[論壇] 選挙と民主主義を打撃したジャーナリズム / 李奉洙
論壇
選挙と民主主義を打撃したジャーナリズム
李奉洙
韓国メディア・リテラシースクール院長、MBCジャーナリズムスクールディレクター。著書『ニュートラルにギアを入れて走ることはできない』、『経済ジャーナリズムの従属性』(共著)等がある。
「傾いた運動場」は大統領選挙敗北の要因ではないと?
全北大学名誉教授の康俊晩は、最近著書で「与党の一角から大統領選挙の敗北の原因を『傾いた言論の運動場』から探している」が、「そうした考え方が、文在寅政権が潰れた最大の要因であるということに気付いているのかわからない」と批判した。彼は、「文在寅政権の失政に対して、比較的より正しい話をしたのは保守言論であり、進歩言論ではなかった」と分析しながら、「ファンダム政治」のフレームが朝鮮日報をはじめとする保守言論を「悪魔化」したという診断を下した。彼はまた「保守言論の主張と反対にするのを『進歩の道』だと信じる人が多かったので、これはやや厳しく言えば、墓穴を掘るもの」であると主張した[1.康俊晩『政治戦争』人物と思想社、2022、32-33頁。]。
YouTubeチャンネル「開かれた共感TV」に出演した柳時敏作家は、「レガシーメディアが黙示的共同行動として特定の候補を高く評価しても、ニューメディアが中和させることができるほどのメディア生態系がつくられた」と診断し、「3Pro TV」を「レガシーの傾いた運動場を『一発』で反転」させた事例として取り上げた[2.YouTubeチャンネル・開かれた共感TV「カン・ジングのインサイト」、2022.1.6放送。]。他の討論番組では言論改革が必要だと主張し、「100分討論」という番組を進行した時、言論改革シリーズも企画して行ったが、「結論はダメだった」と述べた。彼は、現在言論が「90対10の割合で『親尹』」だととらえながらも、こうした言論問題が技術の変化、つまりニューメディアによって解決されると展望した。彼はまた「これ以上オールドメディアに縛られ、公正な選挙報道を要求しながら、哀願し訴える無駄なことを止めよう」と促した[3.MBC「100分討論」2022.3.3放送。]。
「ニュース打破」(調査報道を行うニュースサイト-訳者)のプロヂューサーである崔承浩は、自身のフェースブックで「大統領選結果の主な要因を言論環境等の外部から探ろうとする方法では、民主党の政治は絶対進化することはできず、その結果は『再び敗北』であろう」と指摘した。彼は、進歩総合編成チャンネルの設立論議に対しても「進歩総合編成チャンネルが一部のインフルエンサーのように、民主党を政治的に支持する少し大きなスピーカーを意味することであるならば、設立してもあまり影響力はないだろう」と述べた[4.2022.3.12掲載。「崔承浩プロデューサー『大統領選敗北要因を言論から探ると民主党はまた敗北』」『メディア今日』2022.3.13参照。]。
一貫性も、保守の価値も見つけにくい「保守言論」
影響力のある以上の3人の知識人たちの見解は、相当の部分傾聴すべき価値がある。康俊晩の主張は、文在寅政権がファンダム文化に陥り、反対側の正しい話に耳を傾けなかったということである。しかし、「より正しい話をしたのは保守言論」だという部分には同意できない。私は、文在寅政権がキャンドル革命の成果として誕生したのにもかかわらず、改革陣営の声を政治に反映するよりは、保守言論の批判に振り回されたせいで政権を奪われたと考えているからである。
まず韓国で普段「保守言論」と呼ばれる「朝中東」(朝鮮日報・中央日報・東亜日報)に「保守」という名を付けるのは妥当なのかという問題から検討してみたい。イギリス保守党の理論家だったエドマンド・バーク(Edmund Burke)は、「保守のアイデンティティと価値を守るため、保守は絶えずに改革し続けなければならない」と述べた。しかし、「朝中東」は文在寅政権期にひたすら既得権の守護、つまり守旧の論理を展開してきたと言っても過言ではない。進歩論客の李泳禧の著書『鳥は左右の翼で飛ぶ』という題目が示すように、保守と進歩とが互いに競争し合うことで、社会発展の動力を確保することができる。この時、必須要件は真正性である。真の保守政党と進歩政党が両立するためには、彼らを代弁できる真の保守言論と進歩言論も両立しなければならない。ヨーロッパではその辺りで多様なスペクトラムの政党と言論が各界各層の声をそれなりに欠かさずに代弁してきた。
西欧政党と言論のもう一つの特徴は一貫性である。ヨーロッパには「百年政党」が数多いが、韓国の政党らは選挙で負けると政党の名称から変える。「政論紙」を自負する韓国の守旧保守言論の論調はいっそう変化が激しい。キャンドル政府の最大の改革課題だった検察改革と言論改革に対してはもちろんのこと、大統領執務室の移転問題にいたるまで一貫性や客観性は見つけることができなかった。終始一貫していたのは政派性だった。
