창작과 비평

2007南北首脳会談を決算する

論壇と現場

 

 

 

金根植(キム・グンシク) kimosung@kyungnam.ac.kr

 

慶南大政治言論学部教授、2007年南北首脳会談特別随行員。共著書に『南北韓関係論』『北朝鮮都市の危機と変化』『北朝鮮の体制展望と南北経協』などがある。

 

南北首脳会談の結果として導き出された「2007南北頂上宣言」をめぐって、相反する評価が共存している。李在禎(イ・チェジョン)統一省長官は、今後の南北関係を発展させて韓半島の平和を増進させる「1004」頂上宣言(10.04)と名付「1004」は韓国語で「チョンサ」と読み、「天使」と発音が同じである――訳注。けたのに比べて、一部保守陣営では核廃棄の約束なしに北に提供するリストにだけ合意してやった失敗作だと酷評した。甚だしくは、首脳会談の成果などはさておいて、論難になる一部の地点だけを集中提起し、首脳会談全体の意味を色あせさせるに至っている。

首脳会談特別随行員として平壌に行ってきた筆者としては、このように行き違った評価に接しながら、確かに高く評価すべき部分があるのではあるが、これをどうにか無視してあら探しだけに精を出している私たちの政治的現実に憤り、嘆かざるをえない。大統領選挙局面の政治的な不利・有利のために、存在する成果を白眼視したまま存在しない問題点をしきりに掘り起こそうとすることは、南北関係という超党的な事案に政略的に近付く行動だ。最近、核問題解決の動きとともに、もはや韓半島平和体制が可視化される情勢変化局面に入っている。難しくも到来した韓半島情勢の急変期に、政治的考慮のみを言いつのって躊躇し、ぐずぐずするのなら、また再び時代の流れに乗り遅れてしまうだろう。

 

6·15共同宣言の継承と発展

南北関係の発展と韓半島の平和こそ私たちが同意する方向性であるなら、今回の2007南北頂上宣言には、このための具体的で意味ある合意の数々が盛り込まれている。今回の首脳会談での合意は「6·15共同宣言の継承と発展」という圧縮的表現に、その歴史的意味を整理することができる。2000年南北首脳会談の結果である6·15共同宣言によって、この間の南北関係は継続的に発展してきた。6·15共同宣言を契機として半世紀以上持続してきた敵対的対決関係の代わりに、和解協力の関係が幕を開くことが可能となり、その方向でこれまでの7年間の南北関係が維持されてきた。しかし、6·15が切りひらいた道を歩んでくる過程で、新たな課題ができ、乗り越えねばならない課題も発生した。政治・軍事分野の進展を成しとげねばならず、そして既存のものとは異なる新しい経済協力の方式をつくりださねばならなかった。

結局、今回の首脳会談は6·15共同宣言に基づいて持続してきた南北関係を、より高度な段階へと発展させるための土台を用意したという意味をもつ。すなわち、和解協力という6·15共同宣言の大枠の方向性をそのまま引き継いでいくが、6·15共同宣言に含まれなかった内容を新たに引き出すことで今後の南北関係をより望ましい方向に進展させうる重要な契機を用意したのが、まさに今回の首脳会談だった。2007南北頂上宣言は、6·15が開いてくれた道を、もう少し広げ、舗装し、まっすぐに整えることで、私たちが目標とする平和と統一という目的地まで無事にたどり着くことができるようにしたのである。

何より今回の首脳会談で韓半島平和と軍事分野の進展がなされたことによって、正常な南北関係の発展が可能になった。今まで南北関係は、経済と社会・文化が先立ち、政治と軍事は遅れるという不均衡な状態だった。経済協力と社会・文化交流が頻繁になった一方、 政治的和解と軍事的信頼の構築は、それに追いつかない非正常的な形だったのだ。しかし、今回の首脳会談を通じて南北は相互敵対関係解消、軍事的緊張緩和と信頼構築、そして戦争反対と不可侵義務を再確認しながら、今後、西海上で軍事的信頼構築の方案を用意するために具体的な努力を傾けることに合意した。

 


これは南北関係において軍事分野の信頼を可視化するものであり、さらには経済協力の拡大・発展を保障することでもある。この間、経済協力発展の足かせになっていたのが、まさに南北間軍事分野の信頼不足だった。完工していた京義線鉄道を運行することができなかった核心的原因のうちの一つが、まさに軍事的保障措置の問題だった。南北間経済協力を拡大し発展させるためには、必ずや軍事的信頼構築とこれによる軍事的保障措置が円満に用意されねばならない。結局、経済協力発展の先決条件が、まさに軍事分野の保障であり、それゆえ今回の首脳会談で軍事的信頼構築が合意されたことは、今後の南北関係を進展させるうえで死活的な意味をもつわけだ。

