[卷頭言] 6月抗争の20周年、進歩改革勢力の再結集のために (2007 夏)
柳在建・李章旭
もはや6月抗争の20周年を迎える。歴史の重要な事件であればあるほど、10年ごとにその意味を再吟味し、覚悟を改めることは常例のことであるが、今年は格別に感慨深い。民主化から20年が経った今、韓国社会の未来の大きな流れを規定するようになる韓米FTAの批准と今年12月の大統領選挙を控えているが、その展望は不確実かつ不安定である。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権は進歩改革勢力の大々的な反対を押し切り、独断で韓米FTAを押し進め、妥結し、一方、進歩改革勢力は沈滞と分裂に陥り、いずれも世論の支持において保守側の大統領選の候補らを追い越せない状況にある。このような状況の中、これまで苦難を乗り越えて築き上げてきた民主主義が退歩するのではないか、また97年以来深刻となっている格差社会現象がいっそう悪化するのではないかという懸念の声が高まっている。
とはいえ、このような雰囲気を理由にし、1987年6月とその後の民主化過程が成し遂げたこれまでの成果に対する評価を引き下げる必要はない。暴力的・抑圧的な軍事独裁を終息させた6月抗争は、戦争を経験した分断体制下で抑圧構造がとくに強固であった点を勘案すれば、現代世界史においてめったにみられない成果であった。韓国現代史において劇的な転換点であった87年の民主化は、その後紆余曲折がなかったわけではないが、決定的な後退はなく、持続的に我々の生活の隅々までに染み込んできた。もちろん手続的民主主義の完成にもかかわらず、実質的民主主義の実現が遅れたという指摘はそれなりに理屈が合うが、「手続的」という表現のために、社会全般に広く普及した民主主義の明るい機運を見逃すことはできない。事実上「参与政府(盧武鉉政権)」の誕生じたいがそのような過程の貴重な結実の一つであった。
しかし、現在の韓国社会は過去の体制において形成された古い枠組みを更新できないまま、ある種の膠着状態の不安定な体制にとどまっており、それ故、新たな転換をしなければならない時点にきているといえる。政治的民主化にもかかわらず、それが過去の発展モデルを代替する新しいモデルを創出することができず、社会的経済的民主化へとつながらなかったのである。今年の春、非常に激しかったいわゆる「進歩論争」もこのような状況に対する認識と関係があり、本誌も「87年体制」の克服という問題意識の下で新たな発展モデルの模索作業を続けてきた。
87年体制の他の体制への転換は、立場によってその展望も異なると思われるが、大統領選挙を控えている現実においては、沈滞と分裂に苦しむ進歩改革勢力の再結集も至急のことである。ところが、盧武鉉政権による韓米FTAの妥結が進歩改革勢力の分裂を深化させる決定的な役割を果たしているのは逆説的である。しかもFTAに対して問題提起をするすべての集団を、開放を反対する鎖国主義としてとらえてしまう政治は、旧態をそのまま繰り返しているといえよう。これまで韓米FTAの拙速な妥結を批判してきた勢力には協商過程や内容を問題視する慎重論と、より根本的な反対論が共存するが、もちろんいずれも開放を反対する鎖国論者ではない。
そうであれば、協商が妥結された現在、拙速な妥結の阻止のための連帯は拙速な批准を阻止する連帯へとつながり、それを通して進歩改革勢力の再結集が模索されなければならない。韓米FTAの意思決定過程と協商過程のいずれにおいても非民主的独断と秘密主義などの問題点があるので、協商文を完全に公開された後、専門家の客観的な分析と毒素条項を検討する作業は当然行われると思われる。それ故、多様な勢力間の最小限の合意点を、拙速な批准を阻止するところにおいて求める広範囲な連帯は可能であり、また必要である。なお今日のようにグローバル化や開放に対する進歩勢力の合理的な対案の提示が必要な時点において、慎重論と反対論両者は大衆の欲求と常識にも応える進歩的開放戦略を、論争を通して模索することができよう。
一方、現在韓米FTAに対する賛成と反対を12月の大統領選挙の主な戦線としなければならないという主張も説得力を持ちながら、台頭している。反新自由主義戦線を前面に掲げた一部の進歩陣営の立場からすれば、このような構図が後進的政党構造を西欧的な保守·進歩対立の「正常化」された政党構造に変える好機になる可能性もある。しかし、大統領選挙の政治地形が韓米FTAに対する賛成と反対の二陣営に対立される構図は、進歩勢力の大統領選挙における敗北に続き、現在の保守勢力の退行的行動をみれば、実質的民主主義の深刻な後退をもたらす可能性が大きい。これまで中道的志向の広範な進歩改革勢力が独自的な急進勢力より政治的多数の優位を占めたのは、ただ後進性の徴憑ではなく、韓半島の分断体制という状況があったからであると考えるべきである。つまり、置かれた韓半島の現実の条件が平和―改革―進歩勢力の幅広い連帯を求めているということである。克服されるべき87年体制が分断体制という独特の支配体制と関わりがあることに注目する我々の立場からすれば、平和―改革―進歩勢力の有機的連帯に基づいた再結集こそが87年体制の新しい更新と転換のために必須的である。
