東北亜の軍備競争と国際市民社会
論壇と現場
鄭旭湜(ジョン・ウクシク) wooksik@gmail.com
平和ネットワーク代表。著書には『21世紀の韓米同盟はどこへ?』『核兵器:韓国の反核文化のために』(共著)などがある。
1.東北亜地域の軍備競争の激化
21世紀に入り、全地球的な軍備競争が次第に激しくなってきている。この10年間、世界における軍事費の総額は、実に45%も増えた。地球村の数多くの人々が極度の経済難や気候変化、貧困と病、食料や水不足で「人間安保」が危険に晒されているにも関わらず、大半の国家は「国家安保」を言い訳に軍事費を増やすのに余念がない。東北亜は、まさにその中心にいる。六カ国協議の参加国である韓国・北朝鮮・アメリカ・中国・ロシア・日本が、2008年の一年間に使用した軍事費の合計は9700億ドルにも及んでいる。これは、全世界の軍事費の70%に肉迫している。たとえ、この中で、アメリカが占めている比率が圧倒的に高いことやアメリカの軍備増強の重要な原因がイラクとアフガニスタン戦争にあることを考慮するとしても、アメリカが軍事安保の中心軸をアジア-太平洋へ移動させ、これが原因で中国などの東北亜の国家における軍備増強へ繋がっていくことを看過してはいけない。これは、北朝鮮の核開発に劣らない六カ国協議の参加国の軍事費の支出と軍備競争を注目すべきである理由でもある。
このような軍備競争は、相互不信と安保ジレンマを激化させながら、東北亜において偶発的な武力衝突の可能性を高め、有事の際に大規模の人的・物的被害の可能性を孕んでいる。先鋭となった軍備競争は、すでに21世紀の国際秩序の核心変数として登場した米・中関係の不確実性を高潮させ、米・ロ間の「第2の冷戦」も催促させている。南北関係を始め、日中・日韓・中韓関係も軍備競争の暗い影を払拭できないでいる。軍備競争はこのような両者関係のみならず、日米同盟対中ロ協力体制、韓・米・日の南方三角体制対朝・中・ロの北方三角体制の間における軍事的対決構図を催促させる物理的な原因となっている。同時に莫大な予算が消耗的な軍備として浪費されることにより、環境・福祉・教育など各国の内部と地域的・地球的問題を解決するために必要な予算上の制約ももたらしているのだ。
もっと根本的な問題は、東北亜の軍備競争が各国の安保ジレンマを深化させ、このような安保ジレンマが、軍備競争を激化させる「悪循環」を構造化する点である。安保ジレンマの正義を「自分の安保を増進させるために取った措置が相手の反作用をもたらし、むしろ自分の安保を危険に晒す状況」だとしたら、安保ジレンマが必ず軍備競争へ繋がることではないのだ。なぜならば、安保ジレンマを感じた行為者が自身の追加的な軍備増強が軍備競争を激化させ、それが自身の安保にもっと不安を持たせる可能性があるという認識に到達すれば、自制や協議を選択できるからである。しかし、今まで東北亜の現実は、それとは正反対の方向へ展開されてきた。相互不信と軍備競争が孕んできた安保ジレンマが軍備増強の路線を正統化する根拠として活用されてきたことである。とりわけ外交的には、関係改善を模索しながらも「万一の事態を準備しなければならない」という名分で軍備増強を正統化しようとする動きが加速化されてきた。それは、東北亜の六カ国が度合いと性格の違いはあるが、所謂「両面戦略」(hedging strategy)を外交安保戦略の根底においているからである。
このように東北亜において軍備競争が激化する理由は非常に複雑である。アメリカと中国間における覇権競争のムード、アメリカとロシア間における戦略的葛藤関係の復活、東北亜における国家間の歴史・領土問題、日中韓のライバル意識、各国内部において漸増する民族主義の傾向、台湾問題が象徴するように内部と外部との曖昧な境界、中国とロシアの経済成長で軍備増強に必要とされる物的土台の確保、韓半島の平和統一のプロセスに対する周辺国の同床異夢などが、まさにそれである。とりわけ、国家内部の正当性の欠乏による内部の不満を外部に向けた対決的な姿勢へ相殺しようとする動きもみられる。これは東北亜において軍備競争を終息できる環境が最も劣悪であることを意味する。
