창작과 비평

[特集] 米中の戦略競争、どこへ向かうのか / 李南周

 

創作と批評 191号(2021年 春)目次

 

李南周

聖公会大学中国学科教授、セギョ研究所長。著書『中国市民社会の形成と特徴』、『変革的中道論』(共著)、『百年の変革』(共著)、編著『二重課題論』などがある。
lee87@skhu.ac.kr

 

 

1.問題としての米中関係 [1.この論文は、財団法人公共相生(共生)連帯基金研究事業の一環で財団の支援を受けて行われた研究をもとに書かれた。]

 

   冷戦体制が解体されて以降、米中関係は世界で最も重要な両者関係として認識されてきたが、国際秩序に対する影響は冷戦時期の米ソ関係と比較すれば、大きな違いがあった。少なくとも軍事的にはアメリカと同等の能力を持っていたソ連と違って、中国の潜在力や軍事力はアメリカとの差が大きく、世界において占める比重も少なかった。それゆえ、冷戦体制以後の国際秩序は「一極体制」といわれた。米中関係は性格も米ソ関係と違った。それぞれ資本主義陣営と社会主義陣営を代表し、相互対立した米ソと違って、アメリカと中国は1972年以後東アジアにおいてある種の協調体制(concert system)を維持してきた。中国は、アメリカの覇権的地位を暗黙的に認め、アメリカは「一つの中国」原則に同意するのが、この協調体制の政治的基礎であった[2.この時期にアメリカ優位を前提として作動していた米中協調体制については、拙稿「東アジア秩序の変化と新しい地域協力の模索:サンフランシスコ体制の動学を中心に」『経済と社会』2020年春号を参照。] 。 中国の改革開放は、そこに経済的部分を加えた。2007~08年のグローバル金融危機期にも、米中協力は比較的効果的に動き、当時「中国だけが資本主義を救うことができる」という話が膾炙されたりもした[3.これは、「社会主義だけが中国を救うことができる」という中華人民共和国の建国期のスローガンを変容したものである。改革開放期には「資本主義だけが中国を救うことができる」という変容が膾炙されたことがある。しかし、習近平体制が始まって以降、中国は社会主義的指向を強調しており、西欧でも中国の資本主義体制に対する挑戦という認識が増えている。最近中国の国家戦略の変化と、それが国際社会及び韓国に提起する挑戦要因に対しては、李南周、ムン・イクジュン、アン・チヨン、ユ・ドンウォン、チャン・ユンミ『中国の国家戦略の変化と韓中関係に対する含意』対外経済政策研究院、2020参照。]。 このように米中関係は国際秩序の不安要素というよりは、安定要素として作用した。

   ところが、最近米中関係が国際秩序において最も重要な変数であり、かつ問題として登場した。2020年COVID-19の拡散の中、米中葛藤が突然非常に予測不可能で衝突しかねない形で展開されたのである。数年前からトランプ行政府が貿易領域において対中攻勢を強化する時はまだ米中間の長い貿易葛藤が多少激しい形で行われていたという評価が多かった。2020年1月、1段階貿易交渉の妥結は、このような評価を立証するもととしてみられた。ところが、アメリカにおいてCOVID-19が拡散されて以降、トランプの対中攻勢は過去と質的に異なる方法で行われ、技術、地政学、理念及び制度の領域へと広がった。米中が「新冷戦」に突入しているという主張もよくみられるようになったのである。

   このような変化の中で、冷戦時のようにいずれかを選択しなければならないという主張が少なからず提起されている。大半はアメリカを選択肢として提示する。「新冷戦」という概念も密かにこのような強迫を強化する働きをする。しかし、新冷戦という規定は複雑な国際秩序の変化の趨勢を単純化しすぎるものであり、そのような前提のもとで私たちに両者択一以外の道はないと主張することは性急なことだけではなく、韓国及び韓半島の安全と平和に否定的影響を及ぼす結果をもたらすであろう。それゆえ、米中関係がどこに向かって動いており、それが国際秩序にどのような影響を与えるのかを冷静で客観的に検討する必要がある。そして、それをもとに韓国の対応方向を探っていかなければならない。

 

 

2.米中関係の変化:協調体制から戦略競争へ

 

   2007-08年のグローバル金融危機に対応した米朝協力について先述したように、この金融危機は米中関係の重要な転換点でもあった。金融危機によってアメリカの経済が大きな打撃を受けたことに対し、中国は金融危機以後も比較的高い経済成長率を維持しており、勢力のバランスにおける変化の趨勢が明らかになったからである。

