창작과 비평

世界金融危機と李明博政府の経済政策 : 李明博政府の経済政策

論壇と現場

 

 

金基元(キム・ギウォン)   kwkim@knou.ac.kr

 

韓国放送通信大学経済学科教授。著書に『経済学ポータル』『財閥改革は終わったか』『アメリカ軍政期の経済構造』などがある。
 
 

 

1. 世界金融危機の展開

 
世界経済は金融危機の荒波に揉まれている。サブプライム・モーギィジ(subprime mortgage、非優良住宅担保貸出)の不実から始まったアメリカ発の金融危機が2007年から表面化して2008年の秋に入ってからいよいよヨーロッパ全域にまで広がって世界的次元の危機へと発展した。国家不渡りの危機に直面する場合も続出したが、先進国のアイスランドと開発途上国のハンガリー、ウクライナ、パキスタンなどがこれに当たる。超高速成長を謳歌する中国、インドのような新興経済は危機の初期にはその影響から脱しているという非連動(de-coupling)論が流行ったが、今は彼らも成長鈍化が避けられないという再連動(re-coupling)論が浮上している。

金融危機が取り留めようもなく広がると、各国の政府は本格的な介入に乗り出すことになった。アメリカは7千億ドルの大規模救済金融を助成することにした。そして始めはその救済金融を不実資産の買い入れに当てることにしたが、これに対する市場の反応がさほどよくないと、銀行の部分的国有化という金融社会主義(?)の手段まで使うことに至った。連邦準備制度理事会(FRB)が企業などでCP(短期資金の調達のための企業手形)を直接買い入れることも進んでいる。ヨーロッパでもサムプライム関連の債権を買い入れた金融機関の不実などが台頭しながら同じような対策を試行している。

 


ところで今回の金融危機の発端であるアメリカのサブプライム・モーギィジとはプライム・モーギィジやオルト―Aモーギィジ(Alt-A mortgage)より信用等級の低い、低所得層の住宅所有を増やすために始まった住宅担保貸出である。サブプライム・モーギィジについては、ヘンダーソン・ガイス『サブ―プライム・クライシス』、ランダムハウス、2008 参照。これは1980年代末以後、中産層の住宅所有が飽和状態に至りながら開発された一種の新興市場のことであるが、超低金利の基調による豊富な流動性と証券化(securitization)を通じた危険回避手段の発展に拠って無分別な貸出が成された。甚だしくはニンジャ(NINJA,NoIncome,No Job or Assets, 収入や職業、資産がない)階層にまで貸出が提供された。

 


超低金利の基調は2000年末、ITのバブルが弾けながら、これによる景気沈滞に対応するため連邦基金の金利を6.5%から1%まで下げたことを言う。その結果、金が住宅市場に集まってサブプライム・モーギィジが普及されながら住宅価格が暴騰した。住宅価格が上昇する限りでは不実貸出も表面化しなかった。しかし投機的バブルはいずれ弾けるようになっており、2006年を山場にして住宅価格が下落し始めたのである。

 


一方、危機への疾走には資産流動化と派生商品という金融革新、つまり金融システムの変容も働いた。資産流動化とは住宅担保貸出をしてもらった金融機関の貸出債権を基に、新しい金融商品である住宅抵当証券(MBS)を作って投資者に専売する証券化過程のことを指す。これを通じて最初貸出してもらった銀行から貸出による危険が分離され、銀行は貸出資金を凍結しないで(流動化)回収することである。このような証券化が住宅貸出のみでなくクレジットカードなど様々な貸出に対して様々な段階で進み、これに債権不渡りの危険を補償してくれるCDS(信用不渡りスワップ)のような派生商品の発展が併行した。

 


このような金融革新は既存の銀行仲介の金融システムの代わりに証券化した金融システムの比重を高めてきたが、アメリカではその主体がリーマン・ブラザーズやゴールドマン・サックスのような投資銀行であった。伝統的金融システムの外部で作動するいわゆる影金融の活躍のなかで、信用(流動性)が膨張し低所得層もマイホームを所有するアメリカンドリームが実現するかのようであった。しかし住宅価格のバブルが弾けると、アメリカンドリームは悪夢に変わり、不実を抱えていた金融機関も危機に処されることとなったのである。

 


