창작과 비평

韓米FTAと韓国型開放発展モデルの模索

特集│2007年、韓国社会の未来戦略

 

2007年 春号 (通卷 135号)

 

崔兌旭(チェ・テウク) eacommunity@hallym.ac.kr

 

 

翰林国際大学院大学校国際関係学科教授。著書に『グローバル化時代の国内政治と国際政治経済』、『グローバル化と韓国の改革課題』(共著) などがある。

 

 

 

1.韓米FTAと韓国資本主義の未来

 

「資本主義の多様性」をめぐる議論が示しているように、資本主義には多くの類型がある資本主義の類型については、Peter Hall and David Soskice, eds., Varieties of Capitalism: The Institutional Foundations of Comparative Advantage, Oxford Univ. Press 2001 参照。。例えば英米式と呼ばれる「自由市場経済」(liberal market economy) 体制と、よくヨーロッパ式と呼ばれる「調整市場経済」(coordinated market economy) 体制がそれだDavid Soskice, “Divergent Production Regimes: Coordinated and Uncoordinated Market Economies in the 1980s and 1990s,” Herbert Kitschelt, Peter Lange, Gary Marks, and John D. Stephens, eds., Continuity and Change in Contemporary Capitalism, Cambridge Univ. Press 2001 参照。。英米式は市場と資本の自由を最優先視することによって経済の効率性を強調する一方、ヨーロッパ式は国家や社会による市場の調整を奨励することで社会共同体の維持をはかる。興味深いのは、これらの間にいわゆる「資本主義標準競争」がおこっているという点だ。

自らが作りだし、それゆえ慣れ親しんだ技術、規律、制度、体制などが全世界的に拡散する場合、そしてそれが「世界標準」(global standard)として位置づけられるとき、その創始者は世界のどこでも楽な環境と有利な地位を享受することができる。このために、主要先進国間では多様な領域での標準競争が繰り広げられる。資本主義体制も同様だ。自国の資本主義体制が世界標準になる時、その国は世界経済秩序の主導国になることができるからである。ヨーロッパが主にヨーロッパ連合(EU)の拡大と、他地域および他国家との協力関係構築、そして「ヨーロピアンドリーム」といったソフトパワー(soft power)の投射などを通じて、自らの資本主義領域を漸進的に広げていったのならば、アメリカは国際通貨基金(IMF)と世界貿易機構(WTO)などを前面に押し出した多国間主義、北米自由貿易協定(NAFTA)と米州自由貿易地域(FTAA)などの締結を通じた地域主義、そして韓米FTAといった二国間の経路などを通じて、より多様な方式によって、さらに急激に自らの領域を拡大している。

この競争においてアメリカがヨーロッパよりもはるかに攻勢的なのは周知の事実だ。唯一の競争相手であるヨーロッパさえ受身に追い込まれている状況で、その他の地域や国家がアメリカ式資本主義の拡散あるいは新自由主義的なグローバル化の圧力に、ほとんど無防備で晒されていることは、ある意味で当然のことである。1980年代の中南米、そして 1990年代の東アジア諸国がアメリカ主導のIMF管理体制に繰り込まれ、新自由主義的構造調整を強要されたことは、その実情を如実に示す例といえる。私たちもまたIMF 構造調整を骨身にしみるように経験し、今や再びFTA方式を通じたアメリカの圧力に直面している。

アメリカはFTAを、自国式グローバル化を推進するための政策手段にしている。アメリカ式グローバル化とは、金融資本主義と市場万能主義を要諦とした新自由主義的グローバル化を意味する。アメリカはFTA 締結時に相手国に対して徹底した市場開放、民営化、政府介入の縮小などを要求する。これは競争力の劣る弱小国に不公正な関係の設定を強要するものだといえる。アメリカ式FTAがもつ核心的な問題は、それが「高水準の包括的FTA」だというところにある世界銀行はFTAの類型として、アメリカ式、EU式、そして南-南式(発展途上国式)などを提示しているが、ここでもアメリカ式は他に比べて新自由主義的性格が明確だ。特にサービス、投資、知的財産権など、いわゆる「新通商領域」における自由化をとりわけ強く要求している。World Bank, Global Economic Prospects 2005: Trade, Regionalism and Development. より詳細な説明は、金良姫(キム・ヤンヒ)「FTAの多様性と私たちの選択」、崔兌旭編、前掲書参照。。工業製品のみならず農産物およびサービス商品を、すべて交易自由化対象に含み、そのほかにも投資、知的財産権、競争政策、労動、環境といった経済活動のほとんどすべての領域を包括する協定であるということだ。結局、実際には自由貿易協定ではなく経済統合協定に該当する。

アメリカとの包括的FTA 締結によって韓米両国が経済統合過程に入ることになれば、韓国の社会・経済体制は、相当部分アメリカ式に変わっていくことになるだろう。もとより商品、サービス、技術、資本などは経済規模の大きな国から小さな国へ、そして経済発展の程度が高い国から低い国に流れるものと決まっている。経済統合協定は、当然、この流れをさらに荒く激しく、そして一方的なものにする。流れを邪魔する各種障壁が人為的介入によって比較的短期に除去されるからだ。そうして除去される数々の障壁には、関税だけでなく制度、規範、政策そして究極的には社会および経済体制まで含まれる。もし、私たちが自らに最も適合する資本主義の類型を選択し、それを成すために必要な効果的機制と有利な環境を積極的に作っていかないのなら、そしてそのような努力なしにアメリカ式 FTAを拙速に締結するのなら、私たちは結局アメリカ式資本主義の中で生きていくことになるだろう。もちろん、アメリカ化がよいことなら反対するものでは全くない。しかし、大部分の韓国人にとってアメリカ化は決して望ましくないということが問題なのである。