   2000年、中国のGDP(国内総生産)はアメリカの12%に過ぎなかった。2000年代に入ってからも、中国は高度成長を維持したものの、2008年のGDPはアメリカの31.2%に止まった。それが2019年にはアメリカ(21.4兆ドル)の約67%(14.3兆ドル)に達するようになった。購買力評価(PPP)基準では2010年代半ばから中国の経済規模がアメリカを追い越したと評価されており、世界銀行データによると、2019年に中国が22.527兆ドル、アメリカは20.524兆ドルを記録した。つまり、経済規模においては中国がアメリカをスピーディに追いついているのである。

   2018年の軍事費の支出を見ると、アメリカは6488億ドルに達しているが、中国は2500億ドルでアメリカの40%にも届いておらず、累積の軍事費までを考慮すれば、両国の軍事力の格差は依然として大きい。ところが、中国はアメリカのように世界全体に軍事力を投射せず、自国の核心的な利益と関連のある地域にのみ軍事力を集中させることができる。これと関連して、中国のA2/AD(Anti-Access·Area-Denial、接近阻止・領域拒否) 戦略が注目されている。これは、東アジアと西太平洋においてアメリカの軍事行動に制約を加えるための戦略として、多様なミサイルでアメリカの航空母艦や艦隊を打撃することを最も重要な手段とする。中国は、アメリカと全面的軍備競争を展開することは、ソ連の前轍を踏む可能性があるという憂いから、このような中国式の非対称戦略で東アジアにおけるアメリカの軍事力に対応しようとしてきており、最近相当の進展を遂げたと評価されている。

   ここ10年間で起こった米中における勢力バランスの変化は、米中協調体制における最も重要な前提だった、アメリカのヘゲモニーが挑戦に直面するようになったことを意味し、それが米中関係を競争的・葛藤的関係へと転換させる構造的原因として作用している。既存の覇権国家と秩序に挑戦する新興大国の出現が大規模な戦争の出現可能性を高めるという主張は、以前からすでに提示されていた。最近トゥキディデスの罠(Thucydides Trap)と関連した論議もその延長線上にある。トゥキディデスの罠は、アメリカの国際政治学者のグレアム・アリソン(Graham T. Allison)が、古代ギリシアの歴史家であるトゥキディデスが『ペロポネソス戦争史』において、スパルタとアテネの戦争を既存の強大国と親交の強大国の間の運命的競争という文脈で叙述したことから着眼して作った概念として、アリソンはトゥキディデスの罠に陥った16事例の中の12事例が戦争につながったと主張した[4.Graham Allison, Destined for War: Can America and China Escape Thucydides’s Trap?, Houghton Mifflin Harcourt 2017.]。

   もちろん覇権国家と新興大国との競争がすべて戦争につながったわけではない。今の大国間の軍事衝突が招く悪い結果はいずれも耐えることができないので、米中間にもこのような危険を避けるための試みがなかったわけではない。アメリカ側ではG2、「責任のある利害当事者(responsible stakeholder)」等の構想を提示した[5.Robert Zoellick, “ Whither China? From Membership to Responsibility,” Remarks to the National Committee on U.S.-China Relations (New York City) 2005.9.21.] 。これは、中国が自国の浮上を可能にした国際秩序を維持し、強固にすることに、より多くの寄与をしなければならないという主張であった。ところが、中国は、この構想をアメリカが主導する秩序の維持のための責任と費用を転嫁しようとする試みとして見做した。中国はその代わりに2012年から「新型大国関係」という相互核心的利益の尊重を基にする協力関係を代案として提示した。これに対して、アメリカは内包と外延が不明な「核心的利益」という概念を認めるようになると、国際的・国内的懸案と関連した中国の立地が強化されすぎることを恐れてやはり否定的に反応した。

   アメリカと中国が、勢力バランスの変化を反映することができる新しいビジョンに対する合意を導くことができず、米中関係において競争的・葛藤的側面が漸次強化され始めた。アメリカは中国の浮上を牽制するために、「アジアへの軸の転換(pivot to Asia)」という新しい戦略を追求し、中国は経済力と軍事力の増加を背景に国際社会で自国の核心的利益をより積極的に主張するために、領有権の紛争において攻勢的態度を見せ始めた。ただし、最近までも内心はともかく、中国はもちろんのこと、アメリカも自国の対外戦略が相手を狙ったものではないという点を強調した。ところが、最近状況が速く変化した。