証券化や派生商品はもともと危険を分散しようとする目的から開発されたが、無分別に発展するにつれ、かえって危険を拡散させてしまった。そして信用を膨張させたメカニズムが危機状況では信用を急激に萎縮させるメカニズムへと逆回転した。なぜならば投資の鬼才、ジョージ・ソロス(G. Soros)さえも難解すぎるといった証券化と派生商品に一応不信が巣くうと、互いが互いを信じえなくなって金が回らなくなったのである。それに信用膨張の過程で自己資本に比べ負債を大きく増やした(leveraging)金融機関らが、危機に処されると負債を返そうとして(deleveraging)信用萎縮がもたらされた。

 


一方、より根源的に見てみると、1980年代以後世界的に澎湃した市場万能主義も今回の危機勃発に一役を買ったのが確認できる。金融市場のグローバル化と情報化が急進展したに反して、それに対する規制と監督は緩んでしまったのである。例えばアメリカ金融を牛耳っていたグリーンスパン(A. Greenspan)前連邦準備制度理事会議長は「市場の自律規制より連邦政府の規制が優れているという証拠はない」と大口をたたきながら、派生商品が危険だという警告を蹴飛ばしたことがある。これにより自由競争の市場経済と市場の不安定を調節する民主主義的規制との間に不均衡が深化され、その結果、世界的危機が勃発したわけである。

 


そして今回の金融危機の底には世界貨幣というドルの特権的地位に基づいて進んだアメリカ人の過消費も敷かれている。1990年代前半に8%の水準であったアメリカ家計の貯蓄率は2006年以後には1%以下まで落ちたし、こんな過消費は毎年数千億ドルに達するアメリカの経常収支の赤字として現れた。ところが他の国ならすでに破産するほどの赤字状況であるにも関わらず、アメリカは自国の貨幣が同時に世界貨幣なので自国貨幣で経常収支の赤字を埋めた。こうしてアメリカ人の消費バブルが住宅バブルとかみ合いながら今回の金融危機に進んだのである。
 

 

2008年10月現在、アメリカとヨーロッパ政府が銀行の部分国有化など、特段の対策を採ることによって世界的恐慌の状況は多少静まった。大型金融機関の相次ぐ破産も止まったし、銀行間の資金融通も少しずつ円滑となっている。ただし危機の発端であるアメリカの住宅価格がこれから10∼20%ほどさらに下落するという予測が支配的であり、そうなったら処理すべき不実がより大きくなるだろう。特にこれから金融機関と家計が借金を返しながら実物部門で企業投資と家計消費が萎縮し、これはアメリカ経済、ひいては世界経済全体の沈滞をもたらすだろう。なので世界的株価不安は続いている。

 

国際通貨基金(IMF)によると、2007年3.7%の成長率を示した世界経済は、2008年には2.7%、2009年には1.9%として、成長率が大幅に鈍化することと予測されている。バブルが弾けたことによる損失は誰かが負担しなければならない。その負担配分が一段落し、各経済主体の資産と負債が再整備されながら新しい金融システムが落ち着く際始めて、世界経済は回復の軌道に乗るのではないかと思われる。
 
 
 
 

2. 危機の中の韓国経済

 
 
世界的金融危機の中で韓国経済も揺らいでいる。第2のIMF事態が渡来するのではないかという憂慮が生じたのである。1997年のIMF事態の時と同じく株価が暴落し為替相場が暴騰しながら経常収支は赤字を示しているからである。もちろん1997年と異なるところもある。まずは2008年10月末現在、外国為替の保有額が約2,100億ドルで、その当時の10倍位である。そしてIMF事態は財閥危機⇔金融危機⇔外国為替危機の形で展開したが、今の財閥の財務状態は良好である。経常収支の赤字も当時とは違って油価暴騰による一時的な現象である。2008年8月末までの経常収支の赤字が126億ドルであるが、油価上昇による輸入増大が約160億ドルなのである。

 


それなのに為替相場の不安定はなかなか静まらなかったが、10月末の韓米通貨相交換協定によってようやく鎮められ始めた。実際、世界10代外国為替保有国の中で韓国ほど為替相場が急騰した場合はない。これはまず今年に入って外国為替市場で外国人たちのドル流出が大幅に増えたせいである。グローバル金融危機により外国投資者たちは資金需要を自分で充当しなければならないが、韓国の株式市場が金を引き出すに適していた。また外国人たちは韓国の株式市場の未来を楽観していない。こうして韓国の株価が暴落しドルの需要が大きく増えた。

