창작과 비평

[現場] 「飼いウサギ」じゃなくて「トラ」だ / 金銀智

 

創作と批評 196号(2022年 夏)目次

 

現場

 

「飼いウサギ」じゃなくて「トラ」だ

: 20代女性の政治への参加を中心に

 

 

金銀智(キム・ウンジ)
『時事IN』の記者、著書に『20代女性』(共著)などがある。

 

 

去る3月31日、共に民主党(以下民主党)の権仁淑(クォン・インスク)議員室の主催で「第20代大統領選挙以降の20・30代女性の民主党への入党の意味と課題」というテーマで討論会が行われた。大統領選挙以降、20代の女性を中心に民主党への入党が急増したため企画されたものであった。民主党組織局の関係者によると討論会の規模は外部に公開しないとのことだったが、「16万人余りの新たな党員が入党した」という宋永吉(ソン・ヨンキル)前民主党代表の発言からも、その規模は推し量ることができるだろう。

発題者として参加した筆者にとって最も興味深かったのは、YouTubeのライブ配信にリアルタイムで書き込まれた多くのコメントであった。「私たちは‘飼いウサギ’(熱烈な支持勢力)じゃなくて‘トラ’だ」というコメントが虎のスタンプ付きで次々と書き込まれた。多くの人が似たようなコメントを投稿したのである。政治家や政党への支持を単なるファンダムと解釈することを拒否する「我々はファンではなく有権者だ」というコメントも多く見られた。討論会にオンラインで参加した20・30代の女性たちが直接自らの声を上げたわけだが、これは第20代大統領選挙にて最も興味深い出来事の一つであった。大統領選挙の過程をぎりぎりまで見守りながら、土壇場で結集し、政治的意思を示した若い女性たちがもう一歩踏み出して政治への参加を決心したのである。

3月9日の投票前日まで、国民の力の李俊錫(イ・ジュンソク)代表は、10%ポイント程度の差で尹錫悦(ユン・ソンニョル)候補が勝利すると断言していた。多くの政治評論家も同じような予想をしていた。しかし、いざ蓋を開けてみると、勝敗の結果は予想通りだったが、その票差はわずかで、この予想以外の結果に、選挙結果への分析があらゆる方面から行われた。尹錫悦候補を辛うじて勝利へと導いた0.73%ポイントという票差、そして58%対58%という[1.KBS·MBC·SBSの地上波テレビ局3社が共同で行った出口調査の結果によると、20代男性の58.7%が尹錫悦候補に、20代女性の58%が李在明(イ・ジェミョン)候補に投票した。(「20代の男女の違った選択…‘ジェンダー分断’戦略は成功しなかった」ハンギョレ、2022.3.9)] 20代の男女の鮮明に分かれた支持が特に注目された[2.今回の大統領選挙で李在明候補は60代以外の全ての年齢層の女性から尹錫悦候補よりも多くの支持を得た。割合で見ると、40代女性(60.0%)-20代女性(58.0%)-50代女性(50.0%)-30代女性(49.7%)の順である。]。

もし、誰かが私に「大統領選挙を取材していた政治部の記者として、このような結果を予想していたか」と尋ねるなら、予想できなかったとしか答えようがない。正直、2016年の総選挙以降は選挙結果への予測は試みようとさえしなかった。2016年、殆どの専門家は、セヌリ党(現国民の力)が単独で改憲可能な200議席を獲得すると予測した。しかし、結果はセヌリ党が122議席、民主党が123議席であった。つまり、「与小野大(ねじれ国会)」状態となったのである。大幅に外れてしまった選挙結果の「予測」を目の当たりにしながら、「政治部の記者の予測が一番当てにならない」という冗談交じりの言葉に、予断を持ってはいけないという教訓を得た。今回の大統領選挙でも、24万票差の0.73%差という前代未聞の結果を誰も予想できなかったであろう。

しかし、開票放送を見ながら、内心自分の予想が正しかったと感じる場面もあった。20代女性の票の行方であった。大統領選挙一カ月前の2月に『20代女性』(時事INブック)という本を出版した。2021年8月『時事IN』に掲載した「20代女性の現象」というシリーズ記事[3.『時事IN』 728号(2021.8.24)及び729号(2021.8.31)参照。]をもとに、当時紙面の都合上、公開できなかった無数のWEB調査データーやオクラハマ大学のクッ・スンミン教授、ジョン・ハンウル韓国リサーチ研究委員(政治学専攻)の原稿などを追加して出版したものであった。

