창작과 비평

サードミサイルと朝鮮半島軍費競争の質的転換: 「脅威の均衡」を壊して先制攻撃に?

2015年 夏号(通卷168号)

 

 

徐載晶  日本の国際基督教大学教授、国際政治学、著書『韓半島の選択』(共著)、『韓米同盟は永久化するか』などがある。

 

名前も聞き慣れないサード(THAAD;終末段階高高度地域防御)ミサイル迎撃体系の韓国への配置問題がホット・イシューとして浮上した。政界とマスコミで様々な情報が洪水のようにあふれ出している。要請されたことも、協議されたことも、決定されたこともないという韓国政府の公式的立場にもかかわらず、米国首脳と官僚はサード配置のための準備作業が進行中という情報を流し続けている。賛成論者は韓国の安保のために北の核ミサイルを迎撃するこの武器体系が緊要だと主張し、反対論者はサードが検証されていないだけでなく、配置される場合、中国との関係が難しくなるだろうと反駁する。
しかし、この論争には核心的な問いが抜けている。サードの配置が韓半島に与える意味は何か。韓国の安保という観点を越えて、韓半島の安全という観点からこの問題をどのように見るべきか。分断された韓半島の現実においてサード問題の本質とは何なのか。本稿では、こうした問いに対する答えを見つけたいと思う。
次の順序で論旨を展開する。第一に、サードをめぐる今までの論議を賛成論と反対論に分け、その論理の限界を指摘する。第二に、米国がサードの韓国への配置を考慮する理由を考察する。第三に、米国がサードを韓国に配置しようとする理由を韓半島の軍備競争の歴史の中に位置づける。分断された韓半島では過去の相互抑制の構図が崩壊し、軍備競争の悪循環が新たな段階に差しかかっている。結論的に、軍事力で絶対的安保を具現しようという試みは必然的に北の不安を招き、より高いレベルの軍事的対応を引き起こさざるをえない。これは結局、韓国の不安へ、韓半島の不安定へとつながる。軍事的な絶対安保の対案として相互的安保、共通安保を考慮すべき時が到来した。

 

1.サード配置の賛反論とその限界

 

現在の論議の最も大きな限界は、賛成論者と反対論者が共通して韓半島的視角を欠いた点にある。賛成論者は、北の核ミサイルに対する防御手段としてサード配置が必要だと主張するが、その基底には韓国の安保は米国に頼るべきだという意識がある。一方、反対論者はサードの軍事的効用性に疑問を提起するだけでなく、サードの配置は中国の反発を招くだろうと警告する。論争の核心軸は米国か中国かに分かれたまま、分断された韓半島での主体的立場に対する苦悶が見られない。さて、韓国内のサード配置賛成論者がサード配置を主導するわけではない。サード配置の実質的決定権を持っているだけでなく、これを主導的に考慮しているのは米国のオバマ政権である。なぜオバマ政権がサード配置の論議を主導しているのかに対する明確な分析や言明がない、という事実もまたこの論争の限界である。

 

 

(1)サード配置の賛成論者

 