程度の差はあるが、ある特定の資本主義類型は、ある特定の福祉体制あるいは民主主義形態と親和的だ資本主義あるいは生産レジームと福祉体制の間の親和性についての議論としては、Michael Shalev, “The Politics of Elective Affinities,” Bernhard Ebbinghaus and Philip Manow, eds., Comparing Welfare Capitalism, Routledge 2001; 安載興(アン・ジェフン) 「生産レジームと福祉国家体制の相互連携の政治」、『韓国政治学会報』38集5号、2004; 申東勉(シン・ドンミョン)「グローバル化時代における社会政策の変化」『政府学研究』11巻1号、2005 参照。。調整市場経済を選んでいる大部分のヨーロッパ諸国は、社会民主主義や組合主義的福祉体制を発展させている。市場における弱者への社会的配慮が、普遍主義的福祉政策として制度化されているのだ。一方、自由市場経済は自由主義福祉体制と繋がる傾向が強い。福祉の質と量さえもが市場で決まることを原則とするがゆえに、持てる者は最上の福祉を享受できるが、持たざる者は誰かの施しを願わねばならない屈辱的境遇に置かれることになる。前者の民主主義が参加的で包括的なら、後者の民主主義は排他的あるいは制限的になりがちだ。労動者や農民あるいは中小商工人といった弱者集団の実質的政治参加は、当然ながら前者においてきちんと保障される。

アメリカ式資本主義へと向かった場合、私たちの民主主義は社会・経済的弱者を構造的に排除し疎外する片手落ちの民主主義へと転落する可能性が高い。社会のセイフティーネットや福祉体系の未整備によって、ただでさえ深刻な格差社会現象は、現在のアメリカがそうであるように公然の事実として固着するだろう。アメリカは貧富の格差が世界最高水準である。国家の提供する福祉は、たかだか残余的(residual)でしかなく、したがって莫大な規模の貧困階層はほとんど放置状態に置かれている。全国民を対象とする医療保険が存在しない唯一の「先進国」であり、人口に比べて世界最高の収監率を記録しているというように、不満で一杯な国家でもある。それにもかかわらず社会が維持されているのは、アメリカがもつ特殊な条件のためだ。多様な人種、広大な領土、膨大な内需市場、世界最強の軍事力、そして世界基軸通貨であるドルの発行権など、さまざまな格差受容機制がアメリカ社会を下支えしている。

私たちにはそういった機制が全くない。格差を上手く処理できない社会であるのみだ。それなのに、どうやって格差の維持あるいは拡大を当然視するアメリカ式「自由市場」経済へと向かうことができるだろうか? その上、平等と共同体的な生を重視する私たちの伝統と文化や社会的価値を考えるなら、なおさらそうである。両極化を解消し防止することができる画期的方案が用意されない限り、アメリカ化に帰結する高水準の包括的FTAを締結するのは無理である。

韓米FTA 論争を契機として、今や私たちに相応しい資本主義の発展を真剣に悩まなければならない。いかなる類型の資本主義でも、グローバル化や開放そのものを拒否しない。政府と市場の間の役割分担の程度によって、グローバル化の推進方式やその経路、あるいは開放の手順と速度などにおいて差があるだけだ。私たちが志向する資本主義も同様だ。グローバル化は厳然たる事実であり、私たちの発展のためにも開放は拒否するのではなくむしろ活用すべきである。だとすれば、悩むべきは開放と発展を持続させ、私たちに合った「調整市場」経済をいかにして確立していくのか、である。具体的かつ本格的な議論に先立って、本稿では志向すべき基本原則と現代的条件などを点検していきたい。

 

 

2.新産業戦略樹立と管理された開放政策

 

盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府が韓米FTA の推進理由として打ち立てている経済論理は、比較的簡単なものだ。製造業の競争力が中国などに追い越される状況において、未来のためには新しい成長動力の確保が必要なのだが、それは韓米FTAを通じてサービス産業の競争力を高めることによって可能になるだろうというものだ。その忠義を理解することができないわけではないが、このような発展戦略は、少なくとも二つの側面で深刻な問題を抱いている。一つは、それが結局、また別の「不均衡圧縮成長論」であるという点であり、もう一つは急激な開放を通じた衝撃療法であるという点だ。

 

実際、韓国の製造業は開発独裁時代のいわゆる「朴正煕(パク・チョンヒ)モデル」によって急速に成長した。労動や中小企業などを排除して政府-財閥-銀行が三者連帯を結び、これらの主導の下に圧縮された成長を遂げたのである。少数の製造業と大企業、そして専門職の人材は国際競争力を確保したが、残りの経済諸主体は全くそうならなかった。経済成長の過失も一部に集中した。このような弊害がそっくりそのまま蓄積されてきたのであり、それは1987年に爆発した。以後、民主化時代に入って、ある程度公平性向上のための努力がなされてきたものの、1997年の外為危機とそれによる新自由主義的構造調整によって社会・経済的不均衡は再び深まった。