   アメリカは2015年の「国家安保戦略報告書」において「アメリカは安定的で、平和的で、繁栄する中国の浮上を歓迎する」「競争はあるだろうが、対立(confrontation)が必然的だという論理には反対する」と記述したことがあるが[6.White House, National Security Strategy of the United States of America (February, 2015), 24頁。] 、2017年の報告書では中国をロシアと合わせて、アメリカが追求する価値と既存の国際秩序の規範に挑戦する「修正主義」国家と規定した[7.White House, National Security Strategy of the United States of America (December, 2017), 25면.] 。アメリカの学界でも、アメリカの対中国関与政策が成功しておらず、有効性を失ったということに対して共感する雰囲気が広がっている[8.アメリカ学界において対中国戦略、とりわけ関与(engagement)に対する対評価論議を触発した論文としては、Kurt M. Campbell and Ely Ratner, “ The China Reckoning: How Beijing Defied American Expectations,” Foreign Affairs Vol.97, No.2 (March/April 2018)を参照。] 。ところが、行政府レベルで実質的行動に出るまでには時間がかかったが、先述したように、COVID-19の拡散が契機を提供した。トランプ行政府はCOVID-19の責任を中国政府に転嫁しながら、中国に対する攻勢を強化した。経済領域においては、中国通信企業のファーウェイ(華為)のサプライチェーンを遮断し、「経済繁栄ネットワーク(Economic Prosperity Network, EPN)」や「クリーンネットワーク(Clean Network、技術領域において不法的情報奪取等の危険性を排除するための協力)」のように、主要技術と関連したサプライチェーンから中国を排除しようとする攻撃的構想を提出した。グローバル化の中で想像し難かった経済及び技術デカップリング(decoupling)は、いまや現実的問題となった。軍事領域においてもアメリカは2018年から中国の軍事力に対する抑制を目標とする「インド太平洋戦略」を進めてきたが[9.Department of Defense, Indo-Pacific Strategy Report, 2019.6.1.] 、COVID-19の渦中にも西太平洋地域において軍事的優位を維持するための多様な動きを見せた。それによって、米中の偶発的軍事衝突に対する憂慮も高まっている。2020年5月、アメリカの国家安保会議(NSC)は、議会に提出した「アメリカの対中国戦略的アプローチ法」において、中国が経済、価値、安保領域においてアメリカと同盟国の利益を脅かしており、「両体制間の長期的な戦略競争が行われるだろう」と主張した[10.White House, United States Strategic Approach to the People’s Republic of China, 2020.5.20, 16頁。] 。米中競争に理念及び制度の競争という新しい次元が加わったわけである。

   それによって、最近米中関係と国際秩序に対する論議は、大半が米中の戦略競争を既定事実としてとらえており、ただし、この競争が破局へつながらない形で行われるようにすることに焦点が合わせられている。「災害のない競争(competition without catastrophe)」[11.Kurt M. Campbell and Jake Sullivan, “Competition Without Catastrophe: How America Can Both Challenge and Coexist With China,” Foreign Affairs Vol.98, No.5 (September/October 2019).] 、「協力的対決(cooperative rivalry)」[12.Joseph Nye, “Globalization and Managing a Cooperative Rivalry,” China & US Focus 2020.7.6.] 、包括的競争の管理(managing comprehensive competition)」[13.David Shambaugh, “Dusting Off Cold War Tools for US-China Competition,” China & US Focus 2020.7.2.] 等が、このような趣旨を反映する概念である。中国は最近までも米中関係を競争関係と規定することを避けるために努力してきたが、今は関係がそのように転換されているという点を認めている。例えば、前外交部副部長の傅瑩は競争を管理し、必要な領域において協力を維持する「競合関係」と米中関係を規定した[14.傅莹 「新冠疫情后的中美关系」, China & US Focus 2020.6.29.] 。

   新たにスタートしたバイデン行政府も戦略的競争を強化する基本方針は、堅持し続けると明らかにした[15.ブリンケン(A. J. Blinken) 国務長官は、承認聴聞会において方法に対しては同意しなかったものの、「トランプの中国に対する強硬なアプローチ方法(a tougher approach)は正しいもの」だったと明らかにしている。“Secretary Of State Nominee Blinken Promises A Reengaged America Abroad,” NPR 2021.1.19.] 。ところが、バイデン行政府がどのような具体的戦略を打ち出すのかは、まだ不明である。現在アメリカの目標が中国の浮上を抑制しようとするものなのか、中国の制度を変更しようとするものなのか、それとも中国の行動を変化させようとするものなのかによって、具体的戦略と米中関係に対する影響が違ってくる。上記の二つの試みは関係を極めて悪化させることであり、他国との協力を困難にさせ得る。バイデン行政府においてアジア関連政策を総括するようになるキャンベル(Kurt M. Campbell)は、任命直前に寄稿した論文において「このシステム(これまでのインド太平洋地域における秩序―引用者)の均衡と正当性を維持するのは、同盟及びパートナーたちとの強力な協力(coalition)を必要とするが、中国の一定水準の黙認や受容も必要とする」と言及したことがある[16.Kurt M. Campbell and Rush Doshi, “How America Can Shore Up Asian Order: A Strategy for Restoring Balance and Legitimacy,” Foreign Affairs (online) 2021.1.12.] 。中国の行動、とりわけ攻勢的行動に焦点を当てる場合、米中関係に及ぼす否定的影響を管理したり、他国との協力には肯定的であろうが、中国の浮上や米中間の関係が中国に有利な方向へ変わっていく流れを防ぐには限界がある。最近アメリカの対中国戦略と関連した論議は、中国の浮上を抑制したり、体制変化を強圧することと、中国の攻撃的行動を制御しようとすることとの間を行き来しているが、バイデン行政府では後者の方向へ進む可能性が高い。まずは、国内問題が深刻であり、中国との全面的な葛藤による副作用を憂慮せざるを得ないからである。