『20代女性』で述べている核心的な要点は、「ジェンダー・イシュー」が韓国社会の新たな政治的分裂として浮上しており、特に20代の若者の間では主要な論争のテーマとなっているということだ。伝統的に韓国社会において「革新」と「保守」を区別するバロメーターは、米韓同盟や南北関係への態度、もしくは成長と分配への見解などであった。ところが、最近の20代の傾向は正確に読み取れない。以前のようなバロメーターでは区別できず、そういった問題への認識は、彼らにとって「性差別」への認識の違いほど熱くない。

WEB調査[4.このWEB調査(urlを携帯電話の文字メールとEメールによって送信)は『時事IN』の依頼により韓国リサーチが2021年7月30日から8月2日までの4日間行った。人口比例に合わせ、選別した1万183人に調査を要請、全国民の満18歳以上の男女2490人が参加し、238項目の質問に全て回答した人は2000人であった(要請回答率19.6%、参加者回答率80.3%)。年齢別で見ると、20代(18~29歳)が600人、 30代が600人、その他の年齢(40歳以上)が800人となっている。95%の信頼水準、標本誤差は±2.2%ポイントである。]を通じ、多数の20代女性は、「自分が弱者ではないが、差別されている」と感じていることが分かった。即ち、社会構造の中で「自分と世間の関係」を把握している。これは、20代の男性が自らを弱者と認識している結果と比較される点である。そして、今の20代にとってフェミニズムは単なるジェンダーの問題ではないのである。分配や労働問題など、その他の議題に対する自分の意見を確立して「支持政党」を決定する過程に大きな影響を与えるほどの問題なのである。政界が20代女性の票の行方を重要視する理由でもある。

『20代女性』の出発点は、2021年の4・7補欠選挙であった。地上波テレビ局3社の出口調査によると、当時20代男性の72.5%が国民の力の呉世勲(オ・セフン)ソウル市長候補を支持した。これは、60代以上の有権者(男性70.2%、女性73.3%)とほぼ同じ数値であった。補欠選挙以降、政界とメディアは「20代男性の現象」に注目し始めた。しかし、筆者にとって、これはニュース、つまり目新しい出来事ではなかった。2019年『時事 IN』にて既に反フェミニズム傾向の強い20代の男性集団の存在に気づき、分析した記事と、それをもとにした『20代男性』(チョン・クァンユル、ジョン・ハンウル、時事INブック)を出版している。むしろ取材陣の関心を引いたのは、「15.1%」のその他に属する第3政党に投票した20代女性の票であった。政権への審判が問われる選挙であり、文在寅(ムン・ジェイン)政権と与党(民主党)に失望した20代男性は保守系野党(国民の力)の支持へと移った。ところが、20代女性はそうではなかった。「なぜか」という疑問を抱きながらWEB調査を行い、彼女たちの世論形成の様子を分析してみた。 結果は非常に興味深いものであった。フェミニズムに好意的な集団が20代女性の全般的な世論形成を引っ張っているということが分かった。あらゆる角度からこれが意味するものを分析することができよう。データー上から見ると、20代女性は少数者への差別に対する禁止及び社会的多様性を優先視する政治勢力を好む傾向にある。開放的で連帯意識も高い方であった。社会・文化の領域で革新的な見解を持っており、政治に関心が多く、積極的に参加する傾向も窺える。しかし、そのような効力感を持てるような政党や政治家が見当たらない状態であったのだ。我々は彼女らを「浮遊する審判者」と名付けた。

これは政界にとっては重要なことであろう。20代女性の票が「浮遊するか」もしくは「審判者」として行動するか、それが政界の役割によって決定されるからだ。「今後の政治状況によって、彼女らのパワーは流動的であろう。間近に迫った選挙においても彼女らの票の行方が韓国政治の力学を見通すバロメーターの一つになり得るだろう」(『20代女性』、111頁)。当然、これは大統領選挙にも当てはまる内容である。

