창작과 비평

[特集] ジェントリフィケーションを越えること: 思惟から共有へ / 田恩浩

 

創作と批評 177号(2017年 秋)目次

 

田恩浩(チョン・ウノ。土地+自由研究所市民資産化支援センター長。共著に『99%のための住居』、共訳書に『転換のキーワード、回復力』がある。

unochun@gmail.com

 

ジェントリフィケーション(gentrification)、本来は遅れた地域の活性化を指す言葉だが、韓国ではいわゆる「ホットプレイス」または「地元/近所」と呼ばれる商業的空間から追い出されて家賃の上昇によって居住地を移動することになる一連の「場からの追い出され」現象自体を指す用語として定着してきている。私有財産の権限行使が先にあり、場所を借りて使用する者たちの非自発的で強制的な移住が後に続くこのプロセスで、国家と地域(場所)は特に何の役割も果たせないでいる。何よりも大きな問題は、発生した価値のうち所有者がかなりの部分を独占することで、社会的費用が過度に発生するという点である。

 ジェントリフィケーションは財産所有権の力、地代によって表現される空間価値が作り出される構造、その価値が循環する構造を歪曲、その歪曲を正当化する複数の権力関係が私たちの暮らしのなかでその都度現れる経験である。空間から追い出される過程で空間価値の生成と循環の構造を決定するシステムを調整するのは所有する主体であり、この人々の行為を保障する役割を担っている国家は、現在の欲求構造を強固に維持する役割に偏っている。しかし空間価値を作っていく主体は所有権を持つ者と空間を基盤に生産し利用する者の両方である。この人々の社会的関係と資源の疎通が空間価値を変化させ、また、公共の基盤施設と政策資源が価値の土台を構成しつつ多様な利害関係者の共同体が空間価値をともに作っていくのである。

 ハーバード・ケネディスクールのクィントン・メイン(Quinton Mayne)教授は「ジェントリフィケーションがもし不可避であるのなら、都市政策学課程の学生たちを教える理由はない」と述べた。彼の目標は「学生達がジェントリフィケーションは複雑で見慣れない課題ということを理解し、複雑な問題を構成する『構造』を打ち破ることができるように希望を与えることであり、ジェントリフィケーションが『作られるもの』であることを悟ること」である[1]。ジェントリフィケーションという複雑な問題を解決できるという希望を持とうという話である。

 ジェントリフィケーションの解決法を模索するために、私たちは「共に作る価値」と「共に共有」を語り、「共に」ということを行う主体について語らねばならない。そしてその「共に」する主体が価値を作り共有する関係および技術に対する具体的な方法を話す段階に進まねばならない。失われた主体と関係そして技術を回復し、再創造していくこの過程には、個人と個人、個人と国家の構造を越える第三の地帯がどこかに存在するであろうというかすかな期待が伴っている。マイケル・サンデル(Michael Sandel)もその意味で個人と国家を超える「共同体」と「資産」の関係に言及している。

 

全体的に共同体は地域の自然的資産とそこから生まれる利得を持つ資格があるがゆえに、社会は個人には見出すことのできない制度以前の(先験的)地位をもつと考える必要がある。その理由は、このようにアプローチしてこそ共同体が自分たちの資産を所有するのであると指し示すことができるからなのだが、ここで所有は応分の持ち分のための基礎に絶対必要な強力な構成要素という意味を帯びる。[2]

 

共同体、国家と個人を越えて

 

おそらく今日の目標は私たちの現在の状態を見定めることではなく、私たちの現在の状態を拒否することである。私たちは近代の権力構図の同時的な個人化と全体化という政治的「ダブルバインド」から抜け出すために、私たちが何になるべきかを考え、積み上げていかなければならないのである。結論は、私たちの時代の個人を解放しようとするのではなく、国家と国家に結び付けられた個人化の類型の両方から、私たちを解放することであるだろう。私たちは去る何世紀のあいだ、私たちに負荷されてきたこの種の個人化を拒否することによって、新たな形の主体性を打ちたてねばならないのである[3]

