[インタビュー] 非正規職、現代版身分制度か?

 
 

 

朴泰鉒(左)(パク・テジュ)韓国労働教育院教授、前大統領秘書室労働改革タスクフォースチーム長。著書に『韓国労働市場の現況と課題』など。

呉建昊(右)(オ・ゴノ)「代案連帯会議」運営委員、前民主労総政策部長。著書に『国民年金、公共の敵か、社会連帯賃金か』など。

 

 

とき:2008年 4月 21日
ところ:細橋(セギョ)研究所


 

呉建昊  毎年5月1日のメーデーを迎えると労働者の団結や連帯を唱えるスローガンがかなり聞こえてきます。以前はそのようなスローガンが当為的な価値であると思われていましたが、現在は何か労働者内部に存在する大きな障壁を念頭においた重々しい主張のように感じられます。

『創作と批評』誌で準備した今日の対話の主題も、これと関連がある「非正規職問題」です。みなが韓国社会の核心的な問題として非正規職のことを語りますが、実際に中に入っていくと、原因の診断、責任の主体、解決の方法などにおいて意見がまちまちです。非正規職の問題の深刻さから話を始めて見ましょうか?

朴泰鉒 労働専門誌でない『創作と批評』誌で非正規職の問題を主題にしたこと自体が、韓国社会で非正規職がどれほど重要な懸案なのかを示していると言えます(笑)。現在、格差社会が焦眉の関心事になっていますが、その中心に非正規職の問題があると思います。韓国で上位20%と下位20%の間の所得格差はすでに5.4倍を超えます。実際にこのような所得水準の格差は勤労所得の格差に始まっています。2007年の都市勤労者世帯の所得において勤労所得の占める割合は86.4%に達しています。男女別、企業規模別、学歴別の賃金格差も大きいのですが、このようなものが集約されたいわゆる「合流地点」が、この非正規職の問題だと言えます。

呉建昊 朴さんのお話しをもう少し日常的な言葉にしてみると、非正規職の問題が深刻な社会は希望が失われた社会であるということを意味します。以前はたとえ貧しい家に生まれて親に財産がないとしても、自分が懸命に働けばいい暮らしができるという期待がありました。ですが現在は懸命に働いても暮すことすらできない、自分が暮らせないだけでなく自分の子供も暮らせないと思います。このような未来に対する不安のために、最低限の自己の尊厳や社会的価値などに対する信頼さえ弱まっていくようです。

 

新自由主義グローバリゼーションと格差問題の接点

 

朴泰鉒 運よく金持ちの家に生まれることを「精子宝くじ」(sperm lottery)に当たったと揶揄します(笑)。非正規職にはじまる貧困の相続のことを言っていると考えてもいいと思います。現在、格差社会とともにもう一つの話題が新自由主義にもとづくグローバリゼーションの進展であるとすると、それを象徴的に示す集団もやはり非正規職です。グローバリゼーションの進展が規制緩和や柔軟化を通じて非正規職の量産を進めているということです。つまり新自由主義グローバリゼーションと格差問題の出会う地点が非正規職であるということです。韓国で非正規職の問題がどれほど深刻であるかというと、非正規職の研究をしながら外国の論文を参考する必要がほとんどないほどです。韓国ほどこの問題が深刻なところがないからです。

 

呉建昊 ですが韓国社会では非正規職の問題を黙過するように労働市場の問題だけに限定する傾向があります。私が非正規職の問題を生の希望喪失であると言ったのは、それが単に賃金や雇用だけの問題ではないからです。労働者には市場における直接賃金だけでなく、社会福祉を通じた間接賃金、あるいは社会賃金も重要です。現在、韓国の社会福祉、社会のセイフティネットの上では、社会保険料を納められる、すなわち社会福祉制度の内部に含まれる人々だけが恩恵にあずかることができます。だから非正規職は雇用や賃金において一次的に差別され、社会的な制度において二次的に差別されるのです。たとえば国民年金は加入者にはきわめて友好的な制度です。収益費(総給与額÷総保険料額)があまりにも高いからです。保険料の抵抗はあっても結局は自分が出したものの4~5倍の給付を受けることができます。民間の保険の0.8倍に比べれば驚くべき恩恵です。ですが非正規職の労働者は国民年金に加入できないので、老後に年金の恩恵にあずかることができません。労働市場の差別が老後の差別につながるのです。
健康保険でも事業加入者資格が得られないので、地域加入者として本人が保険料をすべて出さなければなりません。何度も失業の危険にさらされても、雇用保険をもらうことすら難しいんです。また非正規職労働者はほとんどが持ち家のない庶民です。投機的な不動産市場の最終被搾取者として高い借家代や賃貸料に苦しみ、資産においても格差に直面しています。また彼らは大部分、金融脆弱者なので、殺人的な高金利貸出市場の犠牲者になったりします。このように重層的な差別構造が非正規職をめぐって存在しているのです。

朴泰鉒 問題は、現在、非正規職に転落する速度がきわめて早く、非正規職だけが未来に対する希望を失って絶望しているのではなく、正規職さえ自分が将来正規職になるかもしれないという不安や恐怖にかられているということです。

呉建昊 社会運動主体の立場から見れば、これに対する解法が見えないのでもどかしい限りです。実は雇用不安の問題は韓国だけではなく西欧の先進資本主義諸国にも存在します。ですが非正規職の規模や差別の幅、非正規職による苦痛や不安を比べてみると、韓国社会は度が過ぎています。少なくとも労働力を使った分、その労働力が再生産される程度には賃銭を与えるべきですが、そうしなくてもいいという企業側の認識が規制を受けないまま通用している点が本当に残念です。もう少し具体的に見て韓国に非正規職がどれほど存在されると推定されていますか? これについては政府と労働界の間に議論もありますが。

 

正規職より非正規職の方が多い時代

 

朴泰鉒 学者の間でもいまだに非正規職に対する概念規定の合意ができていませんが、2007年の統計で非正規職が860万人ほど、正規職が730万人ほどです。ですから非正規職が全体の賃金労働者の54%を占めるといいます。どこかで聞いてみると非正規職の方が多いほど、典型的な労働者は正規職ではなく非正規職だということです。OECD加盟国の中で韓国ほど非正規職の割合が大きく差別がひどい国はありません。正規職よりも多くの時間を働きながら正規職の賃金の50%しかもらえていないのですが、それでも社会福祉から排除されて根本的には雇用不安におびえています。

