〔対話〕 ポスト2013年、暮らしをどうするか

 

 

 

   鄭大永・李日栄・洪鍾学・金秉準

 

 

金秉準(キム・ビョンジュン)国民大教授、政策学。前大統領府政策室長、教育副総理。著書に『高く上がる凧―成功する国家、成功する国民』『地方自治論』など。
鄭大永(チョン・デヨン)韓国銀行人材開発院教授。著書に『韓国経済、未必の故意』『新危険管理論』など。
洪鍾学(ホン・ジョンハク)嘉泉大教授、経済学。著書に『韓国経済の新地平』(共著)、訳書に『成長親和型の進歩』など。
李日栄(イ・イルヨン)韓神大教授、経済学。本誌編集委員。著書に『新たな進歩の代案、朝鮮半島経済』『中国農業、東アジアへの圧縮』などが。
 
 
李日栄(司会 こんにちは。2012年の今年、2つの選挙が韓国社会に転換点をもたらすのではないかと期待されます。若者世代を中心に大きな変化の流れが起きています。また、政権が崩壊に近いほどすさまじく動揺していて、むしろ心配になるような状況です。ともすると省察するムードが消え、進歩改革勢力が政治的に自己満足に陥ることもあるかもしれません。野党側が政策的にきちんと準備しているか憂慮の声もあります。若年層はもちろんのこと、多くの国民が挫折と怒りの中で暮らしていますが、彼らの話をひとことで表現すれば「暮らしが大変だ」ということではないだろうかと思います。このようなムードの中で、福祉や分配に対する重要性が注目されるのはいいことですが、そうすることで、暮らしの問題の源泉に関しては、相対的に検討がおろそかになっているようです。おそらく誰でも国政の責任を負うことになれば、国民の暮らしの問題を避けて通ることはできないでしょう。今日はこの問題について、一線の現場で努力してこられた先生方をお迎えして、お話しを聞いてみたいと思います。この危機の本質は何か、今後、韓国が、どのような成長をもとに、どのように生活していくべきか、遠慮なく討論してみようと思います。盧武鉉政権期に、最後まで政策分野で重責を担われていた金秉準先生、韓国銀行にながらく在職し、金融と実物経済がご専門の鄭大永先生、経済専門家として学界や市民運動で活動しておられる洪鍾学先生、このようにお三方をお迎えしました。まず簡単な自己紹介をお願いします。現在の政権ではご苦労はなかったのか(笑)。どのような経験をされたのか、お話し頂ければと思います。

金秉準 私は現政権に対して一種の同病相憐れむようなところがあります。彼らが抱いている悩み、それはきっと、私が政権にいた時に悩んだことの連続線上にあるのではないかと考えたりします。かなり苦しいでしょう。あるものは解決が可能な部分が見えたりもしていますが、あるものは最初からお先まっくらなものも多いようです。一方では心配もかなりあります。前政権にいた人間とその悩みを共有すればよかったのですが、そのようにはなりませんでした。

李日栄 特別に苦労されたことはありませんか?

金秉準 悩みを共有するのでなく、調査するのだといって(笑)。1年ほど苦しい時期を過ごしました。私自身よりも周辺にいる人々の方が苦しかったでしょう。他の見方をすれば、当然、経るべき過程だと思いましたが、かなり当惑しましたし、苦しかったのは事実です。

鄭大永 私は運がいいと言えますが、盧武鉉政権の末期にドイツに行って、昨年春に帰ってきました。海外に滞在しながら、李明博政権の経済政策を他国と比較することができましたし、韓国経済も客観的に眺めることができました。おかげで韓国経済に関する小さな本も一冊書きました。

洪鍾学 私はこの李明博政権の間じゅうずっと気楽でした。私のような人間には振り返ってもくれませんから(笑)。静かに過ごしましたし、幸い勉強も少しできました。私は現政権がスタートする時、この政権は間違いなく失敗するだろうし、庶民経済は破綻状況になるだろうと言いました。さきほど金秉準先生がおっしゃった通り、前の政権で検討してきた課題があるのに、現政権になってまもなく、そのようなことは完全に放棄して、たとえば、アメリカの保守主義哲学をそのまま持ってきました。彼らはこれまで、保守主義哲学を実現しなかったために韓国経済が困難な状況だったと考えているようですが、私どもが見るところ、問題の本質からあまりにも逸脱した、とんでもない話です。ただでさえ構造矛盾があるのに、このような保守主義政策を使えば、より一層困難になります。不幸にも、その予想が現実化するのを目撃しなければならないのが、あまりにも残念です。

 

2013年体制の時代的課題

 

李日栄 具体的な話に移る前に、簡単にお聞きしたいと思います。どのような集団でも政権を担当するならば、時代的な課題をきちんと読むべきだと思います。現在、様々な問題が山積していますが、一番重要なことはどのようなことで、今年から来年にかけて、どのようなことが重要な議題になるか、おっしゃって頂ければと思います。

鄭大永 韓国経済は各部門の深刻な格差や不均衡など、慢性的な問題があまりにも多く、まとめてお話しするのは簡単ではありません。そのうえ、ある部分は過度に新自由主義式の競争にさらされているかと思えば、他の部分は過去と同様に保護されている状況です。労働市場を見ても、専門職や公共部門は、韓国経済の能力に比べて、かなり厚い待遇を受けており、非正規職や中小企業勤労者は、あたかも荒野にいるような状態でしょう。金融部門も、銀行は過保護状態で、庶民の金融機関は激しい競争をしています。いっそのこと一定の方向で全体がおかしくなった方が解決が容易かと思います。このような不均衡のために、一方通行の政策だけでは問題解決が容易でないというのが、より大きな困難です。

金秉準 簡単にいって、最大の課題、私たちが窮極的に解決すべきことは暮らしの問題です。それは雇用であり、雇用を通じて入ってくる収入でしょう。構造的に雇用があまり創出されなくなっているうえに、労働市場も資本市場も投資も消費も、みな歪んでいるのでさらに難しい状況です。壮年や中年の雇用率は安定していて、少し上がりましたが、青年層の雇用率は落ちています。労働や収入の質もだいぶ下落しています。だから若い世代から怒りが噴出するんです。さらに深刻な問題は、政界がその怒りに便乗しようとして、野党もおそらく煽動的に反応しているということです。ですから、政治、社会、経済全体がみな崩壊しています。このようなことが、青年・壮年層の暮らしの問題、雇用の問題に伝染しているのであり、これをどうにかして解決するべきだと思います。

洪鍾学 問題はまさにそこにあると思いますが、政府は何をしているのかということでしょう。政府は過去の政策をそのままやっています。たとえば、1980年代の場合には、大企業が成長すれば自然に雇用が増えました。私たちが大学を卒業する時も、相当数の大企業が毎年数万人ずつ人材を選んで訓練させました。政府が大企業に支援をすれば、それが自然に雇用増加につながる体制だったんです。今でも大企業に対する支援はそのまま残っています。代表的なものとして、三星電子の場合には実効税率が10パーセントにしかならないという話もあり、投資税額の控除を数年来なくすべきだと言っているのですが、そうできずにいます。以前は、投資が増えれば雇用も増えましたが、現在は投資が増えてもこれ以上雇用が増えず、政府は妙なところに神経を注いでいます。民営化も同じことです。新自由主義政策で民営化を実施しました。では民営して雇用が増えたのか、資本と財閥に対する規制を緩和したら雇用が増えたのかというと、むしろ大企業の雇用は減るような状況でした。時代は変わっているのですが、政府はずっと昔の政策にこだわっているのが問題の本質だと思います。

李日栄 財閥が過度に大きくなりましたが、多くの雇用を創出することもできず、中小企業従事者の仕事を奪っているような局面です。ですが、過去の政策フレームはそのまま作動しており、大企業を保護しています。このような過程が李明博政権になって深刻化し、現在は、国民大衆の心理的な抵抗線を越えているのではないかという感じがします。ですが、金秉準先生はさきほど「同病相憐れむ」という表現をされました。

