混沌の米大統領選、アメリカの民主主義は衰退するのか

 

創作と批評 190号(2020年 冬)目次

 

徐正健

慶熙大学政治外交学科教授。著書『アメリカの政治が国際問題に出会う時』『現代韓米関係の理解』(共著)『アメリカの政治と東アジア外交政策』(共著)等がある。

 

 

1.はじめに

 

   アメリカの民主主義に何が起こったのだろうか。他国の民主主義をどのような基準でどのように評価できるのだろうか。今回の2020年米大統領選と4年間のトランプ時代は私たちにアメリカの政治と社会のさまざまな素顔を見せてくれた。2016年の大統領選において虚勢や暴言、そして自慢話で一貫するアウトサイダーを、いわゆる中西部(Midwest)3つの競合州が選んだ。大統領になったトランプは、以前のオバマ政権の大半の行政命令と行政合意を廃棄または脱退した。民主党と共和党いずれも議会政治はお手上げ状態であり、言論はそれぞれ片方のみ擁護し、もう片方に対しては誹謗中傷に走った。保守優位の連邦最高裁は決まった手順のようにトランプの反移民行政命令等に対して、連続して5対4という判決を下し、保守の味方になるために必死だった。

   私たちのような外部者だけがそのように思っているわけではない。今回の大統領選で以前よりいっそう強力になったトランプ大統領への支持勢力が確認された分だけ、アメリカ内部でもリーダーシップの失敗を失敗として認識しない民主主義に対する論議が多くなりそうにみえる。トランプ大統領時代を例外ではなく、回復として評価する白人有権者の規模が変わらないため、民主主義の論駁そのものを認めない雰囲気もある。彼らにとっては革新系の味方になっている主流の言論とでたらめな世論調査機関のみが唯一問題になるだけかもしれない。興味深い点は、これまで私たちがアメリカを民主主義の典型と過度に理想的な視点からとらえてきたほど、今はアメリカ民主主義の衰退論が国内全体に急速に広がっているという事実である。アメリカの民主主義を再評価しなければならない状況であるのは明らかである。ところが、大統領選の結果が当日に出ておらず、また敗者が認めないからといってアメリカの民主主義が「失敗」したと断定するには考えてみるべき点が少なくない。

   本稿は、最近4年間をはじめ、過去アメリカ国内政治と外交政策の主要地点を整理し、とりわけ2020年大統領選過程を振り返りながら、アメリカの民主主義の変化を検討し、今後を展望してみたい。アメリカは「私たち」にとって何なのかという古典的問いを頻繁に投げかけたことによって、実際アメリカはどうなのかをきちんと検討できてない側面がある。最大限客観的にアメリカをあるがままに把握してみることは、今後アメリカに向けた私たちの考えや戦略を整備するのに必須である。アメリカを好きすぎる必要も、嫌がりすぎる理由もない社会がすでに私たちの前に来ている。

 

2.アメリカの政党政治、2016年大統領選、そしてトランプ時代

 

   1980年レーガン当選を起点として、ニューディール時代が終わった。それ以後小さな政府、減税政策、国防費の増大等が現在までアメリカ政治の基本方向として位置付くようになった。ソ連が崩壊される過程でもたらされた1984年レーガン再選と1988年父のブッシュ当選は、ニューディール民主党候補らの連続の敗北とともに、アメリカ政治の流れの変化を確証してくれた。ブッシュは1991年1次湾岸戦争で国際主義的アプローチを通じてリーダーシップを発揮したが、国内経済の沈滞に対する安易な対応で世論の悪化を招いた。結局大統領選3者構図までが重なり、共和党のブッシュ大統領の再選は失敗に終わる。1991年冷戦終息後、1992年任期を始めた民主党のクリントン大統領は軍隊内同性愛者問題と医療保険改革の失敗で1994年共和党のいわゆるギングリッチ革命(Gingrich Revolution)を迎えるようになった。1954年以降なんと40年ぶりに下院を共和党に譲るようになったのである。