だからといって、東北亜の平和の将来が必ずしも否定的であるだけではない。まず、「軍事覇権主義」を追求したブッシュ政権が退場し、「多者間協力」を掲げたオバマ政権が登場したことは注目される。また、アメリカ発の金融危機が東北亜を含めた全世界の経済危機へと拡散されたことで、軍事費凍結と軍縮の必要性も提起されている。六カ国協議も東北亜の平和安保体制の構築を中長期に渡る目標として設定することで、一方主義と軍事同盟で点綴された東北亜の秩序の再編を試みしている。しかし、このような変化が東北亜の平和軍縮へ繋がるかどうは、「可能性」としてだけ存在する。まさにここに、国際市民社会が積極的な役割を模索すべきである理由があると言える。
2.軍事費の暴騰と軍備競争の激化
どれほど使ってきたのか
東北亜の軍備競争の状況は、六カ国協議の参加国である韓国・北朝鮮・アメリカ・中国・ロシア・日本の軍事費の支出の推移からもよく表れている。2008年のストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の年鑑によると、2007年の世界における総軍事費は、2005年の普遍価格を基準として1兆3990億ドルで、10年前より45%も増えたhttp://yearbook2008.sipri.org。アメリカが45%を占めていることを始め、中国5%、日本4%、ロシア3%、韓国2%などであり、この統計からは出てないが、北朝鮮は0.3%である。しかし、SIPRIの場合、中国・ロシアの軍事費をその国の政府の発表データによるものであるが、これらの国家の実質の軍事費は、政府発表データの1.5~2倍であるとみられる。このように、2007年の東北亜の六カ国の軍備支出は、1990年代の中盤よりも2倍ほど高くなり、六カ国協議参加国が全世界の軍事費で占めている比率も65%に到達したことになった。
周辺4強の軍事費支出の推移
このように六カ国協議の参加国の軍事費の比率が高いという最も大きい理由は、やはりアメリカにあると言える。2001年の出帆と共に軍事費を大幅に増額してきたブッシュ政権は、2003年に4500億ドル、2005年に5200億ドル、2007年に6200億ドルを超え、任期の最後の年である2009年には7100億ドルを超える軍事費という記録を残した。これによって、ブッシュ政権は、任期の8年間において実に4兆3千億ドルを軍事費として支出した。これは、クリントン政権の8年間よりも2倍も高くなっている数値であった。
アメリカより小さい規模ではあるが、中国・ロシア・韓国が、最近になって毎年10%前後で、軍事費を増やしてきたことは看過してはいけない。中国は、軍の現代化に拍車をかけるために、この20年間二桁の軍事費を増額し、2007年と2008年には各々17.8%、17.6%と設定した。その結果、2008年の軍事費が中国政府の公式発表では570億ドル、購買力評価基準(PPP)と隠蔽された費用を計算したアメリカ国防省の推定値では1500億ドルに達しているイギリスの国際戦略問題研究所(IISS)は、為替レートと隠蔽費用、そして購買力評価基準を総合的に考慮し、中国の軍事費を政府の発表値の1.7倍程度と推定している。The Military Balance 2008。。「強いロシア」を闡明し始めたロシアも急激に軍事費を増額している。ロシアはプーチン政権以降、毎年20%前後の軍事費が増え、2008年政府発表の軍事費は400億ドルで、実質の軍事費は700億ドル前後で推定されるロシア政府が発表した軍事費と外部推定値が大きな格差をみせている理由は、政府発表値に軍人年金と予備軍関連予算、兵器輸出所得が抜けているからである。これらを総合的に考えると、ロシアの軍事費は政府発表値の2倍として推定される。注2と同様。。韓国も「自主国防」を闡明した盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の任期の間、国防費が大幅に増えた。政権出帆の初年である2003年が182億ドルだったことが、毎年8~9%ずつ増えていき、任期の最後の年である2008年には250億ドルまで記録した。
これに比べて、東北亜の軍備競争の「主犯」とされている北朝鮮と日本の軍事費は「停滞あるいは減少」の趨勢である。1990年代に入り、持続的な経済難に直面してきた北朝鮮は、若干の騰落はあるものの、韓国の10分の1のレベルである20億ドル前後で軍事費を維持してきた。また、日本も国防費をGDP対比1%未満で維持するという財政運用原則により、2003年の448億ドルを頂点とし、441億ドル(2005年)、437億ドル(2006年)、434億ドル(2007年)へと、次第に減少している。このように、日本は、軍事費の増額はコントロールしながら、兵力と在来式武器の減縮し、最先端の兵器体系の獲得財源を準備している。
