창작과 비평

[対話] 韓国の財閥、財閥の韓国? / 李日栄·李源宰·申鶴林·宋元根

2016年 冬号(通卷174号)

 

 

〔対話〕韓国の「保守勢力」を診断する④

李日栄(イ・イルヨン)韓神大教授、経済学。著書に『新たな進歩の代案、韓半島経済』『革新家経済学』など。
李源宰(イ・ウォンジェ)「與時齋」企画理事。「希望製作所」前所長、ハンギョレ経済研究所長歴任。著書に『おかしな国の経済学』『父の国、息子の国』など。
申鶴林(シン・ハンニム)ジャーナリスト。「メディアトゥデイ」代表理事。全国言論労働組合前委員長。
宋元根(ソン・ウォングン)慶南科学技術大経済学科教授。著書に『財閥改革の現実と代案探し』『韓国社会、サムスンを問う』(共著)『社会経済民主主義の経済学』(共著)など。

 

李日栄(司会)『創作と批評』誌は、今年1年間「韓国の「保守勢力」を診断する」という企画を続けています。宗教、軍隊、社会団体の問題に続いて、今号では「財閥」を中心に経済界の問題について話し合おうと思います。財閥自体に対する診断を含めて、それらがみずからの経済力をどのように他の分野に拡張し「力」を確保するのか、そのなかで韓国社会が、対抗力ないし代案的システムをどこに見出すのかなどについて、議論を続けようと思います。3名の方を迎えましたが、今日のテーマと関連して、それぞれ最近の関心事が少しずつ異なっているかもしれません。まず簡単な自己紹介をお願いします。

申鶴林 私は経済を深く勉強していませんが、関心事は財閥に関係しています。大韓民国の人口5千万のうち0.02%である1万名程度が、韓国社会のいわゆる実質的な支配勢力です。私は彼らの間の関係、特に血縁に対して調査しています。地縁や学閥は、高い地位にのぼればマスコミで報道されますが、血縁はそうではありません。公認であれどうであれ、分野がどのようなものであれ、彼らがどのように一族と一族としてつながり、大韓民国で金や権力や名誉を独占・寡占できるのか、この10年ほど追跡しています。もちろんこのなかには財閥がかなり含まれます。

宋元根 私は博士学位論文で財閥をテーマにして、それ以降もずっとこの問題を研究してきました。以前は「30大財閥」と言いましたが、2000年代初あたりを過ぎてから、そのなかで格差が大きくなって、「10大財閥」「5大財閥」のような呼称が出てきました。かと思ったら、いつの間にかサムスン1つだけを研究するのも大変になりました。今は、経済民主化を中心に、これまでの研究をさらに発展させようとしているところです。地域で住民たちを相手に関連の講義もしています。

李源宰 私は企業の社会的責任に関心を持ち始めて、社会的企業、社会的経済、共有経済、協同組合、ソーシャルベンチャーまで、順次、代案になる領域に入っていくことになりました。このようなものがうまくいくために、いかなる政策環境や生態が必要かに焦点を合わせています。それとは少し別に、民間シンクタンクをきちんと作れればと考えてきましたが、それとともにサムスン経済研究所、ハンギョレ経済研究所、希望製作所を経て、最近、新たにスタートした「與時齋(ヨシジェ)」(時代とともにある家)という民間シンクタンクにいます。


「朴槿恵・崔順実ゲート」と財閥

 

李日栄 『創作と批評』が最初にこの企画を続けることになった問題意識は、朴槿恵政権が「漸進クーデター」といえるほどの形を示す状況において、いわゆる「保守勢力」の中身を一度検討する必要があるということでした。厳密な概念でなく、俗に保守の問題ともいえるものについてです。そのように今回の対話を企画して、今日、私たちがこのように集まったわけですが、事実、最近、いわゆる「朴槿恵・崔順実ゲート」による衝撃が、他の何よりも大きいと思います。本誌の以前の号で保守社会団体を扱う時も、全経連(全国経済人連合会)の資金がこれらの団体に流れる問題がありましたが、「ミル財団」や「Kスポーツ財団」の設立にも全経連が決定的に介入しました。先日、経済学者や経営学者たちが「権力に寄生して、政経癒着と不条理な行為を繰り返す全経連は、自由市場経済の障害物にすぎない」として、全経連解体を促す声明書を出しました。ですが、時間が経過して、ミル財団や全経連は脇役でもなく、最初からエキストラだったように見えます。今後、どのような話がさらに出てくるかわかりませんが、朴槿恵大統領が、サムスン、現代自動車、LG、ロッテ、SKなどの財閥の総師や最高経営者の7人と単独で面談し、直接これらの財団設立に必要な募金を促したということです。このような話が国会で議論されると、それに続いて検察も関連資料を確保したといいます。サムスンの乗馬支援もいろいろな話があります。人気種目に対する支援を減らして、唯一、乗馬にだけ全面的な支援をしたわけですが、権力の陰の実力者の匂いを嗅ぎつけるサムスンの能力は、かなり卓越したものではないかと感嘆する(?)向きもいるようです。最近、このような時局と関連してみられる財閥や全経連の行為についてどのようにお考えか、少しお聞きしたいと思います。

李源宰 まず全経連は解体されるべきで、解体されるでしょう。全経連が会員社の利益すらきちんと代弁できていないという指摘が数多くあります。会員社の利益を代弁するというより、実際には大統領府の要求事項を企業に伝える窓口の役割、すなわち官冶経済の伝達体系に転落したということです。これとは別に、サムスンの乗馬支援は他の角度から考えるべきです。崔順実ゲートを第三者による賄賂供与という観点から見るならば、ミル財団や乗馬支援などを通して、最高権力者の関心事に資金を出した企業は、不正請託のために賄賂を供与したものと見るのが適当だと思います。

申鶴林 私も全経連は解体されるべきだと思います。何も仕事をしていません。仕事があるとしても、経済人総連や貿易協会でもできることです。裏口で政府系団体を支援する以外、事実これといった政策で自己主張することもありませんでした。会員社の間でも利害関係が分化しただけに、共通の利益を抽出することは難しいでしょう。1961年に設立されましたが、そのときの趣旨とはかなり変わりました。寿命を終えたと思います。

宋元根 様々な側面で今回の事態を見ることができるでしょうが、財閥の上納は、単に財閥が権力に寄生することを越えて、政治権力化していることを示すものでしょう。表面的に見られるところでは、政府が強要して企業が従ったようですが、影の実力者を利用して財閥が権力を行使したと見る方が正確ではないでしょうか? 全経連は10数年前に発展的解体の話が出ましたが、うやむやになったといいます。そのときの話では、保守陣営のシンクタンクとして残るということでしたが、きちんと仕事をしていれば、私はそのような団体が存在するのも悪いことではないと思います。


サムスンが滅びると韓国が滅びる?

