〔対話〕 私はジャーナリストだ: 2012年マスコミストについて
宋真元(ソン・ジンウォン)2008年聯合ニュース記者として入社。現在、社会部所属。
李在勳(イ・ジェフン)2001年MBC記者として入社。MBC労働組合民主放送実践委員会幹事。
金承輝(キム・スンフィ)2008年KBSアナウンサーとして入社。番組「挑戦! ゴールデンベル」司会者
金鍾曄(キム・ジョンヨプ)韓神大社会学科教授。著書に『笑いの解析学』『連帯と熱狂』など。
金鍾曄(司会)今回の『創作と批評』秋号では、若いジャーナリストのお三方とともに、2012年のマスコミストを振り返り、年末に大統領選挙を控えて、現在の公正報道の展望について、話をかわしてみたいと思います。MBC労組の幹事もなさっている李在勳記者、金承輝KBSアナウンサー、聯合ニュースの宋真元記者をお迎えしました。
2012年上半期に注目する事件の1つが、同時多発的なマスコミストでしょう。国民日報、釜山日報、聯合ニュース、KBS、MBC、YTNがストをしました。スト期間はMBCが171日、聯合ニュースが103日、KBSが95日、YTNは部分スト継けているので日数では計算しにくいですが、とにかく長期ストを行っている状態です。1987年の民主化以降、報道機関と政治権力との間に葛藤がある時、ジャーナリストは集会やデモ、ストを行いましたが、これほどの規模は初めてだと思います。それゆえに、このストについて現場にいた方の声を聞き、記録として残す必要があるという気がします。
この座談会に若いジャーナリストをお迎えしたのは理由があります。87年の民主化運動とともに形成されたマスコミ労組運動が、現在の韓国のマスコミ地形の形成に重要な役割を果たしましたが、その後の世代の中でみると、今年のストに参加したジャーナリストが最も大規模な闘争経験をしたわけです。それゆえにこの世代の考えを聞いてみる必要があると感じました。また李明博政権に入って、KBSやMBCを中心とする公営放送や新聞社のいくつかが政府と葛藤関係にありますが、他方では大衆が新しいメディアを活用して政府に抵抗していると思います。ロウソク集会の時のインターネットカフェ「アゴラ」や、その後のSNS(social networking service)などがそうです。今回のマスコミストの特徴の1つも、ジャーナリストが抵抗手段としてそのようなニューメディアを多く活用したということですが、これと関連してもお話いを伺いたいと思います。
最後に、大統領選挙を念頭に置かなければなりません。大規模ストが具体的な制度的成果を上げようと上げまいと、闘争過程で形成された文化的成果があるでしょうが、これがただちに大統領選挙における公正報道とどのようにつながるかについても、お話しをお伺いできればと思います。まずそれぞれ、マスコミストに対する少し短めの所感とともに、自己紹介をして下さいますか。
宋真元 私は2008年1月に聯合ニュースに入社し、今年5年目になる社会部記者です。自分なりに懸命に今回のストに参加しようと努力しました。もちろん結果的にはさほど、また個人的に満足するほどの成果を得たとはいえませんが、それでもストを経験して、「私たちがこの会社の主人である」という主体性を取り戻したような感じです。
金承輝 私も2008年1月に入社した5年目のアナウンサーです。KBS新労組のスト参加アナウンサー14人のうち、私が最も若い方です。報道機関のストを見ると、プロデューサーや記者に対する報道統制や制作統制について多く語られますが、実はそれに劣らず、アナウンサーが政権広報の一線に立つのか、あるいは国民に正しい情報を提供する位置に立つのかも重要な問題です。KBSのような場合は、官製行事の司会の大部分をアナウンサーが受け持つので、これによって国民に及ぼす影響は少なからずあると思います。ストをしながら、その正当性を知らせる過程で、アナウンサーが大きな役割を果たすと新たに実感しました。
李在勳 私の労組での職責は、民主放送実践委員会幹事です。名称は大袈裟ですが、私たちのニュースの公正性について監視し、牽制し、批判して、知らせていく仕事をやっています。昨年2月からこの仕事を始めましたが、もう少しうまくできればと、いつも残念に思っています。うまくやっていたら、果たしてこのような状況になっただろうか、自分一人だけの力で多くのことが変化するわけではありませんが、依然として大きな責任感を感じています。ストをしている間、本当に気分が重かったです。もう二度とこのようなストがなければいい、今後40、50年の間は、このようなストが起きなくてもいいくらいの、マスコミ環境を作っておくべきだとずいぶんと思いました。
ストせざるを得なかった切迫した理由
金鍾曄 ストが起きる前、李明博政権とマスコミとの葛藤については、すでにかなり知られていました。申泰燮(シン・デソプ)KBS取締役や鄭淵珠(チョン・ヨンジュ)社長の解任、番組「PD手帖」に対する弾圧、孫石熙(ソン・ソクヒ)氏の「100分討論」降板などが代表的な例です。ですが、ジャーナリストがストを決行したのは、内部で感じている具体的かつ日常的な葛藤が多かったからのようです。社会的に知られたいくつかの事件の他に、日常的に報道や取材、放送をしながら、どのような困難があったんでしょうか?
李在勳 私が制作した番組は、金在哲(キム・ジェチョル)氏が社長になってから廃止されました。記者たちの作った深層報道「ニュースフー(news who)」です。当時、私は2007年11月から2008年1月まで、ある宗教家の納税について報道しました。牧師が税金を払わない問題や、大型の教会を作ることに執着して問題が大きくなることを扱いました。当時、李明博氏が大統領に就任する前の強力な支持者といわれた郭善熙(クァク・ソンヒ)牧師をインタビューし、それが放送されました。事実上、希望教会の牧師に対する批判的な内容だったわけですが、今のような金在哲社長体制の雰囲気ならば、果たして取材が可能だろうかと疑問を感じますし、それ以前に、取材するべきだとも思われなかっただろうと思います。アイテム自体を自ら検閲する姿勢が広まっているんです。
2008年に政権は変わりましたが、金在哲(オム・ギヨン)社長が現職にいたので、李明博政権の暴力的なマスコミ支配が広がるまで2年ほど時差がありました。オム・ギヨン社長が事実上強制的に辞任させられた後に金在哲社長が赴任し、その初年度に報道部門に対する大規模な人事を断行しました。少しでも違う意見を出したり、言うことを聞かない人は、徹底して非取材部署や本人の望まない部署に発令します。そしてそれまで、業務能力が落ち、先輩や後輩から認められていなかった人を幹部として登用します。そのような人々は、金在哲社長の趣向に合ったニュースを出すために努力します。その後、記者たちが自己検閲を日常化する態度を習得していく過程だったと思います。以前なら、一線の記者が「このようなアイテムはかならず報道すべきだ」という、たとえば4大河川事業と関連したことや、労働関連の主要イシューは、かならず報道すべきだと主張できました。デスクと意見の衝突があれば、受話器を投げつけて、部長にも立ち向かって戦うことができたんです。少なくともアイテムをめぐって合理的に討論できる雰囲気はありましたし、そのような討論の後で放送の是非を決めました。昨年は報道局がやられたのに続いて、核心的なプロデューサーを引っこ抜いて、アイテム検閲を通じて「PD手帖」等を終了させ、タレントの金美和(キム・ミファや)歌手の尹度玹(ユン・ドヒョン)のようなラジオ司会者まで降板させて、放送が完全にふやけた状態になりました。
金鍾曄 聯合ニュースの場合は、「23年間、何もなく静かだった」と言います。KBSやMBCに比べて、事件がそんなに多くなかった方ですが、どうして100日以上もストが続いたんですか?