 


これに銀行の短期外債の問題が不安感を増幅させた。2005年に660億ドルであった韓国の短期外債は2008年9月現在、1,760億ドルに急増したが、その殆どは銀行の短期外債である。これは主に韓国人の海外証券投資に対する為替ヘッジ(hedge)と造船業の先物為替取引でもたらされたことである。ところが世界金融危機で、以前には順調であった短期外債の満期延長が難しくなってしまった。それで銀行は国内の外国為替市場からドルを求めることとなり、これが為替相場の暴騰を惹き起こした。IMF事態の時に比べて資本市場と外国為替市場が大幅に開放されることによって、国際状況の変動による国内経済の衝撃がずっと大きくなったのである。

 


もともと為替相場の効果は矛盾的である。為替相場が上がると輸出業者や海外資産保有者は利益を得る一方、輸入業者や留学生は耐え難くなる。従って国民経済全般を見ると、為替相場上昇の効果を一義的に規定することはできない。日本は為替相場が下がりすぎて悩んでいる。問題は為替相場の上昇速度が速すぎると、経済全体がこれに適応しにくいし、また輸出業者と輸入業者(および内需業の主体)との間の両極化が深化されやすいという点である。それにドルをたくさん借りた韓国の金融機関は償還負担が大きくなる。

 


だからといって政府が為替相場を下げようと無闇にドルを解くと、いざドルが切実な銀行の外債決済が不可能になることもある。これは銀行不渡りと国家不渡りへと続く第2のIMF事態となる。企業に喩えるとIMF事態が赤字不渡りであったとしたら、今はともすると黒字不渡りを迎えることもあり得る状況である。すなあち、対外債権が対外債務を上回る黒字状態であっても、不適切な外国為替管理で不渡りの危機に追いやられることもあり得るのである。

 


一方、為替相場以外の韓国経済の全般的な状況はどうか。経済成長率を見ると、2008年上半期は5.3%で悪くない。だが、下半期には3%台に落ちて、今年全体としては4%台と予想されている。2007年の5%成長より下がった数値である。勤め口の増加もやや鈍化する姿を見せている。ただわれわれの経済はすでに1960∼70年代の高成長段階を経た。資本の成熟によって新しい成長産業を見つかりにくいし、急速な高齢化のような労働の成熟も現われているからである。そうして韓国は先進国の低成長段階へと進んでいる中成長段階に来ているわけである。従って4∼5%の成長率を一方的に低いと責めることはできない。勿論、われわれの経済は中長期的成長の潜在力を高めるため知識情報化に拍車を加えるべきだとか、女性の就業率を高める社会制度を構築すべきだとか、自営業の過剰を解消すべきだとかという様々な課題を抱えてはいるが。

 


ところが、もし2009年に2∼3%の低成長率を記録すると、これは明らかな景気沈滞を意味するだろう。世界金融危機による実物経済の沈滞はそうなる可能性を高めている。輸出依存度がGDPの40%位で高い韓国経済はアメリカの消費が萎縮すると、対米輸出の減少という直接的打撃を受ける。それと共に中国に対する原・副資材の輸出も中国の対米輸出と関わっているから、結局われわれの輸出において最も大きな比重を占めている対中国輸出も萎縮せざるを得ない。ヨーロッパ経済の沈滞もまた影響を及ぼすだろう。

 


そして国内的には家計負債の問題が深刻な様相を呈している。家計負債は近来大きく増加したが、その中で半分近くが住宅担保貸出である。すでに前の政権下で家計負債による数百万の信用不良者の問題が大きな社会的イシューとなったが、これは主に下層庶民に当たる事案であった。ところが近来の家計負債の急増には住宅価格の暴騰に便乗した中産層の借入増加が新しい要因として付け加えられた。

 


この住宅担保貸出の元金と利子の償還が2008年末から集中的に迫ってきている。住宅価格が下落する状況下で、貸出で購入した住宅を処分することは難しいし、従って家計負債は生計圧迫と消費萎縮をもたらすだろう。これに株価暴落も消費萎縮を加重させる。住宅価格と株価の下落はまず、中産層に保有資産の価値低下という面で打撃を与え、さらには内需関連の従事者たちに売出減少という打撃を加えるわけである。

 