 

李日栄 今、財閥経済の実状をどのように把握しておられるか、お聞きしたいと思います。最近、サムスン電子の「ギャラクシーノート7」の事態や、現代自動車のリコール問題などが話題になって、これを憂慮する人々が多いようです。韓国経済が大変なことになったということです。さきほど宋先生もおっしゃいましたが、今、財閥といえば、サムスン、現代・起亜自動車を主に取り上げるようです。みなの話題になる統計もそうです。見てみると、2008年から2012年まで、サムスングループと現代自動車グループが、韓国の国内総生産、すなわちGDPに占める割合が35%にもなっており、法人税税収で21%、証券市場の時価総額で37%、純利益でも35%も占めたという記事があります(『東亜日報』2014年1月14日付)。今回、企画財政部の次官が「サムスンと現代自動車の経済比率がGDP対比5%を超え、投資の14%、輸出の23%を占めている」と言及しました。これは数字的にもものすごいですが、これらの企業がネットワークを通じて発揮する力は、それよりはるかに大きいだろうと思います。最近、突然、陰の実力者が、これらの企業よりさらに上にいるのではないかという話が出ていますが、時間が過ぎれば、それはそれとして議論されるだろうと思います。指標に出てくるもの、出てこないものについて、見解をお聞きしたいと思います。

李源宰 私は、これらの企業の売上がGDPの何%であるという話は、マスコミが誇張した側面がかなりあると思います。数字というものは本来、欠陥が多いでしょう。売上額とGDPを比較してはいけません。営業利益や付加価値で語るべきです。私がおおよそ計算してみると、韓国の国内付加価値生産でサムスン電子の割合は1.7%と出ています。輸出額でサムスンが占める割合は昨年基準で20%程度です。今日、発表されたサムスン電子の営業利益を見ると、前年より第4四半期が30%減ったといいますが、単純計算をすれば、さきほど話した1.7%から約0.6%ポイントほど減るんです。GDP全体で0.6%ポイントならば大きい額で、影響もかなりのものだと見ることはあります。ですが、また、これらの企業が崩壊しても、たとえば経済の3分の1が消えるなどと言うべきではないと思います。

宋元根 サムスン電子の経済力な比重については錯視現象があります。そのために認識や対応がねじれることもあります。今回、エリオットマネジメント(Elliot Management)は、サムスンの持株会社体制を念頭に置いて、サムスン電子を分割し、自分たちに特別配当して、株主たちにより責任を負った経営をするよう提案しました。ですが、昨年、すでにエリオットが、第一毛織とサムスン物産の合併に反対した時、保守主義者たちは民族主義情緒を動員して合併に賛成しました。今になって考えてみると、かなり無知な行動でした。サムスンを含む財閥大企業が、株主の利益というものを正しく理解すべきだと思います。サムスンが滅びると韓国も滅びるといいますが、事実、朝鮮日報が2014年1月8日付の記事(企画「サムスン電子なき大韓民国」)に、すでにサムスン電子を分割すべきという記事を掲載しました。もちろんその記事の目的は、サムスン電子の危機論を助長して、むしろサムスンの支配構造やイ・ジェヨンの支配力をもう少し確実にするための脅しのようなものでしたが。問題は、一般人の認識では支配構造がどうであれ、とにかく経済が心配であるという点です。そのうえ、サムスンの成長が韓国経済の成長であるという等式を合理化しようとして、免罪符を簡単に与えてしまった政府官僚、政治家、ジャーナリストがみなこのような憂慮を拡大再生産して、そのような認識から抜け出られなくしています。

申鶴林 サムスンという企業と、サムスンを実質的に所有・支配しているイ・ジェヨン一家が絡んだ問題を、分けて考える必要があります。どのような企業でも永遠に持続するものはありませんが、サムスングループの主力企業であるサムスン電子はグローバル企業であって、かならずしも「韓国の企業」ではないと思います。そのような観点で、サムスンが墜落するという前提は、現在としては非現実的な仮定だと思います。たとえサムスン電子が滅びるとしても、韓国が滅びるだろうとは思いません。特定の企業がひとつ滅びたからといって、GDP世界11位の国家の経済全体が停滞するというのは話になりません。韓国の経済規模や国民の底力を過小評価してはいけません。そのような主張や質問自体は、サムスンを過度に神話化する言動だと思います。

李源宰 韓国の財閥は2つの段階のミッションを遂行してきました。60年代末、70年代初から、借款をはじめとして、どのような形であっても、国家が持ってきた金を、財閥が政経癒着を通じて、他の表現でいえば、国家の命令を受けて事業を推進し、その代価として国家の保護の中で独占事業権を受けて成長してきた段階が1つの段階で、それからIMF救済金融前後のいわゆる新自由主義という市場化が成立し、自らの競争力で生き残らなければならない世界へと投げ込まれました。サムスンについて象徴的な出来事を1つ思い出しますが、2006年に私がサムスン経済研究所にいた時のことです。サムスンが1998年のIMF金融危機の時、構造調整をかなりやった後に、完全に市場主義的に背を向けましたが、サムスン電子が特にそうでした。サムスン経済研究所の研究員が、サムスン電子にコンサルティングに行ってきて言っていました、あそこは専務が指示を出すと、係長が歯向かって、「専務の言うとおりにしていたら、お金にならない」と言うのだそうです。それまでの政経癒着と命令の論理を、利潤極大化の論理がひっくり返す瞬間が到来したのです。それが新自由主義であり、悪しき自体とも言えますが、財閥のそれまでの行動様式から考えれば、一段階、進化したものといえます。このような過程が、金大中・盧武鉉政権の時、さらに広げていえば、李明博政権の初期までのことで、皮肉にも保守政権になってまた退行したようです。特に最近のKスポーツ財団やミル財団の事態を見ると、命令の段階にまた戻ったのです。