 

ジェントリフィケーションは個人と個人、個人と国家の関係のみで解消されうる問題ではない。これは場所を基盤に多様な利害関係者の共同体が価値を共に作っているという自覚の不在と、共に作った価値を共有する技術の不在が結び付いて現れる問題である。これを解決するためには、自立した共同体を構成する諸要件が形成されねばならず、さらには新たな技術が出現されねばならない。これに関してアン・スンジュンは韓国の近現代史を振り返って「階級の形成と国家の調整が地域共同体の価値を破壊するのに決定的な役割を果たした」と指摘する。彼の言葉に従えば、生産過程に自ら参与することから共同体の形成は始まるのであるから、共同体を形成するための新たな技術は個人と共同体が力を持てるようにすることを土台にせねばならないし、自立した共同体の中で自由な諸個人を発展させることであらねばならない。これは、生活の中の意思決定に個人が参加することによって持続可能な共同体を創造することを意味する。またこれは、社会全体のなかの特異性と多様性を確保するための唯一の方法であって、国家の権力構造を乗り越えることであり、個人を対象化する道具的合理性を克服する道であるという主張である。[4]

 すなわち、個人の自由が保障された自立的共同体を作り出すことは、既存の国家介入という形では不可能であるからこそ、国家から共同体への移行の経路を作り出さねばならない。私たちの社会には個人の欲求構造を強固に維持するための道具として私的財産権が法律で厳格に保障されている。使用、収益、処分に対する独占的権限が個人に付与されることで、共同体ではなく個人が価値を独占する生産構造を形成するに従ってジェントリフィケーションのような現象に共同体的対応がしにくくなっているのである。ネグリ(A. Negri)とハート(M. Hardt)も「共通するもの」すなわちコモンズ(commons)を守ろうとするマルチチュードの社会的闘争はまさにこの私有化、私的統制に対する抵抗だと述べている[5]。往々にして人々は私有化、所有、私的統制のオルタナティブな選択肢として公的な統制と国家統制を語る。資本主義社会の病弊の唯一の治療剤は、公的規制とケインズ主義的国家介入あるいは社会主義的経済管理である、と。そして同じような論理で社会主義の弊害を正すのは、私的所有と資本主義的統制のみであると語る。しかしネグリとハートはこの私的か公的か、または資本主義か社会主義かの政治的二者択一のほかに別の選択肢はないとする思考を拒否し、両者ともにコモンズを排除し破壊する所有体制だという点で違いがないと指摘する。要するに、コモンズを確保して生成する所有システムが重要だということである。

 こうした構造をもう少し具体的に分析して既存の所有構造の限界を指摘したのがマジョリー・ケリー(Marjorie Kelly)である。共生する社会のためのオルタナティブな所有構造を提案するケリーは、所有の性格を「抽出的所有(extractive ownership)」と「生成的所有(generative ownership)」に分ける[6]

 

抽出的所有

生成的所有

金銭的目的:短期的利益を最大化

生のための目的:長期的視角で生のための条件を作る

不在者構成員:所有者たちが企業活動に参与しない

根付いた構成員:企業活動の基盤に根差して生きていく人々の手に所有権が与えられる

市場による統治制:資本市場が自動航法装置として企業を統制する

使命経営統治制:社会的使命に献身する人々が統制する

カジノ金融:資本が主人の役をする

利害当事者金融:資本が友になる

商品ネットワーク:価値と利潤に焦点を合わせた取引

倫理的ネットワーク:社会的・生態的規範に対する集団的支援

 

