韓半島の軍事危機の構造と出路

2016年 冬号(通卷174号)

 

 

李承煥(イ․スンファン) 市民平和フォーラム共同代表。民族和解・協力汎国民協議会執行委員長、6・15共同宣言実践南側委員会執行委員長などを歴任。共著に『ポスト統一、民族的連帯を夢見る』『変革的中道論』などがある。
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2016年の韓国は一種の「戦争不感症社会」のようである。「核先制攻撃」など様々な軍事的脅しの言動が横行していても政府はもちろん、政治社会や市民社会全般にこれを制御するメカニズムは特に作動していない。一方で、北の第4次、第5次核実験と開城工業団地の閉鎖、韓米両国のサード(THAAD:高高度ミサイル防御体系)の配置決定など、韓半島の軍事危機はしだいに深化している。

韓半島の軍事危機は一時的なものではなく極めて構造化されていて、東アジア全般の秩序変動の過程と密着しており、韓半島のみの問題として取りくむと解法を見いだしがたい。これは何よりも、北朝鮮が東アジア秩序の現状変更を追求する主要な行為者の一つだからである。北朝鮮の非核化がしだいに非現実的な目標になっている事情とともに、米国が東アジア中心にいわゆる「アジア回帰(Pivot to Asia)」を本格化させている事情とも連結している。

 

軍事危機を深化させるアジア再均衡政策

 

2011年、オバマ政権が新たな世界戦略として野心的に明示した米国のアジア回帰あるいは再均衡政策は、「米国の安保能力に依存している世界経済に安定性を提供する」という名分の下に、世界経済の中心に浮上中のアジア・太平洋地域に米国の軍事力を増強して配置し、これを土台に米国がグローバル・リーダーシップを強化していこうとする政策である。

しかし、米国のアジア再均衡政策はトランプ(D. Trump)現象で現れたように、孤立主義が広がる米国内の政治事情と、アジアにおける軍事力増強を支える国防予算の問題、そして「環太平洋経済パートナーシップ」(TPP)の米議会批准の挫折危機などにより、政策の持続性が議論を巻き起こし続けてきた。その上、軍事力再配置の名分である中国の軍事的脅威に対する評価もまた有利ではなかった。米国のアジア再均衡政策の推進後、中国は挑発的な軍事行動を自制する一方、米国はもちろん韓国など周辺国との高官レベルの軍事交流を強化しはじめている。もし日本が積極的に呼応せずに、北の核問題が浮上しなかったならば、オバマ政権の再均衡戦略はもはや維持しがたかったかもしれない。

いわゆる「北の脅威」は、中国の軍事的脅威に代わって米国のアジア再均衡政策に正当性を維持させる新たな資産になった。米国は再均衡戦略を公式に宣言した2011年とは異なり、北朝鮮の第三次核実験後の2013年から北の核脅威を重大問題として提起した。これを通じ、①日本および韓国との緊密かつ拡大した協力の推進、②北の脅威に対する中国の協力と共助、③米国本土と同盟国の防衛に対する確認(拡張抑止の提供)などを対北政策の原則として強調しはじめた。これは米国が日米間および日韓米間の軍事協力を強化し、北核問題をかざして中国を圧迫する政策を本格的に推進しようという意志である。もちろんその前提として、北朝鮮の核脅威がレッドラインを超えないかぎり、米国が北核問題を積極的に解決する代わりに「戦略的忍耐」を維持するのである。

特に米国は北朝鮮への制裁を中国の責任として押し付け、これを再均衡政策推進のテコとして用いる「北核の中国責任論」を積極的に掲げだした。こうした中国責任論は、米国が北朝鮮の核を名分にして東アジアに軍事力を前方配置するだけでなく、対北政策失敗の責任を中国に押し付ける一石二鳥の効果を生んでいる。代表的な事例が韓半島のサード配置決定である。これは中国が北を核放棄に引き込むレベルの決定的制裁を加えなければ、韓半島のサード配置など中国を狙った軍事的な圧迫と封鎖を甘受せよという意味である。 1 これに対して中国は、北核問題は根本的に米国の責任だと強く反発している。もちろん、北核問題を再均衡政策推進の戦略的な資産とみなすこうした接近は、本質的に北核問題を解決するよりもむしろ北核能力の高度化を放置し、韓半島の軍事的均衡を全面的に米国の核拡散抑止に依存させる結果をもたらさざるを得ない。

