[企画] 新政権が時代転換に貢献しようとすれば / 李南周
李南周(聖公会大学教授、政治学)
著書として『中国市民社会の形成と特徴』『東アジアの地域秩序』(共著)『二重課題論』(編著)などがある。
1.キャンドル市民の勝利、新たな出発
文在寅候補が第19代大統領選挙(以下、大選と略)で圧勝して大統領に就任した。これにより、昨年下半期にキャンドル市民の闘い(以下、キャンドル闘争)に触発された息詰まる政治日程は一段落した。思い返せば、劇的な転換といわざるを得ない。4年間海底に沈没したままだったセウォル号が引揚げられ、犠牲者を収容するための作業と本格的な真相調査が始まっただけでも、これから国が正常化するだろうという期待を抱かせた。もちろん、こうした期待を現実にするためには今後更なる努力が必要だが、今回の大選がキャンドル市民の勝利という評価に異議を唱える人はいないだろう。キャンドル市民は、昨年4月総選挙の敗北にもかかわらず意気軒昂だった朴槿恵政権の気勢をそぎ、キャンドル闘争の初期に問題の核心をつかめなかった政界を大統領弾劾へと導いた。いかなる政治家や政治勢力よりも偉大な事業を成し遂げたのである。
弾劾後もキャンドル市民は全く手を緩めなかったという事実が、今回の選挙を通じて再確認された。選挙結果は弾劾に対する世論とほぼ一致した。2017年3月10日憲法裁判所で弾劾審判が宣告される直前に行われた世論調査で、弾劾に賛成すると答えた候補(文在寅、安哲秀、劉承玟、沈サンジョン)を支持する比率は77~79%に達したが、今回の選挙で彼らの得票をすべて合算すれば75.4%だった。選挙結果をめぐり、洪準杓候補が24%を得票した事実に失望を感じる人も少なくないが、30%台後半に達すると評価されてきた保守勢力の支持率が30%前後にとどまり、保守内部が守旧勢力と合理的な保守を追求する勢力とに亀裂が生じたのは韓国政治史では大きな変化である。IMF通貨危機が頂点に達した時に行われた大選でさえ、危機を招いた責任がある新韓国党の李会昌候補の得票率は38.7%だった。今回の選挙は守旧派の影響を最小化した状況で改革を推進できる類例のない政治環境と、保守内部で合理的な保守勢力の影響力が高まりうる契機を提供した。
これとともに強調したいのは、キャンドル闘争と今回の選挙が、対北強硬論を掲げて国内政治で主導権を再び確保しようとした守旧勢力と朴槿恵政権の無責任かつ危険な行動・態度に一応ブレーキをかけたという事実である。キャンドル闘争が始まる直前の昨年10月1日「国軍の日」記念辞で、当時の朴槿恵大統領は「わが大韓民国は北の政権の挑発と反人倫的な統治が終息するように北の住民の皆さんに真実を知らせ、皆さんが人間の尊厳が尊重されて幸せを追求して生きていけるように、最善の努力を尽くすでしょう。北の住民の皆さんが希望と生活を求めうる道を開けておきしょう。いつでも大韓民国という自由な地に来られるように望みます」と、事実上北の政権崩壊を目標として提示した。もしキャンドル闘争がなかったならば、これに対する北の反発が高まっただろうし、今年12月に予定されていた大選が正常な形で行われるか憂慮される状況が展開されただろう。実際、今年3~4月に米国内で北に対する先制攻撃論などが提起されもしたが、朴槿恵政権が維持されていた場合、韓(朝鮮)半島の状況はどのような展開になったか、と思うと今でも背筋が寒くなる。もちろん、この危機は完全に解消されておらず、今後も大きなヤマ場が残っている。だが、今回の選挙は少なくとも南北の対立と葛藤が守旧的な政治勢力の利益のために利用されるのを防ぎ、国民の生命安全と生活の質の向上を最優先とする原則に従って解決していける転換点を作りだした。
今後は多くの人々が渇望するように政権交代を時代転換、新たな社会体制の建設へとつなげていくための努力が必要である。キャンドル闘争が「革命」と命名されることでわかるように、現在わが社会の新たな体制に対する熱望はいつよりも強い。[ref] キャンドル闘争の革命的意義については、白楽晴「“キャンドル”の新社会づくりと南北関係」『創作と批評』2017年春号、18~21頁(日本語訳は『世界』2017年5月号、220~221頁)を参照。 [/ref] ただ、歴史的に見れば、既存の体制に一時的な亀裂を生じさせた事例は少なくないが、既存の体制を新たな体制に転換する作業に成功した事例は極めて珍しい。