残念ながら「浮遊する審判者である20代女性に注目しろ」という主張は、長い間政界においては「少数意見」であった。その理由には、既存のジェンダー権力が影響したのではないかと思われる。女性であろうが男性であろうが、一票を投じるに変わりないが、相対的に「怒りに満ちた一部の20代男性」の声の方が大統領選挙の期間中には注目されたのだ。汝矣島(政界の代名詞)では、意図的であろうがなかろうが、青年有権者の代表性を男性と見なした。国民の力の大統領選挙の予備選で、青年との接点を増やそうとオンラインプラットフォームを作った洪準杓(ホン・ジュンピョ)候補のIDは「ジュンピョ兄貴」であり、大統領選挙中に開設された尹錫悦候補のYouTubeチャンネル名は「ソンニョル兄貴TV」であった。これまでは、一般的に浮動層が「キャスティングボート」を握る存在として重要視されていたが、不思議なことに今回の大統領選挙では20代女性の票は「存在しない票」のように思われ、「こっちには投票しそうにないから、あっちにも投票させるな」という政治工学の対象としてしか扱われなかった。

一方で、李俊錫代表の主張した「世代包囲論」は与野党を問わず、ひそかに「学習」されるような状況であった。李代表は伝統的な保守政党の支持層である60代以上は勿論、反フェミニズム傾向の強い20代男性とーこのような傾向が持続的に保たれている一部の30代男性とも―連合し、民主党の主要な支持勢力である40・50代の有権者を孤立させるという戦略を繰り広げた。その前提の裏には、李在明候補に若い女性が投票しないだろうという思惑があったと思われる。

李在明キャンプ側も同様であった。李在明候補の個人的な弱点として、特に20代の女性に好まれず「怖い」というイメージを持たれているという内部的な判断があった。しかも民主党の「権力型性犯罪」事件などにより20代女性の票は最初から期待できないという認識が李在明候補のキャンプ内で選挙運動の終盤にまで広がっていた。 そのせいか、李在明候補は選挙運動の序盤にはオンラインコミュニティーを中心に反フェミニズム傾向の20代男性の票を集めることに集中した。洪準杓候補が国民の力の大統領選挙の予備選で敗れると、彼の支持者グループを攻略し始めたのだ。DCインサイドに投稿された「狂気に満ちたフェミニズムを止めてほしい」という洪準杓候補の支持者の書き込みを本人のフェイスブックに共有したかと思えば、一部の男超(男性ユーザーが女性より多い)コミュニティーから「フェミニズム」とレッテルを貼られたYouTubeチャンネルの「ドットフェイス」と「シリアル」への出演を巡ってキャンプ内で懸念の声が上がったりもした。これは、男性の視聴者が多いYouTubeチャンネルの「キム・ソンフェのG識百科」や「サンプロTV」への出演の際には見られなかった現象である。当時、選挙対策委員会の朴志玹(パク・ジヒョン)デジタル性暴力根絶特別委員長のスカウトも、いわゆる「20代男性」を意識したため予定よりも遅れたのである。20代の男女を同時に支持者として結集させることができないならば、20代男性の方が「票獲得につながる」と判断したのであろう。ジェンダー平等問題を「ゼロサム・ゲーム」として認識したのではないかと思われる。

こうして民主党がもたついている間に国民の力は攻勢を強めた。李俊錫代表が前面に立った。「20代女性はアジェンダ―形成に後れを取っており、抽象的なことばかり言っている」(オマイニュースでのインタビュー、2022.1.20)「多くの世論調査の結果を見ると、女性は投票への意欲が男性よりも低いことが分かる」(CBSラジオ「ハンパン勝負(一発勝負)」でのインタビュー、2022.3.7)などと公開的に女性有権者を低評価したり、メディアからのジェンダー平等公約に関する質問への回答を拒否したなどと自分のフェイスブックに投稿したりした。国民の力の「両性平等特別委員会」は、女性家族部の廃止、女性クオータ制の廃止などを集中的に論議した。その上、フェミニズム陣営を「性ファシズム」と規定し、「ジェンダー平等」の代わりに「ジェンダー平和」という用語を使用した。