   中国も、米中関係が再び協力的関係へ戻れるという期待は持っていないが、領域によっては協力が可能であり、また必要だという点を積極的に主張し、バイデン行政府との関係を安定させるための努力を展開している。傅瑩が、アメリカ大統領選の終了以降である2020年11月24日に『ニューヨークタイムズ』に寄稿した記事に、そのような期待と提案がある程度表れている。彼女は、中国に対するアメリカの態度変化、特に中国政治体制の容認、主権領土問題への介入の中断等を要求しながら、中国もアメリカの誤解を招き得る事案(知的財産権の侵害問題、南中国海での軍備増強)に新しい方法でアプローチできることを示唆した[17.Fu Ying, “Cooperative Competition Is Possible Between China and the U.S.,” The New York Times 2020.11.24.] 。そして、2021年に入ってからも、米中関係に対して実用的アプローチの可能性を示唆する流れが持続されている。ある討論会において提出された、「中国の核心的利益の範囲を制限しなければならない。もし核心的利益を拡大すると、政策の弾力性を喪失し、過激な反応をもたらすことになる」という主張も、中国の対外的行動の調整を求める意味がある[18.章百家 「中美有望逐步建立良性“竞合关系”」, 『中国新闻周刊』 2021.1.18.] 。

   このような流れを見ると、バイデン行政府初期には両国がこれ以上の対立へ進むというよりは、一定の探索期と調整期を経るとみられる。ただし、米中の戦略競争が不可避だという状況になった時、それが中長期的にどのような様相へ進むのか、国際秩序をどのような方向へ変化させるのか、などは依然として重要な問題として残されている。

 

 

3.長期・低強度・複合競争としての米中の戦略競争

 

   米中の戦略競争は長期戦で行われるであろう。短期的に米中間の実力対決が決まり、新しい国際秩序が構築されることは難しいからである。

   中国は、すでに経済的にアメリカが無視できない規模に成長しており、世界経済とも非常に緊密につながっているので、アメリカが過去他の競争国家のように中国の浮上を阻止するのは難しい。例えば、経済力の格差が大きく、世界経済との関連性も低かったソ連に対する封鎖戦略は、低費用で動かすことができ(ソ連の挑戦は主に軍事と地政学領域において提起されており、ソ連はこの挑戦を持続する資源が足りなかった)、日本が一時期アメリカ経済の優位を脅かす国家としてとらえられたりもしたものの、覇権国家として登場するには政治的・軍事的力量において格差が大きかった。

   ところが、米中関係においては注目する必要がある、もう一つの重要な特徴がある。中国は国力総量においてアメリカをスピーディに追い付いているが、経済社会的発展レベルではアメリカと比べれば、依然として大きな差がある。中国の一人当たりの名目GDPは2019年1万262ドルでアメリカの6万5298ドルの15.7%に過ぎず、一人当たりのPPP基準でもアメリカの4分の1水準にとどまっている。中国のGDPが2030-35年にアメリカを追い越すと予想されるが、この時も一人当たりのGDPはアメリカの4分の1程度にとどまる[19.ただし、COVID-19を早期に統制するのに成功した中国が、アメリカを追い付くスピードが速くなったことによって、中国の経済規模がアメリカを追い越す時点に対する主要研究機構の予想も2030年以前へと早められている。Naomi Xu Elegant, “China’s 2020 GDP means it will overtake U.S. as world’s No. 1 economy sooner than expected,” Fortune (online) 2021.1.18.] 。このように覇権を争う国家間に経済規模は同じくらいであるが、社会発展レベルにおいて大きな格差のある前例は探しがたい。これは、人口規模の差から来る現象として、中国が相当の期間アメリカの覇権的地位を代替しにくくする要因なのである。それゆえ、米中の戦略競争と対立は当分の間いずれの国が確固たる優位が占めにくい状況の中で長期戦で行われるであろう。もし予想より早くこの競争の結果が出るとしたら、それは、中国かアメリカ内部において経済力や軍事力に大きな影響を及ぼす危機が発生した場合であろう。中国はもちろん、アメリカも内部に困難な問題を抱えている。しかし、この問題がソ連のような崩壊へつながる可能性は低い。アメリカの政治や社会システムは依然として変化に対応し、適応できる柔軟性を有しており、中国の現体制も高いレベルの実績に基づく支配の正当性(performance legitimacy)と物的基礎を構築している。