宋真元 もちろん、通信社であるということと、政府側のソースで書くという基本的な特性があります。ですが、現政権になって、より露骨になったとでもいいましょうか? たとえば4大河川事業で企画記事を出すのに、タイトルを見ても顔が赤くなるような内容、たとえば「漢江が再び息づく」、「慶尚北道・洛東江、親環境水路に変身」、「西釜山、洛東江、親水空間を期待」、このようなものを集めて記事を送るんです。これを見て外部では、聯合ニュースは政府広報紙でもないのに、いくら通信社といってもひどすぎるという批判を受け、私たちの中でもこれはちがうという問題意識がますます強くなりました。
金鍾曄 盧武鉉政権や金大中政権の時と、明確に異なる文化のようなものがあるんでしょうか?
宋真元 私はその時期、記者生活をしていなかったので、何かを語ることは難しいです。もちろん今、内部では「以前、盧武鉉・金大中政権の時もそうだったが、なぜ現政権になって、このようにやたらとストをして大騒ぎするのか?」という方もいます。ですが、もう一方では「それでも今は程度がひどい、さらに露骨になった」と言っています。報道専門チャンネル「ニュースY」スタートの時も、社内で不満がかなりありました。社長が任期内に成果を出すために、充分な世論の収斂なく独断で決めたことでしょう。この放送が本当にきちんと準備され、誰が見てもきちんとやっていたとすれば、このような状況にはならなかったでしょうが、人材やシステムがめちゃくちゃでした。たとえば、充分な放送人材を選ばずに、通信記者の一部を「ニュースY」に派遣で送ったり、通信記事だけでなく放送記事まで書かせる状況が広がりました。開局初日、放送事故もありましたが、みな準備作業が足りなかったせいです。そのようなことからして、報道の公正性や人事の問題のようなものが総体的に重なって、今回のストにつながったのでしょう。内部で問題が提起されるので、社長が「マスコミは権力と完全に別に行動することはできない」などと公開的に言ったこともありました。社長も私たちの会社出身で、30年以上、記者生活をしましたが、公正性を生命にする報道機関で、どうして後輩にあのようなことが言えるのか、という気がしました。
李在勳 実際に私も1998年に聯合通信で記者生活を始めましたが、そのときにみると、通信社の役割がとても重要でした。私がこう書くとこのように、ああ書くとあのように、世論がついてくるのが見えます。過去には聯合ニュースがニュースの背後調停者という感じがしましたが、今はニューメディアがかなりできて、人々はインターネットでニュースを消費しますから、特に通信社の役割がより重要になっているようです。ニュース消費者との接点で最も大きな役割を果たすメディアが聯合ニュースです。だから、過去の「官給記事」(官僚提供記事、政府や地方自治体で提供する記事形式の報道資料)中心の考えを持つ人が、このニューメディア時代に聯合ニュースの社長に座っているのは、私は非常に問題があると思います。
金鍾曄 では、KBSの話をしてみましょうか? 政府の弾圧は一番最初にありましたが、その抵抗の動力を発展させるのに、時間が多少かかったのではないかと思います。どのような過程がありましたか?
金承輝 さきほど、MBCが2年ほどとおっしゃいましたが、KBSはさらに長時間にわたって、システム的に組織が崩壊したと感じます。昨今の不公正報道や政府広報、または政府の不正に目をつぶることがストの火種になったと考えていいでしょう。その原動力は2008年から始まったと見るべきです。2008年8月8日にチョン・ヨンジュ社長が辞任しました。そして警察がKBSに乱入し、それを社員が全身で防ぎました。そしてイ・ビョンスン社長がひとまず就任しましたが、再任は失敗し、金仁圭(キム・インギュ)社長が就任しました。
私たちのストは3つの側面で見ることができるでしょう。最初は制作・報道問題です。最も大きく変わったのは、KBSの自慢だった調査報道チームが解体されたことでしょう。また、デイリー時事番組もなくなりました。「生き生き情報通」という、7時マガジンの「視線600」というコーナーで、唯一、時事問題を扱いましたが、双龍自動車事件や韓進重工業事件のようなものが起きたという理由で、外注制作部署に回されました。コーナーとして存在していたものもなくなりました。これほどになれば、プロデューサーや記者たちの喪失感は到底語りつくせないほどです。
そのような過程で2番目に入ってくるのが人事です。MBCとは少し違いますが、私たちは使用側が気に入らなければ、地方勤務の辞令を出せばそれまでです。それは社規とも矛盾しません。また、チョン・ヨンジュ社長の時期は、チーム制構造なので幹部の数が少なく、概して平等なチーム員の位置だったために、躍動的に仕事ができる雰囲気でした。KBSの代表的な芸能番組「ビタミン」や「スポンジ」などが、みなそのときに作られたものです。ですが、チョン・ヨンジュ社長解任以降、局部制が復活し。局長、チーム長、次長、室長のように多くの職務を作り、忠誠をつくす人々を1人ずつ植えつけ始めたんです。
3つ目が労働組合の問題です。私たちが単一労組だったときはKBS労働組合でしたし、マスコミ労組所属ではありませんでした。江東区委員長のとき、どんなことがあったかというと、天下り社長に反対投票をしましたが、否決されました。すると、普通、執行部が責任を負って総辞職し、もう一度対策を議論するのが常識でしょう。ですが、それを拒否して、委員長が5日ほど断食をすると、社長就任式で金仁圭社長と一緒にケーキカットしている場面が社報に登場します。その姿を見た組合員が衝撃を受けて、もうこの労組では希望がないと考えるようになりました。KBSは組織自体が掌握されていて、MBCの金在哲社長のように興味深い話題を与えることはありません(笑)。逆に言えば、社長辞任程度では元の状態に戻れないほど壊滅的な状態だということでしょう。
李在勳 スト期間中にKBSの新労組のキム・ヒョンソク委員長が、私たちの側にずいぶんと不満をもらしていました。金在哲社長のせいで、金仁圭社長の悪い点が鮮明にならないというのです(笑)。
天下り社長辞任という戦略的目標は妥当だったか
金鍾曄 その点も少し考えてみる必要がありそうです。MBCの金在哲社長にあまりにも疑惑が多くあり、労組が社
長辞任のために戦略的に個人不正を暴露して、かなり深刻な人物であるということは確かに知られました。ですが、そうなると、金仁圭社長裵錫圭(やペ・ソクキュ)YTN社長のようなケースが相対的にあまり浮き彫りになりませんでした。また、KBSがストを終わらせるときは、公正報道や委員会構成に関する労使間合意が成立しましたが、MBCの場合は、社長にかなり欠陥があるということがわかり、この人物を辞任させることなくしては、何もできない形になってしまいました。