こうした熱望が実現されるためには、キャンドル闘争時よりもっと精巧な戦略と尋常ならざる努力が必要である。選挙が終わってキャンドル精神を継承しようと主張した新政権が成立したことにより、まず彼らが与えられた課題をどのように遂行するのかに関心が集まっている。しかし、キャンドル闘争時に確認されたように、彼らだけに任せていたら状況が望む方向へと進展するのは難しい。時代転換に成功するためにはキャンドル闘争時のように、ある意味ではその時以上に積極的に市民が主権者としての役割を果たさねばならない。ここでは、新政権が成功するためにはどういう態度と接近方式を選ぶべきかを論じるとともに、新政権が自らなすべきことをきちんと行うようにさせ、最後に時代転換に必要な市民の役割を提示したいと思う。
2.弱みを強みにする知恵が必要
現下の政治状況は新政権にとって有利な面だけではない。選挙結果は政治状況を構成する一つの要素に過ぎず、選挙結果自体も多様な政治的意味を生み出すからである。では、今回の選挙で新たに造られた政治状況で新たな政権がもつ強みと弱みは何か。
現時点で、新政権の強みとしては次の3つが重要である。第一に、文在寅大統領が全国的に、また世代的に比較的バランスよく支持されて当選した。まず地域別の得票を見れば、慶尚南・北道と大邱を除いた全地域で勝利し、慶尚南道ではトップの洪準杓候補との差は1万票に過ぎなかった。テレビ三社の出口調査によれば、有権者のうち20代から50代までは洪準杓候補を圧倒し、60代と70代以上でのみ敗れた。政権初期には自らを支持した有権者と良好な関係をつくりやすいという点をうまく活用すれば、これは重要な政治的資産である。特に来年の地方選挙を前にして、この点は大きい。第二に、社会全般に変化に対する強い願望が存在する。当然、これはキャンドル闘争の結果である。社会転換のための議題に対する受容性が高まっているために、改革課題の推進に極めて肯定的な環境が作られている。第三に、有力な政治的ライバルが存在しない。文在寅大統領は選挙で他の候補を圧倒した。得票数で第2位の候補との差は557万951票で、歴代で最も大きかった。過去最大の票差は、2007年大選で当時ハンナラ党の李明博候補が大統合民主新党の鄭東泳候補を下した531万7708票である。特に今回の選挙では、前述したように、保守勢力が歴代で最低レベルの得票率を記録し、政治的にも分裂した。従って当分の間、新政権への強力な反対勢力は形成されにくい。
その反面、弱点も目につく。何よりも与小野大の議会を相手にしなければならない。与党である「共に民主党」の議席数は2017年5月11日現在で120議席に過ぎず、過半数の150議席にはるかに及ばない。単独では首相の選出が難しく、「与野間の対立が先鋭な法律の通過時には定足数の60%(180議席)以上の同意が必要である」という国会法(いわゆる「国会先進化法」)を満たすのは極めて困難な状況である。選挙日程を考慮すれば、この構図は少なくとも今後3年近く続きうるが、これは政権が新たな議題を推進しうるゴールデン・タイムに重なる。議会と協力関係を結べなければ、政策の推進は困難になる。第二に、全国的にバランスよく支持されたが、得票率は41%に過ぎない。多者間の選挙だったせいが大きいが、投票で文在寅候補を支持していない約60%の有権者の民心、そして敢えて投票をしない棄権者の民心がどのように動くかによっては、いつでも政治的な苦境に直面しうる。文在寅候補の勝利は、反対勢力内で一人に集中する現象が起こらずに支持が分散した結果である。第三に、変化の熱望を集中できる核心議題がない。これは政権初期には極めて大きな弱点である。選挙という政治的イベントは単に候補者間の勝敗を決定するだけでなく、新たな議題に対する共感帯を形成する機能をもたねばならない。だが、今回の選挙では変化への熱望は強く表われたが、初期の核心課題が何なのかは明らかにならなかった。ずっと1位を独走した文在寅候補と「共に民主党」が選挙の流れを変えうる争点が明確になるのを避けようとする、つまり大勢論を維持しようという選挙戦略を選んだ点で自ら招いた面が大きい。その上、「引継ぎ委員会」という準備過程がなかったために、一応政権が成立した後に議題を整理しなければならない状況である。こうした状況では、文在寅候補に対する支持を新政権が提示する議題に対する支持へとつなげていく作業はより困難にならざるを得ない。