呉建昊 さきほど数値に言及されましたが、労働界では約55%で固定しているといいますし、政府の方では35%を少し超えるといいますが、この二つの統計は20%ほど差があります。規模においては300万人ほどになるでしょう。非正規職に対する明確な概念規定がないとおっしゃいましたが、その概念を考えてみるべきですね。

朴泰鉒 一般的に誰が非正規職なのかというと、正規職でない人が非正規職です。ならば誰が正規職なのか? 正規職にはいくつか特徴があります。雇用の常時性、つまり雇用期間の定めがないことが最初の要件です。二番目に正規職は全日制で勤務しています。三番目に正規職は使用者が明確に規定されています。契約関係と指揮命令系統が同じだということです。この三つの要件が与えられると正規職であるといいます。

ですから一番目に対応するのが雇用期間の定めがある人、つまり期間制労働者で、二番目に対応するのが時間制勤務、短時間労働をする人々です。三番目は間接雇用、つまりサービス、派遣、請負、または家内勤労をする人々です。その他にもいわゆる特殊雇用職があります。彼らは法的には事業主になっており、他の使用者と勤労契約でなく事業契約を結んでいます。形式的には社長、すなわち使用者ですが、実質的には他の使用者に属して彼らから指揮命令を受ける人々のことを言います。たとえば保険設計士、学習雑誌の先生、ゴルフの補助員、貨物車やレミコンの運転手などです。これらがいわゆる非正規職です。

また概念上、学界で、または学界と政府の間で議論になるのが長期臨時勤労者です。臨時勤労者というのは1か月以上1年未満の契約を結んだ人々ですが、労働基準法ではこのような雇用契約が繰り返し更新されれば正規職とみなします。ですが彼らを常時雇用、すなわち正規職とみなすには無理があります。整理するならば、正規職でない人々が非正規職で、前述した正規職の三つの属性のうち一つでも備わっていなければ非正規職であるということです。

 

呉建昊 私が見ても非正規職の規模において一番議論になるのが長期臨時勤労者です。韓国では勤労契約の観念が弱いので、小さな会社で契約書なしで働く場合も多いと思います。建設現場で働く日雇労働者も多いですね。仕事は長期なのですが雇用形態が臨時で繰り返されるので、これらを正規職とみなすべきかが問題の核心です。労働省ではこれらを「脆弱階層」という範疇で別途に扱っています。私は、非正規職の本質が雇用の不安定とそれによる差別だと考えているので、ただ雇用が繰り返されうるという理由で彼らを非正規職に含まないのは官僚的な形式論理だと思います。経済活動人口付加調査によると長期臨時勤労者の雇用条件はきわめて不安定です。月給も120万ウォン〔約12万円〕台と、政府が主張する非正規職労働者とほとんど同じです。社会保険への加入の割合も30%以下ときわめて低いです。彼らを非正規職に含むべきだというのはこのためです。最近は韓国の非正規職の大部分が中小企業で働いているので、非正規職の問題が中小企業の問題であるという主張も提起されました。雇用の差別が企業間の規模の違いとつながっているということです。これについてはどうお考えですか?

 

朴泰鉒 中小企業問題は、どうして韓国社会で非正規職がこのように早く増加したのかという問題とリンクしているようです。大企業と中小企業、元請企業と下請企業、あるいは市場に広く存在するほとんど自営業に近い零細企業の間の位階と搾取構造を指摘せざるをえません。元請企業が外注や下請を通じて単価を落とすことで中小企業の経営状態が悪くなり、それでそこに所属する労働者の雇用条件が悪くなるという連鎖のことをいいます。

企業環境の変化もあります。自分が望もうと望むまいとグローバリゼーションは急速に進んでおり、熾烈な国際競争とともに不確実性が増大しています。技術革新の速度もきわめて早く消費者の嗜好は絶えず変化しています。そのなかでどのように生き残るかが重要になりました。経営環境の不確実性に備えるための雇用の柔軟化、国際競争に対処するための低賃金、時には労組回避戦略の一環として非正規職を使っています。問題はこのような企業の労働者使用戦略を政府が法制度的な規制という網を張って防がなければならないのですが、むしろ「企業活動がしやすい環境」という名のもとで網をはっているのが実状です。労組の規制力も正直かなり弱くなりました。

 

呉建昊 非正規職を量産する要因については意見が似ているようです。ですから非正規職問題に対する労働主体の対応に論点を移してみる必要があると思いますが、私は資本に対立する運動主体として、労働運動が非正規職問題に対してそれなりの努力はしたものの、それが社会的な期待に到達することはないと思います。単に非正規職の労働者を助けられなかったという意味を越えて、それによって正規職の労働運動自身の正当性さえ疑われてしまう状況になったと思います。これについてはどうお考えですか?

 

労働の危機と二つのレベルの連帯

 

朴泰鉒 共感できるお話しですが、労働運動の危機、労働の危機に、進歩の危機まで加わっています。特に大統領選挙、総選挙を経て、進歩陣営が支離滅裂の状態ですが、新たな労働運動や進歩改革運動を再活性化する根拠をどこに見出すべきかが私は重要だと思います。まず労働運動の危機と関連して、労組の低い組職率や企業別体制も問題ですが、もっと深刻なのは労働運動が韓国社会において批判・疏外されているという現実です。ここには、正規職中心の労働運動が非正規職を同じ労働者「階級」の一員とみなすというよりは、彼らを雇用の安全弁であると同時に賃上の補完物として、時には道徳的排除の対象として利用してきたという批判があります。つまり批判の核心は労働運動が「自分の取り分確保」運動に転落したということです。

呉建昊 今日の韓国の労働運動は1987年の闘争で社会的な正当性を獲得し、90年代に入って法的な市民権も確立しました。そして民主労総や産別労組も作られました。私は西欧の労働運動が100年前に示したように、韓国の労働運動も制度圏の外での闘争をはじめとしてその成果を制度化し、完全な法的市民権を獲得して、つづいて進歩政党運動へと政治的権利を拡大していくという、累積的な発展経路を踏むだろうという期待を持っていました。ですが、現在の状態を見るとかならずしもそのようにはなっていないので心配です。社会運動の力は社会構成員にどれほど信頼・承認されるかによるのですが、現在の労働運動について、その法的市民権は明らかかもしれませんが、その社会的市民権はむしろ弱まっていると思います。私はこのような点について労働運動は深刻に悩むべきだと思います。