また、日本の右翼勢力は米国の再均衡戦略が日本を必要とする点を明確に認めさせ、これを日本の「普通国家化」(=戦争国家化)の機会として積極的に活用している。米国は再均衡政策の推進に必要な国防予算を満たす対案として、「日本を同盟の中心軸(underpin)と規定し、日米両国間の軍事力の再編成とミサイル防御協力を強化する」、いわゆる「同盟の役割の再調整」を提起している。このため日米両国は、2013年10月日本の「集団的自衛権」の保障に合意し、2015年には新ガイドラインの制定を通じて日米共同で武力対応する地理的範囲を「日本周辺」に制限した既存のガイドラインの内容を削除し、自衛隊の海外進出の制限を完全に撤廃して米国がアジアで軍事力を増強する際に、日本を中心軸として引き入れる計画を事実上完成させた。

こうした背景の下、日本の安倍政権は日米共同のミサイル防御体制の構築と沖縄の米軍基地の新設および拡張など日米の軍事協力を強化しながら、集団的自衛権の行使を可能にする安保法の処理強行と戦後東アジア平和の制度的装置の一つだった平和憲法の改定を積極的に推進しているのである。

米国はこうした日米協力体制に韓国も編入させ、東アジア版の軍事同盟体制を構築しようとする努力も本格化させている。便法として推進された2014年末の「韓日米の軍事情報共有了解覚書(MOU)」の締結、 2日本とはすでに連結している米軍の戦術データ連結体系(Link16)の韓国導入、核空母ジョージ・ワシントン号が出動する事実上の合同軍事訓練である年例の韓日米の海上救助訓練、リムパック(RIMPAC)の一環として2016年から実施された韓日米ミサイル合同探知・追跡訓練などは日米軍事同盟に韓国を編入させる核心的証左である。

従って現時点で、米国の再均衡政策は東アジアと韓半島で北核問題の平和的解決に失敗し、日本の右翼の軍事的拡大の機会のみを招いたと言っても過言ではない。特に韓半島の場合、米国の再均衡戦略は朝鮮戦争の終結など韓半島の平和体制の樹立には何のイニシアティブも行使できず、むしろサード配置など米国のミサイル防御体制の下部に編入されるなど、韓米同盟の日米軍事同盟への編入、対中国海上(封鎖)協力の強化要求などに表れている。これは21世紀になって韓国政府がとってきた「経済は中国、政治・安保は米国」というそれなりの現状維持の外交路線をも覆し、日本の軍事大国化と核保有国たる北朝鮮という二大脅威の最前線に韓半島を露出させる結果を招いている。

こうした理由により、韓国と日本の市民運動家は米国の再均衡政策がアジアの平和を破壊し、「もはや米国の覇権を維持するためにアジアの民衆が犠牲になる歴史が繰り返されてはならない」 3と宣言する。また中国でも、「(東アジアにおける)脅威は北朝鮮から来るのではなく米国や日本から来ており、これこそ中国などのアジア国家が極めて強く反対し、対応すべき問題だと認識している」 4という評価が生じている。

 

北の「統一大戦」主張と核戦争拡大戦略

 

米国が北の脅威を強調して中国を含む国際的な対北制裁を強化する一方で、北の金正恩政権もまた対米交渉戦略で変化を示している。北朝鮮は「不滅の核強大国の建設」を掲げて核抑止力の確保に邁進しながら、中国まで加わる非核化の対話は避ける姿勢をみせている。これは議題を細かく分けて争点を段階化するサラミ(salami)式の短期交渉の代わりに、「北の核保有を前提とする東アジア秩序」を目標にして核能力の強化に基づく米国との中・長期的な談判の推進へと交渉戦略を変更させたという意味である。

北朝鮮の交渉戦略がこのように変わったのは、核先制攻撃の対象に北を含めたブッシュ政権の2002年核テーゼ報告書(NPR)についで、オバマ政権で作成された2010年核テーゼ報告書でも北を核兵器非使用対象国から除いたことからくる、深い対米不信が第一次的な原因だといえる。2014年末以後、北が掲げた一連の対米提案がオバマ政権によって黙殺されたのは 5北の交渉態度を一層硬化させた。その上、核・経済の並進路線の宣布後、初めて「非核化」を公式に言及した北朝鮮の「7・6提案」 6に対し、米国は人権弾圧と関連した金正恩制裁措置を宣布して応じた。それから二カ月後、北は第五次核実験を強行した。