去る三月、リッパート(M. Lippert)駐韓米国大使が襲われた直後、劉承旼セヌリ党院内代表がサード配置の必要性を公論化して、サード賛成論が急速に頭をもたげた。政界ではセヌリ党の金武星代表など、いわゆる「非朴系」がこの立場を公開的・積極的に掲げている。彼らは韓国防御用としてサードが必要だと主張する。つまり、北が核弾頭をノドン・ミサイルに装着して高角度に発射すれば韓国が射程圏に入るので、これを迎撃するために必要だというのである。明確に表明してはいないが、この論理の場合、韓国軍が韓国政府の費用でサードを配置すべきだという立場であると推測できる。少なくとも、駐韓米軍が配置すれば韓国が費用分担しうるという立場であろう。
韓国国防省は2013年3月、北のノドン・ミサイル試験発射によりこうした方式へと至り、「これは迎撃を回避しようという実験」だと分析し、非朴系の主張を力づけた。当時ノドン・ミサイルの高度が160km以上に上がり、下降段階の最高速度がマッハ7以上で、現在韓国に配置されたパトリオット(PAC-2またはPAC-3)体系では迎撃が難しいというのだ[ref]「北の3月ノドン・ミサイル試験発射は迎撃回避の実験」、聯合ニュース2014年6月19日。[/ref]。韓国防御のために高高度ミサイル防御体系が必要という点では非朴系と一致するが、国防省の公式立場は中距離・長距離地対空ミサイル(M-SAM & L-SAM)などで構成された韓国型ミサイル防御体系を国内で開発するというのだ。ただ、駐韓米軍が自主的にサードを韓国に配置するのは韓国の安保に助けになると見ている。
この二つの立場は、「韓国防御論」の両大軸を代表する。具体的な方法を巡っては米国の兵器を使うか国産兵器を使うか、また費用を米国が負担するか韓国が負担するか、あるいは共同負担するかなど多様な偏差が存在する。とはいえ、韓国の安保のためにサードか類似した武器体系が必要だという「韓国防御論」は、それなりの説得力をもって韓国社会に影響を及ぼしている[ref]米国は韓国の同盟国なので、米国が推進するミサイル防御計画に従わねばならないという立場も存在する。彼らも、韓国の安保は究極的には米国の支援にかかっていると見る点で、「韓国安保論」の一つの流れである。[/ref]。
これに比べて、米国の立場はやや曖昧な部分がある。サードが配置されればこれを直接運用する米国国防省の各級人士がサード配置の必要性を公開で言明しているが、その目的を明確に表明してはいないからである。例えばアントニー・ブリンケン(Tony Blinken)米国国務省副長官は、サードが「全的に北が提起する脅威に対応するのが目的」[ref]「ブリンケン米副長官、『サード、北の脅威に対応目的……決定されず』」、聯合ニュース2015年2月19日。[/ref]としながらも、サードが防御する地域を明確にはしなかった。だが、彼らの発言を綿密に分析すれば、防御地域によって米国の立場を大きく三つに分けることができる。
第一は、「韓国防御論」である。カーティス・スカパロティ(Curtis Scaparrotti)駐韓米軍司令官がこうした立場を何度も公開で言明した。彼は2015年4月、米国下院軍事委員会の聴聞会で「多層的ミサイル防御体系」の必要性を強調し、「これは現在韓半島に配置されたパトリオット体系のミサイル防御能力を強化させるはず」だと主張した[ref]「駐韓米軍司令官、『サードの韓半島配置、北ミサイルの防御能力の強化』」、聯合ニュース2015年4月16日。[/ref]。彼は一年前にも、「サードは極めて防御的な体系であり、単純に韓国防御に重点を置いて配置されるはず」だと表明したことがある[ref]「ミサイル迎撃体系サードの韓国配置は初期検討段階」、聯合ニュース2014年6月3日。[/ref]。サード生産業体であるロッキード・マーティン社も、サードは韓国防御に有用だと主張した[ref]ロッキード・マーティン社のトード・ロイ首席研究員は、2013年ソウルで開催された空軍防空砲兵戦闘発展セミナーで、サード体系を1基か2基配置すれば、韓国全体を防御できるという分析結果を公開した(「空軍防空砲兵戦闘発展セミナー」、『国防と技術』2013年10月号)。また、当時ロッキード・マーティン社のサード・プログラム担当副社長のマック・ジョイスは、韓国がサード体系に関心を示していると述べた。「米・UAE、ロッキード・マーティン社とミサイル防御システムの契約完了」、聯合ニュース2013年9月21日。[/ref]。
第二は、「東北アジア防御論」である。ジェームス・ウィニフェルド(James Winnefeld)米軍統合参謀本部副議長は2014年5月ワシントンでの演説で、サード配置の目的を正確に表明はしないが、「地域弾道ミサイル防御体系発展の重要性」を強調した。そして、韓国と日本がこの部分で協力すれば、「持続的な北の挑発に対応する我々の自信を高めるはず」だと述べた[ref]Julian E. Barnes, “Washington Considers Missile-Defense System in South Korea,” Wall Street Journal, 2014.5.27.[/ref]。短期的には北のミサイルに対応する目的で、長期的には中国を牽制するという二重の布石で、韓・米・日の軍事協力を強調するオバマ政権とワシントンの一部の視角を代弁している。
最後に、「米国安保論」である。この立場は公開で明示されてはいないが、一部の米国人士の発言に部分的に表れている。ミサイル防御擁護連盟の創立者であるリキ・エリソン(Riki Ellison)はサード体系の一部であるエックスベンド・レーダーが「戦区内にあるすべてのものを捕え、早期警報を出せる」ので、韓国や日本だけでなく米国の防御にも有用であると主張した[ref]同上。[/ref]。一部のマスコミも北の大陸間弾道ミサイル(ICBM)に言及しながら、これをサードと結びつける報道をしたことがある[ref]こうした報道の正確な真相は確認しがたい。報道で引用された米国官僚がサードを念頭に置いたものなのか、彼らの発言とサードの関連性が記者の推測なのか、明確ではないからだ。[/ref]。クリスティン・ウォーマス(Christine Wormuth)国防次官は、「我々は北が核兵器を小型化する能力を持っているのか十分にはわからないが、最悪のシナリオに備えて計画を立てるのが慎重な姿勢だと判断する」とし、「これは我々がミサイル防御体系に焦点を当てている理由であり、本土防御のために地上発射迎撃ミサイル(GBI)基地を30から44に増やそうとする理由」だと説明した[ref]前掲の聯合ニュース2015年4月16日の記事。[/ref]。
こうした賛成論の問題点は、次に見るように、反対論者が適切に指摘されている。ただ、賛成論者が曖昧に仄めかしている「米国安保論」には正確な評価と反駁がなされずにいる。

 

 

(2)サード配置の反対論者

 

反対論者の立場は三つに整理できる。第一に、「国産開発論」である。国防省と軍需産業の一部の立場は、韓国ではすでに韓国型の高高度ミサイル防御体系であるL-SAMを開発しているので、ここに資源を集中することが重要だというのだ。これはサードのようなミサイル防御体系の必要性自体を拒否するわけではない、という点で賛成論者と似た立場だと言える。ただ、米国産の武器体系を導入する代わりに国産を使用しようという点が異なる。したがって、彼らは米国がサードを導入して韓国に配置することや、L-SAMの開発に影響を及ぼさない方式のサード配置には反対しない。
第二に、「技術的欠陥論」である。この立場は、サードが戦場ではまともに検証されていないし、まだ開発中の武器体系だという点を指摘する。あるいは、設計通りに作動するとしても、韓半島の地形ではその効能を発揮できない本質的限界があるというのだ。宋旻淳前外相らが指摘したように、サードは米国で11回の迎撃試験に成功したというが、実戦状況はもちろん、それに類似した条件でも試験されたことがない。米国国防省の試験評価で、自らの条件を充たす場合でも、40項目以上の問題点が解決されねばならないと判明した状況である[ref]米・国防省の試験評価局の2012年報告書は、39項目の条件が改善されるべきだと指摘しただけでなく、7項目の改善事項を追加したが、これは秘密に分類して公開しなかった。2015年初め現在、39項目の条件のうち18項目が充たされたが、残りは2017年までに修正・評価することになっている。7項目の秘密修正事項のうち2項目だけが充たされた。Director Operational Test and Evaluation, FY2014 Annual Report, Department of Defense, January 2015, p.p.317~18.[/ref]。彼らは、もしあらゆる条件を充たす試験に成功しても、韓半島の条件には有用ではないという問題が依然として残っていると指摘する。つまり、韓国に最も大きな脅威は北の長距離放射砲と短距離ミサイルであり、サードは40km以上の高高度で機能を発揮するため、こうした脅威には無力だというのだ。これについて、国防省やセヌリ党の劉承旼・金武星代表らは、北がノドン・ミサイルを高角度で発射する場合、サードが有用だと反駁する。だが、以下に指摘するが、こうした主張は高校レベルの物理学も理解できない無知のなせる業である。
第三に、「中国・東北アジア不安定論」である。駐韓中国大使をはじめとする各級の高位官僚と中国研究者が一貫してサード配置に反対する際の主要な根拠である。その理由は大きく二つあると思われる。まず、サードの韓国配置が中国の戦略的抑制力を脅かし、米中間の戦略バランスを壊しうるというのだ。また、南シナ海などでの地域紛争時、サードがこの地域の米軍と米軍基地を保護しうるという点も論じられる。つまり、サードが米国と中国間の戦略的・地域的抑制力を崩壊させ、東北アジアの不安定を招きうるという憂慮である。米国と中国の葛藤のために「クジラが争ってエビが跳ねる」状況、つまり韓国がその葛藤に引き込まれて直接的にも第一次的にも被害者になりうることを指摘するもので、仮に安保状況の悪化を憂慮した中国が韓国に経済的な報復的措置をとる可能性も排除できない。
こうした反対論は一定の内的連関性がある。つまり、韓国でもすでに開発中の状況で検証もされずに、韓国防御には適合しないサードを韓国に配置しようとするのは、結局中国が対象ではないかというのだ。次章で立証したいが、こうした反対論は説得力ある根拠を有するが、「米国安保論」に十分な注意を向けておらず、これによって韓半島安保を疎かにするという限界がある。