 


もちろん、政治分野でも可視的成果を出した。共同宣言2項にある「相互尊重と信頼の南北関係への転換」は、今後、南と北が相手を互いに理解し尊重する政治的和解の幕開けを知らしめるものである。相互内政不干渉と相手を否認する法制度の整備などは、これから南と北が相手の体制をありのまま認めて受け入れる具体的内容になるだろう。経済的協力と社会・文化的交流が活発に進められても、相手の政治的実体を互いに認めあわなければ、南北の和解協力は常に不安定な状態に置かれることになる。相手の体制・理念・制度を認めて、これに基づき相互尊重と信頼の南北関係を作っていくことこそ、正常な関係の基本だ。同時に、今回の首脳会談期間に南側代表団が公式日程のなかでアリラン公演を観覧したが、それは相手に対する理解と尊重の象徴的措置である。これは2005年にソウルを訪問した金基南(キム・キナム)党秘書一行が公式的に顯忠院を訪問した事に相応する措置であり、今後の南北間政治的和解の開始を告げるものでもある。

 


政治・軍事分野の進展とともに今回の首脳会談は、南北経協が新たな段階に発展することを可能にする土台を整え、共利共栄と有無相通の原則のもとに、経済協力のさらなる拡大の契機を準備した。既存の経済協力が、その大部分が南側が北を経済的に助けるという一方的な施恵性支援という意味をもつものなら、これからは南と北が互いに経済的利益を提供しあう双方向投資的で善循環の経済協力が可能になった。6・15共同宣言に銘記された「民族経済の均衡的発展」に加えて、今や「共利共栄と有無相通」という経済協力の新しい方向が明示され、これはまさに南と北の双方に役立つウィンウィン(win-win)の経済協力が推進されねばならないことを意味する。

 


今回合意された安辺(アンビョン)と南浦(ナムポ)の造船協力団地は、代表的な有無相通の経済協力モデルだ。韓国の造船産業が、降り注ぐ受注量を消化するために仕方なく中国や東南アジアに工場を建てる理由は、ほかでもなく国内で安価な熟練労働力を手に入れにくいからだ。北朝鮮[原文では北韓となっているが、以下、北朝鮮と記す]は最近、嶺南(リョンナム)船修理工場を竣工するなど、船舶分野に関心を注いでおり、良質の技術と労働力を確保した状態だ。今や南北の造船分野での協力がなされれば、敢えて海外に出なくとも北の熟練した低賃金労働力を安定的に供給してもらうことが可能となるであろうし、これは南と北の双方に経済的利益を与える、文字通り有無相通の典型的協力モデルになるものだ。開城(ケソン)公団の拡大と汶山(ムンサン)-鳳東(ポンドン)間の貨物列車運行および通信・通行・通関など3通問題の解決も、今後、南側企業の開城公団投資をさらに活性化させる決定的契機となるだろう。

 


結局、今回の首脳会談では、この間の南北関係の進展過程で解かねばならなかった問題、すなわち経済協力を拡大・発展させるための必須条件だった韓半島の平和問題と軍事的信頼構築問題が本格的に扱われ、その結果として一段階アップグレードした経済協力の方向で合意がなされた。こういったことから、南北関係は軍事分野の平和増進と経済協力部門の繁栄が同時進行する正常関係に落ち着いていくだろう。経済協力が軍事的信頼構築と平和をさらに増進し、逆に軍事分野の進展が経済協力をより拡大・発展させる相互善循環の「平和繁栄」が可能になったのだ。いうなれば、平和が経済に寄与し、経済が平和を拡大する「平和経済論」が、ようやく南北関係において可視化されるのである。
 
 
 

西海平和協力特別地帯構想: 発想の新たな転換

平和と繁栄が併行する今後の南北関係構想は、まさに西海平和協力特別地帯にそのまま解かしこまれている。一部ではこれに対してNLL(北方境界線)を譲歩したと難癖をつけているが、これは本当に過去の古い認識に捕らわれて新しい発想を理解できない無知の発露であるにすぎない。今回の合意事項のうち、もっとも意味ある内容に数えられる西海平和協力特別地帯は、一言でいえば、南北関係の新たな里程標を立てる大きな成果である。南北間軍事的対決と衝突の最前線だった西海に対して、軍事的観点という狭い視点からアプローチするのではなく、これからは南北の経済協力と共同繁栄を通じて恒久的な緊張緩和と平和定着をはかるように総合的かつ立体的にアプローチしなおすものだ。