実はわれわれの住宅担保貸出はアメリカのサブプライム事態のように直ちに銀行の相次ぐ破産をもたらすほどではない。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府がLTV(住宅価格に対する担保認定比率)とDTI(負債の年間元金と利子の償還が総所得で占める比率)規制を設けておいたからである。貸出者の延滞が生じると銀行の資金事情が困るようになろうが、最悪の場合、担保住宅を処分しても銀行の損害が、LTVの高かったアメリカほど大きくはないだろう。またアメリカのように住宅担保貸出を証券化して金融商品の複雑な連環を作り出すこともしなかった。

 


しかし未分譲アパートの物量が16∼25万軒に至って、建設社の経営危機が現われている。また相互貯蓄銀行と一般銀行などが不動産PF(企画金融)に支払わせた金額が数十兆円にのぼり、銀行圏の資金圧迫をもたらしている。その結果、中小企業の資金事情が困ってきた。内需沈滞およびキコ(KIKO)為替相場が一定の範囲内で動くと、企業はすでに契約した為替相場で銀行にドルを売ることができるが、その範囲を超えて上昇すると、定まったドルの2倍位を約定為替相場で売らなければならないし、その範囲以下へと下落すると契約が無効化する外国為替関連の派生商品。と共に中小企業には二重三重の打撃が加えられているわけである。

 


このように輸出鈍化、消費萎縮、建設社危機、銀行の資金事情の悪化などは韓国経済の沈滞を惹き起こしている。事実、景気が沈滞しても、その苦痛の分担が公平であるならば大きな問題ではない。ところがわれわれの経済は高成長段階から中成長段階へ入ってきたにも関わらず、それに釣り合う社会的安全網が備わっていない。それにIMF事態以後、両極化が深化し、零細自営業者や中小企業の労働者および非正規職の生活が苦しくなってきた。これからの景気沈滞でこれら庶民の苦痛はますます酷くなるはずなので問題である。

 


IMF事態は対内的に財閥と金融機関の不実、対外的に無分別な開放政策とタイなどからの外国為替危機の伝染が原因であった。これに対して今の経済危機は対内的に家計負債の増加、株価および不動産価格の下落、対外的に世界的金融危機と国内銀行の短期外債が原因である。ところでIMF事態は莫大な公的資金を投入して財閥と金融機関を構造調整することによって比較的短期間で克服された。その反面、今は財政がその時ほど良好でないし、家計や自営業者や中小企業など構造調整の対象が甚だ多い。それから道徳的緩みを避ける構造調整が容易でないし、世界景気が悪い。従ってIMF事態のように失業者が溢れ出る状況にはならないかも知れないが、沈滞が長期化する可能性は濃厚である。
 
 
 

 

3. 李明博政府の経済政策

 
 
権力を勝ち取ろうとする選挙では、いかなる政治勢力であれ万能薬を持っているかのように宣伝する。しかしいざ彼らが権力の席につくと、様々な制約条件下で身動きできる幅は思ったより狭くなるほかない。李明博政府とてそれは変わらない。資本家階級、労働者階級、市民社会が未成熟だった朴正熙(パク・ジョンヒ)時代のような開発独裁体制では政権の裁量権は相当大きかったが、今は事情が違う。もちろんわれわれよりもっとできている先進社会と比較してみるとまだ国家権力の影響力は大きいが、それも以前に比するほどではない。そしてこれは実際、市場経済と民主主義の発展による自然な帰結であり、たとえ李明博政府が新公安政局を作り出し時代を逆走行する場合でも限界はあるはずだ。

 


このような体制的制約条件に付け加えて李明博政府の経済政策の執行には世界的・歴史的制約が追加的に働く。世界的には油価格および原資材価格の暴騰が2008年上半期に韓国経済を襲いたし、下半期には金融危機が押し寄せてきた。そして歴史的には前政権の10年の間展開された経済状況が肯定的または否定的遺産として与えられている。つまり南北経済協力の進展、構造調整と両極化、住宅価格の暴騰がそれに当たる。受け太刀になって李明博政府が 世界経済の危機状況や前政権のせいにしているのは無責任な姿勢ではあるが、全く根拠のないことでもないわけである。

 