 

 

2.なぜ米国はサードを配置しようとするのか

 

(1)韓国の防御

 

米国が韓国国民の生命と財産を保護するためにサード配置に積極的に取りくんでくれるなら、韓国としてはありがたいことである。高価で世界の他地域でも必要な武器体系を優先的に韓国に配置するという話だから。それなら、米国政府はこれを積極的に広報してもいいのに、現実はそうではない。なぜなのか?
サードは韓国防御の点では「名品スクラップ」に過ぎないからである。反対論者が指摘するように、韓国にとって最大の脅威は北の長距離放射砲や短距離ミサイルである。高度40㎞以上で機能を発揮するサードは、低高度で飛行するこの武器体系の前では打つ手がない[ref]米国の専門家たちも最近まではこうした立場だった。国際戦略問題研究所(CSIS)やスティムソン・センターのような研究所は、韓国にはサードは有用ではないと認め、低高度ミサイル防御と海上配置のミサイル防御体系を推薦することで意見が一致した。”Theater Missile Defenses in the Asia-Pacific Region,” A Henry L. Stimpson Center Working Group Report, 2010.[/ref]。サードが韓国に配置される場合、むしろ北の長距離放射砲や短距離ミサイルに無力さをさらす問題が発生する。したがって、この「名品」を保護するために軍事的な必要性が追加されるが、結局、これは韓国の安保に助けになるどころか負担になるのだ[ref]第3章で述べるが、サードのようなミサイル防御体系を防御するためキル・チェーン(kill chain)が必要になり、北がミサイル防御体系を攻撃する能力を事前に無力化させるため、先制攻撃的な作戦計画を採択するようになる。[/ref]。暮らしの助けにならない「名品」はないに越したことがない。
北の短距離ミサイルを迎撃できるのかという点は、米国がずっと前から悩んできた問題である。1999年、米国国防省はソウルを含めた韓国北部の防御のためには低高度ミサイル防御が必要だが、これとともに4基のサード砲台で韓国を防御できると主張した(図1)[ref]Department of Defense, “Report to Congress on Theater Missile Defense Architecture Options for the Asia Pacific Region,”1999.[/ref]。2013年になると、サード砲台2基で短距離ミサイルを迎撃して韓国全体を防御できると主張する程になった[ref]ロッキード・マーティン社のトード・ロイ首席研究員の発言。前傾の「空軍防空砲兵戦闘発展セミナー」を参照。[/ref]。

 

[caption id="attachment_1670" align="aligncenter" width="567"]g1 <図1>韓国の弾道ミサイル防御構造 (出典:アジア・太平洋弾道ミサイル防御構造、米国防省1999年)[/caption]

 

しかし、こうした主張はサードが保護可能な最大地域を算出したものであり、実際に北のミサイルを迎撃するために必要なサード迎撃ミサイルの数は念頭に置いていないのだ。例えば、スタンフォード大学国際安保協力センターのディーン・ウィルケニング(Dean Wilkening)は、北のスカッド・ミサイル100基を50%以上の信頼度で防御するためには、韓国にサード迎撃ミサイル520基を配置しなければならないと推算する[ref]Dean A. Wilkening, “A Simple Model for Calculating Ballistic Missile Defense Effectiveness,” Science & Global Security, Vol.8, No.2 (2000), p.p.183~215. [/ref]。サード体系は砲台1基当たり最大72発の迎撃ミサイルを搭載するが、現在導入が論議されているのはサード砲台1基である。北が保有しているスカッド・ミサイルなどの短距離ミサイルが1000基を越えると推定される点を考えれば、サードでこれを迎撃するのは非現実的という話だ。サード砲台70基が配置されてこそ、北の短距離ミサイルすべてを迎撃する確率が50%程度になるからである。
北のノドン・ミサイル(中距離ミサイル)を迎撃するためにサードが必要だという主張は、こうした問題を避けるための名分として登場したようだ。2014年3月に実施された北のノドン・ミサイル発射実験は、「既存の弾道ミサイル迎撃体系を避けるための実験」という分析結果が3カ月後の6月19日に発表された。国防省スポークスマンは、「当時ノドン・ミサイルが高度160㎞、最高速度マッハ7で飛行したためにパトリオットPAC-3でも迎撃は簡単ではない」と述べ、マスコミは「北がノドン・ミサイルで南を攻撃する場合に備えようとすれば、サードを戦力化しなければならないという主張も一部で提起されている」と報じた[ref]前掲、「北の3月ノドン・ミサイル試験発射は迎撃回避の実験」、聯合ニュース2014年6月19日。2015年劉承旼、金武星らが政界でサード必要論を提起したのも同じ理由である。[/ref]。6月3日にあった駐韓米軍司令官の「サード配置検討」発言を裏付ける分析結果が、妙なことに、その2週間後に発表されたのだ。
だが、こうした分析は弾道飛行に対する理解が足りずに生じたものである。もし北の核弾頭が大型だと推進力が強い中距離ミサイル(ノドン・ミサイル)を利用しなければならないとしても[ref]金武星はサード導入が必要な理由について、「(北の核)小型化技術がどれほど進展したのかわからないが、小型化に時間がかかるはず」だし、「結局、北が保有する核爆弾は大型であらざるをえず、低高度ミサイルに搭載できずに、高高度ミサイルに搭載が有力である。約150㎞上空で迎撃できる防御体系をもつべきだというのが基本常識」だと主張した。[/ref]、発射角度を必ずしも高角度にする必要はないからだ。弾頭の重さが同じでミサイルの初期速度が同じでも、低角度でも高角度でも等距離を飛行できる(図2)。北がノドン・ミサイルで韓国を攻撃しようとすれば、あえて高角度で発射してサードの餌食になる必要はないのだ。むしろ低角度で発射すれば、サードとパトリオットを同時に無力化しうる。
上の分析に照らせば、サードは韓国を防御するのに何の助けにもならない。短距離ミサイルは迎撃不可能であり、中距離ミサイルも低角度では見逃さざるをえない。サードの軍事的必要性を駐韓米軍の保護に限っても、その結果は同じである。状況がこのようなので、サードの韓国配置が中国を狙ったものではないかと疑念が生じるのだ。