ところが、それからまた10年がすぎた2007年の時点で、現政権は均衡回復のために努力するどころか韓米FTAを打ちたて、今度は製造業ではなくサービス業を中心に第2の不均衡圧縮成長をはかっている。政府-財閥-多国籍資本の「新三者連帯」を構築することでこれを果たそうとする勢いだ。しかし、私たちの条件からみれば、サービス産業主導で圧縮成長をすることは非常に難しいこれについては李炳天(イ・ビョンチョン)・鄭埈豪(チョン・ジュノ)「両極化の落とし穴におけるの産業経済と先進化の方向」、大統領諮問政策企画委員会地方巡回シンポジウム「両極化解消のための社会・経済的課題と政策」資料集(2006年)を参照。。そもそもサービス産業は追いこしをかけるほどの発展が容易ではないうえに、市場失敗の可能性が高い。その上、政府が強調する金融・法律・会計・保険・広告・コンサルティングなどの専門サービス業は、相当な需要が持続的に創出されるならば成長するであろうが、それからみても国内需要は非常に少ない。だからといって今すぐ国際需要に対応できる能力があるというわけでもない。また、主要サービス産業における国際分業は、一般的に英語使用国を中心に形成される。日本もこのような限界に直面してサービス産業自体の成長動力化を追求する英米式「サービス経済型」発展モデルの代わりに、先端製造業と、それに関連した生産者サービスを同時に育成する「情報産業型」発展モデルを選んでいる李日榮(イ・イリョン)・鄭埈豪(チョン・ジュンホ)「韓国型発展モデルの模索―漸進的開放・協力と産業革新」、崔兌旭編、前掲書。。より大きな問題は、たとえサービス経済型圧縮成長が可能だとしても、その過程で社会・経済的不均衡はいっそう深くなるだろうという点だ。国内大企業と多国籍巨大資本が協力し、政府がこれを全幅支援する場合、中小企業や労動が占める位置はより縮小されていくからである。サービス産業を新しい成長動力として立てるのなら、高付加価値を新たにつくる該当の領域は、結局、国内の少数財閥企業と多国籍資本が占め、残りの国内経済諸主体は周辺部へと押しやられ、格差社会が加速するであろう。

さらに、急速開放という衝撃によって圧縮成長を狙う療法は、既存の朴正煕モデルよりも危険である。政府は韓米FTAが、韓国のサービス企業に世界最高水準のアメリカ企業と「自由に」競争できる動機誘発的環境をつくりだし、長期的には韓国のサービス産業の水準が何段階も上がるという。しかし、それが具体的にどんなメカニズムを通じて成されるのかについては詳しい説明がない。ただ信じろというのだ。常識的に考えた場合(そして経済学の比較優位論を適用してみても)、韓米FTAによって韓国のサービス産業は競争力が向上するどころかむしろ沒落する確率のほうが高い。韓国サービス企業の競争力がアメリカと比較もならないほど低いからだ。したがって、企業合併買収(M&A)などを通じてアメリカ企業たちが私たちの市場を掌握する可能性が大きい。実際、そういったことは他の国でもよく目撃されている。例えば、1998年に法律市場を電撃開放したドイツでは、大型ローファームの大部分が英米系会社に合併され、現在は10大ローファームの中でドイツ企業がたったの二つに過ぎない。

 

 

 

現実がこうならば、まず韓国が比較的優位にある情報技術(IT)や生命技術(BT)産業といった先端製造業を先に育てて、サービス業は該当の製造業の発展に関連する分野を中心に長期的計画の下で徐々に育成していくほうが妥当である先端製造業の発展と深い関連をもつ知識基盤サービス産業には、プラント関連エンジニアリングやソフトウエア、コンピューターサービス、ウェブデザイン、インターネット関連サービス、通信サービスなどがある。。いわば日本が選んだ情報産業型発展モデルが、私たちにはより相応しいということだ。ところがこのモデルを選ぶ場合、韓米FTAは私たちの発展経路にとって障害物になりうる。FTA締結によって両国間交易が増加すれば、将来、韓国の製造業の構造を高度化するのがより難しくなる。交易自由化が成立すれば比較的優位な部門が特化されるであろうが、私たちがアメリカより優位にある分野は相対的に低付加価置産業である米国国際貿易委員会(USITC)の2001年報告書によると、韓国の対米比較優位品目は衣類、アクセサリー、鉄鋼、金属製品、ゴム製品、纎維製品、旅行用具など、主に低付加価置商品である。United States International Trade Commission, U.S.‐ Korea FTA: The Economic Impact of Establishing a FTA between the United States and the Republic of Korea (Washington DC: USITC 2001).。したがって、韓米FTAによって精密化学や精密機械など、今後の成長可能な高付加価値先端産業の発展潜在力が毀損し、低付加価置産業に力量が傾くことにもなりうる。日本やアメリカのような先進経済大国よりは、中国や ASEANのように成長潜在力の大きな後発産業諸国家とのFTAを先行する必要があるという主張は、このような脈絡から出てきているFTA 締結のさいに、どの国家に優先順位を置くべきかに関しては拙稿「韓国政府のFTA 推進戦略と問題点」、韓国EU学会・韓国ヨーロッパ学会共同セミナー(2006年8月25日)発表論文。。

 