   それ故、クリントンは1996年の再選過程において大きな政府時代の終末を宣言すると同時に、福祉政策の改革を名目に右への移行を試みる。大統領選のあった1996年に「福祉から職場へ(Welfare to Work)」法案に署名することによって、1935年から施行された福祉プログラムを縮小し、大恐慌の対応策として1933年に制定されたグラス・スティーガル法(Glass-Steagall Act)も規制改革を名目に1999年に廃止するようになる。それによって、投資銀行と商業銀行間の業務領域の分離が崩れたが、これが2008年金融危機を招いた代表的な原因として指摘される。

   2000年フロリダ州の再検票論難を乗り越えて当選された息子のブッシュ大統領は、就任直後超党派的な税制改編を通じて1兆3,000億ドル規模の税金引き下げを実現させる。また、父が実現できなかった教育大統領の夢を叶うために「どの子も置き去りにしない法案(No Child Left Behind Act)」の成立を推進した。しかし、2001年9・11テロが起こり、ブッシュの関心事とアジェンダは完全に再整備されるようになる。2001年アフガニスタンへの侵攻に引き続き、2003年イラク戦争を開始することによって、脱冷戦時代の「アメリカの大戦略(American Grand Strategy)」をもう一度立て直そうと試みたのである。ところが、周知のように2005年以降イラク戦争が内戦様相へ変わり、戦争の動機と言っていた大量虐殺武器(WMD)の存在が嘘だと判明したことによって、2006年の中間選挙で共和党は惨敗するようになる。さらに、2008年類例のない大規模の金融危機までが重なることによって、共和党政権は幕を閉じ、民主党のオバマ大統領が当選される。

   「国内問題優先(nation-building at home)」を旗印として掲げたオバマが、2008年当選及び2012年再選に成功することによって、いわゆる「オバマ連合(Obama coalition)」が形成された。青年、女性、黒人及びラティーノ有権者、そして同性愛者たちをまとめてつくられた連合体の性格であった。しかし、先述したように、レーガン時代のアメリカ政治の流れは依然として維持されている。2010年オバマ時代の1回目の中間選挙においてティーパーティー(Tea Party)運動の勢力によって、上・下院を共和党に再びとられてしまい、結局民主党主導の改革立法はほとんど行われないようになったことがその証といえる。これと関連して、2016年の大統領選において最も興味深い地点の一つが「オバマ連合が果たしてオバマなしに持続できるのか」であった。もしそうだとすれば、ヒラリー候補であれ、あるいはそれ以後どの候補であれ個人の面々と関係なく、常に民主党が勝てるアメリカ政治の流れの変化が起こるとみることができたからである。しかし、2016年大統領選の結果において露わになったように、若い世代と黒人グループは選挙参加に非常に消極的に変わった。女性とラティーノ有権者たちもオバマ政権当時より低調な民主党への支持率を見せた。それにもかかわらず、民主党候補らは「勝利に対する記憶」としてのオバマ連合をそれ以後も引き続き追求するようになる可能性がある。これは、旗を掲げる候補個人と選挙連合の政策とが同時に重要であることを見せる代表的な事例である。

   アウトサイダーのトランプを大統領選の候補として抱えるようになった共和党はどうだったのか。簡単に言えば、選挙勝利のための支持層の構成に変化を求めた。2000年代共和党の絶体絶命のアジェンダだったラティーノ有権者の包摂努力はほとんど消え、白人中心の有権者グループでそれを代替しようとする動きが明確になった。これまで労働組合等の要因で白人労働者階層は主として民主党支持層に分類されてきた。ところが、彼らは2016年大統領選の過程で共和党支持へと変わったと分析される。グローバル化の弊害を最も痛感した白人の低学力・低所得有権者らがアメリカ最初の黒人大統領による執権8年間感じたであろう喪失感と憤怒は、私たちのような外部者たちには想像しがたい。正否を問わず、主に人種と経済という二つの変数で左右される米大統領選は、彼らにとって鬱憤表出の最大の機会だったのである。