 

 

(2)中国の軍事力の牽制

 

中国政府が公開でサード配置に警告を発し始め、サードが中国を狙ったものだという認識が急速に広がった。去る2008年、中国政府は国防白書でミサイル防御が「戦略バランスと安定性を害するもの」で、「中国はこのイシューに重大な関心を傾けるはず」だと表明したことがある[ref]Information Office of China’s State Council, China’s National Defense in 2008, Beijing: Information Office of the State Council of the People’s Republic of China, January 2009 (http://www.gov.cn/english/official/ 2009-01/20/content_1210227.htm).[/ref]。中国のICBMを追跡できる点と、駐韓米軍を狙った中距離ミサイルを無力化しうる点がその根拠である。だが、こうした主張は「韓国防御論」程度で根拠がなくはないが、米国がサードを韓国に配置しようとする理由としては説得力に欠ける。
第一に、軍事的な効用性が限られている。サードが韓国に配置された場合、中国が米国に向けてICBMを発射すれば、サード迎撃ミサイルでこれを撃墜するのは不可能だが、サード用のレーダーでこれを早期に捕えるのは可能である。サード体系の一部であるAN/TPY-2レーダーの前進配置モードは、その有効距離が1800㎞で北京および中国の東北地域だけでなく、内モンゴルを含めた内陸部深く監視できるからである。日本の経ヶ岬レーダー基地より800㎞ほど中国に近づくので、それだけ奥深く中国を監視できるし、日本で追跡するより解像度が高い情報を獲得できる。しかし、その効果は限られている。ICBMが配置された地域のうち遼寧省や安徽省などは監視が可能だが、中国西部にある雲南省や青海省は監視が不可能である。その上、このうち監視が可能な地域から発射されたICBMは日本に配置された2つのレーダーでも追跡可能である。中国にもう少し近接した韓国にレーダーが追加されれば、もう少し早く、もう少し解像度が高いミサイル情報を把握できるだけで、その限界効用は微々たるものだ。
第二に、サードが中国の中・短距離ミサイルを迎撃し、東北アジアの戦略バランスを崩す危険があるという憂慮の非現実性である。韓国が米軍に戦略的柔軟性を許容することで、米軍は平沢基地から戦力投射が可能になった。米国の軍事力が台湾海峡や南シナ海へ投射される場合、中国は中距離ミサイルでこれを牽制できるが、サードがこれを無力化しうるという主張が提起される。また、黄海や東シナ海で作戦する米海軍を保護するため、サードのAN/TPY-2レーダーを使用できるという。だが、こうしたシナリオは技術的には可能だが、軍事的には説得力に欠ける。米国が中国を念頭に置いてサードを配置するなら、韓国より沖縄がより適するからである。沖縄は紛争の可能性が高い尖閣(釣魚島)や台湾海峡、南シナ海にはるかに近いだけでなく、紛争時にすぐ投入できる米海兵隊が駐屯している。だが、沖縄は無防備状態にして潜在的な紛争地域からも離れている米国の陸軍基地のある韓国を保護するのは優先順位からみて適合しない。計画通りに生産されても希少価値が高いサードをあえて韓国に、沖縄より先に配置する理由として切迫さに欠けるという話である。
一方、軍事専門家の金鍾大らはサードが中国のミサイルを無力化させる米国の接近戦略の武器体系だと主張する[ref]金鍾大「想像してみよ。米―中が黄海で衝突すれば」、ハンギョレ2015年5月2日。李イルウ「サード論争を暴く(下)」、ナウニュース2015年4月10日。李イルウは、米国が中国の吉林省と遼寧省に配置されたDF-21を早期に探知して迎撃するために、サード用レーダーを配置しようとすると主張する。[/ref]。現在、米国は中国に接近して軍事力を投射する「接近作戦」を追求する一方、中国は「反接近/地域拒否作戦」で対抗している。米軍が「空海戦」概念の下で空軍力と海軍力を利用して「接近」を追求するなら、中国は潜水艦とミサイルでこうした接近を防いでいる。こうした対峙状況で、サードのようなミサイル防御体系は中国の反接近/地域拒否作戦を無力化させる道具になるというのだ。
サードのAN/TPY-2レーダーが中国の反接近/地域拒否ミサイルを監視・追跡できるという点で、こうした指摘は正しい。しかし、後方配置されたレーダーは補助的な役割を果たすに過ぎず、前線ではイージス艦に搭載されたレーダーや偵察衛星・偵察機などが主導的な役割を果たすことになる。また、AN/TPY-2レーダーが米国の「接近作戦」にそれほど緊要ならば、やはり潜在的な戦線に近い沖縄に配置せずに、後方の韓国に配置しようとする点も説明にならない。
もちろんサードが韓国に配置されれば、中国も安保に多少の影響を受けうる。結局、中国政府はその程度の損害も甘受できないとして強行策に出るだろう。多分より大きな理由は、韓国のサード配置が韓・米・日がミサイル防御で統合される変換の象徴とみるからだろう。また、今回サードを許容すれば、「餅屋のばあさん」のようにまた何を譲歩するのか分からないからである。中国政府の立場では国益に徹する態度だと言えよう。
とはいえ、米国が韓国にサードを配置しようとする理由として「中国牽制論」は説得力に欠ける。当面、大きな役割を果たせないからである。既存の武器体系の補助的役割を果たすために、それも検証もされない武器体系を後方に急いで配置しようというのは説得力がない。米国が今まで公言したように「北のミサイル脅威」への対応が主たる目的で、中国牽制という付随的な効果を狙った一挙両得の目的だったと言いうる。北のミサイルに備える次元で配置しようとしたのが、結果的に中国という頭の痛い問題に出くわした可能性が高いと思われる[ref]米国はイランの潜在的な核ミサイルに備えるためにヨーロッパにミサイル防御体系を構築しようとしたが、ロシアの強力な反発に直面した。ロシアの戦略核ミサイルを迎撃することもあるという理由からだった。ブッシュ政権はチェコ共和国にレーダーを、ポーランドに地上配置迎撃ミサイルを配置するヨーロッパ・ミサイル防御計画を推進した。これにより、2007年公式的な交渉が開始されたが、ポーランドとチェコ市民の反対に直面した。チェコでは予定された基地周辺での住民投票で反対が圧倒的に可決され、市長が反対に立ちあがった。活動家が300日間の断食闘争を展開する一方、大規模デモが展開されるなど基地反対運動は全国的規模に発展した。1968年ロシアに侵攻された記憶があるチェコ国民の外国軍反対の感情も作用した。ポーランドでも、ミサイル防御基地の位置が具体化されると反対運動が広がった。その規模はチェコほど大きくはなかったが、選挙で反対政党が勝利するのに寄与したと評価される(David Heller, and Hans Lammerant, “U.S. Nuclear Weapons Bases in Europe,” in Catherine Lutz. ed.,The Bases of Empire:
  The Global Struggle against U.S. Military Posts, Washington Square, N.Y.:
New York University Press 2009, p.p.121~25.)ロシアも中欧に米国のミサイル防御体系が設置されれば新冷戦が始まるだろうし、ロシアは「軍事的・技術的手段で対応せざるをえないはず」だと警告を発した。2008年8月、米国とポーランド政府は合意文に署名することにしたが、2009年オバマ政権はこの計画を中断し、その代わりにヨーロッパ段階的調停接近(EPAA)を採択した。この計画は、アラスカおよびカルフォルニアに配置されたものと同じ地上ミサイル防御体系をヨーロッパにも配置するというブッシュ政権の計画を修正し、2015年末までにルーマニアにSM-3IBを、ポーランドにはこれより性能が改良されたSM-3IIAを2018年までに配置するという構想 だった。その最終段階では、イランのICBMを迎撃できるSM-3IIBを配置することを想定していたが、ロシアが自国の戦略ミサイルを迎撃できると強力に反発した。結局、SM-3IIB配置計画は北の銀河3号の発射直後である2013年に取り消された。[/ref]。実際、韓・米両軍はAN/TPY-2レーダーのモードや配置位置、探知方向など調整して中国の懸念をぬぐおうと絶えず努力しているではないか[ref]もちろん、サード配置を対中交渉のテコとして使うべきだと主張する人々もいる。中国が北の核問題の解決に積極的にのり出さないならば、米国がサードを配置せざるをえないので、それが嫌なら問題解決に積極的にのり出せというのだ。[/ref]。