東北亜の六カ国の軍事戦略と戦力増強
21世紀初期、韓国の軍事戦略は、北朝鮮の脅威、周辺国との関係、米韓同盟の再編など、大きく3つの要素により影響されている。この20年間、北朝鮮より10倍も多い軍事費を使用していても、まだ北朝鮮よりも軍事的に劣勢におかれている理由から、2010年まで北朝鮮に対して独自的な抑制力を確保することを目標とし、陸・海・空軍力及び情報力の強化するために拍車をかけている。中国・日本などの周辺国に対しても、「未来の不確実な脅威に準備する」という名分で軍備競争も辞さない立場と取っている。また、2012年4月に予定された戦時作戦統制権転換など、米韓同盟の再編も軍備増強の重要な要因となっている。核心的な戦力増強の内容としてはF-15Kを始めとする空軍力の増強、イージス艦で象徴される大洋海軍志向、北朝鮮に対する地上打撃力の強化、情報力及びミサイル防御体制の構築などがある。
北朝鮮の軍事戦略は、韓国・アメリカ・日本などの軍事的敵対関係にある国家に対する在来式軍事力の劣勢を、核兵器・弾道ミサイルなどの大量破壊兵器(WMD)の確保で相殺しようとしていることだ。深刻な経済難と国際的な孤立に直面している北朝鮮の在来式軍事力は、装備の老朽化と訓練及び食料の不足から戦争遂行能力が大きく落ちている。これにより、北朝鮮は大量破壊兵器の開発に力を入れてきた。ところが、その意図は軍事力の抑制力を確保しながらも、一方、これを協議のレバーとし対米関係の正常化及び平和協定の締結など、自分たちの政治的・外交的・経済的な目標を達成するためのカードとして活用するという両面的な性格を持っている。
世界最大の軍事強国であるアメリカの東北亜の軍事戦略は、圧倒的な軍事力の優位を達成しており、同盟再編を通して中国の浮上を軍事的に牽制・封鎖し、北朝鮮の大量破壊武器の脅威を粉砕し、「テロとの戦争」に米軍と同盟国の戦力を迅速に投入する能力を確保しようとするものである。このためにアメリカは、軍事安保戦略の中心軸を大西洋からアジア-太平洋へ移動させながら、大規模で軍備増強に取り組み、米韓同盟と日米同盟を再編し駐韓・駐日米軍の戦略的な柔軟性を確保しようとしてきた。アメリカは2010年までに、海軍力の60%を太平洋に配置するという目標を立て、アメリカ本土の西部と太平洋司令部の本部があるハワイ、駐日及び駐韓米軍基地などに海軍力を大幅に強化している。その上、東アジアミサイルの防御体制の構築を急ぐ一方、2006年にアメリカ本土にあったF-15戦闘機及び戦爆機、グローバルホークを大挙グアムに移動させ、2008年初めからはF-22戦闘機も循環配置していくなど、空軍力の強化にも力を入れている。
アメリカの戦力増強の主要目標とされている中国も軍備増強に力を入れている。中国は「軍備競争や他国の軍事的協議に関与する意図はない」としながら、自国の国防政策は「本質的に防御的」であると強調する。しかし、そのように言いながらも、国家安保と統合維持、統一実現と全面的小康社会の建設のためには、軍事分野の核心を積極的に活用し、軍の現代化に動く必要があると主張する。そして、アジア-太平洋地域ではアメリカの軍備増強と日米同盟の強化、日本の平和憲法の修正の動きと集団的自衛権の追求、北朝鮮の核・ミサイル問題と韓半島の不確実性、領土紛争と海洋権をめぐる葛藤が主な注意事項として見なされている。2006年と2008年の国防白書によると、中国の軍事力建設の目標は、2010年まで軍の現代化の強固な基盤を磨き、2020年頃に重大な進展を成し遂げ、2050年前後に情報化された戦争で勝利できる情報化軍隊の養成を達成することである“China’s National Defense in 2006,”www.china.org.cn/english/features/book/194421.htm; “China’s National Defense in 2008,”www.china-defense-mashup.com/?p=2456。軍備増強の核心内容では、ロシアスホーイ-27、30などの戦力化、ミサイル防御体制に対する対抗戦力の養成、潜水艦と構築艦の増強及び航空母艦の確保推進などがあるが、これは主に領土紛争を始めとする海洋においての権利と利益を保護し、両岸事態発生時、日米同盟の介入を阻止するための目的から由来していると言える。
