창작과 비평

〔対話〕 日本の原発事故から何を学ぶべきか

 

 
 
張貞旭 - 李必烈 - 尹順真 (左側から)
 
 
 

尹順真(ユン・スンジン)ソウル大環境大学院教授。気候変化・環境政策。「エネルギー転換」前代表。著書に『気候崩壊の時代』(共著)、『不確実性に対応するリスクガバナンス』(共著)など。
張貞旭(チャン・ジョンウク)日本・松山大教授。原発政策・環境経済。主要論文に「東アジアにおける原発拡散の推移と課題」「原発の使用済み核燃料の再処理、なぜ問題なのか」など。
李必烈(イ・ピルリョル)韓国放送通信大教授。科学史・エネルギー政策。著書に『ふたたび太陽の時代へ』『エネルギー代案をもとめて』『石油時代、いつまで続くか』『科学、私たちの時代の教養』など。
李必烈(司会) 福島原発事故は発生からほぼ2か月になりましたが、いまだに進行中です。日本社会の衝撃が非常に大きいのは言うまでもなく、世界のさまざまな国の原子力政策にもかなり影響を与えそうです。韓国では政策に対する検討の動きはありませんが、原子力発電に対する市民の憂慮は少しずつ増大しているように見受けられます。今日は日本の現状を見ながら、韓国の原発の安全性やエネルギー政策、世界の反応などについて意見をかわしたいと思います。

 

私の自己紹介を差し上げます。放送通信大で仕事をしていて、エネルギー問題については1994年頃から20年間ほど勉強し発言してきました。

はじめは原子力についてバランスの取れた見解を伝えるつもりでやっていましたが、エネルギー転換についての勉強の方に関心が移ってきて、今はエネルギーを限りなく少量使用で済ませるパッシブハウス(Passivhaus)を作ることを通じて、エネルギー転換を実践してみようというところまで来ました。

尹順真
 私はソウル大の環境大学院に在職中で、専攻は環境政策・エネルギー政策、関心事は気候変化です。主に気候変化の政治経済学、環境正義と気候正義、エネルギー代案、原子力と放射性廃棄物処理などについて考えてきました。特にエネルギーや気候変化の問題は、正しい生態的転換の観点から見るべきだと考え、それゆえにエコロジー民主主義とこのような問題を関連づけて考えています。李必烈先生につづいて市民団体「エネルギー転換」の代表をやったりもしました。
張貞旭 私は日本の松山大学経済学部で環境・エネルギー経済学、地方財政学を教えています。大学院で原子力政策論の講義を担当していて、主に日本の原子力損害賠償制度、および発電所周辺支援事業制度(電源三法)を経済学的に分析してきました。最近は使用後核燃料の再処理と高速炉について関心を持っています。現在、日本環境会議の理事としても活動しています。

 

福島原発、危険は終わっていない

 

李必烈 福島原発事故を契機にこの座談会が準備されたので、その現況から話してみます。3月11日に地震が起き、福島原発への電力供給が途絶えて事故が発生しました。その後展開した状況については、張先生、おねがいします。

張貞旭 4月29日までの状況を申し上げれば、3月11日以降、事故の収拾において進展はほとんどありません。注入するものが海水から淡水に変わったこと、3月24、25日頃から中央制御室などに部分的に電源が入ったこと以外に、状況はむしろ悪化しました。原子炉および水槽の冷却はある程度進んでいますが、その過程で漏れた水、すなわち高濃度汚染水が4月27日までに約8万 7500トンで、毎日約500トン増加しています。原子炉がいつ完全に安定するかわからず、また汚染水の処理も問題です。6月から原発の外部に汚染水の処理施設を設置するといいますが、いつ完成するかもよくわからない状況です。

現在もっとも危険なのは1号機と4号機です。1号機の場合、原子炉を囲む格納容器の中に水を満たして、原子炉の中の燃料棒を冷却しようとしています。4号機は水槽が問題です。現在の水槽の中に約1500程度の使用後核燃料があり、こちらの熱がかなりあります。4号機自体の爆発だけでなく、3号機の水素爆発があった時も水槽の構造物がかなり破損しました。今、補強をしていますが、熱も出つづけていて構造物があまりにも弱くなっており、余震や台風などで破損すれば、大きなリスクになるでしょう。

李必烈 汚染水の8万 7500トンをまったく予想できなかったといいます。私は事故後、海水を注いで冷やすといった時、はじめに考えたのは、原子炉の中で崩壊熱が生成されつづければ、水を注ぎつづがなければならないだろうし、だから結局、冷却水は海に流れて行くだろうということでした。明らかに日本の当局もこのような予想ができたはずですが、どうして後になって、予想できなかったというのか疑問です。

張貞旭 その時点では、すぐ安定化するだろうと考えたのでしょう。配管を通じて圧力制御室および覆水タンクのようなシステムに入るだろうと。ですが、配管および格納容器が損傷して水が漏れていくので、冷却がうまくいかない状態で注ぎつづけることになったのでしょう。蒸気になって出て行くのもありますが、溶けた燃料棒が下に溜まった状況になっているのでしょう。現在は蒸気になる分だけ水を入れています。漏れていってしまいますから。

李必烈 水素爆発事故が起き、はじめは淡水を上から注ぎ込んで冷却を試みました。ですが、それがうまくいかず、核燃料損傷と炉芯溶融が進むリスクが大きくなるので、結局、海水を注ぐという決定をしたのですが、この時はすでに燃料棒も一部溶けていました。東京電力や日本政府で、事態をかなり軽く見たと思います。

張貞旭 事故発生に2つの原因があります。まず、津波で非常用ディーゼル発電機が浸水したことです。2つ目に、非常用ディーゼル発電機が正常に稼動したとしても、海辺の海水(冷却水)取水ポンプのモーターが浸水したという点です。原子炉を冷却させる装置がすべて故障してしまったのでしょう。日本政府がつねに言ってきたのは、すべての電源が一度に切れることはないだろう、つまり正常稼働の場合には内部電源があり、非常時には外部の他の発電所で引いてくる電力もあるということでした。ですが、今回は地震で送電線や変電所がみなやられてしまいました。非常用ディーゼル発電機が使用不可能の場合には、バッテリーと「自然循環」(隔離時冷却系、RCIC)を利用しますが、バッテリーは8時間程度の容量しかないので、日本政府もこの8時間のうちには電源が復旧するだろうと期待していました。ですが、今回はそれに10日もかかりました。

尹順真 韓国政府は、韓国の原発はこのような事態に供給できる電源がさらに多く、供給時間も8時間でなく72時間であると強調しています。この違いになにか意味があるんでしょうか?

張貞旭 韓国内の原発の場合、蒸気発生器に残っている蒸気で動くポンプと、72時間使用する容量の非常用水タンクがあります。発電機が止まっても蒸気の力で72時間原子炉に水を供給できるというもので「自然循環」といいます。ですが、問題はその量が足りず完全な冷却は不可能です。また配管が損傷していないという条件のもとでの話です。

尹順真 8万 7500トンという量がどれくらいのものか、想定も困難ですが、韓国環境史で史上最悪の事態だった、2007年の三星重工業のホーベイスピリット(Hebei Spirit)号原油流出事件の時に流出した油が1万 900トンといいますから、その8倍の量です。

李必烈 そのうえ、その汚染の程度がひどいというのが問題でしょう。4か所の原発から放射能がどれくらい出たのか、チェルノブイリ事故と比べることはできますか?