 

 

3)米国の防御

 

サードが韓国防御の助けにならないどころか負担になり、中国を相手に大した効用もなく反発のみ呼び起こすなら、米国は一体なぜサード配置を推進するのか。様々な論争にも拘わらず、サードが米国の防御に寄与する面が論議されていないのは奇妙である。米国防御が目的でないなら、むしろ異常ではないか。
サードの韓国配置が米国防御に寄与できる点が2つある。第一に、北が米国を狙って発射したICBMが北方に向かう場合である。この「北極軌道」は中国の東北部と極東ロシアおよびアラスカ上空を経て米本土に到着する。(図3)この場合、サード用レーダーで追跡し、米国のミサイル防御指揮統制戦闘管理通信(C2BNC)に伝達されるのである。米国はこの情報を利用し、アラスカやカリフォルニアに配置された陸上配置迎撃ミサイルで迎撃を試みることができる。韓国のレーダーで発射直後にこれを捕え、日本の車力村のレーダーで追跡し、アラスカで迎撃するリレーも可能になる。

 

g3-1

 

第二に、米国を狙って発射した北のICBMが南方に向かう場合である。この「南極軌道」は2012年12月に発射された銀河3号の飛行軌跡と似ている。黄海沿岸とフィリピンを通って南極を回り、米本土に到達する[ref]もちろん、通常的にはより短い距離の北極軌道を利用するだろうが、弾頭が大気圏外の軌道に乗ることができれば、飛行距離は問題にならない。北極軌道を飛行できるICBMは、より遠い軌道である南極軌道を飛行するのも可能である。[/ref]。この場合、韓国のサード用レーダーで追跡し、黄海や東シナ海でイージス艦に配置された迎撃ミサイルで迎撃を試みることができる[ref]サード迎撃ミサイルは終末段階における撃墜を目的に設計されたために、離陸段階で迎撃するのには失敗する可能性が高い。だが、ICBMは離陸段階で速度が最も遅く、放物線を描いて上昇するために、発射地点から300㎞飛行するのに200秒ほどかかり、その地点の高度が150㎞ほどになる。北の発射場所によっては韓国から迎撃を試みるゴールデン・タイムとなるわけだ。[/ref]。万一、北が咸鏡北道のような東部から発射すれば、韓国上空を過ぎていくので、これにサード迎撃ミサイルで迎撃を試みることもできる。北がハワイに向けてミサイルを発射する場合も、韓国でこれを捕捉して追撃し、東海(日本海)上に配置したイージス艦で迎撃することができる[ref]米国科学アカデミーの報告書は、ミサイル推進段階で迎撃するのは実効性がないとの結論を下しながら、一つの例外を認めた。まさしく北からハワイに向けてミサイルを発射する場合である。Committee on an Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, Making Sense of Ballistic Missile Defense: An Assessment of Concepts and Systems for U.S. Boost-Phase Missile Defense in Comparison to Other Alternatives, Washington. DC : National Research Council of the National Academies 2014, p.51. [/ref]。
このどちらの場合であれ、探知距離が600kmである終末モードが光を放つことになる。北のミサイル迎撃を可能にするほどの解像度を提供するからである。日本に配置されたレーダーは前方モードで作動しなければならないため、制空できない機能である。特に、北のミサイルが南極軌道に沿って進む場合、打つ手がない米国には死活的である。地上配置迎撃ミサイルで守っている北極軌道とは異なり、南極軌道は現在何の防御手段もない無防備状態である[ref]米国は今になってあわててサード砲台を米国の南部地方に集中配置しようとしている。南極軌道を想定しなければ理解しがたい措置である。現在、テキサス州のダラスとラフキンにそれぞれ1基のサード砲台を運営中であり、2017年までにはアラバマとフロリダ、カルフォルニア、アーカンソー各州に1基ずつ計4基の砲台を追加で配置し、米国南部に6基の砲台を運用するという構想である。「セヌリ党、サードを本格的に公論化…北の核・ミサイルの“盾”になるか」、the300, 2015.4.1.(http://the300.mt.co.kr/newsView. html?no=2015033120507684046).[/ref]。フィリピンやグァム周辺ではICBMの高度があまりに高くてイージス艦でも迎撃不可能なので、韓国と東シナ海の間がマジノ線となるわけだ。そのマジノ線で、韓国配置のサードはどんな武器体系もなしえない唯一無二の役割を果たしうるのだ。