整理すれば、韓国経済が、以前は独裁と官冶という状況で、その過程はいいものではありませんでしたが、結果的に企業を成長させてグローバル企業にまで育てたという、成長面で完結したような話をよくします。ですが、実はまだ完結していない状況で、退行を体験して没落しているという印象を私はずいぶんと受けます。一連の過程が2つの危機に圧縮されます。1つは「崔順実事態」が象徴するように、官冶と命令の構造がふたたび登場したということと、ギャラクシーノート7や現代自動車の問題にみられるように、曲がりなりにも堅実だったグローバル競争力が衰退しているということです。朴槿恵政権がさらに完全に市場主義的な状態で、財閥企業を独立的に作って任務を終わらせれば、韓国経済の一段階がとにかく整理され、その次の段階につながる基礎になり得たのですが、悲劇的に終わるようで残念です。

李日栄 いま、おっしゃったサムスン電子のエピソードが広がった頃、盧武鉉大統領が、権力が市場に移ったと言っていました。宋先生はどうお考えですか?

宋元根 市場が権力に移ったという話を、私は既存の政府の役割、ですから、李源宰さんの表現でいえば、官冶、財閥との癒着関係で政府の主導権が消えたという話として受け留めました。このような状況で、ならば政府がいかなる役割を果たすべきかという問題が、新たに提起されたのですが、李明博政権以降、企業親和、「ビジネスフレンドリー」を標榜して、規制緩和をして民営化するといったことは、政府が主導権を行使するよりは、企業活動を支援する程度の役割を果たそうとしたものだと思います。朴槿恵政権になって、以前のようにまた国家が何かを主導できるようになったかのように見えますが、実はそうではありません。政府が言う通りにやらなければ黙っておれないというから全経連が作られたように、韓国の保守というのは、実はつねに政府の影響によって動いていた勢力です。財閥の政治的な見解を、実際にきちんと代弁する政党がなかった面もあります。現在のセヌリ党を含む保守勢力は、反対勢力に北朝鮮追従であるというレッテルを貼るだけでも、政権を取ることができました。

 

政治権力は、また財閥の上位に立ったのか

 

李日栄 政府の主導権は弱くなりましたが、また政府の影響で資金を集めたとすれば、ミル財団、Kスポーツ財団のようなものは、政府が実際に市場から権力を回収して官冶したというよりは、単に路地裏で「巻き上げた」くらいに見るべきだというお話しのようです(笑)。

申鶴林 巻き上げるというには規模がかなり大きいと思います。また規模が、いずれにせよ、ただ金を巻き上げたのであれば、問題は単純でもありますが、今、これらは、国家経営システム全体を完全に食い物にしたわけで、問題ははるかに深刻です。国家、政府の役割の部分だけを見ても、役割を増やそうと減らそうと、市場に対する尊重がまったく存在しない状態です。政治権力と財閥権力の力学関係において、私は、その変曲点は、金泳三政権の時にあったと考えます。それ以前は、大統領に当選する瞬間は話題にしなくても、財閥が当選のご祝儀を、よくこう表現されていましたが、「トラック」で上納しました。政治資金法、選挙公営制のようなものが整備されていなかったために、財閥が、大統領を含めた政界に、天文学的な資金を巻き上げられました。政治権力が上位にあったわけです。ですが、金泳三大統領が就任すると、汚い金は一銭も受け取らないとして、任期初年度の8月にすぐ金融実名制を導入しました。そして関連法が整備される前に、すでに特有の政治力で公職者に財産を申告させました。政治もクリーンになるべきだとして、政治資金の頻繁なやりとりもやめさせました。財閥が政治権力者に常に莫大な資金を供与する必要がなくなったわけですが、それとともに、むしろ財閥が、政治家を小額で買収することが可能になりました。2002年に李会昌候補が出馬すると、すぐにまた「トラック上納」がありましたが。とにかく金泳三氏の主導で、政治家が目に見えない金の受け取りが困難になった制度や環境が整うと、財閥は、たとえばそれ以前は、1名に与える5000万ウォンを、今度は国会議員10人に500万ウォンずつ供与するわけです。そうすると、それらの議員は自分に500万ウォンをくれる企業がありがたいのです。それとともに財閥権力と政治権力の関係が逆転したというのが私の考えです。それをまた元に戻したのが朴槿恵大統領です。ただ、政治権力がふたたび優位に立ちはしましたが、経済的には何も生かすことができず、単に巻き上げるという最悪の状態になったんでしょう。「創造経済」をかかげながら、それとはもっとも遠い形を示したわけです。

宋元根 私はそのことをかならずしも逆転であるとは言いにくいと思います。独裁政権の時期にはある種の明らかな目標と指向がありました。もちろんそれを進めるやり方はかなり権威的で暴圧的でした。ですが、李明博・朴槿恵政権は、特別な政策的目標もなく、ただ自分の行政権や検察のようなものを前面に出して、本当に他の人々から巻き上げるようなものだったのです。大統領のことだけを語るのは限界がありますが、李明博が、市場のなかで自らの私益を徹底的に追求する大統領だとすれば、朴槿恵は、市場を、過去の父親の時期のような権威主義的統治で押さえ込もうとしたのだと思います。権力はすでに市場にあるわけですが。

申鶴林 私が申し上げたいのは、この政権が、国家利益と国民の福祉のために資する方向である種の政策を樹立し、それを財閥にも従えと言えるようになったのに、そうしなかったということです。李明博政権が法人税を安くしたために、国の財政がカラになったといいますが、私は、朴槿恵大統領が国民に示したイメージが、李明博と少し違っていたので、李明博がカラにした倉庫を、朴大統領が一杯にするのではないかという期待を、実際に少し持ちました。

宋元根 一杯にしたじゃないですか、タバコの値段を上げて(笑)。

申鶴林 タバコの値段もそうですし、交通違反の罰金も上げました。ですが、結局「李明(イミョン)博/朴(パク)槿恵(クネ)」政権とまとめて呼ばれたのは、経済政策の面でも変わっていないからです。ある経済学者は、李明博政権の5年間、200兆ウォンの倉庫がカラになったといいましたが、私はそこに100兆ウォンとか50兆ウォンを投入しただけでも、朴槿恵大統領の人気はぐっと上がっただろうと思います。