また政治的支持基盤の可否も経済政策の推進動力に影響を及ぼす。盧武鉉政府も支持勢力が分かれ支持率が落ちてからまともな経済政策を推し進められなかった。ところが李明博政府は執権初期から支持率が急落した。いわゆる「カンブジャ・コソヨン」人事(李明博政府の組閣人事を喩えて作られた造語。カン・ブジャとはもともと中堅の俳優さんの名前であるが、江南の土地金持ちという表現を縮めて言うと、カンブジャ(江金持ち)と発音されることから来た喩え。コ・ソヨンももともと女優さんの名前であるが、李明博政府の組閣人事には高麗大学出身や所望教会に通っている人、嶺南地方の出身の人が多かった。たまたまコ・ソヨンさんも高麗大学出身で所望教会に通い、嶺南地方の出身であることから来た喩え―訳注)、親・朴槿惠勢力との葛藤、民心とかけ離れた牛肉協商などの結果である。韓国は開発独裁体制から先進国体制へ進んでいく過渡期に置かれているが、その過渡期は古いものはなくなっているが、新しいものはまだ安定的に落ち着いていない時期である。その時期には皆が不安がるし、それによって選挙の際の圧倒的な支持が政権のいくつかの過ちで直ちに失望の爆発へと入れ替わる。このように支持基盤が弱くなると、政策が中途半端になりやすい。大きな変化を導く推進力が足りないからである。

 


だとしたらこんな制約条件下でまだ政権統治の前半部ではあるが、李明博政府の具体的な経済政策はどう展開されたか。最初に成長政策を検討してみよう。大統領選挙の過程で提示した、李明博政府の成長政策を集約的に表現したものが「747」公約であった。毎年7%ずつ成長して10年の内に一人当たりの国民所得4万ドルを達成し世界7位の経済大国へと進んでいくというものである。ところが大きな後遺症なしに毎年7%ずつ成長することも無理であるが、毎年われわれが7%ずつ成長して現在経済規模7位のイタリアが成長を中断するとしても、10年内にわれわれがイタリアを超えることは難しいということは算盤を弾いてみればすぐわかる。このように初歩的な勘定すら疎かにした公約であったし、政権もこれ以上自らを欺けなかったのか747政策は記憶の後ろへと立ち去った。

 


もう一つ、李明博政府の成長政策を代表したものが「大運河」であった。しかし物流を改善するという名目で提起された大運河事業は建設業者には利得となるだろうが、環境を破壊し、物流改善の効果は期待できないという点が露になるにつれ、747政策と同じ運命に処された。そうなると、長期のビジョンを失った大統領はいきなり「エコロジー成長論」を持ち出してきた。太陽光、風力、燃料電池などの新・再生エネルギー分野を大々的に育てるということであるが、それ自体は悪くない。ただし現在太陽光、風力発展分野の輸入依存度がそれぞれ77%、97%である状況下で参加企業が源泉技術開発や海外市場開拓の展望も備えていないまま政府の発展差額支援金を狙っているという批判もある。そして世界の金融危機がやってきたし、油価格の急落勢で新・再生エネルギーの経済性が疑問視されるにつれて、もともと真正性の足りなかったエコロジー成長に対する政権の熱意は冷めていっているようである。

 


一方、李明博政府は各国の保守政権が一般的に取る成長政策である減税政策を提起した。所得税、法人税、相続・贈与税、総合不動産税を下げて消費と投資を奮い起こすということである。ところが恵沢が主に金持ちと大企業に回っていく減税政策の成長促進の効果は微々たるものである。消費性向の低い富裕層の可処分所得が増えるとしても内需はあまり大きくならないだろうし、すでに留保金をたくさん溜めておいている大企業の法人税を引き下げても投資が大幅に増えるわけがない。特に世界金融危機と国内経済の不安が深化する状況下で、個人や企業は税金が下がってもむしろ支出を下げて危険に備えるほうへと行動するだろう。

 


二番目に分配政策はどうか。現政権は前政権が左派分配主義の政策を取ったと非難して執権したので、当然分配政策に対する現政権の関心は薄い。成長さえできれば自動的に分配問題は解決されるといった「成長万能主義」に基づいているといえよう。それで予算編成から福祉部門の支出は現状維持の次元に留まっており、主に金持ちと大企業に恵沢が回っていく減税を通じて事実上、分配を悪化させる方向へと進んでいく。住宅価格および株価暴落や内需萎縮で打撃を被る中産層および下層庶民に対する福祉支出を犠牲にしても、自分の確実な支持基盤に奉仕しようという意味であろう。