張貞旭 韓国の原子力安全技術院に該当する日本の原子力安全保安院は37万テラベクレル(TBq)、安全委員会は63万テラベクレルであると明らかにしました。37万ならばチェルノブイリの放出量520万テラベクレルの約14分の1でしょう。これには海に流出した量は含まれていません。今でも毎日出続けています。1・2・3・4号機の合計出力はチェルノブイリの約3倍です。他の号機の水槽を含めれば約8倍の放射性物質を持っていますが、もし1つでも爆発事故がおきれば、ものすごい被害が予想されます。

李必烈 フランスの発表資料を見ると、今回の放出量がチェルノブイリの10分の1程度であるといいます。当時の日本社会の反応は、外部の発表がかなり誇張されているのではないかというものでした。ですが、結局、日本政府が事故レベルを4から5に、事故1か月後の4月12日にはまたチェルノブイリ事故と同じレベル7に引き上げました。37万テラベクレルならば、チェルノブイリの放射能漏出量の10%程度、63万テラベルならば15%近くになります。海に流出したものは含まれていないといいますが、その量が推定不可能だという面もあるでしょう。

張貞旭 東京電力の推測によると、4700テラベクレルだといいます。問題はこれが1週間程度の計算で、漏出の発見前にもすでに漏れていたと考えられるので、実際の量はさらに多かったでしょう。

李必烈 最大15%と推定しますが、脱落した部分や4月12日以降漏れつづけている量まで合わせれば、結局、チェルノブイリの水準になるでしょう。

張貞旭 それを超えうるということでしょう。いつ収拾するか誰にもわかりません。東京電力は9か月以内に安定化するといいますが、1号機の格納容器に水を満たすだけでも1か月程度かかります。また6月になって台風のような自然災害があれば、作業がさらに遅れる可能性もあります。水管作業をしている1号機の場合、5月8日に原子炉の建物の二重ドアを開ける計画です。しかし他の原発は、原子炉の建物に接近できずにいる状態でしょう。

尹順真 そのうえ湿度がとても高く、ロボットも撤退させたといいます。

張貞旭 2号機の場合、ロボットは測定と確認作業だけをしていて、補修作業はしていません。

李必烈 初期崩壊熱がかなり減り、事故初期に比べてリスクは減りましたが、放射能汚染が激しく、作業者を投入して収拾作業をするのはまだ不可能な状態で、まだ臨時の処置として水をかけて冷却させている、と整理できるでしょうか?

張貞旭 安心できない状態です。現在は蒸気として出る分だけ水を供給できるだけです。現在の核分裂生成物の崩壊熱は0.1パーセント程度に減りました。核分裂停止1時間後に6パーセント、1か月後に0.1パーセント程度に崩壊熱が低くなっても、2号機の場合、1時間に3トン程度の水を蒸発させるほどの高い熱量を持っています。

尹順真 1号機は40年、最も稼動年数の短い4号機でも33年で、みな30年以上と老朽化した原発です。今後ありうる地震や津波、台風に弱いという点も心配です。

張貞旭 そうですね。老朽化した4号機の水槽構造物が爆発で弱くなり、補強工事が進んでいます。

尹順真 使用後の再処理から出た、プルトニウムとウラニウムを混合した燃料を使う3号機のプルトニウムについてはどうですか?

張貞旭 3号機の場合、原子炉内部の温度が上昇しましたが、初期よりはかなり低くなり多少安定したと見られます。ですが、4月27日に東京電力が、敷地内の土壌でプルトニウムの崩壊から出る超ウラニウム元素であるアメリシウムやキュリウムを検出したと発表しました。これらは半減期がかなり長い長寿命核種です。核燃料棒の損傷を物語っています。

 

日本社会が原発批判を敬遠する理由

 

李必烈 チェルノブイリ事故後、全ヨーロッパがかなり動揺しました。イタリアは国民投票を通じて完成した原発4か所を閉鎖するなど、各国の原子力政策に大きな変化がありました。日本でそれに次ぐ事故が起きたのに、特に世論の初期反応はそれほど高くないように見えます。

張貞旭 ひとまず津波の被害が大きかったので、原発に関する話はその次でした。最近、日本のマスコミは、津波被害の復旧を重点的に取り上げ、原発についてはそれほど取り上げていません。日本政府も原子力をはじめとするエネルギー政策の変化を論じる余裕がありません。また4月中旬からは、事故収拾の内容よりは、原発事故の被害補償問題を取り上げる記事が中心になっています。

李必烈 事故以降、経済産業大臣が、原子力政策は不変であると発言しました。

張貞旭 原子力反対派はいますが、原子力の必要性については全般的な同意があります。一方的な広報による影響かもしれませんが。

李必烈 政策を論じる余裕がないといいますが、はたして原子力政策について大々的に反省、検討できない、他の理由はありませんか?

張貞旭 非常電源の確保と耐震設計の補強に対する再検討の議論はありました。また、4月末に衆議院を中心に、再生可能エネルギー政策について超党派的な研究会を持つという発表もありましたが、一方で中部電力は、現在の定期検査で停止している浜岡 3号機を7月中に再稼働すると発表し、物議をかもしています。

尹順真 津波は被害地域が多少限定的である反面、放射能汚染は東京にまで及ぶ広範囲な問題なので、決して報道の重要性が落ちるとは考えられません。ひょっとして日本の国益のために自制する雰囲気があるのでしょうか?

張貞旭 一例をあげれば、ある評論家がテレビに出てきて、原子力政策を再検討するべきだという発言をしました。彼は本来4月まで出演することが予定されていましたが、その放送以降、出演辞退を要求されていたといいます。日本の三大広告主がトヨタ自動車、創価学会、東京電力です。東京電力は年間広告費が約200億円、2400億ウォンに達する巨大スポンサーです。

李必烈 広告主の圧力があったと思われる話ですね。

張貞旭 民間放送局なので、広告主に対する考慮がないことはないでしょう。また、公営放送のNHKでも原発事故に対する内容がかなり少なくなりました。

李必烈 民間でも公営でも、マスコミ全体で分析的・深層的な報道をするのが困難なようです。

張貞旭 4月中旬まで、事故について発表するところは、東京電力、原子力安全保安院、安全委員会などでした。ですが、政府が混線の余地があるとして、これを統合しました。そうしたら相互検証が不可能な状況になり、発表内容を通じて帳尻を合わせる余地ができてしまい、発表回数も減りました。

尹順真 だとすれば、主流のマスコミの他に、批判的な態度の学者、団体が発言する通路はありませんか? 韓国のインターネットメディアや一部の進歩指向の日刊紙では、アラブ首長国連邦への原発輸出などについて批判的な声を出しています。日本はどうですか?