こうした一連の過程をふり返れば、北朝鮮は今後も「核能力の強化に邁進─米国と中・長期的に談判」という戦略を一層固守するだろう。これは、ケリー(J. Kerry) 国務長官が9月18日韓米日外相会談で非核化対話と核凍結を言及したのに対し、北朝鮮は「我々の核武装の強化措置に対して挑発とか、無謀な行動とか誹謗しながら、破綻した非核化対話の念仏をまたも唱えている」と反応したことから確認できる。 7米国のみならず北朝鮮によって交渉の敷居は一層高められている。

交渉戦略の変化とともに北の核戦略もより攻撃的に変化している。これに関連して注目すべき北の主張は、いわゆる「統一大戦」宣言である。第七回労働党大会の報告で「非平和的方式の統一」に言及した後、金正恩政権は相次いで統一大戦を強調している。「敵どもがわが国の尊厳と権威を害しようと少しでも動いたなら、断固かつ強力な核先制打撃が加えられるはず」 8であり、「祖国統一大戦にもつながる千金のような機会は我々がまず選択するはず」だとか、「米帝とその追従勢力が『体制崩壊』や『平壌席巻』を狙った『斬首作戦』に突入しようとするささいな兆候でもみせれば、それによって招来するのは無慈悲な核先制攻撃だけ」 9という主張などがそれである。

こうした言及で確認されるのは、北朝鮮が主張する統一大戦が相手の在来式攻撃の脅威に核で対応する(先制攻撃を含む)「非対称拡戦型」の核戦略を意味するという点である。 10 もちろん北朝鮮は「第七回党大会決定書」において、「責任ある核保有国として侵略的な敵対勢力が核によって我々の自主権を侵害しない限り、先に核兵器を使用しないはず」だと宣言しているが、北が主張する「核の先制不使用」の原則は韓米の先制核攻撃演習を核で自主権を侵害する侵略的な敵対行為と想定しているので、事実上米韓両国には適用されない。

また北朝鮮は、自らの核体制について「核弾道で一杯にした戦略ロケットとわが威力ある戦略潜水艦が待機状態に入っていた」とし、核兵器の実戦配置と常時の発射待機状態を強調している。仮にこれを事実と認めたとしても、現在の北朝鮮の核能力レベルが完璧な第二次攻撃能力を確保したとはみなしがたい。ただ、北の核弾道の軽量化および発射手段の発展は予想を超える相当なレベルに達したとみられ、8月24日北朝鮮のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)実験の成功と、9月20日の停止衛星運搬ロケット用のエンジンの地上噴出実験の成功は相当な衝撃を与えた。

核戦争拡大戦略は、「在来式戦力の弱み」と「完璧な第二次核攻撃能力の不十分さ」という現実的な条件の下で選択される。これは韓半島で北朝鮮は核を発展させ、米韓は先制攻撃と潜水攻撃を含めた在来式の兵器を発展させる作用─反作用の悪循環がこの数年かけて進んできた結果である。 11 こうした状況に対する北の回答が、まさに核先制攻撃を含む非対称拡戦型の「統一大戦」宣言であるわけだ。その上北朝鮮は、イラク戦争とリビア事態などを通じて核抑止力保有の重要性をあまりにも良くわかっている。従って、核戦争拡大戦略は極めて危険かつ非合理的であるが、北朝鮮の立場では「他の選択の余地がない」戦略だと言える(いわゆる合理的非合理性 rational irrationality)。 12 そして、北はこの戦略がもつ危険性のために核の第二次攻撃能力を備える時まで、米韓の先制攻撃と斬首作戦の脅威から時間を稼ぎうると判断しているのである。北朝鮮が「統一大戦」を繰り返し強調するのは、こうした意味と脈絡にある。