李源宰 私たちはよく、グローバル企業が最初は保護の中で成長し、ある瞬間からグローバル市場に進出して、競争力を持った市場主義者に変身すると考えますが、事実、その時点に、法人税の引下や規制緩和のような市場主義的な政策手段が新しく入るわけです。私は、韓国でもそれが試みられたと思います。前にも話しましたが、サムスン電子や現代自動車はそのような段階に移行している状態でした。私は、国家がより強いのか、財閥がより強いのか、という問題に分けて考えるよりは、50年間、韓国の主流の経済パラダイムが持っていた1つの系列が続いてきたという見方です。そのような意味で見れば、朴槿恵政権が市場主義的でない理由はありません。最近、明るみになった様々な事件を見ると、いまやそれさえも動揺しているのではないかと申し上げたんです。この状況で注視するのが、今日、サムスン電子の株主総会を通じて、イ・ジェヨンが登記役員になったことです(2016年10月27日)。これも象徴的な事件と言えます。過去の便法で、その多くの財産を作って株主の地位を獲得した人ですが、韓国社会がそれをみな忘れて、この人をグローバル企業の経営者として追認する形になったのです。ですから、さきほど申し上げた成長ストーリーが完成したともいえます。ただ、サムスン電子や現代自動車がすでに古い企業になっている時点でそうなったということが、このストーリーとしては不幸なことですが、私はとにかく、この空白を満たす代案がはやく出るべきですし、またこれまでとは完全に異なった方向から出るべきだと考えています。

李日栄 申代表が、金泳三政権の時が変曲点だったといいましたが、かなり共感できる部分があります。国内的に、国家による財閥からの大量略奪が中断されたという事実が、そのときあたりから対外的に形成されたグローバル化の中で、企業の競争条件が重要になると、国家も一定程度、性格の変化を図らざるを得なくなった現実とつながると思います。それとともに、私は、もう1つの変曲点として、2008年から2012年あたりに至るまで国際環境が変わったという点、つまり、グローバルプレーヤーになった韓国の企業が新しい標準を確立すべき状況になったわけですが、そのときに展望を見出せなかった状況について論じたいと思います。今、模索中であるとも考えられるでしょうが、これまで国家がかなり退行していることは明らかのように思えます。だからといって、朴槿恵政権が表面的に示したように、本当に70年代のやり方でできるかといえば、すでに外部的な環境がそのことを不可能にしています。結局、今、朴槿恵政権が直面している苦境は、戻ることができない道を無理に戻ろうとしたことから始まったのでないのかと思います。今になって考えるとちょっとあきれますが、朴大統領があまりにも強行的なスタイルで、それに野党が言いなりになっても、この政権が政局の主導力を失うことはありませんでした。このような状況がひっくり返されたのは、政権自らの内部から崩壊した側面があって、また他方ではマスコミの奮闘が大きな役割を果たしました。また、梨花女子大の学生たちの学内民主化のための闘争も重要だったと思います。従来の学生運動とは違うやり方で行くという自意識が見えました。数年前から感じていましたが、地域活動をする青年たちと会ってみると、自分たちのことを、いわゆる従来の進歩的な運動の先輩たちとは異なる存在であると考えているようです。まだ明確ではありませんが、既存の保守や進歩を一挙に古いものにして、また国家が過去のように作動していては、その力を発揮しにくい構造やシステムが作られているとも思います。

 

財閥にも「クラス」がある

 

申鶴林 システムのことををおっしゃいますが、私はこの政権を運用したり政策に影響を及ぼす人たちが、すべて既得権勢力、つまり大韓民国の金と権力と名誉をほとんど寡占・独占している人たちなので、朴槿恵政権がさらに何かをしようとしても、できなかった面があると解釈する方です。

宋元根 私はそれに加えて、朴槿恵政権が、規制でも容認でも、ある政策で財閥を誘導しにくかったのは、財閥間の格差の問題も大きく作用したと思います。30大財閥であれ10大財閥であれ、これらが共通性を持つ時は、互いに利害関係で1つになれましたし、そのようなことで政権との連合も可能でした。しかし、現在はまとまることが困難になりました。朴槿恵政権がどうして財閥規制をきちんとできなかったかを、このような面で少し譲歩していえば、サムスンを規制するために政策を展開する場合、他の財閥にはほとんど存廃の危機に直面するほどの強い規制になってしまいます。同じように、それより低い水準の規制では、サムスンのような最上位の財閥はすり抜けてしまいます。このような点にも注目する必要があります。

李日栄 財閥の中で格差がかなり生じ、様相が多様化したことも事実ですが、財閥というシステムは相変らず維持されています。そこにどのような要素が大きく作用しているとお考えですか。まず申鶴林代表が注目する血縁、姻戚関係などについて議論すると、どうなるでしょうか。

申鶴林 宋先生もおっしゃるように、現在、5位の財閥と30位の財閥では、その規模がほとんど天と地の差くらいあります。ですが、他の角度で見ることもできます。サムスン、新世界、CJ、ハンソルなどのグループは、他の見方をすれば、汎サムスングループとも言えるということです。サムスンは、創業者イ・ビョンチョル会長の三男のイ・ゴンヒ会長家族、ハンソルはイ・ビョンチョルの長女(イ・インヒ)家族、CJはイ・ビョンチョルの長男イ・メンヒ(長男がイ・ジェヒョン)家族、新世界はイ・ビョンチョルの五女イ・ミョンヒ(長男がチョン・ヨンジン)家族が、それぞれ所有・支配するグループです。このように分化しているんです。現代グループのチョン・ジュヨン会長の方もまたかなりの勢力になります。創業者チョン・ジュヨンの長男が早く他界したせいで、事実上、長男の役割をした次男チョン・モングの家族が現代・起亜自動車グループ、三男チョン・モングンの家族が現代百貨店グループ、四男チョン・モンウ(逝去)家族がB&Gスチール(旧・仁川製鉄)、五男チョン・モンホンの夫人ヒョン・ジョンウン会長の家族が現代グループ、六男チョン・モンジュンが現代重工業グループ、七男チョン・モンユン家族が現代海上火災、八男チョン・モンイル家族が現代企業金融を、それぞれ所有・支配しています。そのうえ、チョン・ジュヨン会長の兄弟家族が所有・支配しているグループが漢拏グループ(チョン・イニョン)、ソンウグループ(チョン・スンヨン)、韓国プレンジ工業(チョン・ジュヨンの妹婿キム・ヨンジュ家族)、現代産業開発(チョン・セヨン)、KCC(チョン・サンヨン)などです。このようにいくつかの「一族クラスター」が、大韓民国の経済で莫大な割合を占めます。ここで重要な点が、これらの企業集団は別個に経営されているものの、特殊関係者の範囲をどのように見るかによって、かなり異なる解釈が可能だということです。たとえば、今、斗山グループは、創業者の4世のパク・ジョンウォン氏が会長をしています。3世、4世が各系列会社、子会社を持っていて、そのうえ5世の10代、20代の親族が、また相当数の株式を保有しています。創業者の兄弟、孫をみな考えれば、すでに6親等、7親等にまで広がります。だとすれば、彼らを特殊関係者の範囲に入れることはできません。商法によって不当インサイダー取引を規制するべきですが、現在の法制度では阻止できないといいます。ですから、私は、資産規模が一定水準以上の企業集団群を、実質的に所有あるいは支配する場合には、特別法で特殊関係者の範囲を大幅に(8親等以上に)拡大すべきだと思います。そうしてはじめて不当インサイダー取引を基本的に遮断できます。