張貞旭 日本にも似たインターネット新聞がありますが、それほど人気がありません。日刊紙の中には『朝日新聞』『毎日新聞』などが若干批判的な傾向を示すことはあります。事故後2週間は公開的な批判がかなり出ましたが、最近は東京電力など対策本部から伝えられる情報を掲載するだけにとどまっています。

李必烈 原子力発電について自らの立場を発言した人たちはいましたか? このあいだソフトバンクの孫正義社長が、これまで原子力発電を賛成してきたことを反省しているという報道がありましたが、それに対する反応はどうですか?

張貞旭 孫正義氏の主張は新聞で2度ほど報道されました。もっとも眼に触れるのは大阪府知事の主張です。大阪近くの福井県には日本で原発がもっとも多くありますが、その廃止を他の県の知事らと議論するとして、原子力反対の意思を表明しました。もう1つは、以前、原子力安全委員会の委員長などを歴任した古参の学者15人程度が集まって発表した声明です。ですが、原子力推進の反対というよりは、自分たちが慎重に検討できなかったことを反省するという内容でした。

 

反核・反原発住民運動の可能性

 

李必烈 私が見るところ、日本の方が韓国より先を行っている面があります。故・高木仁三郎博士のように内部人物が外に出てきて反原子力運動を行う場合があり、大学教授らの活動もあります。今回の福島事故の時も、市民団体「原子力資料情報室」の記者会見に福島原発1号機を設計したエンジニアが出てきて、自身がさまざまな面で間違っていたと説明するのを見ました。そのような人たちが市民団体と連携して活動していますから、韓国よりはいいのではないかと思います。韓国にはそのようなケースが一度もありませんでした。

尹順真 日本の方が韓国に比べていいと思われる点がもう1つあります。反核運動が全国的な流れを形成することはできませんでしたが、地方自治体レベルの住民投票を通じて新規の原発建設を阻んでいる事例がいくつかあります。

張貞旭 その最初の事例が新潟県の巻町ですが、実はこの町は昔から金権選挙で有名な地域です。原発建設を阻んだのは住民たちの長年の運動のおかげですが、すでに周辺の原発立地地域で、原発が地域発展に実質的に役立たないということを知っていたためでしょう。

尹順真 韓国では新規原発建設を阻んだ事例がありません。特に政府が同じ地域に「アメ」を提示しつづけながら立地を試みるという点が大きいです。私たちとは異なる日本の住民運動の力はどこから出てくるのか気になります。

張貞旭 巻町の他には原発誘致問題で住民投票まで行ったことはほとんどありません。住民の反発で議員たちが議会に案件を上程する前に拒絶する場合が多いようです。一般市民は建設敷地として予定されているところで、「自分の土地の不売」で対応したり、さまざまな人が土地を1坪ずつ購入する「一坪共有地運動」を行ったりもします。

李必烈 日本は地域レベルにおける事例もあり、地域住民運動の状態が韓国よりはいいと考えられます。ですが、福島事故以降、北海道のような地域では「あれは福島のことで私たちとは関係ない」などと言っているともいいます。長年続いた地域間差別に由来する見解の違いもありませんか?

張貞旭 現在は原発事故の直接的被害が福島県に集中しています。その他の近県では放射性物質の汚染による間接被害に関心が注がれています。政府発表の通り、影響はほとんどないと信じているようです。また福島原発から直線距離で約600キロ以上離れた大阪や京都の住民たちは、原発事故に対する関心がほとんどありません。

尹順真 事故地域からは遠いですが、その周辺にも原発はかなりありませんか?

張貞旭 私が住んでいる愛媛県には原発が3基ありますが、ながらく持続的に原発反対運動をしてきた団体があります。原発で反対デモをすれば20人程度集まりましたが、今回、市の中心街で開かれた反対デモには、10倍以上の300人が集まったといいます。

李必烈 東京では1万人も集まったそうです。

張貞旭 現在はそうですが、いつ状況が冷めてしまうかわかりません。

尹順真 韓国では4つの地域に21基が立地しています。これに比べて日本は21地域に54基が分散して稼動しています。原発に近接した地域住民の数がそれだけ多いということになります。

張貞旭 その大部分が疎外された後進地域で、人口も多く見積もって1万人程度です。また住民の3分の1以上が原発関連職業に従事している状況でしょう。

尹順真 ですが、西日本の海岸にある数多くの原発で事故がおきれば、当然ながら太平洋沿岸の都市に放射能物質が飛んで行くと思いますが、そのような状況に対する憂慮はないのでしょうか?

李必烈 韓国の場合、古里(コリ)原発から20~30キロメートルの半径に釜山(プサン)と蔚山(ウルサン)があります。福島事故以降、釜山弁護士会、地方議会などで古里原発1号機の閉鎖を決議するなど、原子力に対する反対の動きを見せています。日本にも東京、横浜、あるいは名古屋の近くにも浜岡という大規模原発がありますが、こちらは地震に弱い地帯といいます。もし浜岡で事故がおきれば、これら大都市に大きな被害があるはずですが、なぜ今、世論が動かないのか疑問です。

張貞旭 原発に近接した大都市の住民たちに関心がない理由は「目に見えない」ためですが、浜岡原発については全国的な関心が集まっています。1つには、大地震が起きると予想されている震源の真上に原発が位置しているためです。それゆえに日本の原発の中でも耐震設計が最も強力になっています。2つ目には、周辺に名古屋や静岡など、大都市が多く、原発事故がおきれば約3000万人の生活に影響を及ぼすおそれがあり、また半径20キロメートル以内に日本の動脈といえる新幹線と東名高速道路が通っているためです。日本には1972年に耐震設計指針ができましたが、それまでは断層という概念がなかったために、地震頻発地域という事実を知らないまま、そのうえに原発を作ったのでしょう〔4月30日のこの座談会以降、5月6日に日本の菅首相は浜岡原発(現在3基)の稼動停止を中部電力に要請した。日本・文部科学省の地震調査研究推進本部によれば、この地域で今後30年以内に震度8程度の東海地震が発生する可能性が87%あり、現在の電力会社は津波対策を立てているものの、その完成まで最低でも2年以上かかることが予想されるので、停止を要請するというものだ。だが、日本の国民の関心が集まったところだけを停止させる措置が、他の地域の原発に対する批判や全般的な原子力政策、およびエネルギー政策に対する議論を避けようとするものだという指摘もある。――張貞旭・注記〕。

尹順真 ならば日本の原発は耐震設計の程度がそれぞれ異なっているのですか? 韓国でもこの部分が明確ではありません。

張貞旭 みな異なっています。韓国の原発の場合、250ガル(Gal。重力加速度をあらわす単位。1Gal=1cm/sec2)です。アラブ首長国連邦に輸出するのは300ガルです。日本の浜岡原発の場合、耐震設計は800ガルから最大1000ガルまで耐えるといいます。

尹順真 日本は世界で唯一の被爆国です。それでこのような大規模原発事故が起きたのに、反応がいまひとつで少しおかしいと思います。

 

核兵器と原発に対する二重の態度

 