ケリーは所有の構造を生成的に変化させることは革命に近く、こうした「所有革命は経済権力を少数の手から多数の手へと拡大しようとすることであり、社会的に無関心だった人々の心を動かし、社会的有益に関心を向けさせようとすること」であるとし、現実的には簡単ではないと述べている。彼女もアン・スンジュンやネグリ・ハートと同様に「所有するということ、資本主義での私有と社会主義での国有は、結局、『少数』による支配という次元で大した違いはない。『所有』が権限を持ち『支配』を試みることではなく、自分がその中に『属する(belonging)』という意味として受け止められる時、真の変化が始まる」[7]としつつ、国有と私有を飛び越える所有、すなわち共有の必要性を強く主張する。とりわけ帰属意識を感じさせる所有の役割を強調している点が際立っている。

 アメリカでコモンズ構築および拡散の運動をする非営利組織「オンザコモンズ(On the Commons)」は、コモンズの基本原則を説明している。まずコアとなる価値は衡平性(equity)、持続可能性(sustainability)、相互依存性(interdependence)である。また、コモンズを形成する過程で必要な原則として帰属意識(belonging)、責任感(responsibility)、ガバナンス(governance)、共同創造(co-producing)を強調する。何よりも共に所有する構造を作ることによって、個々人が共同体に属しているという事実を認識することが重要であり、所有することによる責任感をもつこと、意志決定構造に共に参加すること、企画し実行し共有するという一連の経済活動に共同生産者としての役割を果たすことなどが共有財を作る理由かつ過程の重要性であるといえる。

 ネグリとハートは「マルチチュードが君主になること」について語っている。社会構成員の大多数が共にマルチチュードを形成し、そのマルチチュードが共同体としてひと固まりになって共に主人とならねばならないというのである。オルタナティブはまさに共通〔共有〕のものの回復である。「共通のものは開放的接近と集団的で民主的な決定および自主管理によって定義される富のひとつのありよう、またはそうした富を管理するひとつのやり方」[8]である。これは自生的に組織されないために、作り出すことが必要であると主張する。

 その通りである。ジェントリフィケーションを呼び起こす資本主義の支配構造と欲求構造は、勝手に崩壊してはくれない。マルチチュードが君主になることをつうじて変化を作り出さねばならないのであって、変化の後にも持続的に管理せねばならないのである。その変化と管理の政治的主体を創出する作業、「共通のものの管理に適切な集団的自治形式の発明」[9]、新たな共有技術の再構成が求められている。

 

 

ジェントリフィケーションに対応する試み

 

 共同体がニーズと場所をもとにして形成されるとき、協力的なガバナンスと共同創造の構造が作られる可能性が高い。所有それ自体が目的化すると、目的を達成した後の持続可能性と民主的運営管理において限界が露わになりうる。共同体所有は手段であって目的ではないので、何より私たちが今共に所有せねばならない理由に共感しそこに賛同するメンバーを、場所をもとに結束力ある組織にしていくことが主要な戦略となるべきである。

こうした共有構造を作り出していく技術は現代を生きる私たちには馴染みない。伝統的なドゥレ〔結(ゆい)のようなもの――訳者〕や契〔頼母子のようなもの――訳者〕といった共同体の技術を忘れてしまったためでもあり、時代の流れに対応する共有技術の発展が伴っていなかったからでもある。社会文化的環境と制度が整っていないのは、技術発展の阻害要因である。

「共に」作り出す空間の価値が社会的に「共有」されないまま流通しているという点がジェントリフィケーション問題の核心である。共に作った価値の共同所有を可能にする共同体を形成することはできるのか? 新たな主体はいかに登場するのか? 利害関係者間の関係形成は開かれており拡がりうるのか? 共有の技術が具体的に作られたのか? など数々の問いをつうじて、私たちの周囲の対応事例がこうした課題をどのように扱っているのかを検討し、共に作った価値を共有することのできる最適な手段として共同体資産化から示唆点を導き出してみよう。

韓国でジェントリフィケーションは文化芸術、商店街、革新階層集積地などで発生することから、解決法もだいたいは関連地域を中心にして論じられる。それは地域共同体単位の協約、自治区単位の制度の整備、広域単位の政策提示、中央政府単位の制度改善などとして試みられている。