1月の初めに尹錫悦候補と李俊錫代表間の葛藤が解消され、尹錫悦候補も積極的に同調し始めた。自分のフェイスブックに「女性家族部廃止」という七文字の公約を掲げたのだ。すると、20代男性の支持率が急上昇し、それ以降、尹錫悦候補の「ジェンダー分断」言動に躊躇いなどは見られなかった。「構造的な性差別など存在しない」と断言したかと思えば、大統領選挙直前の3月8日の「国際女性デー」には、「女性家族部の廃止」「性犯罪の誣告罪(虚偽告訴罪)への処罰強化」などのジェンダー平等に反すると非難されている公約をまたもや自分のフェイスブックに投稿した。同日、公開された『ワシントンポスト』でのインタビューも物議を醸した。そのインタビューでの尹錫悦候補の「私はフェミニスト」という発言に、国民の力は行政上のミスだと釈明した。すると、『ワシントンポスト』は、尹候補の書面上の回答を公開し、これを「韓国の大統領候補、国際女性デーにフェミニストの表紙(label)を拒否」と報道した[5.“South Korean candidate disavows ‘feminist’ label on International Women’s Day after interview goes awry,” The Washington Post 2022.3.8.]。こういった度を越した状況を海外メディアは相次いで報道した[6.“Why misogyny is at the heart of South Korea’s presidential elections,” BBC 2022.3.8; “How feminism became a hot topic in South Korea’s presidential election,” CNN 2022.3.9.など。]。このように大統領キャンプである保守政党の終盤の「ジェンダー分断」言動はピークに達していた。

この流れに組織的に反旗を翻したのは、主要政治家でもメディアでもない、20代の女性有権者たちであった。女性有権者の票は存在しないかのように扱われた、いわゆる「戦略」というものに、彼女らは投票によって審判を下した。選挙過程で体系的に消えつつあった女性の声を生き返らせたのだ。保守政党の政治的な企画に歯止めがかかり、「世代包囲論」の盲点も露わになった。是非を論ずる以前に、政治工学的にも目標としていた成果を完全に収めることはきでなかったのである。大統領選挙の結果が出ると、世間ではまるでこれまでに存在しなかった女性の票が新たに登場したかのように騒ぎ始めた。

投票を一週間後に控え、世論調査の公表が禁止されている「カムカミ(闇の)期間」における20代女性の思いもよらぬ結集ぶりは注目に値するだろう[7.ジョン・ハンウル韓国リサーチ研究委員によると、「2021年10月の3週目に行われた世論調査の結果を見ると、20代女性の票は、李在明・尹錫悦・沈相奵・安哲秀などの各候補に満遍なく分散している。李在明候補が相対的には高い方であったが、2月の最終週までは尹錫悦候補と誤差範囲内であった。世論調査の公表が禁止されている期間に調査されたデーターでは、20代女性の支持率が急上昇したことが確認された」(「20代女性はなぜ今回の大統領選挙で結集したのか?」『時事IN』、758号、2022.3.31)]。度を越した国民の力の女性排除キャンペーンが逆結集を呼び起こし、選挙直前に浮動層、そして革新系政党に投票しようとしていた女性たちが急旋回して李在明候補に投票したのだ。これは選挙直後、正義党の沈相奵(シム・サンジョン)大統領候補に送金された12億ウォンの寄付金からも推し量ることができよう。「尹錫悦を落とすために李在明に投票しよう」もしくは「現実的に当選確率の高い李在明に期待をかけてみよう」という戦略投票に対しての申し訳なさを表したものであろう。

20代女性の投票が、審判もしくは戦略投票の傾向を見せているということはデーターからも読み取れる。『時事N』が大統領選挙直後に「韓国リサーチ」に依頼した3月11日~14日の間に実施した全国2000人を対象としたWEB調査を見ると、李在明候補に投票した20代女性の92.3%が「尹錫悦の当選を阻止するため」と回答している。「李俊錫などの反フェミニズム言動への反対」という20代女性の回答(76.5%)も、全体平均(59.8%)よりもはるかに高かった。「特定の政党や候補があなた自身を政治・社会的に排除しようとしていると思うか」という質問にも、20代女性が最も強く反応しており、全体平均を見ると、各政党と候補が30%台であまり差が見られないが、20代女性の63.4%が「尹錫悦候補が排除しようとしている」と回答しているのだ。これは、李在明候補に対する20代男性の回答(40.0%)よりもはるかに高くなっている。尹錫悦候補の当選が自らの存在の危機につながるという認識が20代女性の中で強く作用していたということだ。