朝鮮日報は、最近数多くの記事とコラム等を通じて検察の捜査権と起訴権の分離に反対した。4月12日付の社説「文大統領の保護のためだという「検捜完剝」(検察の捜査権の完全剝奪―訳者)、文が立場を明らかにしなければ」を例に挙げると、「この法律の恩恵を受けた文大統領が、自身の不法行為が露わになるのを防ぐために、検察の捜査権を剥奪する法律の制定に同意するのかどうかを明らかにする必要がある」と主張した。法改正の恩恵を受ける人が文在寅大統領であるという断定にも根拠が足りないが、かつて朝鮮日報が捜査・起訴権の分離に賛成してきたという点において一貫性を守るどころか、「論調のUターン」をしてしまっているのである。
時計を巻き戻してみると、朝鮮日報は2017年1月6日付の社説(「文『青瓦台・検察・国情院の権力の縮小』公約、大きな方向性は正しい」)において、当時、共に民主党(以下、民主党)の大統領選挙候補の文在寅の「検察の捜査権の調整」公約を肯定的に評価した。この社説は、「朴槿恵大統領も検察の中立性の保障、検察・警察の捜査権の調整」等を約束したものの、「執権したら、いつものように態度をコロッと変えた」と言いながら、「誰が大統領になっても今打ち出された約束は必ず実践しなければならない」と強調した。朝鮮日報が同年2月20日に掲載した誠信女子大学のイ・ソンギ教授のコラム(「捜査と起訴の分離、人権保護のための原則である」)には、「検察の捜査・起訴の独占権は権威主義時代を経て、憲法上検事の独占的令状請求権までが加えられ、今日検察共和国という汚名を残した」という指摘がある[5.「朝鮮・中央、検察捜査権の分離に賛成していたのに、今になって『文大統領守護法』」『メディア今日』2022.4.19。]。中央日報も2016年に「大韓民国の検事、大解剖」シリーズを掲載し、9月26日付社説(「牽制されない検察権力、権限の分散が正解だ」)において「捜査権・起訴指揮権・起訴権を全部握っている検察の肥大化した権限が、韓国社会はもちろん検事自身にとっても大小の副作用を生んでい」ると強調した。
2021年下半期に民主党が言論仲裁法改正案を進める時も、既得権の言論はいろいろな「フェイクニュース」(虚偽・操作情報)を濫発しながら、反対論調を展開した。民主党による懲罰的損害賠償制度の統合案が発表されると、朝鮮日報は「言論規制、ますます厳しくなる」、中央日報は「言論に猿ぐつわをかませる法案」、東亜日報は「過剰規制」「法理とのずれ」[6.「与党の言論規制、ますます厳しくなる…『懲罰的損害賠償』最大5倍推進」『朝鮮日報』2021.7.15;「『言論に猿ぐつわをかませる法案』論難、懲罰的賠償制度…与党16日、文化体育観光委員会、いわゆる単独処理をしそうだ」『中央日報』2021.7.15;「与党『言論懲罰的損害賠償額の下限額設定』…学界『過剰規制』法曹界『法理とのずれ』」『東亜日報』2021.7.15。]のような表現を使いながら、辛辣に批判した。しかし、朝鮮日報は朴槿恵大統領時代の2017年2月6日に発刊した『週刊朝鮮』の表紙記事「間違ったらごめん?フェイクニュース、被害者ばかりを生み出す」において正反対の論調を展開したことがある。アメリカ等では「『悪意的誤報』と判明されれば、懲罰的損害賠償制度が適用され、巨額を賠償しなければならない」と述べながら、その費用が「平均15~20億ウォンにも達する」と記した。当該記事はまた「賠償額のために言論社が破産する場合もある」とし、韓国に90万人を超える言論人がいると前提したうえで、「フェイクニュースを量産するペンはペンではなく、刀である。被害者の人格を殺す殺人道具」と批判した。
尹錫悦大統領当選者の執務室移転の推進に関連しても、中央日報と朝鮮日報は、過去とまったく違う論調を見せた。執務室の龍山への移転案は、国家安保と費用に対する負担はもちろん、独断の決定で反対世論が高い状況であるにもかかわらず、去る3月、中央日報は「大統領が国民とのコミュニケーションのために青瓦台から出ていくことに共感する」、朝鮮日報は「根拠も不明な安保の空白を理由にして待ったをかけた」[7.社説「龍山大統領時代…混戦なく徹底準備しなければ」『中央日報』2022.3.21;社説「『安保』を言い訳に執務室移転に待ったをかけた文、安保を論じる資格あるのか」『朝鮮日報』2022.3.22。]と述べながら、尹当選者を擁護した。しかし、朝鮮日報は2017年初、当時大統領選候補だった文在寅候補の大統領執務室移転に対しては反対した。風水学者のキム・ドゥギュのコラムを例に挙げれば、光化門の政府総合庁舎に大統領執務室を移転すると、「保安上の問題もあるが、入居した既存の部局の再配置も簡単ではない」と批判したのである[8.「大統領の執務室を移転するならば、慶熙宮が最適地であるわけ」『朝鮮日報』2017.3.25。]。こうした問題は、この二つの事例に同一に適用されるものであるにもかかわらず、当時は明確だった不可の理由が、今は「根拠もない不明な」ものだと述べられているのである。