 

 
西海平和協力特別地帯構想が実現すれば、海州公団で南と北の労働者が一緒に働き、共同漁場で南と北の漁民が一緒に漁業を行い、漢江河口で南と北の船が共同で骨材を積んで運ぶという、全く新しい絵が描かれる。今まで私たちが想像できなかった南北協力と共同繁栄の具体的現実が近付いてくるのだ。西海地帯で南と北の協力が常態化し、将来、海州−開城−仁川を連結する平和の三角地帯を作り、その中で人と物資が自由に行き来する新しい場が開かれていくならば、そこでは、南北の軍事的対峙と衝突の可能性が消えていくだろう。まさに経済協力が平和を増進し、その平和がまた経済協力を加速化する善循環の戦略的アプローチが、西海から可視化されるのだ。盧武鉉(ノ・ムヒョン) 大統領の提案に対して金正日(キム・ジョンイル)委員長が軍の人士を呼んで、その可否を確認して受諾したと伝えられているが、これは今回の西海平和協力特別地帯案が、私たちの積極的提案を北が合理的に受け入れて成立したことを推測させる。今回の合意文にNLLという単語が含まれていないことも、南北首脳が西海構想という、より大きく新しい発想に同意したことで、むしろその争点を飛び越えたからだ。軍事分野の平和と経済分野の共同協力が共存する西海の平和繁栄ベルトなら、南と北が対峙するNLLの狭小な意味は、自然に消えていく。

 


この先、西海平和協力特別地帯は、経済と軍事があり、公団と漁場があり、平和と協力が同時に結びつけられる今後の南北関係発展の実験場であると同時に、モデルハウスになっていくだろう。南と北の双方に役立つ経済協力の現場であると同時に、南と北の軍事的対峙が解消される平和共存の地帯になるだろう。海州公団を行き交う南と北の民間船舶が西海を横切り、共同漁撈区域で働く南北の漁船が自由に往来する姿が見られるようになるなら、南北の軍事的対峙と緊張は自然に解消されるだろう。

 


盧武鉉大統領が軍事分界線を歩いて渡った事実が、軍事分界線の存在そのものを無くすことにはならない。ただ、軍事分界線を歩いて越える南と北の人々が大幅に増えていけば、軍事分界線は形式的な線として残るだけで、その線がもつ既存の危険性と敵対性は相当弱化し、結局は解消されるだろう10月9日、プラザホテルで開催された統一研究院主催南北首脳会談評価学術会議での白楽晴教授の基調発言――原文注。。同様に、西海平和協力特別地帯が現実化されれば、NLLは線として存在するが、その危険性はかなり弱化されるか、消えゆくことになる。これがまさに西海平和協力特別地帯とNLLの関係だ。西海平和協力特別地帯構想の中に NLLは溶かし込まれていくのである。

 


そもそも停戦体制のなかで海上での軍事的衝突を防ぎ平和を保障するために引かれた線というNLLの歴史的主旨からも、今回の西海特別地帯を通じて一層包括的で堅固で恒久的な緊張緩和と平和定着を成すことのほうが、むしろNLLの意味を活かす道だ。安保上の理由から設定された現在のNLLを、領土概念だと言い張って執着するよりは、南北の経済協力と共同繁栄を通じて根源的に西海上に平和を定着させることこそが、当初私たちが NLLを通じて成そうとした平和と安保を得る道である。このような事情があるにもかかわらず、西海平和協力特別地帯について、NLLを放棄したと感情的非難を浴びせる行為は、発想の新たな転換を全く理解できていない無知のせいか、わざと受け入れないという意地っ張りに過ぎない。
 
 
 

