2013年以後の「韓半島(朝鮮半島)経済」: ネットワークモデルの提案
特輯_2013年體制議論の進展をために
李日榮(イ・イルヨン) 韓神大教授、経済学。著書に『新しい進歩の代案、韓半島経済』、『中国農業、東アジアへの圧縮』、『韓半島経済論』(共著)などがある。ilee@hs.ac.kr
* 本稿の初稿は韓半島平和フォーラム・セギョ(Segyo)研究所が開催したシンポジウム「「2013体制」に向かって」(2011.11.25)で発表したところである。
1. はじめに
2012年は重要な年である。アメリカと中国でも新しい指導部を構成しなければならない。「金正日(キ厶・ジョンイル)以後」の北朝鮮は政権樹立以来の最大の歴史的転換点を迎えている。韓国では総選挙と大統領選挙を控えて民心の波が政治圏をさらっている。新しい政治地形を作っていく国民大衆の知恵は素晴らしいが、熱望と失望のサイクルが繰り返されることもあり得る。今は新たなシステムと経済政策を準備する作業が真に差し迫ってきた。
このことと関連して「2013年体制」に関する議論が進んでいる。まず、白樂晴(ベク・ナクチョン)は2013年体制の問題を提起しながら、これまでの福祉談論を平和・公正など重要議題と結び付ける必要性を提示したことがある。 白樂晴、「「2013年体制」を準備しよう」、『実践文学』2011年夏号。ここで強調されたことは議題そのものよりは2013年体制の内容を満たす色んな議題間の「賢い結合」である。このくだりの単行本での収録頁は、白樂晴、『2013年体制作り』、創批、2012、82頁。 これに対して金鍾曄(キ厶・ジョンヨプ)は平和・福祉・公正を可能と足らしめる政治、規範、社会的連帯感の重要性を強調した。これは2013年体制の主要議題を貫く原理を議論した点で一歩前進したと言えよう。しかし、システム全体の「大きい絵」までは出していない。金大鎬(キ厶・デホ)は2013年体制を87年体制と金大中(キ厶・デジュン)改革の合理的核心を継承・発展、または否定することとして捉えることによって政策的体系化を試みた。だが、世界体制・分断体制の変動という条件と、新しい秩序の作動原理まで論じてはいない。 金鐘曄、「よりよい体制に向かって」、『創作と批評』2011年秋号;金大鎬、「2013年体制は新しいコリア作り」、『創作と批評』2011年秋号。
一方、進歩的経済学界では反新自由主義連合としての代案を出す傾向が目立つ。 安賢孝(アンヒョンヒョ)・柳東民(リュドンミン)は進歩陣営の分裂を克服する代案として、社会民主主義代案への収斂現象を述べたことがある。安賢孝・柳東民、「韓国で新自由主義の展開と理論的代案に関する検討」、『社会経済評論』35号、韓国社会経済学会、2010。 しかし、新自由主義というフレームでは現実に存在する世界体制と分断体制の制約条件をまともに認識しにくい。また、グローバル化と国民国家の弱化に従って社会民主主義代案はますます現実で作動可能な代案となりがたくなっている。 社会民主主義は国家次元のプログラムを通じて資源を多数の大衆に再分配するという理想と運動を代弁するが、イマニュエル・ウォーラーステインはこのような社会民主主義代案はもう「幻想」であると指摘したことがある。社会民主主義の成功を支えた条件は、世界経済の拡張と世界体制におけるアメリカヘゲモニーであるが、世界経済は長期沈滞へと入っていったし、アメリカのヘゲモニー権力は長くて緩やかな衰退の過程へと入っていったということである。Immanuel Wallerstein, “The Social-Democratic Illusion,” Commentary, No. 313, September 15, 2011, http://www.iwallerstein.com/socialdemocratic-illusion/. 韓国語訳本、「福祉国家モデルは持続不可能…代案は?」、『プレシアン』、2011.9.16参照。