金秉準 盧武鉉政権にも罪があると思います(笑)。

李日栄 そこでお尋ねしたいと思います。財閥を保護して支援するフレームが民主化以降も続いてきたのではないか、民主政権の10年と李明博政権のどこが違うのかという問いは避けられないと思います。

金秉準 ここでのちほど長く論争すべき大きな課題です。盧武鉉政権の時は基本的に次のように考えていました。経済力集中の問題に果たして正解があるのか。主要大企業が売上の80パーセントを海外で上げているのに、そこであえて追跡して、経済力集中の問題にこだわらなければならないのかという見解も事実、内部にありました。もうひとつは企業支配の構造問題に解答があるのか。現代、三星はどう見ても常識的に理解できない支配構造ですが、世界で最も競争力ある企業だと言われると、私たちの常識とは違った何かがあるのではないか、そうしたところに対して、あえて教科書通りに対処するべきなのかという留保的な意見もありました。ですが、異なる意見が全くなかったのは公正取引でした。これだけは本当に是正しようといっていましたが、結局、それも容易ではありませんでした。出資総額制限も順次緩和されました。持株会社体制に転換するのを前提としましたが。最も気にかかる問題は、李明博政権になって系列会社がかなり増えたということです。これは実は、盧武鉉政権の末期から始まったものです。自分たち同士でインサイダー取引をして親戚会社を作って仕事を集める企業を、公正取引のレベルで厳格に扱うべきでしたが、そのようにできなかったということです。現代や起亜自動車のときからです。盧武鉉政権の終盤に、このような部分に注意をあまり傾けなかったと反省しています。あの時、大企業の系列会社のインサイダー取引で困難を体験した協力業者の従業員たちが、私にもメールを送ってきます。あなた方の間違った政策のせいで会社が窮地に追い込まれ、結局、私が失職したと。ですが、最近、大企業の系列会社が数十パーセント増えた、というような報道を見ると、胸が痛いと思います。

李日栄 政権の終盤の話をなさいましたが、異なる意見もあります。ある人は盧武鉉政権が序盤から三星とかなり近い関係なのではないか、李明博政権が「ビジネスフレンドリー」というように盧武鉉政権も大企業とはかなり密着していたのではないかと。

金秉準 政府にいる人間が企業を敵に回すことはできません。三星経済研究院の報告書をずいぶん読んだといって批判しますが、政府にいればあらゆる種類の報告書を読みます。韓国銀行や三星経済研究院のものも読みますし、労働組合から出ているものも考えます。「引受委」の時期〔「大韓民国大統領職引受委員会」の略。大統領選当選者が、大統領職を円滑に引き継ぐために構成する委員会で、大統領就任30日後まで活動できるー訳者〕、要人ロードマップを作成する当時、三星の要人たちがきて諮問したことや、陳大済・前情報通信部長官が三星出身だったことなど、いくつかをあげて三星と特別な関係があるのではないかと誤解していますが、そのような特殊関係はどこにもありません。

 

社会発展を阻む財閥と官僚

 

李日栄 今日、新聞を見ると、李明博大統領もパン屋、ウェットティッシュのようなものをあげて、中小の小売流通業界に介入する財閥問題を取り上げて論じました。財閥が過度に市場を攪乱する形に対して、ただちに何かをするべきだというムードが形成されていますが、このような状態になっていること対して、洪鍾学先生はどのようにお考えですか?

洪鍾学 私は盧武鉉政権の時、かなり批判する方でしたが、ふりかえって見ると私たちの社会自体に限界があったと感じるようになりました。まず理念の地形と関連があります。10年ほど前、ヨーロッパで「リスボン戦略」〔2000年ヨーロッパ連合15か国首脳が合意した長期発展戦略―編集者〕が出ましたが、当時、韓国にはほとんど紹介されませんでした。現在進行中の「EU2020」も同じです。これはヨーロッパの首脳が合意した新たな統合発展戦略ですが、韓国が成長を模索するならば、他の先進国がどうするのか見てみることが必須ではないでしょうか。三星側の報告書を検索してみると、2006年にリスボン戦略に対する報告書がひとつありますが、とんでもないことが書いてあります。リスボン戦略が2005年に修正され、成長戦略を補強したので、そら、見てみろ、ヨーロッパも成長している、というように事実を歪めて語っています。私たちの理念の地形を財閥が掌握しているんです。進歩的な学者たちがこのようなことをきちんと紹介するべきですが、力量が足りません。盧武鉉政権の立場から見れば、財閥では自らの研究物をこれほど持ってくるのに、改革陣営には具体的な政策代案があまりない、このような状況が意思決定を困難にしただろうと思います。

2つ目は構造的な問題です。韓国で財閥が強固な位置を占めたのは1987年の民主化が決定的だったと思います。それ以前は強力な軍事独裁で財閥を統制しましたが、民主化以降、政治権力は任期5年が限界である反面、財閥権力は永続的な局面になってしまいました。ですから、官僚も5年単任の権力よりは財閥という永続的権力と仲よく過ごす方が重要になり、このために財閥がますます強固になりました。たとえば公正取引法を見てみましょう。すでに大部分の産業が寡占化された状況で、談合を捜し出すことも困難ですが、暗黙的な談合も可能です。公正取引法ではすでに手をつけられない水準で、官僚の立場からは、財閥によく思われなければ損害をこうむるので、政府規制もいっそう弱くなるという問題があります。

金秉準 政府に手段がありません。ですが、ここにまた何かが割り込みます。ローファーム、会計法人、官僚組織、地域のようないわゆる「コミュニティ」です。特に政権の後半になるほどその力が大きくなります。なので、私たちは、政府が公正取引をするには限界があると考え、「集団訴訟制」を考えました。財閥を規制できる力を市民社会にも与えるというものです。ですが、実際に政権内に入ってみると、何かを言い出すことすらできません。まず、政策議題として作ること自体が、国会からが不可能です。むやみに訴訟が起こされるという反発がすぐにありました。そのうえ、政府が他の懸案にひきずられながら、この問題は先送りにされ、公正取引法で国家中心の公正取引秩序を確立していく、というように整理されました。私は今後もこの問題は議論しつづけるべきだと考えます。公正取引の秩序を国家が独占管理するのが正しいか考え、本当に集団訴訟制で訴訟が急増するならば、そのことが経済秩序をどれほど害するのか、客観的で綿密な調査を行い、市民社会が財閥を規制して公正取引を監視し、消費者としての権限を行使させるべきです。

李日栄 財閥に対する統制は、官僚や国家にも難しいから、市民社会にその力を与える必要があるということのようです。韓国は財閥の国ではありますが、また官僚の国でもあります。国家の政策が執行される過程を近くで経験された鄭先生は、これについてどのようにお考えですか。

사용자 삽입 이미지鄭大永 私は政治勢力が官僚をどう統制できるかが核心だと思います。韓国は世界で最も強い官僚国家であると言っても過言ではありません。官僚による官僚のための官僚の国家と呼ばれる日本よりも、韓国の方が官僚の支配力がはるかに大きいと思います。日本は官僚が事務次官まで昇進しますが、韓国は、長官はもちろん、大統領府や国会、さらに金融機関など、民間部門まで要職を占めています。また、盧武鉉政権や李明博政権の経済政策を見れば、いくつかを除いて結果が似ています。その理由は、経済政策を実質的に樹立・執行する人が同じ集団、すなわち官僚という共同体であり、同一の利益集団であるためです。官僚問題が財閥問題よりもはるかに深刻です。大きく見れば、検察も司法も官僚であり、利益を共有する面が大きいと思います。