こうした強みと弱みは、新政権の歩みにどんな影響を及ぼすのか。これは新政権が自らの状況をどう評価するかによって異なってくる。ただ、すでに言及した強みと弱みについて大きな異論はなかろうが、新政権が自らの強みと弱みの関係をどう処理するかが、より重要な変数になると思われる。この問題に接近する場合、最も一般的な方式は強みを強化し、弱みを薄めることである。あるいはピーター・ドラッカー(Peter F. Drucker)が強調したように、弱みに縛られずに、強みを発見してこれを極大化することに集中する方式もある。[ref]ピーター・ドラッカー『ピーター・ドラッカーの自己経営ノート』、イ・ジェギュ訳、韓国経済新聞、2003年、第4章を参照。 [/ref] いずれも、強みに焦点をあてる方式である。だが、弱みを消滅させようとしたり、それに縛られないようにしたりするのではなく、弱み自体が強みになるようにする方法もある。政治的には後者の方法が必須である。変化を追求する作業には有利な要素よりは不利な要素が多いもので、こうした条件で目標を達成するためには不利な要素を有利な要素に転換しなければならない。強みと弱みの関係は弁証法的だというのが、こうした可能性を切り開く。最も高度な政治は弱みを強みに変えていくことともいえる。
時代転換を追求すべき新政権にもこうした姿勢が必要である。もしバランスのいい支持、他候補との大きな票差という強みにのみ焦点を当てるなら独断的な政治になる可能性があり、これは政治的に極めて否定的な結果を招きやすい。ノ・ムヒョン政権以後も、続けて(議会)多数派の政権が作られてきた。2004年4月、ヨルリン・ウリ党が152議席を確保し(これは2005年3月まで約1年間続いた)、ハンナラ党は2008年4月総選挙で勝利した後、2016年まで与党は過半数の議席を確保し続けた。しかし、この政治構図は協力的なガバナンス、つまり「協治」よりも、次の選挙での勝利を第一次的目標として極端な政争を繰り返す現象を出現させた。政治的に反対者を圧倒しようとする態度が支配すれば、各政治勢力内部の政治的柔軟性は弱まる。これはまた、政治と民心間の距離を広げる。世界価値観調査(World Values Survey)の結果(2010~2014年)によれば、韓国の議会に対する不信度は調査平均値である57%をはるかに上回る74%に達した。[ref] World Values Survey Association,” World Values Survey Wave 6 2010-2014 OFFICIAL AGGREGATE v.20150418” http://www.worldvaluesurvey.org/WVSDocumentationWV6.jsp) ここでの調査平均は国家別結果の平均値ではなく、全体の被設問者の応答分布を指す。[/ref] こうした状況では与党も野党も成功しがたい。
反対に、現在の与小野大、41%の得票率などは政治的な弱点と思われるが、新たな政治を可能にする契機になりうる。まず、多党制的な議席分布が作られただけでなく、キャンドル闘争の結果として一応守旧勢力の影響力がかなり弱まり、政策協力の空間が広がった。同時に、支持勢力に政治的な対話と妥協の必要性を説得しやすい。もし支持率がもっと高かったなら、支持勢力の高まる期待と政治現実の間でむしろ主導権を発揮しがたくなる懸念もある。こう見ると、現在は韓国政治では珍しく協治を行いうる政治環境が作られたのであり、新政権の成否はかなりの部分で、これをいかに効果的に活用できるかに左右されるであろう。
3.二つの難題
弱みを強みに転化しうるなら、これは強みをより効果的に発揮できるようにさせる作用もある。だが、決して容易ではない。現在この作業を推進するにあたり、二つの大きな難題がある。
第一に、急激な変化に対する渇望と協治は衝突しやすい。急激な変化に対する渇望は「積弊清算」と体制転換が核心である。実際、積弊清算は大選過程で重要なスローガンになりもした。これは原則的に必要な作業だが、ともすれば政争を触発しやすいという問題がある。特に、人的清算に焦点をあてる場合、その可能性は一層高まる。この問題に接近する場合、新たな体制の構築が最高の積弊清算だという事実を決して忘れてはならない。もし破壊と清算だけで新たな体制構築につなげられなければ、旧悪が再び、いや、より大きな力を持って登場することもある。だから、積弊清算は制度と政策を主要な対象としなければならない。これに関連して四大河川事業、過大な検察権力、財閥体制などが国民から幅広い同意が得られる改革対象である。