朴泰鉒 多くの部分に同意します。労働運動が新たに発展するためには非正規職を抱えこめるアイデンティティの確立も必要ですが、労働運動が組職・闘争の面で自らの動力を獲得できる重要な足がかりを非正規職に見出すべきだと思います。すでに非正規職が正規職よりも多くなっているので労組としても彼らは核心的な組職資源です。また最近、正規職の労使関係が急速に安定してきている一方で、非正規職の労使関係は不安定さを増しています。非正規職が主な闘争資源として浮上しているのです。だから私は大枠でその解決法を連帯–二つのレベルの連帯に見出すべきではないかと思います。一つは正規職と非正規職の階級的連帯で、もう一つは労働運動と市民社会団体のいわゆる社会的連帯です。二つの連帯は別個のものではなく、労働運動が非正規職問題を抱えこみながら同時に社会的に連帯する時に成立します。

呉建昊 私は、既存の労働運動や進歩運動はまだそれを放棄していないと思います。ですが、さらに賢明かつ戦略的でなければなりません。私は、言葉では非正規職を語るものの、実際に私たちのなかで慣性的になっている既存の認識枠がかなり根強いということをよく感じます。民主労総を含めた正規職の労働運動において、非正規職との連帯を展望する接近法が完全に間違っていたというわけではありません。まだ達成できていないということです。以前にも正規職と非正規職の連帯が提起されましたが、私はこの連帯が闘争連帯に還元されるのが残念です。イーランド(E-LAND)事態〔2007年7月に起きた流通大手のイーランド(E-LAND)による非正規職大量解雇措置と、それに反対する非正規労働者らによるストライキ〕を例としてあげるならば、組合員が基金を集めて生計費を支援して集会に一緒に参加します。これはとても高水準の闘争として重要です。実はこのような闘争が問題の公論化にきわめて先導的な意義を持っています。ですが民主労総や進歩政党など進歩的な社会運動の側では、単に生計費を支援するレベルを越えて、進歩的な視角から非正規職問題を解決する「納得できるストーリー」をビジョンとして提示し、これを公論化する活動をするべきです。困難な状況で活動している方々に申し訳ない話ですが、少なくとも全国的な組職であるならば、非正規職の議題に対処するスタイルを変えるべきだということです。

朴泰鉒 この間イーランドの労働者の一人がイーランド闘争300日を迎えて、民主労総は旗を下ろせと言いました。民主労総の李錫行(イ・ソッケン)委員長が「イーランド闘争で勝利できなければ民主労総の旗を下ろす」と言った言葉を皮肉ったものです。ですが、だとしても、責任を労働運動だけに問うべきではないと思います。社会的連帯と関連して、いわゆるエリートや名望家中心の進歩運動において、労働概念は抽象化されて観念化してきました。李明博政権となって成長の言説が乱舞し、はやくから企業親和的で労働排除的な性格を強く示しています。この状態で社会全体に抵抗の連帯をどのように構築するべきかが進歩陣営の重要な課題であるならば、そこで労働運動と市民社会運動の結合、またそのための労働運動の積極的な努力とともに、進歩陣営ももはや評論家や啓蒙主義者の位置から大衆の生きる生の現場へと「下方」するべきだということです。その過程において労働運動と市民運動をつなぐ核心の一つが、非正規職の問題になるだろうということです。

呉建昊 では具体的な争点である非正規職化、あるいは「柔軟化」についてお話しをしたいと思います。韓国で非正規職が急速に増えた背景には、初期の言説地形において企業が主導権を行使したことも大きな影響を与えたと思います。企業は非正規職化を「柔軟化」と説明しました。「柔軟化」という言葉はきわめて肯定的な企業の経営措置であるという印象を与えます。もし労働側で言説生産のイニシアチブを握っていたら、柔軟化を企業による「雇用の不安定化」「非正規職化」であると公論化したでしょう。同じ現実をめぐってどのように概念化するかによって議論の方向が変わるのです。

付け加えれば、現在、李明博政権で進めている規制緩和も同じことです。「規制」という言葉は「拘束する」という意味ですから、人々には規制が悪いもののように見えます。規制緩和が「自由、解放」という意味に聞こえるということです。進歩的な立場から見れば、規制は巨大権力が市場で自らの権限を過度に濫用することを防ぎ、全体の構成員の公共性を強調することです。ですからそれは一種の「公共性の制度化」なのですが、あちらではこれをきわめて束縛的な、自由主義の価値を侵害するものと考えるのです。公企業の民営化も官僚の手にあった国家企業を国民に与えるという意味で「民営化」といいます。進歩陣営では、公的運営を私的利潤企業に手渡すことだから、それを「私有化」と表現するんです。最近の進歩運動が柔軟化を不安定化、規制を公共性の制度化、民営化を私有化などと、対抗言説や対抗概念を作り出していますが、状況はそう簡単ではありません。話が少し脇にそれましたが、柔軟化についてお話し下さい。

 

労働の柔軟化が持つ両面的な性格

 

朴泰鉒 労働社会研究所の金裕善(キム・ユソン)所長が驚くべき研究結果を示しました。労働市場の柔軟性、雇用の弾力性、賃金の弾力性において、最近、韓国がアメリカを抜いてOECD加盟国中、1位になったと言うのです。労働研究院の研究結果を見ても、景気変動による雇用の調整の速度も、やはり韓国がOECD加盟国のうち1位であるといいます。韓国の労働市場の柔軟化の程度がそれほど高いということです。

私は柔軟化が一定部分、必要かつ不可避であると思います。グローバリゼーションの性格を一言で「不確実性」とするならば、韓国のように世界経済に深く編入された経済状況において、柔軟性は景気変動に対する緩衝装置という点で不可避的な面があります。もちろん無制限的な柔軟化をいうのではなく「規制された柔軟化」(regulated flexibilization)でしょうが、それならばただ柔軟化というだけでなく、どのような形の柔軟化なのかについても悩むべきだと思います。柔軟化は一般的に数量的柔軟化、機能的柔軟化、賃金の柔軟化、労働時間の柔軟化などに分かれますが、よく数量的柔軟化を「外的柔軟化」、残りの柔軟化を「内的柔軟化」といいます。現在、韓国社会において労働の柔軟化といえば数量的柔軟化、つまり解雇の自由と理解してしまう傾向があります。そのような側面で柔軟化に反対し、それを不安定性として理解することは正しいと思います。ですが内的柔軟性は、労組はもちろんのこと韓国社会全体が積極的に受け入れるべきではないかと思います。