首脳会談の足かせ

当初、首脳会談自体に気乗りでなかった側では、当然のことながら今回の合意もお気に召さないだろう。国民の大多数が首脳会談は成功したと評価することにも、一部では合意事項の是非を問いながら、あら探しにばかり精を出している。非核化に関連して合意内容が充分でないという批判が、核廃棄や非核化という具体的単語が明示されていたらよかったのにという惜しさから出ているものならば、それは正当なものだ。しかし、まるで今回の合意が、核問題に対して意味ある内容を何一つ記すことができなかったという非難は、正当ではない。合意文において順調な履行のために努力すると明示した9·19共同声明には「すべての核兵器と現存する核プログラムを廃棄」するという、もっとも高水準の表現が含まれており、2·13合意はこれを実質的に履行する具体的措置だ。この諸合意を再確認することだけでも、充分に北の非核化意志を読み取ることができる話だ。さらに、会談途中、核問題に対する盧大統領の問題提起を聞いて金委員長が金桂寛(キム・ケグァン)外務省次官を直接呼んで、六者会談の進展状況を報告させたことは、核問題に関する限り、六者会談の枠組みですでに合意した核廃棄の方向に向かうことを可視的に確認してくれる行動だった。

 


韓半島停戦体制を平和体制に転換させることで意見をともにし、このために終戦宣言の推進を決定した第4項に対して、いわゆる「3者または4者」論難をふっかけて、この合意の本来の意味がけなされることもある。しかし、この合意は中国を除外することができるという外交的論難責任によって、その歴史的意味が低められることは決してないような画期的内容だ。はなはだしくは「3者」が韓国を除いた北·中·米の三者でもありうるという「憂慮」が提起されたりもするが、この間、北が停戦協定に署名した3者から韓国が抜けていたという理由から、北·米の二者のみの協定を主張した事はあるが、中国を含む平和協定を提唱したことは一度もないという事実を思い返してみても、これはとんでもない憶測だ。このように、北が韓半島平和体制論議から毎回のように韓国を除外してきた点を勘案するなら、今回の頂上宣言の合意は歴史上初めて北が南側を平和体制論議の、名実共にパートナーとして公式に認めたという重大な意味をもつ。同時に、昨年末からブッシュ大統領が提案した、いわゆる「終戦宣言」構想に対して金正日委員長が初めて公式の肯定的な回答を出したことによって、今後の平和体制論議が推進力を得ることになったという点でも、その意味は大きい。

 


また、六者会談という国際的枠組みによって韓半島の平和問題が議論されている現在の状況のなかで、今回の会談を通じて南と北が韓半島平和の実質的当事者であると同時に責任者として平和体制への転換プロセスに同意し、終戦宣言推進に具体的に合意することを通じて、今や韓半島の平和を単に国際的構図の中のみではなく、南北関係の枠組みにおいて主導的に牽引していくという歴史的正当性をもったことを示してもいる。論難になる「3者または4者」に対しては、ブッシュ大統領の提案を金正日委員長が受容し、当然、南·北·米の3者として受け入れたがゆえに3者と明示したのであり、ただ、その表現過程で中国に参加の意志があればそれを阻むことはないという開放性の意味で4者と同時に表現しただけのことである。文字通りの、明白な事実だ。このような事情にもかかわらず、今回の合意の大きな成果をわざわざ無視し、些細な問題点を暴き出そうとすることは、韓半島の平和に関わる画期的意味という大きな森はわざわざ見ないで、小さな木だけを見ようとする稚拙さの所産だ。

 


新しい経済協力が推進される時に必要となる経済的負担を声高に言い立てて、合意の成果をけなそうとする姿も見える。いつもと変わらぬ、見慣れたやり方だ。実際に、今回の合意文には、追加費用があまりかからないとして私たちが主張してきたことを、北が突然受容したことのほうが多い。開城公団拡大と汶山-鳳東間鉄道貨物開通、そして通信・通行・通関の3通問題の解決を明示したことは、開城公団に入居した韓国企業らの宿願事業が反映されてのものである。安辺と南浦に造船協力団地を建設することは、新しい基地と安価な労働力を必要としている南側民間造船会社の独自的判断と必要によって進められるだろう。白頭山観光の実施とこのためのソウル−白頭山直航路開設もまた、韓国の民間企業が常日頃望んできた事業だった。

 


莫大な予算が必要となると大げさに痛みを訴える人々もおり、それがまだ通じうるのが開城−新義州鉄道と開城-平壌高速道路改善補修問題であるが、実際に今後、南北の経済協力が進展し北朝鮮により多くの特区と南北合作公団が開設·造成されねばならないとしたら、そしてこれらを通じて南側が北を通過して大陸に進出できる新しい経済の契機を用意せねばならないとしたら、鉄道と道路の補修は私たちにとって必ずや必要なインフラであるほかない。これは、北への無条件な提供ではなく、私たちの経済協力戦略次元の、そして私たちの長期的経済のための先行投資概念だ。決して捨て金を振りまくのではないにもかかわらず、わざわざ天文学的数字を並べ立てて、それも幾年にも渡って出費するのではなく一気に出すかのように、私たちの血税が漏れていると取り繕うことは、今後進められる南北協力の新しい経済機会を度外視することに他ならない。
 