先端製造業と関連サービス業の同伴成長を核心とする新産業戦略には、特に次の二つの課題が含まれなければならない。一つは中小企業中心の部品および素材産業育成方案であり、もう一つは社会サービス部門の強化対策である。部品および素材産業は製造業の要にあたるが、韓国はこの分野が特に脆弱だ朴繁洵(パク・ボンスン)・金暎漢(キム・ヨンハン)「韓国製造業の課題と韓米FTAの効果」、崔兌旭編、前掲書。。韓国はこの間、部品、中間材、資本財などを主に日本からの輸入に頼る大企業中心の大量生産組み立て型製造業によって産業競争力を維持してきたが、もはやそれも限界に達した。中国を筆頭として東アジアの多くの新興工業国がこの部門において、すでに相当な競争力を確保しているからである。これからは過去日本がそうしたように、私たちが部品・素材産業を先導することによって、他の東アジア諸国の組み立て型製造業の発展を牽引しなければならない。それが東アジアの国際分業構造のなかで私たちが引き受けるべき役割なのである。そうすることで、莫大な対日貿易収支の赤字を減らすと同時に、中国および東南アジアに対する輸出動力も維持することができる。

 

 

 

部品・素材産業および先端製造業の魅力のうちの一つは、中小企業の躍進が容易な分野だという点だ。これら戦略産業の育成がすなわち韓国中小企業の振興につながり、大企業偏重の不均衡の解消に役に立つはずであろうことはもちろんだ。また、それによってかなりの雇用創出効果も期待できる。さらに先端中小企業の発展は、知識基盤サービス産業の成長に必須とされる国内事業サービスの需要を創出することにもつながりうる。韓国の情報産業型発展に寄与するだろうということだ。

 

 

 

社会サービス部門の強化を強調するのは、先に言及した日本式に北欧式を加味した私たちなりの情報産業型発展モデルを樹立する必要があるという意味である。スウェーデンやフィンランドといった北欧諸国は、製造業の産業構造の高度化を持続的に推進する一方、それを基盤として社会サービスを発展させることによって、成長と安定を同時に追求している李日榮・鄭埈豪、前掲論文。。ところが韓国の社会サービス部門が産業規模全体のうちで占める比重は、経済協力開発機構(OECD)国家の中で最下位に属する程度のものである。教育・保健・保育・看病といった公共部門における社会サービスの拡大は、それ自体が新たに莫大な雇用を創出する。したがって、これは私たちの製造業が新産業戦略によって現在よりも先端技術および知識集約的に変化する場合、それとともに深まる「雇用なき成長」の問題、すなわち雇用減少問題の解決策にもなる。一方、社会サービス部門は、女性と失業者そして中・高齢者が進出しやすい領域なので、やがて深刻になるであろう少子高齢化時代の核心的問題、すなわち良質の労動力不足現象の解消にも寄与しうる。結局、私たちが採択する発展モデルが持続可能になるためには、社会サービス部門の強化が必須なのだ。

 

 

 

このような方式によって私たちなりの発展モデルを定立していこうという主張が、開放を拒否するわけでは決してない。部品・素材および先端製造業そして関連サービス業の発展のためにも、開放は必要だ。先述したように、問題は開放の順序と速度である。実際、「順序と速度調整」(sequencing and pacing)は、古今東西を問わず開放政策を成功させるための絶対原則である Joseph Stiglitz, Globalization and Its Discontents, W.W. Norton & Company 2002.。私たちの受容および管理能力に合わせた漸進的で段階的な開放だけが、持続的な経済成長に役立ちうる。そうでない場合、過度な調整費用の支出によって、開放はむしろ破局につながるだろう。国内的には自主的な産業発展戦略に基づいた体系的な構造調整に努力する一方、社会のセイフティーネットと福祉体系を適正水準に拡充していかねばならない。開放の幅と速度は、そういった内部改革の進み具合に合わせて徐々に増大させていくべきである。このために、対外的には対象国を選定するさいの優先順位の付与が重要だ。FTA締結時にも、私たちの水準と事情に合わせて相手国を選ばねばならないという意味である。自らの管理能力を引き上げることによって、より競争力をもつ相手を選択していけばよい。

 

 

 

私たちの製造業が現在の国際競争力を得るまで、政府は対外的保護主義政策と対内的産業政策を几帳面に、体系的に遂行してきた。特に開放は産業競争力が向上する程度によって漸進的・段階的になされた。サービス産業の場合にも、同じ原則が守られねばならない現在の比較優位産業に専念するより、今後の比較優位、すなわち動態的比較優位を実現するためには、産業政策を通じたある程度の保護・育成策が必要である。金鍾杰(キム・ジョンゴル)・鄭夏竜(チョン・ハリョン)「韓米FTAと東アジア経済協力」、崔兌旭編、前掲書参照。。私たちのサービス産業の競争力のレベルに基づいて、開放に対する管理が緻密になされねばならないのである。要するに、私たちの事情に相応しい新産業戦略の樹立が必要であり、開放はその産業戦略と連携して、すなわち産業戦略の一環として体系的に推進されなければならないだろう。
 
 
 

3.社会的資本の極大化

 

管理された開放政策のもとで新産業戦略が漸進的・段階的に推進されるといっても、その過程で産業構造調整がなされ、それによって社会・経済的被害集団が発生することは不可避である。しかし、市場の調整を通じて被害を最小化することは可能だ。私たちはいかなる市場調整機制を、いかにして整えていくべきなのか。

 

 

 

実際に構造調整が効果的に進行されれば、国家経済の効率性が高くなり、投資誘致および技術革新そして生産性向上などが早く広範囲に促進される。その結果、経済成長と国家競争力向上の土台となる金融資本と技術、そしてその他の物的資本が活発に蓄積される。すなわち、伝統的資本の確保という側面から見れば、効率的な構造調整は確実に得になるということだ。しかし、それだけが全てではない。

 