呉建昊 今のお話しは論理的にそれほど間違っていないと思いますが、現在の韓国社会で進んでいる柔軟化は、そのほとんどが数量的柔軟化ではありませんか。なのに、機能的、労働時間の柔軟化に言及して、柔軟化の肯定的な可能性を流布しています。このような面で韓国では柔軟化が公正な概念になることはないと思います。

朴泰鉒 私の考えでは内的柔軟化と外的柔軟化の間に矛盾した関係があると思います。たとえば転換配置を通じて市場需要による生産量の変化に対処して行くことが機能的柔軟化なのですが、これが可能になるためには熟練が裏付けられなければなりません。ですが雇用が不安であれば労使双方が教育や熟練に投資しなくなります。日本のトヨタが機能的柔軟化の模範的なケースです。

一方、労働時間柔軟化の適切な例がドイツのフォルクスワーゲン(Volkswagen)です。1990年代の初頭にフォルクスワーゲンは深刻な経営危機に陥りました。その時、会社が10万人の労働者のうち3万人を解雇するという立場を労組に通知しました。数量的柔軟化を通じて経営危機を打開するという立場でした。結局どのように妥結したかというと、労働時間を週あたり28.8時間に減らし、同時に労働時間口座制というものを取り入れて、労働時間を柔軟化することで労使が合意しました。労働時間口座制とは、一定労働時間を越えたら超過した労働時間を銀行口座のように積み立てて労働者が必要な時に取り出して使うという制度です。原則的に積み立てられた労働時間は賃金として支払われることはありません。言いかえれば労働時間の短縮と柔軟化を労組が受け入れて、数量的柔軟化、すなわち解雇を事実上阻止したのです。私も柔軟化自体に反対するのではなく、これからは柔軟化のスタイルをどのように設定するべきかという問題に検討の重点を変えていくべきだと思います。

呉建昊 フォルクスワーゲンの例をあげられましたが、それは西欧的な状況ではないでしょうか。柔軟化は労使間の契約問題ですから、これを被契約者である労働者も認める時にはじめて真の意味を持つと思います。西欧では主婦労働者がパートタイムとしてかなり働いていますが大部分が自発的なパートタイマーです。それでも福祉や賃金の差別がないのできわめて積極的にパートタイムを選択しています。そのような柔軟化が使用者と主婦労働者の積極的な同意の下で成立しているんです。社会インフラの差です。ですが韓国社会でそのような柔軟的モデルが作動しうる支援体系は備わっていないでしょう。

朴泰鉒 企業経営の観点だけでなく雇用創出の観点からも展望する必要があります。現在、社会的に雇用創出が重要な問題として浮上しています。ですから柔軟化や非正規職が必要だと主張する人々の中には、それが雇用創出の重要な手段になるという人々がいます。雇用創出と差別撤廃のうち労働運動の核心をどちらにおくべきかと関連する部分です。先日、非正規職法案が通過する時、それが社会的に問題になったりしましたが、呉さんはどのようにお考えですか?

呉建昊 韓国は雇用の量よりは質の問題を抱えています。ですが柔軟化を通じて雇用を創出するということは雇用の質をさらに悪化させており、転倒した解決方法だという気がします。現在企業が柔軟化を進めている理由は正規職の雇用を増やすためではないじゃないですか。むしろその反対です。

朴泰鉒 イギリスのエコノミストであるジョアン・ロビンソン(Joan Robinson)がこのようなことを言いました。「資本によって搾取されることより悪いことの一つは、資本によって搾取さえされないことである」(笑)。失業問題のことを言っているんです。今回の大統領選挙でも雇用創出が核心公約として登場しました。特に若者の失業が深刻です。雇用の質も問題ですが、雇用の量も韓国社会では重要な課題で、だから雇用を作るために柔軟化が必要で、非正規職は仕方ないという論理が韓国社会に広まっています。ですが非正規職が韓国社会の全体雇用を増やしているわけではありません。非正規職が正規職の代わりになっているだけです。イーランドのように正規職を解雇して社内下請や外注に回すことは雇用創出とは無関係です。

呉建昊 もちろん雇用創出と関連して正規職の労働市場で長期的に改善するべきことがあります。超過労働、すなわち労働時間を正規職労働者が過度に独占している点、内部転換配置が過度に困難な点などは指摘される必要があります。

朴泰鉒 「信じられるものはお金しかない社会」で長期間労働は不可避です。ですが長期間労働はこれ以上勤勉の象徴ではなく他人の雇用を奪う行為です。柔軟性もそうです。自動車会社にA工場とB工場があると仮定しましょう。A工場には物量が多く残業や特別勤務をしても物量が満たせませんが、B工場は8時間労働もまともにできないほど物量がないという場合があります。常識的に見ればB工場の労働者の一部が転換配置を通じてA工場に行かなければなりません。これが柔軟性です。これができなければ会社の選択はA工場で働く非正規職をもっと雇用するしかありません。もちろん使用者側が一方的に施行してはいけませんが、労組側がこれを無条件に拒否することも正しくないと思います。B工場の人は切り捨ててA工場の人を非正規職で満たすことを避けるためにも、数量的柔軟化を制御するための他の形態の内的柔軟性は必要です。

呉建昊 論理的にその必要性は否定できないでしょう。ですが韓国ではこれが成立しません。私はここに労使間の不信が大きく作用していると思います。両者がこれまでの労使関係で獲得した体験効果です。ですからこれに準じる時間がかかるとか、あるいは画期的な契機が必要ですが、労使のどちらでもきっかけができることを期待します。たとえば会社で労働者の参加を実質的に保障する革新措置を取るとか、あるいは正規職労働者が非正規職労働者のための社会連帯の戦略を大々的に進めるとかです。さきほど雇用の量よりは質の問題だといいましたが、実は失業問題も大きなイシューです。特に若者の失業が問題です。この主題の方に行ってみましょうか。

 

若者の失業が構造的に拡がる理由

 

朴泰鉒 若者の失業率も高いですが、「フリーター率」はもっと深刻です。統計庁の資料で20代の雇用地図をよく見ると、失業者が31万人、就職準備者が41万人といいます。そのうえ単に遊んでいる人や進学者、軍入隊待機者まで合計すると、おおよそ109万人が遊休人材です。20代の人口の16.4%にのぼるといいますが(『ハンギョレ新聞』2008年4月21日)、大学まで卒業してどうして失業者のままでいるのか?その理由はさまざまです。韓国が低成長体制に入り、高学歴労働者が過剰供給されているうえ、大部分の企業は経験者を好みます。