金秉準 保守政権になれば官僚集団とさらに密着していくでしょう。

鄭大永 盧武鉉政権の時は、努力はしましたが、結果には違いがありませんでした。

金秉準 内部で摩擦がずっとありました。外から入った人々が力を行使できません。まず情報自体に限界があります。租税分野だけでも、実は官僚だけが閲覧できる資料が、途方もなく多いと思います。もちろんその人たちが仕事をしていないというわけではなく、本当に熱心に仕事はしていますが、外部と考えの方向が違うために問題が生じます。またインセンティブ構造が違います。公務員はたいてい年俸1億ウォンにならないほどですが、その職をやめてからの方が民間の部分で経済的に潤います。当然、民間部門との関係に気を遣うことになります。

鄭大永 金泳三政権以前は、官僚が統制ではなくても、最低限、軍人によってではありますが、牽制はされていました。現在は、官僚を牽制する勢力がいません。政界にそのようなことをいうと、能力がないのだといいますが、私が見たところ、気楽な道を行っているだけです。官僚と仕事をすれば、彼らの勢力があまりにも大きいので、支援もうまくいき、仕事もしやすいと思います。このような状況では、根本的な改革や、国民の望む経済構造の変化を期待することが困難だと思います。官僚の属性は改革より現状維持が優先で、自らの昇進や出世が最も重要です。政権がいくら変わっても全く同じです。総合不動産税の例を見ても、必ずやるべきだと主張していても、政権が変わったらダメだといいます。ならば、官僚をどう統制できるかですが、私は新たな政治勢力が重労働の困難な道を拒まないならば、不可能とは思いません。いろいろ方法がありうるでしょうし、また、官僚を統制すれば、財閥問題も相当部分、緩和できると思います。

 

進歩改革勢力の人、価値、ビジョン

 

洪鍾学 現在、政・財・官・マスコミの癒着構造がかなり強固になっているという点を念頭に置かなければなりません。これを廃止することは事実上不可能に近いかもしれません。この険しい道を克服して解決するべきなのですが、脆弱な政治勢力としては大変だから妥協するのです。事実、盧武鉉政権の時はそのような姿勢を示しました。大統領が財閥を改革しようとすると、保守マスコミが経済を亡ぼすと批判し、不動産改革をしようとすると、官僚側から経済沈滞に耐えられるかと反発しました。事実上、政・財・官・マスコミの癒着勢力に振り回される状況でしょう。事実、次の政権もそのような可能性が高いと思います。私たちには武器がそう多くないですが、どこを打てば、この癒着を断つことができか、深刻な検討が必要です。

鄭大永 私は、選挙を通じて官僚を統制できるならば、さほど難しいとは考えません。私たちは、このような問題を解決できなければ先進国になれません。官僚を統制するひとつの方法は、長官の任期を政権の任期と同じにすることです。大部分の国がみなそのようにしています。ですが、韓国では長官を1~2年ごとに変えます。できるだけ多くの人間が長官になるという官僚の利害と合致します。ですが、1人の長官が5年間つとめたら、官僚はどうなるでしょうか。任期が1年だと、初めは情報を与えず、業務でも手を抜いて、いやがらせをしたりするでしょう。1年で長官が変わればこうすることもありますが、5年だとそうはいきません。少し問題があってマスコミで騒いでも、大統領が屈せずに5年間一緒にやると言えば、多くの問題が解決します。これができないのは、官僚の欲求もありますが、政界の要求もあります。いろいろと長官にしたい人が多いと考えていますから。でも、これは分け前の論理であって、国家を経営するという考えではありません。

洪鍾学 私はその問題について、もう少し難しいと思います。たとえば、金大中政権の時に崔章集先生が政策企画委員長に就任しましたが、集中砲火を浴びて辞任しました。政・財・官・マスコミの癒着に対する強い攻撃だと受け止めたんでしょう。癒着を打破できる相手が入ってきたので、総力戦をかけたのでしょうが、今後もそのようにするでしょう。最も重要なのは、長期的に官僚や財閥に対抗できる勢力を育てることだと思います。盧武鉉政権や金大中政権の時に残念だったのは、人を育てることができなかったという点です。当時そうした人たちが政府の中間レベル程度で国政経験を積んでいれば、今頃、長官クラスの重責を担うこともできたでしょう。もうひとつ残念だった点は、進歩的な研究所のようなものも作れなかったということです。三星経済研究所や韓国経済研究院が莫大な予算を使って韓国の理念構造を支配していますが、それに対抗できる進歩的知識人が結集できる場所がないということです。このような構造をそのまま放置すれば、10年後、20年後にも同じ問題が発生するでしょう。

金秉準 私たちに人材の元手が少ないのです。政界を見ても、各政党は国から政策研究費を数十億から数百億ウォンずつ受け取っています。その金を政策研究にきちんと使えば、充分にいい研究所、いい報告書、いい代案が出てくるでしょう。ですが、そのようなところに使いません。政策の専門家を育てていません。すべて国会議員補佐官や秘書官をやっていた人たちのポストを準備する程度のために使っているので、政権を取った後に政府に招聘して使える人がいないのです。党の政策専門家として党で育った人ならば、当然、大統領府の経済秘書官、社会政策秘書官として入ってくるべきですが、登用できる人がいないんです。そのようなポストには誰でもいいというわけにはいきません。該当分野を本当によく知っている人であれば、官僚勢力に邪魔されずに政策を押し通すことができます。実際的な情報をよく知っていて、きちんと分析できる人材が必要です。ですが、そのようなポストをみな官僚が掌握しています。大統領府の政策室も、政府部署の代表が来ている機関なのか、その部署を統制する機関なのか、よくわからないくらいでしょう。

ひとつ思い出したことがあります。2004年頃、格差問題をイシュー化することにしました。政府が率先してです。ですが、政策議題にしようとしたら、資料がひとつもありませんでした。中小企業、零細自営業者の環境や実態に関する資料が全くありません。そのとき初めて、私たちが専門調査に近い膨大な調査をしました。ですが、6か月ぐらい後にこのような資料が出ても、すでに遅いんです。元手が足りません。元手を積み上げるべきです。

洪鍾学 それも、そのとき初めて、進歩陣営でも、格差問題についての資料をかなり蓄積しました。私たちが参考にできる関連報告書が出たのが2006年頃でした。そのころから共感ができ始めました。

鄭大永 各分野でよく探せば、官僚でなくとも優れた政策専門家がいます。たとえば、教育問題の場合、不動産問題とともに韓国で解決が困難な難題ですが、このあいだ、現職教師が書いた教育改革に関する本を見て、そのような問題も少しずつ解決が可能だろうと考えるようになりました。その本には、政界にその意思さえあれば施行可能な、立派な政策の代案が数多く指摘されています。このような専門家を探し出し、活動できる場を作ることが何より重要なことです。

李日栄 少し異なるレベルで考えることもできそうです。盧武鉉政権の時期を考えると、福祉をはじめとして個別的な政策はいいものが多かったと思います。金大中政権でも基礎生活保障の枠組を作りました。ですが、問題は右往左往することです。これは、官僚を掌握することや、人材の元手を育てる問題というよりは、基本的なビジョンや価値、哲学をきちんと形成できなかったことに起因するのではないでしょうか。マクロ政策も同じことです。輸出のために為替レートに注力すれば雇用が増えるといった、過去のフレームから抜け出せずに右往左往しました。高為替レート政策は、産業別に見れば、内需産業、中小企業には不利で、大企業、輸出企業には有利な逆分配政策ですが、そのようなものにしがみつくことになります。

 

韓米FTA批准以降、何をするべきか

 