このように北朝鮮は、米国の再均衡戦略がつくりだした犠牲の山羊であり、同時に米中競争と米国の戦略的忍耐を滋養分にして「核保有を前提とする東アジア秩序の再編」を追求する二重的地位を有している。つまり、北朝鮮は米国の核脅威の下にありながら、同時に米国の再均衡戦略と日本の再武装の正当性を強化し、さらに韓半島の軍事危機を深化させる原因の提供者でもあるのだ。

 

戦争の脅威を高める韓半島のサード配置

 

米国の再均衡戦略と北朝鮮の核戦争拡大戦略が交差し、深化している韓半島の軍事危機は米韓両政府のサード配置の決定により一層増大している。韓半島のサード配置は米韓が北の核保有を実質的に認め、それへの備えを本格化させたという意味である。サード配置の意味は複合的だが、最も重要な点はアジア再均衡のために「戦略的忍耐」または「対話と挑発の悪循環」の断絶を名分にし、北の核能力の強化を放置してきたことによる対北政策の失敗の結果を韓国民の血税と資産を投入するサード配置によって満たそうという意志である。

サード配置の決定後、北朝鮮は「サードは公然とわが共和国を狙っているだけに、わが軍隊の視野から絶対に免れえない」として星州と浦項、蔚山、釜山を照準にしたミサイル実験を強行し、中国とロシアも星州のサードを狙った軍事力の再配置を公言している。また、「サードは我々の自衛的な権利行使をより正当化」 13するだろうという北の主張通り、北朝鮮はサード配置の発表後、第五次核実験を断行するなど核とミサイル能力の強化に憚りなく邁進している。

問題は、韓半島で展開される核軍備競争は戦争の危険度と比例関係にある点である。何よりも北朝鮮が自らの核能力の強化に比例し、韓半島の停戦体制という現状を変更するための在来式の軍事脅威をしだいに強化しているのは明らかである。その上、韓米と北朝鮮が公然と相手に対する核先制攻撃を公言している条件を勘案すれば、サード配置は局地的紛争を核の全面戦争へと発展させる雷管にもなりうる。 14

さらに憂慮されるのは、サード配置が北の核問題と関連して交渉と制裁だけではなく、軍事オプションの比重の増大という合意を含んでいる点である。サードは基本的に先制攻撃後、相手の第二次ミサイル攻撃を防御する概念の兵器体系である。北朝鮮専門家のステファン・ハガード(Stephan Haggard)は、米国の「次期政権では軍事的対案に対するより解放された討論が行なわれるべきだろう。米国軍部はすでに北を核保有国として扱いはじめた。サード体系を展開するのもこれと無縁ではない」と指摘した。 15 つまり、韓半島のサード配置は米国が韓半島で先制攻撃という軍事的選択をより積極的に考えるようになったという意味である。

実際、対北先制攻撃は米国のアジア再均衡政策の宣言後、韓半島問題に対する選択肢の一つとして2012年から実質的な準備をしてきたのである。2012年、韓米はウルチ・フリーダム・ガーディアン(UFG)韓米合同軍事訓練から既存の防御的な軍事戦略の代わりに「先制的自衛権」という名分の下、攻撃的な「抑止戦略」を適用した対北先制攻撃訓練を開始した。「全面戦争の兆しが明確な場合、国際法的な論争があるとしても」先制攻撃に出るべきだというのである。 16

2012年以後、毎年春と夏に展開されるキー・リゾルブ(Key Resolve)訓練とUFG訓練は米国の核戦略資源を動員する先制攻撃訓練を含めている。特に今年は、米国の特殊部隊の内陸浸透訓練(事実上の「斬首作戦」)であるテーク・ナイフ

(Teak Knife)訓練を異例的に公開し、核空母ロナルド・レーガンを動員した「不屈の意志」(Invincible Spirit)という名の空母強襲訓練、そして複数国の合同空軍訓練レッド・フラッグ(Red Flag)に韓国空軍が参加し、事実上の韓・米・日・英合同の対北先制攻撃訓練も実施された。これに加え、朴槿恵政権は金正恩除去作戦を実施する特殊部隊の運用計画とともに、ミサイル精密攻撃および特殊作戦部隊の動員により「平壌の指導層をなくす」大量報復(KMPR)計画の推進を発表した。また、米国の冷静な拒否にもかかわらず、朴槿恵政権が強く希望している米国の戦略兵器の「韓半島への常時循環配置」は基本的に常時の対北核先制攻撃態勢を構築しようとする試みである。結局、サード配置の決定により、韓半島は「先制攻撃と相手の第二次攻撃防御」という形態の先制攻撃中心の軍事力体制をしだいに完成させているのである。