日本の再武装も中国の軍事現代化に劣らないほど、東北亜で焦眉の関心事である。過去、野蛮的な植民統治とこれに対する反省と謝罪がなかったことは、周辺国が日本の再武装の恐れさせる歴史的要因である。また、韓国とは独島、中国及び台湾とは尖閣列島、ロシアとは北方領土の問題をめぐり葛藤関係にある。その上に、世界最強国であるアメリカと軍事同盟関係であることは、日本の再武装に対する周辺国の恐れをもっと増幅させる。しかし、日本は自国の再武装が防御的な目的であり、北朝鮮と中国などの周辺国の軍備増強に対する不可避な対応であると主張する。日本は北朝鮮の核兵器とミサイル開発・保有、日本人の拉致問題、中国の浮上と軍事的な透明性の不足を東北亜の最も大きい安保脅威として認識している。また、ロシアの復活、周辺国との領土紛争、同盟国のアメリカが中東に集中することも安保の注意事項として分類している“Defense of Japan 2007 (Annual White Paper),”www.mod.go.jp/e/publ/w_paper/index.html。これによって、日本は軍事費の増額を自制しながらも、海・空軍力とミサイルの防御能力の強化に拍車をかける一方、再武装を制限してきた法的・制度的な制約を緩めようとしている。
最後に、強大国の地位回復するために努力しているロシアをみておきたい。まず、軍事戦略が「防御的性格」から「攻撃的性格」へと変化している点が注目される。ロシアは2000年に転換期を迎えた自国の状況及び国際関係を考慮し、「ロシアの軍事ドクトリンは本質的に防御的なこと」として規定した“Russia’s Military Doctrine (2000),”www.armscontrol.org/act/2000_05/dc3ma00.asp。しかし、2007年に入り、既存の軍事ドクトリンの改定を推進しながら、攻勢的な性格へ変わった。「今日の世界は、強圧的な行動の必要性がもっと増大されている」とし、自国の軍事ドクトリンがこの必要に対応すべきであると強調し始めたのである。ロシアはアメリカの単極体制、NATOの東進及びアメリカの東ヨーロッパのミサイル防御体制の配置、中央アジアにおける米軍の駐屯、アメリカ主導の「民主主義同盟」結成などを主要な脅威要因として指摘する“Russia Revises Military Doctrine to Reflect Global Changes,”RIA Novosti, March 5, 2007.。これによって、アメリカのミサイルの防御体制を無力化し、戦略的バランスを維持することを主要目標としながら、最近には戦略爆撃機の偵察活動を再開し、中国との合同軍事訓練を行うなど、東北亜においても軍事力及び軍事的な準備態勢を強化している。
このような21世紀における東北亜の軍費競争の特徴は大きく3つに要約できる。一つ目、最新戦闘機を始めとする空軍力強化の競争である。日本がF-15Jを保有すると韓国がF-15Kの導入と急ぎ、韓・米・日の三国がF-15及びF-22とF-5への戦力増強を考慮すると中国がこれに匹敵するスホーイ-30を購入した。二つ目は、海上戦闘艦及び潜水艦の戦力強化である。日本のイージス艦の保有は韓国のイージス艦導入の口実となり、アメリカのアジア-太平洋の海軍力の増強は中国の海軍力の増強に名分を与えた。三つ目は、ミサイルとミサイルの防御体制の競争である。北朝鮮のミサイル戦力の増強は、アメリカが主導している東アジアのミサイル崩御体制推進の祟りとなり、ミサイル防御体制の強化は、中国とロシアのミサイルの戦力増強及び衛星破壊武器など対抗戦力の構築へ繋がった。これは、周辺4国の宇宙軍備競争とまで達したが、その代表的な例として、中国が2007年に衛星破壊のためにミサイルを発射すると、アメリカも2008年にイージス艦からSM-3ミサイルを発射し故障している衛星を破壊したことが挙げられる。
3. 転換期における東北亜の情勢とオバマの登場