 

[caption id="attachment_1684" align="aligncenter" width="567"]g4 <図4>AN/TPY-2の前方配置モードと最終段階モード (出典:レイシオン http://www.raytheon.com)[/caption]

 

サードが韓国に配置されても、その核心的な防御対象は米国である。米国がサード配置を主導しているのも、この脈絡でこそ正しく理解できる。サード論争が花盛りだった今年3月、マーティン・デンプシー(Martin Dempsey)米国統合参謀本部議長が訪韓し、「統合ミサイル防御体系」に2度言及したのも同じ脈絡で理解すべきである。彼の発言は米国のミサイル防御局が心血を注いでいる事業に基づくものだった。
この数年間、米国のミサイル防御局は多様なミサイル防御体系の統合のために努力してきた。2012年10月、米国の陸軍と海兵隊、空軍そしてミサイル防御局は、多様なセンサーと指揮統制設備およびプラットフォームを統合運用する試験を行った。その結果、パトリオットPAC-3とサード、イージス艦ミサイル防御体系など様々な体系のレーダーと迎撃ミサイル指揮統制設備を混ぜて使用するのに成功した。特に、2013年の試験でサード用AN/TPY-2(FBM)レーダーが米国本土を狙ったICBMを捕えて追撃し、その情報を指揮統制戦闘管理通信に伝えるのが可能なことを立証した。ついで2014年5月、GTI-04e試験でもAN/TPY-2は仮想のICBMに対するデータを統合システムに伝達し、地上配置の迎撃ミサイルの発射に寄与した。同年6月と8月には2台以上のAN/TPY-2レーダーが作戦区域に縛られずに、互いに支援できることも立証した[ref]Director Operational Test and Evaluation, FY 2014 Annual Report, Department of Defense, January 2015, p.315: FY 2013 Annual Report, Department of Defense, January 2014, p.p.314~15.[/ref]。
つまり、ミサイル防御局は米国の防御のための2つのシナリオを現実化するために邁進していたのである。例えば、韓国に配置されたサード用レーダーで北のICBMを追跡し、その情報を米国のミサイル防御本部に伝達できる能力を開発しているのだ。米国本土を狙った北のミサイルを韓国と日本のレーダーで順次捕捉し、これを米国ミサイル防御本部に伝達するのも可能になる。米国はこの情報を利用し、アラスカや米本土で北のミサイルを迎撃しようというのだ。一方で、北のミサイル発射情報を日本に配置したミサイル防御体系に伝達する試験に成功したという。この情報を日本や近海に配置した迎撃ミサイルに伝達し、北のミサイルを東北アジアで迎撃しようというのである。
米国はパトリオット、サード、SM3、地上配置の迎撃ミサイルなど今まで開発した多様なミサイル迎撃体系を統合し、シナジー効果を上げるために努力している。サード用レーダーがここで重要な役割を担当するが、サードが韓国に配置されると統合ミサイル防御体系の核心になるだろう。もちろん、その優先的な目的は北のミサイルから米国を防御することである。
ミサイル防御に対する米国の関心がいつから急増し始めたかを検討するのも、こうした分析を裏付ける。ミサイル防御が米国防省の主要な課題として浮上した契機は、1998年北のテポドン・ミサイルの発射だった。その後、もう一つの決定的な契機が2012年12月にあった。北が平安北道の黄海衛星発射場から銀河3号ロケット発射に成功し、光明星2号・3号衛星を軌道に乗せたことは米国に大きな衝撃を与えた。
その理由は、レオン・パネッタ(Leon Panetta)当時の米国国防長官の発言からうかがえる。彼は退任を間近に控えた2013年1月、イタリアに駐屯する米軍を訪れた時にこの事件と関連し、「まさに今、みなさんもご存じのように、北はミサイルを発射した。そう、それは大陸間弾道ミサイルであり、米国を攻撃できることを意味する」と語った[ref]Thom Shanker, and David E. Sanger, “Movement of Missiles by North Korea Worries U.S.”, New York Times, 2013.1.17.[/ref]。彼が任期末にアジアで多くの時間を過ごした重要な理由の一つが、北のミサイル技術の進展のためだった。特に日本や韓国のような同盟国とともに、地域ミサイル防御網を構築するのに拍車を加えようとしたのだった。
彼の後任のチャック・ヘーゲル(Chuck Hagel)国防長官は2013年3月、様々な重要な決定をすぐに下した。まずイージス艦2隻を西太平洋に移し、グァムにサード体系を配置した。また、オバマ政権で心血を注いだ欧州ミサイル防御計画第4段階(AEGIS BMD SM-3 Block IIB)を取り消し[ref]欧州段階的調停接近(EPAA)の最終段階が、事実上、北のミサイルに対応するために取り消されたのである。[/ref]、その代わりにアラスカのクリリー基地に地上配置の迎撃ミサイルを追加で配置し、日本に2番目のAN/TPY-2レーダーを配置する計画を発表した。この計画によれば、2017年までに10億ドルを投入してクリリー基地に地上配置の迎撃ミサイル14基を追加し、総計44基を配置することになる[ref]2010年からアラスカに配置された迎撃ミサイルは北のミサイルに対応するためのものだった。2009年米議会の聴聞会で、米国国防省ミサイル防御局長パトリック・オライリは、「2010年に迎撃ミサイルが配置されるアラスカは、北の脅威に対処できる最適地」とし、「米国の迎撃ミサイルは北のミサイル脅威に適切に対処できるように構築されている」と述べた。「米、北ICBM発射前に先制攻撃が可能」、ノーカット・ニュース2009年10月3日。[/ref]。
また、北のICBMに対する識別能力を強化するために、新型の長距離識別レーダー(LRDR)を開発し、アラスカに設置する方案も発表した。オバマ政権が要請した次年度のミサイル防御予算額96億ドルのうち81億ドルが米国本土を防御し、アジア・太平洋地域のミサイル防御網を強化するのに配定された[ref]「米、北ミサイル識別レーダーの配置推進」、世界日報、2015年3月20日。[/ref]。
以上みたように、米国は北のミサイル発射の可能性を深刻な脅威と認識している。2013年初めから欧州ミサイル防御計画を縮小してまで、アジアでミサイル防御能力を急速に拡大中である。ミサイル防御予算もこの地域に集中している。サードはこうした努力の一環である。

