朴槿恵政権が経済危機を克服し成功するには
現在の韓国経済が直面している内部問題の核心は、いい雇用が減少するという誤った構造であり、外部の核心問題の一つは、主要国家の高齢化にともなう需要減少現象である。今後5年間、大韓民国を牽引する朴槿恵(パク・クネ)政権が成功し、国民の大多数に幸福と繁栄をもたらすことを願う気持ちで、この問題に対する解決策を助言したい。
1、いい雇用の不足と「新自由主義弊害論」
韓国の経済危機の大半は、いい雇用が不足しているために生じた。いい雇用をたくさん作れば失業者が減り、消費が増えて経済が成長し、家計負債は縮小し、格差も緩和される。賃金が安く不安定な小企業の雇用、自営業の雇用、非正規職雇用の割合を減らし、大企業や有力な中小企業の正規職雇用を増やすことが経済危機を解決するカギである。
2010年基準で300人以上の大企業に勤務する韓国の労働者は約240万人で、全体労働者の16%であり、就業者2400万人の10%水準である。30大財閥の社員と公務員の数はそれぞれ約100万人で、全体就業者の4%程度ずつである。一方、アメリカの場合、500人以上の大企業が全体の賃金労働者の50%を雇用している。イギリスとドイツは250人以上の大企業が賃金労働者の45%と40%を雇用する。日本は22%、台湾は21%が大企業で仕事をしている『海外中小企業統計資料』、中小企業中央会、2010。韓国は大企業や有力な中小企業に勤務する労働者の比率が過度に低いのである。
一方、1997年のIMF金融危機以降、韓国経済の問題を見通す枠として議論されるのが「新自由主義弊害論」である。新自由主義のために問題が生じ、これを克服してこそ問題を解決できると多くの知識人が主張する。だが、筆者は「新自由主義が原因」という分析は間違いであり、よって「新自由主義の克服」が問題の解決方案ではないと考える。
第二次大戦以降、イギリスやアメリカなどでは福祉を増やして税率を上げ、公共部門を強化する修正資本主義が大勢を占めた。だが、この政策が1970年代に入って深刻な副作用を示した。わずか半世紀前、世界最強の覇権国家であったイギリスが、「ゆりかごから墓まで」を標榜した福祉、労働組合の過度な要求、公共経済の行き過ぎた拡大とそれにともなう高い税金などの弊害によって経済が破綻状態となり、ついに1976年に国際通貨基金(IMF)の救済金融を受けるに至った。このような弊害を克服するための理論として新自由主義が登場した。福祉を減らして税金を低くし、労組の無理な要求を制圧して、公共経済部門を減らし、市場経済を活性化した政策基調が新自由主義である。このような政策で1979年に就任したイギリスのマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)首相は慢性的だった「イギリス病」を克服し、1981年に就任したレーガン(R.Reagan)大統領はスタグフレーションを解決し、アメリカの競争力を回復した。しかし1989年のベルリンの壁の崩壊以降、新自由主義は「ワシントン・コンセンサス」というアメリカ資本の利益に従事するイデオロギーに変質した。アメリカとイギリスでは富裕層減税で所得格差が大きく拡がり、金融資本の詐欺に近い利益追求を放置して、2008年の世界金融危機を誘発した。
韓国の場合は、1987年の民主化以降、着実に福祉を伸ばし、よって税金も増え、労働組合の威力は強化され、政府主導の土建・産業政策は続く一方、官僚の権能も持続した。金大中(キム・デジュン)政権と盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時期にも大勢は維持された。このように過去20年間、韓国は新自由主義政策とは反対の道を行った。にもかかわらず、韓国経済が新自由主義のために困難に陥ったと主張する根拠は何だろうか?
