん、グローバル・サウスは地理的に広く分布しており、外交路線において単一の集合体というわけではない。しかし、植民地支配を経験し、非同盟に属していたこれらの国々は、現在、急変する国際秩序の中で戦略的自律性を追求する方向へと進んでいる。グローバル・サウスの台頭は、多極化という国際秩序の変化を反映しているが、同時に1955年のバンドン会議(第1回アジア・アフリカ会議。アメリカとソ連を中心とした冷戦構図から脱却しようとした第三世界の非同盟運動の足掛かりと評価されている)以降の長期的な歴史的発展の結果でもある。
朝鮮半島は、大陸と海洋がぶつかり合う代表的な地政学的な中間国家であるが、戦略的自律性を発揮した経験はほとんどない。自律性がなければ秩序変化の主体ではなく客体となってしまう。朝鮮半島の地政学的悲劇は、常に「客体」としての立場にあったときに発生してきた。17世紀の明・清交代の変化を読み取れず戦争を経験し、19世紀後半の秩序の変化に適応できず20世紀初頭に国を失い、冷戦の初期に分断と戦争を経験した。私たちは再び構造が変化する転換の局面に立っている。
なぜ今、戦略的自律性が重要なのか。第一にアメリカ第一主義と同盟の危機の時代だからである。同盟とは理念ではなく利益であり、互いの利益の調和が図られてこそ持続可能となる。韓米同盟は依然として韓国の国益に合致しているが、トランプ政権が「アメリカ第一主義」を追求するにつれて利益の交換構造が変わった。対外交渉は常に国内交渉が同時に展開される両面交渉である。利益の調和を図る過程において、国内交渉、すなわち現実的な世論を対外交渉の手段として積極的に活用する知恵が必要である。
韓米日の三角関係の再認識も必要である。韓米日の三角体制は、伝統的にアメリカの北東アジアにおける域外均衡戦略の一環として追求されてきた。第二次世界大戦直後、正常な国家としての地位回復と再軍備を望んだ日本の要求に応える代わりに、日本が安全保障費用を負担することでアメリカの負担を軽減してきた方式である。トランプ政権が安全保障費用の分担を積極的に追求し、中国との戦略的競争に乗り出すなか、日米同盟の戦略的利害は今日においても引き続き一致している。
韓米日の三角関係において、弱い環は常に日韓関係であった。独島問題を含む歴史問題に対する韓国と日本の立場の違いにより、韓米日の三角体制における日韓両国の安全保障分野での協力には限界があった。アメリカは1965年の日韓協定締結から2019年の日韓軍事情報保護協定の一時的な終了の局面に至るまで、常に日韓関係の悪化を快く思わず、改善に向けて影響力を行使してきた。それは、弱い側に譲歩を求め、危機を早期に収拾するという方式であった。
李在明政権は日韓関係の改善を追求している。世界的に同盟の危機が顕在化する状況下で、韓国と日本は足並みを揃え、不確実性を緩和する必要がある。防衛費分担金がその代表例である。ただし、韓国と日本は北東アジア地域戦略において共通点もあるが、相違点も明らかである。それはまさに中国との関係である。日本は日中関係の悪化を国内政治や日米関係を強化するための大義名分として活用しているが、韓国にはそれができない。利益構造が明らかに異なるからである。
日本の再軍備と軍事大国化が加速すれば、結局のところ、歴史問題は過去のものではなく、現在の問題として浮上することになる。アメリカの巨額の財政赤字を考慮すれば、日本に負担を転嫁する域外均衡はさらに明確になり、日米両国の戦略的利益が一致すればするほど、韓国は韓米日の三角同盟において下位に位置せざるを得なくなる。だからこそ、戦略的自律性が一層求められるのである。
第二に、在韓米軍の役割の変化である。在韓米軍の役割が対北朝鮮抑止から対中国抑止へと転換された。韓国の安保戦略において在韓米軍の役割の変化は二つの次元で戦略的自律性の問題を提起する。