 


李明博政府はIMF事態以後進んだ両極化の現実、つまり今は成長と分配の連結の輪が弱まっているので、独自的な分配政策が必要だという点に敢えてそっぽを向いているようだ。このように分配改善のための国家の市場介入を忌避しているから、彼らの成長万能主義は市場万能主義でもある。また現政権が掲げた先進化はただ一人当たり所得の増大であるだけで、OECDの最下位圏である韓国の社会福祉支出の水準を高めて成長と福祉の均衡を志向しようとする目標意識はないわけである。

 


単に油価払い戻し金を支払ったり、移動通信社に料金引下げを求めたり、銀行に手数料引下げを求めたり、公共料金を凍結したりすることで、政権が庶民生活に関心を持っているという印象を与えるための展示行政には積極的である。制度改革を通じて庶民たちの生活と分配問題を改善するほうは疎かにしながら、一回性の官治行政をよく動員しているのである。こんな官治行政は「大仏工業団地の電柱抜き」のように実際はショー以上の意味はあまりない場合が殆どである。こうして李明博政権の経済政策は妙にも官治行政という開発独裁と市場万能主義がシャム双生児のように付いている姿である。

 


三番目に危機および景気対策を見てみよう。まず政権初期に油価格と原資材価格の暴騰で国内物価の不安が憂慮されていた。2007年消費者物価の上昇率は2.5%だったが、現政権に入っては5%ほど高くなったのである。ところが姜萬洙(カン・マンス)企画財政部長官は高い為替相場をそそのかす発言をして物価不安を深化させた。また物価不安が大きなイシューとなると、1960∼70年代の開発独裁式に物価取締りをすると乗り出した。このように市場を不安がらせ、怒鳴る形は、為替相場が暴騰し第2のIMF事態云々する状況が繰り広げられた際も同じであった。外国為替ディーラーを取り締まるといって企業を叱咤して保有ドルを出させた。せいぜい一時的な効果しか出せない措置を、対策だといって出したのである。そうするうちに、とうとう他の国々の金融危機対策を見て、遅れて政府の銀行外債支給保証という特段の方案を出して、辛うじて韓米通貨相交換協定を結んだ。市場と疎通し市場を調節する能力の欠乏を露にしているわけである。

 


景気対策と関連しては金融の面で信用梗塞を解くために、銀行に流動性供給を増やそうとする。それで韓国銀行が基準金利を引下げ、銀行などの債権を買うことにした。このような流動性の拡大措置は不可避ではあるものの、将来バブルと激しい物価上昇を来たさずに、また外国為替の事情を悪化させないようにうまく調節できるか注目する必要がある。そして李明博政府は財政の面で減税と財政支出の拡大を追い求めている。支持層結束のための富裕層減税を景気対策として掲げるのは無理押しであり、減税と財政支出の拡大を同時に推し進めると、財政の健全性は悪化する。特に一応取った減税措置は後で取り戻しにくい。

 

また建設景気の扶養にも焦点を合わせている。GDPで建設業が占める比率は20%ほどでOECD国家の中で最上位圏である韓国で、建設景気の扶養は容易い景気対策である。特に建設業では政府が直接発注できる物量も大きな比重を占める。しかし韓国の度を過ぎた建設業比重は縮小していかなければならない。また韓国では不動産投機という特殊な考慮事項がある。金大中(キム・デジュン)政府期に景気扶養のために不動産規制を緩めたことが、後で不動産価格暴騰の要因となった辛い体験を忘れてはならない。

 


ところが現政権は少しずつ規制を緩めて不動産景気の活性化という名の下、不動産投機に再び火をつけようとしている。そうして不動産関連の税金規制の緩和はもちろんのこと、甚だしくは盧武鉉政府下で辛うじて住宅価格の暴騰を止めさせるのに決定的な役割をしたLTVとDTI規制すら崩している。こんな規制緩和は差し当たりの景気扶養効果はあまりないのに、その副作用は時差を置いて現われてくる。付け加えると、規制緩和の波の中で投資促進という名目で押し付けている首都圏規制緩和も地域不均衡を深化させる危険性が高い。

 