   結局トランプ時代の共和党はラティーノ有権者の代わりに白人労働者グループを、いわゆる「トランプ連合(Trump coalition)」の一部として認識するようになる。もちろんトランプ連合という用語が一般的に使用されたわけではないが、再選可能性がわからなかった上に、トランプ個人の比重があまりにも大きかったからである。オバマ連合とは対照的にトランプ連合は、白人労働者、基督信徒、農村地域の有権者、社会的保守主義者、反国際主義者等で構成されている。すでに2016年を起点としてアメリカの政治が確実なアイデンティティ政治へ転換したとみるならば、トランプ大統領が再選のためにこれらのグループに合わせた国内・外交政策を展開する可能性はすでに予見されていた。

   民主党の場合、2016年の大統領選を通じて党内最後の代表的中道主義者のヒラリーが敗北することによって、サンダース(B. Sanders)をはじめとした革新勢力の位置づけが大きく高まった。もちろん上院議員や州知事の中には中道派が相当数いるが、2020年に行われた大統領選候補の選出過程にみられるように、バイデンを除いた誰一人意味のあるレベルの党内支持を獲得できなかった。とくに、理念と党派の影響力がきわめて大きい民主党の革新勢力はますます影響力を強化する趨勢である。ただし、民主党の革新グループが長らく主張してきた中国に対する貿易強硬策をトランプ大統領が先占することによって、彼らの立場の整理が難しそうに見える。

   アメリカの政党が特定の大統領の政党になるということはどういう意味なのか。これは、大統領の理念と政策等を確固として支持する支配連合があらわれると同時に、党内組織も大統領を支持する構成員で満たされるようになることを意味する。奴隷解放と南北戦争を率いたリンカンの共和党、大恐慌と世界大戦を率いながらニューディール連合を構築したフランクリン・ルーズベルトの民主党、小さな政府への復帰を叫びながらニューディール時代を終息したレーガンの共和党などがその例である。トランプが共和党に及ぼした影響は、積極的な投票者中心の候補予備選挙(プライマリー)過程においてよく表われた。トランプと違う路線をとる場合、そもそも共和党の候補になれず、当然本選においても自身の所信を繰り広げることができなくなるのである。このような雰囲気が共和党の議員及び候補者らに影響を及ぼしたとみることができる。例えば、2019年2月、国境の壁を建設するための国家非常事態の宣布当時、12名の現職共和党の上院議員が反対票を投じたが、そのうち2020年の選挙に出る人は、コリンズ(S. Collins)一人だけだったことに注目しなければならない。12名の反対にもかかわらず、逆説的にトランプの影響力を再確認することのできた場面である。また、共和党内で諸州が2020年大統領選の候補予備選挙を縮小したり、取り消した。親トランプに共和党組織が変貌していたからである。

   ところが、実際共和党がトランプの掲げる貿易戦争及び移民制限等の新しい政策方向へ永久的、根本的に変化中なのかについては、分析が簡単ではない。これは、トランプの大半の政策決定と履行が主に立法政治ではなく、行政命令レベルで行われたせいでもある。議会においてはトランプの主導する外交の変化をほとんど発見することができない。伝統的に民主党は「ビッグテント」政党、つまり多様な構成員たちが共存する政党であるのに対し、共和党は理念と原則を重視する政党に区分することができる。そのような共和党がトランプ時代を経る中で、白人の低学歴男性、農村有権者、基督信徒等を中心とする新しいアイデンティティの政党として本当に変身したのか注目に値する。今回2020年下院選挙もそれを検討できる重要な契機だが、トランプ的メッセージで武装した共和党候補らが多くワシントンに入城するようになった。大統領選で競合州のフロリダ州のラティーノが共和党を支持するのは、社会主義に対する反感等が作用した多少特殊な状況であるという点を考慮してみる時、共和党は今後も白人、基督信徒、クーバー系ラティーノ等を中心に選挙連合を組もうとするであろう。