一つは在韓米軍の役割と機能の問題である。2006年の盧武鉉政権当時、韓米両国は在韓米軍の「戦略的柔軟性」について条件付きで合意した。韓国は在韓米軍が朝鮮半島以外の紛争地域に投入される可能性を承認し、アメリカは韓国の立場を尊重し、韓国が望まない北東アジア地域の紛争に介入することがないよう配慮することを共同声明に明記した。しかし、時が経つにつれて合意は薄れ、京畿道の烏山空軍基地から偵察機が台湾海峡の緊張事態に直接出動するケースも増えた。在韓米軍の役割そのものが中国抑止へと転換するにつれ、台湾海峡の紛争に巻き込まれる可能性が高まった。イラン戦争でイランが中東地域の米軍基地や関連施設を爆撃したことで、巻き込まれることは可能性ではなく、現実の問題として浮上した。
次に非武装地帯の管轄権である。非武装地帯の管理権限は韓国軍にあるが、法的な管轄権は依然として在韓米軍の別の組織である国連軍司令部が行使している。非武装地帯への立ち入りをめぐり、韓国政府と国連軍の間の対立も続いている。特にアメリカは、在韓米軍司令官が国連軍司令官を兼任し、在日米軍司令官より星が一つ多い四つ星将軍の地位を維持しようとしており、国連軍を北東アジア版NATO(北大西洋条約機構)のように、多国間の安全保障協力を強化するための制度として認識している。
安全保障戦略の観点から、北東アジア地域の紛争への介入に巻き込まれないためには、戦略的自律性が必要である。事前同意条項など、在韓米軍の独自行動によって引き起こされることに巻き込まれるリスクを根本的に遮断できる制度改革も重要である。同時に非武装地帯に関する国連軍との協力が必要であり、安全保障主権の観点から国連軍の拡大・強化論には警戒しなければならない。
3. 何が戦略的自律性の追求を阻むのか
多極化と複合危機の時代において、伝統的な中堅国や新興中堅国、そして地政学的な中間国は、国益を最大化するために「柵の上に座る国」になろうと努めている。激変する世界において自律性の度合いに応じて利益の余地が広がるからである。李在明政権もまた外交の多角化に向けて努力しているものの、実質的に戦略的自律性が広がったと評価するのは難しい。
韓米同盟の重要性にもかかわらず、国際外交の舞台においてあらゆる懸案事項について韓米両国の見解が一致するわけではない。韓米同盟の懸案を調整する過程においても同様である。戦時作戦統制権の移管をめぐってもアメリカは条件を強調するが、韓国にとっては時期が重要である。李在明政権の任期内に作戦統制権の返還を完了させ、安保主権を確立し、軍事分野における対北朝鮮交渉力を高め、実質的な自主国防を実現するための出発点とすべきである。しかし、戦略的自律性に向けた意志と努力は不足しているように見える。なぜだろうか。
第一に自律性を追求した経験がない。朝鮮半島は長きにわたり地政学的な中間国として強大国間の覇権争いの舞台となってきた。朝鮮半島初の中立外交論といえる1885年の兪吉濬の『中立論』10は、清・日・露・米などの強大国による共同保障を通じた永世中立国モデルを追求したが、自主とは程遠いものであった。清に対する伝統的な事大を認めつつ、変化する国際秩序の中で生存を模索した苦肉の策として、外部の強大国による共同保障に依存した構想だったからである。
その後、分断と戦争、そして冷戦を経て、韓米同盟を基本とした外交戦略が構築された。韓国外交史における決定的な転換点は盧泰愚政権が推進した北方政策である。1988年のソウル五輪の成功的な開催には、ソ連・中国をはじめとする社会主義圏の参加が必要であり、その後、冷戦終結期の変化を活用して、社会主義圏との外交関係の樹立が進められた。しかし、外交領域の拡大にもかかわらず、残念ながらそれが自律性にはつながらなかった。世界が多極化へと変化し、同盟関係内の利益の調和が揺らいでいる現在でも、依然として韓米同盟を主軸として外交戦略を推進している。
第二に、外交を利益ではなく理念として捉える慣性が残っている。李在明政権の外交・安保省庁内部の対立をめぐり、「同盟派」と「自主派」という二分法が登場したことがその一例である。調整体制の問題を理念対立に置き換え、政治的色付け論として捉える視点である。しかし、盧武鉉政権当時、在韓米軍の戦略的自律性をめぐり、外務省内部の北米局(韓米関係、韓国・カナダ関係および韓米同盟の懸案などを総括する部署)と条約局の間で生じた「同盟派」と「自主派」の対立を、現在の対北朝鮮政策や外交政策に当てはめることは難しい。