李日栄 韓米FTAも、このようなタイプの問題ではないかと思います。盧武鉉政権から始まり、李明博政権で決着させている局面ですが、開始から大きな流れをきちんとつかめていない代表的な事例だと思います。FTAが暮らしの問題に役に立つというフレームで突然、議論を始めてしまいました。これまで5年の間、国全体がこの問題で分裂し傷を負い、結局、昨年末に批准されました。野党側ではまた、廃止とか再協議という話が出ていますが、いずれにせよ簡単ではないと思います。推進勢力も反対勢力も、今後あらたに耐えなければならないことがあるでしょう。成長政策としての韓米FTAに対して評価し、今後、どのように解決すべきか議論できればと思います。

鄭大永 私も、実務を経験しながら、経済政策の効果をあらかじめ計算しましたが、それがあまりよく合いません。韓米FTAも同じことでしょう。それでも概略を申し上げれば、韓米FTAによる経済成長効果はさほど大きいと思われません。FTAが成長に及ぼす影響は2つの経路だと思います。ひとつは輸出が増えること、もうひとつは海外に出て行った投資が戻ってきたり、外国人投資が増加することです。ですが、FTAをやれば輸出だけでなく輸入も増えます。双方が互いに市場を開きますからね。昨年発効した韓国・EUのFTAを見ると、輸出より輸入の方が増えました。短期間なのでこれだけで判断することはできませんが、韓米FTAも輸出がさらに増えるという保障はありません。しばらくしてから分かるんです。また、国内企業の海外投資が国内に戻るだろうかということですが、これも容易ではないと思います。私が海外にいる時、韓国企業のヨーロッパ法人の責任者たちに、どうして海外に工場を移すのかと聞くと、2つの理由を挙げていました。市場開拓や関税は副次的な問題で、最初に韓国の困難な労使関係、2つ目は高い不動産価格です。このような高費用構造が維持される限り、FTAをやっても工場が簡単に戻ってきそうにはありません。

また、否定的な効果も、反対論者たちの言う通り、さほど大きいとは思いません。特に政府発表の通り、逆進防止(ratchet)条項や投資家・国家訴訟制(ISD)がきちんとまとめられて、韓国企業がうまくやれば、それなりに収支勘定を合わせることはできたと思います。ですから、韓米FTAがこれほど国力を投入するほどのものか、国がこのように沸き立たなければならないのか、よく分かりません。金秉準先生は盧武鉉政権の内部にいらっしゃいましたが、これをなぜ始めたのか疑問です。私が見る時、盧武鉉政権が簡便な経済政策のひとつとして選択したのではないかと思います。野党のハンナラ党も別に反対しませんでした。さまざまに重要な政策は多いですが、実行は困難なので、これをやれば簡単に経済が好転するのではないかと考えたのではないでしょうか(笑)。

李日栄 FTA反対陣営では、批判がいっそう強まっていると思います。金秉準先生は盧武鉉政権の時、核心的な役割をされたので、韓米FTA論議を見て、ご負担に感じられることが多いと思います。

金秉準 否応なく返事をしなければなりませんね。誘導されているようです(笑)。 FTAを軽く考えて推進したのではまったくありません。ずいぶんと悩みました。盧武鉉前大統領個人から見てもずいぶん昔の話です。開放型通商国家になるべきだという彼の考えには根強いものがありました。農民たちに会う時もそうでしたし、テレビ討論に出ても一貫して開放するべきだと主張しました。これを新自由主義であると一方的に決め付けていましたが、そうではないとも言いました。開放しなければさらに困難なこともあるということでしょう。FTAには攻撃的な部分もありますが、かなり防御的な部分もあります。実際に自動車のようなものは、関税2.5パーセントという点が市場では決定的な影響を及ぼします。ソナタ級の中型車は数百ドルの違いが市場シェアにかなり大きく作用します。当時、他の国々はFTAをやっていましたが、私たちは多国間交渉に奔走している状況でした。ですが、この多国間交渉は、農業部門などでかなり停滞していました。それで私たちも二国間交渉をするべきだという切迫感や、防御的な側面があったのでしょう。これを誤ると、本当に売国奴扱いされるだろうと思いながら進めたんです。

FTAは、さきほどおっしゃったように、プラス効果が出ることもあり、マイナス効果が出ることもあります。究極的には私たちの体力にかかっています。外に出て運動すれば風邪をひくこともあり、さらに元気になることもあります。私たちの身体の免疫力にかかっています。だから免疫力を強化するための準備をしなければなりません。たとえば、韓国の行政水準では、現在の開放をすればISDの被害がありえます。なので、これを見直して、慣行を変え、政策管理をしなければなりません。盧武鉉政権では政権スタートと同時にそれらのすべてに着手しました。ISDだけをとってみても、政策過程管理、品質管理を全公務員にやらせました。それが李明博政権になって中断したのです。

他の産業分野も同じことです。少しずつ調整しながら免疫力を育てましたが、現在はそうではありません。今、野党も問題な
のが、私たちの体質をどれほど強化したのか問うべき状況で、通商交渉本部長を前にして、交渉がきちんとできなかったと問い詰めています。そのことで世の中が騒々しくなるだけで、実際の体力強化のための準備がうまくいったかどうかは、調べる方法がありません。

洪鍾学 開放について、私は社会統合型グローバリゼーションなのか、特定利益団体のためのグローバリゼーションなのかを区別します。さきほど労使問題を取り上げて論じられましたが、韓国の大企業は韓国の労使関係を問題視しながら、労働を無力化して解体する手段として開放を語ります。たとえば、韓国が中国企業とどのように競争するべきかをめぐって、中国の賃金は韓国の10分の1程度であるから、私たちの労働者の賃金もそのように低くしろと要求するのです。

私が盧武鉉政権の開放政策に問題があったと考えるのが、「用・世界化戦略」を表明したことですが、この戦略はグローバリゼーションをやって勝者と敗者がでてきたら、敗者を政府が支援するというものです。これはかなり保守的な論理です。企業が世界的な競争力を整えるためには労働の競争力を高めるべきで、そのためには賃金を低くして労働市場をさらに柔軟化するべきだという論理が、韓国の開放政策を主導しているということです。これはまさに大企業、財閥の論理です。ですが、ヨーロッパで言う開放の論理は違います。アメリカの前労働省長官ロバート・ライシュ(Robert Reich)のような人たちも、グローバリゼーションという開放は仕方ないけど、国家の競争力は優秀な労働力から出るのだから、国家が労働に投資しなければならないといいます。私は一歩進んでこのように言いたいと思います。韓国の労働者の賃金を中国のように10分の1に下げることが、大企業がかかげるグローバリゼーションの論理ならば、韓国の労働者の生産性を中国の労働者の生産性の10倍に高めて競争しようというのが、進歩陣営の取るグローバリゼーションの戦略でもありうるということです。進歩陣営の内部では、開放すれば被害が大きいから開放自体に反対する主張もありますが、開放を受け入れる立場からは、労働の生産性を高めるために、政府の力量を集中する戦略を選ぶこともできます。

「EU2020」や「リスボン条約」が、私たちに全く紹介されなかった状況において、ずっと労働市場の柔軟化が必要だ、企業競争力が重要だということだけが強調されています。ですが、企業がうまくいけば、その果実が国民経済の好循環として戻ってくるでしょうか。そんなことはありません。これは誤った道を進んでいるということです。この開放は資本のための開放です。今はこれ以上、国内資本と国内労働が利益を共有するのではなく、国内資本と海外資本が利益を共有し、それに対して国内労働が排他的な利害関係を持つようになる、構造的な転換を模索することです。今、ISDなどについて、進歩陣営で強力に反対する理由のひとつがこれです。財閥が稼いだ金が、私たちの内部で先に循環するならば、あえて問題視する必要もないでしょうが、今、全くそうではない状況において、むしろ財閥の利害がさらに強まる形で進んでいるからです。だから、逆進防止条項が重要なのです。財閥が最も心配するうちのひとつが、政権交代後にありうる財閥改革です。ですが、韓米FTAを締結したら、次の政権で財閥を規制する時、かなりブレーキがかかるかもしれません。