韓国の場合は高齢化、成長限界、韓国と北朝鮮の統合が作り出す数量的制約を勘案すべきである。そこで福祉を追い求めながらも「国家主義」を越える経済モデルを模索する必要がある。 李兌洙(イテス)・金淵明(キ厶ヨンミョン)・安秉鎭(アンビョンジン)・李日栄の対話「福祉国家論は進歩の代案なのか」、『創作と批評』2010年秋号;李日榮、「福祉議論が押し分けて進まなければならない三角波」、『創批週間論評』、2011.2.16。筆者はこのことと関連して新しい代案的経済秩序を「韓半島経済」、すなわち「韓国と北朝鮮それぞれを改革し、韓国と北朝鮮を統合して世界と共存する新たな体制」だと定義したことがある。 拙著、『新しい進歩の代案、韓半島経済』、創批、2009、6頁。本稿ではこのような「韓半島経済」の構成要素と組織原理をより具体的で明瞭な形で提示してみたい。つまり、環境変化を考慮して課題を提示し、これを遂行するための戦略と制度・組織形態を議論してみたい。
2. 平和秩序と国家・超国家ネットワーク
新しい経済モデルを構成するためには世界の次元、東アジア─朝鮮半島の次元、韓国内部の次元での環境条件を検討すべきである。まず、世界の次元から見てみよう。アメリカの一極体制の中で進んだ金融資本主義の時代が終りつつあり、新しい世界体制が模索されている。これまでアメリカが強化するか衰退するかに対する論争は絶え間なかった。だが、2007~8年の経済危機を経験しながら、いくつかの変化の方向性は明らかになったと言える。
これまで全世界的に進んでいた金融的膨張にはブレーキが掛けられた。金融世界化は株式市場、不動産市場、派生商品市場の拡大と、それによる社会構造の再編を意味することであった。しかし、2007~8年には無謀な証券化の危険が露になった。アメリカとヨーロッパの投資者たちは損失を被ったし、それは金融体系全般の信用危機へと広がった。この危機は世界的な不況と重なって周辺の新興国に伝播された。 2008年の末、アイスランド・ハンガリー・パキスタン・ウクライナ、2009年始め、ベラルーシ・ルーマニアなどが相次いでIMFの資金支援に依存することとなった。特に外貨表示短期負債を多量保有していたアイスランドは、通貨価値が暴落し、3大銀行を国有化しなければならない最悪の危機を迎えた。
アメリカは金融システムの不健全性が露になったなかで、問題解決の能力が制約されている。経常収支の赤字が深刻で政府の財政も赤字状態であるが、政治圏では国家負債の限度増額と財政赤字を減らすことに対する意見が分裂されている。財政拡充に反対する草の根運動と金融権力に抵抗する草の根運動とが同時に進んでいる。ヨーロッパの危機も続いている。ヨーロッパは多くの国々が通貨は統合されているが、財政は各国が独立している矛盾のなかでユーロ圏(Eurozone)を守ることさえ難しい状況に行き着いた。日本は長期沈滞と大地震の災難のなかでこれを克服する国内的リーダーシップが作り出せないでいる。
一方、中国の影響力は増大している。中国は改革・開放以後、30年以上急速な実物的成長を続けてきた。これはドル体制に便乗した輸出重商主義の成果に負うところが多い。だが、アメリカとヨーロッパ市場の沈滞、中国国内のインフレと格差の拡大、莫大な地方政府の負債、急速な高齢化の趨勢のような問題がある。一定の時間が経つと、中国の成長勢は鈍化するだろう。 中国が「世界の工場」となった裏面には、中国がグローバル生産ネットワークに編入されてアメリカ・ヨーロッパ・日本の企業によって生産量の統制を受ける現実が存在する。中国はすでに西欧と深い関係を結んでいる。成長が鈍化し、社会的危機が深化すると、市場に対する国家の統制がより強化されることもあり得る。
中国は長い領土主義帝国の歴史を持っている。それでチベットと新疆ウィグル、南シナ海などでも強硬な態度を堅持している。中国の寡頭制資本主義は相対的に資本主義的な特性が薄いため、地域的領土主義国家の道を追い求める可能性がある。中国が全世界の次元ではアメリカヘゲモニーに挑戦しないかも知れないが、東アジアの次元では発言権を積極的に主張する可能性が高い。特に朝鮮半島の問題と関連しては経済的次元はもちろんのこと、自国の領土的安定性という観点を重んじることと考えられる。
アメリカ、日本、ヨーロッパなど先進国は国内の問題を解決するにも手に負えない状況であり、中国も自分の国家利益を越えることは出来ずにいる。世界の次元では前に比べて「カオス」(chaos)の要素が強化されていると言える。 G. アリギは20世紀以後、世界体制のシナリオを西欧中心の全地球的帝国、東アジア中心の世界市場社会、世界的水準のカオスとして提示したことがある(『長期20世紀:貨幣、権力、そしてわが時代の起源』、白承旭(ベク・スンウク)訳、グリンビ、2008)。現実に最も近づいたシナリオはカオスであるように見える。世界体制論とは異なる脈絡であるが、ヌリエル・ルービニニューヨーク大教授、イアン・ブレマーユーラシアグループ会長などはグローバル・ガバナンスの不在状況を「G-ゼロ」と表現したことがある。