対北朝鮮政策と外交政策、そして外交の領域拡大は、いくらでも調和を図ることができる。朝鮮半島問題の国際化と、分断当事者としての努力は二者択一の問題でもない。2000年の南北首脳会談以降、南北関係の改善局面は、南北朝鮮・アメリカの三角関係が好循環したときにのみ可能となった。南北の二国間関係だけで南北関係を改善したことは一度もない。
対北朝鮮政策と外交政策は、その役割の違いによって重点が異なる場合がある。問題の核心は、その違いを埋めるための制度が機能しておらず、外交メッセージの一貫性に欠けているという点である。2026年の韓国・EU共同宣言やNATO首脳宣言の核心内容は、現在の秩序の変化を「新冷戦」と認識し、西側主導の連帯の中で生存を追求するという戦略である。実利を追求するよりも依然として理念として外交を解釈した結果である。
しかし、現在の秩序の変化は「新冷戦」ではない。「多極化」という言葉からもわかるように、理念的な連帯が存在し難いのが現実である。中国・北朝鮮・ロシアの三角体制もまた、理念的な連帯ではなく、戦略的利益の一致である。トランプ政権は「アメリカ第一主義」を宣言し、アメリカの利益を中心に据えて同盟関係も再解釈している。変化した世界において、同盟の現代化は、過去の理念的な連帯を維持することではなく、変化した情勢に即した新たな利益の調和を見出すことによって初めて可能となる。理念ではなく利益を追求してこそ戦略的自律性が拡大する。
第三に制度に対する無関心である。歴史を変えるのは人だが、変化を持続させるには制度が必要である。構造的な秩序が変化し、様々な分野の危機が重なる複合危機の時代である。変化に適応するためには制度の変革が必要である。内乱を経験する中で、外交・安全保障分野における民主的な統制が重要になってきた。戦争と平和はエリートだけに任せておける問題ではない。制度と規範を改革し、民主主義の回復を望んだ市民の熱望を反映させ、主権者である市民の参加を保障してこそ、内乱の試みを根本的に阻止することができる。
核心となるのは人事制度である。現在の開放型ポスト制度は限定的であり、それさえも複雑な採用手続きのため時間がかかる。長官になっても任命できるポストがほとんどなく、変化した状況に対応するための組織改編にも長い時間がかかる。官僚制度の柔軟性を高めるための制度改革が必要である。アメリカの大統領制のように政務職の比重を高め大臣の人事権を一部保障するとともに、開放型ポストの数を増やし民間専門家の採用手続きを簡素化すべきである。
李在明政権の外交・安保分野において最も核心的な問題は省庁間の調整が行われていないという点である。その核心は国家安全保障会議(NSC)制度の機能麻痺にある。国家安全保障会議はアメリカ式の外交・安全保障調整体制である。常設の会議体制を通じて目標を共有し情報を交換し役割を分担する方式である。アメリカの外交史においてNSC補佐官と国務長官の間の対立は珍しくなかった。調整と協力の過程で政策の主導権を巡る競争が生じるためである11。
金大中政権から導入された韓国の国家安全保障会議の経験を振り返ると、かつては外交安保首席だった現在の安保室長の役割が最も重要である。アメリカの代表的なNSC補佐官と評価されるニクソン大統領時代のキッシンジャー(H. Kissinger)やカーター大統領時代のブレジンスキー(Z. Brzezinski)には共通点がある。二人とも大学教授出身であり戦略家だった。韓国の場合、安保室長は外交・安保戦略を提示し、説得できる能力を備えていなければならない。さらに重要な能力はまさに省庁間の調整能力である。
現在の情勢の変化に伴い調整の範囲と領域が広がった。韓米関係だけを見ても、外交・安保の懸案と経済・通商の懸案が密接に絡み合っているため、大統領府では安保室と政策室が協力する必要があり、内閣では外務省と経済関連省庁の協力が重要である。情報の調整も重要である。外交・安保担当省庁の役割によって情報の内容が異なるため、常時的な情報共有と情報評価が行われなければならない。