伝統的資本をほぼ等しく保有する国々の間にも、経済成長や社会発展の速度および安全性においては大きな違いがある場合が多い。このような違いを生み出す重要な変数のうちの一つが、「社会的資本」(social capital)だ社会的資本に関する初期の議論についてはFrancis Fukuyama, Trust: The Social Virtues and the Creation of Prosperity, Free Press 1995; Robert D. Putnam, “Bowling Alone: America’s Declining Social Capital,” Journal of Democracy 6, 1995 参照。。社会的資本とは、社会構成員間に存在する連帯あるいは共同体意識に起因する一種の集団エネルギーであり、共同の目標を果たすための協同能力を指す。例えば一国家の生産能力は天然資源や伝統的資本によって決まるといわれているが、ここに社会的資本が加われば、その国家の能力は、そうして決められた以上に増大しうる。このような社会的資本には信頼、道徳、協力、規範および秩序意識などが含まれる。

 

 

 

社会的資本がこのように経済成長と社会発展の重要な決定要素だとするなら、伝統的資本の蓄積のみを強調するのではなく、社会的資本の維持あるいは極大化にも同じく関心を傾けねばならない。もし開放や構造調整によって多くの社会・経済的弱者がその期間にかなりの被害を受けることになるなら、そして国家や社会、隣人に対する彼らの信頼が崩壊することになるなら、さらにはそれらの人々が共同体規範や秩序を無視することにまでなるなら、構造調整を通じて高めようとしていた国家競争力は、むしろ期待値以下に落ちることもある。その上、競争相手の国家の社会的資本がしっかりしており、それらがもつ客観的能力以上を発揮することができる状況なら、私たちの相対的競争力は、より弱いものとなるだろう。

 

 

 

朴正煕政権以来、権威主義的に強行されてきた急速な経済開発は、韓国の社会的資本をすでに深刻に傷つけてきた。87年体制で若干回復したようにも見受けられるが、IMF事態以降、現在までつらなる97年体制下において社会的資本は再び大きく傷を負った状態である。ところが、今や韓米FTAなどにより、またもや急激な開放と構造調整を強行するのなら、新たに生成・回復させても足りないであろう韓国の社会的資本は、さらに縮こまり歪められるだろう。今からでも社会的資本の拡充に私たちの社会の力量を集中させねばならず、そのための方案が韓国発展モデル構想の核心に位置せねばならない。

 

 

 

これと関連して最も早急に推進すべきは、開放による成長利益をバランスよく分配できるような「滴下効果」(trickle‐down effect)の保障策を整えることだ。言い換えれば、開放による追加利益を一次的に獲得した部門が自らの余剰利益をその他の部門へと「流れ落ちるように」する制度的機制を準備せねばならない。その例として、大企業と中小企業間の共存構造構築、交易部門と非交易部門間の同伴成長的関係強化、税制および社会福祉制度を通じた所得再分配効果の向上などを挙げることができる。もちろん、企業と産業そして税制と福祉政策などにおいて広範囲な改革が必要であるがゆえに、これは簡単な作業ではない。しかし、これを通じて相当な滴下効果が保障されるのであれば、開放と構造調整政策に対する社会・経済的弱者の反発を緩和(ひいては協力を確保)することができ、社会的資本の維持や拡充も期待できる。反面、滴下効果が保障されない状態で、まず国家全体の「パイ」を大きくしようという主張は、弱者に対する欺瞞になりうる。パイを大きくしたところで彼ら/彼女らの手元に戻る分け前は過去と大差がないうえ、むしろ上位階層との格差だけがさらに広がるだろうからだ。

 

 

 

とりわけ福祉体系と社会的セイフティーネットの強化は、開放や構造調整からくる個別的リスクを「社会化」することによって諸個人の社会的信頼を増進させるという点で、非常に重要だ。例えば、情報産業型発展モデルにおいても労動市場の柔軟性増大は不可避である。変化する開放経済環境のもとでは、革新のための対内組職の柔軟化が必須だからである。だからといってリスクの社会化機制がきちんと用意されているなら、単純な柔軟性ではなく「柔軟安全性」が高まる田炳裕(チョン・ビョンユ)「韓国における開放と社会政策」、崔兌旭編、前掲書。。すなわち、柔軟性は安全性の基礎の上でのみ増大されるのだ。柔軟安全性確保のためには、何より「積極的労動市場政策」や公的生涯教育制度などにより社会全体の雇用安全性を高めることが重要である積極的労動市場政策とは、生産性の低い企業と斜陽産業の労動者が生産性の高い企業と産業に移動するように、短期的には失業関連補助金を支給しつつ、長期的には職業再訓練、業務再配置訓練、求職と転職情報などのインフラ提供を通じて、労動者たちの完全雇用を支援する政策を意味する。Henry Milner, Sweden: Social Democracy in Practice, Oxford Univ. Press 1990.。前述した社会サービス部門の強化も、福祉および雇用創出を通じてこそ柔軟安全性の増大に寄与する。きちんと整った社会的セイフティーネットと福祉体系が開放経済下の産業構造調整を順調にすることは、理論と経験によってすでに検証された事実であるDani Rodrik, “Sense and Nonsense in the Globalization Debate,” Foreign Policy 107, Summer 1997; Elmar Rieger and Stephan Leibfried, Limits to Globalization: Welfare States and the World Economy, Polity Press 2003.。そういった制度と政策が市場開放による構造調整の副作用を内部的に解決できる社会統合機制として機能するからだ。

 

 

 