   米中戦略競争の長期戦的性格とともに、それと密接な関係のある特徴は、競争の低強度的性格である。大国間の競争が大規模な戦争を伴わない現象は、核兵器の登場以後出現した。大量破壊兵器が開発され、高度化した状況における大国間の戦争は、すべての破滅を意味するからである。アメリカとソ連は直接的な軍事衝突を避けるやり方で競争しただけではなく、そのような衝突を防ぐための多様な協定を締結したりもした。アジア、アフリカ、南米等で代理戦争のような物理的衝突はあったが、その時も状況が自分たちの直接な衝突につながらないように注意した。

   最近米中間に軍事的摩擦が増加し、軍備競争も加速化することによって、軍事的衝突に対する憂いが大きくなっている。ところが、両国とも相手に対する核報復能力を備えており,両国間の小さな衝突も世界経済に取り戻すことのできない災害をもたらすので、それを避けようとする協力が行われるであろう。米中葛藤がますます深刻化していた2020年半ばにも軍事衝突の防止は、協力が必要な領域として言及された。もちろん「レッドライン」がないわけではない。台湾問題が軍事的衝突の導火線となる可能性が最も高い。この問題だけが管理できれば、米中競争の結果は軍事的勝敗よりは政治、経済、理念的競争によって左右される可能性が大きい。それゆえ、米中競争は低強度競争の性格を持つことになる。

   米中戦略競争の最後の特徴は、複合的に行われるという点である。現在、戦略競争は貿易、理念と制度、技術、地政学等において幅広く行われており、その結果も一つの領域での状況によってのみ決定されるわけではないであろう。もちろん各領域の状況が米中戦略競争の全般に及ぼす影響は違う。貿易葛藤はある程度管理が可能であり、理念と制度領域の競争は相当の期間結果が表れにくい。一方、技術葛藤や地政学的葛藤は起こりやすく、短期間に今後の状況展開に影響を及ぼす結果が出る可能性が高い。すなわち、技術と地政学領域における葛藤が米中競争に相対的により大きな影響を及ぼすであろう。

   技術領域における競争は、短期的にみれば、中国が守勢的立場に置かれており、一定の被害も避けることができない。しかし、アメリカの攻勢が自分たちの望む方向へと中国を変化させることができるのか、中国の浮上を阻止することにどれくらい効果があるのかは確実ではない。前者の可能性は低く、後者に対しても否定的見解が少なくない。アメリカの攻勢に対して、中国は内需主導経済への転換を加速化し、それを技術高度化の契機として活用する方向で対応しようとしている。とくに、中国政府は革新技術の開発により拍車をかけている。もしこのような努力が成功を収める場合、中長期的にはアメリカがもっと大きな被害を受け得る。最近中国の半導体産業に対するアメリカの制裁と関連して、半導体産業においてデカップリングが持続される場合、アメリカの半導体部門の世界市場占有率が2018年48%から2025年まで30%へと下落するという展望が出た[20.Antonio Varas and Raj Varadarajan, “How Restricting Trade with China Could End US Semiconductor Leadership,” Boston Consulting Group 2020.3.9.] 。もちろん減少分の大半は中国半導体産業の強要された脱美化によって招かれたものである。これは、アメリカの対中攻勢が相当の費用を費やさなければならないという事実をよく見せてくれる。

   このようなシナリオが現実化すれば、米中競争において中国が主導権を握ることができる。しかし、中国の技術開発が中国政府の期待通りに順調に進まない可能性も高い。その場合、中国の浮上が遅れ、アメリカが経済領域における優位を活用して他の領域においても攻勢的位置に立つことができる。今後3-5年以内に状況がどのような方向に展開されるのかを推測することのできる結果が出るだろう。