 
 

正日委員長の戦略的悩み

今回の首脳会談が、当初私たちが予想した以上の成果を出したことに関しては、誰も否定することはできない。平和に関わって肯定的方向に流れている非核化プロセスの成果に基づいて停戦体制を平和体制に転換する問題に対して南北が意見を共有した点は、非常に意味深い。また、韓半島平和の当事者として南北が戦争防止と不可侵を再確認しながら、軍事的対決を解消して信頼を構築するために具体的に協議するとした点もまた、私たちが目指していたことに違いない。

 


経済協力に関連しても、大きな枠組みの方向に合意したこと以外に、具体的な事業内容が明示されている。私たちの宿願だった京義線鉄道の開通が、まず貨物に限ってだが合意され、来年の北京オリンピックへの共同応援団が京義線を利用する初の運行として行くことで意見の一致をみた。これは本当に興味深い歴史的出来事となるに違いない。開城公団入住企業にとってはしょっちゅう問題になる手続きだった通信·通行・通関改善問題が首脳会談合意文に明示されたことも画期的なことだ。西海上に平和協力特別地帯を作って海州公団を造成するなど、包括的な経済協力方式で軍事的衝突を防ぎ平和を保障する方案もまた、私たちが準備していった会心のカードを、金正日委員長が突然受容したのだ。

 

今回の会談の結果、予想外に私たちの要求が多く貫徹されたのをみながら、金正日委員長がどのような意図で受けいれたのかが気にならざるを得ない。何か不純な意図があるのではないかという、不満げな疑心からそう思う人もいる。しかし、全般的な情勢と北朝鮮の最近の歩み、そして今回の首脳会談の結果をよく見れば、最近の金委員長の本音の見当もつけられる。

 


今や金正日委員長は、過去とは違う新しい戦略的決断を準備しているようだ。2·13合意以後、核施設閉鎖を断行し、年内不能化と核プログラム申告に応じた。実際、不能化を決心したことは、再び朝米関係が悪化した際にアメリカに脅しをかけるカード、すなわち核施設再稼動をあきらめたことであり、これは事実上、核廃棄への道を選択したことを意味する。不能化に至った以上、原子炉を再稼動することは不可能だからだ。アメリカとの関係正常化を前提に、あれだけ執着してきた核を放棄すると決断したなら、残るは北朝鮮の経済を再生するのに適切な最善の方式を見出すことしかなく、そうなると南北関係はもはや放棄できない戦略的選択にならざるをえない。すなわち、核を放棄して朝米関係改善を図りながら、これを土台に北朝鮮経済の再生と発展を選ぶためには外部支援が必須であり、その際、南側が提供するもっとも実質的で持続的な援助が緊要だろう。結局、金正日委員長は悩みぬいたあげく、核放棄と経済再生の道を選んだのであって、よって南北関係改善が必須要件になったわけだ。今回の首脳会談で、むしろ私たちが驚くほどに平和および経済協力に関連する私たちの要求を積極受容したことには、まさにこのような背景があった。

 


ただ、金正日委員長は南側の要求を積極受容しながらも、経済協力の発展は北朝鮮の経済的必要によって推進されるものであって、決して南側の一部が希望する北朝鮮崩壊を目的にした一種の和平演変戦略であってはならないという立場だった。経済協力の拡大は受け入れるが、北朝鮮を変化させ崩壊させるという戦略には断じて反対するというマジノ線[Magino線:これ以上引き下がれない限界線]を決めたのだ。会談期間中、金委員長が終始強調した改革・開放という用語の拒否と、相互体制認定要求が、まさにその悩みを現わしている。核放棄と経済協力の拡大は受け入れるが、それでも体制維持を放棄することはできないというジレンマが、今回の首脳会談での金委員長の悩みだったわけだ。

 