状況はこのような感じですが、韓国社会は彼らに目標を低く持てと言います。目が額の上に付いているくらい目が高いとも言うのですが(笑)、それは危険な発想です。失業者のままでよりよい職場を探すことが自分の一生の所得に足しになるのか、それとも現在の非正規職でも就職する方が足しになるのかを、経済学的にのみ計算しようというのです。自分が非正規職に就職してもそれが経歴になって正規職にキャリアアップできるならば、非正規職に就職しない理由はありません。ですが韓国社会で非正規職に就職するということは、経済的損失や悪い社会的評判を甘受するという意味にもなりますが、より重要なのは、それが一生非正規職として生きなければならないかもしれないという罠になるという点です。「88万ウォン世代」〔1か月の給与。約8万8千円〕というのがまさにそれです。一度、非正規職なったら永遠の非正規職だということならば、目標を低くして非正規職に就職する理由などありません。だから中小企業は求人もできずに困難な状況である一方で、若者は仕事がなくて困難な状況が現出しているのです。非正規職を増やしたり労働市場を柔軟化したりしても若者の失業は解消できません。彼らに対する差別を緩和し中小企業の勤労条件を改善して、はじめて大卒失業者を吸収することができます。雇用の質が解決されなければ雇用の量も解決できないという状態に来ているということです。

呉建昊 労働市場の非正規職化が新規労働市場進入者の参加をとどまらせ、若者の失業を拡大再生産しているので、結局問題はまた非正規職化に帰着します。李明博政権は一定の成長を実現すれば新たな雇用やいい雇用を創出できる空間が広がると言います。ですがこれは論理矛盾です。彼らのいう成長は財閥の成長を意味していますが、財閥企業が正規職を減らし、外注や下請を通じてその成長の動因を作り出しています。

朴泰鉒 社会的に巨大な搾取現象を助長してそれを活用しているのです。李明博大統領が選挙の時の公約で、5年の任期内に雇用を300万、つまり毎年60万の雇用を創出すると言っていました。ですが新政権になってその目標を年35万にしてしまいました。残念ながら今年の3月の統計を見ると年間20万に届きそうにもありません。李明博政権の論理はこうです。労働市場の柔軟化と企業に対する各種規制緩和を通じて成長を誘発し、経済が成長すれば雇用が創出され、雇用が創出されれば福祉も解決する――きわめて単純な一次方程式です。これは成長がだめになったらすべてががたついてしまうシステムです。政府は今年の経済成長率を6%としていますが、参考までに韓国経済の潜在成長率は4.6%ほどです。

目標成長率の達成も簡単ではありませんが、それが達成されても雇用がまともに創出できるかも疑問です。財閥中心、IT中心、輸出中心の成長は雇用には役に立ちません。雇用創出効果がさほど大きくないのです。韓国で雇用を担っているのは中小企業、特に内需企業ですが、これらの成長が確保されないために成長の雇用誘発効果を阻んでいるのです。それうえこの政権で社会福祉体制がよくなるだろうと展望する人はほとんどいません。雇用創出がさらに困難になれば雇用の質はさらに悪化するでしょうし、韓国社会の格差はさらに深化します。

 

 

イーランド事態、意図しなかった結果か?

 

呉建昊 とにかくこの数年間、韓国社会で非正規職が話題として浮上し、非正規職法案をめぐって国家、資本、労働が対決する場面もありました。2006年11月30日、多くの議論のなかで非正規職法案3法案、期間制、短時間労働者、派遣勤労者保護に関する法律が通過しました。これに対してはどうお考えですか?

朴泰鉒 非正規職法については全面再改正しようという側と、現行法を維持しながら行政措置で補完したり部分的に改正したりしようという側に分かれています。ですが法案の中で短時間労働者に比例保護の原則を適用して、彼らの超過労働時間を週あたり12時間に減らしたことには議論がさほどありません。派遣労働についても対象業務列挙方式(ポジティブ方式)を維持したという点で異議はさほどありません。派遣労働者や期間制労働者を2年間雇用できるようにしたことも同じです。

問題は何かというと、今回の法で不合理な差別を禁止していますが、はたして差別是正の効果があるのだろうかということです。差別是正の法的な要求主体は労組や第三者でなく本人です。韓国の非正規職の85%が100人未満、大部分労組もない企業で働いていますが、この人々がはたして差別是正を要請できるでしょうか。もちろん法には差別是正を提起した労働者に被害を与えてはいけないことになっていますが、現実はそれですむだろうかということです。そして差別是正の比較対象は同じ事業ないし事業場で働く同一または類似業種の正規職です。もし自分が掃除をしていても、職場のなかに掃除をする正規職がいなければ比較対象がないんです。比較対象がなければ差別もありません。差別の判断基準もまだしっかりとできていないのです。このようなことは先験的な判断によるよりは労働委員会の判定や裁判所の判決が蓄積されることで区分するしかありません。このようなことのために非正規職法が差別是正を名文化してはいるものの、現実的に差別是正は困難なのではないかと思います。そのうえこのような話は期間制に該当するのであって、間接雇用には保護装置さえありません。だとしても非正規職法を全面的に改正するよりは、法の主旨に合うように部分的に補完するべきだというのが私の考えです。ここには差別是正の申請主体を労組にまで拡げたり、比較の対象を企業の外部へ拡げたりすることが含まれるでしょう。また間接雇用、特に社内請負に対する保護と規制が付け加えられるべきでしょう。

呉建昊 私は当時の政権もその法によって非正規職が拡がりうることは分かっていたと思います。その代わりに非正規職になっても正規職に比べて差別されないようにする、つまり差別是正措置が含まれたので、この法案はいい法律だと自らを正当化していました。しかし実際は朴さんが指摘した通り差別是正効果は微々たるものです。最低限の正当性も見出しにくくなっています。