中央日報も同様である。2019年1月に文在寅大統領が執務室の移転計画を取り消すと、社説(「『光化門大統領』の立消えを誤り、コミュニケーションは強化しなければ」、2019.1.7.)を通じて、「選挙公約発表の軽さと現実の重さを改めて考えさせられる」と批判した。それに加えて、ワシントン総局長のキム・ヒョンギがコラム(「『光化門大統領』という幻想」、2019.1.9.)を通じて、「一国の大統領執務室移転の公約がどうして簡単に理念として打ち出され得るのか。これを正当化し、目をつぶる瞬間、私たちは次の大統領選挙で再び数多くの「理念公約」に巻き込まれてしまう」と主張した。文在寅の「光化門執務室」に対しては「理念公約」と貶め、尹錫悦の「龍山執務室」に対しては「共感」を表しているのである。
真の保守言論であるなら、安保を重視し、共同体的価値と伝統を尊重しなければならない。ところが、それらを度外視したまま、当選者が釈然としない理由で執務室の移転を急いだのにもかかわらず、打って出て支持したのである[9.執務室移転と関連して東亜日報が違う見解を一部掲載したことは注目される。論説委員のソン・ピョンインは、3月23日付のコラム「誰が青瓦台を返してほしいと言ったのか」において、拙速に龍山移転を決定したことに対して批判した。]。全般的には真の保守とはかけ離れた韓国の「保守」言論は、政権によってダブルスタンダードを適用する。財閥や既得権層を擁護したり、労働組合を抑圧する時には「強い政府」になってほしいと渇望しながらも、貧しい人を助け、福祉政策を展開する時には「弱い政府」になってほしいと希望する。改革を約束して執権した政権が「保守」言論の主張を追従することが「進歩の道」にはなり得ない。
ニューメディアをもって既成メディアに対抗できるのか
柳時敏の見解は、既成言論の改革そのものに反対したというよりは、改革が現実的に難しいゆえに、諦めてニューメディアを活用してオールドメディアに対抗した方がより効果的だという意味である。しかし、今回の大統領選挙で言論が見せた極めて酷い偏向・歪曲報道と選挙結果にみられるように、彼の「現実論」はオールドメディアとポータルの議題設定能力を過小評価したということができる。ポータルを掌握した守旧保守派のオールドメディアと総合編成チャンネル(以下、「総編」)による世論の支配力は、世論集中度調査にも表れる。新聞社を母企業とする総編4社(TV朝鮮、JTBC、チャンネルA、MBN)の昨年の媒体合算世論影響力における占有率は28.1%にも上る。これは、24.1%にとどまった地上波3社の影響力を凌駕するものである[10.世論集中度調査委員会・韓国言論振興財団「2021世論集中度調査報告書」。]。
ところが、放送通信委員会が韓国放送学会・メディア人権研究所を通じて総編4社の公正性を評価した結果、JTBCがやや酷くないだけで、深刻な問題点が指摘された[11.「総合編成チャンネル4社の公正性、外部評価の結果は」『メディアス』2022.2.10参照。]。大半の総編は「総合」ではなく、偏向的な「政治専門チャンネル」になって選挙の時になると、ほぼ一方的に「国民の力」候補の味方になり、民主党候補を敵対視した。今回の大統領選挙でも同様である。民主言論市民聯合によると、総編4社は、2月10~15日に時事対談番組で金建希氏に関して17分を取り上げた反面、李在明候補の婦人である金恵景氏に関しては172分も取り上げた。TV朝鮮の場合、李在明候補に関する「大庄洞開発特恵疑惑」報道が89件でKBSやMBC報道の2倍に上るほど多かったが、検察による「告発使嗾」に関する報道は放送社の中で最も少なかった。真実よりはどの党にプラスになるか、マイナスになるかが報道の基準になっているのである。
柳時敏は、進歩・中道派のニューメディアの影響力も過大評価した。今回大統領選挙期間中、尹錫悦・金建希夫妻の不正について報道し続け、チャンネル登録者数が急増したYouTubeチャンネル「開かれた共感TV」と「ソウルの声」、「ニュース打破」の3月28日現在の登録者数は、それぞれ86万、77万、82万余名である。これに対して、李在明・金恵景夫婦を集中的に批判した保守・守旧派の「秦聖昊放送」、「神の一手」「カロセロ(横縦)研究所」の登録者数は、それぞれ166万、145万、90万余名にも上る。最近になって進歩派のYouTubeチャンネル登録者数が非常に増えたのにもかかわらず、依然として「衆寡不敵」の状況に置かれているのである。