李在勳 実際に金在哲社長を辞任させなくては、どうにもならないと判断した契機があります。昨年の10・26ソウル市長補欠選挙の当時、「9時ニュースデスク」が露骨に不公正報道をしました。だから、昨年11月に、社長が参加するなかで、不公正報道の問題を話し合う公正放送協議会を開きました。その場で私たちの労働組合がこのように指摘しました。羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)候補についての否定的な内容は計157秒だったが、朴元淳(パク・ウォンスン)候補については469秒だった、これは機械的なバランスも合わせられない明白な不公正報道である。これに対して金在哲社長が特有の話法で、「ええ、問題があります。同意します。次からこのようなことがあれば、連判状を回して私を追い出して下さい」と言ったのです。このことはみな速記録にあります。そのような不公正報道を行い続けるので、私たちが協議会を再び開こうとすると、今回は応じずに逃げ続けています。やたらと外部の日程を決めて、何か言い訳を言っています。だから、この人物とはこれ以上、議論自体が不可能だと確信しましたし、結局は金在哲社長を退陣させて、はじめて公正放送が議論できると考えるようになりました。
金鍾曄 にもかかわらず、舞踊家J氏との関係や、法人カード使用内訳などに大衆的な関心が傾き、そのようなイシューが公正報道に対する焦点をくもらせながら、金在哲社長を辞任させるべきだという国民的合意は大きくなりましたが、焦点がストの大義から少しはずれたのではないかという批判もあります。
李在勳 戦術的な側面から見てもらえればと思います。私たちは金在哲社長を追い出すのが目標ではありません。事実、それは放送正常化の1つ目のハードルを越えるだけです。今後、残る障害物は4つか5つ、あるいはそれ以上あると思いますが、金在哲社長をひとまず退陣させ、新しい社長が来てからどのように公正報道の枠組を守るか交渉しなければなりません。この過程でまた多くの議論や闘争があるでしょう。そして間違った人事や制度を変えるべきです。だから、結局は、きちんとした番組で視聴者に認められて、はじめて公正報道が実現できるんです。
断髪して、スローガンを叫ぶだけの闘争は、もう……
金鍾曄 マスコミ労組運動は、広い意味での知識人労働運動であるといえます。ですから、ストでも大義を知らせ、市民の支持を引き出すことがとても重要です。だから今回も、通常のストよりも、市民の支持を得ようとおおいに精力を費やしたようです。特に印象的だったのは、3月にあったKBS・MBC・YTNのストコンサートのようなものです。このような経験について一度話してみましょうか? 事実、大衆が李明博政権から苦痛を受けてずいぶんたちますし、2008年以来、ずっとよくないことがあったので、任期最後の年にきてストをやることに対して、快く支持してくれない人も多かったんです。ですが、私が見るところ、3月を過ぎて雰囲気が変わりはじめ、4・11総選挙以降もストが続くと、すぐに市民の呼応が大きくなったようです。現場でどのように感じられたのか、お聞かせ下さい。
金承輝 今、おっしゃった、そのような疑いをかなり受けたと思います。ですが、総選挙で負けて、実際にさっぱりしました。もう少し大きな枠組で考えるようになったとでもいいましょうか。その後の5月25日に、私はマスコミ労組主催のマスコミゼネスト勝利「ラララ」コンサートの司会をしました。このようなことが、大衆にさらに近付き、私たちの意義を知らせる手段でしたが、実は個人主義的指向が強い、若い世代が、スト現場に出るようになる力だったとも考えます。私たちの世代がストして闘争するには、そのようなことが必要だったんです。私たちの組合だけでも、常に「どのような番組にしようか? どのようにおもしろくしようか?」というのが最も大きな悩みです。執行部の企画チームが最も頭を使いました。
金鍾曄 厳粛に座っているだけではない、ということですね。
金承輝 たとえば、お笑い番組「勇敢な野郎」をパロディにしたり、いつも歌っている「ストライキ歌謡」を風変わりなバージョンで歌うんです。もちろん「ニムのための行進曲」をそのように歌った時は非難を受けました(笑)。このような努力が大衆に近付く力ももちろんあるでしょうが、自らの動力と創意的な発想を刺激したようです。長期ストでは、参加者を軽く刺激しなければならない面もあります。
金鍾曄 聯合ニュースではミュージックビデオを作って話題になったりもしました。宋真元記者はいかがですか?
宋真元 序盤は、私たちももちろん真正性に対する疑いをかなり受けました。記者生活をしながら「聯合チラシ」とずいぶん言われました。そのような聯合ニュースが突然ストをするというのですから、MBC、KBSがストするから、それに付いていくのではないかという詰問もかなりありました。3社が集まってコンサートをすれば、私たちも行って見物をしますが、若干寂しく離れているような感じもし、だからといって、かなり知られていたり、幅広い支持を受けるわけでもないような、そのような疎外感がありました。序盤に内部では放送社と一緒にやるべきでだという意見もありましたが、私たちが結局選択した道は、できるだけ私たち自らのストを導こうということでした。だから、最大限、動力を凝集させることが必要だったんです。だから、さきほどおっしゃった映像物も作り、また、コンサートのようなものを自主的に企画したりもしました。
李在勳 MBCもやはり、李明博政権になって何かやって、政権末期だからストをするのかという叱責をかなり受けましたが、そのように言われると、少しさびしいという面もあります。金在哲社長が初めて赴任した2010年3月に、私たちは39日間ストをして、事実上、戦いで負けてストをやめたわけですが、当時は金在哲社長を支える李明博政権の刃が鋭く光っている時でした。あのとき、ストを終わらせて組合員が言っていたのは、現場に戻って闘争しようということでした。現場闘争がきちんとできなかったために、MBCの公正性が崩壊したんです。だから、今回のストをしながら、放送を本来の姿に戻すべきだという切実さが大きかったと思います。先の39日ストが、敗北ではありますが、実はこれが母胎になって現在のストを導いたと思います。
スト番組と関連して申し上げるなら、私たちは、雰囲気が深刻で気が重ければ、闘争を長く続けることはできないと考えました。はじめにスト番組を組みながら断髪は絶対にしないといいました。委員長がかつらを使っている方で、ひとまず断髪自体が不可能な事情もありました(一同・笑)。ともあれ、私たち自らが楽しむストでなければ、決して彼らに勝つことはできない、彼らはしつこく持ちこたえるだろうから、長引かせるためには、私たち自らが楽しんで、はじめて外部からも気軽に私たちの集会に参加し、一緒に交流しながら、私たちのメッセージもさらに広く伝えられるだろうと考えました。そのおかげでかなり呼応を受けたようではあります。