朴泰鉒 非正規職法を作る時に議論になったのは、社有制限と派遣制度の撤廃問題でした。現在法案の全面的な改正を主張する方々は、このような条項が入っていないから差別是正効果が制限的なのだといいます。ですが最近になって社有制限や派遣撤廃を主張する声はかなり弱まりました。私はそれが当然だと考えます。非正規職保護法には差別是正効果が当然あるべきですが、法を作る時に気を使うのは「意図しない結果」をもたらす可能性、すなわち意図しない結果をどのように防ぐかということです。期間制を2年にしろというのでイーランドは外注化したり契約を解約したりしました。これがもっとも典型的な「意図しない結果」です。期間制を2年使えばその後は無期契約とみなして期間制労働者を保護しようとしたのですが、使用者は契約を解約したり外注化したりしてしまったのです。

呉建昊 私はちょっと違う見方をしています。法が改正される当時、非正規職に対する効果をめぐってかなり議論がありました。しかし今から見ると法律のためにむしろ非正規職化が深刻になっています。これについては政府や企業も否定できないようです。ですからその次に出てくる論理が、今、朴さんのおっしゃったようなお話しです。はじめは非正規職法案に効果があると言っておいて、効果がないとそれは意図しなかった結果だというのです。それは正直でないと思います。意図された結果であり意図した結果でした。非正規職法案を議論した当時、経総(韓国経営者総協会)が会員企業を相手に調査した資料でも、法案が通過したら正規職を増やすよりは非正規職をもっと使うだろうという答えが多数出ていましたし、実際に事態はそのように進みました。

朴泰鉒 意図した結果と言うとかなり強い語調になるので、予想された結果と言った方がいいかもしれません(笑)。実は、非正規職法が去年の7月から従業員300人以上の企業と公企業に施行され、今年の7月からは従業員100~299人の企業に適用されます。したがって法律のために非正規職が増えているとか増えるだろうと展望するのは、やや性急ではないかと思います。統計的にもそのような事実がまだ確認されてはいません。非正規職が充分にいる状況で非正規職の拡大による社会的抵抗や企業競争力の弱化も考慮しなければなりません。ただ非正規職の構成が期間制から間接雇用へと転換されることはあると思います。間接雇用は事実上法的な規制のない部分だからです。

呉建昊 非正規職法案を議論する時に経総で会員企業を調査しました。期間制をやるというがどうするかという問いに、90%の企業が非正規職は正規職に切り替えないと回答しました。企業主が非正規職を使う理由は人件費を減らそうということですが、法が正規職化しろと言いながら、それを回避する方案をすべて教えてしまっています。政策立案者が穴だらけの法案を作っておいて、今になって意図しなかった結果などというのは少し問題があります。

朴泰鉒 私が意図しなかった結果といったのは、社有制限制度の導入や派遣労働撤廃に対するものです。イーランド事態でもわかるように間接雇用に対する規制制度を取り入れられなかったことは大きな問題だと思います。間接雇用のなかでも社内請負、元請連帯責任、無分別な外注のような部分を非正規職法の制定の時に見逃したのです。社内下請やサービス、派遣などの間接雇用に逃げられる穴を開けた状態で期間制保護法を作ったので、これは補完が必要だと思います。

呉建昊 私と朴さんはコップに半分入っている水を互いに違う方向から眺めているようです(笑)。とにかく非正規職問題を解決しようという部分では異議はないでしょう。新たな実践が必要な時です。私たちは労働界に属しているので政府や資本に対する要求に先立って労働運動に対する要求や提案を中心にお話ししてみましょう。ですが、今、労働運動は「正規職労働運動」に追われています。どこから問題を解決していくべきでしょうか?

朴泰鉒 少し前に非正規職法について意見をかわしましたが、実は法律がすべてを解決するには、非正規職の雇用形態や性格がきわめて多様になりました。労組の主体的・自主的な努力が重要だという点を示す部分です。韓国の労働者の共通の関心は雇用不安です。非正規職が雇用不安を感じるのは当然です。ですがもはや正規職も雇用不安を感じているんです。たとえば現代自動車の場合、組合員は自らが結んだ団体協約を「完全雇用保障協約書」と呼んでいます。団体協約として見ればとてもよくできています。ですが2006年1月に組合員にアンケート調査をしたところ、組合員の76%が雇用不安で暮らせないそうです。正規職が、経営状態がよく、また最強の労組を持っている現代自動車でもそうなのです。

現在、韓国の正規職の離職率はきわめて低いです。ですがこれは雇用安定の表現ではなく雇用不安の表現です。このように雇用が不安だと大企業の正規職でいるときに一銭でも多く儲けようという極端な経済的実利主義が出てきて、これを企業別労組体制が補完しているような形です。ここに非正規職を排除する正規職の運動論理が出てくるのです。後でお話ししますが、産別労組の位相と役割に対して検討すべき点がこのようなところに出ています。

 

産別労組の新たな可能性――保健医療労組

 

呉建昊 私も正規職の労組のそのようなメカニズムが理解できないわけではありません。にもかかわらず、正規職、経済主義の枠を越える新たな契機が準備できればと強く希望しています。これは私だけの思いではないでしょう。

朴泰鉒 そのような面で去年、保健医療労組が結んだ団体協約が重要な示唆を与えています。非正規職の問題をどのように正規職が犠牲を甘受しながら受け入れるべきかが労働界一般の論理だとすれば、保健医療労組は非正規職の問題を解決するために正規職労働者が少なくとも誘い水程度にはなるべきだと考えてこれを実践しました。先日、団体協約で賃金引上分の30%ほどを非正規職問題の解決のために別に積み立てました。その金額が320億ウォンほどになりました。この資金で67の病院で非正規職2400人ほどを正規職化し、彼らの処遇を改善しました。もちろん今は出発したばかりなので満足に値するものではありませんが、韓国の労働運動がこれからどのように進むべきかのモデルになると思います。

呉建昊 保健医療労組の団体協約について、雇用責任は使用者にあるのですが、どうして労働者の賃金引上分を使うのかについては批判もありました。私も保健医療労組協約を肯定的に見ています。去年、保健医療分野で大きな成果がありました。現在、保健医療分野には産別労組が二つあります。「保健医療労組」と「医療連帯労組」です。もともとは一つでしたが内部葛藤で二つに分裂しました。去年、保健医療労組が賃金引上分の3分の1を出して2000人あまりを正規職に切りかえる成果をおさめると、保健医療労組から分離して新たに誕生した医療連帯労組は、10ほどの大学病院が主軸になって2年以上の期間制労働者を正規職に切りかえる協約を成功させました。やり方は違いますが保健医療分野において意味ある実践でした。