李日栄 普通、後発産業国の発展過程において企業を論じる時、最も重要な概念として家族企業集団のことを指摘します。先進国の場合、このような集団が分散して専門経営者体制へと移行しますが、韓国の場合、そのような過程がまったくふさがっているんです。ですから、グローバル体制が変動して、第四次産業革命の波が近づく今の現実において、かなり困難な状況に直面しそうです。この問題をどのように克服できるでしょうか。

 

支配構造の改善か業種規制か

 

宋元根 過去の財閥の核心戦略は、他の会社、他の系列会社から支援を受けて、タコ足式に拡張することでしたが、その後、収益極大化戦略に移ると、持っているものを活用して、倹約するように富を吸い取る構造の整備が重要になりました。そこで、各種の系列社取引やインサイダー取引のようなものがかなり活用されています。グローバル経営、株主価値経営をするといいながら、過去のように業績の悪い系列社を支援するといえば、株主がじっとしていません。ですが、財閥の2世、3世が、大株主の系列会社が系列社内だけの取引で利益を得れば、その会社の株主もいいことだと考えます。そこで一種の連合のようなのが形成されたりもします。申代表がおっしゃるように、より大きな枠組での集団を維持して、そのなかで既得権をきちんと保全することが、彼らの立場ではもちろん基本的には重要でしょう。ですが、同じ財閥のなかでも、兄弟間で財産や経営権をめぐって争う姿を、私たちはかなり多く見ていて、また、上位の財閥の間でも利害関係がかなり異なります。ですから、何かをしようといっても簡単に同意が成立しません。全経連のような場合も、いつからか会長職を互いに押し付けたり、様々な懸案で摩擦音が生じるようになった理由も、このようなことの傍証だと思います。ただ、今回のミル財団の事態は、他の財閥が資金を出したり、ワンショット法(企業活力向上のための特別法)のように、自らに有利な法を作ろうとする同一の利害関係があり、政府の「保険」に入るという計算もあったでしょう。とにかく、私が注目するのは、財閥が利害関係によって合従連衡するという事実です。イ・ジェヨンの支配力拡大のために、サムスンの防衛産業分野の系列会社をハンファが引き受けました。サムスンとロッテとの間の化学系列会社の売却がそうですし、サムスン物産が自社株をKCCに譲渡して第一物産と合併する過程で、KCCがサムスンの肩代わりをしたのもそうです。そのような形で利害関係によって動くということです。財閥間の関係が過去とはかなり変わったわけですが、問題は、個別集団でそのような総帥支配をどう解決するのかということです。この点で依然として政府が重要です。具体的に、私は、製造業だけでなく、金融系列会社を含めて、これらに対して系列分離命令が必要だと思います。その前に循環出資から禁止するべきです。そのようなことがあってはじめて、中小企業、下請企業との関係もそうですし、産業構造も変えられると思います。今は、イ・ジェヨンがいつでも市場の規則を変更できる位置にいます。政府は何も言えません。2014年に食品医薬品安全庁が、サムスンのギャラクシーギアを医療機器ではないといって規則を変えてしまったのが、きわめて象徴的な出来事だったと思います。心拍数を測定できる機器ですが、医療機器と指定されればいろいろ複雑になって、携帯電話の代理店で売ることも難しくなります。サムスンのロビーで市場規則が変わったという疑惑が濃厚ですが、とにかくこれを利用して、サムスンは、過去に成功的ではなかったイ・ジェヨンの経営能力を検証しようとしたんでしょう。結局、政府が確固たる意志を持ってはじめて、行政官僚の間でもこのようなことを阻止できる端緒ができるのではないかと思います。

李日栄 依然として政府が重要だというお話しです。政府が望ましい規則を制定できる方向で作動するように、社会が後押しすべきですが、さきほど申代表は、90年代以降、財閥の力が、異なる勢力を、それぞれ別個に撃破できるようになった状況だとおっしゃいました。

申鶴林 ええ、抱き込むんです。政治家もそうですが、法曹界もそうなんです。これは検察側から聞いた話ですが、検事は各自、ある時点で進学班、就職班に分かれるそうです。進学班は昇進する人たちで、就職班は法律事務所や大企業の専属弁護士になる人たちです。このような状況で、特定の財閥がかかわった事件が入ってくれば、就職を考える検事たちは計算するでしょう。関連する金額が莫大なこのような事件を大目に見れば、財閥の会長にそのことが報告されます。うまく収拾すれば、後で実際に就職できます。このような雰囲気が、検察だけでなく、韓国の政策を左右する高位官僚の間にかなり広まっています。

李日栄 盧武鉉政権のときに出た話ですが、様々な制度を変える時、サムスンのための条項は誰かが教えなければ見つからないように、どこか遠くに埋めてくるといいます。キム・ヨンチョル弁護士の暴露によると、あれこれやりとりされる取引が、1件あたり1億ウォンだという話もあります。