「カオス」のもとでは葛藤と衝突が生じうる。「秩序」は安定と均衡を特徴とする。現実はカオスと秩序との間のどこかに存在する。世界体制の次元でカオス状態への変化が現れている条件では、平和的秩序の形成を優先的な課題とすべきである。過去の秩序が緩む過程で生じうる暴力の拡大を警戒しながら、多層的なネットワークを作っていくことに注力すべきである。 微視的次元で定義されたネットワークは二つ以上の行為者集合として互いに反復的・持続的交換関係を追い求めながら、交換過程で生じうる紛争を仲裁・調整する法的権威体を持っていない組織形態だと言える。ネットワーク形態に参加する行為者は新しい機能と知識の学習、合法的地位の獲得、経済的成果の改善、資源依存の管理、社会福祉の改善という利益をもたらしてくる。Podolny, Joel M. and Karen L. Page, “Network Forms of Organization,” Annu. Rev. Sociol., No. 24, 1998, 59~66頁.
アメリカの世界的ヘゲモニーが弱まり、国民国家を越えて多様なネットワークが形成されている条件で、国家単位の戦略だけが有効なわけではない。これまで韓国は発展主義モデルに従ってきた。国家が主な行為者となって開放と経済発展を比較的、成功的に結合してきた場合として評価されたりもする。しかし、現在の条件では国家次元で全面的な経済共同体の形成を試みることがカオスへの傾向を強化することもあり得る。
例えば、韓米FTAや韓中FTAは国家間関係に焦点を合わせることである。国家行為者を主なノード(node、節)とする「ノード間の政治」(inter-nodal politics)の次元で押し進められている。だが、巨大国家とのFTAを通じて国家間分業や産業間分業の変更をもたらしてくることは、自然的に形成された均衡状態から脱する過程で取引費用を生じさせ得る。従って、今後国家次元で推進する大規模のプロジェクトは慎重に推進する必要がある。 韓米FTAの推進は国内的葛藤の費用を誘発する一方、アメリカと中国の東アジア政策が衝突する地点となり得るという点で論難が拡大されている。今のところ、韓米FTAはもちろんのこと、韓中FTAや韓日FTAの場合も通商問題の次元を越えてカオス化する世界体制の中における葛藤を誘発する可能性が高い。FTAの引き金が引かれた分、協商期間を長く持っていき、「低い水準」に調整されるよう努めながら、ネットワーク関係を強化することが望ましいと思われる。
東アジアにおける貿易と投資の拡大は、すでに自律的過程を通じて成されている。国家次元で至急に議論する問題ではない。市場の危険が高くて国家間の調整が必要な部門は金融と資源分野である。
今後、金融危機が頻発する可能性は高い。実物的成長のためには発展した金融市場が必須的であるが、すべての証券化には便益とともに危険が従うに決まっている。危機が避けられないなら、国家間の協力を通じてこれが管理できるシステムを設けることが重要である。 金融世界化によって金融危機が発生する可能性はより高くなったが、だからといって金融機能を閉止するわけにはいかない。危機を源泉封鎖することが難しいなら、危機に備え、危機を管理する方案を準備すべきである。また、韓国、中国、日本はすべて資源危機の可能性を持つ国家である。エネルギーと食糧のような資源は少数のメジャー供給者による独占と寡占的な市場構造が形成されている。また、派生商品への取引など、金融化が進行して価格変動が激しい。これらの資源市場で韓・中・日は比重のある需要者である。これら三国が協力すれば、市場の危険を下げながら市場構造を変化させ得る潜在力を持っている。
次に超国家ネットワークについて見てみよう。現在の世界体制がカオスの方に変化するのは、アメリカの優位が弱化したからである。これにはまた異なる理由もある。国家という行為者以外のネットワーク型行為者の比重が増加する趨勢も重要に働くのでそうである。超国的企業、地球的市民社会団体、国際機構などはその生まれからネットワークの形態を帯びる存在である。このような非国家行為者たちが国民国家の境界を行き来しているのである。 金湘培(キ厶・サンベ)、「ネットワーク世界政治理論の模索:現実主義国際政治理論の三つの仮定を越えて」、『国際政治論叢』48輯4号、韓国国際政治学会、2008。