   地政学領域においては台湾海峡と南中国海の主導権を誰が握るのかという競争が最も重要である。アメリカは中国の太平洋への進出を抑制するための封鎖網を強化しようとする。問題は軍事力の絶対優位というアメリカの利点が減っているという点である。これを補完するために、アメリカはこの地域においてもヨーロッパのNATO(北大西洋条約機構)のような集団安保協力体制を構築しようとしている。これを通じて、地域軍事資源を効率的に活用し、他国の寄与度を高めることによって、中国の地政学的挑戦により効果的に対応することができるとみたのである。QUAD(アメリカ、日本、オーストラリア、インド間の非公式の安保保障協力体)の強化及び拡大、韓日安保協力の強調等がこれと関連した動きである。しかし、アメリカとこの地域における国家間の利害関係は同じではない。少なくない国家が中国の軍事力の増大と攻勢的外交に不安を感じているが、とはいえ、中国と全面的に対立するのは望まない。中国はこのような亀裂を自国に有利な方向へ活用しようとする。とくに、経済協力を主な手段とし、域内の国家との関係を発展させ、核心的利益を害する国家に対して経済制裁という形で圧迫を加えている。封鎖と反封鎖の地政学的競争が行われているのである。この問題も今後数年内に基本構図が形成される可能性が高い。

 

 

4.米中戦略競争の国際秩序に対する影響と韓国の対応

 

   米中戦略競争が長期・低強度・複合競争として進むことによって、「新冷戦」のような表現が暗示するように、国際秩序が両立の難しい敵対的陣営に分かれる状況を出現させる可能性は高くない。

   何より米中の戦略競争にもかかわらず、二つの勢力圏が重なったり、いずれの方にも偏らない空間が冷戦の時よりいっそう広く存在するからである。アメリカあるいは中国と足並みをそろえる国家も、その大半が相手を敵対視する戦略に参加することに距離を置こうとする。例えば、ヨーロッパは対中国戦略においてアメリカと足並みをそろえる可能性が高いが、とはいえ、中国との協力は排除しない。2020年末、EU・中国投資協定が締結されたのが、この点をよく見せてくれる[21.アメリカ・バイデン行政府の国家安保補佐官のサリバン(J. Sullivan)は、内定者の身分だった2020年12月22日のツイッターに「中国の経済行為と関連した共通の関心事に対して、私たちのヨーロッパパートナーらと早急に協議することを希望する」というコメントをアップし、交渉の最後段階に入ったこの協定の締結を牽制したことがある。Demetri Sevastopulo, Jim Brunsden, Sam Fleming and Michael Peel, “Biden team voices concern over EU-China investment deal,” Financial Times 2020.12.23. しかし、EUは、中国が提示した市場開放のチャンスをつかむ方向を選択した。もちろんこの協定はEU議会批准の手続きが残っている。] 。2020年2月4日、アメリカのあるシンクタンクが主催した討論会でフランスのマクロン(E. Macron)大統領は、「ヨーロッパは、アメリカの中国対抗のためにアメリカと団結してはならない」と主張し[22.Rym Momtaz, “Macron: EU shouldn’t gang up on China with US,” Politico 2021.2.4.] 、ドイツのメルケル(A. Merkel)首相もEUの独立的外交を数回強調した。ASEAN(東南アジア国家連合)も米中戦略競争の中で自律性を確保するために努力している。トランプ行政府が大統領選挙の敗北にも屈することなく、対中攻勢を強化し続けた2020年11月15日、アセアン諸国と韓国、中国、日本、オーストラリア、ニュージーランド等の16か国は、8年間延期してきたRCEP(東アジア地域包括的経済連携)に署名した。これも国際秩序の不確実性に対する安全装置を用意するという意味がある。冷戦体制と比較すれば、アメリカと中国を除いた他国の力量がもっと高まり、対外関係においてより高い自律性を確保している状況である。

   それゆえ、米中戦略競争は国際秩序を両極体制へ構造化する方向より流動性と不確実性が高まる方向へ変化させるであろう。ここで最も憂慮される状況は、対立の構造化ではなく、主要国家において国家中心的、国内志向的傾向が強化されることによって、高いレベルでつながっている国際社会が必要とするグローバル公共財の供給がより困難となり、新しい危機に対する対応能力も弱化することである。いわゆる「G0」的状況に該当する[23.「G0」概念は、ユーラシアグループの会長であるブレマーによって提案され、広く知られた。Ian Bremmer and Nouriel Roubini, “A G-Zero World: The New Economic Club Will Produce Conflict, Not Cooperation,” Foreign Affairs Vol.90, No.2 (March/April 2011).] 。このような