体制転換を協治によって推進するのも難しい。協商と妥協が不可避な協治を推進すれば、改革作業は竜頭蛇尾になりやすい。たとえ現局面をキャンドル革命と規定したとしても、この時の革命は伝統的な意味での革命とは異なる点についての共感帯を作らなければならない。社会の根本的な転換を追求すべきではあるが、国家権力を掌握して上から急進的な社会改造を推進するやり方は、今日成功しがたいからである。「革命」は漸進的かつ長期的に完遂されねばならない。とはいえ、体制転換の展望を切り開けずに、既得権の枠内での妥協に止まっては改革作業に向けた動力が維持できず、新政権の成功は難しい。
この時に重要なのは、様々な議題の中で核心議題と妥協可能な議題を区別し、これに対する国民の支持を得ることだ。協治では協商と取引が不可避である。これを時代的な変化にあう方式で進めるのが政府の役割であり、能力である。過去に比べ、経済民主化のような経済的議題に対する政党の立場は原則的レベルではかなり収斂されているのは肯定的な環境である。だが、様々な議題の中でどれを優先的に推進すべきかを明確に定めて改革を進めなければならない。この過程で、ノ・ムヒョン政権時代の「四大改革立法」の推進のように、目標は巨大でよかったが、推進する過程で混乱を重ね、結局は失敗してしまった過ちを繰り返してはならない。当時、あらゆる議題にわたって与野党が対立して極端な葛藤を繰り返し、こうした政治的葛藤は最近まで続いてきた。前に指摘したように、選挙の過程で新政権がまず推進すべき議題を明確に提示できなかった点も困難を加重させる。今後この問題をどのように解決していくのかは、実は、第二の難題とも深く関連する。
それは韓国の政治制度が協治には極めて不利だという事実である。連合政権(以下、連政と略)が最も高いレベルで連合政治、つまり協治を実現する方式だという点で今回の選挙以前から「連政」に関する話は多かった。連政が構成されうるとしたら、今まで提起した多くの問題は議会内の協商を通じて解決できる。だが、現実的に連政のための制度的な基礎は極めて脆弱である。比例選挙や決選投票制を採択している国では、選挙後に連政を含む多様な連合政治が必要であり、また効果的に作動する。反面、単純多数制で勝者が決定されるわが国の場合は、選挙後の連合や連政の必要性も低くなり、実現の可能性も低下する。過半数にはるかに及ばない得票率で権力を独占できるからである。これは反対党が執権勢力の政治的な正当性に挑戦しやすくし、ガバナンスの難しさを増加させて政治の効率性を大きく損なう結果を招く。
こうした問題を考慮して、文在寅候補と「共に民主党」は選挙過程で「統合政府推進委員会」を発足させたが、この時の統合政府は「政党間の連合を前提にしない」という点で、政党間の政策協約および政府の運営方式に対する合意を基礎に構成される連政とは性格が根本的に異なる。人材を広範囲に使うという意味での統合政府であるが、議会内外の協治に及ぼす肯定的な効果は大きくない。こうした状況で、野党人士の入閣で統合政府の名分を強める方式は「人材の引き抜き」という野党の反発を呼ぶなど、否定的な効果が強まる可能性が高い。協治と国民統合を推進しようとするなら、より大きなビジョンを掲げる必要がある。韓国社会が解決すべき至急の課題を提示し、これを解決するための協力を要請し、それに従って譲歩する点は大胆に譲歩する決断が必要である。内閣の構成でポストを分けあうとか、何人かの野党人士を内閣に参加させるのではなく、政策に対する合意を作り出す作業をまず推進すべきである。制度的な基礎が脆弱なわが国の状況で、協治は政策に対する国民の支持如何に成否がかかっているのだ。そして、政策協約の成果に基づいて連政構成の可能性まで検討しなければならない。