東アジアにおける平和秩序は国家間関係だけでなく、多層のネットワークを通じて推進する必要がある。政治・軍事分野は国家次元の協力が重要である。だが、金融および資源部門、それから開発協力の議題では政府間ネットワークはもちろんのこと、非政府間のネットワークを活性化することによってネットワークに参加する国々の間における政策的収斂と協力体系の形成を図ることができる。 ネットワーク的要素を強化する方案としては、ヨーロッパ連合で試みられている開放型政策調整の方式が参考できる。ヨーロッパ連合の場合、経済・通貨・雇用・貧困救済・社会統合・環境などの分野で超国家機構・会員国政府・国家下部の行為者たちの間に垂直・水平の政策ネットワークが複雑に働いている。これを通じて中央集中型規制メカニズムから脱して協商と熟議、競争と調整を通じた分散型メカニズムを構築しようとしている。ミン・ビョンウォン、「ネットワーク国家のガバナンス実験:ヨーロッパ連合の開放型調整方式(OMC)を中心に」、『国家戦略』14卷3号、セゾン研究所、2008。
3. 南北連係と「地中海経済ネットワーク」
第2次世界大戦後形成されたアメリカ中心の世界体制は、東北アジアでは東西冷戦を延長した東北アジア冷戦体制として、朝鮮半島では分断体制として具体化したところである。分断体制は一つの体制でありながら、その下位に韓国と北朝鮮それぞれの体制を持っている。分断体制は弱化と強化の二つの傾向をともに持つ。上位の世界体制の変化、韓国の民主化、北朝鮮の蓄積危機と部分的市場化などは分断体制の基盤を揺さぶる要因である。韓国の李明博(イ・ミョンバク)政府の出帆と対北政策の変更、北朝鮮の後継体制の構築と核武装化の推進、南北間の対立の激化などは、分断体制を一時的ではあるが再び強化させたりもした。
北朝鮮は分断体制のもとで国家に権力を集中したが、これは経済危機を構造化した。中央執権的計画システム、高蓄積・強蓄積、重工業優先の政策は、インセンティブと情報の遮断、投資効率の下落、産業構造の歪曲をもたらしてきた。1970年代後半から進んだ生産危機は、90年代以後、全般的な経済危機へと拡大された。産業基盤と計画経済システムがほとんど崩壊されたし、内部の資源は枯渇された状態である。
北朝鮮の経済危機は重工業と軍事部門に偏った産業構造と、これを後押しした国家計画体制、つまり「分断体制と結び付いた国家社会主義経済」から出たものである。これに対する根本的な対応方案は対外開放、経済改革、韓国と北朝鮮の経済統合を連係して推進することになるしかない。 これは一種の「体制移行」に当たることである。このような体制移行プログラムの一番目の要素は対外開放措置である。これは特区の拡大発展、対外貿易と外国人投資の拡大などを核心政策とする。特区に誘致した外資企業に対する自由な企業活動の保障、外国人企業と競争する国内の既存企業に対する分権化とインセンティブ改革の推進など、制度的改善も伴うべきである。二番目の要素は深化した制度改革である。私的所有権を許容する財産権の改革、市場原理に基づいた賃金・雇用制度、企業制度に含まれていた社会保障制度の独立などが成されるべきだ。三番目の要素は南北間で市場と制度を統合することである。このためには韓国と北朝鮮の政府次元で代表性を委任した経済共同体を構成して、これの権能を保障する国内法をそれぞれ制定すべきである。前掲拙著、9章。歴史・地理的条件や参考するモデルは中国に近い方であるが、長期的には他の社会主義国家の体制移行過程に含まれていたプログラムが省かれることはできないだろう。従って、初期の改革・開放が遅延されるほど、それ以後の移行過程は急進的な形態を帯びることとなるだろう。
「金正日時代」には部分的改革・開放と軍部を先に立たせた支配体制の強化を同時に追い求めた。1998年の金剛山観光の許容、2000年の6·15宣言、2002年の7·1経済管理改善措置と開城工業地区法の制定などは体制改革の方便だと言える。逆に2006年10月の1次核実験は体制維持のための逆行的措置であった。