協約の事例として代表的なものに、ソウル新村地域の建物主-住民自治組織-自治区間の相生〔共生〕協約がある。梨花女子大学のストリートビジネスがジェントリフィケーションの影響で没落し、遊休店舗の所有主と西大門区が相生協約を締結した(2015年9月16日)。建物主は5年間賃貸料・保証金を凍結し、西大門区は賃借料引き上げおよび移住に対する心配なく創作・販売活動を持続的に保障する制度的基盤を整え、住民自治組織といえる文化活力生産基地は工房の芸術家や青年創業家など賃借人を積極的に発掘して遊休施設に入居できるよう連携するのに努力したりもした。核心は、梨大ストリートの価値を共に作っていくということを共感するなかでその価値を建物主が賃借料上昇という形で実現せずに、賃借人たちの負担を減らすかたちで共有するという協約を結んだところにある。地域が積極的に賃貸料を凍結するなど、自救策を立てたという点で意味があるが、残念なのは、5年の協約期間満了後も持続可能な価値共有システムがなく、協約当時の「私たち」が5年後にはどう変化するのか確信を持てない点である。

自治区レベルで相生条例を制定してジェントリフィケーションに対応する動きもある。城東区でジェントリフィケーション発生地として知られる聖水洞〔ソンスドン、洞は日本の町くらいの行政単位〕は、2012年から若いアーティストと非営利団体、社会的企業が少しずつ移り住みはじめて「ホットな界隈」になり、その結果賃貸料が急激に上昇した。城東区は他の自治体とは違ってこうした現状を深刻に受け止めて自救策を講じた。区は「城東区地域共同体相互協力および持続可能な発展区域指定に関する条例」を制定し(2015年9月24日)、「持続可能発展区域」を指定して自治組織として住民協議体を構成して外部から流入する業者を選別できるようにした。また、地域商圏に重大な害を及ぼしたり及ぼす憂慮があると認定される業者は、事業を始めるときに住民協議体の同意を得なければならないといった事前予防措置を強化している。長期安心商家醸成など、商人の安定した暮らしの場を作るための物理的空間をつくるための努力も共に行っている。公共が先頭に立って制度を構築して地域共同体主導で進入障壁を作り、ジェントリフィケーションの発生可能性を予防したという面で意味ある試みである。しかしこの過程で住民の主導性をどう発揮できるようにするのかをはじめとして、「共に作っていく価値の共有」という面では、今後向き合わねばならない課題も残っている。城東区は今後の地域開発事業で発生した公共寄与部分を活用して資産化戦略を本格的に推進しようという動きも見せている。この過程でも住民が主導的に参与できるようにして、帰属意識を持たせて責任性を付与することができるのか、そして住民の出資・投資の可能性も実験できるのか、見守らねばならない。

広域レベルでソウル市はジェントリフィケーション総合対策(2015年11月23日)を発表して「ジェントリフィケーション問題を解決するためには地域発展に寄与した人々にその開発利益が等しく還元されるシステムを作り、地域構成員がみな相生する道を見出すことが最も重要である」として「開発利益が建物所有者と商業資本にだけ還元されるのは私たちの社会の正義観に反するうえに、究極的には都市の多様性と持続可能性を損なう憂慮があるので、市が総合対策をつうじて最善を尽くして支援していく」とした。「正義観念に基づいた地域発展の利益の共有」という表現は、システム転換のための重要なメッセージであり、広域単位でこうした問題意識を持っているという点は大変励みになる。対策のコアとなる要素は相生協約の締結、核心施設の供給、安心商店街、小商人資産化、都市計画集団を利用したジェントリフィケーション防止対策の策定などである。しかし主体の部分で価値を共に作っていく利害関係者(stakeholder)を拡大していこうとする努力は見えるが、価値を共有していくべき持分共有者(stakeholder)として住民を登場させることが究極的な解決法になるであろうに、まだそこには至っていない。相互関係については公共と建物主のあいだの関係を越えて、市民-利用者まで参与の幅を広げられない点が残念である。そして新たな共有技術の出現を期待する側面では、公共と市民(住民)が社会的に形成されるであろう/された持分を共有することが必要であり、これは生産手段の所有が社会的(地域的・民主的)になされることを前提とするのであるが、これに該当する具体的な戦略が提示されていない点も残念である。