柳時敏が「傾いた運動場を『一気』に反転させた」と言った中道派のYouTubeチャンネル「3Pro TV」は、各大統領選候補の経済政策に関するデプスインタビューを行い、好評を博した。李在明候補のインタビュー動画がアップロードされてから三日後の2021年12月28日午前11時現在、各動画の再生回数は、李在明動画が247万回、尹錫悦動画162万回、「いいね」数は李在明20万、尹錫悦3万を記録し、「3Pro TVが国を救った」という話が出回っていた。しかし、その放送は一回性だったため、毎日のように偏向・誇張・煽情的な報道をする総編の影響力とは比べられない水準であった。
ニューメディアにかける期待とは違い、アムネスティ言論賞を受賞したドットフェイス(.face)が設立6年でサービスを中断するようになったのは、ニューメディアをめぐる環境が決して甘くないことを意味する。ドットフェイスは、少数者の人権、青年の住居と労働、気候危機と動物権問題など、多様な領域において斬新な視点から映像と記事を制作してきたが、ついに財政的困難という壁を乗り越えることができなかった[12.ドットフェイスのチョ・ソダム代表は、購読者に送ったメールで「消尽」と「力量の問題」とともに、「財政的な困難」を直接言及した。「ニューメディア『ドットフェイス』の最後の挨拶『無謀だったし、楽しかった』」『メディア今日』2022.5.3。]。
放送の公営性は簡単に確保されない。
崔承浩論文の主張は、言い訳を外部化すると自らの改革動力が生まれないという点で一理ある視点である。しかし、そのような視点があまりにも長引かれ、進歩陣営の言論改革の努力も貶めるところにまで来てしまうと、それは問題である。民主党の問題は内部にあるという意見に同意するが、とはいえ今回の大統領選挙の敗北の要因を内部においてのみ探ると、真の教訓と推進すべき課題を見出すことができないからである。
傾いた言論環境が民主党の大統領選挙の敗北に決定的影響を及ぼしたという事実は否定することができない。国会180議席を持つ政治勢力が、言論改革と検察改革という両大改革課題のうち、とりわけ言論改革には手も付けられなかった状況の中で、「票をくれ」と有権者にまたその手を出すことはできなかったからである。もちろん不動産問題の解決や貧富格差の緩和、教育不平等の解消と公正性の強化等に失敗し、政治的効能感を感じさせることができなかったことも敗北の要因になったが、本稿で論じるテーマではない。
崔承浩は「進歩総編」の設立にも懐疑的であるが、その根底にはファクトチェックを疎かにする一部の「インフルエンサー」たちに対する不信感がある。彼は、上記の論文でインフルエンサーらが「民主党を保護しないといけないという意図から他の言論が取材した事実を取捨選択し加工するため、誤謬が多くならざるを得ない」と指摘した。このような側面はあるものの、かつてハンギョレ等の進歩派言論が担ってきたが、今はその機能の衰えた対抗言論の任務を彼らが果たしている点も看過することはできないと思われる。
市民放送「RTV」は、後援会員が100余名に過ぎず、閉業を控えていたが、今回の大統領選挙直後から後援会員が殺到し、5月9日現在約5600名にまで増えた。今回の大統領選挙でも「審判ではなく、選手としてプレーする」総編と守旧保守的新聞に対抗し、進歩メディアとして呼ばれた新聞や公営放送がその役割をきちんと果たせなかったことがRTVに向けての声援につながったのであろう。市民は将来進歩総編の種にもなり得るRTVに大きな期待を寄せているように見える。守旧政権下で「現実的不可論」が「当為的無用論」に進んでいってはいけないと考える。RTVはIPTVに進出するだけでも、総編よりは弱いものの、非常に影響力を確保することができる。
崔承浩は、MBC社長を歴任した人らしく公営放送の支配構造の改善を最も重要な言論改革の課題としてとらえる。これは、至急の課題ではあるが、地上波放送の影響力はすでに大きく減っただけではなく、議題設定機能は依然として相当の部分を新聞が遂行している点から、放送支配構造の改善は放送独立の契機にはなれるが、放送社構成員の増員や教育、組織改編などといった内部改革を伴わないと中途半端な改革にとどまりかねない。現在公営放送のKBSやMBCには労組も三つずつあるが、一部の労組が発表する声明書をみると、彼らが果たして放送の公営性を主張する資格があるのかと聞き返すようになる。イギリスのBBCも支配構造の確立とともに、労組を中心とした内部構成員の監視や覚醒があったからこそ、今日があるのである。
「世論」の独寡占を防げないと、民主主義はない。
多くの弊害を残した新自由主義と守旧回帰を公然と叫ぶ「国民の力」の尹錫悦候補が大統領選挙で勝利した秘訣は何なのか。有権者が彼の能力や道徳性を高く評価したとはいえない気がする。韓国リサーチが選挙後の3月4週目(25-28日)に実施した世論調査によると、「尹当選者が国政運営をよく行うだろう」と思う期待値は39%に過ぎなかった。政策は失踪し、政治と言論が煽り立てる憎悪と嫌悪がこのような結果をもたらしたのではないだろうか。