「金正日以後」は金正日が脳卒中から回復した2008年の下半期から始まったと見なせる。 2011年12月に金正日は死亡したが、金正日─金正恩(キム・ジョンウン)体制は2008年末~2009年初めから始まった。筆者はこの時期から事実上「金正日以後」が開始したと見なす。拙稿、「「金正日以後」と「韓半島経済」」、『創批週間論評』、2012.1.4。この時から北朝鮮は体制維持と後継体制の構築を最優先の課題として設定したと言える。2009年以後、北朝鮮の政策基調は軍部強硬派を先に立たせる先軍政治と、経済と社会に対する国家の統制強化として現れた。2009年5月には2次核実験を強行したし、11月末には貨幣改革を断行した。貨幣改革はそれまで部分的市場化を通じて蓄積された人民の富を一朝にして没収し、執権的計画体制を再び強化しようとする試みであった。
「金正日以後」の北朝鮮の体制は当分の間は安定性を維持することと思われる。現実はこれまでの「北朝鮮崩壊論」とは隔たりがある。北朝鮮は金正日に事故がある状況を想定して3年以上備えてきたように見える。また、天安艦事件と金正日の四回に渡る中国訪問を切っ掛けに、北中の協調関係は一層緊密となった。金正日の死亡後、周辺国はすべて北朝鮮の早期崩壊を望まない態度を示した。しかし、中長期的には北朝鮮体制の安定性が維持されることは難しいことと思われる。支配体制の維持のための統制システムの強化が、経済危機の克服のための体制改革の方向と構造的に食い違っているからである。「金正日以後」はカオス的要素がより強く作用することと展望される。
分断体制の解消には韓国と北朝鮮の経済統合と経済体制の改善・改革という要素が含まれている。特に北朝鮮の場合、国家社会主義体制の変更という過程を経なければならない。だが、北朝鮮が国家的次元で体制改革が断行できる余力は多くない。北中関係の強化はもちろんのこと、南北関係および北米関係の改善も既存の支配体制の維持を妨げない線で許容しようとするのであろう。北朝鮮の改革・開放と南北統合が噛み合って展開されることが望ましいが、そうならない可能性も考慮すべきである。従って、国家的次元の連合・統合以前にネットワークによる連携を積み重ねることが必要である。
国家間の協調体制がまともに働かないと、分断体制がカオス化しかねない。これを防ぐためには都市を単位にした越境的・地域的ネットワーク関係を積み重ねることがよい方法である。東北アジアの国々は領土と人口に対する統制に関心が多く、国家形成と戦争能力に重点を置く属性がある。南北間の葛藤と米中・中日間の葛藤も領土主義的な国家の属性から始まって構造化した側面がある。従って、領土主義的傾向のより弱い都市が主体となってネットワークを強化するプロジェクトを戦略的に押し進めてみる必要がある。例えば、東北アジアの海を連結する「東北アジア地中海経済」を想像し、目標として進むことができる。 ネットワークによる「地中海経済」のアイディアは、金錫澈(キ厶・ソクチョル)、白永瑞(ベク・ヨンソ)からも刺激を受けたものである。金錫澈は黃海共同体と黃海都市連合、朝鮮半島・遼寧省・山東省経済共同体、朝鮮半島西海岸都市連合などを取り上げるが、「共同体」や「連合」は「東北アジア地中海経済」に適切な組織形態を示す概念ではないと思われる。白永瑞は金門、沖縄、そして仁川の前の西海5島を連結する東アジア平和の「核心現場」ネットワークを提案している。これは国家主義が超えられる周辺部的位置の都市を「ネットワーキング」するという発想であるが、一つの意味のある要素となれることは確かだが、「地中海経済」では経済的比重の大きい都市間のネットワークがより重要だと判断される。金錫澈、『希望の韓半島プロジェクト』、創批、2005;白永瑞、「東アジア平和の「核心現場」ネットワーク:金門・沖縄・西海5島」、『韓半島平和体制と西海平和の島』、10·4南北首脳宣言4周年国際学術会議、2011。
「東北アジア地中海経済」は多様なレベルの都市ネットワークプロジェクトによって構成できる。例えば、(韓国に限った事例ではあるが)仁川─開城─海州、釜山─光陽─濟州の「小三角」ネットワーク、仁川─靑島─大連、釜山─福岡─大阪の「中三角」ネットワーク、ソウル─北京─東京の「大三角」ネットワークを構想してみることができる。経済的・文化的交流と移動を中心に活性化した都市ネットワークは、より制度的な形式を備える方向へ発展していくこともできる。これは「秩序あるアナーキー」を指向する。中心的統治の不在の中でもそれ自体に固有な黙示的・明示的な原則・規範・手続きを持つようにすることである。