ソウル市のジェントリフィケーション対策のうち、資産化を趣旨として推進中の小商工人資産化政策を見ても、主体を共同体に拡大できずに商人に限定した点、関係性として市と商人だけを設定して利用者と地域共同体構成員に参与の機会を開いていない点、共有の技術的側面で既存の私有化構造から共有化構造へと発展させられていない点などが限界だといえる。もし新たな主体と関係性にもとづく共有技術の具現を模索していたならば、新政府が推進する都市再生ニューディール事業のジェントリフィケーションに対する対案として積極活用されたであろう可能性が高い。地域共同体が共有資産を形成する主体として登場することが方法であり、民-官-地域共同体の協力的なガバナンスを構成して民主的な意思決定と価値共有が可能になるよう組織化の方法を具体化せねばならない。これをつうじて資産化のための法人化と持続可能な運用管理技術が具体的に構造化されることが求められる。

これとともに、ジェントリフィケーション問題の解決と関連した多様な試みのなかで足りないのは、地域共同体をベースとした主導的対応策と戦略が模索されていない点である。現象を止める程度が私たちの社会が作り出すことのできる実験の限界なのかという疑問も残る。かといって地域共同体にのみ責任を押し付けることが出来ない理由は、私たちの社会の急激に傾いた資産構造(下位50%の国民が全体の富の2%を所有)とともに、所得不平等構造(上下位10%の所得水準が28倍の違い)のなかで、地域共同体の自発的努力のみでは「共に作った価値の共有」構造を作っていくことが不可能に近いからである。したがって、構造を変化させるためには地域共同体の構成員の自発的努力とともに公共との協力が必須である。

 

 

共有技術の再構成

 

「共有」に対する主張が言説レベルを越えるためには具体的な事例を作り出さねばならない。しかし「共有」の経験を日常化することは容易ではないため、規模化以前に、小さいがプロトタイプに近い実験をしてみる経験が必要である。とすると、どのような経験が共同体のジェントリフィケーション対応力量を強化することができるのか? 私たちよりも先に共有の技術を適用した事例を参考にして共有技術の再構成を模索してみよう、
2015年、シカゴ・イリノイ大学ではジェントリフィケーション現象に対する段階別対応策を次のように提示した。

 

区分

発生前

進行中

発生後

対応策

-連帯体づくり

-賃借人/非営利組織に先買権付与

-共同体資産化

-安心商店街/適正住宅の供給

-協同組合づくり

-相互利益協約の締結

-賃貸料統制

-税金減免

-用途変更禁止

(土地利用/建築規制)

-建物の再生と保全

-賃借人に安心空間提供

-基金助成

(賃貸料補助、資金支援)

-負担金賦課

(基金化、価値上昇共有)

-地域利己主義の解決

ジェントリフィケーション対応戦略のうち事前段階での重要な戦略は「共同体資産化」である。この戦略は事前に共同体が資産を共有することでその後に展開される空間の変化を共同体自らコントロールし、利益を独占的に私有するのではなく地域共同体のために共有する構造を作ることによってジェントリフィケーション現象を防げるというものである。こうした戦略を具現する技術として代表的なのが共同体土地信託、協同組合、地域開発法人、地域利益会社、地域開発株式会社、開発信託などである。