李必烈 核兵器については第2次大戦以降、反対運動もありましたし、国民的な認識があります。ですが、核兵器と原子力発電に対する態度は違います。原爆には反対するけど原子力発電は必要だと考えるんです。日本は核燃料サイクルを完結しました。核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、これをウラニウムと混合してモックス(Mox)燃料を作り、すでに福島3号機のような原子炉の燃料として使っています。そして昨年からは、1995年にナトリウム流出による事故で停止していた高速増殖炉をまた稼動させました。2009年末に日本政府が国際原子力機関(IAEA)に提出した資料によると、このように再処理を通じて分離したプルトニウムの量が4800キログラムとのことです。使用後核燃料の中にあるプルトニウムの方ははるかに多いです。14万キログラムを超えます。1000をはるかに超える核弾頭を作ることができるプルトニウムを作っているんです。

張貞旭 私も日本国民のほとんど大部分は核兵器に反対すると思いますが、どの国、どの体制でも、国家が主張すれば国民が拒否しつづけられるかわかりません。日本の外務省の1962年の資料によると、核兵器をただちに作ることはないけれど、開発技術と施設は保有するという根本的な考えが見られます。昔も今も国家が戦争を起こす時、国民がどの程度まで牽制できるか、私は懐疑的です。国民が個人の次元で核兵器に反対することはできますが、もし北朝鮮が核兵器を保有し、またアメリカの核の傘が保障されない状況がくるならば、話が変わってくるでしょう。

李必烈 韓国はすべての面で日本の後を行っています。再処理、高速増殖炉などに対する開発と推進も同じでしょう。韓国の再処理推進論者は、再処理が非核化宣言とアメリカとの協定違反であるという認識のために、「再処理」でなく「再使用」、または「リサイクル」といいますが、使用後核燃料からパイロプロセシン(pyroprocessing)方式を通してプルトニウムを取り出し、モックス燃料にして現存の原発でも使用し、高速増殖炉が開発されればそこでも使用するという内容は変わりがありません。日本が福島事故を契機に原子力政策を点検して徐々に減らしていくならば、高速増殖炉、再処理も放棄するしかありません。そのとき初めて、韓国および東アジア3国が政治・社会・経済的に望ましい方向に進む契機になるでしょうが、そのような流れがほとんど見られないということです。今後、日本が原子力全般について態度を変える可能性があるか、どうお考えですか?

張貞旭 昨年、高速増殖炉「もんじゅ」を14年半ぶりに試験稼動しましたが、試験3段階のうち最初の段階で機器落下事故が起き、正常稼動に今後3年以上はかかるでしょう。また4800キログラムのプルトニウムは英国とフランスの再処理工場にあるもので、外国から持ち込む場合にはプルトニウム粉末でなくマックス燃料の形態を取ります。現在、日本の再処理方式は韓国と異なり湿式(PUREX)です。ただ、副次的な再処理方法で韓国のように乾燥式(pyroprocessing)の方法も研究中です。

一方、古くなった軽水炉の寿命延長については、国民、政界、推進行政側で反対がかなり増大するものと予想されます。ですが、推進行政側の本心はこうでしょう。日本政府が2030年の導入を目指して新しい標準型原発モデルの開発を国策事業として推進中です。現在の老朽化した原発をただちに廃棄処分するとしても20年ほどかかりますから、廃棄するといって、新たに開発した原発モデルを作ろうということでしょう。つまり原発の数は減るでしょうが、発電容量の規模には大きな違いがないか、むしろ大きくなることもありえます。一言でいって、今回の原発事故を契機に日本の原子力政策が大きく変化する可能性はないでしょう。

李必烈 原発を漸進的・長期的に放棄する可能性はありますか?

張貞旭 そのような可能性もないと考えます。老朽化した原発を廃炉にして、新規建設を減らすこともあるでしょうが、原子力発電を放棄するはずはありません。ですが、もし原発事故が年内に収拾しなかった状態で「原子力政策大綱」が議論されれば、政策が大きく変化するだろうと予想します。原子力発電の比重を低くする可能性もあります。

李必烈 高速増殖炉、再処理に対する政策転換の可能性もないと見るべきでしょうか?

張貞旭 それは政策決定を左右する原子力推進派の最大の夢なので可能性がないと思います。核武装にもつながる技術です。日本の「原子力マフィア」は学界、政治家、行政官僚、産業界、マスコミという5つの集団です。東京電力、電力会社の労働組合などから支援を受ける政治家も多く、原子力関連業界出身の経済産業大臣もいました。チェルノブイリ事故の余波で1990年代には日本の大学で原子力関連学科の名がまったく消えましたが、少し後でふたたび登場しました。研究費支援はもちろん、東京電力による寄付講座も多く、東京大学などに入った講座支援金は60億ウォンに達するそうです。特に東京大学の教授たちが原子力委員会、原子力安全委員会、原子力研究開発機構などに名を連ねています。

 

誰が責任をとって賠償するのか

 

李必烈 日本の状況について最後に検討すべきは賠償問題です。福島事故で発生した被害と関連して賠償すべき金額がものすごいと思いますが。

張貞旭 日本政府は東京電力が賠償責任を負うべきだという立場です。まだ確定したことではありませんが、賠償金が不足する場合に備えて別途の支援機構を作り、政府および他の電力会社に資金を拠出させるという案を出しています。一方、東京電力の社長は、事故直後は全面的に賠償責任を負うといいました。ですが、2週間ぐらい過ぎて経済団体連合会の会長が「法律にもとづいて行うべきだ」といい、その2日後に東京電力の社長も「私たちも責任を感じている。ただ、原子力損害賠償法を尊重したい」と言うようになりました。今、法律、つまり原子力損害賠償法に違反しているのは日本政府です。この法律によると、関東大震災規模を超える天変地異による原子力事故が起きた場合、国家が責任を負うことになっているからです。

尹順真 報道によると、菅直人総理は今回の事故が天変地異に属さない、この程度の地震はこれまで予測されてきたので、会社が義務を果たすべきだといいましたが。

張貞旭 当時、科学技術庁長官だった中曽根氏が、1960年の国会答弁で関東大震災規模の3倍以上の地震による原子力損害が発生すれば、国家が賠償責任を負うと言ったことがあります。今回の地震はその40倍の規模でした。だから今回の被害は国家が賠償責任を負うべきなのです。

李必烈 賠償責任問題は論争の余地があるでしょう。福島事故による被害補償規模はどの程度でしょうか?

張貞旭 4月27日に被害補償に関する第一次指針が作成されました。ですが、事故が収拾した状態ではなく、被害状況が拡大しつづければ、賠償金額は正確に策定できません。マスコミでは数兆円と推定しています。日本のメリルリンチ証券が発表した4月8日時点の推定によると、最大12兆円(約144兆ウォン)に達するといいます。最近、日本政府は20兆円に達するとも推定しています。

李必烈 万一、福島原発事故が地震によって触発されたものでなかったならば、数十兆ウォンに達する賠償額を東京電力が責任を負うことになりますか?