   結局アメリカの政治は二極化政治とアイデンティティ政治の混在局面を依然として経験中であるとみることができる。今年の大統領選でトランプが退いても、彼が2016年に比べて900万票以上を獲得した状況を共和党が無視することは難しい。むしろ一定期間はこれに依存せざるを得なくなった。中長期的にみれば、人種構成面において共和党に不利な流れであるのは確かだが、2政党ともしばらくは既存の支持層を確固としつつ、相手側の一部を政策とレトリックで包摂しようとする試みを持続するようになるであろう。

 

3.2020年米大統領選:予備選挙と本選挙

 

   今年の米大統領選の場合、上半期に新型コロナウィルス感染症(以下、新型コロナ)関連の中国問題が急浮上したが、トランプキャンプはバイデン候補との違いが薄いということで、下半期にはそれにほとんど言及しなかった。その代わり法と秩序、保守系最高裁判官、経済再開等の保守系有権者の直接的な関心事案に集中し、選挙運動を行った。それによって、中国や北朝鮮、あるいはロシアなどのいかなる国際問題も大きく取り上げない選挙として残る見込みである。また、2008年オバマが得た6,950万票より今年トランプがもっと多く得票したことによって(11月2週目現在、約7,300万票)、2016年の勝利が偶然ではなかったことを確認させてくれた。それ故、2024年の大統領選でも共和党の「トランプ消し」は難しそうにみられる。トランプ支持層の存在によって「アメリカ優先主義」もしばらく消えない見込みである。ただし、バイデンが現在新しいトーンとスタイルを強調していることを見守る必要がある。

   今回の議会選挙の場合、既存の116代上院で53対47で多数党を維持していた共和党が競合州の現職議員のうち、2名敗北(アリゾナ州、コロラド州)、2名勝利(メイン州、ノースカロライナ州)、そして民主党は現職議員1名敗北(アラバマ州)を記録した。ジョージア州で行った2席をめぐる競争は両党とも50%獲得に失敗したことによって、来年1月5日決選投票が予定されている。この2席を民主党が持っていく場合、50対50になり、カマラ・ハリス副大統領が上院の議長になることによって、民主党がホワイトハウスと上下院を全部掌握するようになる。反対に共和党が1席でも得られたら117代上院でも共和党が多数党の地位を維持するようになる。下院も予想とは違って共和党が非常に善戦した。多数党は結局民主党になるだろうが、議席数の差は著しく減ると予想される。この場合、両政党内部の派閥の動きが一種のキャスティング・ボートとしての役割をするようになり、以前よりその位置づけがいっそう高まるであろう。

   これまで現職の大統領は概ね形式的な予備選挙を通じて候補として再指名されてきた。もちろん例外がないわけではなかった。代表的に1980年ジミー・カーターが再選に挑戦した時、党内で挑戦者が登場したが、それはケネディ大統領の弟のエドワード・ケネディ上院議員で会った。ケネディ家の最終走者として名望が高かったので、カーター陣営が非常に緊張したが、ケネディは結局自滅してしまう。インタビューでなぜ大統領になろうとするのかと問う簡単な質問に対して2分近く答えられなかったのである。彼は、「ケネディ」だから、大統領は当然職と思っていたのではないかという激しい批判に直面するようにあり、ついに候補辞退を決めた。米言論の厳しい事前検閲と既得権政治家の没落を象徴的に見せる場面と言わざるを得ない。

   今年の米大統領選を振り返ってみよう。民主党の場合、2016年の痛切な教訓を反芻しながら、トランプ大統領の追い出しを至上目標として候補選定作業に突入した。今年2月3日アイオワ州をはじめとして全国を巡回しながら、決まった順番で予備選挙を実施し、得票率の比例配分原則によって代議員を確保する過程であった。伝統的に民主党の予備選挙ではいわゆる「ビア派(beer-track)」と「ワイン派(wine-track)」間の競争が続いてきた。ビア派は労働者、高齢者、穏健派白人と黒人有権者を支持基盤とし、ヒューバート・ハンフリー、ウォルター・モンデール、 ビル・クリントン、ジョー・バイデン等が代表的政治家といえる。これに対して、ワイン派は高学歴の白人革新グループ、無党派、若者が主要支持層であり、 ジョージ・マクガヴァン、 ゲーリー・ハート、 ポール・. ソンガス、ジェリー・ブラウン、ハワード・ディーン、そしてバーニー・サンダース等がこのグループに属する。