1997年の金融危機当時、IMFが救済金融の条件として、商品市場と金融市場開放、公企業民営化、労働柔軟化を要求したことは事実である。しかし、IMFの要求が一方的に執行されることはなかった。自由貿易協定とそれにともなう貿易自由化は、韓国の輸出拡大と国内寡占産業の改革のためにも必要なことだった。強力な労組が存在する企業では柔軟化があまり進まなかった。代わりに非正規職と下請けの増加という奇形的な形態で労働柔軟化が進んだが、これはアメリカの圧力だけでなく、分業のグローバル化現象とも密接な関係がある。また主要銀行の経営権を、アメリカの投機性金融資本であるゴールドマンサックス、ニューブリッジ、ローンスターなどに譲渡した。これらは新自由主義の論理とIMFの圧力を動員し、短期的相場差益が確実な銀行を投機的な目的で買収し、大規模差益を得て撤収しただけである。これは韓国の官僚と政界が、銀行業種の属性と投機資本の野心をよく理解しなかったために犯した失敗であった。たとえば中国は不動産や銀行のような利権経済には外国人投資をなかなか許容しない。
にもかかわらず、進歩改革陣営の多くの学者と政治家は、新自由主義が問題の原因であり、新自由主義を克服すれば問題が解決されるかのように絶えず主張してきた。存在もしない幽霊を敵として規定し、その幽霊を捉えるべく努力したが、現実問題の分析自体に失敗し、代案提示もできなかったのである。現実世界とかけ離れたむなしい論争をしている間、民心は離れい、その結果、今回の大統領選挙でも野党が敗北したのではないだろうか。筆者は、新自由主義弊害論ではなく、政治経済の構造を分析する枠組として、「利権集団の最小勝利連合」理論を提案してみたい。
2、利権集団の最小勝利連合と貧富格差の拡大
筆者は、ある社会を構成する階層構造を、約0.1%の利権掌握集団(G1)、0.9%の利権保護集団(G2)、9%の利権追従集団(G3)、そして90%の沈黙大衆集団(G4)に区分するモデルを提示したことがある拙著『革新せよ、韓国経済』(創作と批評社、2012)、111頁の説明を参照。。ここではG1、G2、G3の既得権集団と残りの90%の被搾取集団が、それぞれに分かれて固着する現象を「最小勝利連合」という概念で説明する。
既得権を確保した勢力がG4を統制して税金など利益を上げるには、戦闘で「勝利」する程度の充分な数の味方がいなければならない。だが、味方集団があまりに大きいと、各自に回ってくる戦利品が減るので、最小の数で連合体を作ろうとする傾向がある。中世時代の封建君主は、ヨーロッパの騎士や日本の武士のように、適正な規模の軍事力を持つ支配集団が必要だった。軍事力が小さければ住民を統制できず、他の封建集団との戦いで敗北することになる。しかし軍事力を大きく育てれば税金をそれだけ多く徴収しなければならないので維持が困難となる。日本の徳川幕府の時代にG2、G3に該当する武士階級の割合は、江戸地域5%、九州地域10%であった(1721年人口調査)。朝鮮王朝時代の初期に両班(ヤンバン)は約5%だったが次第に増加した。北朝鮮の労働党員の数が人口の約10%であるという。利権集団があまり大きいと、彼らの分け前が少なくなるので数を制限しようと努力する。両親のうち一方が両班でなければ子供が両班になれないようにした理由もここにある。北朝鮮でも両親のうち一方の出身成分が悪ければ、労働党員になることはできない。
今日の韓国社会もこのような性格を有している。李明博(イ・ミョンバク)大統領は政権獲得を利権と考えたように、5千ある内外の重要な職位を自分の側近に分け与え、財閥建設業界のために4大河川事業に22兆ウォン以上の金を注ぎ込み、数多くの不法な方法で戦利品を獲得した。だから、兄の李相得(イ・サンドゥク)、諮問役の崔時仲(チェ・シジュン)、最側近の千信一(チョン・シニル)、朴永俊(パク・ヨンジュン)や鄭斗彦(チョン・ドゥウォン)などが監獄に入った。彼らもやはり自分たちだけでより多くの利権を占めるべく努力した。