結局、滴下効果の保障機制を強化して社会的セイフティーネットおよび福祉体系を拡充することによって、社会的資本が極大化しうる開放発展モデルを樹立していかねばならない。言い換えれば、私たちの情報産業型発展モデルは社会統合型あるいは社会的資本を基盤とする形態でなければならないということだ。その土台の上で、私たちの市場経済あるいは資本主義は、社会政策によって調整される調整市場資本主義の一類型へと発展していくだろう辛貞玩(シン・ジョンワン)が提案した韓国の発展モデルは、成長と分配、効率と均衡、柔軟性と安全性など、すべての面で良い成果をおさめた近年の北欧モデルを中心におき、そこに革新と創業そして雇用創出に有利なアメリカ式モデルの一部の要素を結合したものだ。本稿で提示する社会的資本に基づいた情報産業型発展モデルとの違いは、今後の議論を通じて整理されねばならないだろう。辛貞玩「韓国経済の代案的発展モデルを求めて」崔兌旭編、前掲書参照。。
 
 
 

4.政治構造および経済外交の整合性確保

 

最後に、韓国型資本主義あるいは発展モデルの定立に必要な国内政治および対外経済条件を手短に考察して本稿を終えようと思う紙面の制約によりここでは簡単に言及するにとどめるが、韓国型開放発展モデルの成功のために必ず揃えるべき政治および対外経済条件は非常に多い。詳細な議論は別稿で進めることにする。。社会的資本を基盤とする情報産業型発展モデルが私たちにとって望ましいということと、その実現可能性とは別問題だ。実現を可能にするためには、何より政治の役割と能力がカギとなる。市場調整機制としてきちんと作動しうる社会政策の樹立と執行は、結局のところ政治あるいは政府の持ち分だからだ。果たして、韓国の政治が社会統合型開放発展モデルを運営していくことはできるのか?あるいは、いかにしてその運営能力を引き上げることができるのか?

 

 

 

ヨーロッパの調整市場資本主義諸国の大部分が社会民主主義や組合主義的福祉体系をとっているという事実は前述したとおりである。政治構造的側面においても「政党の構造化」を成し、理念や政策中心の政党政治を繰り広げている政党体系が理念や政策中心の諸政党によって構成され、これらが相当なアイデンティティと永続性を維持する場合、その国の政党体系は「構造化」がよくなされているという。。これは、福祉国家の成功的運営には一定の政治構造的条件が形成されていなければならないことを示唆している。韓国政治の運営能力向上は、これを満たしてこそ可能だろう。

 

 

 

開放と成長を持続すると同時に、社会的セイフティーネットおよび福祉体系を拡充していくことに、総論的には誰もが賛成するが、各論に入っていけば労動と資本、中小企業と大企業、弱者と強者、そして貧しい者と富める者などの間に対立が引き起こされる。経済諸主体の選択と行為は、概して長期ではなく短期的利害得失によって支配されるからだ。

 

 

 

税制改革問題だけをみてもそうだ。私たちにとって税制改革は何より喫緊の課題である。社会的セイフティーネットや福祉体系の水準を高めるために必要な財源は、究極的には増税を通じて用意することができるからだ。現在、私たちの所得に対する税負担率は世界最低水準にある2005年、韓国の都市勤労者の所得に対する税負担率はわずか3.8%だった。所得の20~30%を税金として出す先進国に比べれば、すぎるほど低い方である。GDP に対する租税負担率も19.5%に過ぎず、OECDの平均値である26.5%を大きく下回っている。。しかし、納税者は誰しも増税に反対する。一般勤労者は高所得専門職の税金や企業法人税を上げろというのみであり、自分たちの所得税引き上げには何がなんでも抵抗する。高所得者や企業がこれを素直に受け入れるはずがない。結局、政府は直接税の代わりに、むしろ所得再分配構造を歪曲したり格差社会を深化させる間接税を引き上げることが多い格差社会の解消を強調していた盧武鉉政府も、税収不足のため焼酒やタバコなどの間接税を上げるという矛盾した政策を施行した。。社会統合の維持が持続可能な経済成長の前提条件であることを知りながらも、そのための費用負担については皆が憚るからだ。柔軟安全性問題も同様である。労資ともに柔軟安全性の確保が長期的にみて自分たちの利益になることを分かっている。しかし短期的にみれば、柔軟性の向上は労動の犠牲、安全性の向上は資本の費用増加をもたらすという理由で、両者は妥協ではなく葛藤を選ぶ。その結果、長期的に皆が望む柔軟安全性の増大は実現しない。似たような状況は、ほとんどすべての社会・経済政策の推進過程で発生する。

 

 

 

政府の存在理由のうちの一つは、まさにこのようなジレンマを解決することである。民主政府が採りうる最も望ましい解決法は、社会的対話と妥協の場を用意し、対立する利益集団の間で合意点を導き出し、それにもとづく社会・経済政策を樹立することであるヨーロッパの多くの国々が常時運営している各種社会的協議体は、このような解法が制度化されたケースである。金大中政府当時に出帆した労使政委員会も、これを試みた事例とみなせる。。しかし、この解決法が成功するか否かは、かなりの部分が政党体系の構造化の程度によっている。

 

 

 