朴泰鉒 ですがこのような経験が他の分野にまできちんと拡がっていません。現代自動車の場合ですが、2005年に非正規職労働者が解雇反対闘争に入った時に正規職労組は事実上これを放置し、そのために非正規職労組は短期間で回復困難な打撃を受けました。2006年6月に現代自動車動車労組は金属労組現代自動車支部に変わりました。金属労組規約によると同じ会社内の非正規職労働者を一つの組職形態に統合するようになっています。もちろんその単位の決定によるという但書がついています。ですが現代自動車支部の代議員大会では非正規職組合員との統合方式をめぐって議論し、結局、統合自体を否決させてしまいました。そして現在まで正規職と非正規職は組職統合ができていません。

2006年からKTX闘争〔高速鉄道KTXの女性乗務員(非正規職労働者)の大量解雇とそれに反対するストライキ〕が本格化しましたが、鉄道労組では現代自動車支部とは異なり、KTXの女性乗務員を組合員として加入させて労使交渉の主要争点にしました。もちろん一般的な鉄道労働者とKTXの女性乗務員は職群や職種が違うので、相互競争関係にはないという違いはありました。もう一つは歴史性です。社内下請労働者と私たちは違うという歴史的な違い、産業構造や労働市場の違い、また労組組職形態の違いなどが、正規職と非正規職の団結にとって大きな障害物となってきました。

呉建昊 ですから、金属、化学、製造業分野が少し非難されているのですが(笑)、これら製造業分野と保健医療分野に見られた実践の違いをよく分析するべきです。まず両者は労組活動において歴史的な経路が異なりました。保健医療分野では過去から社会的なイシューの闘争をかなりやって来ました。医療公共性の問題や病院民主化などで何度かストライキもしました。彼らはストライキをしながら社会的な名分がどれほど重要か、医療労働者の雇用権も重要ですが、医療産業や患者に肯定的な問題で闘争することがどれほど重要かを知っていました。問題の性格がそうなので、「参与連帯」のような一般市民団体や保健医療団体とも強いネットワークを形成しています。このような公共性をめぐる闘争の経験が非正規職問題、すなわち社会的な問題解決に組織的な重点を置くようにしたのです。

二番目に内部の競争が作用しました。一つだった団体が途中で二つに分裂しました。どうしてそうなったかというと、誰が少し脆弱な労働者、すなわち中小病院所属の労働者を代弁するべきかをめぐって意見がかわされました。そして分かれたのです。その構成員がどのように評価しているかは知りませんが、私が見たところ、それぞれが組織的正統性を獲得するためにかなり熾烈な競争をしています。公共性のための内部競争です。

三番目は産別効果です。保健医療労組は10年近く産別交渉の要求闘争をして来ました。挫折を繰り返すなかで産別交渉テーブルが用意されて何年にもなりません。そして今回、産別合意文を作り上げました。医療連帯労組も以前、保健医療労組に属して産別交渉をして来た人たちです。保健医療労組は産別交渉をしましたし、医療連帯労組はまだ産別交渉テーブルがありませんでしたが、中央の交渉基準に合わせて個別の国立大学病院で同一に獲得したのです。形式は違いますが産別交渉の効果をおさめました。つまり長年の産別交渉の活動経験が大きかったのです。

 

朴泰鉒 産別体制のお話しをされましたが、私は韓国の労働運動が自らの危機を乗り越えるために提示すべき戦略の中心に産別労組があると思います。労働運動の危機を乗り越える過程では非正規職が核心なので、それと関連して産別体制が重要な理由はいくつかあげることができます。第一に産別は非正規職を組職化できる唯一の物的・人的土台を備えています。第二に産別の賃金原理は同一価値労働・同一賃金です。これは使用者側が強要しているからでもなく政府が法で定めているからでもない、労働運動自身の発展過程において感じてきた賃金原理です。もちろん韓国のように職務給の賃金体系が備わっていない状況で一朝にしてできることではありませんが、少なくともこのような連帯賃金の原理を実現していける組職形態が産別労組です。第三に現在の韓国の労働運動のもっとも重要な課題は賃上げではなく雇用保障です。産別労組を作る重要な理由の一つが非正規職を包括する産別雇用体制です。産別職業訓練体制や産別雇用安定システム、雇用安定基金などが例になるでしょう。

労働レベルの代案として産別体制をあげるならば、社会的レベルでは労使政委員会に代表される社会協約政治をあげられそうです。結論から言って多くの限界を持っていても私はやるべきだと思います。呉さんはもちろん違うとおっしゃいそうですが(笑)。

 

李明博政権における労使政委員会をどう見るべきか

 

呉建昊 私は労使政委員会〔IMF体制化における合理的な苦痛分担を目的に1999年5月政府内に設置された労働界・財界・政界の代表からなる協議機構〕の賛成論者でも反対論者でもありません。入ってはじめて仕事になるという主張も、絶対に入ってはいけないという主張もともに観念的だと思います。私は労使政委は出たり入ったりすればいいと思います。行って社会的な問題を扱い、問題がこじれたらそこから出て大衆闘争をし、また全国的な交渉が必要ならばまた顔を突き合わせて議論すればいいのです。

問題は現時点がどうなのかということですが、中央と地方を分けて見るべきです。現在、民主労総が労使政委員会に対して保守的な立場を取っており、韓国労総が李明博政権に事実上投降している状況において、中央の労使政委員会は実質的に機能しにくい面があります。労働界の二つの労総が共同の交渉戦略を持てていないところで、どのようにしたら労使政委は機能するでしょうか。労働界が三者モデルにおいて代表性が持てていないのが現実です。地域では状況が違います。地域別に事情は異なりますが、地域の懸案をめぐって労働界が同様の意見を持つことができます。中央政治にあまり拘束されていないからです。そのうえ地域の労働事案は地域社会の核心的な懸案でもあります。地域社会が調整の仲裁者になったりします。

朴泰鉒 非正規職と関連して、地域レベルでは社会的な対話形態で問題が解決できる場合もよくあるんです。たとえば蔚山(ウルサン)の建設プラントが2006年にストライキに入った時、結局は蔚山の市民団体と蔚山市、労使が集まって議論して解決しました。もう一つの例が麗水(ヨス)のハイスコ(HYSCO)のケースです。ここで非正規職の労使葛藤が拡がった時もまったく同じ形で麗水市、麗水の市民団体、民主労総や元請業社が参加して、いわゆる社会的な対話形態で問題を解決したんです。浦項(ポハン)の建設プラント労組がポスコ(POSCO、浦項製鉄)を占拠した時も、浦項の市民団体が緊密に結合していました。このように非正規職の問題を労使双方の当事者に任せておくよりは、地域レベルの労使政、地域レベルの社会的対話として糸口を見つけることができます。ですが中央レベルの労使政委員会はおっしゃったように状況がかなり困難です。