だとすると「手綱が外された」軍備競争を制御し、軍縮を図れる反転の機会はないのか。冷静に考えると、展望はそれほど明るくはない。オバマ政権のアメリカも強力な国防力と同盟体制維持を重要視しているし、中国とロシアは自国の軍事費がアメリカよりも法外に少ない上に、軍事力の現代化の面からも遅れていると考える。東北亜の秩序に薫風を興すと期待された南北関係は、李明博政権以後、逆行を繰り返している。東北亜の問題児として浮上した日本が東北亜の平和軍縮に積極的に取り組むことも期待しがたい。そして、東北亜の国家の間で、歴史教科書の問題と領土紛争からもよく表れているように、各国の民族主義の傾向も大きくなっていくばかりだ。しかも、国益や政権の利益を超えて、普遍的価値と共同繁栄、強力安保を推進できるような東北亜の市民社会の発展水準というものも高くないと言える。
しかし、反転の兆しやチャンスなども発見できる。まず、六カ国協議という枠である。ブッシュ政権が北朝鮮との直接対話を避け、国際的な圧力構図を作るために強く通してきた六カ国協議は、東北亜問題の解決の大切な土台となっている。2005年の9・19共同声明においては「東北亜の恒久的な平和と安定のために共に努力していく」とした。また、2007年の2・13合意では、「東北亜の平和安保体制の実務会議」を創立させることとし、間欠的に会議をしている。とりわけ、中国とロシアは強い意欲も示している。これと共に、オバマの登場は、2つのポジティヴ的な意味を持つ。六カ国協議が東北亜の平和体制として発展するために必要とされる基本前提は、北朝鮮の核放棄と米朝関係の正常化だと言えるが、オバマ政権は「タフで直接的な外交」をしていくことを公言した。また、オバマのアジア政策では、東北亜の平和体制のような多者間における協力の枠組みがその中核におかれている。
二つ目、東北亜で権力の再編が行われることになって、どの国も秩序と規範を強制する覇権的地位が確保できていない反面、協力の必要性はもっと大きくなっている。「周辺4強」と言われているアメリカ・中国・日本・ロシアは、核保有国であり、UN安保理の常任理事国でもある。また、韓国の国力もある程度のレベルに到達しており、北朝鮮も東北亜の国際関係において一定の発言権とレバーを確保している。これは、どの国も対外関係において、一方主義を守ることが難しくなっていると同時に、協議と妥協に基づいた多者主義の必要性が大きくなった構図的な要因であると言える。とりわけ、オバマは、ブッシュのように「帝国」の建設を図るより、協力的な多者主義とリーダシップ回復を通した世界戦略を公言した。これは、21世紀初、猛威を振るった強大国間における覇権競争傾向が退潮され、協調体制が登場する可能性が大きくなってきたことを意味している。
三つ目、韓半島問題と共に、東北亜の核心的な不安要因として論議されてきた両岸関係の解氷モードも注目すべきである。民主進歩党の陳水扁(チェン・ショイピエン)の時代に、台湾の独立問題で激しく対立していた中国と台湾は、国民党の馬英九(マー・インチュ)の政府の出帆のきっかけで和解時代を迎えることができた。このように両岸関係の改善は、東北亜の安保ジレンマを解決させる重要なきっかけとなった。アメリカのアジア-太平洋の戦力増強及び米国同盟、日米同盟の再編と中国の軍事力の現代化路線が衝突することで激化された東北亜の軍備競争の裏面では、両岸問題をめぐる日米同盟と中国の対立が存在した。しかし、両岸関係が大きく改善されることで、これらの国家の間における葛藤も大きく減った。このような状況の中で登場したオバマは、「一つの中国」と「台湾防御」という伝統的な制作の延長線上にいながらも、経済危機の解決と国際平和の増進のために中国との協力を強調している。
四つ目、アメリカ発の金融危機から始まった地球規模の経済危機の余波である。経済危機が東北亜の軍備競争や平和体制の未来と関連して注目されるのは、以下の3点からである。まず、経済成長が軍備増強の物的土台という点で、経済危機は各国の軍事費増額にも圧迫の要因となる。また、2008年12月中旬に開かれた韓・中・日の首脳会談からもわかるように、金融・経済危機は、国家間の協力の必要性を大きく増進させる。経済協力が安保協力へとまで発展できるかどうかはこれからのことであるが、経済的相互依存性の増大が安保葛藤を避けようとする動機として作用する傾向は明らかに存在している。また、東北亜の六カ国の深刻な景気後退、失業及び所得減少、社会安全網の不備などで、内部的な不安が高まり、軍事費を凍結・減縮させ、内部問題の解決を推進しなければならないという必要性も求められてきていると言える。