 

租税と財政問題、いかに解決するべきか

 

金秉準 政府を運営した立場から労働市場の問題を見ると、今、政府ができることはなにもありません。急務なのは、雇用のセイフティーネット、その次に失業政策、つまり、社会的なセイフティーネットを確保して、生涯教育体制を確立することです。これがうまくいっていないので、木にぶらさがった猿が、その木が倒れるまで我慢して、一緒に絶壁から落ちるというような状況なのでしょう。この構造をどうにかして解決するべきですが、私は今後も、政府は簡単に解決できないと思います。それを解決しようとすると、財政問題が噴出せざるを得ません。今、韓国の財政が租税をさらに確保しようとするならば、中産層に手を付けるしかない構造になっています。朴正煕時代からいわゆる「租税ポピュリズム」によって、庶民、すなわち勤労所得者の45パーセントほどが税金を出していませんでした。法人事業者も50パーセント近くが法人税を出さない構造だったんです。ですので、租税格差〔企業が負担する労働費用と勤労者が実際に受ける賃金の差で、租税や社会保険などの総合的な負担率を示す―編集者〕を他国と比較すると、かなり低いと思います。ここに手をつけなければ、国民負担率〔国民が税金と社会保障基金で出す総額が、国内総生産に占める割合―編集者〕を30パーセントにまで引き上げることは不可能です。だとすれば、福祉も生涯教育もだめだということでしょう。

ならば、この問題は誰が解決するのでしょうか。私は政府には解決できないと思います。窮極的に、構造調整の圧迫を受ける労働者と企業が自ら解決するべきだということです。これについて、盧前大統領が以前、力はみな市場に移ったと言ったのはそのような意味ですが、政府がいくらやろうとしてもだめだということです。そこで出てきたのが「ナマズ論」でしょう。池にナマズを1匹入れれば、ドジョウが助かろうとしてじたばたしますが、そうしていれば健康になるということです。大企業中心の労働市場が、今、かなり歪んでいます。このように行けば、資本も労働も共倒れになりますが、開放で刺激を受けてこそ、しっかりするのではないかということです。

資本勢力も、内需市場が強化されなければ、生き返る方法がないということを理解しなければなりません。これまでは先頭グループを追いかけるファースト・フォロワー(fast follower)でした。なので、早く付いていきさえすればよかったんです。市場が海外にあるので内需市場は別に関係ありませんでした。今はそうではありません。それこそファースト・ムーバー(first mover)として先に動いて世界市場を先導しなければなりません。当然、創造力や実験性が重要です。それだけ内需市場が重要になるんです。国内市場でテストできなければ、世界市場にも出て行けないんです。内需市場を生かすためには、どうするべきでしょうか? 結局、労働者と消費大衆が購買力を持つべきだということでしょう。資本がこれを認識するべきですが、これまで政府が過保護だったので、このようなことが感じられないんです。開放体制になれば、もう少ししっかりするのではないかと、私は希望的に見ています。

洪鍾学 盧武鉉政権にいた方々に会ってみると、一種のトラウマがあるようです。あの時は何をしようとしても叩かれました。市民社会でも助けずに批判ばかりでした(笑)。最近、韓国版「バフェット税」(富裕税)の話も出ていますが、彼らは「はたしてうまくいくだろうか?」という反応でした。総合不動産税のトラウマではないかと思います。1~2パーセントくらいの人々に賦課する税金だったのに、国民がみな怒りました。

金秉準 私が、総合不動産税の「元凶」ですが、ある日、タクシーに乗って、運転手に総合不動産税についてちらっと聞いてみました。すると、まったく政治家たちはどうして税金ばかり取っていくのかと激昂していました。そこで私が、運転手さんは総合不動産税を出しますかと聞くと、税金は国民がみな出すべきものだと言うのです(笑)。税金というものはこのように大変な問題なのだなと実感しました。住宅所有者の2パーセントにもならない層を対象にしますが、実際に対象者がほとんど1人もいない地域でも、たとえば私が故郷に行けば、国民を苦しめて税金だけを多額に取ると、怨念の声が高かったんです。総合不動産税の税収は、財政の厳しい地方自治体に分配することになっていたので、そのような地域にはいいことなのに、これに反対するというのです。それだけ租税抵抗というものは深刻だということでしょう。

洪鍾学 今はムードが少し変わっているようです。最近、進歩陣営でも税金をもっと出そうという運動をやっています。租税問題を、野党に要求ばかりせずに、市民運動レベルで世論を喚起することが重要のように思えます。また、国民にまず福祉を享受させ、税金が浪費されないことを示すのがカギです。そのためには果敢な体制転換が必要です。たとえば、今、投資税額控除が1年で3兆ウォンくらいになりますが、さきほど言った通り、雇用が伸びない状況で、国家の目標が雇用ならば、金をそこに使おうというものです。いわゆる雇用補助金です。2兆ウォンならば2千万ウォンの月給を国家が与えます。そうすれば10万人を雇用できます。20兆ウォンならば100万人ぐらいになります。今、この政府で何兆ウォンも河川整備事業に投入するようなことを見ていると、私たちは国民に税金を使う、その程度の余裕があるということです。新政権になって、このように雇用のために支出する時、保守陣営で反対する人は、与党にいながら財政破綻を憂慮したハンナラ党の李漢久議員ひとりしかいないと思います(笑)。李明博政権が4大河川の整備事業で国をダメにする時は黙っていて、福祉と雇用に支出することを問題と見なすならば、論理的に矛盾しています。2013年体制では、このような部分に果敢かつ大胆に支出することによって、政府が仕事はこのようなことであるという点をきちんと示せればいいと思います。

 

国家の長期生存戦略を検討すべき時

 

金秉準 今回、韓米FTAの交渉局面で野党に対して残念だったと思うのは、韓国の体質強化に最も重要なのが生涯教育体制や失業対策です。セイフティーネット自体を強化するパッケージを代案として出して、政府やFTAに賛成する側と「取引」しなければなりません。そして租税構造面でも最低限、ある程度の租税は目標として提示しながら、単純に企業が売上を上げて税金をより多く出す程度ではなく、国民に対して税率もこのように調整しようと、敏感なことにも触れながら進めるべきです。FTAや開放をせざるを得ない状況になるのであれば、ここでパッケージを出して取引するべきです。国民に非難されるようなことはやらずに、ただ無条件にダメだといってバリケードを作ってデモをして、実際には通過してしまいました。実は通過するだろうとみな言っていました。アメリカが批准しましたが、韓国の方が批准しなければ、今後、国際社会で条約を結ぶ時、韓国の地位はどうなるでしょうか。国会議員たちもそのように考えたはずですが、その一方で、そのまま通過させてしまったんでしょう。このような議論構造が本当に残念です。

李日栄 韓米FTAについては、肯定的な効果も不確実で、否定的な効果も不正確ですが、これまでの過程では、発生しうる否定的効果が浮き彫りになりました。否定的効果についてはずっと注目しながら、それをテコにして安全装置を補完し強化する努力をしていくべきだと思います。

金秉準 今後もこれが後戻りできないならば、望ましい体質強化のために努力するという約束を、政府や与党に要求しつづけ、結果を出すことで、国民を説得できるでしょう。

李日栄 韓米FTA問題で難しいのは、協定内容の範囲や深度が空前絶後なためです。過去のFTAと比較してみると、今回はアメリカが膨大な規模の新しいFTA教科書を書いているわけですから、今後提起されうる問題も非常に多いと思います。あらかじめ問題を把握することはかなり難しいと思います。そのような面で市民運動や政界でも、具体的な争点を発見しつづけていくべきだろうし、他方で、なにはともかく発生する問題に対する準備をしていくべきではないかと思います。