呉建昊 朴さんも李明博政権のもとで中央レベルの労使政委員会は難しいとお考えなんですね。

朴泰鉒 だとしても、現在、社会的レベルにおいて労使と政府が集まって対話をかわせる空間は、残念ながら労使政委員会しかありません。だからこれを活用することが重要だというのが私の考えです。ですがどのような反駁が帰ってくるかというと、昔にも問題がありましたが、特に李明博政権に入ってから、社会的対話にどんな効果があるのかという人が多くなったんです。労働界と政府が共有できるような価値が一体どこにあるのかというんです。

このような点で私はアイルランドのケースが参考にできると思います。アイルランド政府が1987年に社会的協約のための対話を要請した時、労組側からは会わなくても分かる、隣国のサッチャー(M. Thatcher)の新自由主義を輸入するのに、見物人として私たちを利用しようとしているのではないかと憂慮していました。現在の民主労総の立場と似ていますね。ですが内部討論を経てどのように決めたかというと、私たちが参加しなくても政府は新自由主義政策を取り入れるわけだから、私たちはゼネストで対立するしかないというものでした。当時アイルランドには産別労組があり組職率が35%でした。ですが議論が先に進む過程で結論は変わりました。最終的な結論は、ゼネストだけで私たちは阻止することはできない、本当にだめな時はストライキをするとしても、政府の提案する全国社会経済委員会で一次的に防御幕をはろうというものでした。ですから労組が社会的対話に入り、これまで3年ごとに1回ずつ社会的協約を生産しています。初期は社会的協約において経済危機の克服や成長が重視されましたが、最近は分配と同時に社会統合が核心的に扱われているという点も参考に値します。

呉建昊 私もそのような実例を活用できればいいと思うのですが、柔軟化の問題でお話ししたように私たちの歴史と現実がアイルランドと違っています。まず民主労総は過去のツケがかなり大きいと思います。1998年の整理解雇問題が起こった時、ほとんどの組職のアイデンティティが動揺するほど、それが政治的争点になりました。そのうえ現在の両労総が労使政のテーブルで単一主体として声を出せない状況です。財界と政界は代表性とアイデンティティが明らかなのにです。このような状況で労使政委員会に参加することは労働側に不利になるでしょう。もちろん民主労総のことを念頭において言っています。これまでそうだったように韓国労総の歩調は違うこともあるでしょう。

朴泰鉒 私は労働運動と李明博政権が共有できる空間がきわめて狭く、韓国労総が政府と政治的連帯を結んでも失敗するしかないと思います。韓国労総の上層部が軍事独裁時代の御用に戻るにしても組合員の民主化がかなり進んでいると思うのです。このような点で私は社会的対話についてもある程度は希望を持っています。民主労総としても闘争だけで状況を突破するには無理があると思います。韓国でもこれから新自由主義政策がさらに積極的に導入されるだろうということは誰もが知っています。政権に対する労働者の期待水準が低いということです。さきほどアイルランド協約のことを申し上げましたが、オランダの1982年のバセナール(Wassenaar)協約やスペインの1997年協約のように、ヨーロッパでも保守党政権において社会的対話が成立した場合が多いのですが、ここには政権に対する労働者の期待が低いという事実も作用しました。

呉建昊 私たちは保健医療分野の産別労組の新たな活動については共感帯を確認し、地域レベルの労使政の実践も可能性を認めましたが、依然として中央の労使政委のモデルについては視角の違いがありますね。あまりにも重要な主題なので、多くの領域を扱っていたら、いつの間にかまとめの時間が来てしまいました。これから非正規職の問題をどのように扱うべきかを念頭におきながら最後に一言お願いします。

朴泰鉒 先日、教育政策を専攻する方にお会いしました。韓国はOECD加盟国の中で対GDP比の教育費支出の割合が一番高い国なのですが、なぜこのように親が子供の教育に翻弄されているのかというのが話題の一つでした。結論は親が子供を医者や弁護士のような専門職にしたり、大企業の正規職に就職させることをのぞんだりするからだということです。言い換えれば子供が非正規職に就職しないことをのぞむ心が教育ブームに現われるということです。ですが大企業の正規職の数字は早い速度で減少しているだけに、教育競争は無限競争に突入するしかありません。言い換えれば労働市場問題が解決されなければ教育問題の解決もはるかに遠いということです。もし予備校街を中心に家賃まで上がれば民生の核心問題である就職―教育―家賃の問題は一つにつながる循環問題となります。

非正規職の問題は格差社会の問題であると同時に貧困の問題です。これを政府や汝矣島(ヨイド)の議会政治に任せておけない状態にまで来てしまいました。これが韓国社会の地形を決める核心的な問題の一つならば、韓国社会全体が下からの組織化という観点から新たな展望を切り開いていくことが重要だろうと思います。これからは単純な労働問題ではなく、またそれだけに労組だけが解決の主体ではないということです。そのような面で一方では労組が主体になり他方では労組と社会団体が出会って社会的連帯をどのように組織するのかが、労働の危機、ひいては社会の危機を克服していく道になるだろうと信じています。

呉建昊 現在、非正規職の問題は一種の時代史的な意味を持つ課題です。1980年代に権威主義独裁に対立する民主化運動、労働基本権の獲得のようなものがそうだったとすれば、現在は社会的自由、生存権、生活権などが時代的なアジェンダになっており、その中心に非正規職の問題があります。これまでの資本主義の発達過程が労働者を作り出し労働者の基本権を獲得していく歴史だったとすれば、これからしばらくの間の資本主義は非正規職の労働者を作り出し彼らの基本権を形成していく時期でしょう。それだけに困難な課題ですが、回避することもできない時代的な課題です。もはや数では多数ですが、権力ではマイノリティーである新たな大衆、非正規職の労働者の歴史を迎えることになるでしょう。

長時間にわたっていろいろとお話し下さり本当にありがとうございました。(*)

 

訳=渡辺直紀
季刊 創作と批評 2008年 夏号(通卷140号)
2008年6月1日 発行
発行 株式会社 創批
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