金承輝 ですが、本当にスローガンを叫んでいるだけでは、何も思いつかないと思います。スローガンを叫ぶためだけに出かけたくもありません。むしろ断髪はおもしろそうなので、やってみようといいました。「私たちのアナウンサー14人が、みな断髪したらどうだろうか?」「おもしろい。やろう」(笑)。表現方式が多様化したと考えるのがいいでしょう。そのようなことが欲求です。実際に私がストに参加したのも、政治権力と戦うというよりは、自分の仕事で表現の欲求が満たされないので、仕事をするのがつらくて、そのようなことをやったのです。これをやりたいんだけど、やらせてもらえず、また、あのことが言いたいのだけど、言わせてもらえず、だから、ちょうど噴出したんです。ですが、ストの現場、その闘争の場、最も自由でなければならず、各自が声を出すことのできるその場ですら、自分の言いたいことを言えず、スローガンを叫べといえば叫び、ピケを張っていろと言われればそうするとしましょう。会社でそのような待遇を受けるのを拒否するのだとすれば、闘争現場でも拒否するべきだと思います。
宋真元 私たちもストの途中に重要事案がありました。たとえば4・11総選挙のとき、必須の人材を投じるべきか否かをめぐって集団討論をしました。誰でも行って発言するんです、本当に自由に。もちろんそのなかでも、率直に話せない人はいましたが、それでも自由に討論する時間をかなり持てたことも、とてもいい経験でした。
金鍾曄 それでは、それを眺める人々の視線が、ストの動力にどの程度役立ったか話してみましょうか? ついに自分の真意が認められたと感じる時のプライドもあったようです。
宋真元 さきほど申し上げたように、私たちは「聯合チラシ」という批判をかなり受け、今回ストをしながら、どれくらい持つだろうかという冷笑的な視線が多かったと思います。ですが、時間がたつにつれて、「聯合ニュースも正気になった。一度信じてみよう。がんばれ」というような形の応援コメントがかなりありました。寄付は期待しませんでしたが、送ってくれる市民が出始めました。終盤は私たちがテントで座り込みもしましたが、通りすがりの人が「お疲れ、食事でもしてくれ」とお金を置いていきます。これまで私たちに向けられていた視線が、少しずつ変わっていくのが本当に感じられました。今回のストで社長を辞任させることができず、公正報道軸を確実にすることができなくても、市民が聯合ニュースに対して持っていた「チラシ」イメージを変えただけでも、ものすごい収穫だと思います。
金承輝 私はもどかしく腹も立ちました。このように毎日ポップコーンも売り、地下鉄で風船もくばり、1人デモもして、本当に懸命に100日以上やりましたが、思ったよりストが知られることはありませんでした。MBCのように「無限挑戦」のような人気番組がなく、このようになったのですが、私たちは放送停止がほとんどありませんでした。なので、とてもつらいんです。ですが、SNSを見てみると、国民みなが支持しているようです。その乖離を克服する時間が私には必要でした。実際に「リセット・KBS・9時のニュース」が民間人査察をスクープした時、地下鉄で私はドキドキしながら、号外をくばるようにスト特報をくばりました。ですが、あるおばさんが「私の子供が勉強して、あなたのようにならないのは、とても幸いなことだ」と言ってきました。
李在勳 そのような息子を持つことがなかった反発心が、そのようなコメントとして出たのではないでしょうか(笑)。
金承輝 ネットラジオ放送の「ナコムス」(私はセコイ奴だ)の行事に3万人が集まったとすれば沸きかえるでしょう。ですが、国会議員1人選ぶのにも有権者が15万人です。3万人が集まれば世の中をみな集めたようですが、実はまったく違います。それだけまだ、朝鮮日報、中央日報、東亜日報、KBS、MBCの影響力がとても強く、そのために私たちがきちんと放送して知らせる内容が本当に多いのだと実感しました。
金鍾曄 さきほど断髪のない闘争のことを言いましたが、過去に私たちの社会労働運動のパターンがあるでしょう。厳粛に集まって宣言文を読んで、歌を歌うのも決まっていて、そのようなときの姿勢も硬直します。もうそのような時代ではなくなったようです。なので、大義は大義ですが、それを表現する時は創意的におもしろくしようというのが時代精神のようになりました。ある意味で芸能的な勘のようなものを非常に強調する社会になったんでしょう。昨日、安哲秀(アン・チョルス)教授も、SBSの芸能番組「ヒーリングキャンプ」に出ていましたが、大統領選挙の走者が寛勲討論会〔韓国のジャーナリストの親睦団体「寛勲クラブ」が大統領選挙のときに開催する候補者討論会―訳者〕に行くより、このような番組に出る方が、はるかに影響力が大きいと考える時代になったようです。そのようなことが私たちの社会の文化を変え、スト文化も変えると思います。闘争方式に根本的な変化が起きたんでしょう。ロウソク抗争がこのような変化を大々的に示し、希望バス運動も同じことでしょう。このような点に照らしてみれば、報道機関でも先輩・後輩の間に闘争方式をめぐって異なる意見も少しあったと思うのですが、どうでしょうか?
金承輝 そのような面では、放送局の特性が少しあるかもしれません。先輩が後輩の新鮮なアイディアをうらやましく考える方でしょう。これは今だけがそうだということではなく、90年代に放送関係法のストをする時も、似たような感じだったそうです。大型プール施設が初めてできた時、ある先輩がそこに行って水泳しながら、何かやってみようと言ったそうです。すると、ストライキ中なのに、そのようにプールでどうしてパンツだけはいているのかという反論が……(笑)。ですが、放送をする人々の特性上、保守的な見解を持つ先輩の世代も、それだけにこだわるのではなく、本人が新しい感覚に追いつけないことに対して残念に考えるんです。
李在勳 事実、ストをする間に仕事をしないといいますが、かなり疲れます。集会をして番組も作り、という方がはるかに大変です。執行部はもちろんですが、組合員もそうです。私たちは6月から街頭署名をしましたが、10分間、声を張り上げても喉が枯れて、汗がダラダラと流れます。
宋真元 私たちも執行部で毎日番組を作ることにかなり苦しみました。本当にいろんなことをやりました。腕相撲大会をしたり、社長室の前で集会をやりながらメンコ遊びをしたりしました。バラエティ番組「家族娯楽館」をパロディにして、「聯合娯楽館」のようなものを作ってみたりもしました。
金鍾曄 それでも労組側で作ったスト関連の報道を見ると、依然として慣行が作動しているようです。たとえば労組員が社長室の前で何かやっているのを見せるよりは、社長が廊下を横切ると労組員がちょうどそれを追いかけて、警護員がそれをはねのけ、すると「社長、どうなさったのですか」といいながら大声を出す、このような姿を見せるのが一般的ではないでしょうか? 闘争に対する典型的なイメージがまだ作動しているようです。
宋真元 外部で、ややもすると「ストライキしていると聞いたが、遊んでいるな」という風に、私たちのストの真正性に対して誤解するかと思って、そうしていたのだと思います。
オールドメディアのスト参加者のニューメディア活用経験