利権集団は累積する傾向があり、そのために経済は後退し、民生はどん底に落ちる。封建制や君主制は、利権集団の累積にともなう抑圧や差別、搾取を自ら解決できず、周期的に破滅してきた。中国の歴史には300年を超えた王朝がない。朝鮮では、自ら問題を解決できないと、民族は日本の奴隷に転落した。少数の利権集団が連合して、多数を絞りとって抑圧する構造を緩和することが歴史の「進歩」である。民主政治制は利権集団を非暴力で交代させることで、人類の繁栄を導いている。しかし、今日の韓国の奇形的な間接民主制は、少数の利権集団が連合して、G4を絞りとる構造を克服できず、深刻な弊害を生んでいる。自殺率が世界最悪の水準を大きく超え、出産率が世界最低の水準に落ちたことは、韓国という国がどれほど暮らしにくくなったかを雄弁にものがたる。このことを統計資料を通じて見てみよう。
次の表は東国大の金洛年(キム・ナンニョン)教授が2012年5月に発表した「韓国の所得集中度の推移と国際比較」という論文の統計を分析し、筆者が作成したものである。これを見ると、1995年から2010年の間、20歳以上の成人を基準として最上位1%の所得は7%から12%に増加した。その次の9%の所得は22%から32%に増加している。その結果、下位90%の所得配分は、71%から56%に減少している。87年体制で貧富の格差が深刻に拡大し、下位90%の成人の実質所得はむしろ12%減少するという、惨憺たる結果を生んでいる。
このような貧富格差の拡大も、やはり利権集団が最小勝利連合を維持・強化した結果と解釈できる。G1の財閥支配株主はG2の役員と幹部の賃金や恩恵を増やして忠誠を誘導し、G3の正規職組織労働者には相当の賃金と福祉を保障するものの、その数を増やさないように努力した。1987年の民主化抗争以降、強力な影響力を持つようになった労働組合は、全体労働者ではない10%程度の組織員に戻ってくる恩恵を堅実に増加させ、高所得を勝ち取った。現代自動車の正規職労働者の年俸は1億ウォンに肉迫し、双龍自動車と韓進重工業の正規職労働者も5千万ウォン以上の年俸となった。公企業の正規職労働者もこれに劣らぬ高年俸と福祉の恩恵を得て、「神の職場」という別称すらつけられることになった。教師や公務員もやはり高年俸や終身年金のような福祉の恩恵で、平均労働者賃金を大きく上回る所得を享受することになった。2010年のOECDの統計によると、代表的な公務員といえる勤続15年の小学校教師の場合、年間給与が4万 6338ドルで、アメリカ(4万 5226ドル)、日本(4万 4788ドル)、イギリス(4万 4145ドル)、フランス(3万 2733ドル)より高く、OECD平均(3万 7603ドル)を23%も上回るhttp://www.oecd.org/edu/eag2012.htm、購買力指数(PPP)ドル基準、2010年為替レート1ドルあたり906.46ウォンとして計算した。。各国の国内総生産(GDP)や物価水準を考慮する時、韓国の教師は過度に高い賃金を得ている。そのうえ定年で退職する教師は、一生涯、毎月300万ウォン程度の年金を受け取る。一括払いで計算すれば8億ウォンに相当する途方もない金額である。これによる莫大な教員年金の赤字を国民の血税で埋めている。現在、公教育問題の責任から自由でない彼らが、国民の税金でこのように過度な恩恵をこうむるようになったのは、どのような理由からであろうか?
前の表で見るように、次の上位9%の所得が占める割合は、アメリカが29%、イギリスが27%、フランスが25%なのに対して、韓国は32%である。韓国の次の上位9%は、世界で最も高い所得の分配を受けている主要国家のデータの出処はhttp://www.parisschoolofeconomics.eu/en/news/the-top- incomes-database-new-website/を参照のこと。。よって1%対99%の対決だけを強調するのは、韓国社会の問題の本質を糊塗することである。高所得者の家族を含めれば、約20%の上流層と残りの80%の庶民層の間の格差も韓国社会の主たる矛盾である。
3、財閥封建構造の敵対的共生関係