張貞旭 たとえば1兆円を賠償するべきだとすれば、1200億円までは政府と締結した報償契約から出て、残りの8800億円を東京電力が出さなければなりません。電力会社の無限責任だからです。もし賠償できなければ、日本政府が国会の議決を経て支援できます。今回の事故について、東京電力が全面的に責任を負うべきだとすれば、会社は破産する可能性があります。ですから会社側で拒否反応を示しながら、賠償責任額の上限を決めてくれと要求しているんです。金融業界でも東京電力に莫大な資金を貸している状況なので、電力会社の立場を支持しています。

 

韓国の原発に対する政府発表の信憑性

 

李必烈 東京電力の保険価額が1~4号機合わせて1200億円という計算ですが、結局、その残り金額は、政府、すなわち国民の税金から拠出されることになるのですね。

福島事故当時の韓国の反応を見てみると、韓国政府は国民の2つの関心事について見解を発表しました。1つは、福島で発生した放射能は朝鮮半島上空を吹く偏西風のために韓国にやってこないということ、もう1つは、地震や津波の危険がほとんどない韓国の原発は安全であるということでした。ですが一般市民はそれは違うと考えました。不安な雰囲気の高揚には政府が大きく一役買いました。放射能はやってこないという韓国の気象庁発表とは違い、3月23日にキセノンが検出されましたし、数日後にはヨウ素、セシウムまで飛んできました。政府ははじめはやってこない、大丈夫だと言っていて、放射能物質が発見されるとすぐに、その程度は大丈夫だ、さらに1年間は雨を浴びたり飲んだりしても何の問題もないと説明しました。

政府はチェルノブイリ事故の時も、私たちの原発は加圧軽水炉で、ソ連で開発した原子炉とは炉型が異なるとして安全性を強調しました。現在の韓国の原発は大部分、加圧軽水炉で、月城(ウォルソン)の4基だけが重水炉です。今後も新型加圧軽水炉を開発するという計画です。

尹順真 現在の韓国の原発の現況は、21基が稼動中、7基が建設中、4基が建設準備中、2基が計画中です。第5次電力需給基本計画の最後の年である2024年までに合計で34基が稼動します。古里(コリ)の1号機が閉鎖されれば33基になりますし、月城原発もまだわかりません。原子力発電の比重を2024年までに全体の48.5パーセント、2030年までは59パーセントにまで上げるという計画を持っています。

李必烈 日本の当初の計画に比べても比重が大きいです。原発は普通、設備容量と稼動率によって発電量が変わりますが、韓国の原発稼動率は90パーセント以上で、世界で最も高い水準です。政府や「韓国水力原子力(株)」(韓水原)では、高い稼動率が技術力を立証していると主張します。

尹順真 本当に技術力のためなのか、あるいは、たとえば安全のために止めなければならない期間にも稼動しているということなのか、明らかにするべき問題だと思います。

李必烈 韓国の原発の安全性については2つの見解があります。1つはその技術力礼賛ですが、1978年に原子力発電を始めて以来、韓国の技術力が持続的に発展し、これに伴って故障や稼動停止が減り、高い稼動率に到達できたということです。もう1つは事故の事例です。韓日両国を比較してみると、日本では死亡事故がありました。2004年に美浜原発で4人が死亡し、1999年には東海核燃料工場で2人が死亡して、数百人が被爆するということがありました。反面、韓国では小さな事故が起こって故障も多くありましたが、人命にかかわる事故はありませんでした。でも、このようなことで韓国の原発の方が安全ではないかと言えるのでしょうか。

張貞旭 言えないと思います。美浜原発3号機の場合、原発の放射性のない140度程度の熱水配管が破裂して起きた事故でした。東海は臨界事故でしたが、基本的には機械の瑕疵ではなく、工場側の効率性を重視した運営方針の改悪からきた事故です。反対に、韓国で放射線被爆による災害を認めたケースはありますか?

尹順真 そのような事例はありません。1980年代に全羅南道・霊光(ヨングァン)で無脳胎児事件がありましたが、明示的な因果関係を発見することは困難でした。チェルノブイリや福島のように大事故がなかったので、むしろその危険を体で感じて説得することが困難なようです。

李必烈 韓国でも原発が稼動して30年が過ぎ、これまで放射能の流出事故や被爆事故がありました。ですが、徹底して調査・研究されたことはありません。基本的に放射能という、目に見えず触ることもできない物質を扱う原子力発電の特性のためでしょう。原発内部で放射能被害を減らすならば、作業者を頻繁に交代させる方法しかありませんが、それでは作業が円滑にできません。だからといって、少ない人数で長時間作業すれば、その少数の作業者の被爆の可能性が高まります。だから結局、被爆許容値を一般人より高く設定するのでしょう。今回の福島事故の収拾では、緊急の措置として限度を100ミリシーベルト(mSv)から250ミリシーベルトにまで引き上げました。

張貞旭 実はそれよりさらに高く上げる可能性もありました。人員が限定されていて収拾作業時間は長くなりますから。

李必烈 作業者が深刻に被爆すれば、結局、ガンや白血病のような結果になるでしょう。

張貞旭 原則的に原発作業者は被爆量が5年間100ミリシーベルトを超えれば、他のところで仕事をすることができませんが、今回の事故収拾の作業者には、被爆量が250ミリシーベルトに達しても、他のところで仕事ができるように許可する方向へ方針を変えました。今回の事故収拾の作業者は携帯用測定機が足りず、線量がわからないまま作業をした場合も多かったようです。また制度上の問題点もあります。このような作業者を管理するところは厚生労働省である反面、この線量記録を保管するところは文部科学省と、統一されていません。きちんと管理するのが困難な体制です。

 

原発技術の致命的な危険性

 

李必烈 原子力発電は人間が最も扱いにくい技術だといいます。今回の福島事故を収拾するために「50人の特攻隊」が出ましたし、彼らを英雄視する雰囲気ができました。韓国にもかなり報道されました。ですが、原子力発電の性格について、ドイツのある物理学者の言葉を借りるならば、人間の技術が問題を起こした時、人間が命をかけて死ぬ覚悟でそれを収拾するべきだとすれば、その技術は悪い技術であるといいます。これが今日、結局、大災難を引き起こしました。韓国の原子力関係者は日本の初期対応の失敗について指摘し、それとともに韓国の原発は安全だと強調します。ですが韓国の原発ははたして安全地帯でしょうか?