 

3.韓半島の軍備競争の質的転換

 

ここまで、米国が北の核ミサイルの脅威から自国を防御するために、サードをはじめとするミサイル防御体系を急いで構築していることを論証した。だが、これが北の軍事的能力が米国を脅かしうるレベルまで発展したことを意味するわけではない。北が核ミサイル能力を開発するようになったのは韓半島で展開されている軍備競争の結果であり、米国がサードをはじめとしてミサイル防御体系を構築しようとするのも、結局は韓半島の軍備競争の一環である。ただし、韓半島の軍備競争は今や新たな段階に差しかかっている。
米国の核の傘と北の非核軍事力が互いの戦争能力を抑制した20世紀後半の「相互抑制」構図は崩れた。21世紀に入って世界的な戦略バランスが崩れるや、ブッシュ政権では先制攻撃政策を採択して北の抑制力を無力化しようとした。これに北は核兵器とミサイルを開発して対応した。21世紀初頭の10年間、こうした力比べの末に北が核能力を開発して、双方は核兵器で対立する「大量殺傷兵器の相互抑制」状態へと質的な転換がなされた。
現在、サードとともに進行しているのは北の核能力を無力化しようとする試みである。韓・米連合司令部は北の局地的挑発を抑制するためには、局地戦で北を圧倒する能力を有するにとどまらず、北の核能力でさえ無力化すべきだとみている。韓・米連合司令部が採択した「対応型抑制戦略」は、その名称とは異なり、戦争を抑制するよりは局地戦から全面戦争へ、核戦争まで北を圧倒する能力を備えることに焦点を当てている。あらゆるレベルの紛争で勝利できる能力があってこそ、最低レベルの局地紛争も抑止できるというのである[ref]そうした面から冷戦期のヨーロッパに適応された柔軟反応政策(flexible response doctrine)と類似するが、戦争を防止しようとすれば戦争する準備ができていなければならないという現実主義的な理論がその土台である。[/ref]。
勝利のための抑制戦略は、必然的に北の攻撃能力を無力化する能力を必要とする。2014年10月、韓・米国防省が年例安保協議会で採択した「同盟の包括的ミサイル対応作戦」の概念と原則がそれである。ここで「包括的」とは、探知・防御・混乱・破壊のすべての分野で対応能力を向上させるという意味である[ref]『2014国防白書』、大韓民国国防省、2015年、57頁。[/ref]。サードはこのうち「防御」を担当するための武器体系の1つである。韓国型のミサイル防御体系を利用するのであれ、サードを利用するのであれ、北のミサイルを無力化することが対応作戦になったのである。
さらに、韓半島では「破壊」が重要だと鮮明にした。「防御」を担当するミサイル防御体系を防御しなければならないからである[ref]例えば、グァムに配置されたサード体系も、パトリオット体系および対空ミサイル体系と統合されている。つまり、サード体系を短距離ミサイルから保護するためにパトリオット・ミサイル防御が必要であり、戦闘爆撃機や無人機の攻撃を防ぐために対空ミサイル体系が必要なのである。これにより、グァムに配置された対空・ミサイル防御部隊は本部と付帯施設が11ha、武器体系の配置と保管施設が2.5haで、計13.5haを使用する。訓練や作戦時には180㎢ほどの空中空間が制限される。[/ref]。大邱や釜山などかなり後方に配置しない限り、サード体系は北の短距離ミサイルや長距離放射砲にさらされる。パトリオットで短距離ミサイルの迎撃を試みるだろうが、北が保有する1000基のミサイルに圧倒されざるをえない。したがって、ミサイル防御体系を保護するためにも北が長距離放射砲や短距離ミサイルを発射する以前に、これを破壊すべきだというのである。こうして、キル・チェーンは対応型抑制戦略で省いてはならない部分になる[ref]国防白書はキル・チェーンを次のように定義する。「敵ミサイルの脅威を実時間で探知し、標的の位置を識別して効果的に破壊できる打撃手段を決めた後、打撃する一連の攻撃体系」。つまり、以下で説明する「4D作戦計画」を履行する武器体系である。『2014国防白書』、大韓民国国防省、2015年、58頁。[/ref]。
『東亜日報』はこれを報じて、「北の対南核ミサイル攻撃が迫れば、韓国軍が単独で射程距離500㎞と800㎞クラスの弾道ミサイルとタウルス空対地ミサイルで、対北先制攻撃することにした」という具体的な説明を付けた[ref]「北の核攻撃の兆候時、韓国軍が単独で先制打撃…米は支援作戦」、東亜日報2014年10月24日。[/ref]。米軍はこれを支援する作戦に着手する。対応型抑制戦略が先制打撃能力を要求する状況へと発展したのである。
2015年4月、韓・米国防当局は統合国防協議体(KIDD)でこれを作戦計画へとワン・ランク発展させることに合意し、より具体化すべき抑制戦略委員会(DSC)を設立した。「4D作戦計画」は北の車両に搭載された移動式の発射台と地上配置のミサイルを初期に探知し、これを攻撃・破壊する作戦である[ref]「韓米『北ミサイルの破壊』作戦計画の公式化…核の小型化を考慮」、聯合ニュース2015年4月16日。[/ref]。つまり、北が発射したミサイルを迎撃する防御の概念ではなく、北がミサイルを発射する前に発射台を破壊する先制攻撃的な作戦なのである。
韓半島の軍事状況の質的変化はアイロニーである。平和のために対応型抑制戦略を採択し、抑制のためにミサイル防御を推進することで、先制攻撃を作戦計画に掲げたのである。これにより、先制攻撃計画で平和を達成するという危険な状況になった。この点でサードは「抑制戦略」を「先制攻撃」へと転換させる核心的な媒介である。
サードは一つの武器体系として孤立させてみるべきではなく、こうした韓半島の安保状況の中で理解されなければならない。韓半島の軍備競争の質的な転換により、米国はサードを動員して北の核ミサイルを防ごうとし、韓国はその防御幕であるサードの配置場所になろうとしている。それでも足らずに、そのサードを保護するための先制打撃能力を推進している。
現在、韓国と米国政府が追求する安保は北の軍事力をすべて無力化させ、北の軍事的脅威自体が存在できなくさせようというのである。絶対安保である。このために、ミサイル防御とキル・チェーンが必要だというのだ。だが、相互抑制の状況から絶対安保は北に対する先制攻撃能力を意味する[ref]北に対する先制攻撃演習が始まったのは、2012年韓・米連合司令部の乙支フリーダム・ガーディアン訓練である。「『韓米連合軍、北の南侵の動きに先制攻撃を初めて訓練』」、朝鮮日報2012年9月12日。[/ref]。韓・米連合司令部が絶対安保能力を確保すれば、北の抑制力は崩れるからである。
北は必然的にこれに対応するだろう。先制攻撃を難しくするために武器体系を移動式へと転換し、偽装・隠蔽・保護し、「多種化」するだろう[ref]例えば、北は移動式の大陸間弾道ミサイル発射台を公開したのに次いで、潜水艦発射の弾道ミサイル(SLBM)を開発している。北の国防委員会は、「小型化・多種化・精密化された核攻撃手段」をすでに保有していると宣言したことがある。北の国防委員会スポークスマン「米国が真に関係改善を望むならば、敵対視政策をまず撤回せよ」、2013年10月12日。[/ref]。先制攻撃される前に自ら先に打とうという対応戦略を採択するだろうし、このための武器体系と軍事態勢を稼働させるだろう。
結果的に韓半島は、文字通り、「一触即発」の状況へと突き進んでいる。そして、この状況は過去よりはるかに危険である。双方が核兵器をふりかざして互いにまず攻撃しようとするからである。「一触」、つまりボタンさえ押せば、核戦争が「即発」しうる状況である。サードが示す韓半島の安保状況の本質は、まさにこれである。