韓国の歴代政権の経験から見ると、外交・安保省庁間の対立は常に存在してきた。省庁の役割や機能によって、互いの優先順位が異なるためである。重要なのは情報から政策に至るまで対立があっても調整が行われなければならないという事実である。現在のように省庁によって矛盾するメッセージが繰り返され、調整機能が存在せず、実務レベルでの省庁間の協力が行われない場合、対外的に信頼を得るのは難しく、国内においても政策への支持を得るのは困難である。
4. 地政学的な中間国家と敵対的な二国家
国際規範が崩れ世界秩序が変化するにつれ、地理が政治に及ぼす影響も大きくなった。地政学的な中間国家として、周辺の強大国間の力関係の変化や覇権争いの様相に応じて、朝鮮半島の秩序は変化してきた。分断は緩衝地帯を分割し異なる強大国の影響力を伝達すると同時に、戦略的自律性を制限する構造として作用してきた。
北朝鮮が主張する「敵対的な二国家」論は、南北関係の悪化を反映している一方で、世界秩序における地政学的価値を再認識した結果でもある。北朝鮮は2018年、南北関係と米朝関係の好循環局面において中朝関係を正常化した。2019年2月のハノイ会談決裂以降、北朝鮮は外交戦略を南方政策から北方政策へと転換した。特にウクライナ戦争への参戦を機に、中ロ関係を外交戦略の最優先順位として再設定し、軍事・経済・外交分野などで包括的な協力を推進した12。
北朝鮮はこの頃から、朝中ロの三角関係において朝ロ関係を活用し、朝中関係を前進させる外交戦略を採用している。特に経済的な実益の面においてそうである。朝ロ関係において北朝鮮は原油や食糧、そして現金を獲得しているが、構造的な限界も明らかである。ロシアは戦争の影響で北朝鮮に大規模な投資を行う余力がない。物流網は距離が遠すぎて経済性を確保しにくく、長年にわたり取引が少なかったため協力の基盤も不足している。そのため朝中関係が重要となる。中国の観点からすれば、後進的な東北地域の経済を活性化させるためには、北朝鮮との協力が必要である。北朝鮮も意欲的に推進している地方発展政策を成功させるためには、中国との協力が必要である。
北朝鮮と中国は2020年1月に新型コロナウイルスの影響で中断されていた北京-平壌間の国際旅客列車の運行を2026年3月に再開した。しかし、中国人観光客を増やすためには解決すべき課題が少なくない。特に、元山・葛麻地区に中国人観光客を誘致するには、平壌-元山間の道路整備と鉄道の接続が必要である。中国による委託加工や直接投資は、北朝鮮に対する国際社会の制裁が緩和されて初めて可能となる。北朝鮮は北中ロの北方経済圏を中心に経済協力を追求しつつ、制裁によって生じた限界を克服しようとしている。
北朝鮮が「敵対する二国家」を主張し、南北関係を無視する決定的な理由は、韓国政府の戦略的自律性が限定的であるためである。第一の制約は構造的な制約であり、それはまさに制裁問題である。2017年、北朝鮮の核能力高度化の過程で、国連レベルでの対北朝鮮制裁決議が採択された。以前の制裁が北朝鮮の大量破壊兵器をはじめとする軍需品を対象としていたのに対し、この時点からは北朝鮮の経済力の弱体化が目的となった。制裁に関する国際規範を遵守すれば南北の交流・協力は不可能である。
包括的制裁から10年の歳月が流れたが、北朝鮮の核抑止を目的とした制裁政策は結果的に失敗に終わった。ウクライナ戦争に北朝鮮が参戦したことで、両国とも国際制裁は事実上守られていない。中国も、2025年の戦勝節における金正恩委員長の訪中、そして2026年の習近平国家主席の訪朝が相次ぐなか、制裁政策に柔軟性を発揮している。私たちが南北関係において自律性を高めるためには、アメリカを説得して例外的な制裁緩和の機会を作り出すか、あるいは制裁の合法と違法の間にあるグレーゾーンにおいて、果敢な裁量解釈を行えるようにならなければならない。