路線を変更した李在明キャンプの基調も20代女性の戦略投票に「名分」を与えたと思われる。李在明キャンプは「ジェンダー分断」に反応する男性の票への未練を断ち切り、浮動層であった女性の票を得ることに注力し始めた。クッ・スンミン教授は『20代女性』の中で、20代女性の浮動層を「中道」として捉えるのは間違いであると指摘している。文在寅政権及び与党(民主党)に失望し、浮動層として残っていたが、彼女らは他の世代の民主党支持者と同様もしくはそれ以上に革新的である。しかもフェミニズムに対する熱烈な支持者ではなくても反フェミニズムに対する拒否感を持っている。このような判断に基づいて、民主党は選挙の終盤間際に朴志玹委員長を前面に押し出した。TV討論会で李在明候補は「構造的なジェンダー差別は存在しない」と発言した尹錫悦候補に反論し、攻勢を強めた。民主党の地方自治体長の権力型性犯罪に対しても公開謝罪をした。

即ち、第20代大統領選挙を前代未聞の辛勝へと導いた主役でありながら「新たな勝負」を作り出したのは、20代の女性有権者らであった。女性家族部を廃止すると公言した尹錫悦次期大統領と国民の力は結局公約を実行できないまま新政権を発足した。168議席(5月13日基準)の巨大野党の視線を恐れたのではなく、0.73%にまで差を縮めた有権者の視線を意識したからであった。

20代女性たちもこの事実を把握している。選挙直後のWEB調査によると、20代女性は「自分が投票すると、政治が変わる」と考える傾向が強い(68.4%)。これは、全年齢の中で最も高い数値だ。次いで尹錫悦次期大統領の主な支持層と言われている60代男性(64.5%)であり[8.次いで30代男性(60.4%)、40代男性(58.9%)の順である。]、20代男性(49.0%)の回答は全体平均(53.1%)よりも低くなっている。2021年の8月には「現在、自分の考えと利益を代弁してくれそうな政党がある」と回答した20代女性は17.4%に過ぎなかったが、大統領選挙直後には、同様の質問への回答が40%にまで上昇した。

20代の女性たちが選挙の結果を変えることはできなかった。しかし、自分たちの声が終結すれば、政治は反応するということに気づいた[9.「結果的にはジェンダー葛藤がより表面化した部分もあろう。若い女性が十分感じ得る疎外感や排他的な感情に対しても、今後、配慮すべきだ」(国民の力のユン・ヒソク選挙本部報道官)という発言や「20代、30代前半の女性にもう少しソフトにアプローチする努力が足りなかったのではないか、選挙戦略の過程においても今一度振り返ってみる必要があると思う」(国民の力のキム・ジェウォン最高委員)などの発言は、大統領選挙結果後に国民の力の内部で上がった反省の声である。(「20代の男女を激しく分断化した選択に…国民の力‘ジェンダー分断への反省’」、ハンギョレ、2022.3.10)]。20代は、特定の政党との関係が固定化される世代ではないが、今回の大統領選挙を通じて、政党と政治家が彼女らの要求を盛り込む道具になり得るという事実を知り、政治的効力感を感じたのである。中央大学社会学科のシン・ジンウク教授の以下のような分析は、大統領選挙以降、思い悩む政界に洞察を提供するであろう。「民主党と正義党は女性嫌悪政治に対する対応をフェミニズム的な価値を掲げることで推し進めた。フェミニズムに共感する若い女性ならば、その多くが同時に労働、不平等などの問題においても革新的な姿勢を取る傾向にある。ところが、政治家たちは、これをお互いにつなげるフレームを作ろうと試みすらしなかった。結局、20・30代の女性及び彼女らと似たような文化的傾向を持つ20代男性と連携できる多様な議題領域を抹殺してしまったのだ」[10.「フェミニズム政治と階級政治を繋ぐ土壌はしっかりと存在する」 『時事IN』、2022.4.21。] 戦略投票をするしかなかった有権者を再び選好投票がきでるようにするのも、投票を諦めた有権者を再び呼び集めるのも、今後、全ての政党がすべき役割であろう。