申鶴林 特にサムスンの場合、政界、政治家、経済部署をはじめとする政府高位職、金融監督院、検察、警察、国税庁などをすべていつも管理しているといいます。だとすれば、このような管理はサムスンだけの問題でしょうか? そのようなシステムが事実上、国家や政府政策の立案から施行まで、様々な段階で作動する、それが危険な水準であると私は考えます。

李源宰 さきほど宋先生がおっしゃったように、財閥の間にも差が大きいので、サムスンの支配構造の問題解決のように、ある特定の財閥改革の政策を進めるのは、効果が曖昧な面もあります。ですから、私は逆説的に、いまや支配構造を中心に財閥問題を論じることは、もしかしたら時効になった面があるのではないかと思います。ならば、どこに集中するべきかというと、私は業種規制がきわめて重要になったと思います。たとえば、半導体を作る大企業が、半導体を売って利潤を多く残すこと自体には、ひとまず問題がありません。そこでトリクルダウン効果(利益波及)が見られないとしてもです。この企業で労働問題が大きくなれば、それは労働政策として解決するものであり、この企業が成長しても雇用がおろそかならば、それもやはり福祉次元で接近することであって、財閥対策で解決することではありません。今の構造でさらに大きな問題は、半導体を売って稼いだ分の一部で、たとえばパン屋を開いて、既にパン屋をしていた人々の商売がうまくいかなくなる状況です。このようなことは、財閥が支配構造を守るために官僚を買収したりする問題とは異なるレベルだと思います。そのような面で、業種規制、たとえばグローバル企業と内需ローカル企業の間に、どのような壁を作って産業を配分するのか、ということなどが重要です。また、金融関連の対策も必要です。金融圏でグローバル大企業への資金提供に使われる資本を、どのようにすれば新たに創業した企業や自営業者に支援できるかを考えるべきです。この2つが、今、最も重要な政策だと思います。

申鶴林 重要な指摘です。業種規制、別の表現をすれば、業種専門化はすでにやっていなければならないことで、さらに遅れれば内需にもかなり悪影響を与えるでしょう。韓国に今、路地商業圏というものがありません。コンビニを例にあげれば、CJのCU、ロッテのセブンイレブンとBuy the way、GSのGS25、このように3つの財閥が持っている4つのチェーンが、全体のコンビニ店舗の80%を占めます。実はすでにCUはホン・ソッキョン兄弟の所有です。こちらも他の見方をすれば、汎サムスン家族ですが、さきほど申し上げたことと関連づけるなら、ホン・ソッキョン兄弟が所有・支配している中央日報社と普光グループも、はじめから総資産が2兆ウォンを超える企業集団群に属していました。そうするうちに、企業集団群に対する総資産基準を高める風潮に陥ったのでしょう。依然として事実上の企業集団群、つまり財閥と変わりありません。系列会社が100を超えます。そのうえ、新世界百貨店のemartがWith♥Meでコンビニ市場に参入してきました。このような形で、財閥が路地商業圏に何の制限もなく参入することを放置したまま、どうして内需を語ることができるでしょうか。

宋元根 私もお話しに同感ですが、財閥の支配構造の改善は、依然として第一の課題です。財閥3世、4世にすでに富が分配されています。統計を見ると、彼らのうち役員として登記されている比率は6%余りにしかなりません。登記せずに責任を取らず、収益は極大化しようというわけですから、パン屋のように簡単に開業できる分野に行こうとするわけです。R&D(研究開発)に努力してリスクを引き受けながら進出するやり方ではありません。以前は、たとえばイ・ビョンチョル会長が家族に分けた系列会社の業種が似ていれば、総帥として調整したりもしましたが、最近はサムスンだけでなく、すべてのグループで3世、4世が、受け継いだ系列会社の事業も調整できなくなっているという話です。ならばどう直接規制するかが重要な課題です。一次的には責任経営のように市場を通じて規律することが必要で、その次に、過ちを犯せば政府が罰を与える役割を果たすべきです。このような役割まで放棄して今日に至っているわけですが、今となっては最初から誰も規制できないのではないかと考えているのが実情でしょう。地域を見ると、すでに財閥企業が商業圏をみな掌握しています。このような構造を変えるべきです。支配構造を透明にするというレベルで導入された持株会社制度が、むしろ総帥の合法的な支配を保障し黙認する機能を果たしています。あらためて強調しますが、総帥の支配力を牽制しようとするならば、循環出資禁止を強化して、系列分離命令制や企業分割命令制を導入する手段を使うべきだと思います。

 

彼らは「都合のいい存在」ではない

 

李日栄 李源宰さんは競争にも区画を作るべきだ、だから路地に大企業は参入できないようにする政策が必要なことを強調され、申代表も似たような立場です。反面、宋先生は少ない持分で領域を拡大していくメカニズムについて問題を提起し、それに対応する政策を強調されました。強調する点は少し違いますが、共通して財閥牽制に対する政府の役割について指摘され、これまで保守政権の下で、政策が過度に財閥フレンドリーに偏ったという話が多かったようです。李明博政権の法人税引下措置が代表的に議論される措置のようです。崔順実の事態を見ると、財閥も陰の実力者(政治権力)の前に「都合のいい存在」だったという雰囲気がありますが、かならずしも「都合のいい存在」の立場だけでなく、そのような上納を通じて、相当な恩恵を受けた面もあるだろうと思います。今回、公開されたKスポーツ財団の会議録では、寄付金と税金を交換するような話も出てきます。税金は国家が握る権力であり政策手段ですが、このようなことをどうお考えですか。

申鶴林 世の中にはタダの昼食はありません。今回、崔順実の家族に便宜を供与した財閥には、反対給付があったり、あるいは財閥が今回提供した金よりも何十倍以上の利益が戻ってきただろうと思います。かなりの情況が見られます。

李源宰 企業は徹底して利益を追求して動きます。権力が威嚇しても、利益にならなければ動かなかったでしょう。むしろ権力から要求を受けるたびに、その要求を受け入れることによって、その後に得られるであろう利益を積極的に計算し判断して、意志決定をおこなった可能性が高いと思います。事実、これは過去の開発時代にも同様でした。当時の初期の財閥は、工場の建設位置を指示されるほど、政府に従属しているように見えましたが、結果的により大きな利益を得られるだろうと判断したので、そのような従属的地位を積極的に受け入れて活用したんです。これが政経癒着の本質です。サムスンを見ても、国民年金の買収・合併関連の投票、労働改革の議題など、企業の支配構造を直接揺るがし得る政策イシューに直面していました。ロッテのように捜査を受けた財閥は言うまでもないでしょう。