第二に能力の制約によるもので、交渉における役割である。北朝鮮は憲法に核保有を明記し非核化交渉を拒否している。核軍縮交渉や平和体制交渉を再開するには、南北はもちろんアメリカと中国の参加が必要である。2025年の慶州APECや2026年の北京での米中首脳会談は米朝間の対話の好機であったが、それを活かすことはできなかった。
私たちは朝鮮半島の平和の当事者であると同時に、米朝関係をはじめとする核心的な懸案に関する対話を促進する仲介者でもある。ハノイ会談の失敗から教訓を得る必要がある。北朝鮮とアメリカの間のコミュニケーションにおける仲介者としての役割には明らかな限界がある。米朝の二国間交渉が始まれば単なる伝達者は必要ない。信頼が欠如している両者の交渉を仲介するには、争点に対する代替案を提示したり、費用を負担したり、双方が不足している部分を補う能力がなければならない。
5. どこから始めるべきか
あらゆる外交は国内から始まる。国内の支持を得られない外交は持続できない。外交政策についてさまざまなレベルでの合意形成に向けて政府が努力しなければならない。合意には三つの次元がある。政府内部の合意、超党派の合意、そして国民的な合意である。世界的な政治的二極化の中で、超党派の合意はますます困難になっており、当然ながら国民的な合意も容易ではない。出発点は政府内部の合意である。大統領と内閣、そして内閣内の各省庁間の合意が成立しないなかで、どうして超党派的な合意や国民的な合意を追求できるだろうか。
転換期には合意形成がはるかに困難になる。変化は速いが認識は遅い。制度の変化には手続きと時間がかかる。国内政治と外交秩序の変化との間に乖離が生じ、経済・外交・国防などあらゆる分野で一貫性を欠く多層的な不整合(layered incoherence)が見られる。これが移行期の特徴である。認識の差を縮め、合意形成に努め、組織や制度を柔軟にするための改革が必要である。どこから始めるべきか?
まず、戦略的な統合性とメッセージの一貫性が必要である。朝鮮半島の情勢は現在、膠着状態にある。強硬姿勢と対話、制裁と協力、断絶と回復という二重性のために、メッセージが衝突せざるを得ない。しかし、一定の範囲内でメッセージの一貫性を維持すべきである。敵対政策を維持しながら共存を語ったり、武器を販売しながら平和を語ったりすれば、信頼を失うことになる。したがって、政府内部の意見の相違を縮め、メッセージの一貫性を維持するための調整が重要である。
調整機能を正常化するためには、国家安全保障室を再編して情報と政策の統合性を強化し、長期的な外交戦略の一貫性を回復することが必要である。変化する秩序においては、情報の統合が特に重要である。アメリカのように様々な省庁の情報機能を統合した情報コミュニティを構築することが難しいのであれば、常時的な情報共有と情報評価の会議体を運営する必要がある。あらゆる政策の失敗は、情報の失敗から始まるという点を忘れてはならない。
第二に中堅国との連帯と韓国の役割の拡大である。世界は韓国の役割に期待を寄せている。AI時代の国際規範や気候変動に関する新たな合意を形成する過程において、中堅国としての韓国は新たな規範の先導者となり得る。デジタル民主主義やAI倫理を構築する過程で主導的な役割を果たすことができ、AI分野における新たな基準を提示することもできる。何よりも米中競争の時代において「志を同じくする中堅国と連帯し、自律的な外交空間と新たな国際秩序を模索しようとする変革的な中道インターナショナル」13を積極的に試みるべきである。
地政学的な中間国は、大国間の覇権争いの舞台という受動的な立場にある一方で、競争のペースを調整し、部分的な合意を仲裁する能動的な役割も果たすことができる。構造的な制約の中でも中立の立場を保つよう努めなければならない。国益が衝突する多極化の世界において、伝統的な同盟秩序という「理念の洞窟」に閉じこもることなく、柔軟かつ実用的な「利益の平原」へと突き進んでいくことを願う。
第三に制度改革を諦めてはならない。外交・安全保障分野における民主的な統制が可能となるよう、人事制度の改革が必要である。専門性を強化できる公務員採用制度の柔軟性も拡大すべきである。すでに実施されている開放型公務員採用であっても、制度の趣旨に合わせて既存の公務員ではなく民間の専門家を採用できるようにすべきである。