今日の韓国社会は30余りの大企業集団である財閥が、封土を建設して城を築いて分割統治する封建体制に比喩することができる。城のなかの宮殿には総帥一家や側近のG1が暮らし、城のなかの上流層地域には、宮殿に出入りして仕事するG2の役員や幹部、専門家が暮らし、城のなかの一般地域にはG3の正規職労働者や公務員が暮らしている。城の外には長時間労働をしながら家賃や借金に振り回され、結婚も困難なばかりか、子供の教育費や老後の不安にさいなまれて自殺に追い詰められる庶民が暮らす。彼らが沈黙大衆集団G4である。1987年の民主化抗争の結果として政治的な力量をつけた大企業労組、金融労組、公企業労組、公務員労組などG3が、自らに有利に城壁を次第に高くしていくと、城の外の庶民G4はますます生活が苦しくなった。彼ら高賃金労働者の多数は、城の外に暮らす悲惨な民が、人間らしく暮らせるよう配慮しているとは考えにくい。
孔枝泳(コン・ジヨン)のルポ『席とり競争』(ヒューマニスト、2012)に見られるように、双龍自動車の労働者復職闘争は、城のなかに暮らした人々が城の外に押し出され、城への再進入のために戦いながら、組織労働者の利権を強化する行動と見ることができる。「希望バス」に象徴される韓進重工業の復職闘争も同様である。5千~7千万ウォンの年俸を受け取る人々が、2千~3千万ウォン台の所得が予想される非正規職や自営業として生活することは困難だろうという点は理解できる。しかし、一生涯を2千~3千万ウォンの所得で暮らす城の外の80%の庶民の目から見たとき、彼らの主張は過剰に代弁されている。
大半が自営業者であり非正規職である50~60代のなかには、民主労組や全教組を利権集団と考える人々が多い。利権をまとって居座り、高賃金を享受しながら若い世代に雇用を渡さない正規職労組に反感を持つ20~30代も多い。2012年の大統領選挙で文在寅(ムン・ジェイン)候補の共助者であるソウル市教育長候補に全教組委員長出身者を出したことと、民主労組出身を慶尚南道の道知事候補に出したのも野党の敗因の一つであった。現代自動車労組は、夜勤を減らし、さらに多くの労働者を採用しようという要求を拒否している。民主労組は城の外の人々に重要な失業給与を拡大する政策に対して積極的に努力していない。失業給与よりも数倍の所得を得ているからである。大学教授は自らの賃金を譲歩して非常勤講師の悲惨な処遇を改善しようという動きに反対する。賃金配分の問題は、付加価値というパイを分け合うゼロサム(zero sum)ゲームだからである。韓国の大企業組織労働者と教師・教授も、味方集団の規模を「最小」で維持するものの、闘争で「勝利」する程度の数は守ろうとする、利権集団の「連合」である。
40~50代の多数は、進歩改革勢力が叫ぶ「リストラのない国」というスローガンが、どれほど雲をつかむようなものかよく知っている。景気が後退して売上げが減るとき、リストラができなければ企業は滅びる。韓進重工業と双龍自動車は外部的な要因のために売上額が減ったが、もしリストラができなかったとすれば、破産してすべての職員を解雇しなければならなかっただろうし、工場施設は屑鉄になり、蓄積された技術は消えてしまっただろう。「合法的手続き」を経れば、リストラができる国になってこそ、企業が積極的に投資し、より多くの正規職を採用することができる。リストラされた労働者も適切な失業給与を受け取って再就職を準備し、よい職場を探せる機会が多い国では、いい雇用が増える。
強硬路線の労組との妥協が必要な財閥や公企業の首脳部は、組織労働者に高賃金と福利厚生を提供するものの、その数を増やすまいと努力してきた。過度に多くの費用がかかり解雇もしにくい正規職数を制限するために、外国に生産基地を移して、社外下請と社内下請を増やした。それとともに下請け業者の納品価格を圧迫するので、下請け業者従事者の賃金はかなり低くなった。財閥や大企業労組は相互に敵対的と見られるが、実は自らの利益を最大化するために、恩恵を受ける人々の数を最小化することに協力し、敵対的に共存する「利権集団の最小勝利連合」である。
人類の進歩は、封建領地の間の障壁が減る方向に、また国境と宮殿の城壁が低くなる方向に進んできた。すなわち進歩とは、障壁を減らし城壁を低くすることである。だが、韓国の「進歩」を自任する人のうち相当数が、無条件に自由貿易協定(FTA)に反対して国境の壁を高めようとし、正規職労働者および公共部門と庶民層の間の城壁をますます高めていった。彼らも自らの利権を強化し維持しようとする一種の保守集団なのである。国家間に壁が低く物資が流れてこそ、利権集団が萎縮して経済が繁栄する。国境に商人が往来しなければ軍隊が越えてやってくることになる。貴族が生きる領地の城壁が高くなり、庶民の身分上昇の機会が剥奪されれば、城の外には諦念と堕落があふれ、経済が衰退して、結局、憎しみによって破局的な革命の機運が育つ。