11月4日駐韓米軍司令官は今後8~10月以内にサード配置を完了させると発表し、これに対して中国もまた「決然たる反対」の意を表明した。「二年以内に北朝鮮は崩壊するはず」という呪術的予言に囚われた朴槿恵政権の国政運営能力の喪失は、一方で外交・国防および南北関係における非正常と弊害を正す機会になるだろうが、短期的には米韓軍事協力など同盟問題の処理で朴槿恵政権を無視する米国の一方通行が強化されるだろう。速戦即決式のサード配置の強行、「日韓軍事情報保護協定」(GSOMIA)論議の再開はそうした事例である。 17

 

韓半島の軍事危機の解消のために

 

再均衡という名の米国の軍事力の再配置と金正恩政権の核戦争拡大戦略が朴槿恵政権の北朝鮮崩壊への「呪術的執着」とつき合せた条件下では、韓半島の軍事危機は短期間に解消されるどころか、むしろ激化する可能性が高い。

もちろん南と北、米国の現在の条件を考慮する時、現実的に簡単なことではないが、韓半島の危機を解決しうる近道がなくはない。南北関係と韓半島の状況を膠着させている核心的問題、つまり「相互敵対行為の凍結問題」に直ちに近づくことである。北朝鮮の核とミサイル開発が米韓両国に最も重大な脅威ならば、北朝鮮では核を動員した米韓合同軍事訓練が最大の脅威である。北朝鮮は米韓両国の対朝鮮敵視政策の基本表現である「大規模な合同軍事演習の強行と核攻撃手段の南朝鮮への搬入」が根絶されない限り、断固として「我々の無限大の核抑止力がしだいに強化され」 18るはずだと主張している。

韓米合同軍事訓練の暫定的な中断・縮小と北朝鮮の核・ミサイル開発の中断を取り引きする、「最小限の」相互脅威の減少(Mutual Threat Reduction)努力の実現だけが、現在では視界不明の韓半島情勢を対話と交渉の平和的な解決局面へと進入させうる最も確実な方策である。 19 中国が提案する「韓半島非核化と平和体制の同時並行」議題も、最小限の相互脅威の減少合意を先行させなければ、現在の北朝鮮の態度からみて交渉のテーブルでの論議さえ実現しがたいだろう。また南北および米朝関係も一時的に対話局面がつくられるとしても、結局は対決と制裁の悪循環へ戻っていくだろう。

米韓両国が北朝鮮の核放棄に相応する一定の代価の支払いを拒否しながら、「交渉は補償の悪循環のみ招く」という調子の主張ばかり繰り返すのは一種の責任回避にすぎない。そしてまさにこの点が、米国と北朝鮮、米国と中国、韓国の市民社会と保守政権間の長年の論争の核心である。北朝鮮の第五次核実験と次期政権の登場を背景にして、米国内でも「戦略的忍耐あるいは出口戦略の選択」をめぐって論争が激化している。

米国内の論争の頂点はウッドロー・ウィルソン・センターの所長であるジェーン・ハーマン(Jane Harman)が『ワシントンポスト』に寄稿した文章である。ハーマンは「重要な進展の可能性があれば、我々は今後米韓合同軍事訓練の保留を考慮し、北朝鮮が長年願ってきた不可侵条約を提起すべきである」とし、「短期的な凍結」が「狂気から脱する道」だと主張する。 20 現職の米国情報機関のトップであるジェイムス・クラパー(James Clapper)はさらに一歩進んで、「北朝鮮を非核化しようとする考えはたぶん『可能性がないこと』(lost cause)」であり、「核兵器は彼らの『生存チケット』であり、我々(米国)が希望しうる最善のものは(北朝鮮の核能力に対する)一種の制限(some sort of a cap)」であろうと主張する。 21