キャンドル革命を成功させた韓国においてわずか5年でどうしてこのような大きな反転が起こったのだろうか。世界がキャンドル革命に敬意を表したのは、広場民主主義がそれほど実現されにくいという意味でもある。広場民主主義の実現がほぼ不可能になった時代にその権力を代行するのが言論である。ギリシャの古代民主主義と違って現代民主主義は、言論が公論の場としての任務を適切に遂行しないと作動しない。民主主義が目的というならば、言論は手段なのである。ところが、韓国の大半の言論は民主主義の核心要件である表現の自由を手段化し、私的目的を達成する。フェイクニュースを検証せずに伝播して確証バイアスを強化し、それをもとに収益や影響力を拡大させる。
アメリカのMIT名誉教授のチョムスキー(N. Chomsky)は、ハーマン(E. Herman)と一緒に著述した著書『世論操作』でメディアが既得権層の利害関係を貫徹させるため、大衆の「同意」を導き出すと述べている[13.ノーム・チョムスキー&エドワード・ハーマン『世論操作』チョン・ギョンオク訳、ecolivres、2006参照。1994年に出版された原書のタイトルは『Manufacturing Consent』、つまり「同意づくり」である。]。アメリカの社会学者であるガンズ(H. Gans)も、日常的な上意下達型ジャーナリズムの慣行が大半のニュースを、パワーエリートの活動を伝えるメッセンジャーとしての役割にとどまらせ、民主主義を弱化させると主張した[14.ハーバート・J・ガンズ『ジャーナリズム、民主主義に薬か、毒か』ナム・ジェイル訳、図書出版カン、2008参照。]。これに関しては、シャドセン(M. Schudson)をはじめとする西欧の多くの学者が、否定的側面だけを強調してはならず、ジャーナリズムが民主主義に寄与するところが大きいと主張する[15.マイケル・シャドセン『ニュースの社会学』イ・ガンヒョン訳、韓国言論振興財団、2014。]。
しかし、韓国言論の報道実態、とりわけ今回の大統領選挙における報道態度をみると、否定的側面があまりにも多く見られる。選挙に影響を及ぼしたのは、候補の力量や政策の違いではなかった。「傾いた運動場」で選手としてプレーする言論の偏向報道が選挙戦を揺るがし、世論調査がバンドワゴン(bandwagon)効果を生んだ。一部の言論は、特定の政党とメッセージを交わしながら、一丸となって行動し、選挙戦略を提示しながら政党のブレインとしての役割を果たした。中央選挙世論調査審議委員会に登録された第20代大統領選挙関連の世論調査件数は、昨年1月1日から今年2月20日まで827件にも上る。爆増した世論調査は数十万件の記事によって広がった。玉石が入り混じていたものの、安上がりの世論調査は世論を誤った方向に導いた。
大統領選挙メディア監視連帯が2月3日から3月2日まで一ヶ月間地上波3社と総編4社の夕方総合ニュースをモニタリングした結果、選挙報道は1248件であり、そのうち政策を言及した報道は341件であった。その中でも単なる伝達を越えて政策検証まで行った報道は51件であり、選挙報道の4%に過ぎなかった。選挙後に数多くの公約が廃棄されたり、施行時期が何年ずつ延期されたりするなど実践しようとする意志に疑義が生じるのは、第一に尹錫悦大統領本人と国民の力に大きな責任があるが、マニフェストをほとんど検証しなかった言論も一緒に負わなければならない責任なのである。
大統領執務室の光化門への移転公約は龍山への移転に変更され、深刻な財政・安保・交通問題をもたらした。文在寅大統領が光化門への移転公約を諦めざるを得なかった理由を詳細に報道していたら、尹錫悦候補も前もって光化門公約を諦め、龍山公約を発表したはずなので、このような国政混乱は少なかっただろう。兵士の給与200万ウォン即時支給という公約等も財政問題によって実践しにくくなった。兵士の給与が下士官の初給与より多くなるなど直ちに実施し難い公約だったが、それをきちんと検証した報道は見られなかった。女性家族部の廃止という公約も右往左往する中で何とか国民の力が法案を発議したものの、国会で可決される可能性はほとんどなく、「地方選挙用」だと疑われた。
公約の廃棄や変更は、執務室や公館の移転によって交通渋滞に苦しむようになったソウル市民のみならず、20代男性を意味する「二代男(イデナム)」等を裏切る要因になった。尹錫悦候補は、ソウル市で勝利し、「二代男」から組織票を得て大統領になることができた。韓国日報は、世論調査機関4社が5月2-4日に実施した全国指標調査(NBS)を引用して5月6日に「尹錫悦、大統領選挙勝利『立役者』2030の民心が揺れ動く」という記事を掲載した。虚偽公約は、民主主義の柱である選挙を無意味なものにしてしまうという点で、これに対する政界や言論の反省と処罰、再発防止策が切実だったが、有耶無耶になってしまった。
「言論の自由」と「発行部数」という神話