さらに政府は一部の未分譲アパートを直接引き受けることで、建設業に貸出した貯蓄銀行の危機を免れようとしているようだ。ところがこれは建設業体の道徳的緩みを助長し、建設業の構造調整を遅らせ、不動産価格のバブル解消を遅延させる。1990年代の日本で見るように、バブル解消が遅延するほど、景気回復も遅延する。政府は建設業の構造調整も並行するといったが、銀行や政権や不実を表面化したくないところで果たしてそれが効率的に成されるか疑問である。

 


それに国民税金を動員した建設業支援は、辛い経済状況における公平な苦痛分担の原則から外れることもあり得る。2009年の予算に反映された社会間接資本の大幅的拡充も経済性を無視した浪費事業になるのではないかと疑問である。物的有形物の代わりに人的投資と社会保障支出を増やすのが知識情報化時代に似合う景気対策であろうのに、土建業文化に染まった大統領と長官は思考を転換しにくいだろう。

 


事実、正しい危機対策は経済構造の先進化へとつながる。普段なら想像しにくい制度変化が危機では可能となりうるのである。金持ちに対する増税を通じて社会的安全網を拡充すると、それが直ちに消費支出を増やす景気対策であり、同時に福祉国家を構築する道である。また正規職と非正規職の差別問題もまた、景気沈滞期により目立つし、その解決のための社会的圧力も大きくなるだろう。これは柔軟安定性(雇用の柔軟性と生活の安定性)というデンマーク式の先進モデルが導入される機会として働くこともあり得る。しかし開発独裁と市場万能主義に取り付かれた李明博政府には期待しにくいことだろう。

 


四番目に財閥および金融政策はどうか。大統領は親企業(business-friendly)を唱えながら、財閥に対する各種の規制を緩和している。出資総額制限制度を廃止し、持株会社と下都給関連の規制を崩して全国経済人聯合会の古い要求を受け入れようとしている。ところでこんな規制緩和の名目は投資の活性化である。しかし出資総額制限制度のようなものは財閥企業の投資を阻害するのではなく、財閥トップの皇帝経営と船団式蛸足経営を制約する規制である。そして実際、投資不振は財閥より中小企業で深刻である。それなのにトップの腐敗と無能を牽制し大企業―中小企業間の公正取引を求める最小限の装置を、虚構的名目で崩そうとしているのである。市場を強調しているようだが、実は市場の発展に背馳される開発独裁の財閥体制へと逆走行している姿である。そしてこれは中小企業に一時的に資金支援を増やすことより一層重要な構造的な中小企業発展策を無視することである。

 


金融政策では金産分離(金融資本と産業資本の分離)の緩和を通じて財閥の金融支配を強化しようとする。保険社や証券社のような金融機関はすでに財閥が従えているので、実際の争点は銀産分離(産業資本の銀行支配遮断)の問題である。李明博政府は産業資本の銀行持ち前保有限度を高め、また産業資本が投入されたプライベート・エクイティ・ファンド(PEF)の銀行所有を拡大しようとするのである。こうしないとわれわれの銀行を外国資本へ渡さなければならなくなるということを名目としている。

 


しかし豹を避けようとして虎を呼んでは困る。銀行を財閥に渡すと銀行が私金庫化し、産業資本と金融資本との間の牽制と均衡が崩れる。今回のグローバル金融危機でも見たように、銀行経営が間違うと経済全体が揺れるシステムリスクが生じる。しかも韓国の財閥は今だ経営構造における前近代性から脱していない。独立的金融資本を育成することが正道である。それが今すぐには難しいならば現在国有の銀行の所有構造は一応そのまま置いといて、支配構造を改革する方へ進むべきである。

 


五番目に他の政策を検討してみよう。労働政策と関連しては韓国労働組合総聯盟(韓国労総)と協議関係を維持しながらも全国民主労働組合総聯盟(民主労総)には敵対的姿勢を示す。民主労総の高位幹部を拘束し全国教職員労働組合(全教組)を圧迫しているのである。ただ政府と労働界との大きな争いはまだ起こっていない。労使関係の際立つ制度的変化方向も示されていない。正規職と非正規職との差別問題を根本的に接近しないで、たかだか契約職の許容期間を4年に延ばしたりする弥縫策しか出していない。近来労働争議の主な空間が大規模事業場から非正規職関連事業場に変わったし、政権の支持率低下と金融危機の勃発で決戦の時期を政権が延ばしているからではないかと思われる。

 