尹順真 両国の原発の炉型が異なるということは格別意味がありません。科学技術は人間によって運用されますが、危機状況における判断は完璧ではありません。今回の事故は日本の技術が劣等だったために起きたのでしょうか? 事故に対処しながら関係者は事業利潤のレベルで判断したでしょう。つまり最悪の状況ではなく、自らが望む状況を仮定して、自らの被る損害を最小化する側に動くのです。もし韓国で事故が発生したら、どれほど異なった対応が可能でしょうか? 人間の判断が介入し、ささいな失敗も致命的な結果につながるという点で、原子力は危険な技術です。

福島は日本で原子炉が福井に次いで2番目に多いところです。韓国の古里(コリ)もやはり、稼動中のものから計画中の原発まで合わせれば12基です。ですが、自然災害は同じ地域に同時に発生します。福島原発に非常発電機が13台ありましたが、そのうち12台が同時に浸水して使えなくなりました。古里のように一地域に原発が密集していれば、それだけ危険が高いでしょう。

李必烈 政府、原子力安全技術院、韓水原などは、韓国は日本と違い、地震のような自然災害の問題があまりなく耐震設計が充分にされている、津波にも備えている、特に新設の原発はもちろん、古里1号機にも水素除去装置が設置されているといいます。福島原発では1・3・4号機の燃料棒と水が反応して発生した水素が爆発することによって、原子炉の建物がすべて吹き飛ばされてしまいましたが、韓国の原子炉にはそのような水素を除去する装置があるので、水素が発生しても福島のような爆発事故は起きないというのです。ですが、事故を分析してみると、装置が不完全なわけではなく、人間が判断を誤って起きたのが大部分です。

チェルノブイリ事故は原子炉に電力供給が中断された時、慣性によって戻る蒸気タービンで、どれほど電力供給が可能なのか調べるために実験しました。ですが、このとき、進行がうまくいかないので、実験者が原子炉に入っていた制御棒を完全に抜いてしまいます。制御棒は核分裂を中断する役割をしますが、原子炉から完全に除去すれば核分裂の連鎖反応が爆発的に起きることがあります。作業者が判断の錯誤でとても危険な行動をしたんです。スリーマイル島(Three Mile Island)でも作業者が非常バルブをミスでかけてしまい、警報を無視して事故が炉芯溶融にまで発展しました。その前に起きた1975年のブラウンズフェリー(Browns Ferry)原発事故の時は、作業者がロウソクをつけて空気の漏洩を確認しようとして大火災になりました。

私は、韓国の原発の方が自然災害面において、また技術的設備や技術人材面において、日本の原発より安全なものだと思います。ですが、これまでの大事故を触発した作業者の失敗が、韓国で発生しないとはいえず、したがってこのようなミスで大事故が起きる可能性は韓国にも常にあると考えます。このあいだ古里原発4号機で停電事態が発生したのも作業者のミスで起きたんです。このような失敗がいくらでも大事故につながることがあるということです。

張貞旭 韓国、釜山の古里1号機の水素除去装置は、格納容器に穴を一つ作ったということです。当然、放射性物質も一緒に流出します。

李必烈 水素除去装置は、穴を開けて水素を大気中に出すのではなく、パラジウム(palladium)のような金属触媒を利用して吸着することによって除去するものです。電気が切れても作動するので被動型といいます。とにかく私たちの大多数は、一方では原子力発電の必要性を認めますが、事故の危険についてもかなり認知しているようです。88パーセントが原子力発電の必要性に同意しており、原発拡大建設に賛成する比率も60パーセントになります。日本よりも支持率が高いですが、反面、自分の地域に原発を建設することには賛成意見が25パーセントしかないということが、原発の危険性を意識しているという傍証でしょう。

尹順真 それと同時に原子力発電が安全と答えた人が72パーセントであると言っていますが、これは矛盾でしょう。最近では立地に関する選択肢で「地域発展の規模を見て決める」という内容が追加されました。つまり安全と経済的利益は交換できるという論理です。2010年7月の調査で回答者の約40パーセントがそのように判断したといいます。

李必烈 投資が多ければ原発が入ってきても大丈夫だという態度ですね。ギャラップインターナショナルでは、福島事故の以前と以後に、原子力発電に関する質問をしましたが、韓国の場合、違いがほとんどありませんでした。

尹順真 事故以前は65パーセントが賛成で、調査対象47か国中4位、事故後は64パーセントで世界第2位でした。事故前に2位と3位を占めたブルガリアとフランスで賛成率が落ちた反面、韓国ではほとんど差がなかったために順位が上がりました。中国でも賛成率が83%から70%に落ちましたが、不動の1位でした。

 

原子力は安く清潔で無限のエネルギーか?

 

李必烈 事故以降、福島原発から放射能が飛んでくると、傘やマスクをそろえるような反応は見えましたが、原子力発電自体に対する態度はそのままであるという話です。その原因を考えてみましょうか?

尹順真 ひとまず値段が安く気候変化に有利だ、清潔だという考えが支配的のように見えます。原子力文化財団が主張する内容をそのまま受け入れています。いや、原子力を放棄すれば費用をさらに多く支払わなければなければならないので、そのように信じたいのではないかと思います。原子力でなければ代案がないとか必要悪であるという認識が強いと思います。科学技術に対する楽観もかなりのものです。

李必烈 政府と韓水原は、原子力について値段が安く枯渇しない準国産エネルギー、二酸化炭素を排出しない、環境にやさしいエネルギーであると持続的に広報してきました。それでも不安を完全に解消することはできませんでした。だから国民は原子力発電に賛成しながらも自分の地域に原発が来るのは反対するんです。

尹順真 政府は原発が経済的であること強調するために、はなはだしくは最も高いガスを使う時と比較して、それも産業でなく家庭用で計算して、1世帯あたり1年に2万 5000ウォンをさらに負担しなければならないという結果を出したりもしました。だから市民には不安な気持ちがありますが、原発がなければならないと考えながらも、自分の地域には来ないことを願うんです。

李必烈 原子力ははたして実際に値段が安くて清潔なのでしょうか? 政府発表によれば、石炭やガスなどと比較する時、原子力の発電単価はキロワット時あたり40ウォン程度と最も低いです。ここには原発の閉鎖、放射性廃棄物の処分、保険など、原子力発電にかかる各種費用が入っているんでしょうか?

尹順真 政府によれば、発電原価には建設費を含む固定費や燃料費、運転維持費が入ります。原子力の場合、寿命後の発電所処理費や使用後核燃料の処分費、放射性廃棄物の処分費を考慮して計算しますが、原価が最も低いといいます。問題はそれぞれの費用をどの程度と想定するかということです。たとえば解体費用が1基あたり3251億ウォンとされていますが、他の国々では1兆5000億ウォンを超えます。

そのうえ、どの国も核燃料を処分したことがない状況で、使用後核燃料の処分費を想定するということ自体が理屈に合いません。他の電力源と異なり危険なので、実は保険料が相当高いのですが、韓国の場合、責任限度を500億ウォン程度と低く設定し、保険料負担が相対的に低くなっていることも考慮しません。国家が責任を負うべき事故時の賠償費用は最初から入っていません。また、どのエネルギー源よりも研究開発費の比重が高いですが、これもまったく考慮されません。過度に単純に計算されているんです。一言でいって、全体の周期費用をすべて含まずに、目に見えない補助金がすべて抜けている、内容のない経済性評価です。

張貞旭 日本の場合、原子炉のモデル交代に4000億円から5000億円程度の費用がかかります。その3分の1だけを考えても2兆ウォン程度が費用計算から落ちていることになります。また発電所周辺支援事業法による年間支出も電気料金から負担されます。

尹順真 韓国では電力産業基盤基金という項目で準租税を出しています。

李必烈 日本の発電単価はどうですか?