代議制民主政治における社会・経済諸集団の利益は、基本的に政党を通じて集約・表出される。政策決定や立法過程で利益集団の政策選好を合憲的に代理できる核心主体は、政党である。したがって、政党によって代理されえない利益集団、そして彼らの政策選好はこの過程で無視されるのがオチだ。当然ながら、このような集団には政府が主導する社会的妥協に参加するインセンティブがあまり存在しない。参加したところで(譲歩してくれた分だけ譲歩してやるという)自分たちの要求が政策や立法に反映されるだろうという保障が全くないからだ。中小商工人団体や労働組合など主要利益集団がここに属する場合、社会的妥協の可能性はいっそう低くなる。主要利益集団の参加を導き出すためには、彼らの政治的要求に個別的に応じることができる、すなわち各政党が特定利益集団の政治的代理人役割を遂行できる政党体系が形成される必要がある。これは政党体系が政策あるいは理念中心に構成されてはじめて可能だ。

 

 

 

韓国ではこのような政党の構造化がなされなかった。群小政党に過ぎない民主労動党を除けば、すべてが人物あるいは地域中心の政党だ。このような体系においては、社会・経済的利益集団が自分たちの政治的代理人を安定的に確保することは困難である。政党の主要決定が特定の人あるいは少数のカリスマに左右されるがゆえに、政策基調が不確実であったり可変的であるうえに、政党間の離合集散がひどく、政党のアイデンティティと安全性が不足しているからである。これが韓国において社会的妥協にもとづく社会・経済政策の成功を期待しにくい理由だ。私たちが社会・経済政策を通じて市場調整が可能な調整市場資本主義や社会統合型開放発展モデルを夢見るなら、政党体系の改革に力を入れねばならない。何より社会・経済的弱者集団の利益を効果的に代弁してくれる有力な政策政党が必要だ。

 

 

 

実のところ、政党改革は長い時間のかかるものではない。例えば、選挙制度改革は政党体系の変化を促進する。これは韓国憲政史上初の2004年総選挙で極めて部分的に導入された政党名簿式比例代表制のおかげで、理念政党である民主労動党が10席を得て国会に進出した例を見てもわかる。もし、比例代表議席を全体の50%以上に、有意味に拡大するとか全面比例代表制への改革を断行すれば、政党の構造化はかなり繰り上げられるだろう。政党名簿式比例代表制では、人物ではなく政党に対して投票が行われるので、各党は理念や政策基調で勝負をかけねばならない。したがって、特定地域や人物に頼ってきた旧態政党よりは、普遍的理念や斬新な政策を強調する改革政党に有利な環境が造成される。また、議席が各党の得票率に比例して配分されるので、理念および政策政党は低い得票率でも(現行小選挙区制のように地方区で必ず1位にならなくても)、それに比例して議席を占めることができる。これによって、新生改革政党が進出しやすくなり、政党体系に根本的変化をもたらすことができる。このようになった場合、早急な政党改革は可能だ。道がなくはないということだ。問題は、政治圏の意志のみである韓国の政治改革の実現方案と手順、問題点などについては拙稿「グローバル化と韓国の政治改革」、尹永寛(ユン・ヨングァン)・李根(イ・グン)編『グローバル化と韓国の改革課題』(ハンウル、2003)を参照。。

 

 

 

経済外交の基調も韓国型開放発展モデルとよく符合するように定立されねばならない。核心基調として、東アジア地域主義の発展をはかるべきである。その理由は、消極的なものと積極的なものに分けることができる。消極的なものとしては、アメリカが主導する新自由主義的グローバル化の圧力に打ち勝つためには東アジアの連帯が必要であるというものだ。ヨーロッパがアメリカ化の圧力から自由であるのみならず、甚だしくはアメリカの代案勢力にまで発展するようになったことは、何よりヨーロッパ諸国間に力強い連帯があるからである。EUはその共同体的連帯が制度化された結晶体だ。最近は中南米諸国も過去の無防備状態から脱しようと、中南米連合を推進している。それらの国々は、一国経済や一国民主主義ではアメリカ化の圧力をふるい落とすのは困難であるという認識を共有しているアメリカによるグローバル化の圧力は、基本的に一国に対し個別的に加えられる。IMFを押し出す場合にも、いわゆる「窓口一元化」原則に従い、IMFと当該国の二者交渉をさせており、FTA交渉もまた二国間主義が原則になっている。アメリカは複数主義や多国間主に義の環境において相手国が集合的行動に出た場合、圧力効果が薄くなることを知っているがゆえに、二者主義を好む。これは、個別対応の脆弱性と集団対応の有効性を同時に示すものでもある。。東アジア諸国もまた1990年代末の外為危機を経て、攻勢的グローバル化の圧力に対する地域主義的共同対応の必要性を痛感してきた。それがASEAN+3を中心とする東アジア共同体形成論の核心的な背景をなしている。そして、その議論の展開の先頭には、韓国の金大中(キム・デジュン)政府があった。

 

 

 

ところが、ここ何年かの間に東アジア連帯論は動力をかなり失っている。韓国は安保中心言説である東北アジア時代構想に埋沒し、日本はアメリカとの一体化路線を選んで中国との対立を深めた。だからといってASEANが自主的なリーダーシップを発揮できる状況でもない。アメリカ化の圧力に直面した私たちだけではなく、東アジア全体の未来のために、今や韓国が再び先頭に立たねばならない時である。日-中および東北アジア-東南アジアをつなげる橋梁国家としての役割を強化し、域内諸国の協力を引き出すことにょって、東アジアの情緒と事情に相応しい市場調整機制を用意せねばならず、また、それに適う民主主義を発展させていかねばならない。東アジアなりの資本主義と民主主義の標準を設定していかねばならないのである。ここで私たちの社会統合型発展モデルが、東アジアの標準設定の基礎となるなら、より望ましい。

 

 

 