 

4.何を選択すべきか

 

「アジア再バランス」を推進する米国のオバマ政権と、「中国の夢」を追求する中国の習近平政権が平和な「新型の大国関係」をつくるより、競争的な関係へと熱を上げている点が憂慮される。特に、「積極的平和」を掲げる日本の安倍政権がその隙を利用して日米同盟を強化する一方、米中間の競争を加速化させる点はさらに気がかりである。サード配置がこの隙をより拡大するテコの役割を果たしうるという点で、注意深く接近すべき事案であることは間違いない。しかし、この問題を米国か中国の一方を選択すべきだ式に見る視角は、サード問題の核心をぼかすものであり、事大主義的とまで言える[ref]呉泰圭は、米国と中国が韓国に対して「どちらに立つのか」を問うており、その最前線にあるのが米国のミサイル防御体系への参加問題だと主張する。その選択肢をめぐっては確かに意見が分かれるが、両者択一の問題と見る点ではサード賛成論者と変わらない。呉泰圭「MDが問題だ」、ハンギョレ2014年6月16日。[/ref]。問題解決の優先順位を混乱させてしまう。
サードは韓半島の軍備競争の産物であり、今やその軍備競争に質的転換が表面化している証拠である。サードが提起する問題は、まさにこの点にある。韓半島の軍備競争を加速化させるべきか、中断させるべきか。米国の安保のために米国の「核兵器受け皿」へと進むべきか、核兵器の対決を終息させるために韓半島の非核地帯化へと進むべきか。韓国の安保のために先制攻撃的な戦略へと進むべきか、韓半島の平和のために平和体制を構築するべきか。韓国が直面する課題はこれである。どちらを選択すべきか。
そうした選択は、安保概念を再定立することから出発できる。絶対安保の概念を変えようというのは、北の軍事力に屈服しようというのではない。北の軍事力の前に、韓国が無防備にさらされることを意味するものでもない。ただ、韓半島の秩序が相互抑制と規定される不都合な現実を認めるということである。私たちが北の軍事力を危険だと感じるのと同様に、北も韓・米当局の軍事力を脅威だと感じるという相対性を認める必要がある。韓半島ではこの60余年間、「戦争でもなく平和でもない」状態が続いたのは、こうした脅威がバランスを保っていたからだという、その不都合かつ不安な歴史に率直に向きあうことである。同時に念頭に置くべき事実は、韓・米軍事当局が北に比べてずば抜けた軍事力をもち、北を圧倒している点である。
「脅威のバランス」により相互抑制が働いている現実を認めれば、軍事的な解決策はないという事実を理解するようになる。韓国と米国が国防費を増やして北の「脅威」を除去しようとする分、北もこれらの「脅威」を除去するのに躍起になるからだ。だから、今すぐにやるべきことは「脅威」を除去しようとするのではなく、「脅威のバランス」を安定的に管理することである。このためには優先的に、状況を悪化させる措置を中断すべきである。対北ビラまき行為の中断をはじめ、サードおよびキル・チェーンなどの導入を中断または凍結すべきである。こうした武器体系の導入を推進する「対応型抑制戦略」に対する全面的な再検討もまた必要である。同時に、軍事的ホットラインを復元し、北の関係当局と各レベルの対話と出会いを始めるべきである。相互的安保の一形態である軍備統制的な措置が優先的に急がれるが、誰もこの点に関心をもたないという事実も状況の深刻さを傍証する。
また、軍事統制的な措置は軍備縮小と連結されなければならない。軍備統制だけでは「脅威のバランス」を永久化するだけだからである。「脅威のバランス」自体をなくすためには、「脅威」を同時的・均衡的に縮小・除去する方案を中期的課題として頭を悩ませる必要がある。韓半島の安保構造の特性を考える場合、唯一の方案は北の核脅威と米国の核脅威を同時に、バランスよく縮小・除去することである。その制度として、すでに「韓半島の非核地帯化」が提示されている。またこれは、「脅威のバランス」を再生産している政治的構造である停戦体制を終息させてこそ可能である。今までは六者会談の枠内で非核化を優先的に推進し、平和体制と関係正常化が後手に回っていたとするなら、今後は非核化と平和体制を同時に推進することが必要である。また、「脅威のバランス」の原因である戦争状態を優先的に終結させ、これを非核地帯化へとつなげていく筋道を模索してみることである[ref]去る5月4日、国連本部で国内外の人士400名が署名して発表した「韓半島平和の地球市民宣言」は、こうした筋道を促す点で注目に値する。[/ref]。韓半島では、平和体制と非核地帯化は銅銭の両面である。また韓半島では、韓国の安保と北の安保は銅銭の両面である。韓半島の平和は共通安保を要求する。

 

〔訳=青柳純一〕