   バイデンは初回の予備選挙競争のあった2月3日、アイオワ州党員集会で4位、続くニューハンプシャー州の予備選挙では5位で後れを取っていた。アイオワ州ではサンダース上院議員がブティジェッジ(P. Buttigieg)前サウスベンド市長と同率を上げており、2月11日ニュー・ハンプシャー州の予備選挙でもサンダースが僅差で勝利を収めた。その後2月22日ネバダ州党員集会でもラティーノ有権者の支持に支えられてサンダースが優位を占め、待望論がつくられた。サンダースは2016年の予備選挙過程で得られなかったラティーノの票を得るために、ここ数年努力してきており、とりわけオカシオ=コルテス(A. Ocasio-Cortez)下院議員の支持宣言が大きく役に立った。その結果、ラティーノ社会で「バーニーおじさん(Tio Bernie)」と呼ばれるほど支持を確保した。これは、結局今年の大統領選の結果で明らかになったバイデン候補のラティーノに対する脆弱性と関連がある。

   ところが、大逆転劇が起こった。脱落危機までに追い込まれたバイデン候補が2月29日サウスカロライナ州の予備選挙直前にこの地域の古顔であるジェームズ・クライバーン(James Clyburn)議員の公開支持を受け、劇的に回復したのである。状況は急変し、黒人有権者が半数以上を占めるサウスカロライナ州でバイデンはサンダースに大勝(48.5%対19.9%)を収めるようになった。勝機をつかんだバイデンに穏健派支持層が集まるようになった決定的な契機は、14州で同時に予備選挙が行われる3月3日「スーパー火曜日」の直前にブティジェッジとクロブシャー(A. Klobuchar)がバイデン支持を宣言し、中途辞退したことである。バイデンは予想通りにカリフォルニア州で敗北したことを除けば、テキサス州、バージニア州、ノースカロライナ州等を席巻してサンダースを圧倒しており(10州で勝利)、スーパー火曜日以後ブルームバーグ(M. Bloomberg)とウォーラン(E. Warren)が辞退することによって、バイデン対サンダースの両者構図がつくられた。その後バイデンは3月10日中西部競合州の第1回予備選挙のミシガン州でも圧勝した後、3月17日のフロリダ州でも勝利(62%対23%)し、バイデンが最終の民主党大統領選候補となった。

   大統領選は通常競争が過熱になりがちである。さらに、今年アメリカはこれまでまったく経験したことのない新しい危機(Covid-19)と建国以来絶え間なく経験してきた長年の危機(人種葛藤)を上半期に一緒に経験した。また1980年代以後持続的に拡大してきた政治及び社会の二極化現象を解決するために努力するどころか、自身の政治的利益のためにむしろそれを煽る大統領が統治しているリーダーシップの危機さえ経験していた。選挙そのものに焦点を当てて最近の動向を見てみると、1992年クリントン当選以後、米大統領選は現職大統領の再選不敗の結果を出し続けていたが、実際これはとても稀な現象である。クリントン8年、ブッシュ8年、オバマ8年で現職大統領が3回連続再選に成功したことで、同じ事例はアメリカ歴史上1801~24年のジェファーソン、マディソン、モンローしかないほどである。

   これに関連する要因としてはいろいろあるが、その中でも24時間観られるケーブルニュースチャンネルとインターネット、そしてユーチューブ、フェイスブック、ツイッターなどのソーシャル・メディア中心にコミュニケーション環境が替わることによって、現職大統領側の選挙戦略家らがこれを活用して大統領選への挑戦者を最初から集中的に攻撃することができるようになった側面が強い。競争者によって自身の政治的イメージが定義されるのは最も致命的な弱点になりがちであるが、本選挙競争が本格化する前に現職大統領の選挙戦略によってライバル挑戦者の政治的立地が大きく弱まってきたのである。