金鍾曄 今回のストを見ると、「きちんとニュースデスク」とか「ニュース打破」「リセット・KBS・9時のニュース」、「肌寒い懇談会」のような、インターネット上の自体制作の報道映像をかなり活用しています。以前はストをすれば、ストする自らを報道するのは大変でした。ハンギョレや京郷新聞のような、いくつかの新聞で書いてくれる以外はです。ですが、ストライキコンサートのような場合も、そこに直接行った人よりは、インターネットにアップされたビデオを見た人の方が多いでしょうし、これが共感の拡大に非常に寄与しました。ストライキ中も労組員が新しいアイテムを発掘し、特ダネもありました。このような経験についてお話し下さい。
李在勳 「きちんとニュースデスク」のような場合は、私が初めアイデアを出しましたが、すぐに自ら運営する組織になりました。「本当にこのようなニュースをやりたかった」ということを、最も効果的に視聴者に伝える手段について悩んで始まった企画ですが、ストを知らせるのに寄与したのではないかと思います。「肌寒い懇談会」は、会社から懲戒を受けてもかまわない執行部が中心になって制作しました。どうしてもポッドキャスト(podcast、インターネット上で購読申請した映像・音響コンテンツをコンピューターやスマートフォンにダウンロードして見ることができるサービス)なので、あまり緊張感なく話をする雰囲気で、発言の水位も高いものがあり、続けているうちに呼応度が体感できました。私が記者としてテレビに出て視聴者に会うのと、ポッドキャストで率直な話をしながらフィードバックされるのとでは、まったく印象が違いました。その緊密な交感が有用な武器になるという気がかなりしました。私たちが一般的な集会ではできないことなどを、ここで疎通させることができ、こういうものがうわさで伝わり、聴取者が増えていくという感じがしました。これがある程度になれば「ナコムス」のように大ヒットすることもあるだろうという気もしました。もちろん、私たちがあの段階にまで行くには、まだまだなんですが(笑)。
とにかく、このようなニューメディアを通じて、多くの人々に私たちのストの正当性を知らせていったことは、既存のメディアに従事する者として新しい経験でしたし、若干衝撃もありました。将来、食っていくのも難しいですが、変わった環境に適応するには、いろいろとやるべきだろうという気がします(笑)。ですが、さきほど金アナウンサーが言ったように、ニューメディアには拡張性の限界もたしかにあります。ですから、まだ、通信、放送、新聞でやるべき部分もかなり多いと思います。そのようなことを確認しながら、やや安堵もし、私たちが新たな試みをどんどんやっていかなければならないという必要性もかなり感じました。
金承輝 有用な武器とおっしゃいましたが、同時に、かなり恐ろしい武器のような気もします。SNSやポッドキャストのようなものに没入すると、現実の大きな絵が見られなくなり、若干、陶酔もあるようです。そして、そのようにニューメディアの影響力が大きいとすれば、反対に私たちが身を置くメディアの公正性を取り戻さなければならないという名分は、それだけ弱くなるとも考えられます。既存のメディアは淘汰されるんですからね。私は既存のメディアの影響力が当分はかなり大きいだろうと思います。ニューメディアはもちろん活用可能な手段ですが、それが革新的な変化や根本的な代案になることはないと思います。KBSの記者たちの話を聞いてみると、特ダネはかなり取ったものの、デスクで切られたものが多いといいます。2012年当時、大統領府の国政企画首席朴宰完(パク・ジェワン)氏(現・企画財政部長官)の論文二重掲載の件や民間人査察の件が代表的でしょう。こういうことのせいで「KBS」が「金秘書(キム・ビソ)」のイニシャルだともからかわれました。「リセット・9時のニュース」は、そうではないと抗弁する心情の発露ですが、実際にこれをやったからといって、汚名をすぐに挽回できるわけではありませんでした。
李在勳 今回のストが、私たちの努力に比べて、かなり知られることのなかった理由は、実際に朝鮮日報や中央日報、東亜日報が報道しなかったためです。MBCストも始めと終わりをそれぞれ1段記事で隅に掲載しただけですし、アナウンサーのペ・ヒョンジン氏の業務復帰がイシューになった時、少し出ただけです。ですが、悪性のコメントより恐ろしいのが、コメントがないことです。ですから、私たちは、ニューメディアを通じてストを知らせるといいますが、オールドメディアが肯定的であれ否定的であれ報道しないので、人々はよく知らないんです。オールドメディア時代は終わったと簡単にいいますが、まだ韓国のマスコミ環境では、オールドメディアの占める影響力が非常に大きいと思います。これを見逃す誤りを犯してはならないでしょう。
金承輝 そのうえ「総合編成チャンネル」〔李明博政権がメディア法を改正し、朝鮮、中央、東亜などの新聞社に対して運営を許可した有線放送のテレビチャンネル―訳者〕が歪んだ見解を再生産しつづけています。先日、「朝鮮テレビ」では、MBCストの現場の雰囲気を伝えると言いながら、「イ・ジンスク広報局長に聞いてみます」というんです。歪んだ情報に味付けしているようなものです。この状況で、ニューメディアだけを信じて、これで対応するのは別に意味がないと思います。
宋真元 それでも、MBCやKBSくらいのマスコミだから、新聞で記事を書いてくれるんです。聯合ニュースがストライキするという記事は、マスコミではほとんど報道されませんでした。内容があったとしても、タイトルは「KBS、MBC(……)」とだけなっていて、本文の下に最後の1行で触れられている程度です。
金鍾曄 SNS側の熱気と、その外側の温度差が大きすぎるので、その乖離のせいでニューメディアに対する評価が低くなる側面もあるようです。ニューメディアの威力は虚像かもしれませんが、これがなかったとすれば、労組がストしながら感じるさびしさとつらさは大きかっただろうと思います。またポッドキャストの力量が非常に大きくなったことも認めるべきです。たとえば、時事評論家の金鐘培(キム・ジョンベ)氏が司会をしている「話題の男」(イトルナム)で、民間人査察を暴露したチャン・ジンス主務官を何度も呼んでインタビューしたり、有力政治家たちに簡単に交渉するなどがそのようなことです。またKBSやMBCに情報を提供しても、ストしているのみならず、それ以前にさまざまな組織の圧力があるので、うまくいかないだろうと考えてニューメディアの方に集まるんです。広告構造から自由なのも強みでしょう。そのうえ、有力人士を呼んで忌憚なく話を交わしますから、これが報道の側面とともに、芸能的な感じもかなりあるので伝達力が強いんです。ニューメディアはまだ政治的に範囲が狭いですが、私は時間がたてば右派もこのようなことをやるだろうと思います。おもしろい右派も出てくるでしょう。長い目で見れば、未来のメディアとして影響力を拡大していくだろうという気もします。スト当事者の観点から見れば、ニューメディアの限界や制約性が見えるでしょうが、メディア従事者として、このような新しい傾向をどのように考えますか?