韓国の利権集団は市場経済を嫌う。新自由主義は他の国の話である。財閥をはじめとする韓国のG1、G2は、表面では規制撤廃や市場経済を叫ぶが、内側では競争の多い「レッドオーシャン」を忌避する。談合や許認可、あるいは不動産を利用した利権産業、つまり「ブラックオーシャン」を好む前掲拙著35頁と131頁で、「利権経済=ブラックオーシャン」「要素経済=レッドオーシャン」「革新経済=ブルーオーシャン」「公共経済=グレーオーシャン」と区分し説明した部分を参照のこと。。財閥は官僚や政治家をつかまえて各種の規制を作って進入城壁をたてる。法曹人や医師、大学教授も、公認された資格証を利用した進入城壁を構築し、利権集団の数の増加を抑制することによって利権を得てきた。進歩左派陣営も市場経済を嫌う。彼らの観念の中には「資本主義は悪の根源」と考える傾向があるが、このような考えが、現実の経済運用においては、かえって「悪」を育てることとなる。彼らは「自由市場経済」といえば、ただちに「問題の根源である新自由主義」を連想する。それとともに財閥との敵対的な共生関係を形成し、組織労働者の利権を大きくした。
このような間隙に乗じて、公企業や公務員、教師も市場の競争を忌避して利権を追求する。すると利権確保競争に参加できない大多数の下層庶民の生活はますます悲惨になっていく。利権のある城に入ろうとする法学と医学の志望生はあふれるが、理工系は忌避する。公務員や公企業の入社競争は激しく、科学技術の発展と企業家精神は弱くなる。「どぶから龍が生まれる世の中」はすでに終わったが、城の外のどぶ川の庶民は、子供にだけは利権を持たせようと私教育費を過度に使うことで、老後の備えができなくなった。
4、利権集団の最小勝利連合を解消するには
財閥や大企業労組に代表される利権集団が、狭い利権を追求することが、核心的な問題であるという立場で、朴槿恵政権がいい雇用を多く作り、「国民幸福時代」の達成に必要な方策を提示したい。核心は経済の財閥集中度を減らし、財閥の談合を通じた利権追求を抑制するために規制を解き、財閥が不法行為をしてもきちんと処罰を受けない構造を廃止して、国法の規律を守ることである。
第一に、財閥が利権経済を放棄し、革新経済に進むように改革しよう。1970年代以降、韓国では30大財閥規模の大きな民間企業が一つも誕生していない。事業の機会さえ生じれば、財閥が自らの影響力を利用し、掌握してしまったためである。たとえばクレジットカード産業が大きくなると、すぐにサムスンカードや現代カードがグループの影響力を利用して成長した。物流産業の機会が大きくなると、すぐに現代の鄭夢九(チョン・モング)・鄭義宣(チョン・ウィソン)親子が現代グロービス社を通じて個人的に利権を得た。財閥が電算開発会社を一つずつ作って市場に飛び込むと、すぐに韓国のソフトウェアと情報通信産業は後退した。さらに給食業まで彼らの独壇場になった。すると国際的企業に発展できず企業家精神は抹殺されていった。いまや財閥が金融業をはじめとする内需中心の利権産業を放棄し、その代わりに輸出中心の革新産業に集中するよう、政府が助ける方向で改革するべきである。財閥封建の城壁を低くし、大きな市場で競争するようにしなければならない。そうしなければ、決して大きく強い企業ができることもなく、よっていい雇用も増加しない。
第二に、談合を通じた消費者搾取の根絶のために輸入規制を撤廃しよう。ガソリン、LPG、家電製品、鉄鋼、砂糖、小麦粉、肥料、ビール、通信、保険、銀行など、寡占事業体の慢性的な犯罪行為を通じた消費者搾取が深刻である。2012年12月、漢陽大法学研究所が公正取引委員会に報告した「消費者被害救済のための民事的救済手段の拡充方案研究」によると、2009年から3年間に摘発された、談合など125件の公正取引法違反に関連した売上は168兆ウォンで、不当利得は25兆ウォンと推算される。だが、このような不法行為に対して賦課された課徴金はわずか2兆4300億ウォンだった。一般的に談合行為の15%程度だけが摘発されると考えると、3年間におかされた犯罪行為で国民がこうむった被害は200兆ウォン程度と推定される。これはGDPの5%にもあたる莫大な規模である。これが累積して格差が激しくなり、家計負債の核心原因になったと考えても無理はない。これを減らすためには、公務員と結託して作った各種規制を減らし、競争を活性化しなければならない。そうしなければ市場経済自体が否定される事態が招かれることもあるだろう。