ジャーナリズムの危機が民主主義の危機へと広がっているのにもかかわらず、言論改革は遅々と進まない状況である。韓国言論の信頼度が先進国の中で最下位レベルに墜落したのにもかかわらず、言論改革はなぜなかなか進まないのか。それは、韓国社会が二つの神話に陥っているからである。一つは、「言論の自由」または「表現の自由」という神話であり、いま一つは「新聞発行部数の神話」である。
すべての自由は、自由権の内在的限界のために制限されるしかなく、特に言論には責任が強調されなければならない。言論の自由は言論社主の自由や記者の特権ではなく、市民の権利として発展してきた。にもかかわらず、市民の権利を侵害する方向へ言論の自由が悪用されている。私たちは独裁政権時代に言論の自由をあまりにも渇望していたため、「言論の自由」「表現の自由」という神話に陥ってしまったのである。「他者の人権を侵害する自由」「フェイクニュースによって名誉を毀損する自由」はないのにもかかわらず、既得権の言論は「自由」という名で言論改革に反対し続けてきた。
必要なもう一つは、新聞が「発行部数の神話」から抜け出すことである。世界一流の新聞は、アイデンティティとターゲット読者が明確で概ね10-20万部を発行しており、多くても50万部程度である。その代わりに、彼らはインターネットで収益を上げているのに対し、韓国言論はNAVERやDAUMなどのインターネットポータルに従属され、独立できていない。発行部数公査(ABC、Audit Bureau of Circulation)制度は1989年にABC協会創立以来、公正な広告執行の基準であると自負してきたが、最近は部数の操作を認証してもらう手段になってしまっているのである。国会で議論されているポータル改革は、新聞の独立を手助けするものである。
言論改革関連法案は、韓国言論が自らは抜け出せない二つの神話の迷夢から目覚めることができる「アラーム」としての役割を果たさなければならない。キャンドル革命によって執権した文在寅政権と民主党は、これまで言論改革に関しては立法はもちろんのこと、与えられた権限すら行使できなかった。人権弁護士として生きてきた文在寅大統領は、検察改革には関心が高かったが、言論に関しては「自由主義言論観」に偏っていたせいか、最小限の「市場秩序」さえ正すことができなかった。
80%の世論を裏切った言論と現業団体
虚偽操作情報またはフェイクニュースがあまりにも多く流通され、国民もその弊害を深刻に感じているため、言論被害救済法の核心である「懲罰的損害賠償制度」に対する賛成世論は非常に高い。懲罰的損害賠償制度に対する賛否の割合は、2020年5月のリサーチビュー調査で81%対11%で賛成が圧倒的に高かった。2021年2月のリアルメーター調査でも61.8%対29.4%で賛成が反対より2倍以上高かった。
こうした世論に支えられ、民主党と開かれた民主党の新人議員らを中心に懲罰的損害賠償制度が積極的に進められ、昨年下半期に国会の文化体育観光委員会と法制司法委員会で可決された。しかし、言論労組と記者協会等が発行人会である新聞協会に同調して当初からこの制度を「悪法」と規定するとともに、保守野党と一緒に糾弾し、さらに記者出身の朴炳錫国会議長等が仲裁に入ることによって、本会議での可決が頓挫した。フェイクニュースまで利用しながら絶対多数の言論が半年間絶え間なく反対論調を展開したが、言論の報道態度をよく知っている国民は依然として言論仲裁法の改正に圧倒的に賛成している。韓国言論振興財団メディア研究センターの2021年10月15-19日の調査によると、賛成が76.4%であった。
民主党は大統領選挙で負けた後、検察の捜査・起訴分離法案を可決させており、言論改革も完遂すると言いながら、4月27日に3つの法案を発議した。5月10日になれば、尹錫悦が大統領として拒否権を持つようになる状況だったので、非常に遅すぎた対応だったのである。その中、金宜謙議員が代表発議した「ポータルによるニュース編集権の制限」と鄭必模議員が代表発議した「公営放送支配構造改善案」は、国民の力も法案を持っており、折衷如何によっては拒否権を避けられる可能性も無くはない。ただし、公営放送はこれまで与党が戦利品のようにとらえてきた悪習があり、どちらが執権するかが不透明な時ことが改革の適期であるものの、今は国民の力の反発が激しくなると予想される。民主党の「公営放送支配構造改善案」は、現在の理事会を無くし、25名定員の運営委員会を議席数の比率によって国会の交渉団体が推薦する7名と、非交渉団体が推薦する1名等で構成するという案である。推薦主体は多様化したものの、推薦権の相当数は依然として政治界が持つようになり、後見主義を完全に断ち切ることはできなさそうである。現業言論人の介入が大きくなったのに対し、一般視聴者の参加枠は狭い点も補完しなければならない部分である。キム・ゾンミン議員が代表発議した「虚偽操作情報削除要求権」は、東亜日報が社説を通じて再び「言論に猿ぐつわをかませる法」[16.社説「検察の捜査権の完全剥奪に続き、『言論に猿ぐつわをかませる』法…民主党の四方八方に突き当たる立法暴走」2022.4.29。]と罵倒しだしたことからもわかるように、猛烈な反対にぶつかると予想される。「良いタイミング」を全部逃し、任期が終わりかけていた時に「言論改革の完遂」を叫んだことから、文在寅政権の言論改革に対する意志を疑わざるを得ない。