東アジア地域主義の発展に力をつくさねばならないもう少し積極的な理由は、情報産業型発展モデルの動力を確保するためである。前述したとおり、産業構造の高度化のためには、中国やASEAN諸国との交易自由化を先行させるのが有利だ。高付加価値先端産業の発展を、(その部門で私たちより比較的劣位にいる)それらの国々との交易を拡大することによって、すなわちそれらの先端製品需要を私たちが供給することで、はかっていくことができるからである。また、それらの産業化に必要な部品・素材および設備投資に対する輸出を増やすことで当該国の国内産業の育成もはかることができる。実際、東アジアは、人口や成長潜在力などを勘案するなら、近いうちに世界最大の購買力を保有する地域になる。この市場だけでも安定的に確保することができたなら、私たちはどのような産業も大きく育てることができる。東アジアほどの市場規模なら、ITやバイオテクノロジーといった先端産業部門での地域標準を形成することもでき、それが世界標準になる公算も大きい。これが、中国および東南アジア諸国と先にFTAを締結すべき理由であり、ひいては東アジア地域主義の制度化あるいは東アジア共同体の形成が必要な理由である。

 

 

 

ここで留意すべきは、北朝鮮〔北韓〕の参加が東アジア地域主義の発展の画竜点睛にあたるという事実だ。北朝鮮の協力がなければ韓国と東北アジアはもちろん、東アジア全体の平和と共同繁栄は不可能である。朝鮮半島〔韓半島〕の半分だけが参加した地域共同体とは、どのみち安定的にはなりえないからだ。中国、日本、ASEANなどの域内諸国にもこの事実を明確に認識させることで、これらが北朝鮮の改革開放を積極支援するように誘導せねばならない。すなわち、改革開放を通じた北朝鮮のソフトランディングは、韓国だけではなく東アジアの共同課題であることを明確にせねばならないのである。だとすれば、南北経済協力の深化・拡大や韓半島経済共同体の構築も、南北韓だけの事業ではなく、はじめから東アジア経済共同体形成作業の一環として進めねばならない。例えば、北朝鮮にある開城工業団地にも、私たちだけではなく東アジア企業なら誰でも入ることができる道をひらく努力が必要だ。その他にも投資、鉄道、物流、IT、エネルギー協力など、南北間で推進可能な領域別経済協力課題をできるだけ多く掘りおこし、これをASEAN+3の枠組みのなかで東アジア経済協力課題に含ませることによって、地域レベルの事業として拡大するのが望ましい。要するに、東アジア地域主義の発展過程に北朝鮮を参加させねばならないのである。

 

 

 

このような「北朝鮮の東アジア国家化」は、CLMVの事例を援用して推進することが必要とされる。CLMVとは、カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナムの英文イニシャルを集めたものであり、ASEANの後発4ヶ国を指す通称である。これらを一歩遅れて ASEAN加盟国として受け入れる際に、選抜する諸国は、これらの特殊性を勘案して多様な特恵を提供した。経済統合作業に新規参加のするときに各種例外条項と猶予期間をおくなどの配慮をし、これらの経済開発支援のための域内基金も集めた。ASEANのCLMV政策は、東アジア式経済統合方式において一つのスタンダードとしての位置を占めている。中国が ASEANとFTAを締結したことでCLMV諸国に対する特別配慮案を用意したことも、このスタンダードに従ったものだ。いわば東アジアの経済統合は、域内諸国の特殊事情が最大限反映される「オーダーメード型」で進められているのである。北朝鮮の参加も同様の方式によって促進されねばならない。北朝鮮の社会・経済体制と国際競争力などを勘案した漸進的・段階的参加条件の提示が必要だ。

 

 

 

最後に、韓国の開放発展モデルと東アジア共同体構想は、ヨーロッパとの連携の中でこそ、より成功的に実現されうることを指摘しておこう。基本的に、韓国に相応しい資本主義類型や発展モデルは、ヨーロッパ式調整市場経済体制に近く、それは東アジアレベルでも同様だ。それなら、私たちを含む東アジア諸国がヨーロッパ式資本主義諸国との交流を深化・拡大することは、東アジアなりの社会統合型資本主義の発展にとって非常に有益な環境を造成していくのである。韓国-EU間のFTA締結などを通じて東アジア諸国が、ヨーロッパとの経済統合を各国の事情に合わせて漸進的に推進することも勧奨するに値する。しかし、さらに望ましいのは、東アジア地域主義が相応のレベルに発展し、東アジア全体が単一行為者として他の行為者であるEUとの交流を制度化することだ。いわば東アジアとヨーロッパ間の「地域間協力体制」(inter‐regional cooperation system)を構築することである。これは、既存のアジア欧州首脳会議(ASEM)を活用して、その枠内でまず東アジア諸国がASEAN+3の制度化レベルを引き上げ、それにもとづいて再び EUとの協力体制を制度化してこそ可能となるであろう1996年に出版したASEMのヨーロッパ側加盟国はEU諸国、そして東アジア側加盟国はいみじくもASEAN+3諸国である。。

 

 
 

 

* 本稿は筆者の編著『韓国型開放戦略:韓米FTAと代案的発展モデル』(創批 2007)の主要内容を抜粋・要約したものである。共著者の論文を引用するさいには該当論文を記したが、筆者本人の論文からの引用するさいには省略した。

 

 

 

訳・金友子

 

 

 

季刊 創作と批評 2007年 春号(通卷135号)

 

2007年3月1日 発行

 

発行 株式会社 創批

 

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