李在勳 現在のニューメディアが陣営性を帯びているのは明らかです。右派メディアもできるといいますが、実際は層が薄いでしょう。また、あちら側の支持層は、このようなメディアの使用に習熟していません。だから、相当期間、遅滞現象は避けられないだろうと思います。その過程で、私たちの既存メディアがやるべきことが相当多いだろうと思います。前回のコンサートでMBC労組委員長が「ナコムス」チームの応援発言の後で言ったのが、「「ナコムス」人気、もともとMBCのものでした。ストが終わってMBCが正常化したら、あの人気を取り戻しにきます」というものでした。事実、これが私たちのストの目標です。李明博政権になって代案メディアが成長した理由があります。「PD手帖」「ニュースデスク」「時事マガジン2580」がきちんとした役割を果たせないので、あちら側に行ったんです。ですが、今、ニューメディア自体は陣営性の強いメディアになってしまい、拡張性においては壁に直面している状況です。だからこそマスコミが正常化すべき理由が、今、切実だという気がします。陣営の障壁を跳び越え、本当にきちんとしたマスコミの声が、また世論が形成されるためには、既存のメディアが立ち直るべきだと考えます。
金鍾曄 同意しますが、逆に、すでにニューメディアを既存の放送社も積極的に活用するケースが出ています。たとえばイ・サンホン記者がMBC・C&Iインターネット放送の時事番組「手の平テレビ」の司会をやって非常に人気を集めていますが、この番組が廃止されると、会社をやめてポッドキャストで「足ニュース」を作りました。もし金在哲体制の放送構造ではなかったとすれば、これがMBCの育てる正常な番組になりえたでしょう。つまり、オールドメディアが正常化すれば、逆に自分たちが積極的にニューメディアの領域に入るのではないだろうか、ニューメディアとオールドメディアは競争もしますが、補完して互いに結合し、シナジーを形成することもあるのではないでしょうか。
金承輝 実際にそうしたことは、かなり以前から放送社が準備してきた事業です。既存の地上波から出たプラットホームをかなり開発しているんです。私が申し上げたいのは、2012年の状況におけるニューメディアの限界についてですが、コンテンツの主題や方向の面から見れば、ニューメディアについて少し懐疑的な立場です。さらに拡張されることはないと思います。ニューメディアは多様なプラットホームの1つにすぎず、そこで「ギャグコンサート」や「ミュージックバンク」をやることもできます。ですが、今は、制限されたアイテムと主題だけにニューメディアが活用されているので、現在の時点では将来がそれほど希望的には見えません。
李在勳 既存メディアのMBCでも、ニューメディアを発展させて新しいプラットホームを開拓しなければならないのはその通りです。「手の平テレビ」は新鮮な試みで、実際には野心作でしたが、それすら政治的地位を固めるための幹部の道具として使われているので、さらに成長することは望めません。本当にきちんとした会社になり、きちんとした人士がいて、はじめてニューメディアも育つことのできる環境になります。
金承輝 ニューメディアに対する今の若い世代の観点も、私は少し変わるべきだと考えます。以前、DMB(digital multimedia broadcasting)が出てくる時も、「歩きながらテレビを見ているぞ」といって驚きましたが、DMBも他の見方をすれば、当時はニューメディアであり、新しいプラットホームでした。ですが、この器にはこれだけ入れることができる、というような固定観念はなくなったらいいと思います。それがなくならない以上、その伝達方式がこれ以上、成長することはないだろうということを指摘したいと思います。
マスコミストの影響力と特殊性
金鍾曄 ニューメディア関連の話はこのくらいにして、もう少し違う話をしましょう。ストの影響力が落ちる理由の1つが、ストをすれば、放送が実際にはできないようにしなければならないのですが、うまくいってしまう側面がありました。MBCのような場合は、臨時職をかなり採用したり、外注を連れてきたり、再放送をするような形でです。KBSは本来の組織構造のために、新労組の影響力の行使に制限があったようです。聯合ニュースはどうでしたか? ニュース伝達を遮断する力はどの程度ありましたか?
宋真元 内部と外部で、見ている状況が少し違っているようです。内部から見る時、私たちはノートコンピューターをみな持たずに入ってきましたが、記事はしばらくの間、書くことができました。5月まではインターン記者が臨時に投入されました。写して書くだけの記事ですが、そのようなものでも報道できたので、正規の記者は、自分たちがそれまで余剰人材だったのかという気もしました。ですが、外部から見る時は、既に送稿された記事量の20%程度しか記事が報道されず、かなり困ったといいます。今日付の日刊紙が出した記事を、聯合ニュースがその翌日に使ったりすることも多かったんです。
李在勳 通信社の立場としては致命的だったでしょう……。
宋真元 だから内部でもずいぶん悩みました。通信社は私たちだけではなく、「ニューシス」のような民営通信社などもあり、最近「ニュース1」(2011年5月設立)もスタートしました。使用側がストをやめろと懐柔しながら、通信市場における支配的な位置を脅かされていると言っていました。新聞社や政府からも転載料(通信社がニュースを供給して受ける一種の購読料)を削ると通告してきたといって、圧迫してきました。それだけでなく、聯合ニュースがマスコミ環境で基本的に果たす役割がありますが、ストのためにそれができない点も気にかかりました。それでも、私たちが今回、この山を越えて、はじめて公正報道ができると考え、ずっと続けてきました。
金鍾曄 ですが、逆に言えば、記事量が減って、はじめて効果があるわけです。だから、社主や運営スタッフが「これは大変なことになるぞ。通信市場がみな奪われる」と脅かすことになるんですが、にもかかわらず、ある程度持ちこたえることができたということでしょう。MBCの場合も「無限挑戦」の放映中断が話題になったりしましたが、基本的に放送されているので、ストの影響力が落ちたのだと思います。ストの本当に威力は、あらゆることを停止させる時に出ると思いますが、放送社の闘争は少し特殊な面があります。
李在勳 ストライキ環境が以前に比べかなり変わりました。特に外注化がずいぶんと進んでいます。
金鍾曄 スト基金と関連して、お話しして頂ければと思います。ストの期間に報道機関の周囲の銀行に貸出がかなり増え、それが喜ばれたといいます。私は2005年にカナダのバンクーバーにいましたが、あちらの教員労組がストをしたとき、労組から、すべての労組員に1人当り数十ドルずつ日当を支給しました。すべての労組員にその程度を支給するというのは、かなり財政力があるということですが、後に聞いたのは、その労組が10年前にストをして、その後もずっとスト基金を集めてきたというのです。困難な時に大きな戦いをやるには、いつも倉庫を満たしておかなければならないというんです。また、今回、国民日報がスト基金のために韓牛を売ったりもしましたが、私は、労組の重要な日常的事業は生活協同組合だと思います。生産者らと連帯をしながら、社会的連帯へと進むことがかならず必要だと思います。
李在勳 MBCは李明博政権のときだけで5回もストをしたので、スト基金をためる余裕もさほどありませんでした。
宋真元 私たちは23年ぶりにストをしたので、基金にはさほど心配ありませんでした。もちろん組合で月給式で与えたわけではありませんが、貸出をしました。また、スト期間に食料の材料も用意しました。だから、家にいるより、むしろ会社に行って闘争する方がよかったんです。ご飯を食べることができる、最低2度の食事は与えますからね(笑)。
金承輝 KBSの場合、2008年のチョン・ヨンジュ社長の解任事態の当時に作った「社員の行動」は任意団体であり、2010年に新労組がスタートして、賃金の団体交渉が締結されたので、基金を集める時間があまりありませんでした。それでも、入社したばかりの友人は、組合で責任を負わなければならないので、経済的補助のために他のところから金を借りてきたといっていました。もう復帰して、全組合員が定率で埋め合わせをして、その金を一緒に返すことにしました。このような姿は希望的だと思います。
与野党の国会開催合意、守られるだろうか