   しかし、今年は違った。今回の選挙がそれ以前のパターンと明らかに違った点は、新型コロナの非常事態によって政治スケジュールがもつれてしまったことで、現職大統領が浮上する相手政党の挑戦者を早くから挫折させることに実質上失敗したという情況をあげることができる。コロナ危機が深刻になった後、バイデン候補が潜行に近いほど選挙運動を自制したこともあり、トランプ大統領がバイデン候補を自分勝手に批判して縛り付けることができなかったのである。結局2020年米大統領選は過去3回の現職大統領の再選過程と違って、二人の候補を比較する「選択選挙」ではなく、現職大統領のトランプに対する「信任投票」に帰結された。実際世論調査の結果、民主党員らのバイデン支持背景として「トランプを落選させるため(70%)」が「バイデンが好きだから(30%)」に比べて著しく高く出ている。これは、今回の選挙が「トランプ中心の選挙(Trump election)」に流れるようになったことを見せる場面といわざるを得ない。

   本稿を書いている11月初、バイデン候補がペンシルベニア州大統領選挙人団を獲得することによって、選挙勝利を確定した。270名以上を確保すれば当選だが、現在バイデンは290名を獲得している。まもなくバイデンは46代大統領として来年1月20日正午大統領の就任宣誓をするようになる。今回の選挙を正確に分析するにはまだデータと資料がはるかに足りないが、一つ明確な点は「コロナ対策の不備とジョージ・フロイド事態」によってトランプが退出させられたこととして見えるという事実である。まず、コロナ対策において科学と医学を無視したまま、130万人に達する死亡者が発生したことに対しても仕方ないという反応で一貫したリーダーシップの失敗を、アメリカの国民が審判したとみることができる。もしトランプが「普通の大統領」のように自らまじめにマスクをつけて市民にマスク着用を督励し、ソーシャル・ディスタンスを促していたら、バイデンの勝利は簡単ではなかっただろうという分析も多い。しかし、トランプは、本人がコロナ陽性判定を受け、医療人の治療で治った後も、コロナに感染したことを「神様からの祝福」と言って、全米のコロナ患者らとその家族及び犠牲者家族の心を大きく傷つけた。また5月に警察による首を圧迫する検問で死亡した黒人市民ジョージ・フロイド(George Floyd)を記憶しながら、黒人有権者の多くがトランプの反対側に立つ郵送投票をしたのもトランプの敗北に影響を及ぼした。分裂と葛藤を利用し、自身の人気や選挙での利益を追求してきた指導者の終わりを見るようになったわけである。

   要するに、二極化を煽る大統領が新型コロナパンデミック状況の中で導入された事前投票方式によって敗北した選挙といえる。民主主義を多数による統治、少数に対する保護と規定するならば、一層深刻となった二極化はアメリカの民主主義が抱えている大きな宿題と言わざるを得ない。それに支持が50対50に分かれて多数勢力が明確でない現実、私と違う意見を持つ少数を保護するどころか、憎悪する風土、特定理念の有権者らのみを相手にし、他の政党の支持者を徹底に無視するメディア環境、連邦レベルではなく、州政府が選挙管理を担うようにした憲法規定によって、州ごとに投票・開票方法が異ならざるを得ない乱脈さなど、アメリカ民主主義の置かれた状況はきわめて危機状態といえよう。ただし、少なくとも今回の大統領選で見せた高い投票率、2000年大統領選の当時、投票用紙の不実で嘲弄されたフロリダ州がその後選挙規定の整備を通じて今年は競合州の中で結果を最も早く発表することができた点、すべての票は開票されなければならないという民主主義の大原則によって州政府と連邦最高裁がトランプの開票中断要求を拒否した点、バイデン当選者が社会統合と同盟回復を叫んでいるという点などを考慮すれば、アメリカ民主主義の終わりを宣言するにはまだ早いといえる。