張貞旭 経済産業省で1994年に発表した資料と、それにもとづいた電気事業連帯会議の2004年の資料を見ると、原子力が最も安いです。反面、研究者たちは開発費用や発展基金を含めて計算すれば原子力が最も高くなると考えています。

李必烈 ドイツのグリーンピースの発電単価の研究では、原子力の外部費用を石炭火力と同等だとして計算しましたが、原子力が石炭火力に比べて発電単価が若干高いです。風力、水力よりははるかに高いです。

尹順真 原子力発電には広報費用も入っています。すべての消費者が納付する電力産業基盤基金で負担します。1年に100億ウォン程度なので単価に影響を及ぼすほどではありませんが、初めからその他のエネルギー源と異なった地位を占める計算になるでしょう。

李必烈 スイスのプログノス(Prognos)研究所の1998年の研究によると、きちんと保険に入る場合を仮定して計算すると、原子力の単価がキロワット時あたり1.8ユーロ、3000ウォンくらいになります。原子力の発電単価を計算するのはかなり難しく、考慮すべき要素を増やせば単価が非常に高くなるということを物語っています。

尹順真 このように計算も不可能なのに、あまりにも単純な数値を作り出して、真実のように広報して流布するということは欺瞞行為かもしれません。

李必烈 原子力は枯渇しないという主張についてはどのようにお考えですか?

尹順真 韓水原のホームページに行ってみると、このような文句があります。今後ウラニウムを使うことができる期間が60年ですが、これを再処理すれば60倍、すなわち3600年間使える、永遠だということでしょう。

李必烈 原子力発電は永久に使えると考える人は多いです。ウラニウムというものも地中に一定量埋蔵されているからです。ウラニウム鉱物はさまざまな種類に分かれますが、ウラニウム含有量1パーセント以上の鉱物はすでにたくさん掘り出して使用しており、今と同じ傾向ならば20年ほど後には0.1パーセント以下のものまで採掘しなければなりません。このようにして40年すぎれば、ウラニウムもすっかりなくなります。ですが、原子力が永久であるという主張によれば、再処理を通じて使用後核燃料に残るウラニウムとプルトニウムを取り出して高速増殖炉を稼動すれば、ここで燃料が増殖するから、ほとんど永久的に原子力発電ができるということでしょう。

尹順真 その過程で発生する廃棄物の量、危険性、経済性については、きちんと議論されていません。

李必烈 このあいだ韓国政府はアメリカとのパイロプロセシンの共同研究に合意しました。プルトニウムをはじめとして高速増殖炉に入る核燃料を抽出するというものです。高速増殖炉は2030年頃までに開発する計画ですが、はたしてその時までパイロプロセシンと高速増殖炉が実現できるかは、今後の様子を見なければなりません。結局、枯渇しない原子力というのは、再処理、高速増殖炉を前提にしたもので、万一、その前提がくずれるならば、30年後には核燃料を求めること自体が難しくなり、エネルギー破産にいたることもあるという話です。

では、このあたりで、原子力が二酸化炭素を排出しないから清潔なエネルギーであるという主張を、どのように見るべきか、議論してみたいと思います。2005年頃から流行している「原子力ルネサンス」という言葉が、まさにこの主張にもとづいたものでした。

尹順真 2004年以来、建設され始めた原発35基のうち、半数以上が中国に、残りは韓国、ロシア、日本などに建てられました。ヨーロッパはフィンランドとフランスの両国だけに1基ずつ建設されました。東北アジア中心のブームであり、全世界が原子力発電に注目したと見るのは無理があります。また、低炭素がすなわち環境にやさしいという公式や、低炭素という用語自体に対する認識も再検討する必要があります。

良質のウラニウム鉱がほとんど枯渇した状態なので、それだけウラニウム濃縮過程が必要になります。ウラニウムを採鉱して濃縮した後、核燃料を整形加工しますが、この段階を発電以前の先行周期といいます。また、使用後核燃料をはじめとして、寿命が終わった原子炉廃炉などの過程が必要ですが、これを後行周期といいます。ですが、多数の国々では先行周期がおこなわれないために、個別国家次元で見れば二酸化炭素排出が少ないといえます。ですが、後行周期は国家ごとにおこなわれます。このようにどの程度の期間にどのような形で管理するかによって変化する二酸化炭素の排出程度は、まったく考慮されていません。また、たとえ原子力が二酸化炭素を比較的少なく排出するといっても、他のエネルギー源では発生しない、放射能という物質を問題視しないこと自体が危険です。

張貞旭 日本では1974年第一次オイルショック当時、原子力に比重を置くべきだ、日本のエネルギー安全保障のために必要だという話が出てきました。1980年代に入ると原子力の経済性が強調され、1989年から原発は二酸化炭素を排出しないといっていました。そうして1992年に市民団体の批判があった後、「発電する時は二酸化炭素を排出しない」という表現に変わりました。

李必烈 韓水原がIAEA資料を土台に発表した内容を見ると、原子力は電気1キロワット時を生産する時、二酸化炭素10グラムを排出し、8グラムを排出する水力の次に清潔なエネルギーになっています。反面、オーストラリアから出た資料には、ウラニウム採鉱から原発閉鎖まで全過程を計算したとき、軽水炉の炭素排出量が60グラムとなります。これも採鉱する時、ウラニウム比率が高い鉱の場合がそうなのであって、比率の低い鉱は130グラムまで上がります。風力が21グラムですから、原子力の二酸化炭素排出量はその3、4倍に達する計算です。

尹順真 原子力発電で冷却水として使われた後に排出される温排水についても考えるべきです。温排水が自然に及ぼす影響が顕著ではなくても、長期間にかけて周辺の海洋生態系を攪乱させています。原子力の弊害のうちイオン排水の問題を最も深刻に考える見解もあります。

張貞旭 ですから私は、原発は電気を作る機械というよりは、海水を暖める機械であると考えます(笑)。電気を生産する蒸気はたった3分の1であり、残りは温排水で、1秒に7トン程度排出され、周囲の海の温度を4~5度上げています。

尹順真 たとえば1986年から原発が稼動した全羅南道の霊光(ヨングァン)は、潮の干満の差が激しく水深が低い西海岸にあるために、漁獲量や養殖業が深刻な影響を受けました。かと思えば扶安(プアン)の蝟島(ウィド)は、2004年に中低水準の放射性廃棄物処理場と中間保存施設の敷地申請をしました。霊光原発によって海水の温度が変化して漁業に相当な被害をこうむりましたが、霊光と違い被害補償をまったく受けることができず、地域経済が深刻な状況に置かれているので、危険な施設でも経済的支援になるならばと受け入れることになったようです。

 

エネルギーパラダイムの転換と世界の原発政策の傾向

 

李必烈 結局、原子力はさほど値段が安いものではなく、永久のものでもなく、清潔でもないといえます。にもかかわらず、韓国と日本の政府は原子力発電の拡大政策を固守しています。はたして電気という現代社会の必須エネルギーを得るために、原子力の危険を甘受しなければならないのか、他の方向に切り替えることは不可能なのか、検討してみる必要があります。福島事故以降、過去に盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の青瓦台政策室長を歴任した慶北大の李廷雨(イ・ジョンウ)教授は、事故はあったが原子力発電は続けなければならない、環境主義は理想主義に過ぎないと語ったことがあります。このような発言は、私たちの社会において、保守から進歩まで広範囲にわたって原子力に賛成していることを示しているということです。事実、改革的であるという参与政府(盧武鉉政権)も原子力については現政権と変わりありませんでした。