金鍾曄 そのようにストの後遺症を処理していく過程も、連帯感を強化する道になるでしょう。それでは、今後の事態について展望してみましょう。ストをついに暫定中断し、復帰するという報道が出てきた時、ハンギョレのコラム「MBC文化放送をどちらが愛しているのか?」では「子供を助けようという母親の心情」とも言いましたが、MBCの場合、「与野党の国会開催合意が守られるだろう」と信じて復帰したわけです。KBSでは、大統領選挙の公正放送委を設置することに合意して、ストを暫定中断しました。聯合ニュースも、やはり労使制度改善特別委を作って、公正性を監視するといいましたが、現在では、ストの顕著な成果といえるものがあまりないといい、状況が少し流動的のようです。新しく構成されるKBSと放文振(放送文化振興会)の理事会の輪郭が7月末にわかりますが、このような状況でMBCの場合、姑息にも復帰前日の17日夜に、会社が労組の中心人物について変な人事を発令し、放文振理事の選任と関連してセヌリ党の李漢久(イ・ハンク)院内代表が政党分の理事推薦権を放棄するともいいました。今後、展開する局面について、どのように展望しますか。
李在勳 与野党の国会開催合意文を見ると、MBC問題を「法の常識と当然の道理によって」処理するとなっています。それは単純に出てきた文句ではありません。ある事業場のストライキ問題について、与野党が国会開催合意文に考慮するほどならば、ある程度の合意がなければ不可能です。しかも、法と常識という言葉が入っています。その尺度で見る時、金在哲社長は8月の峠を越すことはできないだろうという強い確信があります。私たちの独自の取材と確信をもとに下した判断です。また、当座は顕著な成果なくストをやめたと思われるでしょうが、金在哲社長が出ていった後に新たに入ってくる社長と交渉して、公正報道のためのさまざまな装置を作って問題を解決していく計画です。
金鍾曄 その時の与野党間の合意というのが、与野党の推薦する放文振の理事数に対する期待です(7月27日、放送通信委員会は、既存の理事3人を含む、与党推薦6人、野党圏推薦3人の放文振理事を選任―編集者)。ですが、李明博大統領は、任期末までマスコミが正常化しない状態を望むでしょうし、朴槿恵(パク・クネ)候補も、MBCが正常化するのは、政治算術的にありがたくないはずです。そうすると事実上、李明博と朴槿恵の利害が一致する側面があるでしょうが、状況を少し楽観的に見ているのではないのかと思います。また、最近、BBKにせ手紙事件や民間人査察に対する捜査結果に見られるように、現政権の厚顔無恥を過小評価しているようでもあります。
李在勳 大統領選挙を控えている状況なので、朴槿恵候補も金在哲社長の去就問題を常識で処理しなければならない雰囲気が広まっていると思います。金在哲社長は李明博大統領がねじ込んだ人物で、問題解決の鍵を握っているのも大統領ですが、もうひとつの解決の鍵を握っているのは明らかに朴槿恵です。もし朴槿恵候補が金在哲社長をMBCから追い出さないとすれば、多くの有権者がどう思うだろうか? 明らかに否定的な評価が下されるだろうと私たちは思います。
金鍾曄 その点には同意します。与党では、朴槿恵が李明博の後に隠れ、李明博が朴槿恵の後にうまく隠れるゲームをしていますが、現在では、マスコミ問題に関する責任者が朴槿恵候補であることを広く伝えるのが重要な課題だと思います。一方、KBSや聯合ニュースの場合は、MBCとは異なり、一定程度、会社と妥協してやめました。それでも労組の幹部をみな懲戒するといって、ずっと葛藤があるようですが、今後どのように見ますか?
宋真元 懲戒に関しては、ひとまず状況を見守らなければならないようです。とにかく公正報道に対する構成員の認識の枠が作られましたから、今後、各自がやるべき仕事をがんばろうという雰囲気があります。最近も、朴槿恵候補の大統領選挙出馬と関連した記事が大きな問題になりましたが、声明を出すなどして労組活動を続けています。また、制度改善特別委を運営し、使用側と交渉を通じてひとつひとつ合意点を作っていますが、そのような過程が当分続くでしょう。そして年末までに社長の去就をどうするか、これがひとまず重要な課題であり、関連の動きも依然として進行中です。
金鍾曄 KBSの状況はいかがですか?
金承輝 組合員個人の考えであることを前提に申し上げます。懲戒の部分では再審があるでしょうし、また相当部分成立しました。以前の懲戒については、再審でみな減軽されたと聞いています。若い組合員の中には、懲戒を下した人々を自分たちが認めないのに、彼らに再び審判を任せるのは屈辱的だと考える立場もありますが、無罪を勝ち取るために法廷に行けば、当事者が負う苦痛の方が大きいでしょう。これについては共感があったようです。そして合意内容は報道を通じて先にごらんになったでしょうが、大きくは、大統領選挙公正放送委を設置して調査報道チームを復活させ、デイリー時事番組を復元することです。ですが、その内容が明文化されたとはいいますが、あまり具体的でない修辞的な表現になっています。この部分は、戦い抜かなければならないでしょう。どのような議題も扱うことができ、それを扱う時、誰の圧力も受けてはならず、誰を出演させる場合も、問題ない構造にするべきであって、ただ調査報道チームだけが作られても何も意味はありません。
またMBCの場合は、金在哲社長が出て行くことを確信するといいましたが、そのようになっただけでも、労組としては顕著に大きな成果を得るでしょう。ですが、KBSの金仁圭体制は自然消滅することもあります。11月に任期が終わります。KBSは社長の肖像画にイ・ビョンスンが入っても金仁圭が入っても、あまり関係ありません。核心はその肖像画をかけるクギを抜いてしまうことでしょう。土豪勢力のような人々がいます。改革を拒否するという意味で「賦役幹部」ともいいます。KBSは組織規模が大きく、内部文化も官僚的なので、MBCに比べて躍動性がかなり落ちます。この組織が変わりうる作業は、今後さらに細かくやっていかなければなりません。スト以降も、私たちはかなりゆっくりとやっていくしかないと思います。
業務復帰後の葛藤収拾と残された課題
金鍾曄 KBSの組織構成が複雑なのに比べて、MBCは同質的な側面が強かったですが、今回のストの渦中で、臨時職で採用した人が100人余りになり、それが組織全体として見れば大きな負担のようです。先日18日に「話題の男」に出演したMBC労組のチョン・ヨンハ委員長の言葉が印象的でした。普段、社員を選ぶ時も、公正報道をする資質かを重要な基準として見るが、ましてストライキ時期にその力を弱める入社を志願した彼らをよく見ることは困難だというものでした。労組の認識がこのようなものですから、新しい社長が来て、この問題を前向きに解決しない限り、深刻な組織葛藤が生じると思いますが、いかがでしょうか?
李在勳 私たちが懸命にストしている時、その大義に同意しないで入ってきたわけですから、よく見られない面もあるでしょうが、彼らも個人的にはひとりの労働者です。ある家庭の家長や未来が嘱望される若いジャーナリストであることもありますが、単にこの時期にMBCに入ってきたからといって、かならずしも悪く見ることはできません。最初の側面はそうだとしても、この試用記者は能力を示して組織で生き残らなければならないでしょう。でも、果たしてどれくらい可能かは疑わしく、組織内部で問題が生じ続けるしかない状況だと思います。まもなく開催されるロンドン五輪の中継チームや取材チームは、ほとんどの契約職のプロデューサーや試用記者中心に組まれるだろうといいます。ストに参加した組合員はほとんど排除されるようです。経験とノウハウが豊富な組合員を差し置いて、果たしてきちんとした視聴者サービスが可能か疑問です。また、今後「無限挑戦」のような芸能番組などは制作に大きな問題がありませんが、「PD手帖」や「時事マガジン2580」のような時事番組は、制作過程で組合員と幹部陣の間に摩擦が起きる可能性が大きいです。
金鍾曄 それでは法改正の話をしてみましょう。今国会の文放委(文化体育観光放送通信委員会)の構成を見ると、与野党15対15で構成されていて、与党でもナム・ギョンピル議員のように多少前向きの観点を持っている人がいます。南景弼(ナム・ギョンピル)議員が発議した法案を見ると、KBSでもMBCでも理事陣を与野党同数で推薦する内容を含んでいて、民主統合党の裵在禎(ペ・ジェジョン)議員もこれと関連した法律改正案を発表したことがあります。このような方案については、おおよそ受け入れるだけのことはあるとお考えですか?