第三に、財閥の不法行為を抑制し、法の定めるところによって処罰しよう。財閥が談合して利権を得るために多くの犯罪をおかしても、きちんと処罰されない場合が多く、「有銭無罪・無銭有罪」といわれるように法秩序がみだれた。エリート犯罪が深刻で、数多くの人材がマフィアの組織員のように財閥の犯罪に動員されていく。不法な賄賂や接待のような地下経済の大部分は、財閥や公務員が介入した利権経済がその根元である。朴槿恵大統領当選者が候補の時期に約束した集団訴訟制と懲罰的損害賠償制を導入し、不当利益の3倍を賠償するようにして、実効性のない公正取引委員会の専属告発権を廃止するべきである。財閥が法を蹂躪することを阻まなければ、法秩序全体が崩れることもある。
第四に、同一労働・同一賃金の原則を強化しよう。労働関連法を改正し新規雇用から正規職と非正規職を差別できないよう釘を刺さなければならない。そして企業が合法的手続きを経れば解雇できるようにするべきである。解雇された人々も安心して新たな職場を探せるよう、充分な失業給与を用意しなければならない。2年間の平均賃金の70~80%を受け取り、教育訓練も履修し、新たな職場を探す機会が与えられるならば、いい雇用が大きく増えるだろう。そうしてこそ、城のなかの労働貴族と城の外の庶民の格差が小さくなる。企業は、戦闘的な労働組合を避けて外国に工場を移転することをやめて、より多くの人材を雇用するだろう。労働者は解雇されても簡単に他の職場に移って技術を伝播し力量を発揮するだろう。そうしてこそ革新経済が発展する。今は、ある職場から出れば、他の職場に移りにくいので、貴重な経験や能力が死蔵されている。彼らの多数が自営業になって、競争が激しくなり事業失敗率が高まって、家計負債増加の原因になる。同じ労働をしていても身分によって賃金格差が大きいのは、不公正なばかりか反倫理的なので、至急、断固として是正されなければならない。
第五に、中小企業政策を直接支援から間接支援に切り替えよう。韓国には過度に多くの中小企業支援制度がある。中小企業に対する信用保証規模が肥大したあげく、競争力を喪失した企業を延命させる役割をしている。これがかえって健全な中小企業やベンチャー企業の発展を阻んでいる。よって創業投資会社は困難に陥っている。競争力のない利権集団で過保護を受ける中小企業がなくなってこそ、実力と生産性が向上する。企業を対象にした直接的な保護支援制度は減らすべきである。その代わりに労働者の教育訓練、中小企業のための研究開発投資、産学協力やクラスター活性化、創業支援、雇用や法律サービスなどの支援へと方向を変えるべきである。特に世界市場で活躍する「国際的強小企業」(hidden champion)を育成するための戦略的な支援に集中投資するべきである。
第六に、利権集団を抑制する直接民主制を強化しよう。直接民主制は利権集団を抑制するよい手段である。ノーベル経済学賞受賞者のスティグラー(G.Stigler)が立証したように、利権集団は官僚と政治家をつかまえて法を作って不当利得を得る。スイスの場合、国会が法を通過させても、国民5万人以上が署名をすれば、賛否の有無を国民投票に回す。このような過程を経れば、政治家や官僚が特定集団の利権のための法を作ることは困難となる。中央の政府と地方自治体で予算を執行する時も、一定金額以上の事業は住民投票を通過しなければならない。スイスの租税負担率は23%で、韓国と似ているが、福祉制度が完備している理由は、国民が直接投票を通じて公務員と政治家の予算浪費を抑制してきたためである。このような直接民主制のおかげで、スイスは葛藤が少なく、利権集団と組織的犯罪行為がほとんどなく、幸福度が非常に高くて、一人当りの所得は8万ドルに達する、生活の質が世界最高の国に発展した。
5、世界経済危機を克服する政策