 

4.バイデン時代のアメリカ外交の展望

 

   アメリカの外交政策は通常国際政治的視点から分析されてきたが、それは、主として冷戦時期ヴァンデンバーグ(A. Vandenberg)上院議員の「政争は外交政策の前で止まらなければならない」という言葉に代表されるアメリカの超党派的外交政策の基調のためである。また、ウォルツ(K. Waltz)の構造的現実主義の主唱とともに形成された国内政治への還元主義の警戒という理論的背景とも関連が大きい。現在、アメリカの多くの大学においてアメリカの外交政策は主に国際政治学教育課程で教えられており、国際政治学者らが講義している。彼らは憲法、議会、政党、選挙、メディア等の国内政治要因に対してはほとんど関心を持たない。カリキュラムも現実主義や自由主義などの国際政治の理念・思潮、アメリカ外交史、地域別懸案、安保・通商・協力面における問題整理等で構成される傾向がある。同じくアメリカの政治学界は概ね政治制度及び政治過程の研究者らで構成されているが、彼らは外交政策及び関連問題に対してあまり扱わない。要するに、学界の主流では国内政治をもって外交政策を説明する人たちを見つけにくい実情である。

   米中間の歴史的関係も主に国家と国家のレベルで研究されてきた。ところが、実際両国とも国内政治的要因によって関係の変化を経験したりもした。とくに、2017年に就任したトランプ大統領が主導した結果、中国問題は急速に国内問題のように扱われる傾向を見せてきた。言い換えれば、アメリカ内の大統領―議会の関係、政党の競争構図、外交政策関連メディアの影響力、国際問題と選挙政治など多様なレベルでそれ以前と違う様相を見せている。このようにアメリカ内部の政治的関係と無関係ではなかった米中関係史における独特な事例がある。南北戦争の終息後、アメリカのジョンソン政権と中国の清朝は1858年に締結された天津条約(清国とアメリカ・イギリス・フランス・ロシオの4か国が結んだ開港条約)の内容を拡大し、1868年バーリンゲーム(Burlingame)条約を締結した。主な内容は、中国に対するアメリカの内政干渉を禁止し、最恵国待遇条項を両国貿易取引に適用するだけではなく、中国労働者のアメリカ移住規制を緩和することであった。当時アメリカでは急進派共和党が民主党出身のジョンソン大統領と対立していたが、中国とのこの条約は共和党、民主党、大統領いずれも歓迎する外交政策の快挙として認識された。それほど超党派的に中国問題に対して同意したのはこの時が初めてであると同時に、最後ではないかと思われる。

   今年の大統領選過程においても、米中関係は上半期に中国を新型コロナの震源地として指摘したトランプ大統領の強硬なドライブによって悪化一路であった。ところが、夏以降候補間の差別性効果をあげられなかったことによって、中国問題は選挙問題としての重要性が急激に落ちた。出口調査で明らかになったように、アメリカ有権者らの最大の関心事はコロナ防疫ではなく、経済回復だったが、ここでも中国問題を持ち込む余地は大きくなかったのである。トランプ大統領は、民主党の州知事らが施行した経済活動の規制等の封鎖(lockdown)措置を批判するところに力点を置いた。これは、以前のソ連共産主義の問題と違って、選挙あるいは国内政治問題として中国問題の影響力が制限的であることを如実に見せたものなのである

   今後バイデン政権は一旦関税で中国を追い込むトランプ式アプローチはしないこととみられる。関税賦課は結局アメリカ中産階層と労働者グループの生活費の上昇へ帰結されると言って、バイデンはそれに反対してきた。決定的に技術覇権は譲歩しないが、その他の問題は中国と戦略的競争あるいは「災害のない競争」へ方向を決める可能性が高い。副大統領の時イランの核協定(JCPOA)とパリ気候変化協定過程において中国と結んだ戦略的協力の記憶をバイデンが持っているからである。もう少し見守るべき部分は、アメリカ議会が行政府に委譲した外交政策関連の権限をどうしても取り戻して来ようとした時、それが簡単ではないという点、そして同じく対中国政策の大きな転換を進めるとしても、現在政党競争及び連合構図上、それが議会で可決される可能性が高くないという点である。