内乱を克服する過程で、外交・安保省庁の民主的統制に向けた様々な制度改革案がすでに提示されている。国家安保室の革新、文民優位な軍構造改革、情報機関の民主的統制など、外交・国防・国家情報院の詳細な組織改編の方向性も、発足当初に推進されていれば、今とは大きく異なっていたはずである。時間が経てば経つほど改革は難しくなる。しかし、より良い国を求める国民の熱望を原動力として制度改革を諦めてはならない。手続きは複雑で時間もかかるが、制度が変わってこそ改革は持続可能となる。
〔訳=渡辺直紀〕
- “National Security Strategy of the United States of America,” The White house 2025.11.↩
- 詳細については、チャン・セホ「2026年北京中ロ首脳会談:主な内容と示唆点」『国家安保戦略研究院イシューブリーフ』第845号、2026年5月22日を参照。↩
- 「北朝鮮・中国、戦略的パートナーシップ宣言:経済・外交・軍事協力の強化を推進」『聯合ニュース』2026年6月8日。↩
- 本稿において北朝鮮を指す場合は、南北関係を含む場合は「北」とし、それ以外は「朝鮮」とする。↩
- 建設的な戦略的安定関係については、イ・サンフン、キム・ヒョクジュン、キム・ホンウォン、パク・ウンビン「米中首脳会談の主な内容と示唆点」『KIEP世界経済フォーカス』第9号、2026年、14ページを参照。↩
- 中堅国(middle power)の定義は様々だが、ここでは大国ではないものの、弱小国とも呼べない中程度の国家能力を持ち、世界の外交の場で多国間協力を推進し、平和的解決に向けた架け橋となりうる国として用いられた。↩
- 「柵の上に座る国」(fence sitters)という表現については、Matias Spektor, “In Defense of the Fence Sitters: What the West Gets Wrong About Hedging,” Foreign Affairs, 2023年5/6月号を参照。↩
- 大国間の利害関係と勢力が交差し、衝突する地理的・政治的な境界地帯に位置し、紛争に直接さらされたり、二者択一の圧力を受けたりする可能性のある国家。韓国もその一つである。↩
- UN Trade & Development, “International Trade: Data insights” 参照。(https://unctadstat.unctad.org/insights/theme/227)↩
- 兪吉濬の中立論の主な内容については、キム・ジョンハク『朝鮮半島共同保障構想の歴史的起源:19世紀のベルギー・ブルガリアの事例と兪吉濬の中立論』、国立外交院外交安保研究所政策研究シリーズ報告書(2020-06号)、2020年を参照。 ↩
- カーター大統領時代のブレジンスキー国家安全保障会議(NSC)補佐官とヴァンス(C. R. Vance)国務長官の対立の経緯を見ると、やはり権力は大統領との距離によって決まることがわかる。ブレジンスキーはカーター大統領と毎日対面して意思疎通を図り、ヴァンスよりも大きな主導権を握ることになった。Edward Luce, Zbig: The life of Zbigniew Brzezinski, America’s Great Power Prophet, Avid Reader Press 2025を参照↩
- 北朝鮮の北方戦略の原因と展開過程については、筆者の論文「金正恩政権期の北朝鮮・中国・ロシアの三角関係:3つの二国間関係のダイナミクス」『韓国と国際政治』第39巻第4号、2023年を参照。↩
- 「変革的な中道インターナショナル」の模索に関しては、「白楽晴TV」(youtube.com/paiknctv)の2026年6月5日付の白楽晴・白永瑞対談(白楽晴招待席32)および7月3日付の白楽晴・金鍊鐵対談(白楽晴の学びの道226)を参照のこと。↩