 共同体土地信託は、地域を基盤とする非営利組織が土地を永久に所有して、持続的に手ごろな価格で提供する〔affordability、〕役割を果たし、主に住居供給手段として活用される。共同体土地信託の主な特徴は①地域の場所を基盤にする共同体組織、②私益を追求しない非営利機構、③土地と建物の所有権を分離して運営、④土地の長期賃貸(99年間)、⑤支払い可能な賃貸料と還買規制をつうじた支払い可能性の永久的保障、⑥実際の居住者中心の管理・運営、⑦解放的で民主的な意思決定ガバナンス、⑧持続的な土地確保と柔軟な開発などに要約される。[10]

協働組合をつうじた資産化の事例としては、アメリカのノースイースト不動産投資協同組合(NorthEast Investment Cooperative)がある。NEICはアメリカでは珍しい事例だが、ミネアポリスの地域住民250人余りが1000ドル(約110万ウォン)ずつ出資して村の空き建物を買い入れ、自転車屋、パン屋、居酒屋などを入居させて地域商圏をよみがえらせ、雇用を創出するなど、地域基盤経済の活性化を成し遂げる土台を作っている。これらは使われていない空間が持続的に発生すれば村協同組合の資産として確保し、その活動は社会的成果として認められ、民間財団から基金を貰ったりもしている。このように地域共同体の住民が協働組合をつくって資産を共有する構造を作り出せば、賃貸料の統制が共同体主導でなされるようになり、土地から発生する価値の活用先を共同体主導で決めて利益を株主に配当することもできるので、価値共有技術を具現することができるようになる。

これ以外にも株式会社のかたちをとった開発方式を活用して資産を共同体化した事例もある。サンディエゴのダイアモンド地域(Diamond Neighborhood)にあるマーケットクリークモール(Market Creek Mall)は、ジェイコブズ家族財団(Jacobs Family Foundation)の主導で地域開発株式公募(CDIPO)によって住民と財団が共同出資して商店街を開発し、住民を雇用した。同時に、その後も商店街を地域共同体の住民が所有できるようにリーダーシップ・オーナーシップに関連する力量強化プログラムを実施している。開発10周年となる2018年、地域住民がマーケットクリークモールの大株主になれるように持分をさらに解放することになっているのである。共同体構成員が地域の空間資産の持ち主となれば、建物主と賃借人が共同生産構造を自然に形成しともに責任を負う構造を作っていくことで、持続可能な運命共同体が組織されるという点で、意味ある事例だといえる。

 

 

自分たちだけの共有の技術を構成せよ

 

国有と私有を越えて「共有」の構造が確立されたなら、ジェントリフィケーションのような空間の所有構造がゆがめられる現象を防止し、価値を好循環させる肯定的構造を作り出すことができる。しかし先述した海外の事例をすぐさま適用するには制度的限界と社会文化的経験の不在による困難が待ち受けている。それでもなお、私たちは空間資産の民主的所有構造を作り出すことを、これ以上先送りにできない状況に置かれている。都市再生ニューディール事業に数十兆ウォンの予算が投入されて推進される予定にあり、社会的経済、村共同体の活性化は、さらに積極的に進められる可能性が高い。

空間の土台がどのように形成されていくかは、再生、村、社会的経済など、私たちの社会でオルタナティブを模索する事業が成功するかどうかを左右する重要な基盤である。「市民資産化」「地域資産化」「共同体資産化」などと呼ばれる「資産化」の必要性は、その意味で重要である。