洪鍾学 経済学の教科書に出てくる通りにやるならば、FTAで誰かが利益を得るのだとすれば、その受恵者に聞いてみたらいいと思います。あなたが利益を得ることで、どれほど税金として出せるのか。たとえば、「FTA税」を作って20兆ウォンぐらいの税収を期待すると言った時、それを誰かが出す価値があるといえば、FTAを締結しようというでしょう。20兆ウォンならば、さきほど申し上げたように、年俸2千万ウォンのサラリーマンを100万人創出できます。

李日栄 政策の大きな流れを作り、その流れに合うように政策をよく配列することが重要だと思います。盧武鉉政権の政策の中には、成長の源泉を発掘しようとするものもかなりありました。東北アジアの協力や地域革新がそうでしたが、ここには開放という流れがあり、もう一方には協力という側面もあります。ヨーロッパ統合も大きく見れば、2本の軸で行くでしょう。ひとつは市場統合に進んで、ヨーロッパ経済共同体(EEC)がひとつの軸となり、また協力のレベルでヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)がもう1つの軸になる形で進みます。ですが、盧武鉉政権では、ある瞬間、市場中心の方に進んでしまいました。これからは協力を通じた開放の効果を強調する時、成長の源泉もさらに確保できるでしょう。事実、東北アジアがヨーロッパと異なるのは、市場や貿易レベルで見ようとするなら、中国のような国とは関税が問題にはなりません。アメリカともはたして関税が問題なのでしょうか? 韓国の自動車産業を見れば、韓米FTAがない時にもかなり売りさばきました。

洪鍾学 ここで注意するべきことがあります。最初は中国を過小評価しているという点です。今、世界の輸出第1位が中国です。先端技術でも韓国を追い抜いており、韓国の大企業も安心できないほどです。そして歴史的に見る時、中国が強くなれば、朝鮮半島は政治的に危険だったんです。そのような意味で、韓国経済がはやく堅実になることが重要です。2つ目は、今、韓国は第2次グローバリゼーションの過程を通過しているということです。経済史家が見る時、第1次グローバリゼーションは1900年代の初期にあり、その衝撃に勝つことができずに、世界は第1次大戦と第2次大戦を体験しました。今、第2次グローバリゼーションを迎えていますが、私はヨーロッパ統合もこれに対する対応戦略だと思います。日本の場合、その対応を怠ったために崩壊していますが、中国の浮上で世界経済が揺れ動く可能性も高いと思います。激変の時期に入ったというわけですが、そのような意味で、FTAを単に経済的な問題でなく、国家の長期生存戦略レベルで考えるべきだという点を申し上げたいと思います。

 

東北アジアの協力と統合の行方

 

金秉準 おそらく地球上で東北アジアのようにバラバラなところもないでしょう。どこもみなブロック化されていて、共同の防御ネットワークも形成していますが、東北アジアだけがそのようなことをできずにいます。事実、韓・中・日の指導者がみな頭を悩ませながらも協力できないのは、結局、日本の過去の問題のためです。独島紛争、南京虐殺などですね。このような状態なので、東北アジアがきちんと秩序を整えられず、いつも私たちの持つ力が発揮できないのです。摩擦や葛藤が起こるだけです。

李日栄 石油や食糧のような資源を見ても、東北アジア3国ぐらい大きな顧客はないのですが、世界市場では力を発揮できていません。

鄭大永 ヨーロッパは東北アジアに比べて経済統合に有利な点が多いと思います。南ヨーロッパと中央ヨーロッパの差は少しあっても、経済構造がかなり似ていて、何よりも第2次大戦の戦後処理がきちんと終わりました。その後ながらく資源協力や単一市場を経て、単一通貨にいたるまで少しずつ統合をおこなった結果が現在ですが、それが一部、誤作動を起こして、今、ひどい財政危機を体験しています。これに比べて東北アジア諸国の事情はかなり不確実です。東北アジアの協力が韓国経済にとって重要だということは明白ですが、問題の中心に朝鮮半島の分断の問題まであります。朝鮮半島の分断は韓国の政治・経済・社会の様々な面を大きく制約するだけでなく、東北アジア諸国間の正常な関係設定を困難にしています。たとえば、韓国の銀行や企業は、経済力に比べてより高い金利を支払うことで、ようやく外国から借金できることや、ロシアとエネルギーや鉄道の協力が難しいことなどは、朝鮮半島の分断と密接に関係しています。また、東北アジア諸国は経済力格差がかなりあります。一人あたりのGDPが4万ドルの国から数千ドルの国まであります。産業構造もそうです。日本がこれまでは立派な成果を示していましたが、徐々に沈滞しており、中国が独走する可能性が大きくなっています。このような妙な構造のために、東北アジアの経済協力はどこからどのように解決するべきか、現実的な代案を見出しにくい状況です。そのうえ、3国が2008年の経済危機を体験し、どうにか外国資本にあまり動揺させられないように苦心し、通貨スワップ協約〔currency swap、両国間で約定された金額の範囲内で必要時に自国通貨を預けて相手国の通貨や別途指定した通貨を借りることができる契約―編集者〕を結んで、共同の外貨準備高を作っておくということは達成しました。

金秉準 それも盧武鉉政権の時に始めたことで、各国の中央銀行総裁の間に対話のチャンネルが作られたのが土台になったものです。今後も金融危機が再発する公算が大きいですが、そういうものを防御する主要な装置になるでしょう。このような面から少しずつ協力していくべきです。もうひとつは租税協力です。東北アジア地域だけでも最低限の租税をめぐる競争をやめたらどうかと思います。今、韓国の法人税が低いので、日本が韓国よりももっと安くすると言っています。目標を20パーセント以下にして引き下げるというのですが、このように税金を互いに引き下げる競争はやめた方がいいと思います。主として直接税を引き下げているのですが、そのようなことはやらないと約束することが重要です。各国の財務長官が租税のガイドラインのようなものに合意することもできます。ヨーロッパのような場合はEU体制を通じて規律しています。マーストリヒト条約を通じて、毎年、財政赤字の限度を国民総生産(GDP)の3%以内と規定しており、国家の借金も国民総生産の60%を超えないようにしています。結局、税金を勝手に下げたり、支出も勝手に増やしたりしないようにしようということです。これがきちんと守られず、今回の財政危機をもたらしました。すると、また財政同盟を強化して、これに対する規制を強化しています。とにかくこのような形で互いに協力していくのです。

李日栄 通貨スワップが増えたことは重要な進展でしょう。暮らしの問題には経済成長の問題もあり、生存の問題もありますが、東北アジアの協力は、成長と生存にすべて必要な条件です。韓国、北朝鮮、中国、日本が出会う様々な接点で、様々な産業の融合・複合を試みてみることや、エネルギー、食糧問題に対する協力を引き出すことができるでしょう。エネルギー協力も成長の動力になりうるでしょう。それ以前に、まさに原子力発電のような懸案はきわめて深刻な生存の問題です。日本で大地震とともに原発事故が起きましたが、今、中国では東部の海岸線にそって原子力ベルトが形成されています。

金秉準 中国の状況が深刻です。中国は原子力発電所を大々的に作ると言っています。黄砂だけでも大きな問題なのですが、あちらの原子力発電所は、まかり間違えば放射性物質が風に乗って朝鮮半島にみな飛んできます。これについて対話のチャンネルが必要で、私たちも深刻に認識し、争点化するべきではないかと思いますが、逆にそれを韓国が建設するなどと言っているところでもあります。

李日栄 日本は市民社会を中心にムードがかなり変わり、ソフトバンクの孫正義氏のような人たちは、これまでとは異なるエネルギー戦略が必要だという反省を先頭に立って提起しています。そのような流れは東北アジアで共有されるべきだと思います。