もちろん、既述したことは、未完の可能性に過ぎないかもしれない。北朝鮮の核問題が解決されなければ、六カ国協議で東北亜の平和安保体制を本格的に論議することも難しくなる。もし東北亜の平和体制が本格的に論議されることになっても、「ただ集まって、お茶を飲みながら話し合う親睦会」のレベルに転落する可能性もある。両岸関係もまたいつ悪化されるかもわからないし、「覇権国が不在する東北亜」が多者間協力体制を作り出せる「必要十分条件」でもないのだ。内部的な不安の要因を外部に対する関心へ切り替えるために、もっと攻撃的な対外政策を追求する国も現れる可能性もある。結局、前述した東北亜の平和軍縮の可能条件と環境は、未だに可能性に過ぎないかもしれない。
4. 国際市民社会が進み出るべきである。
ネガティヴ的な流れとポジティヴ的なきっかけが交差している東北亜において、軍備競争を終息させ強固な平和体制を構築するためには主体の形成が必要である。しかし、国益あるいは政権の利益を追求する政府の政策決定と国家間の協議においては、議題設定やその履行が狭小され、その結果、やはり普遍性を持たない場合が多い。様子をうかがったり責任を転嫁したりすることや、そして相手の意図に対する警戒心が根底にある状況の中で、主権を一部譲渡することが必要な共同安保と軍縮体制を国家主導で構築することは非常に難しい。結局、このような限界を乗り越える力は、国際市民社会から求めるべきである。
東北亜の平和軍縮において、国際市民社会が自分の位相と役割を強化できるきっかけは、存在する。まず、各国の外交安保政策の決定過程で世論の重要性が次第に大きくなっていると言える。国際政治の舞台において、次第にその重要性が強調されている「ソフトパワー」の中核は、「強制力」よりも「魅力」の力で相手の心を動かすことであるが、ここでは、結局世論の向背が大半の成敗を左右する。また、六カ国協議の参加国の中で、どの国も東北亜の公正な未来に対する議題とビジョンを提示できないでいる。一例として、六カ国協議でアメリカ側の首席代表であったクリストファー・ヒル国務次官補は、2008年7月、アメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)の講演の中で、「六カ国協議がこれからどんな仕事をすべきであるかについて、我々はアイディアが必要である」とし、NGOを始めとする市民社会の役割が要求されていると強調した。
そして、もっと根本的なこととして挙げられるのは、世界体制の変動である。今日の世界は、「巨大な網(ネット)」と言ってもいい程、相互関係性が非常に強く、国際秩序に影響力を行使する行為者の性格も多変化されている。このような状況においては、アメリカ発の金融危機が全世界の経済を強打したように、ネガティヴ的な相互関係性が存在する。しかし、ポジティヴ的な相互関係性の可能性もある。例えば、1991年、北米とヨーロッパで6のNGOとしてスタートされた地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)は、1997年、60カ国の1100以上のNGOが参加するグローバルキャンペーンとして発展し、これは1997年のノーベル平和賞授賞や対人地雷禁止協約締結へと繋がっていった。これは、ネットワーク時代において、国際市民社会の潜在力が確認できた事例であると言える。
国際市民社会はまさにこのようなポイントをキャッチしなければならない。排他的民族主義と国家第一主義へ世論が変質されていかないように、共同のアイデンティティとビジョンの準備に力を注ぎ、これから六カ国協議の東北亜平和安保体制が「各国の政府代表が集まって、ただ写真を撮る社交場」へ転落しないように、議題の発掘や拡散、その反映と実現に向けて、積極的に動くべきである。さらに、「巨大なネット時代に、影響力を行使できる力は、関係性(connectivity)から生み出される」Anne-Marie Slaughter, “America’s Edge,” Foreign Affairs,Jan./Feb. 2009.という点に注目し、国境を越えたネットワークの構築にも積極的に取り組むべきである。