「東北アジア地中海経済」では仁川と釜山の役割が新たに認識される。仁川は製造業の基盤と港湾・空港施設をともに保有していて国際ビジネス・物流基地へと発展する基本条件を備えている。開城と海州は仁川と連係される場合、グローバル競争力を備えた製造業と物流ベルトへと発展できる。 優先的に必要なことは南北間の交通および物流連係の基盤施設の建設である。仁川と開城の連結道路、海州港湾の拡充が至急である。電力・通信は別途のインフラを構築するよりは韓国側から支援する方式(電力は送電方式、通信は中継線方式)で設置することが望ましいと判断される。韓半島平和フォーラム「西海平和協力特別地帯構築の実行方案研究:西海平和繁栄と仁川イニシアチブ」、2011、186頁。一方、釜山は南海を内海化する中心の役割を担うべきである。釜山─光陽─濟州の小三角地帯は、製造業ベルト、物流ベルト、観光・文化・スポーツ産業ベルトに発展できる。 「地中海経済」形成のビジョンを立てると、新空港の必要性も説得力のあるように受け入れられよう。釜山─光陽ベルトは世界的な複合物流団地として発展する潜在力がある。閑麗水道と濟州まで連結された南海の海は、独特で世界的な魅力の持った名所として注目され得るし、東北アジアのMICE、すなわち、会議(Meeting)、褒賞観光(Incentives)、コンベンション(Convention)、イベントと展示(Events & Exhibition)の中心地となれる。
中三角ネットワークは韓中・韓日間の協力関係を発展させ、中日間の葛藤を緩和する効果をもたらしうる。中三角ネットワークは次のような点からネットワークを自己組織する動力を持つと思う。
一番目、中三角を構成する都市は、各国の首都と一定に競争する位置に置かれている。これらは競争力の確保のためにグローバルネットワークを形成しようとする誘因がある。中国内で経済や政治中心地とは離れている青島や大連は、自らの発展モデルを作る必要がある。これらの地域は韓国と地理的に最も近いながら歴史的に中国と外部世界との間の橋梁の役割を行った所である。九州の中心都市である福岡の場合、伝統的に釜山圏と活発な交流協力を行ってきた。東北大地震とバンコク大洪水で日本の部品素材企業は地理的に近い韓国に投資を増やそうとする意向もある。
二番目に、これらの都市ではコリアンネットワークが活用できる可能性が高い。一例に青島地域には現在、朝鮮族20万名と韓国人の常住人口10万名がおり、韓国企業は8000個余りが入っている。「ディアスポラ」(diaspora)は「移住」(migration)と対を成す概念であるが、世界化・地域化・情報化の流れは、19世紀以来、韓国人の苦痛に満ちた移住を全世界的な方向への「ディアスポラ」という新しい視角から認識するようにした。アメリカのシリコンバレー企業の浮上は、企業と企業外部との関連性、相互作用による学習を重視するようにさせた事例である。このようにコリアンネットワークも都市と企業のダイナミックな成長に寄与する余地が多い。
中三角ネットワークは韓・中・日の間の協力の強度を高めることだけでなく、脱民族環境における韓国と北朝鮮の統合にも肯定的なエネルギーとして働ける。現在、北中間の経済協力の核心プロジェクトは、長・吉・圖(長春・吉林・圖們)地域と羅・先(羅津・先鋒)地域との連係開発事業と、新義州鴨綠江のほとりの黄金坪産業団地の開発事業である。これらのプロジェクトは現在、中国によって主導されているが、中三角都市ネットワークを通じて韓国と日本資本の投資が成されるようにする方案も検討してみることができる。
ソウル─北京─東京の大三角ネットワークは容易くは組織されにくい。各国の首都は国家次元の競争と葛藤構図の影響を強く受けるしかないからである。だが、もう一方で巨大都市は各国の経済・文化能力の集積地でありながら、戦争形成の能力と領土主義の性向からは一定に分離されている。従って、大三角都市ネットワークは国家間協力体や共同体よりは実現可能性が高く、市民の人権と幸福を保障してくれる共和主義を実践するにもより容易であると言える。 共和主義の語源は「res publica」であるが、この言葉は政治共同体構成員の公的なことを意味する。共和主義の構成要素としては多数が参加する公的決定、葛藤と均衡、論争的・討議的民主主義、市民的徳性などが強調される。大三角ネットワークが作動すると、「地中海経済」はより活性化し、各国が「市民国家」(civic state)の方へと変化できる動力を持つこととなる。