昨年5月、ある元老学者から「改革の大統領が当選されれば、就任前の5月9日までの2か月が国会で言論仲裁法を改正するゴールデンタイム」だという話を聞いた青瓦台の高位当局者が、青瓦台と言論現業団体の無責任さに対して批判する論文をオーマイニュースに寄稿したことがある[17.「言論仲裁法の延期後37日…『嘘』はつかないようにしましょう」『オーマイニュース』2021.11.5。]。彼らが責任を回避した結果が今日の事態なのである。
なぜ経済的賠償を強制しなければならないのか。
言論被害救済策によって、昨年深く議論された懲罰的損害賠償制度の立法可否を、去る4月、民主党が党指導部に委任したのは、悩ましいことは避けたいという態度として見られ、残念である。反対論が最も強いのが懲罰的損害賠償制度だったが、言論界からの反発が激しいという点から、施行されれば相当の効果を上げることができるという逆説も成立する。
フェイクニュースに対して刑事訴訟だけではなく、経済的賠償を強制しなければならない理由は、金を稼ぐためにフェイクニュースを拡散することがあまりにも多いからである。フェイクニュースは確証バイアスを経ていっそう多くの読者や視聴者を集める構造になっており、それを阻止するためには民事訴訟も一緒に起こして経済的利益を剥奪しなければならない。毎月数億ウォンウォン単位の収益を上げる極端なユーチューバーや既成メディアにとって、数百万ウォン程度の賠償金は「必要経費」として思われるだけである。懲罰的損害賠償制度がない状況では、金になるフェイクニュースの生産や拡散を自らコントロールするはずがない。
言論現業団体が主張する「自律規制」は、ある意味形容矛盾である。大型言論社は偏向・歪曲・煽情報道を繰り返す組織であり、「朝鮮NS(News Service)」のようなオンラインニュースという子会社までつくり、ポータルを通じて巨額を稼いでいる状況なのである。にもかかわらず、自律規制で激しい商業主義を制裁するということは、現実を無視し「幻想」を追いかけるようなことである。
懲罰的損害賠償制度の核心は、量刑基準を高めることである。これまでは法院(裁判所)の保守的判決によって一部の損害のみが賠償されるだけで、懲罰の意味がなかった。それ故、懲役等の上下限値を規定しておいた刑法のように上下限値を設定しておかなければ懲罰の趣旨を生かすことができない。
2021年6月30日、筆者は、国会の文化体育観光委員会に専門家陳述人として出席し、下限値を3倍、上限値を10倍にした方がよいという意見を出した。ところが、上限値は縮小され続け、下限値は削除されたが、今回は立法を諦める状況にまで来てしまった。訂正する報道記事の大きさを最初掲載した記事の2分の1に規定する案が削除されたことも残念である。韓国言論の弊害は誤報を出しても、訂正記事は隅っこに小さく掲載するなど訂正に対しては非常に不誠実で、現在は被害者たちがその効果をほとんど感じることができないからである。
「言論の二つの主敵」にこのまま押されるのか
世論集中度調査が重要な理由は、世論の独占・寡占状態においては民主主義も形だけになってしまうからである。ある世論調査によると、選挙で候補者を選ぶ際、どのような経路で情報を得るのかという問いに対して43%がポータルであり、3.9%のみが新聞と答えた。ポータルは政派的な新聞記事を、さらに偏向的に掲載しているという疑いを常に受けてきた。最近「単独記事」と掲げて目を引く記事は、概ね政治家や非常に政派的な論客のSNSを一生懸命に覗いてそれらをコピペするものである。彼らの声が過剰に代弁され、理念対立は憎悪の内戦段階に入っているようである。
『ル・モンド』(Le Monde)の元発行人であるコロンバニ(J. Colombani)は、「言論に二つの主敵があるが、一つは金、いま一つは時間」と言った。財政が重要なのは当たり前であり、時間と関連してはインターネットとポータルを中心に速報性が重要になることによって、真剣な言論が負けているという視点がある。韓国では、ポータルが真剣な言論の敵になっている。真剣な言論は健全な公論の場をつくり、熟議民主主義の花を咲かせる条件である。