もちろん米国内では、はるかに苛酷な対北制裁を課して中国の対北支援を中断させるべきだという強硬論が主流であり、ハーマンなどの主張は少数である。現在までオバマ政権の公式的な立場も、非核化に対する北朝鮮の明らかな立場表明なしには対話できないという強硬論である。「何も変わらなかった。(米国)政府の政策目標は韓半島の検証可能な非核化を追求することである……そうすべき方法(a way)がある」という立場である。 22 現実的に北朝鮮の非核化の可能性がしだいに希薄になる中で、「そうすべき方法がある」と主張するのは、おそらく軍事オプションまで考えているはずである。従って、今後一定期間は対北制裁局面の出口の模索よりは北の反発とより強力な追加制裁の悪循環が持続する対決局面の深化が進行するだろう。

しかし、米国外交協会の報告書が指摘するように、米国の次期政権は北核問題を取り扱う最後の政権になる可能性が高く、この時期を逃せば韓半島の非核化は事実上不可能になるだろう。これは北核問題と韓半島の軍事危機が臨界点に達するという意味である。米国の次期政権がレジーム転換(regime change)レベルの対北圧迫を続けても、結局は交渉と先制攻撃などあらゆるオプションをテーブル上に載せて北朝鮮の選択を迫るだろうし、また米国も北朝鮮が掲げる「敵対か平和か」という長年の選択肢を決定すべき状況におかれるだろう。 23

現時点で最も重要な点は、韓米両国ともに強硬論が主導する条件の下で韓半島軍事危機の平和的な出路を求めて「交渉の扉」を開けることである。このためには、関連国すべてが次の諸条件を満足させる狭き門を通過すべきである。

① まず核・ミサイルのモラトリアムと軍事訓練の中断など相互敵対行為の凍結を交渉のテーブルに載せることへの関連国の共感帯の形成が必要である。 24 韓米両国は「先ず非核化」という主張の代わりに、北朝鮮の核凍結を交渉によって達成すべき第一次目標と認める認識の転換をなすべきである。

但し、「凍結」と「核能力制限」を事実上の最終目標とする北核凍結論が議題になってはならない。一部ではこうした「現実的目標としての北核凍結論」を米国の力の限界と北朝鮮の核戦略の勝利間近のように理解する人もいるが、これは性急な判断である。北核を軸にした韓半島の危機構造は米国の再均衡政策と韓半島の分断体制の維持の資産であるため、米国はこれを完全に破壊するよりは一定レベルで韓半島の軍事危機の構造を維持する選択をする可能性がある。その地点で北核凍結論は、米国には北核脅威のレベルを低め、他方では戦略的資産としての北核問題はそのまま活用する「変形した戦略的忍耐」政策になることもある。 25 つまり、米国には北核問題と韓半島の軍事危機の臨界点を管理する最善策が非核化ではなく「凍結」でありうる。これは核保有を既成事実化しようとする北朝鮮の利害関係とも一致する。

従って、韓半島危機の根本的解消のためには相互敵対行為の凍結とともに非核化・平和体制の交渉を一つのプロセスにまとめていこうとする目的意識的な努力が何よりも重要である。そうした努力は軍事危機の解消と非核化・平和体制に最も切迫した利害関係をもっている韓国政府の役目である。アイロニカルなことだが、北朝鮮の崩壊に執着した朴槿恵政権の無力化により北核交渉の環境が改善され、また同盟国の意見を尊重する米国政府の対北政策の選択幅もより広がることになった。

② 北朝鮮は非核化交渉を避けたり、「全世界の非核化」のような非現実的な目標に縛られるべきではなく。各種レベルの多様な接触を活性化して自らの非核化「7・6提案」を積極的に論議する姿勢をみせるべきである。

『二つの韓国』の共著者であるロバート・カーリン(Robert Carlin)は、北朝鮮の「7・6提案」の韓半島非核化の五条件で、駐韓米軍の撤収を除いた四条件は米国がすでに満たすか、一時原則的に同意したものであり、駐韓米軍の撤収条件でさえ「核使用権を握っている」米軍(核使用権を握っていない米軍は問題ない?)とか、「撤収」の代わりにあえて「撤収を宣布」することを要求した点に注目すべきだと主張する。 26 駐韓米軍問題と関連して北朝鮮の立場は硬軟を行き来する風をみせたが、2000年南北首脳会談当時など、主要な場面ごとに北朝鮮は極めて柔軟な立場を示してきた。 27