宋元根 租税政策は政府の重要な役割です。どのようにきちんと運営するかによってかなり変化があると思います。たとえば、法人税を引き上げるべきといいますが、単純に接近せずに、細かく差別化された政策をおこなうべきです。今、法人税率は地方税を含めて24.2%程度ですが、サムスン電子や現代自動車のような大企業の実効法人税率は16~17%くらいにしかなりません。李明博政権の時はこれよりさらに低かったんです。あちこちで免税にして税率を上げても特に効果はないんです。系列社取引で収益を多く出した法人にはさらに高い法人税率を適用したり、ロバート・ライシュ(Robert Reich)が『資本主義を救え』(韓国語版はキムヨンサ、2016)で提示したように、CEOと一般労働者の間で給与差が大きな企業、下請企業や非正規職労働者を多く雇用する企業に対して、高い税率を適用する方案など、参考にするだけのことはあります。こういうことは政府が大きく決意することなく実施できる政策ではないかと思います。

李日栄 そのように、政府が財閥に対してきちんと役割を果たそうとするなら、政府を取り囲む勢力が、環境を作って圧力を加えるべきです。権力と財閥、法曹界と財閥の癒着に対する議論が多いようですが、マスコミ側はどうなのでしょうか?

申鶴林 この問題に関する限り、マスコミが作動しないということは断固として申し上げられます。SNSの領域の可能性がありますが、伝統的な概念のマスコミは完全に死にました。ハンギョレ、京郷新聞のことをあげる人がいるかもしれません。しかし、ここも広告主サムスンからすべて自由ではありません。ひとまず新聞企業の場合、韓国では新聞をあまり読みません。新聞発行部数が20年前と比べて3分の1に減りました。それとともにすべての新聞社にとって生存が至上課題になりました。ですから、広告に一層依存するしかありません。日本の朝日新聞の場合、購読料収入と広告収入が50対50です。韓国は5対95です。どの新聞社も例外はありません。そして広告自体だけを見ても、以前は「フリーマーケット」や「尋ね人」のような小さな広告の比重がかなりでしたが、今は最大広告主がいくつか残っているだけといっても過言ではありません。電子・IT、自動車、アパート・商店分譲、これに教育市場の広告が若干です。結局、これらの業種の財閥が実質的に韓国の新聞社の経営を握っているんです。ですから、記者がみずから自己検閲するんです。放送の場合もさほど大差はありません。国が権限を持つ地上波は論外としても、ケーブルテレビから綜合編成チャンネルまで、数百もチャンネルがありますから。

李日栄 ですから、確実に財閥が抱え込んでいるというよりは、マスコミ産業の基盤崩壊が決定的だと思います。「メディアトゥデイ」の予算は充分かどうかわかりません(笑)。

 

財閥を越える対抗力、どこに見出すべきか

 

李日栄 お話しを聞いていると、結局、政治の問題を考えることになります。海外の場合を見てみると、クルッグマン(P. Krugman)のような人も、とにかく問題は政治であるといいます。ライシュは「対抗力」と表現しましたが、アメリカで企業の支配構造が分散して、専門的な形態で企業が発展する方向に基本制度が形成されたのも、そのような対抗力を持った反独占勢力が政治的に存在したことが大きな基盤になりました。セオドア・ルーズベルト(Theodore Roosevelt)の時代もそうですし、その後のニューディール政策もそうで、アメリカで進歩の時代を切り開いたのが、そのような力でした。最近の主流に対する怒りや、いわゆるトランプ(D. Trump)現象のようなものは、それが崩壊した結果ですけれど。アメリカだけでなくドイツの場合には労働勢力がいて、経営参加、労使共同決定制度のようなものを作り出しました。日本は、自主的な力ではありませんでしたが、米軍政が戦後の占領期に財閥を解体させました。結局、ならば私たちも、何か対抗力を整えてはじめて新たな流れを作っていけるだろうということです。まとめの発言を兼ねて、そのようなものをどこに見出すべきか、重要と考えられている点をついてご指摘頂ければと思います。

李源宰 3つのことを申し上げたいと思います。第一に、個人の権利を取り戻すやり方が重要です。私たちが財閥大企業に対する対策を論じる時、普通、労働組合が重要であったり、経営陣への牽制を強化したりというやり方にかなり言及しますが、今の状況では、情報に対して接近する権利を、消費者や投資家個人の方に強力に与える方案がぜひとも必要です。たとえばオクシー事件(加湿器殺菌剤事件)のようなものが広がると、消費者が企業に情報を要請し、それを受け取れるようにすべきです。もちろん、それで終わってはならず、個人が民事的に対応できる力が足りないので、一緒にできるように集団訴訟制を導入するべきです。このような形で個人の権利を強化する方案を、財閥大企業に対する対抗力として深刻に考慮する必要があります。青年や非正規職のように集団的に何かをすることが難しい人たちには、なおさらこのような方式が大きな力になり得るでしょう。個人主義的な情緒にもよく合います。第二に、すでにプレーヤーとしての地位を占めた大企業に比べて、はるかに脆弱な状態にある経済行為者たちがいるでしょう。協同組合とか、また創業したばかりのベンチャー企業、社会的企業のようにです。このようなところは支援が必要ですが、私はそれを、投資で行なうのがいいと考えます。過去に中小企業銀行や産業銀行があったように、社会投資をする国策銀行を作る形で、大々的に投資ができるシステムを作ろうということです。ソウル市では「社会投資基金」という名で試みたりしていますけれど。銀行が、社会的に意味ある成果を出すことに対して、投資も貸出もするムードが今はほとんどありません。金融監督の基準を別におこなう制度で投資を引き出す必要もあります。最後に福祉の面ですが、青年手当や基本所得のように所得を作ってやる福祉もあり得ますし、無償医療や無償教育のように費用を減らす福祉もあります。投資が積極的な意味ならば、福祉はどちらかというと消極的な意味ではありますが、個人が既存の構造に抱え込まれずに、対抗する力を与えることができます。