ここで最初に述べた権仁淑議員室の主催した討論会の話に戻りたい。その討論会のYouTubeのライブ配信の画面には多くのコメントが書き込まれた。それは、20代女性を見つめる社会の偏った視線を反省させるような内容であった。「一部の革新系コメンテーターらが女性支持者をK—POPの‘ファンダム’や‘ケッタル(改革の娘)’としか分析できないのを見て情けないと思った。意図的に女性の議題を排除しようとしているのではないかと疑ったりもしたが、今日の討論会に参加でき非常に感謝している」「民主党を支持する20・30代の女性が単なる‘トクチル(オタ活)’として扱われるのが悔しかった。トクチルは支持を楽しく長期的に持続させるための方法であるだけで、内容は全く違う」「これまで政治に興味のなかった理由は、誰も私たちの話を聞いてくれなかったからだと思う。私たちの話を聞いて、答えてくれるから楽しい」「女性差別や女性嫌悪の問題について民主党内部でもっと多くの討論、勉強会が行われてほしい。民主党が哲学なく、現象ばかりを追いかけていたから、メディアが煽った「20代男性の現象」に振り回されたと思う。たとえ今は不利な状態になっても、正しい価値には正しいと言え、国民を説得できるような突破力を身につけられるよう、応援したい」「民主党という巨大政党の中で私たちが‘プレイヤー’になれるなんて心が満たされるような気がする」

彼女らが鳴らした警鐘は、政界にだけ当てはまることではない。これらのコメントを読みながら、ふと『20代女性』のプロローグに書いた文章を修正しなければならないのではと思った。当時、20代女性の現象に注目すべきだと指摘しながら私はこう書いた。「説明をしなくてもいいということ自体が権力であった。説明をしなければならない人生と説明をする人生が持つ権力の大きさは違う」(12頁)。20代男性の現象にばかり視線が集中していた当時の問題意識を盛り込んだ内容である。依然としてこのような指摘は有効であると思う。ただ、今回の選挙で20代の女性有権者が見せた態度は「説明をしなければならない人生」と「説明をする人生」という二分法的思考を超えるものではないかと思われる。彼女らは、自ら説明することを恐れず、自らの考えを示し、自分たちの存在が消え去ることを食い止めた。その上、相手の思いのままにもならなかった。その結果、消滅したかもしれないある種の世界が救われたのではないかという思いに安堵感を感じた。

筆者は、今回の大統領選挙で20代女性の李在明候補への投票の多数が戦略投票であり、決して「快く」決定したものとは思わない。それにもかかわらず、その選挙結果を見て、民主党への入党にまで至った彼女らの気持ちも察することができる。過去には戻らないという断固とした決意と言えよう。悩んだあげく選択したカードが、彼女らの望むような、より安全で平等であり、社会的少数者を差別しない世の中を作ることができることを望んでいるのだ。単に遠くで望むだけでなく、行動に移したのは、引っ張られるよりは、引っ張っていくという覚悟の表れでもあろう。

特に「ケッタル」というソーシャルメディア内での政治家と有権者間の一種の遊び文化を「ファンダム」という狭い範囲で認識されることに明確に線引きをしている反応が注目される。見た目は「ケッタル」でも、その本質は政治的行動なのだ。彼女らの自己効力感を持続可能にすることが韓国の政治を一歩前進させることではないだろうか。特定の政派の利害関係を越え、各政党が「20代女性の現象」を軽く見たり無視したりせず、今後も共に悩み続けなければならない理由でもある。

何よりも、彼女らは「ジェンダー平等は我々の社会をより発展させてゆく価値とつながっている」という点を注視している。それが気候変動、差別禁止、経済的再分配、労働尊重などへとつながると信じており、その中心に政治があると考えている。有権者として投票し、さらには党員となることも憚らない20代女性は、このような流れを政界に悟らせ、逆行した場合は直ちに直言し、戦うという意思を示した。従って、彼女らは「飼いウサギ」と呼ばれるのを拒み、自らを「トラ」と称しているのだ。

 

 

訳:申銀児(シン・ウナ)