結局、今回の会談で政治分野と軍事分野の進展が可視化され、特に金正日委員長自ら経済再生のために南北関係の実質的進展が不可避だと認識している状況で、今後は合意された内容を実践する意志と努力が何より必要とされる。知らず知らずの間に勃発しうる突発状況においても、南と北は政治的和解と軍事的信頼構築という原則と方向に対して一貫した履行意志をもたねばならない。そうすることで、今後の南北関係は平和と繁栄が相互善循環する正常軌道に乗って軍事的信頼構築が増進されるだろう。また、北核解決および韓半島の平和体制転換が可視化され、経済共同体に向けた全面的協力が強化され、初歩的ではあるが政治的共同機構としての性格が増大していくだろう。そして、そうしていくことで今とは質的に異なる新たな次元の南北関係へと発展することができるだろう。
 
 
 

平壌訪問の所感

北朝鮮研究を生業とする筆者にとって、平壌訪問は常に振り払いにくい誘惑だ。接近しにくい研究対象を、直接見るより確かな方法はないからだ。この間、平壌には五回行ってくる機会があり、今回の首脳会談参加で六回になった。平壌は妙な場所なので、初めて訪問した時には、分断の地に足を踏み入れたという抑えがたい「感動」と、同胞に出会ったという「民族愛」でいっぱいになったが、その次からはもう少し客観的で現実的な悩みにさいなまれた。二回目の訪北からは少し落ち着いて北朝鮮の「実情」を直接目撃し、今後の北朝鮮に「変化の希望」があるのかを見定めるようになった。

 


今回、特別随行員として北を経験したことも、ここから大きく脱しない。南側代表団を喜び迎える北側住民たちと保障成員(行事要員)たちの心から湧き出た歓待は、感動と民族愛を感じさせられるに十分だった。たった数ヶ月前に大規模な水害を被ったのに、南側から来る大切な客を迎えるために、平壌はきれいに整備されていた。建物も明るい色で塗られており、通りのあちこちが隅々と掃除されていた。いつも南側から来た人々の目がいってしまう平壌の電気事情が気にかかったのか、今回の首脳会談の間、平壌の夜の姿は筆者が通り過ぎたときがもっとも明るかった。あらかじめ電気事情を誇るつもりだったのか、初日の金永南(キム・ヨンナム)常任委員長が主催した晩餐が終わってホテルに帰る途中には北側ガイドが先に立ち平壌の夜景を鑑賞するようにといいながら、わざわざ市内一周をしたりもした。通りの並木の上にはクリスマス・ツリー模様の電球が灯されてもいた。確かに、首脳会談を準備するために電気を充分に供給したせいもあるが、最近の北朝鮮の経済事情が全般的によくなっていることは明らかに思われた。

 


沿道に出て歓迎する平壌市民の姿も過去に比べて華やかで明るい身なりだった。靴もいろいろだった。国家が供給する画一的な靴の代わりに、市場で取り引きされる質のよい靴がたくさん目に付き、特に若い娘たちの多くが、背が高く見えるヒールの高い運動靴を履いている点が目立った。普通江ホテルの北側服務員、私たちが見て回った所のガイド、そして晩餐会場と午餐場の接待員たちの皆が、明るく元気な姿だった。北側住民たちの表情から、経済事情がよくなった結果をそのまま確認することができた。

 


核問題が肯定的な方向に解決をみせたおかげで外部支援が正常化された側面もあるものの、それよりは2002年に施行された7·1経済管理改善措置が、今の経済状況に肯定的な影響を及ぼしたと思われる。市場を認め、需要と供給によって取り引きがなされることで、市場経済ではないが市場原理がある程度受容された。そして各工場や企業所でも、計画量以外の超過生産物は市場に売って利益を得ることができるように許容された。こうして住民たちは猫も杓子も「実利」を求めて商売に出るようになり、企業所も裁量を尽くして原価を減らし、販売量を増やすような、いわゆる「稼ぎ高」を高めるのに力を注ぐようになった。実利と稼ぎ高が今日の北朝鮮経済活性化の現状を示しているのだ。

 


北朝鮮には、すでに7·1措置以後の、下からの変化が拡がっている。社会・経済的には少なくない変化が進行しているのだ。しかし、依然として政治的には先軍と一致団結の掛け声が支配し、創意と自律よりは指示と規律が先立っている。経済的変化の必要性と政治理念的な固執の間で、北朝鮮の未来はまだ不確実に見える。それにもかかわらず、もっとも現実的な方法は、絶対権威者金正日委員長の選択によって主導される上からの変化のほかにありえない。まず必要な経済変化を駆動させるためにも、現存する政治システムを認めなければならないのだ。平壌は相変らずジレンマに置かれていた。(*)

 

 

 

訳=金友子

 

 

 

季刊 創作と批評 2007年 冬号(通卷138号)

 

2007年12月1日 発行

 

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