尹順真 原子力の問題は一日では解決できません。反対するにしても、ただちに原発を止めようというのでなく、建設中の原発程度でやめて、そのなかで可能な代案を模索するべきでしょう。盧武鉉政権は原子力を放棄することはありませんでしたが、国家エネルギー委員会、持続可能な発展委員会を通じて対話を試みたという点は、現在の李明博(イ・ミョンバク)政権と明らかに違うと思います。当面の経済的波及に対する憂慮のために市民との疎通が足りませんでしたし、原子力に対する高い支持度が相当な負担を与えたのでしょう。私はむしろ李廷雨先生のような立場や原子力発電を推進する側の方が、実は雲をつかむような理想主義ではないかと思います。私たちが視野を広げて現実を直視するだけでも、原子力発電の推進に先立って検討すべき数多くの条件や、表面化していない要素を把握できるでしょう。

張貞旭 理想主義、あるいは実用主義、どの立場を取っても、政府が原子力発電を守るならば、長所だけを強調するのでなく短所もきちんと説明するべきです。また国民は国民で、原子力でも再生エネルギーでも、エネルギーパラダイム自体を、豊かさから節約へと変更するべきです。

尹順真 韓国は1人あたりの総エネルギー消費や1人あたりの電力消費が主要先進国より高いですが、家庭部門の1人あたりの電力消費は主要先進国やOECD平均に比べて低いです。ですが、2000年から2008年の間に年平均で7.1パーセントずつ増加しています。さらに問題は、電気の半分以上を産業が消費しており、消費増加率もまた急速に増加しているという点です。このような状況で、現在の産業構造を維持しながら電力供給に変化を与えることが可能なのか、節約やエネルギー効率向上を通じて「消費を減らしながら再生エネルギーを拡大する」という方針を現実化できるかどうか、はなはだ疑問です。

李必烈 重化学工業の比重が高いドイツと比較するといいと思います。彼らは経済成長を着実に続けながらもエネルギー使用量が1990年以後少しずつ減少していて、電気消費水準も20年前と同じ水準です。現在のドイツの1人あたりの電気使用量は、韓国に比べて20~30パーセント少ないのです。エネルギー消費が増えてこそ経済規模が大きくなるというわけではないという傍証でしょう。結局、エネルギー消費を減らし、長期的な計画のもとにエネルギー源を再生可能なエネルギーに変えながら、原子力発電を放棄する方向を求めることができると思います。

尹順真 現在のエネルギー消費が、今の水準を維持するか少し超過するあたりならば、そのような転換が不可能です。核心は、産業、家庭、輸送のあらゆる分野で浪費されているエネルギーを減らすことです。ドイツは2050年までに必要な電力のすべてを再生可能エネルギーで供給するという計画を立てていますが、その前提はエネルギー消費に対する観点の変化です。エネルギー消費自体を半分以上減らすことを前提としているということです。いまだ経済性の低い再生可能エネルギーを拡大するためには、政府の政策による後押しがなけなければなりません。

李必烈 今後、日本の再生可能エネルギー拡大政策が活発になるだろうと予想されますが、決して原子力を放棄することはないでしょう。同様に韓国もパイロプロセシン、高速増殖炉に対する計画を守るでしょう。日本でも韓国でもプルトニウムを取り出して蓄積するのは、潜在的な、または事実上の核兵器保有国へと進むことであり、国際社会でもそのように認識されることになります。だとすれば、北朝鮮を核放棄に誘導することも難しくなるでしょうが、この点を考慮すれば、原子力発電は、電力供給や経済成長の観点だけでなく、平和の観点からも考えなければならない懸案ではないだろうかと思います。

張貞旭 日本の二大反核団体のうちの1つである原爆被害者団体協議会は、原子力と核兵器の双方に反対しています。ですが、社会全体的に、反核はあっても反原発は少数派です。解決困難な距離です。

李必烈 視野を少し広げて、福島事故以降の世界の動きも見るべきです。まずドイツでかなり大きな変化がありました。

張貞旭 1か月前、イスラエルが原発建設計画を放棄しました。アルゼンチンも放棄しました。現在、日本とベトナムが口頭で契約を結んでいますが、ベトナムの方が契約を撤回することもあります。そしてアメリカが2か所の建設を取り消しました。

尹順真 その国の国民世論が政策決定に反映されるか、つまり民主主義システムをきちんと機能させているかどうかも、原子力発電計画と深い関連があります。現在、原発を熱心に建設し輸入する国家が、はたして民主的に運営される社会かどうか、考えてみる必要があります。

張貞旭 アメリカが原発を作らない理由の1つは、経済性とそれを保障する料金制度にあります。アメリカの料金制決定では、市民団体も参加して必要のない部分を削減します。金融機関の融資も難しいので、原発事業を推進しようとしません。つまり料金制がどれほど透明かによって原発政策が変わるのです。すべての費用と利益を保障する韓国や日本の制度とはかなり違います。韓国と日本の電気料金制度は、建設中の原発および使用前の核燃料の購入費まで料金に含ませる「総括原価制」があり、この費用に一定の利益を保障する「公定報酬率」をかけるので、建設費の高い原発を建設すればするほど利益も増えるというシステムです。

李必烈 スウェーデンが1980年代に原子力発電を放棄した過程も、原子力発電が民主主義の試金石であることを立証しています。ドイツは数多くの市民がネットワークを通じて結合し、反対意見を陳述した結果、保守党の与党が福島事故後、寿命延長決定を撤回しました。これに比べて東アジア3国の市民社会は、まだそれほどの力量を示せずにいます。
尹順真 核のリスクは国境を行き来します。だとすれば、原発運営の過程だけでなく、原発建設自体に国際的な規制が必要のように思えます。

張貞旭 1970~80年代にフランスとドイツは主に国境地帯に原発を作りましたが、その建設過程で国家間の議論がありました。また最近、台湾が中国の原発立地について協議したいと明らかにしました。ですが、日本、韓国、中国の間にはそのような努力や試みがありません。

尹順真 最近、中国が原発を6基を作ると発表した白頭山(ペクトゥサン)への立地も問題です。これまでは事故以降、情報共助体制を樹立しようとしましたが、これからは建設以前の段階から相互に介入するべきでしょう。ここで中国の計画を阻む方法は、市民の圧力行使しかないと思います。

李必烈 福島事故から始まって、韓国の原子力発電やエネルギー政策、世界の原発政策に対する影響まで、多くの議論を交わしました。時間の制約でそろそろ終えなければなりません。福島事故を契機に、今後、韓国や日本の市民、また政策立案者が新たなエネルギーや社会システム、もう少し平和な東アジアの方向に進む道を模索できればと希望します。もちろんその道は容易ではありませんが、少しずつ考えを変えて実践する努力をするべきでしょう。長時間お疲れさまでした。
2011年4月30日、細橋研究所)

 

翻訳 : 渡辺直紀

季刊 創作と批評 2011年 夏号(通卷152号)
2011年 6月1日 発行

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