まだ空白状態にある東北亜平和安保体制の議題と関連して、国際市民社会が積極的に提議できることは大きくこの3つに分けられる。一つ目は、韓半島の非核化を東北亜の非核地帯へ発展させていくことだ。これは、東北亜安保不安の原因の一つを除去するという意味を持つと同時に、「韓半島の非核化」と「朝鮮半島の非核化」の間における葛藤を解決する有力な方法である韓・米・日の三国が言う「韓半島の非核化」は、北朝鮮の核問題の完全な解決を意味している反面、北朝鮮が言う「朝鮮半島の非核化」は、アメリカの確固な安全保障、アメリカの核兵器の韓国の再搬入及び一時通過の禁止、アメリカの核傘の撤収など、もっと広範囲な内容を含めている。核兵器の不使用の約束、核兵器の再搬入の禁止などが盛り込まれている非核地帯はこのような概念と目標の間における葛藤が解決できる方法になり得る。。二つ目は、六カ国協議参加国の軍事費の凍結である。軍事費は軍備競争の最も重要な地表であり、物理的な土台である点で軍事費を凍結・減縮しないことには、確固たる平和体制を構築することに限界がある。六カ国が共に軍事費を凍結すれば、軍備競争体制を軍縮体制へ転換する重要な出発点になる。三つ目は、東北亜平和配当基金(Northeast Asian Peace Dividend)の創設である。これは、六カ国が凍結・減縮した軍事費の一部を共同の地域基金として蓄積し、代替エネルギーの開発と人的交流の支援などの共同の目的に使用しようというアイディアである。
このような議題を六カ国協議に反映させるためには運動が不可欠である。まだ、微弱ではあるが、ネットワーク構築のために、東北亜の軍縮運動はすでに始まっている。筆者は、2007年、アメリカワシントンに滞在中、公共政策研究所(IPS)に提案し共同プロジェクトを立ち上げた。その結果、アメリカでは、30人程の活動家と研究者が参加する「アジア-太平洋軍備凍結キャンペーン」が結成されこのキャンペーンに関する詳細な内容は、http://pacificfreeze.ips-dc.org、筆者が関係する平和ネットワークは、この集まりを支援するために、2007年8月から6ヶ月単位で、一人のインターンを派遣し、実務を手伝っている。さらに、平和ネットワークとアリラン国際平和財団この財団に関する詳細な内容は、www.aipf.or.krは、「2008年、光州平和会議:東北亜平和体制と国際連帯」を開催した。そして、アメリカ・日本・中国・カナダ・韓国の参加者とEメール・画像会議を通じて持続的にコミュニケーションを取っており、現在は、今年5月にアメリカのワシントンで行われる東北亜軍縮会議(IPS主催)を準備している。
また、昨年の7月、全世界150余りの団体で構成されている国際平和運動団体であるグローバルネットワークは、2009年の国際大会を韓国で開催することを提案した。平和ネットワークと参与連帯は、この提案に同意し国内で組織委員会を構成した。このグローバルネットワークは、1992年以後、毎年、国際平和大会を開催してきたが、今までは全て、アメリカ・ヨーロッパ・オーストラリアで開かれただけで、その他の地域で開催されることは今回が初めてである。これによって、4月16日から18日まで、ソウルとピョンテクで開かれる「アジア-太平洋MD反対と軍縮のための国際大会」は、この国際軍縮運動を、韓国を始めとするアジアへ拡散させ、国際連帯を活性化させる重要な機会となるとみられる。
「周辺の4強」という表現からもよく表れているように、韓国は周辺国に比べ、軍事力は弱い反面、市民社会の力動性は非常に強いと言える。また、韓国は、東北亜で覇権を追求しようとする意志や能力はないが、軍備競争と覇権競争が激化された場合、最も大きい被害を受ける恐れがある。このような条件や環境は、韓国の市民社会が、東北亜平和軍縮のための国際市民社会ネットワークの構築に主導的な役割が果たされる土台を提供する。韓国の市民社会が、韓半島を越え、東北亜と世界へ視野を広げていかねばならない理由もここにあると言える。 (*)
訳=朴貞蘭
季刊 創作と批評 2009年 春号(通卷143号)
2009年 3月1日 発行
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