4. 革新国家とネットワーク型経済組織
現段階における先進各国経済の最大の問題は、停滞のなかで格差が拡大しつつあるという点である。成長の趨勢を示す中国も都農間・地域間の格差が深刻である。北朝鮮は格差問題を取り上げにくいほど、生産基盤が崩れている。東アジア経済で形成された国家主導の発展主義モデルはうまく作動しないでいる。
韓国経済も成長の限界を示している。韓国経済は外国為替危機前の1990~96年の時期に、年平均約8%の経済成長率を記録した。だが、それ以後は4%代の成長も難しくなった。韓国経済が長期的な沈滞の局面に進入したと断言できないものの、過去の高度成長の趨勢を再現することは難しいことと思われる。
より深刻な問題としてよく取り上げられることは内部における格差の拡大である。これは所得と雇用の危機として現われる。外国為替危機以前には主に自営業者の平均所得が勤労者より高かったが、1997年以後、状況は逆転した。構造調整の過程で自営業従事者が増えながら、所得の格差が拡大されたことと推定される。また、勤労者の内部でも正規職と非正規職との格差が深刻となっている。
格差の拡大、所得・雇用危機の背後には雇用能力低下の問題がある。雇用を改善するためには、中小企業の発展が必要である。しかし、韓国は大企業─中小企業間の生産力の格差が深刻な状況である。韓国の輸出主導型経済成長は、大企業、特に財閥グループを中心に成された。 韓国と日本で国家は産業に対して補助金を提供し、成果に連係したプログラムを提示した。また、金融資本─産業資本─国家間の強力な連係と保護主義戦略を通じて工業生産性を改善したし、「学習による産業化」を成し遂げた。韓国と日本の産業形成には国家の保護主義が強力に働いたが、これは大企業と中小企業との間における生産力の格差をもたらしてきた。
大企業─中小企業間の生産力の格差は、地域間生産力の格差と相当重なっている。地域間の格差は1990年代半ば以後、拡大しつつあったが、輸出主導型経済成長が地域間の生産力格差を拡大したのである。 生産側面の地域間格差を示す一人当たりGRDP(地域内総生産)の人口加重変動計数は、1990年代半ば以後、ずっと急な上昇趨勢を示している。ジョン・ジュンホ、「地域問題の談論地形に対する批判的検討」、『動向と展望』2010年春号。韓国の輸出主導型経済成長は電気電子、自動車、半導体、石油化学、造船など基礎素材と加工組立産業を導いた。ところが、これらは一部の地域に集中している。また、ソウル(首都圏)以外の地域には研究とマーケティング能力に欠けていて知識蓄積が成されずにいる。
韓国経済にボトルネックとなっている生産力の格差は、これまで繰り広げてきた発展戦略の結果であり限界である。韓国では経済発展の過程で国家の後援に基づいて財閥のような「ナショナルチャンピオン」を作り出した。国家による保護主義の囲いで成長した財閥と巨大産業地域は、独占的地位を通して競争力を強化した。しかし、このように国家─財閥関係で位階化した「発展主義」モデルは、もううまく作動しにくくなった。 発展主義とは普通、市場に対する国家の介入を容認する経済システムを意味する。その特徴としては国家と民族理解の最優先化、工業化を通じた経済成長への国力強化、資源の集中的動員と管理などが指摘できる。
発展主義国家の能力は国家への権力集中、抑圧的政治体制の構築から出るものであった。全世界的に冷戦体制が解体されながら、発展主義モデルと民主主義的秩序はますます両立しにくくなっている。また、グローバル化と産業および技術構造の変化も発展主義モデルの持続性を制約する要因である。後期産業社会、つまり多品種少量生産と柔軟生産に基づいた体制への変化は、国家と産業・企業の連係よりはグローバル資本主義と地域の連係により相応しい側面がある。
現段階で韓国経済の成長と繁栄を制約する生産力格差は、企業間・地域間に形成された位階的・垂直的関係から出る。グローバル化が進み、知識基盤経済の比重が高まるにつれて、国家と財閥を中核とする経済システムは革新的な成果を出しにくくなった。今は中央政府と大企業に力が集中された位階的システムを分権化し、経済組織でネットワーク型、または混合型組織形態の要素をより増大する必要がある。すなわち、ネットワーク型革新国家へと移行すべきである。