   状況において、韓国に必要なのは性急な両者択一ではなく、ある種の「戦略的忍耐」である。戦略的忍耐という表現は、オバマ行政府がいかなる形でも北朝鮮問題に積極的に介入しない態度を合理化する時に使われたが、このようなオバマ行政府の政策には事実上戦略が皆無に近かった。ここでいう戦略的忍耐とは、アメリカと中国が自国の構図に韓国及び韓半島を編入しようとする試みに対して、受容あるいは拒否という二分法的対応ではなく、私たちの自律性を高めることのできる選択肢を探っていく能動的戦略を意味する。

   アメリカが中国を狙った様々な戦略を模索しており、韓国の参加を求めるだろうが、アメリカの戦略もまだその方向が曖昧であり、具体性も弱い。それゆえ、アメリカの対中戦略に対して無条件に協力するのではなく、今後アメリカの試みがどのような規範に基づき、どのような方法で進められるのかを評価し、それが、私たちが求める価値及び利益と符合するのかを検討して行動を決めなければならない。もしアメリカの対中戦略が中国の浮上そのものを防ごうとすることだったり、中国の制度変更を求める場合には慎重に対応しなければならない。これは、経済だけではなく、安保領域においても国際社会に非常に否定的な影響を及ぼす結果につながるからである。もちろん中国が対外的に過度に攻勢的に行動することを牽制したり、建設的に行動することができるようにするための努力は必要である。例えば、中国が両岸(中台)関係、領有権紛争と関連して強制的方法で現状変更を試みることには反対しなければならない。経済的な側面においても中国の経済力を考慮すれば、国家が企業間競争に直接的に介入する行為が不公正な貿易の性格をいっそう強めることになるので、これに積極的に対応する必要がある。

   この過程で韓国が国際社会の共感を得ることができる対外戦略の原則を立て、それを実現するために努力することが重要である。平和と生命・安全、開放と公営の原則に基づいた国際協力、民主主義、生態環境等が、私たちの追求する価値であり、かつ原則になり得る。その際、米中の戦略競争に対する戦略的忍耐が機会主義的選択ではなく、世界をより良いものにする努力として認識されることができ、国際社会において韓国の役割が肯定的に評価されることができる。この点において、戦略的忍耐は戦略的曖昧性とは違う。アメリカあるいは中国のいずれかを選択しなければならないという要求や圧迫に振り回されず、私たちが追求する価値と利益に基づいて選択することができる外交空間を能動的に確保していく主体的で積極的な戦略なのである。これを裏付けるためには、次の二つの領域における進展が必要である。

   第一に、韓半島における平和プロセスの進展である。韓半島の平和プロセスは冷戦遺産の克服であるだけではなく、米中戦略競争が国際社会に及ぼす否定的影響を減らす意味がある。これが簡単ではないということは、最近の状況で改めて確認された。これまでのように「対話―対決」のサイクルが繰り返される状況から抜け出すためには、勢力関係において優位にある行為者の先制的行動あるいは先制的譲歩(unilateral accommodation)が重要である[24.Charles A. Kupchan, How Enemies Become Friends, Princeton University Press 2012, 40~41頁。] 。成功的平和プロセスは、このような行動が信頼を増進し、平和プロセスの持続性を確保するのに決定的な役割をしたことを見せてくれる。北アイルランドの平和プロセスも、イギリスが北アイルランドの独立のために武装抵抗路線を堅持した政治勢力を平和交渉のパートナーとして認めながら、本格的に推進された。そして、交渉を通じて信頼を蓄積しながら、武装抵抗路線を廃棄する過程が進められた。ところが、北朝鮮との交渉では先制的譲歩はもちろんであり、ある程度等価性のある交渉案さえ北朝鮮に対する屈服としてとらえる傾向が依然として強い。このような態度では交渉を進展させにくい。もちろん過去より北朝鮮問題に対する現実的アプローチ方法、例えば、段階的アプローチに対する共感が広がったことは肯定的である。ただし、このような共感を基にして現実を変化させる主体は、韓国でなければならない。他の誰かが問題を解決してくれることができるという期待は、幻想にとどまる公算が大きい。そして、私たちが主導する変化、とりわけ平和・生態・均衡発展を指向する韓半島の協力が本格的に推進されれば、不確実性が高まっている世界をより安全にしていくのに大きな動力を提供することができる。