21世紀に入って出現した世界経済危機の最大の原因は、不動産と関係した金融資本の詐欺に近い利益追求と全世界的な需要不足である。アメリカやヨーロッパ、また日本のベビーブーム世代が高齢化して需要が減り、韓国も急速に高齢化社会に入り不動産などの需要が減少している。「ひとりっ子運動」に邁進してきた中国も、10年後から急速に高齢化するだろう。全世界的な需要不足問題を克服する国家が、今後、国際経済を牽引するものと予想される。ならば、韓国経済の需要を増やす方法にはどのようなものがあるだろうか? 第一は、50%に達する低所得庶民層の所得を増やし、消費を振興することである。二つ目は、全世界の70億人の人口のうち半分に達する貧困層の所得増加を活用し、需要を創り出すことである。最後に、2400万人といわれる北朝鮮住民の一人当りの年間所得が1千ドル水準に留まっているが、これを1万ドル以上に引き上げて大規模な需要を誘発することである。このような観点から3つほど政策を提案したい。
最初に、北朝鮮に大胆な提案をさせることである。たとえば江原道の束草(ソクチョ)から北に東海岸に沿ってウラジオストクまで、ガス管と鉄道を同時にひけば、私たちは安いサハリン産の天然ガスを確保でき、ヨーロッパに輸出する物流費用も画期的に減らすことができる。中国の東北3省(吉林省・遼寧省・黒龍江省)との交易も大きく増大させることができる。アメリカで安いシェールガス(shale gas)が商業化され、韓国のエネルギーと化学産業の競争力が急速に弱まっているが、ロシアの天然ガスの確保は、戦略的な突破口になるだろう。北朝鮮は深刻な貧困問題を解決して、政権を安定させなければならず、中国も北朝鮮の安定と東北3省の経済発展が切実である。開城(ケソン)工業団地の規模を10倍以上にして、北朝鮮当局の干渉を減らす方案も含めた提案をしてみることも必要だろう。その代価として年間1兆ウォン程度を支給することになるが、核兵器を放棄して南・北・米3者で不可侵協定を締結する交渉パッケージを提案するならば、北朝鮮は喜んで応じるものと判断される。
第二に、積極的なエネルギー政策の駆使を提案する。李明博政権の政策は電力不足による停電(blackout)の不安を誘発し、原子力発電所の安全を疎かにして国民を不安に陥れた。産業用電力と同じ熱量のガソリンと比べて60~70%に過ぎない価格で供給したために、電力が途方もなく浪費されている。電力使用量上位6社である現代製鉄、ポスコ、サムスン電子、サムスンディスプレイ、LGディスプレイ、SKハイニックス、SKエネルギーが2011年に使った電力は37TWh(テラワット時、1TWh=1兆Wh)で、5千万の国民が家庭用に使った電力の61%に達している。これらに市場価格(SMP、系統限界価格)で電力を供給するだけで、電力不足の問題は一挙に解決する。電力に炭素税を賦課すれば、数十兆ウォンの税金が集まって福祉財源が用意でき、エネルギー過消費にともなう外貨浪費も減らせるので、積極的な検討を望みたい。これは、全世界的に需要が急増している電力節約産業や新再生エネルギー産業において、主導権を握ることでもある。
第三に、国民年金を積極的に活用しようということである。2013年に保有残高は400兆ウォンを突破して、朴槿恵政権の任期中に600兆ウォンに達すると予想される国民年金は、過度に多くの国内株式と国債保有で、金融経済運用に大きな負担となっている。韓国の経済に役に立たない外国不動産に対する投資は減らし、外国の技術企業と資源保有企業に積極的に投資することによって、長期的な産業発展に寄与するべきである。また有望な開発途上国に投資して需要を創り出すこともとても重要である。積極的な対外投資は、ウォンの為替レートが過度に高く評価されることを予防する効果もある。
最後に、朴槿恵大統領当選者にお願いしたい。政治家と官僚は、自ら利権集団であると同時に、少数の利権集団に従事する傾向があるということに留意してもらいたい。そして韓国の国民は、公平な機会を与えれば自ら努力して、驚異的な政治的・経済的な発展をなしとげる力量があるという信念を持ってもらいたい。大多数の国民の利益と国家全体の将来のための政治を実現すれば、経済は自然に隆盛する。どうか、大韓民国の民主的発展と健康な秩序を作り出す、歴史に残る立派な大統領になって頂きたい。
翻訳:渡辺直紀
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