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今号の文学特集は、「韓国の長編小説の未来を開こう」というタイトルで、韓国の長編文学に対する期待と応援を盛り込もうとした。長編小説の活気を取り戻すのが今日の韓国文学全般のために重要であるという点は多くの人が共感している。本誌はこの課題のために本格的な考察と探求の契機をつくろうとし、対談及び評論をはじめ、作家の声を収録するなど多彩に特集を作った。
崔元植と徐栄彩の対談は、このような企画に応え、今日の長編小説をめぐる問題点と可能性を多く取り上げている。東・西洋における物語の伝統はもちろんのこと、1920年代から2000年代にいたるまでの韓国小説の全般にわたって行われたこの対談では、最近文壇と読書界で話題になった若い作家の近作長編を議論するなかで、「創造的長編の時代」を開いていくことを力説する。対談に続き、中堅の黃晳暎から新進の李起昊にいたるまで現場で活発に活動している六人の小説家が長編に関する興味深い話を聞かせてくれる。とくに創作経験を基にした作家たちの肉声であるので、今日韓国の長編小説が置かれた位置と意味、そして可能性を考える貴重な契機になると期待している。
そして、崔在鳳は長編小説ジャンルをめぐる諸般の環境要因を深層的に分析する。短編中心の文壇風土と文学制度に対する問題提起はもちろん、長編小説が活性化されることによって、韓国文学が得られる長所までを幅広く指摘している。鄭豪雄は、金源一、趙廷來、李文烈、韓勝源などの中堅作家が最近出版した長編小説を綿密に検討し、韓国文学が進むべき新たな道を探索する。陳正石は、2000年代の韓国文学が置かれた条件に対する検討をもとに、金英夏と金衍洙の最近の長編を考察しつつ、歴史と理念といった巨大なるナラティブと断絶された物語が持つ意味と限界を検討する。
特集と関連して読める文学欄の作品もいくつか収録した。白楽晴の評論は、「外界人との出会い」というモチーフを通して、最近の批評言説を批判的に再吟味する。この「外界人との出会い」は、「今ここの生活」から排除された真実と他者に素直に面する文学的実践の一環でもある。若い批評家との批判的対話が目立つ論文である。数ヶ月前問題となった小説『ヨーコ物語』を扱った孫鍾業の論文は、この小説の問題点が単に歴史の歪曲ではなく、日本とアメリカという二つの戦争の主体が構成する「想像の取引」と巧妙な隠蔽戦略であることを鋭く指摘する。
文学誌の本領ははやり詩人と小説家の作品である。そういった面から今号に掲載された創作物は詩と小説ともに韓国文学の活気を見せている。李盛夫詩人から鄭瑛、朴後気などの新進詩人にいたるまで13人の詩が詩欄を飾った。小説欄には金南一、クォン・ジエ、金鍾銀、チョン・ミョングァンなどの4人の作品を掲載した。その作品はそれぞれ異なる視線と発声法をもって私たちの社会と生の多様な面を描いているのである。
文学特集号であるので、政論に割愛される紙面が多少減ったが、今回も生産的討論のための貴重な論文が多い。まず、李廷雨―崔兌旭の挑戦インタビューは、今日の社会に蔓延している新自由主義、市場万能主義に対する有効で、適切な批判が印象的であるが、とくに最近締結された韓米FTAと関連して重要な論点が提起される。盧武鉉政権(参与政府)の大統領諮問政策企画委員長を歴任した李廷雨は、青瓦台の経験と学者としての哲学を基づいて韓米FTAの問題点を具体的かつ明瞭に打ち出している。これとともに、盧武鉉政権の相対的な功過を診断し、今後の社会体制に対する展望を語っており、読者に大きく参考になると思われる。
挑戦インタビューに関連して読めばよい論文が「論壇と現場」欄に掲載された金鍾曄の「87年体制の軌跡と進歩論争」である。この論文は、87年体制を「民主化プロジェクト」と「経済的自由化プロジェクト」の併存と衝突と特徴づけ、なぜ体制の動力が消尽されていったかを分析する。なお、「87年体制論」に対する崔章集と孫浩哲の理解を批判しつつ、87年以後の歴史過程に対して韓半島的視角から的確に認識しなければならないと力説する。これと一緒に掲載された宮嶋博史の論文では、日本内の日本史研究を平和という観点から批判的に考察し、とくに近世史研究の「脱亜」的傾向が、現在の平和議論を桎梏する歴史的淵源であることを明らかにしている。また、文化分野としていわゆる「ミド(アメリカドラマ)」とミド族現象の背景と影響を詳しく検討した金奉奭の論文を載せた。
最後に、寸評欄では殷熙耕の新作小説集をはじめ、最近出版された9冊の本を扱った。深みのある論文を送ってくださった筆者の皆様に感謝の意を表すとともに、読者の皆様からの関心をお願い申し上げる。
訳: 李正連
季刊 創作と批評 2007年 夏号(通卷136号)
2007年6月1日 発行
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