共有は概念にとどまらず行為として具現されてこそ意味がある。それが可能となるための条件を以下に挙げよう。第一に、地域共同体レベルでコモンズを作る必要と、その主体が登場する時にこれを組織化し連帯できる基盤を醸成せねばならない。第二に、土地を市場と国家から分離して地域共同体レベルでコントロールできるような、仮称・共有資産信託(Common Asset Trust)を作らねばならない。第三に、多様なかたちの資本を受け入れることのできる受け皿を、地域基盤で作れるようにせねばならない。これは共有資産を形成して開発する際に必要な資本を集めることであり、その後開発の価値を共有するさいに分配の構造を組む基準となるもので、地域基盤金融構造を形成することである。また、この構造に公共基金と社会投資、善良な民間資本を結び付けることもともに考慮すべきである。これもまた仮称・「共有資産ファンド」と名付けることができる。第四に、コモンズを開発し管理することのできる地域基盤の開発(管理)組織を形成することである。近年、地域再生会社、地域管理企業などの用語で現場で必要性が高まっているものがまさにこうした組織だといえる。これを「コモンズ管理組織」と呼ぶことができる。第五に、信託-投資-開発-管理などが円滑になされるための支援システムを構築することである。中央政府レベルで関連教育、法制度改善、行政・財政支援などのための基盤として関連部署および支援組織(仮称・「コモンズ支援センター」)を作らねばならない。[11]

「技術」が必要なのだ。価値的道具が必要なのだ。こうした戦略が地域を基盤に住民主導で発展していくのであれば、富の集団的価値構造が形成され、コモンズの原則である帰属意識、責任感、ガバナンス、共同創造の方式が具現されるであろうし、公平性、持続可能性、相互互恵性が具現されるであろう。ジェントリフィケーションは地に足をつけて生きている私たち全てが直接の主体となって作り出した自然な現象である。ともに作ったものであるがゆえに、誰もがその責任から自由になり得ないし、だからこそオルタナティブを模索することにおいても疎外されてはならないのである。

私たちは地域共同体レベルで空間を再構成し活性化するための多様な試みがなされ、住民の参与がこれまでになく重要なものとして認識され、その主導性がさらに強化される時代を生きている。こうした状況において、地域共同体の介入と所有権の拡大は必須不可避な要素であり、これはジェントリフィケーションという現象を肯定的に作動させうる、構造を変化させうる新たな構造の次元でも重要である。単なる物理的所有を越えて「共に作った価値を共有」することは、住民たちが地域の価値を享受する権利とともに、それを作っていく責任を「共有」することである。

先に見たように、私たちの社会にもジェントリフィケーション現象とともにコモンズの必要性が静かに首をもたげてきていることを受けて、合理的所有構造の長所に対する認識転換の動きが感じられる。まだ萌芽的ではあるが、こうした動きが積み重ねられていけば、私たちの社会の構造は少しずつ変化していくであろうと思われる。「共に作った価値の共有」を経験することは、遠い話ではないだろう。とすると、ジェントリフィケーションは私たちの社会の共同体回復のための絶好の機会なのかもしれない。私たちみな「共にする(commoning)」べき仕事である。

 

 

翻訳:金友子(きむうぢゃ、立命館大学)


 

[1] Jeanne Haffner, “Is the gentrification of cities inevitable and inevitably bad?,” The Guardian 2016.1.16.

[2] Michael Sandel, Liberalism and the Limits of Justice, Cambridge University Press 1998. ガー・アルペロビッツほか『独食批判』ウォン・ヨンチャン訳、ミヌム社、2011年、187ページから再引用。

[3] Michel Foucault, “The Subject and Power,” Critical Inquiry 8, no. 4 (Summer, 1982). アン・スンジュン『国家から共同体へ』環境運動連合、1995年、70ページから再引用。

 

[4] 同上、106-110ページ。

[5] アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート『共同体』チョン・ナミョン、ユン・ヨングァン訳、四月の本、2014年。

[6] マジョーリ・ケリー『彼等はなぜ会社の主人になったのか』チェ・ヒョンジュ訳、ブックドドゥム、2013年。

[7] 同上、193ページ。

[8] アントニオ・ネグリ、マイケル・ハート、前掲書、10ページ。

[9] 同上、12ページ。

[10] イ・スンジャ、チョン・ウノ「海外共同体土地信託制度の現況と示唆点」『国土ブリーフ』第392号(2012年)、4ページ。

[11] シン・ヒョンバン他『ジェントリフィケーション、何をすべきか?』近刊。