発展主義モデルの中で形成された位階的構造をネットワーク形態へと転換するためには、次のような方向へと財閥政策、中小企業政策、地域政策を再整備する必要がある。一番目、一貫した財閥政策が必要である。財閥問題の核心は、不当内部取引による企業境界の不適切な拡大である。企業が行きすぎた組織化費用を費やさずに革新を通じた成長に集中するようにさせるためには、公正な規則の制定と執行が重要である。公正取引委員会の調査能力と手続き的正当性を強化する前提のもとで公正取引委員会の権限を拡大する必要がある。また中小企業が自ら不公正取引訴訟が提起できるようにする制度の整備と支援も伴うべきである。 このことと関連して故盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領の次のような述懐は参考するに値する。「その不当内部取引を事前に源泉封鎖するために循環出資、出資総額を食い止めろと言いましたが、それがあまり効果がないと見なしたんですね。その代わり、公正取引委員会を強化してあげよう、事後管理が強化できるように。公正取引委員会の経済警察を非常に強くしよう、そっちの方へ向いたのですが。」盧武鉉、『進歩の未来:次の世代のための民主主義教科書』、ドンニョク、2009、232頁。
二番目、中小企業を育成するために企業間・組織間のネットワーク関係を活性化し、ネットワーク型組織形態を発展させるべきである。大企業─中小企業間には研究開発を中心にネットワークを形成するようにするインセンティブを設けて、下請取引に対しては公正性の管理を厳格と行うべきである。中小企業が革新志向的企業として発展できるよう自体的な設計能力と、グローバルマーケティング能力を備えるのに役立つ協力ネットワーク形成を支援する必要がある。 国家の直接介入の代わりに、ネットワークを通じて大企業─中小企業間の格差を縮め、全体経済で中小企業がより大きな役割を担うようにすることは、韓国と北朝鮮の経済統合の過程でともに志向すべき相互変化の方向でもある。また、貧困と環境問題に投資者所有の企業と国家が影響を及ぼすのに限界があり得る。このような問題に対応するため、色んな種類のネットワーク型組織形態の実験を展開する必要がある。前掲拙著、6章。
三番目、地域政策が重要である。分権的広域地域経済圏を形成することである。この際、地域経済圏の規模はグローバル次元での競争力が備えられる程度となるべきである。従って、現在の16個広域市道体制よりは廣い範囲で構成されるべきである。国家はもうこれ以上競争力の単位として機能しにくい。なので広域地域経済圏がグローバル分業を遂行する主体として地域産業の企画・投資・貿易振興の機能を遂行するよう仕向けるべきである。 広域経済圏と一致する行政単位が創り出し得るならば、これは現在の国家体制を連邦制国家へと再構成する基礎となれる。新しい広域行政単位を形成しにくいならば、広域経済圏に含まれる行政単位間の調整、広域経済圏と中央政府と国家との間の調整が行えるメカニズムを設けるべきである。ジョン・ビョンユほか、『地方政府主導の分権政策の実行方案:分権自治型国家発展モデルの研究』、韓神大産學協力團、2011。
5. おわりに
筆者は世界体制・分断体制・国内体制を革新するプロジェクトとして「韓半島(朝鮮半島)経済」を提案してみた。これまで論じてきたように経済モデルを構成する要素としては、環境、課題、戦略・制度・組織などがある。「韓半島経済」モデルでは世界体制・分断体制・国内体制という三重の環境変化の条件を考慮して、平和秩序・南北連係・革新国家という三重の課題を設定してみた。これらの課題を遂行するための戦略・制度・組織の原理は「ネットワーク」である。従って、「韓半島経済」は「ネットワーク経済」のモデルであるとも言える。
「韓半島経済ネットワーク」は再び三重の課題に対応して国家・超国家ネットワーク、地中海経済ネットワーク、革新的ネットワーク経済組織として考えてみることができる。国家・超国家ネットワークは国家内部と国家との間に存在する制度と政策決定の過程で共有された連結網である。地中海経済ネットワークは韓国・北朝鮮・中国・日本などの色んな都市との間に存在する反復的・持続的な連結網である。革新的ネットワーク経済組織は大企業・中小企業間、地域間の生産力の格差に対応する組織間・地域間連結網である。
翻訳: 辛承模
季刊 創作と批評 2012年 春号(通卷155号)
2012年 3月1日 発行
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