申鶴林 私はまず地方自治を重要だと考えます。李明博・朴槿恵政権が福祉予算をかなり削減しました。さらに老人ホームの暖房費の支援予算まで削りました。反面、進歩的な地方自治体の首長は、青年手当制度のように中央政府とは異なった政策を導入しています。人々の生活が窮乏するので、地域で小さな共同体もでき、村落企業もできていますが、このような動きは度外視したまま、地方自治体が何かやろうとすると中央で牽制するといった具合でしょう。実は政府がやっていることのなかで、各種の許認可事項から福祉やサービスなどに至るまで、約80%は地方自治体が提供しており、中央政府は20%しかしていませんが、予算は中央政府が80%を握っていて、地方自治体は20%程度しか使えません。それも中央政府が地方自治体に支援する地方交付税でもてあそび、地方自治体を事実上隷属させている実情です。ですから、大部分の地方自治体が、中央政府が指示する通りやるしかありません。内需市場をはじめとして、大韓民国が経済的に突破口を準備しようとするならば、いまや地方自治制度を名実相伴うようにするべきだと考えます。もう一つ重要なのは人の問題です。まず韓国の官僚の腐敗は非常に深刻な状況です。高位公職者が権力を私有化しています。私はこれが韓国社会で最も危険な部分だと思います。そして私も「メディアトゥディ」代表理事ですが、大韓民国でこれまで労働と労働者という要素が、本来の位置、適正価格を認められたことがないと思います。韓国社会が支払うべき機会費用の多くの部分、今、続いている鉄道ストライキもそうですが、このような事態の相当部分が、労働を本来の位置で考えず、誤った政策で引き起こされています。経済が跳躍するためにも、労働と労働者がきちんと待遇を受けるべきという点を強調したいと思います。このような最も基本的な事柄から、韓国社会が点検するべきだということです。財閥が投資や生産性向上よりは、雇用柔軟性や非正規職転換、下請企業化などで人件費を減らし、労働者が犠牲にすることを前提に利潤を極大化する方向で、政治経済のシステムが作動してきたわけです。

宋元根 財閥を越えた対抗力を語る前に、まず前提にすべきものとして、「公的」という概念に対する認識がさらに明らかに確立され、拡大するべきという点をあげたいと思います。株式会社はきわめて公的な存在です。公的というのは、責任をともに負うという意味です。現在の財閥企業が形成されたのは、財閥の総師とその一家の専横や無責任を、私たちが黙認した結果です。私も李源宰さんのおっしゃる個人の権利をさらに育てようという主張に同意しますが、個人が力を持てば、すぐに公的権力が生じるわけではないと思います。アメリカを見ると、消費者の権力が大きくなると、他方ではウォルマートのような流通権力も肥大化しました。消費者主権が成立したからといって、市民権が生き返るわけではないということでしょう。個人の権利から一歩進んで市民権の概念が確立されるには、もうひとつの公論の場が必要です。基本所得や青年配当のようなものを議論し施行することも意味ある試みだと思います。このような公論の試みを政界で受け入れるべきですが、既成政党でそれができなくなっています。アメリカでも、民主党も共和党も、ともにそのような要求を受け入れられないので、大統領選挙を行うべきアメリカの有権者が、現在、相当に「どうすべきかわからない」状態にあると私は思います。私たちも似ています。このような側面で、いろいろと問題がありますが、組織された労働の役割が重要だと思います。特に財閥集団に対する対抗力として、グループ共同決定制度や、中小企業間の談合をある程度認める制度などが必要です。最後に、対抗力を形成するには、財閥が支配しているともいえる金融権力をどのように統制するかも重要だと思います。以前は、個人が出した顧客資産を、なぜ財閥が系列会社の拡張に使うのかという点が主として問題でしたが、今は、金融産業自体が途方もなく発展し、対抗勢力の経済力の形成がますます難しくなるというのが、さらに問題点として台頭していると思います。金融業全体を、事実、財閥の系列会社のいくつかが掌握しているので、対応がさらに難しくなる構造に向かっています。特に、サムスン生命の資産だけをみても、全体の保険資産の4分の1程度になっており、サムスンの系列会社から受けた、系列者内取引で集めた退職年金の規模もかなり大きいようです。さきほど、金融資本と産業資本の分離の話が出なかったので、ここで強調したいと思います。また、社会的な経済領域の活性化のための金融支援も重要であると思います。ソウル市や城南市のようなところで、税金を節約して財源を用意するといいますが、そのためにはさきほど李源宰さんがおっしゃった、社会投資が可能な銀行があったらいいと思います。アメリカ・ノースダコタ州のパブリックバンクのようなものを検討すべきだということですが、政府が持分をすべて持っていて、地域に投資し、雇用も増やす、というような銀行の事例が韓国でも報道されました。そのようなことをするためには、金融産業が独占化されている今の構造を打破すべきだということです。

李日栄 共通する点はありますが、強調する点が微妙に異なる部分もあります。3名の方のお話しのうち、私の耳に入ってくる対抗力のキーワードは「個人」「地方」「公共」です。このキーワードは互いに対立するものではないと思います。私なりに整理すれば、現在は略奪のシステムが作動していますが、これを均衡的なシステムに切り替えるべき課題があるといえるでしょう。略奪のシステムは甲乙関係を作り、地代と利権を受け取りますが、ここで財閥が大きな役割を果たします。甲乙関係、地代受取の関係、略奪関係から自由になるためには、均衡を合わせようとする対抗力が必要ですが、その対抗力を持つことができる領域が、先生たちがおっしゃられた、個人、地方、政府や政党などになるでしょう。ですが、このような対抗力がきちんと力を行使するためには支援が必要でしょう。私はそれが公的資産であると考えます。これを、どのように、どれくらい確保できるかが重要です。中小企業であれ零細企業であれ、中央政府であれ地方自治体であれ、福祉であれ基本所得であれ、公的資産があってはじめてバランスのとれた投資が可能です。この公的資産には、物的財源はもちろん、倫理や道徳的資産も含まれると思います。今日は、3名の先生と対話しながら、様々なアイデアを整理する契機になりました。長時間ありがとうございました。(2016年10月27日/創批・西橋ビル)

 

(翻訳: 渡辺直紀)