開放政策では前政権の韓米FTA締結の政策を受け継ぐところからより進んで牛肉協商を無理やり推し進めた。そうして検疫主権まで諦めたその拙速性と屈辱性によって政権は甚大な打撃を被った。その反面、韓国と北朝鮮との間の開放政策では実用主義を掲げたが、守旧派の冷戦論理から脱せられず南北経済協力を沈滞させている。開城工業地区のような対北朝鮮事業が中小企業の脱出口として働いているところなのに、これを塞いだ李明博政府は反実用的・反企業的姿勢を示しているわけである。

 


公共機関と関連しては統廃合、機能調整、民営化を中心とした方案を3次に渡って出しておいた。一時は水も民営化するなどの過激な民営化方案まで噂されていたが、キャンドル示威と政権の支持率低下によって危うい方案は一応自制しているようである。だから保守勢力からは中途半端だと批判されているのである。それでも仁川空港工事の民営化など、少しずつ民営化を推し進めてはいる。公共機関の非効率も正すべきであり、民営化が必ずしも悪いことでもないが、財閥や外国資本に渡すことになると国家的にあまり役に立たない可能性が高い。そして公共機関代表の法的任期を無視して戦利品を分け持つように取り替えたので、支配構造が改悪される危険性も高まった次第である。公共機関の、政権の機嫌をうかがうことが一層増えるはずだからである。
 
 
 

 

4. 結び

 
 
市場経済は効率性と不安定性という二つの顔を持っている。これはコインの両面と同じく一方だけを取ることはできない。今回の世界金融危機も住宅取引の効率性が増大するなかで不安定性が深化し爆発したものである。こんな矛盾を源泉的に取り除くことはできないが、調節することはできるのが資本主義国家である。だから各国は危機収拾に乗り出して銀行の部分国有化という特段の措置まで動員したし、始めて国際的共助体制まで備えた。ただし金融危機を一応鎮めても、実物経済の沈滞が続くだろうから世界経済がいつ回復軌道に乗るかは予測しにくい。

 


とにかくこんな過程で金融資本の暴走を助長したシステムや、市場万能主義の思潮に部分的手入れが加えられるだろう。アメリカ式の投資銀行モデルの問題点が明らかになるにつれ規制体系も再整備されるしかなかろうし、家計の過剰負債も調整されるだろう。アメリカではこれを期に新しいニューディール(a new New Deal)でもって医療保険など社会安全網に対する根本的改革を通じて、アメリカ式資本主義が変貌する兆しまで現れている。そして将来アメリカドルの世界貨幣の地位が揺らぐことによってグローバル金融体制が変わっていくかも知れない。

 


韓国経済は一方で世界金融危機の波に揉まれ、もう一方では不動産など内部的問題点が溢れ出ながら内憂外患の辛さに処されている。IMF事態以後、展開された両極化がさらに深化する可能性が高い。下層庶民はもちろんのこと、中産層にも甚大な打撃が加えられる展望である。ところが「経済生かし」を掲げて執権した李明博政府は右往左往しながら市場と国民の信頼を失いつつある。成長政策、分配政策、危機および景気対策、財閥および金融政策など殆どすべての分野で期待よりは憂慮が大きい。

 


危機状況では苦痛を分担するしかない。問題はいかに公平に苦痛を分担するかということと、苦痛を克服する過程でどうやって経済構造を先進化するかである。開発独裁体制から先進社会へ進んでいく過度期に置かれたわれわれの状況では開発独裁、旧自由主義、市場万能主義、福祉主義が角逐している。ところが李明博政府は開発独裁と市場万能主義に一方的に傾く姿を示している。その結果、危機克服という当面の課題も、先進化という構造的課題もまともに処理できないでいるのである。

 

こうなった訳は、われわれの社会が一方では官僚統治の惰性が働きながら財閥企業および財閥トップが独占的地位の維持に執着しており、もう一方では保守的主流が社会的弱者に対する配慮を軽視し、成長と企業に対する偶像崇拝に陥っているからである。これを正し、旧自由主義と福祉主義を強化することによって「市場経済と民主主義を高度化」する勢力が存在するか否かが、危機克服と正しい先進化ができるかどうかを識別する核心であろう。(*)

 

 

 


訳=辛承模
 
季刊 創作と批評 2008年 冬号(通卷142号)
2008年12月1日 発行
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