李在勳 簡単に申し上げれば、法改正の趣旨については私たちも同感で、どのような政権になっても、それに影響を受けない社長が就任するべきだということに、与野党の共感がますます形成されているようです。
宋真元 聯合ニュースの場合、社長候補推薦委員会もあって、与野党同数ではありませんが、国会議長が各交渉団体と協議して推薦した人士、マスコミ組織から推薦した人々が集まったニュース通信振興理事会もあります。ですが、今、法改正を推進するという話が出ていますが、法改正自体よりは、その法をどのように運用するかが問題だという気がします。いくら制度をよく備えたとしても、それを悪用する勢力が確実にいるでしょう。
金鍾曄 それでも法があったら、たとえば2008年のシン・デソプKBS理事解任の時のような負担を負わなければなりません。一種の安全装置でしょう。
宋真元 もちろん安全弁にはなるでしょうが、それだけでは満足できないと思います。
金承輝 今後も政界が、KBSという道具を掌握しようとする時、かえってそのような法改正が名分にもなりそうです。その時になって、法改正の通り与野党を同数にしたのに、いまさら何を言っているのか、というようなこともあるからです。
大統領選挙での公正報道、国民の信頼、回復する機会
金鍾曄 公正報道のためにみなが戦ってきましたが、ここで非常に重要なのが大統領選挙です。権力を握った側が間違っていなければ、政権交代にそれほど大きな負担は感じないでしょう。ですが、現在の韓国社会の政権勢力、特に大統領にとっては、次に野党圏が政権をとることは悪夢に近いですし、検察は新政権下で深刻な威嚇に処したり、保守マスコミは「総合編成チャンネル」を始めたのに収拾がつかないとか、こうなれば、政権の再創出自体が、私欲で一杯のプロジェクトになる可能性が大きく、より一層、公正報道の重要性も高まると思います。現在の制限された環境、KBSの場合、新労組の制限された力量、聯合ニュースは通信社という領域の制約、MBCは労組の主要な人々の職務を減らしたりしていますが、このような状況でどのように日常的に公正報道のために闘争するかについてお聞きしたいと思います。
宋真元 私たちはこのストをしながら、記者意識を回復しようとかなり考えました。これまでマンネリズムに陥り、特に通信記者は毎日仕事に追われていましたが、マスコミ本来の姿勢に戻るべきだと悟ったようです。だから、今、政治的に敏感な事案も出て、大統領選挙も控えていて、公正性に若干でも欠ける記事が出れば、労組掲示板のようなところで議論が活発になるようです。それ以前は偏向した記事があっても内心我慢していましたが、今は互いに討論して責任の所在を問い詰めます。そのようなことを見ると、すぐに変わったり公正報道に移行するわけではありませんが、少しずつ定着しつつあって、それが大統領選挙まで続くだろうと期待しています。
金承輝 アナウンサーとして個人的な心境を言うならば、実際にこの政権になって苦しいことがかなりありました。G20首脳会議の放送3300分にくわえて、天安艦事件は毎回、寄付や募金の放送だけをやり、さらに国軍将兵のための発熱チョッキの募金放送もやりました。私が司会をしている「挑戦ゴールデンベル」も放送中に中断して、UAE原子力発電所受注の緊急ニュースが入ります。「挑戦ゴールデンベル」も官製の特集が多かったと思います。国税庁ゴールデンベル、G20ゴールデンベル……実際にそのようなことについて無批判に放送することもあります。放送人ならば誰でも自分が多く出演すればいいでしょう。ですが、ますますこうしたことが危険になると考えるようになりました。また、韓国社会では、アナウンサーに対する特殊な視線があります。公正で誠実で真実だけを語るような存在だと思われています。このような期待を忘れたアナウンサーがかなりいたと思います。4大河川事業・驪州(ヨジュ)浦の通水式の生中継の時、「開かれた音楽会」でマイクをとって「本当に歴史的な日です。とても祝福されることです」ということなど……記者やプロデューサーだけでなく、アナウンサーも当然拒否できると思います。そのようなことができる勇気と力が、若い社員に出てきただけでも、さきほど申し上げた合意文内容を履行していく大きな動力になると思います。
李在勳 MBCでは、金在哲社長を追い出して、不公正報道の先頭に立った主役を交代させる過程が進行中です。組合員個人にもマンネリズムがたしかにあったでしょう。金在哲体制の下で固着化した敗北主義、自分が不当な指示に抵抗しても、どれほど変えることができるだろうかという懐疑が少なからず内面化され、これが結局、不公正報道になったわけです。ですが、多くの組合員、特に若い組合員には、外で寒さに震えながら集会をやった経験、熱い夏の日に道路でホコリにまみれながら署名運動をした経験などを通じて、自分がこのような苦労までしながらやりたかったのが公正報道だということを忘れないでしょう。少し年配のある先輩は、自分がストする前は自家用車で通勤し、寒ければヒーターを入れ、熱ければエアコンを入れていたが、月給が出なくなって地下鉄とバスに乗ってみたら、以前は見えなかったことが見える。地下鉄で疲れて寝ている学生、会社員……そのような人々が見えたといいます。なので、以前、自分が若かった時に見た人々の生活がまた見えてきて、自分が放送局といういい職場に入ってきて、既得権勢力になって、そのような視角で取材し報道していないのではないかと、反省するようになったのでしょう。このような経験のひとつひとつが資産となり、金在哲社長が離れ、その次に確実にいい結果と番組につながるだろうという確信があります。
金鍾曄 みなさん、自然にまとめをして下さいました。時間が経つほど社会は左右に陣営が形成されていますが、ここで中道的な合意が大きくなされる過程が続かなければ、互いを理解することさえ難しくなります。現在の政権はあまりにも偏狭で、公正に報道しようという努力を、陣営の論理にすり替えてしまう側面が非常に大きいと思います。ですから、公正報道がいわゆる左偏向の報道のように見え、そのような状況でそれを「公正」として守る、困難な作業をしてきたという気がします。さきほどもみなさんもおっしゃいましたが、マスコミが陣営論理に埋没すれば、拡張性が弱くなります。そのような意味で、放送社や通信社は、社会の中心を占めるべきですが、これが可能になるためには、大衆の信頼を得なければなければならないと思います。今回のストの真正性を国民が信じること、「あの人たちが言っていることは聞くに値する」ということが、拡張性の源泉になるだろうと思います。そして、2012年のストライキが、10年後には韓国の言論史に残る、偉大な闘争として記録されるのではないかと思います。実際、1988年、89年にマスコミ労組運動をした人々も、それが重要な歴史として記録されるだろうと思って、その現場にいたわけではありませんが、今になって見ると、それが韓国のマスコミ地形を形成しました。今回のストが、もうひとつの新しいマスコミ地形を作るでしょうし、そこでは敗北主義や冷笑主義を克服したマスコミが、その土台になるのではないかと思います。お忙しいなか、いらして下さり、いろいろなご経験をお話し下さったことに感謝申し上げます。(2012年7月24日/「人文カフェ創批」にて)
翻訳: 渡辺直紀
季刊 創作と批評 2012年 秋号(通卷157号)
2012年 9月1日 発行
発行 株式会社 創批
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