   第二に、韓米同盟と韓中関係を超える外交空間を開拓していかなければならない。ここで注目されるのが中堅国の外交である。米中ともに国際社会を肯定的方向へ率いるリーダーシップが欠如している状況において、つまりグローバルなレベルではG0と呼べる状況が出現したことによって、その空白を埋めるのできる中堅国外交の重要性が高まっている[25.Bruce Jones, “Can Middle Powers Lead the World Out of the Pandemic?: Because the United States and China Have Shown They Can’t,” Foreign Affairs 2020.6.18.] 。これは、今後世界が米中葛藤によって左右されないようにすることにおいても重要な意味を持つ。中堅国の定義については様々な論争があるが[26.中堅国の定義と関連した論議及び評価は、カン・ソンジュ「中堅国理論化のイッシュと争点」『国際政治論叢』55 (1) 参照。] 、大雑把に定義すれば、国際社会において大国と小国の間に位置し、行動的な側面において国際協力を仲裁し、促進する役割をすることができる国家を意味する。このような役割をするためには一定の物質的力量とソフトパワーがすべて必要である。韓国は防疫過程において見せた社会及び国家の力量、世界10位圏内のGDP、韓流等の文化的影響力の増加など中堅国外交を推進することができる条件を備えつつある。ところが、中堅国外交と関連して韓国を注目することは多くない。私たちが経済規模と軍事力等の側面においては中堅国としての力量を高めているといえるものの、より注目される国家に比べて研究開発能力や技術、基金、国際ネットワーク等が脆弱である。韓国社会は依然として成長至上主義から抜け出しておらず、人類が必要とする価値の具現のためのビジョンや力量の面においても足りない点が多い。気候変化の防止と関連した韓国の立場と客観的実績がそれを証明する。韓国は、2019年温室ガスの排出量において世界9位を記録した[27.「『韓国の二酸化炭素の排出量、世界9位』…前年より一つ順位が下がり」『ハンギョレ』, 2020.12.13.] 。概ね経済規模の大きい国が温室ガスを多く輩出しているものの、ヨーロッパ諸国が減縮に積極的に取り組んでいる反面、韓国は最近までもこれに対して明確な立場を明らかにしなかった。つい最近2050年までに炭素中立化を実現すると天明したが、どの程度の行動が伴うのかはもっと見守らなければならない。現在一人当たりの温室ガスの排出量において韓国は日本、ドイツなどよりもはるかに高い水準であり、私たちより上位の国家が大半中東の石油生産国という点を考慮すれば、この課題が決して簡単なものではないことがわかる。これに対する感受性と意識が画期的に高まる必要がある。ジェンダー問題も対外関係において私たちの役割を制約する主な原因の一つである。女性の政治的・社会的参加と補償の水準をよく表す世界経済フォーラム(WEF)のジェンダーギャップ指数(Gender Gap Index, GGI)順位において、韓国は108位にとどまった[28.「ジェンダー不平等指数10位・ジェンダー格差指数108位…韓国, 大きな格差はなぜ」『京郷新聞』2019.12.22.] 。この状態をこのまま放っておいては、中堅国外交において私たちの役割を見出しがたい。この問題を解決していくこととともに、国際公共財の供給をどのように保障するのか、そのイニシアティブを発揮するためのより深い工夫が必要である[29.ある研究者は、このような公共財の供給のために外国為替取引の税金であるトービン税とともに、国際的レベルで旅行と物流に対して汚染税を賦課することを提案したりもした。現実性は検討すべきだが、グローバル化の中で移動による社会的・生態的費用(経済学用語では否定的外部性)問題が確認されたことになるので、物流と旅行を対象に税金を賦課し、それを地球的レベルの環境とアンバランス問題を解決するところに活用するという発想は非常に斬新である。Ajay Chhibber, “Global Solutions to Global ‘Bads’: 2 practical proposals to help developing countries deal with the COVID-19 pandemic,” Brookings Institute 2020.4.22. ] 。これが、世界を米中葛藤という枠を越えて、想像し、構成していく効果をつくりだすことができる。

   国際秩序の変化と対外関係に対する韓国の対応は、諸条件の制約を受ける。希望的な思考だけで動くことはできず、私たちの力量を冷静に評価した基礎の上で行動しなければならない。より良い世界に対する私たちの想像と寄与が、直ちに私たちの力で新しい国際秩序をつくりあげることにはつながりにくい。しかし、今のように国内的にも、国際的にも構造的で質的な変化が行われる時点では、慣性的思考を希望的思考以上に警戒しなければならない。慣性的思考が希望的思考より現実との距離をいっそう取らせかねないからである。現在、世界における韓国及び韓半島の位置は、私たちが内部の問題を未来志向的に解決していく過程において、より良い世界へ進んでいく契機を提供することができるようにしている。この際、私たちの対外関係を米中葛藤内における選択問題としてのみ考えるのは、私たちを自ら矮小化しすぎてしまうことである。

 

訳:李正連(イ・ジョンヨン

 

 

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