金秉準 そうですね。盧武鉉政権がよくやったことのひとつが、電気料金を世界の平均水準に引き上げようとしたことです。そのようにして代替エネルギーの方に関心が行くように努力しました。ですが、李明博政権になって、緑色の成長を語りながら、代替エネルギーの方に注力するために、電気料金もある程度、相対的水準を維持するかと思ったら、むしろ下げてしまいました。そして最後になって料金を引き上げて大きな非難を受けています。そのせいでしばらく代替エネルギーの方が大きな困難を体験しました。

 

新たな成長拠点、地域に求めよう

 

李日栄 ともあれ、新たな成長方式を見出すことが、切実に必要な時期であると思います。今の第2次グローバリゼーションの過程は、全世界的な産業構造の変化と関連があります。いわゆる「ビッグビジネス」が形成された20世紀の初めとは異なり、ポスト・フォーディズムに切り替わって「スモールビジネス」と関連する革新型企業が出現すると同時に、協同組合のような多様な企業形態が共存する構図を考えることができます。そのような転換の場がヨーロッパとアメリカですが、たとえばアメリカの西部では東部と異なり、シリコンバレーのような地域を単位とする新たな革新モデルを持っています。盧武鉉政権でもこれを参照して、中央政府中心の首都圏発展戦略を修正しようとしました。このように地域に新たな成長拠点を作ることが今後も必要ではないかと思います。

金秉準 きわめて難しい問題です。まず人材構造ができていません。地方大学の育成や人材養成計画が伴わねばならず、地方自治体に自治権がはるかに多く与えられなければなりません。道や広域市くらいになれば、産業経済自治をおこなうというレベルで、企業を誘致するインセンティブを与えられるような構造になるべきです。今は土地利用に関する問題から財政的インセンティブを与える問題、大学を育成する問題など、あらゆることを中央政府が握っている状況です。またインセンティブを付与する時、特恵の問題や疑惑の素地も多いと思います。

李日栄 これからは産業構造上、財閥や大企業が雇用を起こしにくいでしょう。過去には国民経済を云々しながらも財閥にすがっていました。ですが、今は政府が財閥を圧迫しても雇用を起こすことができません。結局、雇用をどこで創り出すのか、根本的な検討が必要です。自治権が問題ならば付与し、財政が問題ならば投じて、規模が問題ならば育てるべきでしょう。

金秉準 今、国家のインセンティブ運営を見ると、とんでもないことに使っている場合が多いと思います。大学の支援も同じです。初めから浪費的な要素をかかえて支援する場合もあります。たとえば、雇用をどこで作り出すか考える時、サービス産業、特にITの中でもソフトウェアの方は注目するだけのことはあります。ハードウェアよりはソフトウェアの方が雇用効果は高いのですが、今、韓国の水準はあまり思わしくありません。また、部品素材産業も有望ですが、これもまた壊滅状態でしょう。だから国家がそこに金を投入します。ですが、何が伴わないかといえば、まさに人材です。人が追いつこうとするなら、大学が構造調整をしなければなりません。たとえば、私たちが自動車にシステム半導体を作って装着するべきだとすれば、自ずから大学の機械工学科と電子工学科が結合するべきですが、この2学科がそのようにならないということです。なので、システム半導体を作る企業が人材を求めることができません。システム半導体のようなものは、中小企業がいちはやく取りかかって開発するものであって、大企業はやりたくてもできない業種です。ドイツではこのような部門が途方もなく大きく、今のシーメンスがそのようにして成長したのです。私たちにはそれができないんです。人材も伴いません、資本が伴いません。なので、このような中小革新企業が成長しうる環境を作ることができないんです。単にクラスタリングの問題だけでなく、金融から人材供給にいたるまで、生態系自体が崩壊しているんです。

洪鍾学 盧武鉉政権から始まった公企業地方移転政策によって、今、当該企業の職員たちが地方に行っています。ですが、相当数が辞表を出すといいます。理由が何かといえば、子供の教育のためでしょう。子供の教育問題が解決できなければ、地域均衡はできないということです。そこで私が提案したのが機会均等選抜制です。たとえば、大学入試で地域別・所得別割当を通じて自分と条件が似通った人々と競争するようにするんです。実はこれが公正な競争です。今のように誰でも同じ試験を受けることが公正だと考える固定観念を破ることができなければ、受け入れられないと思いますが、この機会均等選抜制はアメリカ方式です。ハーバード大学はアメリカ全域から新入生を受け入れます。もちろん一流高校出身者は成績がいいですが、ハワイやバージンアイランドのような地域の学生たちは成績がよくなくても受け入れます。数代に渡って大学を行けなかった家族の子供も優先的に選抜します。このような制度が社会体制の転換にきわめて重要です。

企業や政府でも地方大出身者や高校生の中から機会均等選抜制で採用すればいいと思います。全国各地にいる高校生を直接選ぶ形で選抜体制を変えようと、私が数年来提案していますが、多くの方々がそんなことが可能だろうかと反問します。ですが、事実アメリカはこのような方法で、高校を卒業して職場に入って何年か仕事をし、夜間大学に通ってビジネススクールを卒業して、それからいい職場に転職してCEOになるようなケースが多いと思います。かなり以前から私たちは、四択選択式の試験を受けるのが公正だと考えてきましたが、実はひとつも公正なものではありません。ソウルの江南地域〔漢江の南側の富裕層居住地域―訳者〕の学生たちは1か月に数百万ウォンも予備校の授業を受けて、農漁村地域の子供たちは全くそんなことはできませんが、彼らが一緒に試験を受けることが公正だというのは、まったくもって話になりません。

李日栄 お話しのなかに多くのアイデアが出てきました。財閥、官僚、FTA、東北アジア、地域などをお話しになりましたが、このような問題が成長の足を引っ張っていると考えることができます。李明博政権になって1年後に逝去した金大中前大統領が3大危機を取り上げて論じました。民主主義の危機、庶民経済の危機、南北関係の危機です。複雑な韓国の現実を実によく要約した診断ですが、この3大危機もまた互いに関連があると考えるべきでしょう。成長を制約する問題は庶民経済の危機と関連があり、民主主義や南北関係の危機が新たな成長を阻むという側面もあります。

特に南北関係を暮らしの問題と関連させてもう少し議論したいのですが、すでに時間がかなり経過しました。残念ですが、そろそろ議論を終えなければなりません。今後、私たちが新たな秩序を作っていく時、どのように暮らすべきかという問いを避けることができないと思います。様々な論点があるでしょうが、優先順位を付けてみることも必要です。最近、若者たちの間でバケットリスト(bucket list)、「死ぬ前に必ずやりたいこと」のような目録作りが流行しているといいます。このような形で2013年以降、新たな成長のために切実なことについてお話し下さりながら、この座談会を整理できればと思います。

 

私たちはどのような成長を望むのか

 

鄭大永 進歩陣営は成長に対してコンプレックスを持っているようです。コンプレックスが2つの方向で見られます。1つは、成長はいいことではなく分配だけが重要だという考えでしょう。ですが、ヨーロッパの事例を見れば、成長と分配は充分に一緒に進めることができます。長期的には一緒に進めなければなりません。成長もして分配もうまくやれば、国民の生活の質ははるかによくなるでしょう。もう1つは、成長は私たちにはよくわからないから、いわゆる成長論者に任せようという考えです。この時の成長論者とは金利を引き下げて為替レートを引き上げる人々でしょう。ですが、そのような方式では成長が持続できないということは、家だけを作って成長しつづけることができないということと同じでしょう。今日の座談会でもそのことは確認されました。まず成長と成長政策について認識を正すことがきわめて重要だと思います。