ロンドン大学のゴールドスミスカレッジのジェームス・カラン(James Curran)教授は、市場が主導するメディアシステムは民主主義に友好的でないといい、メディアと民主主義が相応しながら発展する民主的メディアシステムモデルを提示したことがある。彼は公営放送のような核心的なメディアを中心に置き、周辺に私的企業部門、市民メディア部門、専門職メディア部門、社会的市場部門が布陣するモデルを構想した[18.ジェームス・カラン『メディア・パワー』キム・イェラン訳、コミュニケーションブックス、2005参照。カランが本書を発刊した2002年当時、彼は筆者の学位論文(「The Media and Economic Crisis」)の指導教員でもあったが、指導過程で韓国のような言論状況なら、このモデルを適用してみる必要があると述べた。]。現在韓国のメディアシステムは公営放送ではなく、私的企業のポータルが中心に入り込んで核心的なメディアとしての役割をしているのである。
いっそう惨憺たる状況になる言論環境
メディアが選挙を主導する現象は、2009年にメディア法が可決され、4つの総合編成チャンネルが開設されてからいっそう目立つようになった。李明博政権は保守新聞の「朝中東」や「毎日経済」にチャンネルを分配し、確固たる保守優位の言論環境を構築した。保守政権は無理をしてでも自分たちに有利な制度に変え、ブラックリストまでをつくって妨げになりそうな要素を除去してしまう。
これは、進歩政権が「潔癖主義の罠」にかかって過ちを正すことすら躊躇する行動と対比される。MBNは資本調達方式から実定法を違反しており、TV朝鮮は法定制裁件数が非常に多いにもかかわらず、軽い処罰を受けた。言論仲裁法案も、国民が進歩陣営に180議席を与えたので、そのまま可決すれば済むことであった。にもかかわらず、8名の協議体に続き、与野党同数の18名の特別委員会を組織して民意を歪曲し、結局遅々と進まない状況に陥ってしまった。民主党が大統領選挙で敗北したのは、言論改革等を諦め、言論環境がいっそう傾いて有権者には政治的効能感が下がる体験を与えたからである。
これとは反対に、尹錫悦大統領は大統領職引継ぎ委員会の活動期間中、朝中東や総編に規制緩和「福袋」を約束した。引継ぎ委は「果敢な規制の廃止を通じてメディア市場の自律性を高め、投資を活性化する」とし、「許可・承認、所有・兼営の制限、広告・編成・審議規制などメディア産業に対する規制全般を果敢に廃止する」と発表した。これは、3月31日に総編4社が引継ぎ委と懇談会を行う中で要求した事項をほとんど反映したものである。これに先立って、3月23日、放送学会学術大会でチャンネルA・MBN・TV朝鮮の企画セッションとして行われた「総合編成チャンネルの規制合理化」セミナーでは、規制緩和方案が議論された。政治・言論・学問の一糸も乱れない動きと関連して、メディア今日は「このような政策変化に総編と、総編を所有する新聞社がどのような映像と紙面で「答える」のかは、李明博政権時代の偏向報道から予測可能である」と指摘した[19.「尹錫悦政権、朝中東と総編に『規制緩和』福袋を贈る」『メディア今日』2022.4.26。]。
引継ぎ委はまた「資本が集中されなければ世界競争で勝てない」とし、大企業の地上波放送社の持分規制の緩和も約束した。放送法第8条には、大企業集団の場合、地上波放送社の持分の10%までのみ議決権を行使することができるようになっている。SBSの大株主であるTYホールディングス(泰栄建設)は、今年5月から大企業集団として指定されたが、このようになるとSBSが特別の便益を受けるようになる。ソウル新聞を引き受けた湖畔建設も光州放送(KBC)の持分を売却しなければならなかったが、今後は放送社を自由に買収することができる。「事業のために予防線を張る」目的もあるようにみられる建設資本の言論社による引き受け競争に火がつくと危惧される局面である。
韓国の言論権力は、統制されない絶対権力として永遠に生き残ろうとする。ノーベル賞をもらったハインリヒ・ベル(Heinrich Böll)は、ドイツで最も煽情的だった新聞『ビルト』(Bild)にねらいを定めて1974年に『カタリナ・ブルームの失われた名誉』(キム・ヨンス訳、民音社 2008)という小説を書いた。小説でブルームは言論によって殺人者の情婦と誤認され、社会から捨てられると、記者を殺害して自首する。ベルは、「作家のことば」でこう残した。「非常に強力な絶対権力も彼らほど常に権力を振りかざさない。(…)見出しの暴力に関してはほとんど知られていない。(…)それを一度くらい研究してみることは犯罪学の課題であろう。」
韓国言論は、かつて民主主義を支える柱だったが、いまや個人の主体的決定を妨害するブラインド・カーテンとして機能するところが多い。いま多くの言論は民主主義の作動を妨げている。世界最下位水準の韓国言論の信頼度が、選挙の時に果てしない深淵へ墜落した。一度大反転することがないと、相当数の言論は「民主主義の敵」という汚名を着せられても当然である。
訳:李正連(イ・ジョンヨン)