③ 北朝鮮は最低限、米国の政権移行期と新政権成立の初期には核や長距離ロケット実験および局地的衝突や挑発を自制すべきである。2009年4月オバマ大統領の「核なき世界」宣言を台無しにした北朝鮮の長距離ロケット(銀河2号)実験と、それに続く第二次核実験がオバマ政権の任期中に回復しがたい米朝間の不信の原因となったことを想起する必要がある。

同時に、米国の新政権もまた2017年の米韓合同軍事訓練は最大限ロー・キー(low-key)で展開し、公開的な対北核戦力デモを自制すべきである。武力誇示は北朝鮮の反発と追加挑発の出発点になるだけである。

④ 南と北の当局者は相手に対する軍事的・非軍事的刺激と挑発を中断し、対北水害支援など南北関係の改善のために最小限の努力を始めるべきである。北朝鮮が攻撃目標として公表した対北心理戦用の大型の電光掲示板の建設は中断すべきであり、「自由の地へ来たれ」とか「逆賊の輩」のような相手を刺激する言動は互いに慎むべきである。

交渉の門へと入るために、以上のプロセスをある程度通過してこそ「刃の上の」平和交渉を始めうる。「最小限の相互敵対行為の中断」は、こうした難しい交渉の継続性を保障するほぼ唯一の原動力である。

*本稿は、「第15回歴史認識と東アジア平和フォーラム」済州大会で発表した「東アジア新冷戦と韓半島の軍事危機の深化」(2016年10月21日)を全面的に改稿したものである。

 

(翻訳: 青柳純一)

Notes:

  1. 米国の前CIA局長ヘイドンは、中国がサードの韓国配置に反発するのに対して、「サード配置を嫌うなら(対北制裁決議を履行して)支援を中断せよと中国に反駁すべきだ」と主張した。「ヘイドン前CIA局長『北朝鮮は3~5年内に米国に達する核搭載ICBMを配置』」、『ニューシス』2016年9月25日。
  2. 2012年、韓日間の軍事情報共有のための「軍事情報保護協定」(GSOMIA)が密室での推進を問題視されてボツになるや、朴槿恵政権は国会批准を避けるために「了解覚書」形式で処理した。10月31日、朴槿恵政権は朴槿恵―崔順実ゲートが発覚した渦中でもGSOMIA締結の論議を再開すると発表した。
  3. 「2015年東アジア米軍基地問題の解決のための国際シンポジウム」共同宣言文、2015年9月4日。
  4. 中国清華大学の国際戦略発展研究所の楚樹龍所長の発言(「アジアの脅威、北ではなく米・日から来る」、『亜州経済』2016年7月25日)。
  5. 2014年11月韓米合同軍事訓練の暫定中断と核実験中止の交換を提案、2015年8月平和協定締結の要求など、北朝鮮の相次ぐ対話の提議に対して韓米は「非核化の進展」が先だとして拒否した。
  6. 北朝鮮の7・6提案は、「朝鮮半島の非核化」実現の五大条件として、①南朝鮮に搬入した米国の核兵器の公開、②南朝鮮におけるすべての核兵器と基地の撤廃、③朝鮮半島とその周辺に核攻撃手段の再搬入の禁止の担保、④朝鮮への核不使用の確約、⑤核使用権を握っている駐韓米軍の撤収宣布、を提示したのである。
  7. 「朝鮮外務省スポークスマンが共和国の自衛的核抑止力の強化措置をとりあげて弄んだ米国を糾弾」『朝鮮中央通信』2016年9月20日。
  8. 「機会は我々が選択する。虚妄な夢を見るな」『朝鮮中央通信』2016年9月14日。
  9. 「北『米本土、太平洋の基地の焦土化計画を最終批准』」『ニューシス』2016年9月21日。
  10. 米国の核戦略研究者であるナランMIT教授は中小核保有国の核戦略を触媒型(catalytic)、確証報復型(assured retaliation)、非対称拡戦型(asymmetric escalation)という三類型に分類する。触媒型は生存危機の時に米国の強力な支援を引き出すための核保有戦略であり、確証報復型は第2次攻撃力の確保が前提になり、非対称拡戦型は在来式の脅威に対応して迅速な核先制攻撃を追求する戦略である。Vipin Narang, Nuclear Strategy in the Modern Era: Regional Powers and International Conflict, Princeton University Press 2014.
  11. Jeffrey Lewis,”More Rockets in Kim Jong Un’s Pockets: North Korea Tests A New Artillery System,”38 NORTH,2016.3.7.
  12. Max Fisher,”North Korea, Far From Crazy, Is All Too Rational,”The New York Times, 2016.9.10.
  13. 「新たな冷戦を呼びこむ危険千万な軍事的な動き」『朝鮮中央通信』2016年7月16日。
  14. 拙稿「サードは『致命的な安保脅威』である」『チャンビ週刊論評』2016年7月27日。
  15. 「米国の次期政権は対北軍事行動まで検討するはず」『中央日報』2016年8月26日。
  16. 「最初の対北先制打撃訓練……変化予告」『MBC』2012年9月11日。
  17. 一部では、朴槿恵大統領が外交・安保などの外政のみ担当し、内治は挙国内閣や責任内閣に任せるべきだと主張しているが、こうした主張は南北関係の破綻と軍事危機の拡大、開城工業団地の閉鎖、戦時作戦権返還の無期延期、屈辱的な慰安婦問題の合意、サード配置の決定など、外交・安保・統一分野におけるあらゆる失政を黙認しようというのと変わりがない。また米国は、サードやGSOMIAのような敏感な事案はできるだけ無力化した朴槿恵政権の任期中に処理しようとするだろう。
  18. 「朝鮮民主主義人民共和国外務省声明」2015年10月17日。
  19. こうした主張は拙稿「第4次核実験後の韓半島と南北関係は?」(チャンビ週刊論評、2016年1月13日):イ・ジョンチョル「平和体制の入口論と非核化の立札論」(チャンビ週刊論評、2016年3月9日):キム・ヨンヒ「核凍結と平和協定の交換が答である」(中央日報、2016年2月5日)などを参照。今年9月に発表された米国外交協会(CFR)の報告書も、「先ず非核化ではなく、核とミサイル実験の凍結に焦点を当てて交渉すべきである」という内容を含んでいる。Sam Num & Mike Mullen(co-chair),”A Sharper Choice on North Korea,”CFR Independent Task Force Report No.74, 2016.9.
  20. Jane Harman and James Person,“The U.S. needs to negotiate with North Korea,”The Washington Post 2016.9.30.
  21. 「米国情報機関トップが『非核化』ではなく『核制限』を掲げだした理由は」 『中央日報』2016年10月26日。
  22. 「クレパーDNI『北朝鮮の核放棄の展望なく……凍結も不可能』」『ニューシス』2016年10月26日。
  23. 北朝鮮は2010年8月31日「外務省備忘録」で米国には二つの道があるとし、一つは「対朝鮮敵視政策を放棄して朝鮮半島の平和と安全…自国の安全を確保する道」であり、もう一つは「敵対政策を維持し続けて…我々の核兵器庫が拡大、強化され続ける道」だと主張した。
  24. 今年10月下旬、マレーシアで開かれた米朝間の「トラック2」会同の核心的議題は米国が提示した核とミサイル実験の凍結要求に対する北朝鮮の反応確認であったようだ。ロバート・カルーチは、この接触で一定の進展があったが、これの実現は全面的に米国次期政権の役目だと表明した。「カルーチ前特使『米朝の接触結果、米国の次期政権に伝達するはず』」VOA 2016.10.29.
  25. 白樂晴は本稿の初稿に対する論評で、「構造化された軍事危機」が分断体制を再生産する重要な原動力であり、そうした再生産体制を軍事的に破壊する確率は低下させうると指摘した。
  26. Robert Carlin,”North Korea Said it is Willing to Talk about Denuclearization …But No One Noticed,”38 North,2016.7.12.
  27. 2000年南北首脳会談当時、金正日委員長は「駐韓米軍は共和国への敵対的な軍隊ではなく朝鮮半島の平和を維持する軍隊として駐屯することが望まし」いと発言した(林東源『ピース・メーカー』、チャンビ、2015年、50頁)。 また、2007年ニューヨークを訪問した金桂寛と、2012年シラキュース・セミナーに参席した李容浩もまた敵対関係の解消と駐韓米軍の撤収を連係させないこともありうるという意味の発言をしたことがある。