政策協約を推進する過程では、次の二点に焦点を当てるべきである。まず、勝者独占の選挙制度を改革せずして連政は不可能に近く、協治も口先だけの話に終わらざるをえないため、選挙制度の改革を政策協約の最も重要な目標の一つとして提示しなければならない。政府が主導するなら国民の支持も得られるし、また野党もこれに原則的に反対できないだろう。例えば、来年の地方選挙の前に広域自治体の首長選挙で決選投票制を導入するとか、地方議会選挙で政党名簿式比例投票の比重を高めることができれば、政争や政治工学が支配する選挙ではなく、政策選挙が実現するのに肯定的な影響を及ぼすだろう。また、社会経済分野では福祉を強化して社会的不平等を緩和するための政策を支える増税などの核心的議題を貫徹させる代わりに、他の領域では一定の譲歩をする方式で政策協約を推進すべきである。[ref] 2013年ドイツ大連政の場合、社民党は自ら主張し続けてきた所得税の引上げを放棄し、他の政策(最低賃金、二重国籍の許容、年金制度の改革など)を貫徹させる方向へ、キ民連(キリスト教民主連合)は増税を除いたドイツ社民党の政策を受容する妥協の形で出発した。私たちの場合は状況が違うので政策協約の内容は異なるべきだが、大きな変化への要求と協治の要求を結合させるための大胆な政策構想が必要である。 [/ref]
4.市民が国の主人にならねばならない
新政権の役割は重要だが、わが社会が直面する問題は新政権または政界だけの力では解決しがたい。それには様々な原因がある。
最も大きな問題は、政界内部の立場の違いで重要な問題に対する合意を導き出すのが難しい点である。いくら重要な改革課題だとしても、賛否が分かれる場合はこれを積極的に貫徹するのは難しい。南北関係が代表的である。北の核・ミサイル実験の繰り返し、そして守旧勢力による北の問題の政治化が相互作用しながら、南北関係を肯定的に変化させがたい状況が造られてきた。「共に民主党」などの既存野党が、この間の安保問題で李明博政権と朴槿恵政権の過ちをきちんと批判できなかったのも、こうした状況をもたらした原因の1つである。だが、南北関係を発展的に解決できる道を見つけられなければ、他の改革課題もまともに推進しがたい。南北関係の発展のための主たる動力を政界から生み出すのは難しい。それだけでなく、仮に政界が解決できることでも自らの利益を左右する問題だと消極的な態度をとる場合も多い。選挙法が代表的な事例である。政界が自らの利益を強化しうる改憲論議には積極的だが、選挙法の論議は避ける理由もここにある
こうした問題を解決する際、市民が主体となって社会的な共感帯を形成し、政界がその要求に応じるようにする作業が必須である。そのためには、市民の主体的な姿勢が重要である。私たちが直面する問題は新政権に対する支持、不支持を超えることである。市民が新政権を一方的に支持するか、支持しないかという政治工学に縛られるならば、新政権の成功の助けにならないだけでなく、時代転換の道はさらに遠のくだろう。また、市民主権が根づくようにする努力が必要である。選挙のたびに市民が傍観者に転落しやすい理由は、生活現場で組織されておらず、日常的な政治参加が難しいからである。自らの生活空間を民主的に作っていける力を育ててこそ、市民が主権者になりうる。従って、キャンドル革命のエネルギーが地域レベルでも多様な方式で集まるようにするための活動にもっと関心を向けねばならない。これに関連して地方分権は、単に地方自治体の権限を強化するためではなく、民主主義が根づいて市民が主権者としての役割を強化するために最も重要な改革事業である。今後進められる改憲論議が中央権力構造の改変にのみ焦点を当てるのではなく、この議題を積極的にとり上げるようにすべきである。
キャンドル精神を継承するという約束がスローガンに止まらないように、新政権も市民の声が国政に反映されうる具体的かつ実行可能な方案を提示しなければならない。特に、市民社会との協治を推進するにあたり、実権がない各種の委員会を新設して、これに市民社会を参加させる方案や実質的な効果が疑わしいイベント性の行事はできるだけ避けねばならない。むしろ市民の参加が必要な領域を定め、その領域では市民社会が政策の決定過程に参加できるようにすべきである。スマホの通話料金や青年関連政策の決定などにはこうした方式がすぐに導入できる。協治が政界内部での実現に止まれば、改革に向けた動力の強化には大きな限界となる。つまり、市民社会が協治の一主体になるべきなのだ。そうしてこそ、政界内部の協治も政争に帰結せずに所期の成果を挙げられる。選挙が終わったら市民が主権者としての地位を喪失する、そうしたことが、これ以上繰り返されてはならない。これがキャンドル革命が完成するための大前提なのである。