   ケネディ政権当時、超党派的に可決させた貿易拡張法( Trade Expansion Act of 1962)232条(safeguarding national security、国家安保)に基づき、トランプ政権が行った中国との関税戦争による米中貿易紛争の長期化を憂慮した共和党のコーカー(B. Corker)上院の外交委員長とトゥーミー(P. Toomey)共和党上院議員は115代議会当時、貿易拡張法修正案の上程を試みたことがある。「232条に基づいた関税賦課に対して議会は60日以内にこれを承認することができる。別途の措置がなければ、大統領の関税賦課は無効化される。当該輸入が国家安保に害を及ぼすかどうかを調査する権限を常務長官として国防長官へ移行する」という内容だが、票決自体が行われなかったことによって水泡に帰した。ところが、トランプの米国第一主義を経験した後、開かれるバイデン時代にはバイデンをけん制しようとする共和党と大統領の権限を減らそうとする民主党の協力を通じて、制度改善の余地は十分あると思われる。もちろん中国に対する悪い印象ないし反感がコロナ状況以後よりいっそう増幅されたため、議会内の強硬な中国に対する警戒の声は持続されるであろう。それにもかかわらず、経済回復のために相互の市場と工場を絶対に必要とする米中関係の特性上、アメリカ議会が立法政治で関係そのものを悪化させることは予想しがたい。

   では、バイデン時代に韓半島問題はアメリカの政治においてどのように扱われるのか。トランプ時代と対比してみると、多様なレベルで有利・不利を論じることができる。北朝鮮の金正恩委員長との首脳会談、すなわちトップダウン方式に対してトランプ大統領個人のスタイルが大きく注目されたが、実際根本的には彼が共和党大統領であるという点がもっと奏効した。過去ニクソン大統領が反共主義者だったので、中国との妥協をめぐってアメリカ内で反対がなかったように、トランプも共和党大統領なので党内安保強硬派が反対しなかったことを想起する必要がある。しかし、実務交渉を通じた具体的で体系的な合意の土台がないまま行われる首脳会談はいつでも危険にならざるを得ない。バイデン大統領時代には韓米間に北朝鮮の非核化問題に対する共感の形成及び情報の共有、そして戦略の模索がよりしやすくなるであろう。もちろん民主党大統領のバイデンが進める北朝鮮との妥協は、共和党の強硬保守派の批判に悩まされるようになるであろう。それ故、前もって友好的な雰囲気を造成し、それを適切に遮断することができるのであれば、それこそ韓国政府の大きな外交的勝利と言わざるを得ない。イラク戦争の失敗以後、軍事力の使用を抑制しなければならないという雰囲気が形成されており、医療保険、気候変化、移民政策などの国内問題に集中しようという世論が湧き上がっているアメリカだからこそ、韓半島の平和プロセスのための好意的状況の造成が不可能だとは思われない。

   今後バイデン時代がどのように展開されるかは、今年の大統領選の結果がどのようになるかが予測しにくかったように、その展望が簡単ではない。中西部競合州の郵送投票の予想外の結果、オバマを凌駕したトランプの得票力、議会選挙における共和党の予想外の善戦、アリゾナ州とフロリダ州におけるラティーノの相違な選択等のように、アメリカの政治と選挙をわからなくする変数は今後もあらわれるであろう。重要なのは、いつも私たちの望むことが何なのか、そしてそのために私たちがどのようにすればよいかである。私たちの国益が最高の関心事でなければならない。アメリカは多様な独立変数の一つになるべきであり、今後そうなるであろう。

 

訳:李正連(イ・ジョンヨン)