次に具体的にどのような成長戦略を選ぶのかという問題です。韓国経済は対外条件がさほど悪くはなく、おかしな政策さえやらなければ、企業の競争力がありますから成長率自体はさほど問題になりません。ですが、問題は成長が雇用につながらないということです。結局、国民の感じる成長戦略の核心は雇用政策です。雇用を増やすことは過去のすべての政権が目標にしましたが、実際に成果はほとんどありませんでした。もちろん簡単ではありませんが、方法がないわけではありません。先に雇用を増やすことを阻んだり、逆に雇用を減らすような政策をおこなわないことが重要です。実際にそのような政策が多いと思います。代表的には金融側から銀行を設立することを禁止しているという点です。今、かなりの国々は、銀行法上、設立要件を整えて申請すれば、設立を許容する準則主義を採択しています。銀行が新しくできれば企業投資と同様になかなかいい雇用が増えます。また、雇用を減らす政策のひとつは、健全な銀行間の合併をあまりにも簡単に許容するということです。健全な銀行間の合併は、経営層と株主には利益になるでしょうが、いい雇用が何千もなくなって、金融産業が発展することも、輸出が増えることもありません。次に、雇用を増やせる具体的な政策を探して施行することですが、そのうちのひとつが中小企業の代表取締役に対する連帯保証制を廃止することです。この制度のある国はあまりありません。連帯保証制の廃止は強力な中小企業支援政策であり雇用創出政策です。企業を経営して、下手すると自分と家族の財産までみな手放さねばならないこともあるということが、創業を忌避する最も大きな理由でしょう。このように雇用を増やす政策は、探してみればまたたくさんあるでしょう。

最後に原則的な話ですが、韓国経済の問題解決が難しい理由のひとつが、立派な方々がかなり巨大な言説に埋没しているということで、もうひとつは、問題が難しいと簡単にあきらめてしまうことではないかと思います。今、韓国経済はきわめて困難な状況ですが、他の見方をすれば、困難だというのが言い訳のように見えます。私を含めて多くの人々が、既得権を守る言い訳をしているのであって、解決が不可能なわけではありません。官僚の統制もそうで、FTAのためにさらに緊急な財政改革、教育改革などが後回しにされ、農業や金融産業がかなり遅れていることが代表的だと思います。各分野で必ず必要な政策を探し、よくデザインして現実に適用させることが、2013年にスタートする政権が成功するための勝負どころになるでしょう。

洪鍾学 古い思考から抜け出すことが一番重要です。李明博政権になってからは外国為替危機の時の経済官僚をまた雇用しています。今年はかなり不安ですが、昔の成功神話に対する漠然とした期待が相変らず存在します。李明博大統領も実はそのようなことで選ばれたのでしょう。ですが、世の中変わりました。新たな環境に見合う新たな道を探すべきです。そのような面で財閥はこれ以上、国民企業でないことを認識するべきです。これまで数年間、私たち国民が大変な時も、財閥は国民経済に寄与するよりは自らの利益を増やすのに血眼でした。裏路地にまで入ってきてスーパやパン屋、軽食堂のような業種にまで拡張する形でです。雇用もしません。また、相当数の財閥には外国人株主が入っていますが、国民企業の役割をしないのであれば、外国企業とほとんど差がないという点を認識するべきです。

何日か前にロバート・ライシ教授が「LA占領」(Occupy L.A.)デモで演説するのを見ると、彼が言うには、これまでの保守主義哲学者たちは、労働者や失業者が貧しいならばその個人がだめだからそうなったと言った、だが、今はそのような人が数百万人もいる、ならば、それは個人の問題ではなく体制や国家の問題であるというんです。アメリカでも同じことを言っています。今、韓国の財閥企業は1年に数兆ウォンずつ利益を出していて、全般的に経済事情は悪くはありません。それでも韓国の大統領は、若い人々の目線を低くしろ、「私がやってみたことがあるからわかるのだが」、一生懸命やればいいのだと繰返し言います(笑)。韓国の現実が、個人の問題ではなく国家の問題であるという点を認識する瞬間に、変化できると思います。盧武鉉政権ではできなかったけど、今は可能だと考えるんですが、2008年以降、新自由主義神話が崩れました。全世界の人々が、企業が成功し、金持ちが幸福ならば自分も幸福だろうという幻想をやめ、新たな道を探しています。答はすでにあります。ひとまず保守主義神話を克服することが重要です。特に韓国社会は、政・財・官・マスコミの癒着のために、理念の地形が保守一色ですが、ここから脱しなければなりません。これが2013年体制を作る始まりだと申し上げたいと思います。

金秉準 私の考えでは、持続可能な成長が核心です。2つの重要なことがあります。まず成長するべきだということです。政権を取るという人はこれを明確にしなければなりません。近刊の本にも書きましたが、実際に進歩陣営の誰が大統領になっても、その人はその日の夜からは成長を考えないわけにはいきません。問題はその成長が持続可能であると同時に、富が一方に偏重したり中途半端になったりしては絶対いけないということです。また、内需基盤が強化され、多くの人々が仕事を探して消費をし、その消費を通じて市場で革新が起きる時、社会が安定的に共生しながら成長できるのではないでしょうか。進歩改革を主張する多くの方々が、何をもって成長するのか深く考えるならば、考えが大きく変わるだろうと確信します。今、その深い考えがないので、開放政策やサービス産業に対して無条件にブレーキをかけているのではないかと思います。保守陣営もやはり財政や福祉に対して新たに考えるべきことが多いと思います。私たちが税金をより多く出し、社会のセイフティーネットを強化してこそ、自分も生き残り、他人も生き残るのですが……。韓国社会の最も大きな問題は、マスコミも政界もともに互いに怒り、その怒りのうえで権力を獲得しようとしているんです。物事に対して怒り、それに便乗して政権を取った者は、必ず、その怒りによって崩壊することになっています。

今、若年層を刺激して、おまえに就職口がないのは大統領のせいだと言っていますが、ならば自分には代案があるのかということです。代案もない状態で政権をとって、1年が過ぎ、2年が過ぎれば、より大きな怒りがブーメランになって戻ってくるでしょう。国家はより一層不安になります。そのために持続可能な成長がどのように可能か、みな深く考えてくれたらと思います。おそらく政界は、このようなことをあまり深く考えないでしょう。明日すぐに票をもらうために、怒ることくらいやさしい方法はありません。結局、知識人集団で持続可能な成長モデルに対してさらに深く研究し、新たな言説を提出する時、政界もそれに付いてくるしかないでしょう。この討論がそのような考えの糸口になるのではないかと思います。

李日栄 今日の「対話」では、2013年以降、新たな秩序を形成する際に直面する、暮らしの問題について話し合ってみました。国際情勢レベルで大きな変化があり、韓国をはじめ様々な国で権力交代がおこなわれる時期です。冷戦秩序や分断体制が新たな秩序へと移るこの時、新たな成長モデルはいかなるものか、根本的な検討が必要です。これまでの韓国社会が、朴正熙モデルと新自由主義モデルが混合した状態だったとすれば、これからは持続可能な成長と雇用を核心的な目標にするべきだということを、今回の「対話」で共感しました。また、成長の持続性を阻害する社会格差を、政治的に政策的に統制する方案も用意しなければなりません。この座談会の冒頭で、どのように暮らすべきかという問いを投げかけてみましたが、本来、新たな生産力の源泉については、多くのことを議論することはできませんでした。この問題については、今後、さらに関心と努力を傾けなければなりません。長時間、いいお話しをお聞かせ下さり、本当にありがとうございました。(2012年1月26日/於・細橋研究所)

 

翻訳: 渡辺直紀
季刊 創作と批評 2012年 春号(通卷155号)
2012年 3月1日 発行

 

発行 株式会社 創批
ⓒ 創批 2012
Changbi Publishers, Inc.
513-11, Pajubookcity, Munbal-ri, Gyoha-eup, Paju-si, Gyeonggi-do
413-756, Korea